東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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永夜異変
永い夜の異変


 

 

 

 秋、それは食欲であったり、読書であったりと忙しい時期だ。冬を間近に迎えた九月は、これから厳しいものになるだろうと容易に予想ができるようであり、また、それと同時に、異変の秋でもあった。

 というのも、家で休んでいたら、急にやって来て、「異変よ! 今回は大規模だわ!」とレミリアが告げてきたのだ。

 いつもなら博麗とアリスもやって来るところだが、既に出ているらしい。全く薄情だ。異変ならば言ってくれればいいものを……。

 そんな言葉を飲み込みつつ、満月の下、底とレミリアは飛んでいた。午前一時。

「で、今回の異変はなんだ?」

「月を見て」

 幻想郷の外ではお目にかかれないほど大きく、優しく、しかし妖しい光で照らしている。

「きれいな満月だな」

「ええ。でもあれは偽物よ。付け加えれば、満月ではないわ。よく見て、少しだけ欠けてるの」

 言われてみれば、そんな気がしなくはない。ただ、言われなければ気づけないし、底としてはそれになんの問題が? というのが本音だ。

「確かに欠けてるな」

「知ってる? 最近はあの状態がずっと続いてたの」

 愕然とした。月なんてまじまじと見ないため、そうだったのか、と気づかされたのだ。

「あれは偽物の月をはり付けてるだけ。だから一応は満月の魔力を受けることができる。でも、最近はずっとあれだったから私は力をもて余してるわ。他の妖怪も危ないかも」

「どういうことだ?」

「簡単に言うと、吸血鬼や他の妖怪は満月に力が強くなるから、あれがずっと続いてたら、力を受けすぎて暴走するかも、ってこと」

「なるほど」

 一通りの説明は受けたが、疑問はまだあった。

「レミリアはなんで俺のとこに来たんだ? てっきり、異変が起きても俺には言わないと思ってたけど」

「あなたに言わないという手もあった 。でも、それで前回みたいに私達の知らないところで解決に向かうのは嫌だったの」

「そうか。じゃあ霊夢やアリスは?」

「霊夢は紫と、アリスは魔理沙と。私は咲夜と行こうとしたんだけど、急遽変更したわ。あなたが一人なんだもの」

「ごめんな。俺は足を引っ張ると思うけど、よろしく頼む」

 レミリアが数秒沈黙して、「任されたわ」と言って微笑んだ。レミリアは偽物の月に照らされてても綺麗だった。

 

 数分経って、いつかの竹林へ着いた。何故一直線にここまで赴いたのか説明を求めた。

「運命で視たのよ。私達がここにやって来る運命をね」

 ウインクをした。

 竹の葉のさざめきがするこの妖しい場所に、なにがあるのだろうか。そう考えれば考えるほど一つしか出ない。

「盲目を治してくれた場所……?」

「ご名答よ。運命にはそこしか出なかったわ」

 人差し指を立てた。

 竹林を歩きながらというもの、なにも見えない。その上、嫌な予感がした。更に言うと、恩人に手を加えるのは避けたい。なるべく戦わないようにしたいのだが、流石に無理だろう。

 前方でなにやら女の子の甲高い声が聞こえる。

 隣のレミリアに目配せする。

 数多い竹に隠れるようにして伏せる。

「リグルはその触角がだめなんだよ! あとなにその肩から垂らした布」

「そういうならチルノだってなにその羽っぽいの」

「二人ともやめてよー、喧嘩はだめだよ」

「ルーミアの言う通りよ」

 姦しい、というべきだろうか、険悪というべきか、いや、喧嘩するほど仲が良い? どうでもいい。目の前にはチルノとリグル、ルーミアとなにやら形容しがたい翼をもった女の子がいた。

 レミリアを見て小声で聞く。

「どうするよ?」

 レミリアもこちらを見つめてきた。

「面倒だから避けるわ。無駄に戦いたくないし――」

「師匠じゃないですか!」

 思わず肩が跳ねた。まさかこちらに気づくとは……。もうこちらに走ってきている。おまけとばかりに三人を連れて。

「回避不可能。さて、出るか」

 竹から出た。

「いやー、久しぶりですよ。そこの虫が教えてくれたんです」

 リグルが指差す方向を見ると、コオロギがいた。躊躇いもなく踏み潰す。お前が教えたのか、と心で悪態をつきながら。

「ああー! 師匠でも流石に許さないです!」

 敵意を向けてきたリグルをよそに、レミリアが話しかけてくる。

「怒ってるけど、どうするのよ」

「チルノがいる時点で結局戦うことは決まっていた。ならやることは一つ」

「あの時の男! えと、ちょこ!」

「おい、俺は底だって言ってるだろ?」

「王子さま!」

 ルーミアが抱きついてきたので、とりあえず受け止める。

「へぇ、チルノ達が言ってた人間ね。はじめまして。私はミスティア・ローレライ」

 ミスティアに握手を求められた。不思議な爪だ。よくみたら耳も異形だった。

 レミリアと共に自己紹介して、チルノがなにやら騒ぎだした。

「ここであったが何回目! 底、勝負だ!」

「来ると思った。レミリアは見ていてくれ」

「わかったわ」

 チルノと向かい合う。刀を取り出して、炎を纏わせる。以前は楽に勝てたので、これで勝機はこちらにある。

「別に炎に弱いわけじゃないんだからね!」

「はじめです!」

 リグルが開戦の掛け声をあげる。

 即行でチルノに走りよる。刀を正眼に置いたまま。

 近づくにつれて、チルノの表情が変わる。警戒から焦りに、焦りから恐怖に。後ずさりで逃げていく。それを追う底。

 楽しさすら感じる。

「負けを認めるか?」

「炎なんかに負けないもん!」

 

