東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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はい、サブタイでだじゃれを出しましたけどね。

どれだけ私が頭をひねってもこれしかでなかった。




幻想郷。そこは底にとって新しい

 

 

 門を開けると、横に芝生が敷かれている庭があった。前には三つの段差。それを上り、黒い扉を開くと玄関。床はフローリング、右に腹までの高さがある靴箱。その上には鍵を仕舞う箱。電気は天井の一ヶ所が窪み、そこに電球がある。廊下の奥にはまた黒い扉。しかし、扉と玄関の間、右側に二階へ行く階段がある。扉を押し開く。

 かなり広く、床が黒のフローリングで、前に黒いソファーベッド。黒い光沢のあるテーブル。同化するように黒の毛があるカーペット。右に白のカウンターキッチン。壁も床と対称的に白だ。部屋の左は光が射し込む硝子戸があり、そこから庭に出入りできる。後は黒の棚であったり。照明は小さい笠がついた電球が垂れている。黒白のとてもシンプルなリビング兼キッチン。その部屋に、二つの扉。風呂とトイレだ。

 感嘆の息を吐く底。夢中になってるように、八雲を素通りして階段の電気をつけ、駆け足で上る。白い扉を開けば、白い部屋。白いカーペットが全体的に敷かれていて、照明も目に優しい色。五畳程の部屋は、寝るためだけに作られているようだ。底は首を傾げる。

 それもそうだ。一階はあれだけ広いのに、寝室だけなんておかしいだろう。しかし、底は階段を上ってすぐの扉を開けたから知らないが、もう二つ扉があったのだ。それを戻って気づいた底。

 失敗しっぱい。夢中になりすぎた――恥ずかしそうに頭を掻く。カーブがついた階段を上りきると真ん前に寝室の扉。左に扉が二つある。

 しかし、二つ共、客室だった。そこで泊まれるようにベッドもある。ここで寝泊まりするのも大丈夫だろう。

 友達が出来たらお泊まり会なんてのもいいなぁ――目を瞑り、想像する。男三人や四人でばか騒ぎナイトフィーバー。どれだけ憧れたことだろうか。したくても出来ない。する余裕もなかった底からしたら一生に一度はしたい事に入るだろう。寧ろ、友達と話せることすら嬉しく思える。

 早く友達をつくって、お泊まり会をしたい。そんなことで頭がいっぱいだった。

 珍しくニコニコとしながら、笑みを絶さずに、したに行く。一階の部屋に着くと、八雲がソファーベッドに足を組んで座っていた。

「あら、嬉しそうね。そんなよか――」

 八雲の言葉を無視して、笑顔のまま真横に腰掛ける底。その異様な佇まいにたじろいだ。「ど、どうしたの?」

 底が八雲の手を握る。明らかにおかしいその雰囲気に、八雲はのけぞる。

 「こんないい家を貰えるなんて……、もう、本当……。ありがとう」

 感情のこもった息混じりに礼を述べた。

「わ、わかったから離しなさいよ……。こわいわよ……」

 怯えてるようだ。そうだろう。笑顔――逆に無表情に見える――で正面から、手を握られ、礼を言われても、誠意どころか、寧ろ、悪意があるようにも見える。本当に礼を言ってるのか? と底に聞けば、これ以上のお礼を未だかつて言ったことがない。気持ちよかった。と自信満々に、それこそ胸を張って答えるだろう。

「あ、ごめん――」

 たったいま、この異様な状況に気づき、手を離す。笑顔も消えた。いつもの濁った黒い吸い込まれそうな目。感情のない仮面を被ったように凍りついた、いつもの無表情。

 底の顔を見て、八雲が何かに気づいたように「貴方、笑った顔って結構可愛いのね……。少しだけ母性がくすぐられたわ」そう言う八雲の頬はピンク色に染められていた。

「さて、そういえば、幻想郷に住むのだから、武器位はいるわね。何かほしいものでも?」

 なんでもいいわよ。と澄まし顔で豪語する。言えば、大抵のものは持ってくるだろう。それを言うだけの力はある。

「俺さ、戦うとかしたことはないんだよ――」

 俯いて言う。確かに底は『戦い』など、現代において、野蛮と言われる行為をしたことがない。それに、死ぬときは一瞬だ。殴り殴られで死んだ事はたった数回しかない。それをいきなり、武器はなにがいい? と聞かれても答えられないだろう。よし悪しは存在する。「だからさ、『どんな武器にでもなれるもの』って出来るかな?」断られるだろうと確信しているが、底は、一応。といった具合に聞く。

 自分でも、笑止千万だと怒られても仕方ない。と思ってるのだろう。しかし、言わざるを得ないというのもある。扱えないのに刀がいい。なんて言えない。刀だって存外、重いのだ。銃だって衝撃が凄いのだ。そんなもの扱える程の筋力はない。まず殺生が出来るか。になってしまうんだが、そこは心配ないといえる。なんたって、底は一回、人を殺した事があるのだから。

