僕の心が染まる時   作:トマトしるこ

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トマトしるこです。

僕の心が染まる時 最終話になります。

長いですが、是非とも最後までお付き合いください。


025 せーのっ

「おはよう」

「ああ」

「……一夏、気持ちは分かるが少しずつでも元気を出していこう。いい加減に切り替えろ、等とは私も言わないさ」

「そう、だよな」

 

朝。ムカツクぐらい気持ちいい快晴。洗濯物でも干せば、さくっと乾いてくれそうないい感じの天気だが、生憎と今日は授業日なので難しそうだ。

 

俺より先に起きていた箒はまだパジャマのまんまだが、しっかり目が覚めているようだ。しゃこしゃこと歯磨きをしている。箒が歯磨き終わったら先に着替えさせてもらおう。というわけで、先に授業の準備をすることにした。宿題と復習の為に広げていたノートを片付けてカバンに放り込む。

 

日光を浴びながら軽くストレッチ。ポキポキと良い音が肩や腰から鳴り響く。一通り身体がほぐれた頃には、箒も歯磨きを終えてノートをカバンに入れ始めていた。

 

「んじゃ、着替える」

「ああ」

 

着替える時は俺が洗面所に鍵をかけて着替えるのが俺達のルール。これは女子の箒が逃げられるようにという配慮だ。絶対襲わないけどな。提案してきたのは箒で、俺も別に洗面所で着替えるのが嫌ってわけじゃないから承諾して今に至る。

 

さくっと着替えてドアをノック。

 

「いいぞ」

 

返事を確認して戻れば、いつものポニーテール剣道女子だ。

 

「行くか」

「ああ」

 

先導して部屋を出て鍵を閉める。

 

今日は名無水の葬儀から丁度一週間経つ。授業は昨日から再開していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然クラスの雰囲気は暗い。比喩でも何でもなく通夜という表現がふさわしい。俺が気の効いたダジャレを決めようものなら向こう三年間は干される。

 

授業中も静かなもんだ。いや、私語も今まで無かったけど、その、盛り上がりって奴が無い。みんな真剣なんだけど、上の空で、でも身体はノート取ってるみたいな。

 

「あっ」

 

山田先生もどこか集中しきれてない様子で、ペンや教科書を落とす落とす。

 

「すっ、すみません……」

 

いつもならここらで相川さんが「やまやせんせーなにやってんすかー(笑)」なんて言いそうなもんだが、その我らがムードメーカーも、いや、だからこそか、顔が真っ青だった。

 

アイツは、普段から教室にいない奴だった。

 

身体が弱くて、歩けば血を吐くぐらい脆い奴で、マトモに一緒に授業を受けたのって最初の一ヶ月ぐらいだけだった気がする。医務室に缶詰めになるようになってからは出たり出なかったりが続いてて、でも勉強は誰よりも大好きで、テストの点数は学年トップを総舐めしてた。知らないことばかりで、勉強がしたくて仕方が無いって感じで、医務室に顔出しに行ったら勉強してるか更識さんとイチャコラしてるかのどっちかだっけ。

 

それでもクラスの中心に、アイツは居た。みんなアイツが大好きで、気に入ってて、初心だからおちょくって遊んだりして、勉強得意だから教えてもらったりとか、聞き上手だから話やら愚痴やら聞いてもらったりしてたみたいだ。

 

物知りだけど世間知らず、勉強も人付き合いも好きで、偶に毒を吐いたりジョーク言ったりして空気を合わせられる。典型的な、良い奴。ただ、ちょっと人より身体が弱いだけの、普通の友達。

 

「えっと、じゃあ……織斑君、ここわかりますか」

「はい? うぅん、Aですか?」

「そうですね。正解です」

 

そこ、アイツが教えてくれてたところなんだよな。先生だったらこう出題するかもねって言ってたけど、ホントにそのまんまだったよ。

 

「……ッ」

 

その話を丁度一緒に聞いていた宮白さんが涙ぐむ声が聞こえた。

 

しばらくは、誰も立ち直れそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業間の休憩時間。

 

「一夏」

「おう、ラウラか」

「さっきのノートを見せてくれ」

「ああ、いいぜ」

 

俺の席は教卓の一番前のまんまだ。良く見えるが、後ろからすればデカイ奴がいて邪魔な時があるらしい。ラウラは特に身長が低いし最高列で見えにくい事が多いから、こうやって偶にノートを見せてくれと頼まれることがある。

 

ラウラからすれば初歩の初歩だろうが、提出義務があるのできっちり取っている。

 

「お前は」

「ん?」

「お前は、立ち直れそうか?」

「わかんねぇよ。身内で亡くなった人なんていないんだ」

「そうか」

「ラウラはどうなんだ? 四組の更識さんとも仲が良いし、一緒に遊んだりしてたイメージあるけど」

「私だって悲しいし、苦しい。それに奴は私が見てきた中で誰よりも出来る奴だった。プライベートでもあそこまで気のおける男はいなかった。それだけに、悲しい。簪の塞ぎこみもあるしな」

「そっか。悪い」

「ん?」

「勝手に決め付けてた、ラウラはもう立ち直れたんだなって」

「いや、いい。事実半分くらいは切り替えが済んでる。それが軍属だからな。お前達よりも、死は身近にあって、この目で見てきた。いわば経験者だ」

「……ホントにごめん」

「気にするなと言っている。むしろ私が異常なんだ。お前達は正しい。私はただ、麻痺しているにすぎん」

 

さらさらとノートを写す手が止まる。

 

