東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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練習!飛行術!

 

 

 寝室は静かな寝息に包まれていた。寝息の主。底は寝相がいいようで、眠った時の体勢からあまり動いていない。

 夏なのに、何故か快適気温のこの部屋は、さしも安らぎを与える。薄暗く、優しい光量。寝るためだけに作られたこの部屋は、五畳で真ん中にベッド。真横に小物を納す棚。その上にスタンドライトがある。

 底はゆるやかに目を開けた。しかし寝転んだまま、ボケーっと天井を眺めている。すぐに起きれないのだ。いつも起きたら『あー、面倒くさいな……』などと呟きながら天井を眺め、数分してやっと起き上がる。

 例にもれず、二分してやっと――緩慢だが――起き上がった。腕を伸ばす。息を深く吐きながら服を正した。まだ眠たそうだ。その証拠に、寝ぼけ目で、怠そうに背中を丸めている。

 扉を開閉し、階段を降りてそのまま居間へ。

 居間に入ると、博麗がソファーベッドに腰かけていた――――。

 

 時は少し遡り。十二分前。

 今朝の巫女、博麗霊夢が門の前に立っていた。

 門の横にあるインターホンをみて、首を傾げ、なんとなく。といった具合にボタンを押す。

 家の中に『ピンポーン』という軽快な音が鳴り響く。寝室で熟睡中の底は起きない。寝返りすら、うたない。

 何度か押しても応答しないことに、博麗は二度、首を傾げた。

 もしかしたらこのボタンじゃないのかしら。もしかしたら、この門を飛び越えて、扉を叩くんじゃ――博麗はインターホンというものを知らないらしい。門を飛び越え、三つの段差を上り、扉を叩く。しかし、やはり来ない。再三首を傾げる博麗。

 待ったり、扉を叩いたりしてはみたが、案の定来ない。

 なにかあるのではないか。それとも外に出ているのかもしれない。そんな思考で頭がいっぱいになる。他でもない、八雲に言われ、ここに来たのだ。具体的に言うと。

『底はここに来て心細いと思うの。霊夢、友達になってあげて』

 なんて事を帰った後、こそっと博麗に言。半ば強引、命令にも思えるが、八雲からしたら、いたって普通のお願いをしているつもりなのだ。そう思わせるのは彼女の胡散臭さと、彼女への先入観だろう。

 そんな事があり、博麗はたったいま、こうして扉の前で思考している。

 段差を降りて、庭を見る。少し立ち、凝視した後、なにか思い付いたのか、眉をちょこっと持ち上げ、庭の硝子戸に手をかけた。それをスライドさせ、開ける。

 勘が正しかった。とでも言うように、小さくガッツポーズ。

 待たせてもらおう。そう博麗は考えてることだろう。戸を閉めて、黒のソファーベッドに浅く座る。流石に物色したり、勝手に部屋を探索するのは非常識だと考えたようだ。ソファーベッドから動かずに、目だけをゆっくりと動かす。さながら『初めて異性の部屋に入って、ドキドキしている様』を彷彿とさせるその行為。

 たったひとつ違う点を言うならば頬を赤くしていないことだ。頬を赤くしないだろ。といわれれば反論は出来ないのだが。

 閑話休題。

 八分待ったところで、貧乏揺すりをし出す。

 そこで、短い廊下から足音がした。底だ。漸く起きたのだ。欠伸をして、寝ぼけ目で、若干怠そうにして歩いていた。

 そうして底が見た光景に行きついたのだ。

 なぜ霊夢がここにいる? こ、こんなこと言いたくないけれども……、ふ、不法侵入……、なのか? ――寝ぼけていた頭が即座に覚める。居間の入り口で固まる底。

 そして汗をかいてソファーベッドに座りながら、目を合わせようとしない博麗。恐らく、私不法侵入してるんじゃないか。これって物凄く失礼なことなんじゃないか。などと焦っているんだろう事がありありとわかる。

 二人とも意を決して『あの……』と口を開くも、重なってしまい『どうぞ……』二度同じ言葉を発して、口を閉じ、気まずくなる居間。再三『それじゃあ』も駄目だった。一度あることは二度ある。二度あることは三度あるとはこのことだ。いまこの場に八雲がいれば爆笑していたに違いない。

 

 

『なんだそういうことかぁー!』あれから十分。お互いに説明し、二人して胸を撫で下ろした。どことなく無表情を感じさせ、同じことを言う二人は双子や兄妹のようだ。

「でもごめんね、なんか勝手に入っちゃって……」

 申し訳なさそうに博麗が頭を軽く下げ、謝罪する。若干砕けたように感じる。

「いやいや、こっちも失礼なこと思ったし、それに待たせちゃったからお互い様だよ」

 手を左右に振り、怒っていない。と表す底。こちらもなんだか砕けた感じがする。

 どうやら二人の中で『似た者同士』ということで一気に距離が縮まったようだ。八雲と底が神社に来たときは緊張していたのか、すっかり打ち解けている。

「ありがとう。改めて、私は博麗霊夢よ。よろしく、底」

 凛とした顔とは裏腹に、花笑みを浮かばせた。

「ああ、繰鍛 底。よろしく。霊夢」

 無表情だが、よく見ると笑顔のようにもみえる。

 その後、落ち着けるように底がお茶のペットボトルを冷蔵庫から取りだし、二人分の氷が入ったコップに注いだ。ソファーベッドに二人で座る。二人分距離が空いているが、それは恥ずかしいからか、はたまたこれが双方の距離感か。

「そうだ。紫から聞いた?」

 博麗がコップを持ち、中身を見ながら問い掛けた。

 いきなり聞かれて、どういうことだ。と一瞬だけ思考を停止させる底。それを見て、博麗が突拍子もないことを言った。と気づいたようで、謝ってから話の内容を底に言う。

「ここの人間は飛んだり、魔法使ったりすること」

 

