僕の心が染まる時   作:トマトしるこ

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トマトしるこです。

先日の誤投稿は大変ご迷惑おかけしました。今回は大丈夫です、大丈夫なはず、です。


小話やネタ、それから本編に絡む話、それらをひっくるめて
「閑話休題」と題した章にて公開していこうかと思います。

今回はギャグです。
元ネタは四コマ漫画の「あいえすっ!」ですね。


閑話休題
ドミネーター・G


学園は世界的に見ても豪奢な建物だ。授業は勿論、生活にも不便が無い様にあらゆる部分で最新鋭の技術がふんだんに盛り込まれてる。それいる? って感じのまである。使ってて不思議に思うようなものは、きっと管理が楽になるんだろう、とあたりをつけた。別にどうでもいい。

 

当然、身の回りの清潔感にも気を使う。夏場の虫対策もかなりの物で、これから本格的に増えると予想されるからか島全体に忌避剤が撒いてあるんじゃなかろうかってぐらい見かけない。基本的に女性ばかりだし、虫が得意って人の方が珍しいから、これくらいは当然のこと、なんだってさ。大賛成だよ、男だって虫は嫌いなんだ。

 

しかし、必ず虫達を撃退できるわけではない。忌避剤が効かない虫もいればキリがないほど生息する虫、中には克服する奴まで現れる。そういうわけで確実に見なくなる事は無かった。まぁそんな事言っても蚊みたいな何処でもいる奴のことだから、見かけたからと言って騒ぎになる事はない、はず。

 

とある一種を除いて。

 

これは、ある日の事。何の変哲もない、授業を受けた後のちょっとした大事件だ。

 

 

 

 

 

 

義手と義足が馴染んできたと感じる今日この頃。祝日だったので、僕は簪と一緒に整備室にこもっていた。完成したと言え、打鉄弐式はまだ発展途上の機体、やる事はまだまだあった。

 

人口皮膜が油で汚れないようにグローブをつけて工具を突っ込む。書き換えた設定に馴染むよう最適解を求めるべく、配線を弄ってはテストを繰り返す。当然エラーが殆どだけどそんなものだ。

 

「どう?」

「もうちょい」

「ん……はい」

「オッケー」

 

珍しく良い感触を得られたのか、簪は嬉しそうだ。

 

「今日はもう良い時間だし、キリも良いから帰ろうか」

「そうだね。食堂、いこっか」

「うん。お腹すいたぁ」

 

工具を片付けてグローブを外し、専用のバッグに詰め込む。流石に油で汚れてきたかな…そろそろ中身をひっくり返して洗った方が良さそう。うぅん…とれるのかなこれ。一先ず人口皮膜が汚れて無くて良かった良かった。

 

整備室を後にして、食堂でいつも通りご飯を頂く。今日はうどんにした。かき揚げにすると簪が少しうるさいのでとろろを注文。うん、うまい。

 

とまぁそんな感じで、ここ最近のいつも通りの流れで僕らは部屋に戻った。

 

そこで、いたんだ、奴が。

 

………さ。

 

「え、何か言った簪?」

「何も言ってない、けど……」

 

かさ……。

 

「「ッ!?!?」」

 

かさかさ、という聞き覚えのある音。人間ならば、人種を問わず誰もが嫌悪する音。それは人の心の奥深くに沈んだ原始の記憶を呼び覚ます、最低最悪、最狂最凶最恐の、地獄の始まりを告げる、音。

 

かさ。かさかさ。

 

かさかさかさかさかさかさかさかさかさ。

 

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!!」

「いやーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

鈍い光沢を放つ黒い甲殻、ひょんひょんとはねるISと同等の性能を誇る触覚、まだその存在を知らずに奥に眠る羽。名前を口にするのもおぞましい、悪の中の悪。

 

僕らは忘れていた。この学園があまりにも綺麗すぎて、コイツの様な害悪しか生まない存在が、世界中どこにだっている事を。

 

その日、僕らは思いだした。奴らは、常に存在し続けていると言う事を。種を絶やす事は出来やしないのだと。

 

其の名は、■■■■。またの名をG。

 

僕が地球上で最も嫌う不潔。それを体現した存在だ。

 

(あ、ありえない!)