「人の生き死にに特効薬などない。時間が風化させるか、整理してくれるか、それすら許さない状況か。そして私の様に感覚が鈍るか。それぐらいだろう」

「時間かぁ…想像つかないな」

「大丈夫さ。また笑えるようになる」

「そうかな」

「そうさ。悲しむのは一時だけでいい。でなければ、アイツが報われん。あの教官があそこまで傷を負うのだ、余程無念の中で果てたのだろう。なら、奴の分まで気持ちも思いも背負って生きて見せろ。ISを全く知らなかったずぶの素人が、モンド・グロッソのトロフィーを墓前に持って行くぐらいしてやれば、少しは喜ぶだろうよ」

「……もし、立ち直れないままなら、どうすればいい?」

「仲間がいる。少なくとも、お前には私達が、教官には教官の同期やお前がいる。助け合って、支え合って立ち直ればいい。何時までに切り替えろなんて指示はないんだから、気長で良いんだ。心の強さも価値観も人それぞれだろう?」

「うんうん」

「周りを元気にしたいのなら、まずはお前が元気になることだな。しょぼくれてる奴が何を言っても効果はない」

 

やっぱラウラはすげえな。同い年とは思えない。

 

「どおおおしても、と言うのなら私の所に来い。私も部隊長だ、カウンセリングの心得もある」

「お前ホントすげえなおい」

「もっと言っていいぞ? 私があの手この手で、お前を元気にしてやろう」

 

だらしなく口を空けたラウラはとろみを効かせた瞳で俺を見つめてきた。粘つく様なよだれがたまらな……いやいや何を考えているんだ俺は。

 

「お前、なんか仕掛けたな?」

「まぁな。そこそこ効いたようで安心した。不安定な部分が見えるがまだ元気だよ、お前は」

「そうかよ。そりゃどうも」

「元気でたか?」

「お陰さまで朝よりは」

「それは良かった。何かあればいつでも相談すると良い。なにせ、お前は私の嫁なのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次は二組との合同実習だった。どうせならと思って皆に聞いてみることにした。どう思ってるのか、どうしようかな、とか。

 

「アンタ、思ってたより元気ね」

「さっき隊長殿に元気を分けてもらったからな」

「ふぅん。先越されちゃったか、残念」

「先?」

「こっちの話よ。んで、どうなの?」

「ああぁ。見ての通りでさ、なんか皆切り替えられなくて、でも何時までもこのままってわけにもいかないだろ? それはアイツに申し訳ないからさ。元通りってわけじゃないけど、湿っぽいのも長引くと良くないし」

「そうねぇ。ウチのクラスは特に親しい知り合いって言えばアタシくらいだから、そんなに落ち込んだりしてないけど……隣のクラスがこれだとちょっとね。だからってわけじゃないけど、話くらいは聞くわよ」

 

ロッカールームでさくっと着替えて、外のベンチで合流する。差し入れのドリンクを渡して、一息ついてから話を続けた。

 

「アイツってさ、すげぇ奴だったじゃんか」

「そうね。勉強も出来て、いつだかの試合も見たけど、あれは凄いの一言に尽きる。料理もできるって聞いたし、彼女もいるらしいじゃない? とんでもない完璧人間ね」

「だよなぁ」

「……アンタ鏡見たことある?」

「なんだよ、あるに決まってるだろ? 今朝も見たぞ」

「そういうとこよねぇ、ホント」

 

はぁ、と大きなため息をつく鈴。右ひざに左脚を乗せてさらに肘を乗せる。おーい、スカート上がってるぞー。

 

「まいいわ。それで?」

「でもさ、期待されてるのは多分俺だと思うんだ。自惚れかもしれないけど」

「自覚あったのね」

「流石にな。専用機ももらったし、千冬姉がいるし。逆にアイツの話は一切取り上げられないから、最初はムカついてたんだけど、そういうことなのかなって」

「まあそういうことよ。……はぁーん、アンタ、俺よりアイツの方が出来るのに、俺の方が期待されてるけどどうすりゃいいんだろー的なこと、考えているわね」

「うぅん、そんな気がする」

「そんな、じゃなくてそうなのよ。でもま、アンタの悩みも分からなくない。何時だって何をするときだって、アイツのこと意識してたんじゃない?」

「それはある。勉強とか人付き合いは特にそうだった。とにかく上手いんだよ。なんかコツがあるのかもって観察してた」

「そ。つまり、一夏にとって、アイツは"メンター"だったってことよ」

「メンター?」

「カンタンに行ったら、目標にしている人、人生における師匠の様な存在。そんな人のことよ」

「鈴、お前すげえこと知ってんな」

「たまには漫画以外も読みなさい。んで、そのメンターって人を参考に自分も模索していくわけよ。一夏の場合なら、人付き合いの方法とか、効率的な勉強法とか。観察するって事は、相手の技を盗むって事。吸収しようとしてる証拠よ。ちゃんと学べた?」

「ああ。俺なりに真似て工夫してみたら上手くいったよ。お陰でこの間の抜き打ちテストは前よりいい点数が取れたんだ」

「良い傾向じゃない。で、ここからが大事なんだけど、学べる物を学んだら次はメンターを越える必要がある。同じ分野で、自分のメンターを倒す。それが出来て初めて成長できるように人間って出来てるの。アンタは今この段階ね」

