小説家になろう様にて、ファンタジー小説を投稿しました。
この小説の執筆が捗らなければ、気晴らしにファンタジーものを書いていきます。
ので、こちらが遅くなる、というのはない、と思います。
「なあ君、鬼ごっこしないか?」
「私が鬼で、あんたが逃げるのかい?」
「そう。俺を捕まえられたらどうにでもしていい。“もし”俺が冥界のどこかにいるかもしれない、恋人達を見つけたら、それらも交えて戦おう」
突拍子もない提案に、伊吹萃香は悩んだ。
「その恋人とやらは、いるのかい? いるとしても、強い?」
「間違いなく強い。君に勝るとも劣らないと、俺は思う。ただ、いるかどうかはわからない。俺は八雲紫に連れてこられただけだから」
「そうさね……。いくつか決めごとをしたいね――」
伊吹萃香の決めごととは、捕まえたら躊躇なく殺す。能力あり、待ち時間は十秒。たったこれだけであった。
それらは、底の想定内であり、じわじわとなぶり殺しにされるよか、断然ましだった。それに、伊吹萃香の交渉を蹴るわけにはいかない。伊吹萃香はもともと戦いを楽しみにしていたのに、鬼ごっこという、遊びと言われても相違ないことをのんでくれたのだ。さらに言うならば、底はこれをのんでくれるとは思っていなかった。だから少々驚いたのだが、気づかれてはいないようだ。
それに、レミリアがいるなら、どこかに博麗もいるのではないか? そう考えている。アリスはわからないが、これは異変。博麗はいたとして、レミリアも異変解決に躍り出ているのだろうか。そんな考えも浮かび上がるが、いまは考えている暇はない、と振り払った。
底が了承して、伊吹萃香が屈み、目を手で覆った。
「いくよー? 十」
――――バチチッ!
出力を最小に、高速でレミリアがいるであろう場所まで必死に走る。
『九』
刻一刻と近づき、頭に響く死の時間。背後でずっと死神が憑いているようにも思える。
『八』
暗い冥界、所々には、魂魄妖夢の半霊にそっくりな白いふっくらしたものがいた。それらは敵意がなく、ただ傍観しているか、ふよふよと漂うだけ。
『七』
視界の移り変わりが激しいなか、底は汗を滲ませながらも足を動かす。
『六』
腕の力は抜いている。そのためか、後ろに腕が引っ張られているようにも感じれた。
『五』
腕を振るのは邪魔になるだけだった。足の速さに、腕が追い付いていなかったのだ。
『四』
やがて、森が見えた。月の光がさし込まないなか、障害物を探すのは困難を極めた。
『三』
背の低い木の枝が底の足を切り裂く。速度と相まって傷は案外深い。
『二』
なにも考えず、ただ足だけを動かす。森が小さい雷で燃えないか心配だったが、杞憂だった。
『一』
前方に、膝まである岩があった。いまさら方向転換は無理だと結論づけて、飛び越える。
『〇』
着地して、また走る。光が見えた。それは永い永い闇からの救いのようにも思えた。
「――捕まえちゃうぞー」
後ろで、声がした。
下半身が幽霊のようにもやがかった伊吹萃香が、ぴったりと着いてきていた。
限界だが、さらに速度をあげる。
「手を伸ばせば捕まえられるぞー」
底の後ろで恐怖を煽ってくる。底は別段、恐怖を持っているわけではない。だがやはり、捕まりたくはない。もう少しで終わりそうなのだ。
だが、やはり無理だったらしい。残念ながら捕まってしまう。抱きつかれるように止められ、そのまま首の骨を折られた。
繰り返して五回。どう考えても時間が足らなかった。そこで、交渉することにした。
「なあ君、時間だが、一分にしてくれないか?」
「だめだよ」
一蹴された。しかし、ここが一番重要だ。
「じゃあ二十秒ならどうだ?」
「うーん、それなら……いいかな」
知名度の高い交渉術『ドア・イン・ザ・フェイス』
比較的通りやすく――流石に聡明な八雲ともなれば、一切通用しないのだろうが――これらの交渉術は重宝していた。
うまく通ったことに内心大喜びした。これでもしかしたらレミリアか博麗に会えるかもしれない、と。博麗の強さは、底は知らないが、レミリアは実際に戦ったことがある。なので、レミリアがいてくれたらそれだけで狂喜乱舞なのだが、この際気にしていられない。リグルがいたとしても喜ぶだろう。
伊吹萃香が数える。底が高速で逃げる。一転突破だ。残り九秒で森をこえ、八秒で霊が多くなった。七秒で小さな谷を飛び越え、六秒で遠くに墓場があるのを確認した。
――残り五秒。
右のぎりぎり視認出来るところには、魂魄妖夢のいた屋敷が窺えた。それに伴い、大きな妖怪桜も見える。
――四。
頭に響く伊吹萃香の声に焦燥感を覚えながらも進んでいく。
――三。
墓場に着いた。止まる。墓場には、魂魄妖夢、西行寺幽々子、八雲、レミリア、アリス、博麗の六人がいた。レミリアとアリス、博麗は左側で底の姿を驚きに染めた顔で見ていた。
右側の魂魄妖夢は満身創痍、西行寺幽々子と八雲はまだ余裕そうだったが、底の姿を確認しても知っていたかのように横目に見ただけだった。
――二
「底!」
レミリアの声がした。
時間は遡り、底が帰ってから、レミリア、博麗は確信していた。これは異変だと。