 

悲鳴を上げてピタリと凍りついてしまった簪を庇う様に、震える身体に鞭を打って思考を加速させる。

 

僕は不潔が大嫌いだ。何せこんな身体、他愛のない病原菌一つに殺されるかもしれない日々を送って来たんだ。看護師さんや姉さんを始めとした僕の病室に来る人全員が、埃一つ許さない徹底した清掃と清潔感を持ってくれていた。お陰でこうやって生きていられる。当然、Gなんて不潔の塊は見たことも無かった。

 

立った一度を除いて。

 

それは僕が物心ついた頃、その時既に病院から一歩も出られなかった僕は不満が溜まって病室を抜けだしたことがあった。今思えば自殺行為でしかないのだけど、そんなことを当時の僕に言っても絶対に聞かなかったと思う。それぐらい辛かったんだ。そこで病院からも抜け出して、姉さんが話していたコンビニとかスーパーに行ってみたんだ。

 

そりゃあ感動だった。人間がいっぱいいて、声や放送が騒がしくて、見るもの全部が新鮮だった。でも病院服のままだったから店の人に捕まえられ、事務所の様な場所で話をされて連れ戻されることに。

 

そこにいたんだ、その、黒いのが。

 

始めてみても分かる、それは見ちゃいけないもので、触れるだなんてとんでもない生き物だってことを直感した。しかもあろうことに、そのGは……僕に近づいた上に膝からよじ登ってズボンの中に侵入してきた。

 

そこからの記憶は無くて、目を覚ましたのはなんとそれから一週間後。謎の病原菌のせいで生死の境目をさまよい続けていた、らしい。後からアレが何だったのかを怒り心頭と言った姉さんから聞いたんだけど、もう話の最初から吐きそうだった。

 

それ以来、僕は病院から抜け出す事は無くなった。あんなものがウヨウヨ居る場所に誰が好き好んで行くものか、と。同時にGは僕にとっての天敵に格付けされている。だから部屋の清掃には手を抜いたことは無いし、なんなら簪を少し叱ったこともあるくらいには綺麗好きなんだ。部屋の外だってぬかりない。それだけに今回の出現は全くの予想外で、連中はそれすらも突破して攻めてくるのかと恐怖した。

 

正直逃げだしたいけど……今は立ち向かうしか、ない!

 

「簪、下がってて」

「…はっ! だ、駄目! 助けを呼ばなきゃ!」

「大丈夫だよ……僕が君を護って見せる」

「銀……」

 

意識を取り戻した簪を部屋の入り口側まで下がらせる。いざとなれば廊下に逃げて貰おう。その時はきっと僕は死んでるだろうから助けも読んでもらえると非常に助かるな。

 

よし。

 

IS起動。依然としてボロいまんまの機体だけど性能が現行機の全てを圧倒していることは分かっているんだ。たとえこの戦いでまた僕が傷ついたとしても、それでもやるしかないんだよ!

 

調度品と家具を傷つけないように、慎重に一歩ずつ奥へと踏み入る。センサーを全てフル稼働させ、ビットも展開してくまなく探した。

 

「…いた!」

 

ベッドの下。足を上ってへばりついている。

 

位置を確認した瞬間にビットを飛ばす。銃口の先にエネルギーを滞留させて刃先を形作り、射線を絞る。IS戦闘のように撃つのでは色々と傷つけてしまう。それらを防ぐためにはコレが最善だ。ランサーモードのビットでもって、一瞬の内に焼き殺す。

 

「いけ!」

 

ISを展開しても尚、四つん這いになってカーペットに頬をベタ付けし、両目を見開いて気合いと共にビットを飛ばす。

 

ビットは…‥Gを一瞬の内に炭へと変え、跡形もなくこの世から消し去った。

 

「はあ、はあっ……」

 

神経を研ぎ澄ませたあまり疲労がどっと押し寄せた。そのまま床に倒れ込んだ僕は最後の力を振り絞って仰向けになる。

 

「銀!」

 

そんな僕を簪がそっと抱きかかえてくれた。息も絶え絶えといった様子の僕を優しく抱きしめてくれている。

 