「ふぅん。でも肝心のメンターはもう居ないじゃないか」

「だから? やることは変わらないわ。アンタの中にある最強のメンターを越える。失礼な話、生きてる必要はないのよ。自分の憧れたあの人は本人よりもずっと輝いて見えるから何倍も強い。男子ってそう言う展開けっこう好きでしょ。それを繰り返して階段を一歩一歩上がっていく。その内今度は一夏をメンターにする人が現れるだろうし、一夏は一夏で後輩とか弟子とか教える側になってくる。後はわかるでしょ」

「……メンターから教わったことを伝えていく。そうすることで、俺を通してアイツの技や意志はどんどん伝わっていくのか」

「そういうことよ。湿っぽくなるのも大事だけどね。キリの良いとこで切り替えて、壁もさくっと飛び越えて、クラスの雰囲気ぐらいちゃちゃっと変えてみなさい、アイツから教わった方法でね。男だし、クラス代表だし」

「ああ。そうだな。サンキュ!」

「いいってことよ! アタシを誰だと思っての?」

 

にかっと笑ってハイタッチ。乾いた音が心地いい。

 

鈴はいつだって真っすぐだ。迷っている時ほど鈴の言葉はよく染みる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わからない」

 

アイツを越える、と決めたものの壁は大きい。苦手な数学で躓く時点で先は長そうだ。全教科の点数を越えるとかそう言う話じゃないってのはわかってるんだけども、どうせならってのが男の性。

 

ハードルは高い方が断然燃える男だ、俺は。

 

今のハードルは低いけど。

 

「あら? 一夏さん、お悩みですの?」

「セシリアか。そう言えば数学得意だよな。教えてくれよ」

「構いませんことよ。狙撃とは、綿密な計算の上に成り立つのですから」

 

隣のアデーレは今トイレに行っているので席を借りさせてもらう。

 

「しかし、どういう風の吹きまわしですの? テスト以外は数学の勉強をしない主義とか、仰っていたような」

「アイツには悪いけどいい機会だからさ、自分を見つめ直してみたんだ。将来何かやってみたいことがあるわけじゃないけど、アイツには負けてられないし、越えたいから」

「あら、そう言うことでしたか」

 

雑談はそれきりにしてさっきの復習に入る。中学までは何とかサクサク解けてたんだけどな、学園に来てからは全体的にレベルが高くて一般教科もちょっと置いて行かれているのが現状だ。俺が進学する予定だった高校とは偏差値が雲泥の差だからに違いない。

 

どうしても分からなかった問題を解き方からしっかり教わってマスター。

 

「助かった、ありがとうセシリア。こういう勉強とか教えるの上手だよな」

「当然ですわ。私は人について行く人間ではありませんから。教え導くのが、貴族の務めでしてよ」

 

IS乗り立ての頃の、イメージに数字を持ち込むアレだけは困ったけどな。

 

「ところで先程の話ですが、将来の夢は無かったのですか?」

「俺か? うーん、確かに無いなぁ。早く就職して千冬姉に恩返しがしたいってのが、強いて言えば夢だった」

「一夏さんらしいですわね」

「そうか? でも具体的にって言われると何も浮かばないんだ。卒業したらどうしよう、とか」

「それは今からでも考えておいた方がいいかもしれませんわね。時間は限られているのですから」

「どういうことだ?」

「ええと……話は少しズレますが、一夏さんは卒業してから今勉強している数学をどれくらい使っていくことになると思いますか?」

「……殆ど使わなさそう。少なくとも、俺は家事をしている時に方程式なんて使わない」

「仰る通り、数学に限らずですが社会に出て役立つことなんてほんの一握り程度。それ以上の事を求められる場合は、手軽にこなせる道具や仕組みが整っているです。百桁の計算を方程式で解くなんて現実的ではないでしょう? 電卓を使うに決まっているじゃありませんか」

「頭がおかしくなりそうだ。そんなことしてたら日が暮れちまう」

「ええ。勿論学生の身分ですから、勉強は大事ですわ。でも、将来を見据えて、その為の勉強をする方がはるかにタメになると思いませんか? だったら今からでも始めるべきです。年齢を重ねれば重ねるほど、大成させるのは難しくなっていくものです」

「確かに」

 

年をとれば身体もだんだん衰えてくるし、問題やしがらみも増える一方だ。自分だけの身体じゃ無くなっていくのは世間を見れば明らか。

 

「目標を越えようと努力するのは素晴らしいことですわ。苦手も克服して平均的に高いレベルを目指そうという心意気は誰でも持てるものではありませんし、理想です。ですが無理をする必要はないのです。荷電粒子砲を射程距離限界からでも確実に当てられるようになるより、より刀と零落白夜を使いこなす方が性にあっててより強くなれると思いませんか?」

「それは……そうだな。そんな気がする。銃を撃つのは憧れるけど性に合わない」

「何事も同じです。一夏さんがパーフェクトになる必要はありませんわ。数学や射撃が苦手ならそれでいいのです、一夏さんには近接が苦手だけど数学と射撃が大得意な私がいるのですから。無理や苦手は仲間や友人と折半してはいけない、なんてこと誰も決めていませんもの」

「……ありがとう。変な無茶をしてたみたいだ。ちゃんと考えてみるよ、将来のことも考えて」

「それがいいですわ。因みにですが、私としては社交を学ぶことをお勧めします。織斑先生の弟が求められる場面もきっと増えてきますから、覚えておいて損はありませんでしてよ」

「社交かぁ。パーティとかに出席するんだよな。やっぱ踊ったりするのか?」

「勿論。首をながぁくしてお待ちしていますわ。この私、セシリア・オルコットと円舞曲を踊ってくださる日を」

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は正午ちょい過ぎ。学園では昼休みだ。普段だったら皆で弁当だったり食堂で集まったりしてたんだが、まだワイワイ騒ぐのは憚られる。ここ一週間は一人で定食をつつくのが日課になりつつあった。夜だったら箒が一緒なんだけどな。

