僕の心が染まる時   作:トマトしるこ

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007 銃の矛先

「更識」

「はい」

「お前にはある程度名無水の容体に関して伝えているはずだが?」

「知っています。ですが、授業では一般生徒と同じように機体に乗せていると聞きました」

「歩行と滞空だけはな。ランニングや高速機動などはさせていない」

「それが彼の為になると?」

「ふむ……何か考えがあるようだな? 言ってみろ」

「銀、には専用機が無いからです。急な事態に対応することもできず、身を守る事も出来ません。男である以上何らかのトラブルに巻き込まれるのは明白なのに、織斑君には術があって銀に無いのはおかしくは思いませんか? ある程度一人で生きのびるだけの実力が彼には必要です」

「そうなっても守るために我々教員やお前が居るのだろう?」

「二十四時間三百六十五日、ずっと銀の傍に居れるわけではないでしょう。寝ている間、授業中、お風呂……傍に誰も居ない、気付かれにくい場面なんてたくさんあります」

「四六時中ボディーガードを張り付ければいいのだな?」

「それは嫌だなァ………」

「「………」」

「あ、何でもありません。どうぞ……」

「はぁ……では専用機をつけてやればいいのか?」

「織斑君というこれ以上ない適任がいるというのに、彼にコアが回ってくるとでも?」

「………ああわかった、降参だ。名無水銀の、模擬戦参加を許可する。まったく、ああ言えばこう言うところは姉そっくりだ……」

 

 ガリガリと頭を書きながら溜め息をつく千冬さん、後ろ手でガッツポーズを決める簪さん。おいてけぼりの僕と山田先生。終始不機嫌そうな篠ノ之さん。

 

 ………なぜだろうか? 僕の了承も無く、模擬戦参加が決まってしまった。先生が前にダメって言ったはずなんだけどなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

「えーっと……」

「本当に……ごめん、なさい……」

「わわ、泣かないでよ!」

「でも……」

「いいから」

 

 管制室を出てからロッカールームに入ると、簪さんは崩れ落ちるようにしがみついてきて泣きながら謝り続けた。端から見れば運動音痴の人に公式戦に出てこいと言ってるようなものだし、僕もそんな気分だから、謝ることは分かるけど……分かっていながらどうして?

 

「考えあってのことだよね?」

「……今は、言えない。まだ」

「いつか話してくれる?」

 

 無言で頷いてくれるのを見て、ほっと安心した。僕のためを思ってのことだと信じよう。

 

「それで、何をすればいいの? 勝てる見込みなんてないんだけど……」

「食らい付いて。無理をしない程度でいいから。ただ、織斑一夏には負けないで」

「ええー? 織斑君に勝てるかすら分からないよ?」

「ダメ」

「……なんか、意固地になってない?」

「ちっ、違う! ……彼にだけは、負けてほしくないの」

「む、難しいこと言うなぁ」

 

 搭乗時間なら僕の方が圧倒的に長いけれど、僕の場合は本当に乗っていただけでブースターに火を入れたことはない。武器を握ったこともなければ、殴ったり蹴ったりもしたことない。もっと言えば生身で人を叩いたことだってないんだ。

 

 彼は結構鍛えているみたいだし、昔は剣道をやっていたって聞いたから荒事も少しは経験がありそうだ。何より一度戦闘を経験した。そして、さっきちらっと見たけど一次移行を済ませている。

 

 量産型を更に抑えた訓練機でどこまで戦えるのやら。銃の握り方から教えてほしいんだけど……。

 

「ど、どうやって戦えばいいのかな? そこからなんだけど」

「機体のアシストレベルを最大に引き上げる。細かな狙いは機体に任せて、銀は撃つだけでいい」

「うーん、まぁなんとかなるか」

 

 着替えを済ませて今度は訓練機が収納されている格納庫へ。ここはいつも一組と二組が実習で使っているアリーナだから………あ、いたいた。

 

「やあ。急だけど今日はよろしく。専用機と戦うことになったけど、一緒に頑張ってくれるかい?」

 

 探していたのは、いつも実習で僕が乗っているラファール・リヴァイヴ。この子は僕の身体をとても気遣ってくれる優しい子で、僕の操縦を繊細で心地がいいと褒めてくれた。

 訓練機に性能の違いなんて全くない。それこそ打鉄かラファールかの二択だ。どうせ好き勝手に機体を選ぶことが出来るのなら、僕は迷わずにこのコアを搭載した機体を選ぶ。

 