「ありがとう、銀」

「お礼なんて、そんな。君のためだから」

「銀っ」

 

簪の優しさが胸にしみる。少しだけ息が整って回復した体力は、簪を抱きしめるべく腕を回した。

 

そこで見えた。見えちゃったんだ。

 

かさ。

 

「まだ、いるっ!!」

「ひっ!」

 

台所の影、冷蔵庫と壁の隙間から現れたのは二匹目のG。しかもご丁寧に一度こっちを見てから廊下へ逃げるという余裕っぷり。触覚ふりふりとか完全に舐めきってる。

 

なんで……なんで二匹もいるんだよーー!? そりゃ一匹いたら三十いるとは思えって言うけどさぁ!

 

「簪!」

「うん!」

 

立ち上がった簪に引っ張ってもらい、手を借りながら廊下へ出る。幸いにも僕らの部屋は角部屋で、奴が逃げる方向は限られている。その予想通り、Gはかさかさと高速で蛇行しながら堂々と廊下のど真ん中を失踪していた。

 

「次も殺してやる!」

「銀! 奴ら後退はできない!」

「オッケー!」

 

ビットを部分展開。コツは掴んだ、一基だけで十分だ。

 

「いけぇええぇ!!」

 

滑走するビット。銃口には充填完了したエネルギーの塊。蛇行先を二手も読んだ、絶対に避けられる……はず、が…。

 

……おかしい。僕は疲れているのか? いや、疲れてるっちゃあ疲れてるんだけど、幻覚を見るほどだったっけなぁ。

 

「ねぇ」

「…今……」

「した、よね?」

 

さっきまでの決死の覚悟も気合いも全て削がれた。ありえない、ありえないよ。

 

なんで……。

 

 

 

 

 

 

なんでGがカエルみたいに跳びはねてるのさっ!?

 

ふざけんなおかしいだろ! 幾ら離島だからって進化し過ぎじゃない!? 節足の癖にどうやってあの身体を飛ばしてるんだよ!?

 

ぺたっ。ビットをジャンプで避けたGは器用に前身しながら回頭し、またしても僕らを一瞥した後逃げ始めた。

 

え、なに? 舐められてる? あんな黒くてすばしっこいだけの雑菌に?

 

「ぶちっっっっ殺す!!」

 

同じく鬼の形相をした簪が脚部だけの部分展開をした。スラスターに足を乗せて簪の肩に手を置く。僕が乗ったことを確認した簪は走りだす。振動を僕に伝えず、それでいて常人では出せない走行速度を叩きだすという無駄な玄人っぷりを発揮して。

 

人間が特別偉いとかそういうことを考えたことは無いけど、奴は例外だ。例外は例外なくブチ殺してやるのが礼儀。そういうわけで今度は八に迫るビットを全て展開し、一斉に差し向ける。撃ちはしない。が逃がしもしない! 今度は本気だ! さっきが二手先を読むなら今度は十でも百でも読んだ詰み将棋! 跳ねようが無駄だ!

 

コンビネーションを持って追いたて、逃げ道を塞ぎ、包囲し、叩く!

 

「……」

「………」

 

……もう驚かない。そう決めたはず。決めたはずだったのに。なんで……。

 

 

 

 

 

ビットを使って八艘跳びなんてするG、いる? いや、目の前に居るんだけど。

 

「もうやだ逃げたい」

「だめ銀! 自分を強く持って! やらなきゃ私達がやられるのよ!」

「……うん、そうだね、ゴメン」

「ううん。今度こそ終わらせよう」

「わかった」

 

いよいよ余裕が無くなって来たのか、もうこっちを見て煽ってくる様子は無い。蛇行と急ブレーキ、ジャンプを織り交ぜて必死になってビットを避け続けるG。

 

もう何部屋通り過ぎたか分からない。それほど走った先には見知った顔がこっちへ歩いてきていた。ISを部分展開している僕らを見てぎょっとした表情に変わっていくデュノアさんとボーデヴィッヒさんだ。

 

「貴様ら何をしている!?」

「ちょ、もう夜だよ先生が!」

「それどころじゃない!」

「前を見て! 下!」

「前? 下?」

 