 

「今日は一人?」

「今日も一人だな」

 

すっと対面に座ったのはシャル。サラダとパスタという欧米色の強いランチだ。

 

「美味しそうだね、それ」

「これか? とろろを美味しそうっていう外国の人は始めて見た」

「むっ、それは失礼じゃないかな」

「これ納豆みたいにねばとろってしてるぞ?」

「前言撤回。やっぱり日本食は独特だよ、ホント」

「美味しいのに……」

 

ずぞぞぞ、と醤油を垂らしたとろろを啜る。ここで米をかきこむと美味さが倍になるのがまた。

 

「なんか皆に話しかけてるみたいだね。どうかしたの?」

「あぁ、いや。少しずつでいいから、立ち直らないとなって。丁度いいタイミングでラウラと話したからさ、どうせならと思って。お陰で良い話が聞けたよ」

「良かったね。で、次は僕の番だったりした?」

「だな」

「よかった。どんな話をしてたの?」

「クラスの雰囲気も少しずつでいいから明るくしていきたいって話したら、まずはお前が元気になれって。んで、鈴からはアイツを越えてちゃちゃっと雰囲気戻してくれって。頑張ろうって苦手なところから始めてみたんだけど、セシリアは無理に苦手を克服することはしなくても良いって。皆すごいよな、しっかり自分の考え持ってて、その為に勉強もしてる」

「まぁ、僕らは仮にも代表候補生だから。ただ強いだけじゃなれないものなんだよ」

「それは分かってるけどさ。因みに基準とかあるのか?」

「基準、かぁ……」

 

フォークの先にコーンを数個指してぱくっと食べながら、シャルは考え込んだ。

 

「一応あったと思うよ、国際委員会が決めたのが。でも内容が結構アバウトでね、実際は各国政府が適していると判断した人がなってる。共通して言えるのは、実力とマナーかな。あとは雑誌とかにも取り上げられたりしてるから見た目にも気を使ったりしてた気がする。あまりメディアに露出しない方針の国もあるから、そこは違うけど」

「成程……結構大変なんじゃないか?」

「まぁね。雑誌の話もそうだけど、メディアはネタに飢えてるから。良くも悪くも話題になりやすいんだよ。日本は特にそういうの神経質でしょ? アイドルのスキャンダルとかさ。その分見返りも大きいけどね。給料だって貰えるし」

「え、金貰えるのか!?」

「職業だからね。勿論貰えるさ。マスコミの取材だって僕らにアポとってお金を貰ってるんだよ? 印税とかって聞いたことあるんじゃない?」

「言われてみれば……千冬姉はどこからお金を稼いでるんだろうって思ってたけど、そう言うことだったのか」

「代表ともなると、額も凄いんだろうね」

 

代表候補生が凄いってのは聞いてたし、実際シャル達はすごいんだけど、まさかそんな仕組みになってたとは。ってことは皆国から給料もらってるのか。鈴とか車買う計画立ててそうだな。

 

「僕は賛成だよ」

「何が?」

「代表候補生、目指してみようって顔してるよ」

「そ、そうか? まぁ確かに考えていたけど」

「折角ISが動かせるんだから、卒業後の進路もそういう道に進んでみるのはアリじゃないかな。一夏は覚えもセンスも凄く良いし、直ぐになれると思う。さっき言ったみたいに給料だってでるから、織斑先生への恩返しもできる。むしろ二代目織斑って誇らしくない?」

「二代目って名乗れるほどじゃないけど……でも、ちょっと憧れたりはしてたんだ。千冬姉みたいになれたらなーって。それにさ、皆が見てる物を俺も見てみたいんだ」

「そっか。じゃあ今から頑張らないとね。少なくとも、相手はあの簪だから。彼女は凄いよ」

「うぐ……や、やったらあよ!」

「あはは。その意気だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千冬姉」

 

こんこん、と扉をノックする。今日も欠勤の連絡があったと山田先生が言っていたから部屋にいるのだろう。きっと酒を煽っているか、布団に籠っているかのどっちかだ。昔から辛いことがあるとそのどっちかだったから。周囲とは違う過ごし方をしてきたから、誰にも相談できなくて、そうやって解決するしかなかったんだ。

 

「俺、皆と色々話したんだ」

 

こんなこと話したってきっとそれがどうしたって思われるだろうけど。

 

それでも言葉にしないと伝わらない。

 

「アイツの分まで頑張って生きるよ。今より何倍もでっかくなって、守りたいんだ」

 

「だから、代表になる。それが俺の、今の目標だ」

 

……返事は、無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、今日も疲れた。やっぱ身体が鈍ってるのかも。最近は塞ぎこんでたし、運動もあんまりしてなかったからな。食事も適当に済ませてたっけ。

 

明日……いやいや、今日からまた頑張って行こう。

 

目指すは日本代表だ。

 

 

 

 

俺が?

 

馬鹿言え。

 

そんなふうに部屋の隅っこでガタガタ震えてる奴がなれるもんかよ。

 

そら、歯がカチカチなってるぞ? 

 

息も荒いじゃないか。

 

ガシガシ頭もかきむしってさ。

 

ガキみたいに蹲ってやがる。

 

「うっ……かっ、はぁあっ、あ」

 

泣くか? 泣くのか? 未来の代表様は泣いちゃうんですかぁ? ギャハハハハ!