「…………」

 絶句した。飛んだりとは底にとって、夢。魔法とは底にとって、夢のまた夢。それを自分が出来るということか。目を閉じて想像する。空を飛べることはどんなものか。魔法を使ってファンタジーを感じることが出来るのか。胸踊り心がダンス。聞いた瞬間底の頭は今、魔法や空を飛ぶことでいっぱい。

「ねぇ、聞いてる? 底?」

 博麗の呼び掛けも一切聞こえない。

 目を一気に開かせ、博麗に近づき手を握った。博麗は底の変化に目をぱちくりさせ、初めて異性に手を握られたのか、その頬は若干赤くしている。

「霊夢! いますぐしよう!」

 そう大声でいい放った。その発言に博麗はびくっと身体を揺らし、吃驚する。

「な、なにを?」

 底の言ってることを理解出来ない博麗。

「飛びたい! 魔法使いたい!! やろうぜ!」

 気持ちのたかぶりを抑えきれない底。八雲の時もやっていたが、たかぶると手を握るのは癖なのだろうか。

「い、いま?」

 博麗もやはり驚いている。今日はゆっくりすると思ってたのだろう。しかし、底はゆっくりする気がないようだ。

「いまだろ! 来るべき時に備えて!」

 

 いまは、底の家の、外。広い場所に博麗と底が立っている。

「さて、これから飛ぶ練習をするのだけれど、その前に、私は魔法なんて使えないの。友達に教えてもらうことになるわ。あと、貴方に霊力があるかを確認、及び解放をするわ」

 居間に何故か置いてあったくろぶち眼鏡をかけて、お祓い棒を振りながら説明する。

 魔法。これは後日、もう一人を加えて学ぶ模様。

「霊力とは――人間の中にある力のことなの。霊力を消費して炎、水、雷、土等の力を扱う事ができ、霊力がなくなると、気絶するわ」

 まあ、よくわからないんだけど。と最後につけて加え、終わりだ。と言いたげに手を叩き「まあそんなことは置いといて飛ぶ練習をしましょう」

 ぴょんぴょん。とジャンプする博麗。リボンと髪が揺れる。

「了解した」

 頷きながら了承。そのまま博麗に「なあ、どうやって飛ぶんだ?」一番重要だろうことを聞いた。そもそもどうやって飛ぶのか。色んな解釈があると思う。

 足から噴出させるように。

 空に地面があるように。

 身体を浮かせるように。

 泳ぐように

 何かに乗ったり。

 翼を使ったり。 

 勘で飛んだり。

 飛びかたは様々。それを教えるとはどれ程難しい事か。簡単に言っても理解されない。教えても素質がないと飛べない。

「そうね。あるものは箒を使って想像をしやすくするし、私は身体を浮かせたりしているし、また他の人は翼を使ってるわよ?」

 何かの講座を開いているようにも見える博麗の仕草を、底は無視。

「ほー。じゃあ、無難に、デメリットが少なそうな身体を浮かせる方法をしてみようかね」

 足から噴出させる。生活、戦う事を想定したら、言わなくてもわかるがこれは危険だ。いきなり加速して激突。なんてのは笑えない。

 空に地面を作らせ、歩行する方法。これはスタミナを多いに削られる。没。

 何かに乗る。底が考えてるのは『スケボー』と呼ばれるもの。もしくは板。これも没だ。なくなったら飛べないなんてことは駄目。

 次に翼。そもそもどうやって作るんだ。ということになる。霊力やらでコントロールして作れるが、まだ底は扱えない。没。

 最後に勘。論外。

「そうねぇ、なんかこう。浮けー、浮けー。って考えたら浮くわよ」

 漫然と、いい加減で投げやり。その言葉が当てはまるような回答。

 底がガックシ。と項垂れた。

「わ、わかった。やってみよう」

 吃りながらも言った。

 なにかあると困る。ということで、少しだけ離れて、目を瞑り、精神を集中させた。『浮け、浮け』とは流石に言わない。

 集中しだして五秒。微々たるものだが、浮いている。それを見て博麗が感嘆の息を吐いた。徐々に高くなる。底は『地に足をつけていない』ということに遅れながら気づいたのか、目を開けた。

「と、飛んでる!」

 出来るだけ集中を散らさないように、叫んだ。

「ちゃんと集中しなさい! 落ちたら駄目よ!」

 博麗の頭ほどまで飛んでいる底に向かって注意した。

「わかってる!」

 無駄に大声で言う必要はないが、何故か声を張り上げる二人。

「そのまま上下左右に動いてみて!」

 お祓い棒を振って助言する博麗。紙垂が一回転二回転三回転。

 底は言われた通りに頭の中で『動け』と脳電波を送る。すると、思った通りに動く。上下左右。速度を上げたり下げたり。器用にこなしている。博麗も飛び上がり、底と並行した。

「おめでとう。あとは調子にのらないよう、慣れるだけね。あ、今日は飛ぶ練習だけにしなさい。色んなことに手を出しても中途半端になっちゃうからね」

 家の二階くらいの高さまで飛び上がっていた二人が降りる。

『スタッ』着地音と共に、「ありがとう、霊夢。空を飛べるなんて夢にも思わなかったよ」握手を求める底。博麗はそれに応じて、いいわよ。と返した。

 家に入り、ソファーベッドに腰かけた。底と博麗の間には一人分空いている。

「今日ご飯食べて帰るか?」

 お祓い棒をテーブルに置く博麗に、そう提案した。

 博麗が葛藤する。本当は料理するのも面倒だし、食べていきたいけど、図々しくないか? と。しかし、やはり魅力的な提案には勝てなかったらしく最終的にはのることにした。

 

         


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