二人はそろって引き気味になりながらも異変に気づく。

 

嫌悪の象徴が、最新鋭ビット八基を相手にしてもするすると避け続け、なぜかありえるはずのないジャンプを使ってビットに飛び乗っては乗り継ぎ、床と壁と天井を縦横無尽に駆け抜ける。いつの間にか出来ないはずの後退まで習得したと思ったら今度はカニ歩きだ。

 

もう常識にあてはめられないソイツを見た二人は……。

 

「うろたえない。ドイツ軍人はうろたえない」

「大きな星が、ついたり消えたりしてる……彗星かな?」

 

精神に異常をきたしてしまった。

 

Gはそんな二人の間を颯爽と通り抜けていく。

 

「我がドイツの科学力はァァァァ! 世界一イィィィィィ!!」

「いや、違うよね。彗星は、もっと、ぱぁーって光るもんね」

 

何やらいきなり叫び始めたボーデヴィッヒさんと、うつろな目をして危ない事を言い始めたデュノアさん。現実を受け止めきれない人間がどうなるのかを身体を張って教えてくれた二人だった。きっと最初から追っていなければ僕らがああなっていたかもしれない。

 

「ラウラ、シャルロット……仇はとるよ」

 

ぐっと唇を噛む簪。僕もまた心に誓った。あれは生きてちゃいけない奴だ。

 

いつの間にか正面玄関を通り過ぎて、とうとう寮の反対側まで来てしまった。壁を前に立ち尽くしたGはその場で立ち尽くしている。

 

そして何故か僕らの背後にはギャラリーが集まって壁を作っていた。意識していなかったけど、普通に考えてGが一匹でも出れば騒ぎになるもんだ。ましてや女子校ならこうもなる。皆アレの超常っぷりには目をつむっているようだけど…。

 

「簪」

「できた!」

 

走りながら簪は何もしなかったわけじゃない。ずっと超強力な殺虫兵器を作りだそうと必死に頭脳をフル回転させていたんだ。そうして出来あがったそれをミサイルの弾頭に込めている。

 

その名も液状バル○ン。相手は死ぬ。人体には無害の人類最終兵器。これと僕のビットで逃げ道を潰せばいい。逃がしはしない、もう終わりだ。

 

「貴様ら、何を騒いでいる。廊下で遊ぶな」

「お、織斑先生!」

 

背後から聞こえてきた先生の声。振り向けばジャージに竹刀を持った明らかに指導するぞって感じの千冬さん。今の僕らはただでさえ廊下を走り回った挙句に禁止されている武装までしている始末。明らかな処罰対象だ。でも待ってほしい。せめて……奴を殺すまでは!

 

「先生! 奴が!」

「奴?」

「簪! 動いた!」

「いっけぇえええ!」

 

八門のポッドから放たれ、更に四十八の小型ミサイルに分裂する山嵐。その全てに例の最終兵器が搭載されている。簪のタイミング一つで爆散して壁床天井全てに薬液が吹きかけられるのだ。さらに跳ねるように仕向けた壁を這う僕のビット。かさかさと這うGにもう逃げ場は残されていない。

 

今度こそ、終わりだ。

 

 

 

 

 

ひゅん!

 

左耳を何かが高速で通り過ぎる音。尋常じゃない速度だ。予想はつく。というかそれしかない。

 

奴め…とうとう飛ぶことを知ってしまった。

 

「簪、後ろだ! アイツ飛んだ!」

「うん。分かっ…て、る‥‥」

 

流石にもう驚かなかった。冷静に判断して簪に反転を促す。先細りしていく簪の言葉に、僕は見なくても何がどうなってるのか大体の予想がついた。

 

「いやーー! 織斑先生がーーー!」

「先生の、先生の御顔に奴がーーー!」

 

すいません予想の斜め上をマッハでブチ抜いてました。

 

立ち尽くす千冬さんの額にはぴたりと張りつくG。触角をふよふよと動かしたかと思うと、ぷぅーんと飛び上がり、生徒の壁を越えて着地。再度加速してその場を去っていった。

 

……沈黙。あの、あの織斑千冬が。Gが…。

 

「諸君」

 

