ヤンデレアリスか純情アリス
どちらがいいか。というアンケートをとらせて頂いております。よろしければご参加ください。
春雪、終
「終わらせます」
魂魄妖夢が宣言する。底が全身に力をいれて身構える。その間も、周囲の警戒は怠らない。なのだが、半身は魂魄妖夢のそばにいる。そしてなによりも、溜めていない。
一体なにをする気なんだ……。用心深く、慎重に刀を握り締める。
魂魄妖夢の半身が光を放つ。底が目を庇い、開けると、なんと魂魄妖夢が二人になっていた。
なるほど、半身が化けたのか――目を細めて冷静に分析した。
ついさっきの魂魄妖夢もこの半身が化けていたみたいだ。
「さて、二対一は卑怯ですが、そうもいってられません。いきます――!」
本体が腰に差してある短刀を半身に渡した。その短刀を逆手で持ち、本体は底と同じく、正眼に構えた。
「…………」
「なんですかその納得いかないような顔」
「いや、お前剣士だ――」
「問答無用ですっ!」
遮って半身と同時に走った。
「マジかよ!」
こうなりゃ、やってやる。と半ば自暴自棄になり、足に雷を付与させ、高速で近づき、刀を斜めに振るう。
それを半身が短刀で受け止めて、本体が底の背後に素早く回る。
しまった。そう思った時には手遅れ。桜観剣の峰で当身され、気絶した。
「安心してください。峰打ちです。貴方の太刀筋は真っ直ぐで、私の心に響きました。お嬢様には会わせません。別の意味で」
会うと、死んでしまうかもしれないから。そう、少し寂しそうに笑って、底を抱き、屋敷に入ろうとした、その時。
「あんた。底になにしてるの?」
無表情の博麗と、あっちゃー。と顔に手をあて、空を仰ぎ見る霧雨が立っていた。
「なにって、私はただ――」
「今すぐ底を離しなさい。殺すわよ?」
目を鋭く光らせた。魂魄妖夢はビクリと身体を震わせる。半身は既に戻っている。
「わ、わかったわ。ここにおろすから」
そう言って縁側の廊下に底を寝かせた。そして少し離れる。
底! とさっきまでとは全然違う声色を出して気絶する底へと駆け寄った。
「お前、あいつをここで寝かせようとしてたんだろ?」
「そ、そうよ。お嬢様に会ったら多分死ぬから……」
「まあ、こんなところで寝てるってことはお前に負けたか、花見で昼寝だろ。どっちにしろこの先ではきっと、役には立たないな」
霧雨が腕を組んだ。博麗に抱かれ、眠っている底へと視線を移す。魂魄妖夢は、なにか思うところがあったのか、地面に目をやる。
「おっと、私は霧雨魔理沙だ。よろしくな。あっちの紅白が博麗霊夢」
「あ、私は魂魄妖夢。剣術指南役、兼、庭師よ」
「へー。そりゃあすごい」
「気持ちがこもってないわね」
「そりゃあな」
霧雨が手を振ってあしらった。魂魄妖夢から離れ、博麗と底に近づく。
「ただ気絶してるだけだろ? あいつが看ていてくれるらしいから、ほっといて異変を止めようぜ。早く帰って酒呑みたいしな」
「…………。あいつがなにかするかも……」
ぼそっと呟いた。なんとか霧雨が説得して、博麗が腰をあげたのはそれから十分後のことだった。
もともとは春の季節なのに冬が終わらないという異変の解決に出ていたことに博麗は思い出したのだ。よくも悪くも底のことで頭が一杯だった博麗は、漸く異変解決に思考を向けた。といっても、チルノ、冬の妖怪、橙、アリス、騒霊を倒しまわった博麗と霧雨には、疲れが見えなくもないが。
時間は少し遡る。
あれから霧雨邸を出て、底を捜していたチルノに見つかり、なんやかんやでいちゃもんをつけられたあげく、弾幕ごっこで圧勝し、その上で、急ぎ、山やらで春度を探していたら、二人はなぜか橙のいた屋敷に。そこで今日は客が来るねー。という話を聞き、博麗が丁重――物理的――に問い質したところ、底がいたという話を聞いた。
そしてまた勘でアリス邸に行くと、底が少し前にいた。今頃は空じゃないか。というではないか。どういうことだ。と博麗が違う方に勘違いしてまたもや問い質す。弾幕ごっこで。
勝利して、空に行ってみたらわかる。の一点張りを受けて、空に向かうと、冬の妖怪が現れた。まだやはり弾幕ごっこは広まっていない様子で、残念ながら少し苦戦したが、霧雨の十八番。マスタースパークが決まり、勝つ。
その後も、雲を越えて巨大な門がある。と思ったらなぜか『プリズムリバー』と名乗る三人娘が戦いを挑んでくる。結果的には勝ったが。
そして、門を飛び越えて長い階段をのぼり、庭に来たところ、底を抱いた魂魄妖夢がいた。そして今現在にいたる。
「……気を付けてください」
「わぁってるよ」
