東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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紹介。隣(端)の家

 

 博麗の巫女。名は、博麗霊夢。能力は『空を飛ぶ程度の能力』と『博麗の巫女としての能力』彼女は空を飛べる。つまり、重力、重圧、脅し等も意味をなさない。無重力なのだ。

 彼女の服は特徴的で、黒髪の肩甲骨まである髪を、大きな赤いリボンでポニーテールにしている。巫女服なのだが、全体的には紅白。なにより目を引くのが、肩と腋を露出した服だろう。別途の袖を着けているが、何故腋を出しているのか。それは定かではない。きっと彼女の考えは『例外』を除いては、掴めないだろう。

 そんな彼女だが――賽銭が全くない。といっていいほどの彼女だが――金銭に困っている訳ではない。人里の妖怪退治なんかの掲示板がある。そこで、退治して報酬を貰っているのだ。寧ろそれを生業としている彼女は裕福である。

 

 彼女――いや、博麗は家でもある社殿から、寝起きなのだろうか、欠伸をして、八雲に何事かと問いかけた。

「霊夢、聞いて。この子は――」

 八雲が名前を言いかけた時、底が片手を挙げて止める。引き継いで、自己紹介するために。流石に名前は自分で言わないと駄目だ。と思ったのだ。

「はじめまして。俺は繰鍛 底だ」

 礼儀正しく腰を曲げる。若い底でも常識やマナーはあるらしい。それはそうか。実質、年齢には合わない時間を生きている。流石に三十年は生きていないが、それに見合う程の時間は生きているだろう。死なない為に、何度も遠回り、大回り。時には近道、最短を歩んだのだから。その間に色んな事を知れる機会だってある。実際、底は大人よりも大人っぽい。

 博麗は底を興味無さげに一瞥して「ふーん。よろしく。博麗霊夢よ」名乗った。

「ごめんなさいね、ぶっきらぼうで。でも本当、良い子なのよ」

 八雲がすかさず博麗の頭を撫でて、フォローする。博麗はその手を退けるまでもせず、されるがままだ。

 底は、その二人に少しだけ魅入った。

「……、いや、大丈夫だ。同い年位だろうし、仲良くしてほしい。よろしく頼む」

 手を差し出し、握手を求めた。

 博麗はその手を瞥見してから、手を重ねた。そして、無表情で弱々しく「よろしく……」と呟いた。恥ずかしいのだろうか。博麗の頬が少々、赤くなっている。

「うふふっ。この子ったら、照れちゃって」

 博麗の腕を肘で小突く八雲。鬱陶し気に顔をしかめ、八雲を腕で払っている博麗。底はそれを笑顔で見守っていた。

 笑顔を崩して八雲を見る。

 「そういえば、なんで俺をここに連れてきたんだ?」

 底からしたら、これこそ心底疑問だろう。

 家を手配したなら、まず其処に行き、紹介してからここなり何なりに行けばいいのだから。それをしないのはなにか案があるのか。それとも――――。

 

「それはね、この子が幻想郷を管理してる。と言っても良いからよ――」

 そう言うのも。と続ける。が、博麗に止められた。

「まあまあ、長話なら中でしましょう」

 社殿。基、家に入るよう促した。二人とも了承して、居間に座る。

 博麗がお茶三つと、菓子をおぼんにのせて座った。それぞれに渡し、八雲が一口飲み、潤してから続きを話す。

「ここは幻想郷。幻想郷は結界に覆われているの。それを博麗大結界と呼んでいるわ。これを管理するのが、『博麗の巫女』それがこの霊夢なのよ」

 それを聞いて、底はお茶を飲んでいる博麗を見やる。

 同い年位の博麗がそんな大任を務めているのか、と驚愕する。しかし、やはり結界という非現実なものを、想像しづらいのか、幾ばくか首を傾げている。底は一応といった感じに頭の中に置いてある結界についての知識を探る。