 それも、十二歳の頃、何度も繰り返す俺はなんなんだろう。なぜ今も生きてるんだろう。何回も死んだのに、何故。

 そこで、ふと疑問に思う。他の人間も死んだら生き返るのか。絶望の中に一筋の光。『もしかしたら俺は普通なのかもしれない』“もし”に賭けた。

 包丁を手に、家を出る。道端にいた男性の背中に思いっきり一突き。肉をかきわけ、進む包丁、噴出する鮮血に高揚感と、生をこの手で終わらせたことへの罪悪感。

 倒れて起き上がらない男性。戻らない時間。それを見て底は悟った。『俺がおかしいんだ』と。

 後は自害。同じ時間に外へ行くと、殺した男性が立っていた。ほっとして、無かったことにする。

 そんな事態もあったが、別段トラウマを抱えてるとかはない。殺そうとするなら抵抗無しに殺せるだろう。悪い意味で理性がなくなってしまったのだ。殺してしまったら自分が死ねばいい。嫌なことがあれば死ねばいい。なにか不利益があれば死ねばいい。

 死ねば解決。歪んでしまった。

 それはさておき、八雲はあっけらかんと。平然と。こともなげに。

 「わかったわ。少しだけ時間がかかるけれど良いかしら?」

 いまなんと言ったか。底は聞き直したくなるが、確認して『そんなに信じられないの?』なんて言われて機嫌を損ねたら不味い。ここは任せよう――目線が右上に向いていたのを、きれいな笑顔を浮かべ、首を傾げる八雲に戻す底。

 

「引き受けてくれるか、ありがとう。紫」

 いま出せる精一杯の礼を述べて、座りながらも深々と頭を下げた。

「良いのよ。これからの事を考えたらこれくらいへっちゃらよ」

 やさしく微笑んだ。少し間が空く。八雲は、はたしてこれからのことを予知して言っているのか。それはまだわからないが「代用と言ったらなんだけど――」

 何かを思い出したようで沈黙を破り、スキマに手をいれた。「これをプレゼントするわ。暫くはこれで身を守ってちょうだい」

 底に黒く、光るそれを手渡す。

 

「これは……」

 底が手にとって渡されたそれに視線を移した。それは、現代において、ドラマ、アニメ、漫画等でよく見る、拳銃《ベレッタM92》だった。そういうのに疎い底でもわかるほど有名な銃。

 しかし、これでは妖怪相手に威力不足じゃないか?――懸念し、心配気に黒いベレッタを見る底。

 八雲が察したのか、「安心なさい。ちょっと弄くったから威力や衝撃、連射、銃弾の心配をしないで済むわよ。なんたってこの私が弄くったんだから!」誇らしげに豊かな胸を前に押し出した。

 紫が能力やらを使った銃。遊び感覚でやったとはいえ、その性能は絶大だろう。それに、俺でも使えるということは、死ぬことが減る。ということでもある。これは期待できる――濁った目を鈍く輝かした。

「ありがとう」

 何度目かの、感謝の言葉を述べた。

「ふふ、まかせなさい」

 八雲の鼻が伸びているようにかんじる。しかし、その姿もまた、気品、優雅さ、等々いろいろなものが溢れているところは流石の賢者、八雲紫である。

 二人が密着するほど近いなか、八雲が手を底に見えないように隠し、扇子を取り出し開いて扇ぐ。

 「本命の武器は少し待つことになるけど、それ相応……、いえ、代用にはよすぎるくらいだと思うわ」

 威力、衝撃。まだわからないが、それほど絶賛するのだから心配いらないだろう。それより、ベレッタを持たなきゃいけないくらい物騒なのか。と底は問いかけたい気持ちに駆られるが、なぜかぐっと我慢した。

 

「そういえば、金銭はどうしたらいい?」

 やはりそこも気になるだろう。銀行でちょこちょこ仕送りを貯めて、来る前に引き出した今の手持ちは諭吉が十。新渡という人物が描かれた五千円。夏目漱石が、五枚。あとは小銭がある程度。

「ここでは一万円の代わりが一円札よ」

 扇いでいた扇子で口元を隠す。

 一円札。明治時代では二万から三万。といったところだった。しかし、八雲は一万円の代わり。といっていた。それは現代とは違う。

 幻想郷の金銭は、一円札が一万円。

 一銭銅貨は百円。

 二銭銅貨、二百円。

 半銭銅貨、五十円

  一厘銅貨、十円。

 なにを買うにも金が必要になる。そこは外と一緒である。全額、換金した底は、札や銭を眺めている。

 一通り八雲が話をして、底は、一度大きく頷いく。その後、今日はゆっくりしなさい。と八雲が底に声をかけて、消えた。底はソファーベッドに腰掛け頭を抱える。どうやら整理しているもよう。底にとっては今までと違う暮らしになるのだから当然だ。

 これからどうなるのか――まとまったところで、底は憂慮する。家具なども概ね揃っている。服だってシャツ、冬服。ジーンズ。ジャージ。靴。帽子だって大概ある。電気だって通ってる、ガスだって。なにが心配なのか。

 やはり妖怪だろう。戦うことになる。人里だからほしいものは買えば手に入る。それに『能力』というのもある。底はまだ知らないが、飛ぶという移動方法もあるのだ。やること、学ぶことは山ほど。

 初日くらいはゆっくりさせてあげよう。これから忙しくなるし、初日に多量教え込んでも頭に入らない。と八雲は考えた。

 熟慮して、落ち着いた底は、まだ昼だが眠ることにした。

 寝室に入って、乱暴にベッドに飛び込み、毛布を抱き枕代わりに一眠りした。

 

                         




一人称のときは六時間で四千文字書いていたものを、三人称では三日でやっと四千文字
ときには三日で間に合わないと。
歯がゆい……!


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