東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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近々ファンタジーものを、小説家になろう様で投稿しようと思っています。
ハーメルン様はどちらかというと、二次創作というイメージがあるために、オリジナルを投稿しようと考えていません。あちらでも同じ名前ですので、もし見つけたら見ていただけると嬉しいです。
まあ、まだ新しいの、一文字も書いてないですが。
この小説を終わらせてから、とは思うものの、まだまだ終わりませんし、息抜きとしてでもファンタジーものを書くのはいいかなぁと思った次第なのです。
(ゾンビものも早く書きたいし)


萃香、鬼の力

 

 

 

「そのことば嘘じゃないな……?」

「鬼は嘘をなによりも嫌う。安心しな。安心して、攻撃してきなよ」

 にやり、と笑う。

 その言葉は、今の底にとって、なによりもありがたいことだった。

「そうか、ありがとう」

「なに言ってんだい。ばか」

「いくぞ」

「――来な! 私が受け止めてやるよ!」

 仁王立ちして、攻撃を待つ伊吹萃香の顔は好戦的な笑顔に満ちている。楽しみで仕方がない様子だ。

 満身創痍である底は、足下の折れた刀を拾い、一度玉に戻してまた刀にした。すると、折れていた刀身が見事になおった。いや、なおったというべきか、新しくなったというべきか、ともあれ、元通り刀は底の手にある。

 これで攻撃は出来るだろう、と底は安心した。

 底の中で、最初は魔力を放出する技を使おうと思っていた。だが、それをしてしまった時、自分の身に、取り返しのつかないことがおこるかもしれない、勘だが、そう感じてしまった。何故かは底自身、わからなかった。

 次の攻撃に身を動かしたあとも、どうなるかわからない。下手をすれば死ぬかもしれない。しかし、生きる可能性だってあるだろう。死んで戻るんならそれもあり、ということだろうか。

 もう視界もぼやけているようで、立っているのも覚束いていない。それでもなんとか霊力を注ぎ、勢いよく燃え盛る炎を刀に纏わせた。

 その炎は間違いなく、今の底が出せる最高密度の炎だった。あの状態では集中すら出来ない。そんな極限の状態で、底は炎を出してみせた。

「底……やっぱそんじょそこらの人間じゃないね」

 伊吹萃香の目が妖しく光る。顔は愉悦に染まっていた。

 だが伊吹萃香の絶賛の声は、底には届いていなかった。

 力なく真下に振られた刀から、炎が伊吹萃香へと向かう。

 伊吹萃香が右手を前に伸ばした。そして、炎は伊吹萃香の目の前で消える。瞬間、底が前屈みに倒れた。

 ――炎と同じくして、底の命の灯火も消えたとでもいうのだろうか。

「大したもんだよ。少しとはいっても、この私の手を火傷させるなんて」

 口の端をつり上げた。伊吹萃香が眺める右手には、うっすらと焼け跡があった――――。

 

 いきなりではあるが、底は九回も死んだ。時には煽り怒らせ、時には楽しませ、時には機嫌をよくしてから戦ったり、なにも喋らずに戦ったりもしたのだが、結局圧倒的な力と防には決定的なものは見出だせずにいた。

