東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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やんでれいむ

 

 

 

 霧の湖。ここは昼間になると、霧で包まれ、視界が悪くなる。といっても、今は関係ないが。しかし、この湖、視界が悪いから大きく見えるが、実際は言うほど大きくない。歩いて一周しても一時間だ。これが大きいか小さいかは人によるだろうが。その湖の真上に底、博麗、霧雨。そして底の腕で寝ているルーミアが飛んで、進んでいた。

「なあ、なんか寒くないか?」

「確かにそうね」

 そうは言うが、寒そうに見えない。腋を剥き出しにしているのに、寒くはないのだろうか? と問いたいが、誰も聞けない。

「うん。なんか夏にしては寒い」

 漠然と応える底。確かに肌寒くはあるが、我慢出来ない程ではないし、半袖でも十分だろう。“冷気”を感じる。といった程度か。

 湖を低空飛行する底達のまた上空、一人の青いワンピースを着た少女が三人に気がついた。落ちるように急降下し、底達の目の前で仁王立ち――飛んでいるが――して、指差し、怒鳴るように。

「そこの三人組! ここはあたいの住処だぞ!!」

「いや、知らないぜ。私達はここを通らなきゃいけないんだ。退いてくれないか?」

 箒にまたがって飛行している霧雨が諭す。

「ならこの最強のチルノ様を倒してからいけ!」

 豪語するチルノとやら。

「わかったわかった」

 面倒くさそうに返事をする霧雨。

「さっきから感じる寒さはそのチルノって子じゃないか?」

 博麗と霧雨に言う。確かに、見た目は子供ではあるが、背中に氷柱のような羽? が三対あるところからして、おまけに髪、服、髪飾りが寒色系の色をしているところで、彼女が普通の人間でないところが窺える。後者は特に関係ないが。

「そのようね。魔理沙。やっちゃいなさい」

 肯定して、何故かふんぞりかえっているチルノにお祓い棒を向けた。

「へいへい」

 だるそうに返し、八卦炉を懐から取り出した。

「覚悟はいいか!? 蛙みたいに氷づけになっちゃ――」

「マスタースパーク!!」

 チルノの言葉は、しかし最後まで続かなかった。無慈悲にも、霧雨の十八番。極太のビーム。《マスタースパーク》が放たれたからだ。

 八卦炉から放出される虹色の大きい光線は、恐ろしい速度でチルノに迫り、大蝦蟇が一飲みするかの如く、チルノを包んだ。博麗と底が目を瞑る。チルノを包んだ後もその速度は衰えることなく、霧を払いながらも空へと突き進んだ。

 漸く収まり、再び霧に包まれる。二人が目を開けた。底はじぃっとマスタースパークのあったところを凝視し、博麗は腰に両手をあて「たく、眩しいのよ」と文句を言った。

「す、すごい。これが魔法か……」

 感嘆の声をあげる。

「ふふん。どーだ、凄いだろ!」

 見事などや顔を見せつける霧雨。

「あんたのは力任せでしょうが」

 さっきから不機嫌な博麗が、呆れたようにため息を吐いた。

 あ! と声をあげ「あのチルノって女の子は!?」キョロキョロと探した。しかし、どこにもいなかった。

「大丈夫よ。底。妖精は死なないの。一時的に消滅しただけ。簡単に言うと、妖精は『自然』なの。すぐ生き返るわ」

 そんな底を見て、説明する博麗。どことなく機嫌が和らいだような気がする。

「はー。そうか……。なら、心配いらない……のか?」

 関心して、疑問気に語尾を上げた底。

「あとあいつらはバカだからなぁ。次に会った時にはもう忘れてるかもしれないぜ!」

 含み笑いをしながらそう言う霧雨。

 聞いて、底は少しだけ、悲しく思った。というのも、チルノという少女。いや『あいつら』というからには妖精だろう。その種族を見下してるように思えたからだ。ごめん。と心の中で謝って「話はこれまでにして行こう」振り切るように提案した。

「そうね。時間をとられたわ。まあ、別に急いではいないけれど」

 再び先へ進んだ。

 

 湖を越えると、目につく“紅”。これほど赤を強調したものを底はいまだかつて、見たことがなかっただろう。そう。この洋風の館は『紅魔館』だ。紅い霧。輝きを遮られた紅い太陽。そしてこの紅い館。それはどこか異質で、調和されている。正に悪魔の館と称するに相応しいこの光景を博麗が「悪趣味ね」と一言感想。