 結界とは、ある領域内を守る目的で、なにかの手段、道具を使い、持続的な防御を施すこと。使う力は霊力、魔力。だったはず。と付け加え、自己完結させた。どうやらそういう類いにも知識があるらしい。

 

「で、博麗の巫女は『異変』を解決させる義務がある。異変というのは、力をもった者がおこす、幻想郷規模の怪事件、怪現象よ。簡単に言うとね」

 終わり、お茶を飲む。それだけの動作でも、気品で溢れている。

「なるほど。その異変やらに乗じて俺は弾幕ごっこを広めればいいと。そういうことだな?」

 腕を組み、八雲を見ながら問い掛ける底。その顔は何処と無く『面倒くさい』と書いてるように見える。

「ちょっと……! 大丈夫なの?」

 博麗が焦りぎみに八雲の袖を引っ張った。大丈夫なの? とは、一般人を巻き込んで大丈夫なのか? という意味だろう。底は武術の心得が“あまり”ない。何回も生き返る、『生きる為の力が一般人のそれよりも高い』のと『なんでも器用にこなせる』だけの人間だ。心配するのも当然と言える。

 

「大丈夫よ。彼は必ず今の幻想郷を変えてくれるわ。勿論、良い方に……、ね?」

 底に拒否させないように、念押しするよう聞いた。流石に底だって今更帰ろうとは思っていない筈だ。もしかしたら八雲は、これで信じるか信じないかを見極めるのかも知れない。

 

「当たり前だ――」

 組んでいた腕を解き、頭を掻いて「ここまで来て引き返さんよ」そう明言した。

 八雲はその言葉を聞いて、満足したように頬を緩ませる。対称的に、博麗は『こいつ大丈夫か?』といった風に凝視している。と思いきや、次にはもう興味を無くしたように菓子を食べた。

「ありがとう。底。私のことは紫。もしくは、ゆかりん。って呼んでね」

 片目をぱちっと閉じて、ウインクをする。容姿が大人の妖艶さを漂わせているだけに、可愛らしさではなく、妖美を醸し出していた。

 それをあっさり受け流し「紫、博麗、これからよろしく頼む」改めて握手を求める。

 八雲はそれに応じて、「よろしく」一言。博麗も底の手をもう一度握るが、「博麗じゃなくて『霊夢』でいいわ。よろしくね、底」呼び名を訂正するよう言った。そもそも、幻想郷で名字呼びする者はあまりいないのだ。よって、博麗も八雲も、名字呼びされる事を慣れていない為に、下の名前で呼ぶことを求める。

 

「で、なんでここにきたんだ?」

 握手を終わり、腕を組んだ底が今一度、問う。

「それはね、貴方は霊夢のお世話にもなるだろうから、先に挨拶させようと思ったからよ」

 そう告げた八雲は、どこか、妖しい笑みを浮かべている。

 本当か? なにかの思惑があるのか、それともこれが普通なのだろうか――考えたところで、底は疑心を取り払う。ここで生きるには少々、疑いは邪魔になる。無駄な事をして、八雲との友好を歪めたくない。と思ったのだろう。

 

「お世話、とは?」

 底が菓子を口に含んだ八雲に尋ねる。

 むぐむぐと咀嚼して飲み込み「そうね『いろいろ』お世話になるんじゃないかしら?」例えば。と、勿体振る八雲。確かに底はこれからお世話になることだろう。ここで生きていく事になるのだから。それに、底は弱い。博麗が手加減しても、それこそ、赤子の手を捻るように底を倒す事だって出来る。

 

「例えば――」

 お茶を一飲みして、置く。『ゴトン』と音がした。やけに和風の部屋に響くその音と、底の喉が共鳴した。たっぷり間を置いて、底のまだか、まだか。といった風なせかせかした感じをみて、満足気に頷き「修行とか。まだたくさんあるけれど――」にこやかに顔を緩めて「言ってしまったら面白くないじゃない?」続けた。

 