 ISコアには個々に意識がある。声がはっきり聞こえるわけでもなければ、それらしきものを感じ取っているわけでもない。ただ直感や雰囲気を読みとって返事をくれていると思っているだけ。ただ、間違えているとは思わない。卵のおかげなのか、僕には確信があった。

 

「………ありがとう」

「決めた?」

「うん。このラファールだよ」

「乗って。調整する」

 

 指示通りに従う。装甲にそっと手を触れると、コードを発信したわけでもないのに機体が装甲を開いて人間を受け入れる形をとった。僕を歓迎してくれているんだ。よじ登って腕と脚を通すとまた機体が装甲を閉じて、システムが起動する。全天周の視界に切り替わり、網膜に機体の情報が表示された。

 

 各種エネルギーは全て満タン、どこにも問題は起きていない。ただし武装が何も無いのでこれから選ぶ必要がある。

 

「そう言えば、調整って何するの? 万全の状態だけど」

「設定を弄る」

「えっ? 訓練機は先生が監督している間だけしか変更しちゃいけないんじゃ……」

「許可は貰って来た。これくらいのハンデも無しに勝てるわけないから」

「そっか。どう変えるの?」

「ラファールの素早さを活かしたいところだけど、そんな機動はできないだろうから防御を厚くする。武器は何を使うか考えている?」

「一番嬉しいのは無反動砲かな。光学系も反動は無さそうだけど、使えるのかな?」

「あるにはあるけど、初見で扱うのはまず無理……光学系は、多分無い」

「なら、威力重視の単射式にしよう。連射は反動を抑えられそうにないから……」

「うん。探してみる」

 

 撃つだけでいいような設定にしても、連射式だといずれ照準がズレにズレる。自力で戻すような技量も無いし、ISのパワーアシストを受けても僕の筋力が足りない。どうせ反動を抑えきれないなら当てやすくてダメージを多く与えられるバトルライフルやバズーカ、グレネードの方が効果的だ。

 

 簪さんを待っていると、いきなり幾つかの情報がダウンロードされ表示される。武装リストだ。まだ領域内に格納していないので、多分簪さんが送ってくれた要望に合う装備一覧だろう。

 

「それの中から詰められるだけ詰め込んで。でも、近接用の武器と連射武器は一つだけでもいいから必ず持っていって」

「僕、使い方とかさっぱりだけど」

「さっぱりでも。織斑一夏はがっちがちの近接型だから」

「じゃあ―――――で」

「ん」

 

 指定した幾つかの武装が直ぐにピックアップされ、拡張領域の容量計算や、装備時の問題点などが検査され………クリア。格納庫端にある武装庫がガコンと稼働し始め、僕が装備する武器が次々と吐き出されて来た。一つ一つ手にとって、感触を確かめたり構えてみたりして格納する。

 

「銀」

「うん?」

「こんなことをさせる私が言うのも変だけど……無茶したり、怪我しないで……ね?」

「頑張るよ」

 

 お互いに二コリと笑って、視線を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 

 簪さんは格納庫で別れて管制室に戻ると言って来た道を帰って行った。僕は格納庫のさらに先に進んで、アリーナの出入り口……ピットに入る。すると、織斑君が山田先生から説明を受けながら補給を行っていた。

 

「あれ? なんで名無水がここにいるんだ?」

「あはは………色々とあってね、僕も混ざる事になったんだ」

「身体、大丈夫なのか?」

「やってみないことには分からないかな。自分の限界を知る意味でも、いいチャレンジだと思うよ」

「あんまり無理すんなよ」

「そうする」

 

 隣に並んでコンテナに腰掛ける。隣の織斑君……白式は観客席で見ていた時とはまるで別の機体に変わっていた。グレーだった装甲色は名前の通り白を基調とし、継ぎはぎの備品で作ったような装甲は新品に貼り替えられたように洗練され、特に目立ったのが巨大化した大型スラスター。……うん、専用機だなぁ。

 

「先生、順番はどうするんですか?」

「オルコットさんはビットの修復に時間がかかりそうなので、まずは名無水君と織斑君の組み合わせでしましょう。どちらもまだまだ不慣れなところが多いでしょうから、丁度いいと思いますよ」

「よろしく」

「こっちこそな」

 

 ISの拳をガツンとぶつけあい、口角を上げてにやりと笑う。僕がこんなことする日が来るなんてね……人生何があるかわかんないな。

 