「まあ、入ろうか」

「それもそうね」

 飛んだまま、門を越えて不法侵入。

「そこのお三方! 待ってくださーい!!」

 ――かと思いきや真下から呼び止める声。

 薄々そんな気はしてたのか、博麗が面倒そうに深くため息を出して、肩を落とす。高度も落とし、三人が着地した。

「なによ」

 仕方なく。といつた風に話しかける博麗。

「いやー、ありがとうございます」

 そうお礼を言って、頭を掻き「私は門番をしてる紅美鈴です」肩位まで上げて、右手を左手の上に置き、お辞儀をした。

 緑色のチャイナドレスのような服を着て身長が高い。スラリと長く、細い足が艶かしくて、赤い腰まであるストレートヘアー。側頭部を編み上げ、リボンを付けて垂らしている。緑色の帽子には星形のエンブレムがあり、それに『龍』と書かれている。そのお辞儀が、中国の挨拶の仕方であることが容易に想像できた。

「あっそ。私は博麗霊夢よ」

「私は霧雨魔理沙だぜ!」

「ん。俺は繰鍛 底という。よろしく」

 抱いてるから手を挙げれないことに気づき、礼。

「まあ、門番というわけで、此処に侵入者を入れないようにしないと駄目なんですよ。引き返してくれませんか?」

 穏やかにも、笑顔を浮かべながら子供に言い聞かせるように喋った。

「この光景を見て、そう言ってるなら笑える話ね。あんたこそ退かないと痛い目を見るわよ?」

 目を細め、威嚇して脅す。その覇気から、本当のことだとわかる。

「そうですか……、やむを得ませんね……」

 腕を振り上げ、舞うようにゆったりと構えた。「門番、紅美鈴。参る!」

「魔理沙! あんたに決めた!」

 バックステップして、素早く霧雨の背後に潜り、押した。

「えっ――うおっほい!?」

 変な声を上げて、唖然としながら紅美鈴と対峙。納得してないが、対峙。

「いきます!」

 一気に加速して、掌底を放つ。

「――ちょ!?」

 箒に掴まって急上昇することで、なんとか逃れた。

 

「なあ、俺でも良かったんじゃないか?」

 霧雨が星形の弾幕を紅美鈴に向かって放つところを眺めながら、横に立っている博麗に聞いた。

「あんたは異変をおこしたやつと戦ってほしいの。私は解決の手助け。今回はあんたが解決すんのよ」

 そう紫に言われているの。と付け加えた。

「そうか。なら頼むよ。そろそろ疲れてきたな……」

 肩をあげたりするが、余計疲れるようで、大人しく止めた。流石に十にもみたない少女だからといって、何十分も同じ体勢だと腕が痺れてしまうようだ。

「投げ捨てればいいじゃない」

 明らかに敵意を含んだ目で吐き捨てるように言った。

「そうもいかないんだけ――」

「う、うーん……」

 底の言葉が遮られた。それは腕で寝ているルーミア。

「起きたか?」

 確認するように問いかける。徐々に目を開いていき、まだ焦点の定まっていない目で、底を見るや否や、無邪気に笑いかけて首に手を回した。

「――なっ!?」

 博麗が絶句した。ルーミアに絶句させられるのはこれで二度目だ。底も満更ではないように、しかし無表情で落ちないように抱いている。博麗が顔を赤くして素早くお祓い棒でルーミアの頭を叩き怒鳴った。

「いったぁーい!」

 頭を押さえて、博麗に非難の目を向けた。

「な、なにもそこまでしなくてもいい――」

「うるっさいわね! この変態!」

 博麗を叱ろうとした底に、赤い服と同色になった博麗が言われようのない罵倒を浴びせる。

「えぇ……」

「何事です――」

「隙あり! マスタースパーク!」

 騒ぐ博麗に吃驚して、振り向く紅美鈴。それを好機に、得意技を放った霧雨。しまった。と気づい時にはもう手遅れ。高速の虹色光束が紅美鈴を飲み込んで、クレーターをつくった。砂埃が舞う。爆音に我を取り戻した博麗が一時停止。