故に先生の言葉はよく響いた。

 

「IS並びに全ての武装の使用を許可する。いいか、奴を殺せ。今すぐ殺せ瞬時に殺せ立つ暇があるなら殺せ喋る暇があるなら殺せ寝る間を惜しんでも殺せ何をしている貴様ら私の声が聞こえなかったのかさっさと反転して追いかけてブチ殺せこの地球上から奴の細胞をDNAを一変たりとも残さずに焼却して完全消滅させろとにかく何でもいいから今直ぐブチ殺せええええええええええええええぇぇぇぇ!!!!!」

 

そしてものすごぉく恐ろしかった。我に帰った生徒達が一斉に最寄りの部屋にあった武器を手に取り駆けだす。殺虫スプレー、箒、モップ、モッピー、ペットボトル、包丁、皿と兎に角手に持って走った。じゃないと背後の関羽が僕らを殺す。拒否権が無かった。ぶっちゃけGよりそっちが怖い。

 

簪が打鉄弐式を全展開して生徒の波を飛び越える。ビットは足場にされるだけだと判断して格納し、代わりにワイヤーブレードと衝撃砲を展開する。先生がゴーサインをだしたのだ、建物への被害はもう考えない。ワイヤーで床を削って道を崩し、衝撃砲を叩き込む。が、飛ぶことを覚えた奴は空中に躍り出て止まる勢いを知らない。すんでの所で回避され、全く掠りもしない。

 

まだ棒立ちしていたデュノアさんとボーデヴィッヒさんも追い越す。今度は「肉体があるから、やれるのさ」とか言ってた。彼女は夜が明けたらしかるべき場所へ連れて行った方が良いかもしれない。

 

そしてその先。頼もしい援軍がいた。

 

「織斑君! そいつ頼んだ!」

「よ、よぉ、名無水。廊下走ると千冬姉に怒られるぞ」

 

そう、織斑君の家政婦スキルは本職もうなるレベルで高い。だったら家政婦の敵であるGへの対処も超一流のはず! たとえどれだけ進化しようとも、主婦の前では無力なはずだ!

 

「そんなの良いから早く!」

「な、なんだよ……って、ゴ■■■かよ。ちょっと待ってろ」

 

いやもうその落ちつきっぷりというか名前を平気で口にするところがもう頼もしすぎて惚れるレベルだよ。

 

そういって自室に引っ込んだ織斑君は片手にスプレー、もう片手には丸めた新聞紙が握られていた。その新聞どうやって手に入れたの? 売店には無かったと思うけど。

 

「窓ふきには欠かせないからな、持ってきた」

 

流石過ぎる!?

 

慣れた手つきでGの進行方向にスプレーをたっぷり撒いた織斑君は数歩下がって新聞紙を構えた。とてつもない勢いでかけるGはスプレーを散布した場所を通過し……いきなり苦しむようにふらふらと異常を訴え始めた。

 

「よっ」

 

すぱーん!

 

そこへ織斑君の新聞紙が炸裂。Gは……まだ生きている。

 

「しぶといなコイツ」

 

すぱーん!

 

色々とモザイクが必要な光景が視界の一部に広がっているが、Gは完全に沈黙した。

 

「ふぅ。学園じゃあちっとも見なかったけど、やっぱどこにでもいるもんだな」

 

慣れた手つきで後処理を始めた織斑君。おかんだ…。

 

僕らギャラリーは開いた口が塞がらず、塩素系の洗剤で消毒するところまできっちり見届けると、乾いた笑いを浮かべながら、ぞろぞろと解散した。昼間なら黄色い歓声が湧きあがるかっこいいシーンだったかもしれないけど、生憎と千冬さんの件があったり、そろそろ就寝時間もあるので、疲れ切った生徒達は退散を始めるのだった。

 

「げふぅ」

「銀、銀ーー!」

 

張っていた緊張の糸が切れた僕の身体は速攻で限界を迎えた。本日二度目の簪の抱擁に心が躍るが、ちっともスッキリしなかった。

 

あれだけ追いまわして最後は結局これかい。

 

戦いなんて、どれもこれも空しい。なんにも残りはしないんだ……。

 

疲れた。

 


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