東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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博麗霊夢のラブラブ監禁!

 

 

 

「な、なに言ってるの? 体重が……?」

「いや、気持ちが……かな」

 そうため息まじりに伝えると、博麗はやはり、顔を余命を宣告されたような絶望に染める。

 次第に博麗の、目の光が無くなっていき、唇は震えていく。

「…………」

「毎日朝起きたらもう居てさ。夜寝るまでずっと一緒だろ? 恋人でもないし、ちょっと辛いかな」

「…………」

「……霊夢?」

「あ……はは……」

「れ、霊夢?」

 底が呼び掛けても、依然として虚ろに空を見つめ、かわいた笑いを溢すだけ。底がやばい。と思い始めたのは一分後。互いが変わらずに、底は博麗を険しい顔で注視。博麗は同様。

 そろそろ落ち着かせようと、ソファーベッドから立ち上がったところだった。博麗が底の袖を掴んだのだ。しかし、やはりどこか虚ろ。

「ちょっと待ってて、飲み物持ってくるから」

 優しく底が言い聞かせるように。慎重に袖を掴む博麗の手を離す。底が振り返って歩く。

「底……」

「なん――」              もう一度振り返って博麗を見ようとした底の頭を、立っていた博麗がお祓い棒で力強く叩き込まれた。衝撃で底の意識は吹き飛ぶ。脳への信号を失った体は重力に従って倒れてゆく。と思いきや、博麗が素早く抱いた。

 その表情は恍惚と、愉悦に満ちている。底を一度ソファーベッドに座らせ、おぶる。そして、背中で眠る底を連れて、家を出た。

 

 午後七時。博麗神社。

 博麗が社殿の後ろ側にある倉庫へと赴いた。

「そーこー! げんきー?」

「…………。なあ、やめないか?」

 博麗の陽気な声が響く。倉庫の奥には底が椅子にがっちりとロープでくくりつけられていた。何度も脱出しようと力を入れたり、霊力で炎を出そうともしたがなぜか無駄に終わった。なにかの細工が施されている様子。

「だーめ! んふふー、もう底は私だけのものなのよ!」

 博麗が愛おしそうに底の頬を撫でた。博麗の顔を悲しさ半分、後悔半分で見る底。

「いい加減にしてくれ。霊夢。いくらなんで――」

「うるさい!!」

 博麗が底の頬を怒りに任せた握り拳で殴る。底が口内の血を吐き出した。

「ねえ。私の気持ちになんで応えてくれないの? 絶対に、他の誰よりも幸せにするよ? 朝には私のキスで起きて、顔も洗ってあげるし体だって洗うよ? あれのお世話もしてあげるし、一生私抜きでは生きていけないように骨抜きにしてあけるんだから。貴方はもうなにもしなくていいし考えなくていいの」

 鬼気迫る顔で博麗が畳み掛ける。あまりの剣幕に底はおののき、たじろぐ。

 底の両頬を絡み付くようになで回し、顔を近づけた。

「だから……、底は安心して私に身を委ねればいいの……」

 急に博麗の喋り方が変わる。それはねっとりと、誘惑するような声だ。

「悪い冗談は止してくれ。なにをされても俺には通用しないぞ」

「そう言ってられるのも今のうちよ。私抜きじゃ生きれない身体にしてあげるんだから……」

 底の必死とも言える抵抗も虚しく、今の博麗には通じない。

「霊夢、腹へった」

「わかった! ご飯持ってくるわね!」

 そう言うと、パタパタと音を立て、倉庫を出た。

 残った底はあからさまにホッと、溜め息を吐いた。腕が使えないのが歯痒いが、それでも溜め息を吐いただけで少しは落ち着けたようだ。

 一分後、台所から作りたての、置いていた料理を持って、鼻歌をする、にこやかな博麗がやって来た。

「ご飯持ってきたわよー!」

 そう言って差し出したのは極々普通の料理。オムライスだった。この二ヶ月の間、底にオムライスを教えてもらい、練習していた博麗は、今日は特別な日だから。と作っていたのだ。

「うん、うまそう。だが食えない。縄をほどいてくれ」

「だーめ! 私が食べさせてあげる!」

 あーん。などと鼻にかかったような甘ったるい声を発し、スプーンでオムライスの端をすくって食べさせようとする。うん、知ってた。と底がなんとなく呟き、口にした。

 咀嚼して飲み込む。それを見て博麗が紅潮させ、ビクビクと身体を震わせた。それはまるで念願が叶ったようだ。

 

 食べ終わり、博麗が底の背中を叩きだした。

「…………。なにしてるんだ?」

「え……? 食後のおくびを……」

「いやしないだろ」

 おくびとは、俗に言うゲップの事だ。ということは、あろうことか博麗は食後の、底の背中を叩き、ゲップをさせようとしたのだ。果てには、これが当たり前なんじゃないのか? と言いたげにキョトンとして首を傾げている。

「あれ、しないの?」

「お前はいつも魔理沙と食べた後それするのか?」

「しないわ……!」

「当たり前だろ。何を言っとるんだお前は」

「……てへ」

「うるせぇ」

 頭をコツンと小突き、舌を出す博麗を、急激に殴りたい衝動に駆られるが、なんとか我慢する。と言っても、両手を後ろにされ、縄で頑丈に縛られているのだから不可能ではあるが。