「底! 勝ったぜ!」

 どうだ! というように胸を張って降りてきた。クレーターのど真ん中で紅美鈴が気絶していた。

「お疲れ。ありがとう」

「何やってたんだ?」

「いや、ルーミアが起きて、抱きついてきて、霊夢が怒って罵倒した」

「なるほど。霊夢……」

 底の簡潔な話を聞き、霧雨がにやにや顔で突っ立っている博麗を見やった。

「な、なによ……」

「いや、敢えて言うまい。だぜ。それよりも、なにか底に言うことがあるんじゃないか?」

 にやにや顔をやめて、真顔で言った。

「う。で、でも底が――いえ、ごめんなさい。底」

 潔く自分の非を認めた。しかし、相変わらず頭を押さえてるルーミアには敵意をもっている。

「いや、怒ってないからいいよ。別に気にしないでくれ。それはそうと、ルーミア。そろそろ降りてくれないか?」

「わかったー」

 飛び降りて承諾したルーミア。底がやっと開放された。というように腕を回して小さく息を吐いた。

「よし。これからは危険だから……。って、帰れるか?」

「大丈夫だよー。またねー! 王子さまー」

 真っ黒になって、ふよふよと飛んでいき、去った。

 ため息を吐いてから安堵の声をもらした博麗。

「あはは、どんだけ毛嫌いしてるんだよ」

 底が微笑しながらも、博麗に言った。

「だって、なんかいらいらしたんだもの……」

 俯いて、ぽつり。と胸の内を吐露した。

「あ、あー、あはは……」

 底が目を反らした。薄々感づいていたようだ。まだ断定は出来ないし、そこまででもないだろうが、博麗は底を好いているらしい。底が苦笑いを浮かべ、霧雨はやっぱりな。といいたげに四度頷いた。

 確かに顔は良いし、気配りも家事もできる底は優良物件とも言えるだろう。しかし、惚れるのはあまりにも早くないだろうか。いや、まだ断定出来ないのだが。後ろで霧雨がにやついている。

「ま、まあ、先に進もう。危険だから美鈴を館の中までいれようか」

 嫌な予感がしている。という風に、焦りぎみに、話題を変えようとする底。

「また抱き上げるの……?」

 なにか悲しそうにして聞く博麗。一層にやにやが増した霧雨。

「そ、そうだが……、駄目か?」

 眉をひそめた。

「な、なんかいやだ……。わ、私と魔理沙で運ぶわ……!」

「えっ。私も……?」

「当たり前でしょ! ほら! 持ちなさい!」

 紅美鈴の両手をもって、呆然としている霧雨に言った。渋々両足を掴み、合図をして持ち上げる。底が門を開き、わっせわっせと紅美鈴を運ぶ。庭を進み、噴水を回り込み、底が一足先に、申し訳なさそうにして一言謝り静かに開ける。

 紅美鈴を玄関に寝かせて、歩き出す三人。

 しかし――急に現れたナイフが底に三本突き刺さる。右胸、左胸、腹に。咳とともに、血を吐いた。何が起きたかもわからない内に、飛んできたナイフに押され、重力に従いその身体は床に、仰向けで倒れる。博麗と霧雨が唖然として後ろに倒れた底に視線を移した。

「え――。嘘……、やだ、な、なんで? 底?」

 口を手で覆い、倒れた底にゆっくりと向かう。霧雨はいきなり仲間にナイフが刺さっている。という事態に反応出来ずにいた。

 白のシャツが赤黒く染まっていく。口から血を絶え間なく吐いて、呼吸困難に陥り、痙攣している。瞳孔が開いていき、徐々に動きを止めていく。博麗の涙で底が濡れていく。血で塗れていく。赤いカーペットの敷かれた床に同化するように。

「あは、嘘よ。絶対にうそ。これは悪い夢なんだわ。アハハ……」

 無表情で涙を流す博麗。霧雨は、ずっとこの光景を眺めている。まるで映画でも見ているかのように。

「不法侵入者に『帰って』とでも言うと思ったかしら? 甘いわよ。何も知らずに死んでいきなさい」

 霧雨の真後ろに、あたかも『最初からいたかのように』メイド服を着た銀髪の女性がナイフを片手に一本持ち、たっていて、動かない霧雨の首に思いっきりナイフを押し引いた。なにも抵抗をしない霧雨。

 いや――出来ないのだ。そう言うのも、精神に異常をきたしている。所謂発狂。放心している霧雨を狙うのは当然と言える。

 細い、白い首から、血が噴出して、その血が壁に付着する。底と同様、倒れこむ霧雨。博麗は膝を抱えて座り、体を揺らして「ねえ底。私ね? 貴方の事が好きみたいなの。今更気づいたの。ねえこの気持ち受け取ってくれる? 大好きよ底」座り方を変えて、底だった物に口づけをした。

「あら、おかしくなっちゃったわね」

 傍観する銀髪の女性。

「えへへ、大好きよ底。ずっと一緒にいたいの。今すぐそっちに行くからね? 待っててね?」

 底の心臓に刺さったナイフの柄を掴み「ちょっと痛いけど我慢してね」と言ってから、勢いよく抜いた。穴から血が噴き出る。そのナイフを愛おしそうに、恍惚な笑みを浮かべて、躊躇なく自らの胸に刺した。

 咳、血。のそのそと底の手を握ってゆっくり目を閉じた。

「素晴らしいドラマね。涙が出ちゃうわ」

 吐き捨てるように言う。次の瞬間にはもう三人の死体は“無くなっていた”

 

 どこかで舌打ちがらしきものが聞こえた。                             





はい。霊夢がヤンデレでした。

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