東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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リグルリベンジ

 

 

 

 チルノに説明はしたが、理解しているかが甚だ疑問ではある。しかし、一応は納得して共に戦うことを了承してくれたので、そこまで底も無理して説明をしようとも思わなかった。

 正直、チルノが加入したのは大きい。それも、妖精ならば最強でも相違はなく、自他共に認める『妖精の中では』の最強だろう。実際、リグル、ルーミアよりもチルノは強い。

 大妖精は知らないが、回復はあって困るものではない。

「チルノと大妖精の技はなんだ?」

 技の項目で見る事は出来るが、失礼に感じたので、聞いてみた。二人は手を動かし、静かに目を動かしてから応える。

「『アイシクルフォール』と『ソードフリーザー』。あとは『ヘイルストーム』かな」

「大はね、『ネイチャーの加護』『ウォーターの祈り』『ヴァージャーの守り』だよ。技の名前はチルノちゃんと考えた。ねーチルノちゃん!」

「ねー大ちゃん!」

 大妖精の技が英語なのは良いのだが、自然関係の英語しか知らないらしい。底は小学生から勉強をしたことがあまり無い。それで合っているかはわからないので人の――妖精の事は言えなかった。

「あれ、チルノ他にも技無かったか? ダイアモンドブリザードとか」

「なにそれ? 大ちゃん、私そんな技持ってた?」

「さぁ。それより、人里で悪戯に行こうよ!」

 底は疑問をもった。敵の時は使っていた技が、仲間になった時に忘れている事に。そう言えば、底も最初、技は『光』だけだと思っていた。しかし、レベルが上がり、技が追加されると、こんな技もあったな、そう思えたのだ。

 推測すると、技を忘れているらしい。

「ルーミアはどう思う?」

「美味しいと思う。特にこのオムライスが美味しいよ」

 話にならない。底は頭を掻いて遊びに行こうとする二人を止めた。

「なんで止めるのー? 遊びたいよー。悪戯するの!」

 チルノには触れない為、大妖精の首根っこを掴みあげ、止めた。二人が抗議の声を挙げるが、一蹴した。

「お前らやっぱり今の状況がわかってないだろ。紫の事だ。人間達も――俺達以外は操ってるか、時を止めてる筈だぞ」

「つまり、底の兄ちゃんに悪戯しろって事だよチルノちゃん!」

「あたいの次に大ちゃんは天才だね!」

 不穏なやり取りも一蹴した。二人を制御するのには、少々骨を折るかもしれない。この先に不安を隠しきれなくも、サイコロステーキに舌鼓をうった。

 