 

 そんなこともあり午後九時。そろそろ身体的にも精神的にも底が疲れてきた。然もありなん。六時間も体勢を変えられず、姿勢を強いられているんだから。

「なあ、俺このまま寝るのか?」

「あ……、考えてなかった……」

「おいおい。椅子で寝るとかなんだよ。勘弁してくれ」

「…………。そうだ! 一緒に寝よ!」

「それは知らなかった」

 ということで、博麗の家の寝室にて、二つ布団をならべて敷いて、特に何事もなく二人が眠る。ただ底が縄でギリギリと縛られていることを除けば、だが。

 

 朝九時。窓からは陽の暖かい光がさしこむ。その眩しさに底は、目をさました。

 横に博麗はいない。動こうにも動けない。昨日気絶から起きた頃にはもうかたく縛られた縄、それのせいですっかり腕は痺れ、感覚が無くなっていた。足にも縄があり、自由に動かせないため、底は寝起きが最悪だった。

「あー、苛々するな。腕どうなってんだよこれ」

 一人そう愚痴っていると、扉から博麗が開けてはいってきた。底の起きてる姿を目にいれると、突然えがおに染めて見下ろしながら言った。

「おはよう! キスで起こしたかったんだけど……、底の格好いい顔を見てると恥ずかしくて……。うふふ」

 俺は今のお前が恥ずかしい。などと心の中で毒を吐いていると、博麗が底を抱き起こした。途中、腕に激痛が走り、顔をしかめて、痛い痛い! と叫ぶと、博麗が驚きに、思わず腕の縄を解いた。

 こ、こいつ馬鹿か……? と別の意味で驚いた。

 手を見ると、赤紫に変色していた。博麗はそれを見たことがないのか、相当焦りに身を包ませた。

 反対に、底は冷静に分析していた。

 これは、血が巡らなかったからか。幸いにも、壊死や腐ってはいないみたいだな――険しい顔で見る底を、博麗はうっとりとしているが、いけない。と思ったのか、首を左右に振って心配そうな表情に変えた。

「壊死や腐ってない。だが、これ以上縛ると腕が使えなくなるぞ。また縛ろう。なんて馬鹿なことはしないだろうな?」

「ご、ごめんなさい……。貴方の事が好きで……も、もうしないから許して……?」

 すがりつくように哀願。その言葉に更に考える底。ここでもし駄目だと言ったらどうなるか。許したらどうなるか。全く未知の事ではあるが、とりあえず許すことに決めた。

「わかったよ。絶対にするな。俺の頼みをちゃんと聞いてくれ」

 後者は密かな願いなのだが。これが通ればこれから『頼み』と言えば大人しくやめてくれるかもしれない。という期待でもある。

「約束する……。ごめんね……」

「まあ、良いだろう」

 許してやる。といった風に腕を組んで博麗を見て言った。

 

 

 

 

 色んな意味でやっと解放された午後二時半。底は一人、自宅の寝室でゆっくり身体を休めていた。仄かな明るさが目に優しく、ベッドはふかふかで心身共に癒される。しかし、そんな中に二人の来訪者。家中に『ピンポーン』という軽快と思わせるようなサウンドが鳴り響く。

 その音に一瞬肩を震わせ、駆け足で玄関を開けた。

「底、こんにちは。来たわよ」

「こんにちは。昨日、訪ねたのだけれど、お留守だったみたいで」

 外に居たのはレミリアと十六夜咲夜だった。いつもの服装な二人は見慣れてるが、やっぱり綺麗で可愛いな。と素直に底は思った。歓迎するよ。そう言って居間へ案内し、飲み物を注ぎ、差し出す。二人が口を揃えて礼を述べた。

「ねえ底。貴方、ここを探検しよう。なんてことはしないの?」

 三人がお茶の入ったコップに口をつけ、一息吐いたとき、レミリアが底に聞いた。

「うーん。二ヶ月にはなったけど、まだまだ慣れてないから、今探検したら面倒なことになりそうだし、また今度にする」

「ふーん。私も一緒に行きたいけれど、太陽がねぇ……」

 外の太陽を忌々しげに睨み付けるレミリア。レミリアの隣に浅く腰かける十六夜咲夜は目を瞑り、何を考えてるのか一切読めない。

「日傘も限界があるしな」

「そうそう。ずっともってもらうのも咲夜に悪いし、私が持っててもいいんだけれど、やっぱりどこかしらに陽があたるのよ」

「わたくしは構いませんよ。むしろお役に立てるのならば本望です」

「私が気になるのよ」

「まあ俺も気になるところではある。しかし、レミリアとも行きたいが、一人でのんびりするのもいいんだよなぁ」

「あら、私は一緒にいたいのに」

 レミリアがお茶を飲んだ。優雅に。

「いや、俺もいたいよ。ただ、昨日まで博麗が離れなかったから、しばらくは一人でゆっくりしたかっただけさ」

 気不味く感じたのか、眉を少しあげ、誤魔化すようにお茶を口に含んだ底だった。      


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