 殴りたい。この笑顔……!! ――テーブルの下で、人知れず手を強く握る底。心なし、怒りでなのか、顔が赤くなっている。だが、表情は柔らかい。中々器用である。

「どうでも良いんだけど。もう三十分くらい居るわよ。いつ家を紹介してあげるの?」

 博麗の凜とした声。博麗が言った通り、かれこれもう三十分近く話し込んでいた。

 楽しい時間は早く感じる。とはこの事か――少しだけ、寂しそうに。底にとって、誰かと談笑をしたことはあまりない。今までこの生き方故に、家族以外とは喋らないのだ。学校なんてものは通っていなかった。幸運にも、実家が裕福。親も『底の人生。好きにしなさい。サポートしてあげるから』と言っていて、家族やらの事で不満を持ったことはない。

 勿論、親に事情は伝えている。底の親は疑う迄もなく、真剣に聞いていた。その後、本やなにやらで探していた様だったが、意味を為さなかった。結局、底の特異は誰にもわからない、謎のままだった。

 幻想郷に底が連れていかれる前に、親には一言謝ったようだが、それ以上には語らなかった。『幻想郷に行く』なんて奇言を、誰が納得するのか。

 

「あ、そうね。お邪魔したわ、霊夢」

 言って、立ち上がる八雲。それに合わせて底もお礼を述べて、起立した。

 神社を出て、底が八雲に向かってなにかを言おうとした瞬間、浮遊感と暗闇が底を襲った。次に視界が晴れた時は、着物を身に纏い、老若男女問わず、人で賑わっている場所だった。

 ここは幻想郷唯一ある『人間の里』

 幻想郷で『里』というと、ここを示す。ここの人間は、博麗大結界が出来た時に、閉じ込められた者達だ。人間の殆どが里に住んでいる。安全面は高い。八雲が保護していたり、妖怪退治を仕事にする者も住んでいるからだ。                 

 木造平屋がほぼ隙間なく立ち並んでいて、それは『昔』を思い出させる。店も豊富で、道具屋『霧雨店』や蕎麦屋、団子屋に、花屋。半人半妖が教師を務める寺子屋。広大な屋敷。貸本屋『鈴奈庵』に豆腐屋。など、幾多の店がある。

 

 人間の里、入り口に底と八雲は立っていた。

「こっちよ」

 八雲が先行して、活気のある里を歩く。人間はちらりと横目で八雲を確認すると、八雲の前を歩かないように然り気無く、進行方向を変えて歩を進めた。避けているようには見えない。どちらかというと、邪魔にならないよう退く。といった風だ。

 底はそれに淡々と着いていく。人気のない、ひらけた場所に八雲が足を止めた。大きい一軒家の前で。

「ここが、貴方の家よ」

 底と八雲の目の前にある家は、洋風モダンで小さい押し開きの門がある。底は何処か現代を感じさせる外観だ。と思った。

 壁は白。屋根は茶色。横幅も大きく感じるが、それに加えて、二階建てだった。人間の里の、隅のひらけた場所にあるこの洋風モダンの家は、何処か異質に見えた。なんせ、里全体が『和』を感じさせるからだ。その中にポツンと洋風が建っていたらおかしくも見えるだろう。和の中に一つの洋、ミスマッチ。といえばそうかもしれない。だが、一種の芸術のようだ。

 八雲は変に見えるのを少しでもましにしようとこの隅のひらけた場所に建てたんだろう。あんぐりと口を開けている底の前に立っている八雲は、自信満々。といったように、その豊満な胸を張り、笑みを見せている。

「でかいな……。ここが俺の家なのか?」

 感嘆の息を吐き、確認する。視線は絶えず家に向いていた。

「そうよ。これから――」振り返る。金の髪が宙を舞い、ドレスのような服の、裾が遠心力で広がる。「貴方は幻想郷の住人になるの。よろしく。底」

 ――そして、妖艶に微笑んだ。       


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