「先にいいかな? ちょっと慣らしておきたいんだけど」

「良いぜ。俺は身体暖まってるしな」

「先生ー」

「どうぞー。もうちょっとで終わりますから、長くは取れませんけど」

「はーい」

 

 ありがとうございます、としっかりお礼を言ってからピット奥にあるカタパルトへ脚を乗せる。ガコン、という音が響いて足首から下を固定、視界にカウントダウンが表示され、アリーナ側のハッチが開いた。一瞬の眩しさに目を細めるが、次の瞬間にはISのアシストもあって眩しさは失せ、その先が良く見える。

 

 窓の向こうに見えるのは大勢の生徒で埋め尽くされた観客席。たった一部だけでもアレだけいるんだから……アリーナ全部見渡したらどれくらいいるんだろう?

 

 ……怖いな。

 

 ……でも、やらないとね。成り行きとはいえ、僕がやるって決めたんだから。

 

「ラファール、行こう。僕を連れて行って」

 

 返って来たのは文字でも言葉でもなく、カタパルトのカウントダウンだった。

 

 5、4、3、2、1――――

 

「ぐっ……!」

 

 火が入ったカタパルトは一瞬で最高速に達してあっと言う間に僕をアリーナへと放り出した。Gは結構きつかったけど、その割にそこまでスピードは出なかったので落ち着いて制動をかけて程よい速度に落ち着かせる。

 

 凄い、これが、IS本来の速度。束さんのラボみたいにとても速い。全身を装甲に包まれて飛ぶのは、こんなにも気持ちいいんだ……。周りの視線も大して気にならない、僕だけの時間と空間に居るみたい。

 

「ははっ…」

「楽しそうだな~」

 

 直ぐ後ろから織斑君の声が聞こえた。どうやらもうエネルギーの補充が終わったらしい。本当にすこしだったな、勿体ない。

 

「うん。風を感じるくらい速く飛んだのは初めてだったからさ」

「そういえばそっか。バトルもだよな? でも、手加減しないぜ」

「お互い初心者だもんね」

「そりゃそうだ」

 

 二人してカラカラと笑う。

 

 織斑先生のアナウンスが入り、僕が模擬戦を行うことが発表されて、大型スクリーンにラファールと白式のシールドエネルギーが表示される。守りを固めたラファールのシールドエネルギーは標準よりも高め。専用機ではあるけれど、攻撃に特化した白式との差は広く、数値だけ見れば僕の方が有利だ。

 

 右手にバトルライフル、脚部と背部ブースターにミサイルを展開。簪さんの言うとおり近接武器を乗せはしたけど、あれを使うのは最悪の事態であって今じゃない。予定通り銃火器で攻める。

 対する織斑君は先程と同じようにブレード一本。新しくなった機体には他に装備があるようには見えないし、本当にあれしか武器がないのかも。その分何かしらの仕込みがされていそうだ。

 

 試合開始のブザーが鳴る。

 

「行くぜ!」

 

 真っ正面から織斑君が突っ込んでくる。右手のブレードは刀身が二つに割れて鍔になり、開いた部分から青のエネルギーがほとばしっていた。物理じゃなくてエネルギー武器だったの!?

 

 焦らず冷静に、猪のように突撃してくる白式の左足を狙う。ついさっき教わったとおりに構えて、システムのロックオンに従ってトリガーを引いた。

 

「うおっ!?」

「今のを……避けるんだ」

 

 あの反射神経や危険察知の能力は並みじゃない。五百メートルもないのに、構えて撃ったとはいえギリギリで避けるなんてそうそうできることじゃない。

 

 流石だよ。本当に初心者なのかい?

 

 感心している場合じゃない。避けないと……。

 

「甘ぇ!」

 

 ここで加速!? まだ速くなるのか……!

 

 回避は間に合わないと判断して受け止める方向に切り替える。空いている左手に機体の半分を隠すシールドを展開。吹き飛ばされる覚悟で構えて、ライフルで迎撃。

 

 ただの一発でコツを掴んだのか、偶然か。しっかりと狙って撃った全ての弾丸をするすると避けて、あっという間に懐まで入り込まれた。

 

「らあっ!」

「わあああっ!」

 

 バチバチとブレードとシールドの接点が火花を散らして、ブースターを使った踏ん張りもそう持たすに押しきられ、腕の振り抜きで吹き飛ばされた。

 