「炎には勝てなかったよ……」

 追っていたらこの様だ。今では頭を抱え、しゃがみ込んでいる。対処さえわかれば弱いもの。

「ふっ、チルノはカルテットの中でも最弱」

「カルテットの面汚しよ」

「それは言い過ぎだと思うけど……」

 ミスティアとリグルが悪い顔で言った。この中ではルーミアが善なのだろうか。

「よし、じゃあ先に進むからな」

「師匠! 私達は戦ってませんですよ!」

 歩き出した底達を止めたのはリグル。両手を広げている。

「退いてくれ。異変を止めなきゃいけないんだ。無駄にお前らを傷つけたくない」

「あれ、あたいは無駄に傷つけられたよね?」

 チルノを無視して、話をする。

「いま、大規模な異変がおきてる。早く片付けないとお前らもどうなるかわからない」

「無視されてる!? 底、そーこー!」

「だから、そこを通してくれないか?」

「いくら師匠でもだめです。なにかあれば呼んでって言ったのに呼んでくれなかったもん」

 俯くリグル。レミリアと目で話した。

「最初からこうすればよかったな」

「そうね。せーの、で行くわよ?」

 突然の呟きに、四人は固まった。

 合図と共に足に雷をまとわせ、駆ける。ジグザグに動き、竹を躱しながら進んだ。

 二人でため息を吐く。レミリアは蝙蝠になっていたようだ。午前二時、遊びすぎたと反省しているところだ。

「さて、ここからどう――」

「動くな! 動いたら撃つぜ」

「魔理沙、やめないと私が攻撃するわよ」

 いきなり現れ、八卦炉を向けてきた。魔理沙の後ろからアリスが魔理沙を睨む。

「なんだよ、異変解決をしてるのに退治しちゃいけないのかよ」

「あんたわかってるわよね? 底は私のこ……恋人なのよ?」

 その程度で顔を赤くされても、と底は思った。魔理沙がわざとらしく大きく息を吐く。

「お熱いこった。それじゃまた会おうぜ」

「お互い頑張ろうね。じゃあまた。レミリアちゃんも頑張ってね」

「ええ。アリスなら注意はいらないだろうけど、気を付けて」

 二人とも去っていった。

「嵐のようだな」

「ね。魔理沙ももう少し落ち着いたら良いのに」

「全くだ」

 首を左右に振る。また歩みを進めた。

 

 午前二時半。

 目の前に大きな屋敷が窺える。これが盲目を治してくれた場所なのだろうか。想像していた外装とは違い、『和』だけを感じさせる屋敷は、好感が持てた。

 外では和と洋が混じったような家ばかりだった。

 敷地内に入って左を見ると、広い庭があり、二人の少女がいた。

 レミリアをちらりと窺うと、既に庭に向かって足を動かしていた。横にならび、足を動かす。視線は絶えず二人の少女に。

「久しぶりね」

「誰かと思ったら、すこし前に目を治してくれ、って来た人と妖怪じゃないですか」

 喋るのはこちらから見て右の少女。身長は同じくらいだが、服装がおかしかった。いや、ここではおかしいが、外ではおかしくない。ややこしくはあるが、所謂学生服を着ていた。紺のブレザーだ。スカートも学生が着用する『それ』に酷似している。なによりもおかしいのが兎の耳だろうか。ボタンらしきものがあり、まるで取り外しができるかのようにピンクの長い耳を着けている。

 赤い瞳がずっと地面に向かってるのは気のせいではない。

「容赦出来ないわよ。恨まないでね」

「ちょ、ちょっと待ちなって! 鈴仙、戦う気? きっと敵わないよ?」

「でも師匠の邪魔をするのを黙って見てられない。てゐはさがってなさい」

「もう、戦うよ。戦えばいいんでしょ? ……運は任せて」

「決まったかしら?」

 レミリアと鈴仙とやらはやる気のようだ。仕方なく刀を型どらせる。

「待たせて悪かったわね。師匠からは遠慮はするな、って言われてるから、初めから本気だよ――」

 鈴仙の一挙一動を注視する。

 鈴仙が顔をあげる。レミリアとはまた、違う赤が宿っていた。それは狂気のようで、月のように綺麗……。

 腕がなくなった。唐突に。バックステップでその場を離れ、溢れる血を止めるという本能が働き、自然と腕は二の腕を力強く握っていた。

 脂汗が滲むが、無視して視線を配る。

 突っ立ったままの鈴仙とてゐ。赤い槍と腕を持ったレミリア。腕の血を吸っていた。

「じょ、冗談はやめろよ……! レミリア!」


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