「今度こそリグルを倒そうと思う。異論はあるか?」

「ないよ。四人なら盲目も効かないリグルちゃんには勝てるでしょ」

「これが物量戦……!」

「外道だ……外道だよ底の兄ちゃん!」

 顔を青くする大妖精。演技の上手さに驚いたが、デコピンして黙らした。

「お前、敵に情けは無用だ」

「この事を他の妖精達には?」

 と大妖精が言ってきたので、底は頭を捻って応えた。

「勿論、他言無用だ」

「王子様、荷物をひっくり返したら?」

「それは……天地無用」

「えっと、えー……」

「問答無用だ」

 三人から感心の声が挙がった。底は照れからくる頬の緩みを感じつつも、拍手をする三人を止めてリグルの元へ赴いた。

 依然と直立不動を決め込むリグルを隠れながらに、作戦を伝える。

「まず、ルーミアが盲目にする。チルノのアイシクルフォールで攻撃して、すかさず俺が刀で切り込む。大妖精は支援だ。頼んだぞ」

 三人の真剣な表情を見ると、頼もしく感じる。敗けは万が一にも無い、そう思えてくるのだから不思議だ。

 指でカウントし、走った。リグルは此方に気付き、両手を顔の横まであげて構えた。

 黒い鳥が底を追い抜き、一足先にリグルへ接触した。顔を左右に振り、目を閉じた。恐らく、虫に頼っているのだろう。だが、頭上からの攻撃はわからないはずだ。

「《アイシクルフォール》!」

 後方で技名を叫ぶ必要はない。寧ろ避けられる可能性が高まるので、推奨はしたくないが、チルノだから仕方ない。

 思惑通り、降ってくる氷柱に反応出来ず、リグルは仰け反り、底の斬撃にも対処がかなわなかった。体力は三分の二。

 更に畳み掛け、チルノの氷の剣でリグルは切り裂かれ、体力は無くなった。

 ハイタッチの代わりに、チルノの剣と底の刀を交差させた。チルノも満足気だ。

「やったわね! まぁ、あたいは最強だから? こんなの朝飯前って言うか?」

 鼻が長いように見えた。氷精なのに天狗とは、これいかに。

「王子様、かっこよかったよ」

「ほぇー……底の兄ちゃんも結構強いんだねー。大、知らなかった。これであとはミスちゃんだけだね」

 此方にやって来た二人ともハイタッチをする。レベルも上がり、今では十五だ。技も新しく覚え、弾む気持ちを抑えず、リグルを背負い帰った。

「八雲紫に操られてた? 師匠、それ本当です?」

「ああ。俺達五人以外は、全員駄目だと考えてもいい。レミリアも、アリスも、霊夢もな……三人だけじゃない。皆が操られてるんだ。だからリグル、お前の力を貸してくれ」

「師匠と友達のお願いなら断る理由はないです。でも、私弱いですよ?」

「いや、お前もなかなかに強い。手を貸してくれ」

「わかりましたです……それより、お腹空いたんですけどなにかないです?」

「そうだな。食堂に行こうか」

 食堂へ来たものの、ついさっき食べたので、底はコーラを片手に腰かけていた。ルーミアはまだ食べるらしい。チルノと大妖精はデザートを皿に盛っていた。

「じゃあ、これは八雲紫がおこした異変で、その『敵一覧』に書かれた人物に打ち勝ち、最後に八雲紫と戦って勝てたら終わりです?」

 リグルが飲み込んでから説明を大まかにまとめた。

 底はコーラを一飲みして頷く。

「そうだ」

「なんでこんなことになったんですか?」

 何気なく聞かれたその言葉に、底は息が詰まった。

「それはだな……多分紫の気紛れじゃないかな?」

 とことん狡いやつだ。理由を聞かずに力を貸してくれとは、都合が良すぎる。理由を話さなければならないのに、考えるだけでも吐き気がしてくる自分に、嫌気が差す。

「そうです? まぁ、あの妖怪はそんな妖怪ですしね。自分の楽しみを優先するやつですし」

「そう……だな」

 心が痛む。考えたくもないのに、勝手に言葉がうかびあがる。

『玩具』

 嫌な汗がふき出し、なにより心臓がうるさい。

 四人に断りを入れ、トイレに駆け込んで吐き出した。足が震え、涙が出てくるのを堪える。酸味がする口をすすぎ、顔を洗った。元に戻るのには、少し時間を要するだろう。

 

 底とルーミア、チルノと大妖精の四人でもう一度迷いの竹林にやって来た。今回のターゲットはミスティアだ。四人の話を聞くに、ミスティアはチルノの次に強いらしい。

 長く鋭い爪で相手を切り裂き、歌声で魅了する。料理でも愛嬌でもなんでも来い、とのことだ。料理や愛嬌は関係ないが、チルノよりは弱いからと言って油断は禁物。

 時間にして午後五時近く。今のいままで一悶着あったが、概ね問題はない。問題があるとすれば、寒く、薄暗い事だろう。  今日は戦うのを止めるべきだろうか、と底は杞憂した。

「なぁ、今日は暗いし、止めとくか?」

「ひびってんの? 仕方ないわね、あたいがいるんだからしゃきっとしなさい」

「やーい底の兄ちゃんびびってるー」

「びびるとかではなくて、こう暗いと戦いにくくないか?」

「私は大丈夫だよ」

 それはルーミアだから大丈夫だろう。

 ミスティアの能力が何なのか、どういう戦い方をするのかもわからないのに、暗いままは危険かもしれない。だが、早く恋人を助けたい。

 早く助けたい一方で、今の三人を危険にさらしたくないという思いがせめぎあう。

「大丈夫でしょ。早く倒そうよ」

 大妖精の言葉に、三人が肯定の意を表し始めた。なにか嫌な予感を胸に、底はミスティアを探し始めた。

 見つけたのはそれから一時間後のことだった。空はすっかり月がのぼり、鬱蒼と生える木々のせいか、辺りは真っ暗だ。

「本当にこの暗さでも戦えるか?」

 再度問い掛けると、チルノは呆れた様子で、「ここまで来たのに引き返せないわよ。あたいがばっちり勝利を掴んでやるから、そこまで心配しなくてもいいわよ。底だけに」と腹を抱えて笑い出した。

「なんだ、昼寝をしなかったから眠気を越えて笑いの沸点下がってるじゃないか」

「一回戦ってみようよ、王子様。負けたら負けたでまた来ればいいし」

 裾を引っ張り、上目使いで助言するルーミアに、底は同意した。

「いいか? 戦い方はリグルの時と一緒だ」

 ルーミアの頷きと、二人の自信満々によるサムズアップに、やはり不安にかられた。

                                                                                         


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