 キリの良い十回目。ここらで有効打を出したい、と焦り思うなか、底は名乗る。

「繰鍛 底だ」

 刀に変えて、峰を肩に乗せる。

 もうそろそろ自分の名を言うのも飽き始めた頃である。今までと同様に、伊吹萃香も名乗った。

 先手必勝とばかりに、足に雷を纏わせ、高速で動き、伊吹萃香へ袈裟斬りする。がしかし、伊吹萃香は余裕そうに手首につけた鉄製のもので防御した。

 押し合いになった。

「おー、速いね。そんなこと出来る人間は一人、二人しか知らないよ」

「じゃあ、俺は三人目なわけだ。光栄だな」

 軽口を叩いてはいるが、これでも全力で押しているらしい。力の入れすぎで顔が赤くなっている。

 しかし、どれだけ押せどもびくともしない。

 退こう。そう判断して、バックステップした。伊吹萃香は追いもせず、あくびしている。

「やっぱり貧弱だねぇ。でもあんた、鬼だったら相当女から好かれていたよ」

「生憎、俺は人間をやめるつもりはない。最愛の人から頼まれたらわからないけどな」

 例えば、レミリアとか。と小さい最愛の吸血鬼を想像して、振り払うように額を叩いた。

 突発的なその行動に、伊吹萃香は怪訝に思ったようだが、底の「頭痛がしただけ」という誤魔化しに納得したみたいだ。

 再び、二人は戦い始めた。

 底の攻撃は防がれ、伊吹萃香の攻撃――デコピン――は何一つ避けられなかった。防御などもってのほか。

 鬼の力は馬鹿にならないらしく、刀で拳を防げば折られ、体は悲鳴を挙げる。

 五度もの攻撃――デコピン――を受けてなお、立っていた。顔のいたるところが腫れ上がり、切れ、血がでて、痛々しい。既に視界は半分しか見えない。

 口内は切れに切れて血だらけだ。それを地面に吐き出して、深呼吸した。

「デコピンでここまでってどういうことだよ……」

「私は一応、これでも鬼の四天王をやってるんだ」

「鬼って怖いもんだ」

「はは、まだまだ本気じゃないさ。あんたが“卑怯な手”を使わない限り、私は負けないよ」

「卑怯……」

 呟いてみるも、大した案はなかったので、いまはただただ、愚直に戦うことにした。

 ゆっくりと足を前にやった。二歩、三歩。四歩進んで、刀に水を纏わせ、振った。水の剣撃が飛び、伊吹萃香に向かう。

 伊吹萃香は水に当たり、濡れた髪をかきあげた。そして見飽きた、といった風に呆れた表情を浮かべ、言う。

「何回するんだい。そんなの――」

 だが、伊吹萃香の言葉は続かなかった。底の左手の雷を見たからだ。

 それも見飽きたよ。そんな伊吹萃香の言葉を無視して、底は投げた。雷は素早く、球状のそれは、辺りを轟音で支配し、鼓膜を震わせ、気分を奮わせる。

「ふん! そんな雷じゃあ私を傷つけられないよ!」

 迎え撃つように拳を引いた。だが、底は知っていた。雷を振り払うことが出来ないことに。

 本気を出したらわからないが、油断している今ならば、伊吹萃香は雷をかき消すことは出来ない。それらは数回繰り返した中での、確固たる自信でもあった。

 案の定、伊吹萃香は雷を振り払うことが出来ず、感電する。水も相まって、威力は高く、のけぞり、低く悲鳴をあげている。身体に力をいれているようで、感電でふるえるのを抑えているようだった。

 好機。と底は思った。十回と繰り返しをしたが、今までで一番の攻撃だ。どれもガードされ、攻撃という攻撃はできなかったのだ。それが、のけぞるまでしている。

 身体が動くのは、底が思ったより早かった。いち早く足に雷を纏い、刀を振り下ろす。

 斬撃は確実に、伊吹萃香の体を捉えた。

 ――はずだった。“伊吹萃香は姿を消した”。一瞬で。瞬きもせず、伊吹萃香を見据えて刀を振った底ですら、認識できなかった。ただ、姿が消えた。

 頭に疑問符を浮かべる底。何処からともなく声がした。

『いやいや、危ない危ない。正直あんた、いや、底をなめてたよ。なかなか賢いじゃないか。私を水で濡らして、雷で痺れさせる。そういえば昔そんな攻撃をしてきた陰陽師がいたよ。まんまとしてやられたわけだ』

 伊吹萃香に認められるのはこれで三回目だな。底はしみじみとした。伊吹萃香は底を『あんた』と呼ぶ。しかし、なにか攻撃を加えられるか、何らかの心境を感じとり認めれば名前で呼ぶらしい。

「なあ、正直戦いたくないんだ。戦うなら弾幕ごっこをしてくれないか?」

『やだよ。どうせ弾幕ごっことやらでは底が戦うわけじゃないんだろ? 私は底と戦いたいんだ』

「確かにそうだが、俺からしたら戦う理由がないんだ。異変解決はここの巫女の仕事だし」

『じゃあ底が私に勝って弾幕ごっこをさせたら良いじゃないか』

「…………」

『底、八雲紫から言われてここに来たんだろ? ならその仕事をまっとうしなよ。目の前の勝負に集中しな。そんな迷いだらけじゃ私に触れることすら出来ないよ』

 その声色からは僅かに、怒気が感じられた。

「……すまない。どうかしてた」

「そうだよ、底は弾幕ごっこをしないやつと戦えばいいんだ。それで、勝って弾幕ごっこをさせればいい。それが仕事だ。報酬は生活」

 伊吹萃香が姿を現した。表情はどこか満足気。

「再開しようか」

「来な」

 指をクイッと曲げた。そして気分を表すように声を挙げる。「今の私は手加減できそうにないからね、死んでも恨まないでよ!」

 そうしてまた――戦いが始まる。

 

 あれから三十分経った。底は満身創痍だが、伊吹萃香は息も切れていないし、傷もなかった。

 有効打を見出だせなかった。

「楽しかったよ。底との戦い」

 瓢箪の飲み物を口に含んだ。

 底は、「まだ……まだ……」と壊れた機械のように繰り返している。虚ろな瞳はなにもうつさず、折れた足は体を支えることもできない。だが、刀だけは手離していなかった。

「もう諦めな。底は私に勝てないよ。あいつは底のことを死なないって言ってたけど……まあいいさ。また会えるといいね」

 呟きにも似た話は、底の耳に届いていなかった。そうして伊吹萃香は満足したように、しゃっくりをあげながら消えた。

 次に、八雲がやって来た。

「あらあら、負けてしまうとは情けないわね。まあ当たり前なのだけれど。可哀想だし、一思いに殺っちゃおうかしらね。そうすれば次もまた戦う筈だし。“藍”」

「はい。ここに」

 スキマから、また一人来た。

 金のショートボブ、金色の瞳。頭には二本の尖りがある帽子のような布。布のような帽子とも言える。ゆったりした長袖のロングスカート。青い前掛けのような服。身長は八雲よりも低く、なにより目をひくのは、美しくととのえられた九つの尾だろう。こちらも金色で、先は白くなっていた。

「可哀想だから始末しなさい」

「……はい。紫様はこの者が気になるのですか?」

 組まれていた腕をほどいて、問うた。

「ええ。底は私を楽しませてくれる。この子ほど私を楽しませてくれる子はほかにはいないわ」

「……すみません。聞いておいてあれですが、この者は壊れていても生きています。聞かれている心配は?」

「無いわ。私が聞こえないようにしてるし、見えないようにしてるから。ちなみに、もうすぐ藍も戻るわ」

「戻る……? いえ、その事は聞かないでおきましょう。紫様のお心は誰にも理解できないでしょうから。しかし、この者を殺して良いのでしょうか?」

「良いのよ。早くしなさい」

「畏まりました」

 幾度かのやり取りをして、藍と呼ばれる女性が爪をたてた。未だに「まだ……」と開かれている口から、絶え間なくこぼれている。そんな底に、容赦なく藍は自らの爪を底へと突き立てた。      


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