 こうなることは読んでいたので驚きはない。PICを使って速度を殺し、悠々とアリーナの壁に着地して直ぐにブースターを使ってとんぼ返り。織斑君へ急接近する。

 

 腕を振り抜いたままの体勢だった彼のお腹に、シールドの尖った端の部分で思い切り突き飛ばす。生身なら貫通する勢いをもろに受けた織斑君が、今度はアリーナの壁へ叩きつけられた。

 

「チャンスだ……!」

 

 畳み掛けて一でも多くのエネルギーを削ってやる。

 

 シールドを格納して左手にグレネードランチャーを展開し、右手のバトルライフルと各部のミサイルと合わせて一斉に白式をロックオンして放つ。

 

「遠慮が……ねぇなっ!」

「手加減しないって言ったのはそっちじゃなかったっけ」

「言葉のアヤだよ!」

 

 迷わずに先頭のミサイルを切り裂いてその場を離脱。ホーミング性能がついていない全弾があっという間に誘爆して消失、グレネードも巻き込まれたし、ライフルの弾も爆風で逸れてしまった。二射目以降はあっさりと避けられてしまったので殆どダメージはゼロ。

 

 手強いったらないなぁ……。

 

 でも、シールドにぶつけて吹き飛ばされた僕と、機体に直接ダメージを負った織斑君との差は変わらない。むしろ開いている。格好の悪いイタチゴッコだけど、これを維持することが出来れば僕の勝ちだ。

 ただし、今の時点で有利な立場にあるだけであって、あの武器の威力と機体のパワーを考えれば簡単にひっくり返されてしまう。気を抜くわけにはいかない。アホな姿をさらしても良いから、少しでも多くのダメージを与えて削りきってしまおう。

 

 ガキッ!

 

「た、弾切れ……?」

「隙あり!」

「うわっ!?」

 

 嫌な音がしたかと思えば、右手のバトルライフルの残弾がゼロになっているのに今気づいた。心なしか最初よりも軽いし、左端の残弾ゲージも真っ赤になっている上に表示が《EMPTY》に変わっている。

 

 動揺しているところを見逃してくれるはずも無く、一気に加速した白式はもう一度剣の間合いに僕を取りこむ。

 

 反射的に後ろへ下がり、鉄の塊になったバトルライフルを織斑君へ投げつけてシールドを左手に再展開。先程と同じように構えた。

 

 左手でバトルライフルを弾いてブレードを両手で持つ。

 

「もうその手は食わねえ!」

 

 その言葉通り、少しばかりの工夫を加えてきた。

 ブレードを振り抜く前に右足で引きはがすようにシールドの内側につま先を引っかけ、蹴り上げると同時にシールドを飛ばされてしまった。しっかりと左手で握っていたつもりだったけど、握力の弱さとパワー負けで持っていかれるなんて……。でも、そんな方法もあるんだね、驚いた。

 

「この……!」

「やらせるかよ!」

 

 空いた両手に武装を展開しようとするも、振りあげられたブレードが振り下ろされて斬られる方が若干早そうだ。展開するのは後にして、今は斬撃を防ぐことを優先しよう。

 

 左脚を身体を傾けながら目いっぱい蹴りあげて、両手でブレードを握っている内の柄側にある左手を蹴り、右脚のスラスターと背中のブースターを全開にして何とか踏ん張る。その姿勢のまま左脚に装備していたミサイルを再度発射。ロックオンせずに撃ちだした。撃てばどこにでも当たるように角度を変えては見たけれど、これも気付かれたらしく首や腰をひねったりと何故か全弾回避。

 直感とラファールの意識が速く離れろと囁き、急いで距離をとろうとするが、左脚を掴まれて地面へ叩きつけられてしまった。

 

「決める……!」

 

 より一層柄を強く握りしめたのが、土煙が立ちこめて視界が煙る中でもよく分かる。

 

 だからこそ、その変化は肌にひしひしと感じた。

 

 白式は……光っている。そしてブレードの刀身がより強い輝きを放ち、長く、太く、密度を増している。

 

 あれは拙い。直感じゃない、これは確信だ。僕はアレの正体を知っている。

 

「零落白夜……! ということはあのブレードは雪片ってことだね。まさか、弟の君も使えるだなんて……」

 

 単一仕様能力という特別な能力が発現することが、ISには稀にある。これはどんな武器でも再現できず、この世に二つとして存在しない文字通り単一の能力(ワンオフ・アビリティー)