 

「あああああああああああああっ!!!」

 

幻覚が俺を責め立てる。そのたびに思い返すのは、アイツを切り裂いた時の感覚。

 

零落白夜が装甲を溶かし、生身の身体を焼く、あの。ギリギリの間合いから振り抜いたから剣先が掠る程度だったが、十分過ぎた。

 

じゅうじゅうと焼ける音、焦げた生肉のニオイ、炭化していく真っ白の肌、蒸発していく鮮血。メット越しでも想像がつく、アイツの苦しむ顔。血反吐を吐いて、両足まで切られて、留めとばかりに俺に斬られる、絶望したアイツの顔を!

 

そのどれもが今でも鮮明に思い返せる。ついさっきの出来事のように。

 

この一週間、ずっと、俺は、何度も何度もアイツを斬りつけて、痛めつけてる。

 

ちょうどあの日の様な暗い夜に。

 

「……無事では、無さそうだな」

「ほうき……」

 

ぱっと明るくなった部屋。入口側には竹刀袋を下げた箒が俺を見ていた。

 

「とりあえず電気くらいは付けた方がいい。あと着替えることだ」

「あぁ…」

「まったく……ほら、こっちに来い」

 

しょうがないなぁ、と言った様子の箒は何かお香のようなものを焚くと、ベッドに座って隣に座るようにとぽんぽん叩いた。

 

もそりと動きだした俺はどっかと腰掛ける。

 

「それは?」

「気持ちを落ち着かせてくれる香だ。昔、まだ重要人保護プログラムで家族と引き離されたばかりの頃は私も今の一夏の様にイライラしたり落ち着かなくてな、試しにと買ってみたそれが思ったよりいい香りで一役買ってくれた品だ」

「へぇ」

 

お香か、和物大好きな箒らしいな。確かに花の良い香りがするし、少し落ち着いてきた。幻覚も遠ざかっていく。ちょっとふわふわするけど……もともと女子が使う様なものなら、男には合わないのかもしれないな。

 

「聞いたぞ、日本代表を目指すそうだな」

「あ、あぁ。早いな」

「なんだ自信なさげだな。そんな調子で大丈夫なのか」

「大丈夫、じゃないな。御覧の通り」

「……そうだな。苦しいか?」

「苦しいさ。アイツは良い奴で、凄い奴で、同じ境遇の友達だった。特別な友達だったんだ。おれは、それを……斬った。クソだ、俺は、最悪だ」

「一夏……お前は、何も間違っていないんだぞ?」

「……ってるよ、分かってるよそんなことは! 間違ったことしてないって事ぐらい! ああしなきゃもっと誰かが傷ついてて、死んでたかもしれないって! でも、俺は怖かったんだ。自己防衛だからって、殺す気で戦ってた自分が怖いんだよ…!」

「一夏……」

「零落白夜は相手を気遣って掠らせたんじゃない、推進剤が足りなくてあそこまでしか踏み込めなかっただけで、俺は真っ二つにしてやる気概で踏み込んでたんだ! 相手が人間だって気付いてた! せき込む様な動作で、更識さんが傷つけたところから血が出てきたのも見てた! でも俺は殺そうとした! そのことしか頭の中に無かった!」

 

もう自分が信じられない。怖い。また繰り返してしまうかもしれなくて、怖い。震えが止まらない。

 

寒くも無いのに身体がガタガタと震えだす。

 

そっと、そんな俺を箒が抱きしめてくれた。

 

暖かくて、やわらかな、いい匂いに包まれる。

 

「少し疲れているんだよ、深く傷つき過ぎただけだ。休めばまた前の様に振る舞える。きっといつか、な」

 

ぎゅっと抱きしめる力が強くなった。不思議と、箒の言葉がすうっとしみこんでいく。

 

じつは、おれのこころがちょっときずついてるだけで、またきれいもとどおりになれるって、ほうきがいうんだ。

 

ほうきが、なおしてくれるんだ。

 

「少し休もう、一夏。日本代表はそれからでも遅くないだろう?」

「……うん」

「ふふ。私に任せてくれ。今のお前に足りないのは、きっと癒しだよ。大丈夫だとも、私が責任を持って、必ず、お前を癒して見せるとも」

 

ゆっくりと、あたまをなでられるかんかくがとてもきもちよくて、じぶんがだんだんととろけていくのが、わかった。

 

ああ。

 

きもちいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っつうぅ……」

 

寝付いた一夏の髪を撫でる。身じろぎすると鈍くも鋭い痛みを訴えた下腹部をさする。思っていたより痛かったし、腰がだるい。

 

だが、まぁ、おおむね好調だ。

 

いや、完璧と言って差し支えない。駒が死んだのは想定外だったが替えはきく。

 

「ぷくく。くすくす」

 

完璧すぎて笑いがこぼれてしまう。おっと、さわぐと一夏が起きてしまうな。静かに。せっかくいい運動と香のお陰で眠れているのだ、起こすのは野暮だろう。

 

思えば長い道のりだった。想定外の厄介な虫を払うのにここまで苦労するとは思わなかったが。存外にしぶとい奴だったが、終わってしまえばあっという間だ。

 

ゴーレムのデータをこっそり改ざんし、

 

学園のそこそこ力のあるアホを買収していじめさせ、

 

奴の不気味な機体の情報を委員長へとリークする。

 

色々と準備はしていたが、実際に行動を起こしたのはこの三つだけ。しかしどれも偶然が良い方向に働いてくれたおかげで、たったの三手で私は一夏を手に入れた。

 