「なんで底を帰したのよー。ねぇーレミリアー」
帰ってからというもの、霊夢はずっとこんな感じだ。そんな霊夢にため息を吐きながらも、諭すように説明する。
「底は、人間からすると強いわ。でも、異変をおこすっていうのは相当な力を持っていないと出来ないのよ――」
底は前回の、魂魄妖夢に負ける位には弱い。
底が死んだら、レミリア、アリス、霊夢はかなしみに暮れることだろう。ならば、レミリアたちが守らなければ底は死んでしまう。だから、今回の異変は内緒にして、底がゆっくりしている間にさっさと終わらせれば、底は安全。
「ということ。アリスも連れて、今夜中には終わらせるわよ」
「なるほど。わかったわ。確かに前回の異変で底がやられたのは嫌だったし、今回は本気で戦うわ」
異変だ、と心を入れかえたように凛とした霊夢がいた。いつもこうだったらいいのに、とレミリアは思った。
一旦各々家に帰り、準備をしよう、ということになった。人形にもそれを伝え、宴会は中止となった。
五時。アリスが仕度を終え、集合場所である底の家に向かう。
魔法の森は夕の光がさし、オレンジ色に染まっていた。人形を数体外宙に浮かし、周囲を警戒させ、飛んでいく。その間、こちらに向かう、一人の人間。
「お、アリスじゃないか!」
魔理沙だ。いつもどおり箒にまたがってきた。
「魔理沙……」
アリスは嫌な予感がした。
「異変だ! 片っ端から退治するぜ!」
知らずのうちにため息が出た。魔理沙と霊夢はいつもこうだ。異変の時はあった妖怪、人、その他をところ構わず、誰彼構わず蹴散らしていく。人間にしては力があるだけ質が悪い。
霊夢は持ち前の勘で攻撃が掠りもしない。それに能力。無敵になるとかなんの冗談だと小一時間とい詰めたくもなるが、それに比べて魔理沙は密かな努力でここまでの力を手にしたようだった。所謂努力の天才、ということだろう。
なんとか勝てたアリスは、一言二言で別れ、再び底の家に向かった――。
里のあった場所で、レミリアと霊夢が、アリスを遅い遅いと言っていると、人形をつれたアリスが来た。
「遅いじゃない。いつ底が起きるか冷や冷やしたわ」
レミリアが間口一発、文句をたれる。これでも結構待っていたのだ。十分位。
「魔理沙がね……ていうかなんで里がないのよ」
不機嫌そうなアリスが里があるはずの場所を睨む。
「寺子屋の慧音が『あぶないから』って」
アリスの問いに、霊夢が答えた。心なしか、その慧音というものを敵対しているようだった。もちろん、レミリアも内心苛立っている。最愛の人がいる家が、底が、もしかしたら封印されているかもしれないのだ。安全といえば安全だが、独占されているようで気にくわなかった。
アリスも納得したようで、何度かなるほどね、と頷いた。
「さて、底のためにもさっさと終わらすわよ」
レミリアが言って、飛び立つ。どこにいこうか、と相談しているうちに、前回の異変をおこした西行寺幽々子という亡霊が怪しい、と自然に話題になった。
レミリアたちは冥界へと向かう。
大きな門の前には、三人の人影があった。レミリアが見慣れた三人だった。
「こんなところで何してるのかしら? ――咲夜、パチェ、美鈴」
そう。普段、図書館に籠りっきりのパチュリーと、メイドで忙しいはずの咲夜。門を守らなければいけない美鈴だ。
「あら、お嬢様ではございませんか。ごきげんよう」
「咲夜、あなたは仕事を命じてたはずだったけど?」
「ま、まあまあ、お嬢様……」
咲夜を睨むレミリアに、美鈴がまぁまぁとたしなめてきた。即座に視線をかえると、気まずそうに視線を下に向けた。
「レミィ、この三人は私が連れてきたの。流石に一人じゃまともに戦えないだろうから」
「でもなんだってここに来たのよ、ひきこもりさん」
霊夢が毒を吐く。
「誰も異変解決に動かないから私たちがここまで来たのよ。私たちより遅くきたのに偉そうに言わないで、出遅れ腋巫女さん」
目には目を、歯には歯を、毒には毒を。ということだろうか、パチュリーが珍しく敵意満々だ。
「だから私たちが来たんじゃない。異変解決は任せて黙って下がりなさい」
……一発即発だ。
「それは聞き捨てならないわね」
「そうですね……流石に許容できません」
霊夢の言葉に咲夜と美鈴が構える。それを見て、レミリア、アリス、霊夢、パチュリーも構えた。
当たり前のようにレミリア達が勝った。もはや楽勝とも言える勝負。
大人しく三人を帰らし、冥界の門を飛び越える。霊夢は見たようだが、レミリアとアリスは見たことがない風景だった。
大きい月があり、地面は枯れたようで、白い霊がいたるところにいて、長い階段の上には屋敷と大きい妖気をだす桜。
圧巻だった。冥界と、名前負けしていない。
レミリア達は階段をのぼることなく、右側にある墓場に向かった。といっても、霊夢が一番前にいるのだ。よって、勘で進んでいることになっている。
「あら、誰かと思えば、霊夢じゃない」
墓場には、幻想郷の賢者である、八雲紫と、白髪の霊夢位の女の子。青い死装束らしき衣服を纏った女性が立っていた――。