ずかずかと廊下を歩く霧雨と、凜とした雰囲気を醸し出す博麗に、背中越しに言った。
怠そうに手を振る霧雨。博麗は無視してさっさと行ってしまった。
残ったのは光のさし込む廊下で寝息をたてる底と、首を左右にふる魂魄妖夢。半身だけだった。
そのあと、博麗と霧雨は『西行寺幽々子』と名乗る亡霊の女性と戦う。まあ、機嫌が悪い博麗が圧倒的なまでに勝ってしまったのだが。
そんなこんなで無事、異変が終わった。底が起きたのは春をとり戻した数時間後。博麗が家まで送り、介抱していた時だった。起き上がったときは大層喜んだそうな。
反対に、底は凄く悔しがっていた。しかし、楽出来たんだからいいか。無駄に死にたくないし。ということで納得した。
そして今、宴会が終わり午後十一時。寝室のベッドに腰掛け、底は、一人反省会を開いた。
「反省会初めー。あそこでああすりゃよかったにゃ。はい、反省会終わりー」
どこかで聴いたような曲の一部を口ずさんだ。
「とまあ、そんなんで終われねーわな。完全に力不足だった。敵わない。まあ、あの……、魂魄妖夢。だっけか? あいつが何年生きてるか知らないけど、人間ではなかったな」
ごろん。とベッドに大の字で身を預ける。伸ばしている腕がベッドからはみ出るが、いまはそんな些細なことを気にしてはいられなかった。
「どうするか。これからも戦っていかなきゃいけないのに、このままでいいか? なんか一人言喋ってるけどさ」
そこからは頭のなかで呟くものに切り替える。
本格的に練習相手を探そうか。出来れば怪我しないような優しい人……。ん? 結構いるな。魂魄妖夢だって言えば教えてくれるかもしれない。あと美鈴もいる。咲夜さんだって、レミリアだって。魔理沙と霊夢は……うん。あの二人はやめとこう。アリスもパチュリーもワンチャンあるんじゃないか?
今日はもうやめて、明日、紅魔館に赴くらしい。底は布団を頭まで被り、目を閉じて、眠りに入った。
午前九時。身だしなみや食事を終らせたところで、家を出た。目指すは紅魔館。
「おい! そ、そ……」
「底」
「そこ! こんどこそ戦うぞー!」
「断る」
「断るを断る!」
「断るを断るを断る」
「むっきーっ!」
霧の湖で不毛な言い争いをする二人。あれから飛んで向かった底は、やはりというべきか、底は一体の妖精、チルノに見つかってしまった。
生息地、とでも言えばいいのか、住処、なのか。まあ、霧の湖に居を構えているチルノに、会う可能性は高いみたいだ。
「なんでそこまで拘る。面倒だし戦いたくないんだけど」
「私は戦いたいの! 最強の力を思い知らせるんだ!」
思い知らせてどうするんだ。底は思った。
底からしたら、チルノとは大した接点はないし、ここまでしつこくされる理由もわからない。
赤い霧の異変では霧雨が倒していたし、底はなにもしていないつもりだ。あくまで“つもり”ではあるので、チルノからしたらなにかあったのかもしれない。そこのところは、底はどうでもよかったりする。
なにはともあれ、今回にいたっては戦闘を避けられないようだ。氷柱をそこらに放つチルノをみて、底はやれやれ。と首を横に振った。
仕方なく銀色のビー玉を懐から取りだし、刀に変えた。チルノも、その姿を見て、満足そうに頷いたあと、腕から透き通る氷の剣をつくった。
その透き通りは太陽の光に反射してキラリと宝石のように輝く。形状は刀にも似ているが、強いていうなら『ファルシオン』という剣の形に似ている。恐らく本人は意図してつくったわけではないと思うが。
チルノが数回素振りする。底は首の骨を鳴らす。
「チルノ。俺が勝ったらどうする?」
え。とチルノがもらした。少し考えて、「万に一つもないと思うけど、もし私が負けたら師匠になってあげるわ!」そう答えた。すかさず底がつっこむ。
「お前が師匠になってどうすんだ。ばかめ」
「あたいはばかじゃない!」
「そうだ。じゃあもう俺に戦いを挑んでこないでくれ。あと戦いは弾幕ごっこって遊びで戦うようにしてくれ。天才ならそれくらいわかってくれるな?」
「えへ……うん! あたいが負けたら約束したげるー!」
「よしっ」
ちょっと天才っていうとこれだ。だが、それだけ扱いやすくもある――天才と言われ、機嫌をよくしたチルノを見て、底が内心、ほくそ笑む。
差別や蔑むことをあまり良く思わないが、いまは別らしい。荒んでいるようだ。
人間、気分によって、考えることは大幅に変わるみたいだ。
「じゃあ、戦うか」
「よーし、勝つぞー!」
「まさか教えてもらう前に戦うなんてな……」
顔をしかめて呟く底に、チルノが反応した。なにかと問うと、なんでもない。と応え、底が空を翔た。