特に更識簪と姉さん。本当にありがとう。私と一夏の愛を繋げてくれる為に身を粉にしてくれたとした考えられないよ。特に姉さんは紅椿までくれた。これさえあればもう他の連中に水をあけられることはない。

 

「きひっ」

 

本当に死人が出るとまでは思っていなかったが、別にどうでもいい。私には全く関係のない話だ。むしろこれすらも幸運と言えるだろう。傷心に漬けこむ形になったが、関係はグッと進んだ。ラウラが誘惑していたので多少の焦りがうまれたが、終わってみればアレすらもスパイスだったわけか。

 

今日はまさしく記念日だ。明日の夕飯は私がてずから豪勢な食事を用意してやろう。ついでに皆も招待してやるか。その方が一夏が元気になるだろう。

 

「くはははっはははっ」

 

月明かりに照らされる自分と一夏の身体。お互いに噛み後や赤いあざが幾つもある。満足いくまで眺めた私は優越感に浸りながら眠りに着いた。

 

ありがとう、さようなら。

 

お前のお陰で一夏は私のものだ。

 

心から感謝するぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うわああああっいたっ!」

 

跳び起きた私を出迎えたのは低い天井だった。身体を半分も起こそうものなら額をぶつけてしまう不親切設計のこのアジト。面積を優先するのは分からないでもないが、流石にこれはやり過ぎだろと何度目か分からない悪態をつく。同時にまたか、と呆れた。

 

ここ数日同じ夢ばかりを見る。

 

あの日、彼を看取ったあの瞬間だ。織斑千冬ではなく、私に髪飾りを託してくれた、あの瞬間。

 

たった二日程度の付き合いだったが、彼は私にとって初めての友人だった。くだらない話も、料理のことも、学園のことも、何もかもが私にとって新鮮で、そんな様子を前の自分みたいだと苦笑していた。

 

生まれて初めて心から笑っていた。楽しかった。約束もした。好きだった、のかもしれない。

 

スコールやオータムとはまた違った、特別な存在だった。

 

だからこそ悔しい。

 

夢を見るたびに、楽しかった思い出と、自分の不甲斐なさに打ちのめされる。私が守ってやれれば、こんなことにはならなかったのだ。ISを一時失うことになってアイツは生き続けられた。生きてさえいればチャンスなんてたくさんある。私達だってまだ一緒にいられたし、更識簪とだってまた会えたんだ。

 

攻撃に気付かず、抱えることしかできなかった私が全て悪い。

 

私が悪いんだ。罰を受けるべきは私だ、裁かれるのは私だ。

 

「おいエム。また頭打ったな」

「悪いか」

「心配してんだぞこっちは」

「余計な御世話だ。で、何の用だ」

「仕事だ。ジジイに関係のある施設を襲撃して情報を手に入れる」

「……ジジイ?」

「あぁ、そうだ。アイツだ。篠ノ之束から情報が廻って来た」

 

ははっ。そうかそうか、足取りを掴んでくれたのか。なんでもいいぞ、少しでも関係があるのなら、可能性があるのなら、私はどこへでも行ってやる。どこにいようが知ったことか、引きずり出して、追いまわして、引っ掴んで引きずり寄せてブチっ殺す。

 

「殺してやる。殺して殺して殺して殺して殺して、殺して。やる」

 

復讐だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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空になったレーションを適当に放り投げる。がさり、とまた一つゴミの山に近づくが、そんなことは些事だ。

 

食事など栄養が取れればそれでいい。同じく水分も。睡眠は別だ。しっかりと脳を休めることが、効率を高めることを天才の私はよく知っている。取り過ぎるのもよくないので、六時間だけと決めているが。

 

風呂もいい。研究もいい。実験もいい。

 

何を置いても、コレは全てにおいて優先する。

 

一刻も早く、一日でも、一時間でも、一分一秒でも、早く。

 

でないと私が壊れてしまう。気が狂いそうだ。いや、事実狂った、錯乱した。そのたびにくーちゃんに鎮静剤を打ってもらって、そうやって正気とも言えない正気をなんとかこの一週間保ち続けてきた。

 

でも、それももうすぐ終わる。完成する。

 

さぁ、どうだ。

 

ホルマリンに漬けられた、握りこぶし程度の物体。透明な容器に入れられたそれにプラグを差し込み、ラボにある全機材を投入して、情報を摘出し、整理し、文字として還元する。膨大なディスプレイにはずらりとアルファベットがならび、尋常じゃない速さでスクロールしていくそれらに目を通し、問題ないことをチェックしていく。

 

そして……。

 

『く、ああぁぁ……』

「やあ、おはようはっくん! 気分はどうかな?」

『おはようございます、束さん。今日もいい天気ですね』

「うんうん、そうだよね。洗濯物がしっかり乾いてくれそうないい天気だ!」

『ですねー。僕、ちょっと干してきますよ。なんか見ない間に散らかってるみたいですし』

「にゃはは、もうしわけなっしんぐ」

 

むくり、と起き上がった所々金属を覗かせる人形が、すたすたと歩いて行っては脱ぎ散らかした服を回収して部屋を出ていく。

 

「やった…」

 

……できた。成功だ! やった! 流石私! はっくんが生き返った!