 彼が発現している『零落白夜』という単一仕様能力はあの千冬さんが現役時代に使用していた機体『暮桜』が発現したもの。自身の体力とも言えるシールドエネルギーを消費して、シールドエネルギーを含んだ全てのエネルギーと呼ばれるものを消滅させる最強の技。千冬さんがモンドグロッソで優勝できたのは、本人の技量とこの能力が噛み合わさった結果と言っても過言ではない。

 

 その最強の技が今目の前の相手が発動しており、自分を斬りつけようと迫ってきている。

 

 大抵の危機以上の危機だ。

 

 とっさに身体を起こして右手にブレードを展開し、左手で峰を抑えて重たい一撃を受け止める。

 

「その単一仕様能力は……さっき発現したのかい?」

「何だそれ?」

 

 わ、分かってなかった……! 自分が何を使っているのか知らずに発動させているってこと!?

 

 ……いや、これはチャンスだ。逃げきれば勝手にシールドエネルギーを減らしてくれる。細かなオンオフを身につけていないエネルギーだだ漏れの今なら上手くいく。もう一度距離を離せば……!

 

 パワー負けしている事なんて分かりきっていること。現に両手で支えているのにブレードの刀身が少しずつ迫ってきている。でも、ここで無理をしてでも引きはがさないと一撃喰らって負けだ。どうせなら……。

 

「この!」

「ぐあっ!」

 

 今度は右脚のミサイルを全弾発射。さっきの様に避けることはできずに直撃する。ゼロ距離で爆発したので僕も無傷では済まないけど、ダメージと引き換えに白式は離れてくれた。

 

 直ぐに身体を起こして飛ぶ――

 

「げっ……もしかして、今の爆発?」

 

 ――ところだったけれど、ぼふんと爆発の音が聞こえたと思ったら右脚のスラスターから黒い煙が出てウンともスンとも言わなくなってしまった。さっきのミサイルゼロ距離射撃が原因で故障してしまったみたいだ。肝心な時に……いや、仕方が無いのかな。

 

 なら……。

 

 推力のバランスが取れないので両足のスラスターをカット。背中のブースターとPICの両方を使ってホバリング、まずはミサイルの爆発でできた煙から飛び出て様子を窺う。両足のミサイル装備を格納して、左手にアサルトライフルを、右手にバズーカを展開。あの煙の中のどこから出てきてもいいように、中心に狙いを定めて背中を壁に預けて待つ。

 

 ………来た!

 

「いや、違う……!」

 

 飛び出て来た影に向かってバズーカのトリガーを引く。撃ったあとに気付いたけれど、それは白式ではなく僕が投げつけたバトルライフルだった。着弾して盛大に爆発。またしても煙が巻きあがる。

 

「貰った!」

「今度は本物だね……!」

 

 左手の端から地面を這うように現れた白い影に、アサルトライフルを狙わずに撃つ。反動に耐えきれず照準が大きくブレるが関係ない。とにかく撃ち続けた。が、ダメージが全くない。というか当たってない……!?

 

「シールド!」

「盾に許可なんて要らないだろ?」

 

 本来、他の機体の武装を他者が使うことはできない。使うためには、所持者の許可が必要になり、それで初めて使う事が出来る。銃の場合は撃つことが出来ず、近接武器であれば本来の性能を発揮することが出来ない。シールドも同様に防御力の低下が発生するわけだけど……今回は弾の威力が弱いことに加えてそもそも当たっていないので十分な効果を得られているらしい。

 

 ならバズーカで!

 

 引きながらバズーカを撃つ。それに合わせて織斑君はシールドを投げつけてきた。丁度中間地点で接触して爆発。比較的小規模だけれど、またしても白式を見失ってしまった。

 

「どこに……」

 

 反応は……後ろ!?

 

「この……!」

「遅ぇ!」

 

 煙にまぎれていつの間にか真後ろに回り込まれていた。振り向きながらアサルトライフルを盾にバズーカを接射しようと銃口を向ける。

 

 が、間に合わなかった。一太刀でライフルを切り裂かれ、二太刀で胸を切り裂くように右脇から左肩への斬り上げ、三太刀で左脇から右肩への斬り上げ、最後に身体を二つに斬り裂くように横一文字に横を抜けて行った。

 

 零落白夜の四連撃。どれだけ耐久力に自慢のある機体だって耐えきれはしない、必殺はあっという間にシールドエネルギーを空にした。

 

 ブザーが鳴る。

 

 僕の………負けだ。

 

 

 

 

 


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