 

「やった、やったやったやった! 見てたくーちゃん! はっくんが生き返ったんだよ!」

「ええ! ええ! 勿論です! 流石です!」

「んふー、もっと言っていいんだよ? 何せ私は、今この瞬間から神になったんだからね!」

 

 

 

訃報を聞いた時、私は人生で一番狂った瞬間だったと思う。なにせなんも覚えてないから。ISの為に人体実験をしていたとか、違法な研究をしていたとか、そんなの比じゃない。

 

気を取り戻した私は直ぐにIS委員会の委員長の足取りを追った。ただ殺すだけじゃ飽き足らない、むごたらしく、辱めて、自分が生まれてきたことを一生後悔する様な、無駄に長生きさせる器具をつけて半永久的に苦しめる拷問具を作って、壊れるまで苦しめて、飽きたら鳥のエサにでもしてやるよ。この私がここまで懇切丁寧に最後まで考えてやってるんだ、光栄に思え凡愚。

 

そう決意して足跡を洗っていると、ある情報が目に入った。

 

DNA。

 

人間の設計図とも言えるそれは髪の毛にすら存在する。

 

そう、設計図なのだ。彼の一部さえ手に入れることが出来れば、それはつまり設計図を手に入れたと同義。図面だ。それさえあれば私にできないことはない。

 

挑戦したことのない分野だが、不思議と不安はなかった。私ならできると確信があった。現にそれは不完全であるが成功している。

 

その日の内にほのかに温かさを残した遺体から肉片を少し頂戴して、ホルマリンにつけて劣化しないように大切に保管し、機材を揃える。急ピッチで仕上げられたのは無骨な人型の人形だけだが、次第に人間らしいパーツや機能を増やして、その間にクローンを生成し、最終的にはそちらに意識を写して完全に生き返らせる計画だ。

 

あぁ。完璧。なんの障害も、不安も無い。クローン生成にどれくらい時間が必要なのかがキモだが、それも三年もあれば余裕で完遂できる程度。

 

三年。たったそれだけ我慢すれば、彼は帰ってくるのだ。

 

「うふふ、待っててねくーちゃん。数年もあれば前の暮らしが戻ってくるから。そうしたら三人であまぁい日々をまた送ろうね。更識簪とかいう小娘のことなんて何も覚えちゃいない、私達だけのはっくんとね」

「私も精一杯お手伝いします」

「たのむよくーちゃん。あ、ねぇねぇ、子供は何人欲しいかな? 今の内から部屋を広くしておかなくちゃ」

「そう、ですねぇ……」

『二人して何の話をしてるんです? 手伝ってほしいんですけどー』

「「はーい」」

 

あぁ懐かしい。やっと帰って来れた。ちーちゃんとの日々もすてきだったけれど、はっくんとくーちゃんとの生活も良いものだ。

 

ひと段落したら、またジジイを探さなくっちゃ。そんでもってあいつらに引きずり出させてやる。

 

うふ。

 

うふふふふふふうううふふふっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クローゼットの扉の内側、そこには真新しい姿見が飾られている。学園から支給されたそれは他の部屋よりもちょこっと質の良いものらしい。前よりも一回り大きいので重宝している。

 

今日のコーディネイトは水色のブラウスにカーディガンを羽織り、ストッキングにひざ丈のスカート。どれも銀が似合うねといって買ってもらった洋服だ。待機形態の打鉄弐式と、愛用の眼鏡。

 

そして、天然石のネックレスと赤い雪模様の髪飾り。

 

うん。ばっちり。

 

今日は朝から晴れていて気持ちが良い。散歩には持って来いだ。サボるなら今日みたいな日が一番。

 

私は意気揚々と寮から飛び出した。最短距離を進むと人の目が多くてバレてしまう。若干時間をかけて遠回りし、駅員には封筒を握らせてモノレールに乗り街へと繰り出す。

 

アニメファンの間には、聖地巡礼という言葉がある。

 

製作の際にモデルとなった街並みや風景、作中に出てくるお店など、現実に存在する場所を聖地と呼び、それらを何件も梯子する、という楽しみ方の一つだ。モノによってはツアーが組まれていることもあり、集まった人達は仲間なので一粒で二度おいしいのである。実際はそんな上手くいかないけどね。

 

話が逸れたが、今日は聖地巡礼が目的だ。

 

近場から寄って行き、ぐるりと街を一週して学園に帰る。一人ならではののんびりとした自由なツアーだ。誰に気遣うことも無い。思うままにぶらぶらとしよう。

 

 

 

駅前の喫茶店。

 

大変雰囲気の良いお店である。コーヒーが格別に美味しいし、セットのケーキがまた程よい甘さで相性抜群。読書が世界一贅沢な時間になること間違いなしだ。ちょっと気さくなマスターは雑談にも付き合ってくれるので退屈しないし、アンティークな調度品に合う音楽も点数高い。知る人のみぞ知る隠れスポットだ。

 

 

 

大通りのペットショップ。

 

ここら一帯で一番大きなペットショップで、それだけに種類も豊富なのがウリ。犬猫はもちろん、ウサギ、カメ、鳥、ハムスター、金魚等々。珍しい時はウリボウもいた気がする。個人的にはフクロウが可愛かったなぁ。

 

 

 

路地の古書店。

 

振り子の音が響く静かな古書店。小説や文学が殆どで、とにかく多い。店主とバイトの大学生はだいたい読了しているらしく、珍しく入って来た私達をなんとか引きずり込もうと熱い接客を受けた。悔しいのが勧められた本が好みの展開だったことか。

 

 

 

デパートのランジェリー。

 

私が気に入っているブランドで、とにかく可愛くて素材が良い。可愛いからついつい店員さんと二人がかりで試着させようと、隙あらば迫ってたんだけど叶うことはなかった。いや、叶ったらそれはそれで危ないんだけどね?

 

 

 

同じくデパートのジュエリー。

 

ショーケースに飾られていたネックレスが気になっていたのを見ていたから、とただそれだけでウン百万するネックレスをプレゼントされてしまったあのお店。買いますと即決したこともビックリだし、財布からブラックが出てきたこともビックリだった。勿論、あれからずっと付けている。手入れも欠かしたことはない。

 

 

 

屋上の中華料理店

猫の小物雑貨

惣菜コーナー

香水専門店。

 

………

 

 

 

ふぅ、楽しかった。一人で遊ぶなんて初めてだったからどうなることかと思っていたけど、案外良いものだ。一緒の誰かに気を使う事が無いので、自分のペースで、好きなようにできる。良い。とても良い。パーツショップに一時間居ても苦笑されることが無いのは実に良い。

 

新しいお店を開拓せずに、行ったことのある場所ばかりだけど、品ぞろえが変わっていたり、また新しい楽しみ方を発見できたりと少しも退屈しなかった。

 

唯一、銀と私の顔を覚えていたジュエリーの店員さんからは「お悔やみ申し上げます」と頭を下げられた。あの一回きりで何も買ってないし今日も冷やかして帰ったけど(それ以前に私達が入っていい様な場所じゃない)、それでも感じよくしてくださった。少しだけ心が痛くなったけど、それ以上に嬉しかった、私以外の誰かが彼のことを覚えていてくれている事実が。

 

今後必要になりそうな物だけを買って今日は帰ることにした。時刻は午後六時。そろそろ日が傾き始める頃合い。夜遊びするならここからが本番、帰るには今ぐらい、ちょうど区切りの良い時間だ。今回は後者をとる。というか、高校生が夜に外出するもんじゃない。

 

最初に時間を潰した喫茶店の前を通ってモノレール乗り場へ。ちょうど街を一周して帰って来たような道のりだった。お陰で脚がパンパン。

 

「ふぅ」

 

自販機で買った水を飲んで一息つく。モノレールが発車したことを身体で感じながら、何度の振動しつつも無視していた携帯を取り出す。

 

「うわ……」

 

着信履歴とSNSの通知がとんでもないことになってた。当然と言えば当然か。あんなことがあったばっかりだし。学園は当然として、本音からが凄い事になっている。おおかたどっかでバレてしまい学園に連絡がいったに違いない。無理やり連れ戻されなかったのは優しさか。

 

それらを再び無視してカバンにしまい、戦利品を確かめるべく袋を除く。

 

そこにはかねてより狙っていたアニメグッズ……ではない。学園や一般の店ではなかなか手に入らないちょこっとレアなパーツの数々だ。無くても良いが、あれば超助かること間違いなし、なそれらは私にとっては無くてはならないものである。切らしかけていたので予め電話して取り寄せてもらっていたのを受け取りに行くのが、今日の目的。のひとつ。残りの七割は本当に聖地巡礼です。

 

途中駅のないモノレールは直ぐに学園に到着した。ササッと降りて、朝と同様に封筒を握らせて素通りする。六時と言ってもまだ学園は部活動で活気づいている。見つかると更に面倒くさい事になるので、茂みや建物を上手く活用しながら学園内も歩きまわる。コレに関してはいい加減に慣れた。

 

そうやって辿りついたのはあのベンチ。私達以外に誰も使った様子のないココは半ば私達専用と化してきている。噂は広まってるのにどうして誰も来ないんだろう、と考えたけどそう言えば部活真っ最中かと速攻で解決した。

 

「や」

「……本音?」

「そだよー」

 

ぼうっと海でも眺めるか、と腰掛けた瞬間に、近くにある木の陰から本音が顔を出した。

 

「どうして?」

「かんちゃん、ここ数日決まった時間にここに来てたから、今日も来るのかなって思って。私の席って、窓際最高列なんだけど、ギリギリここのベンチが見えるんだー」

「あぁ…」

 

そういうことね、と納得。この一週間毎日欠かさず、四時にはこのベンチに来て座っていた。授業自体は昨日から始まっているから気にせず来ていたし、昨日に限っては欠席の連絡をしたので堂々と(?)足を運んだ。きっとその時に見られていたのだろう。別に誰かに見つかると困るものでもないし、気にせず耳を傾けた。

 

「どこに行ってたの?」

「街。コレが無くなりかけてたから」

「あー。いつも買ってくる奴だ」

「うん、そう」

「でもサボるのはよくないと思うよ?」

「私もそう思うよ?」

「?」

 

まあそんな顔にもなるよね。でも私は悪くない。今日しか無理だって言った店主が悪い。

 

……はい、ごめんなさい。白状します。

 

「今日って何日だったっけ?」

「今日? たしか八月の四日だよね?」

「正解。じゃあ何の日か知ってる?」

「うーんと……何かあったっけ?」

「銀の誕生日」

「え、あ…そう、なんだ」

 

そうなの、知らなくて当然だけど。

 

本当ならケーキを自分で用意して、自作のタブレットを渡して、いっぱいおしゃべりする予定だった。お姉ちゃんと話したように、私の気持ちを包み隠さず伝えようと思っていた。好きです、愛しています、結婚を前提に私と付き合ってくださいと。

 

全部パアだ。だから、いやせめてと思って、思い出の場所を一日かけて巡っていた。ココからは第二部と称して学園編である。といっても自室とベンチと私の整備室だけど。

 

せっかくだ、本音にも少し付き合ってもらおう。銀と同じクラスだし。

 

「どうだった、今日」

「……ずーんとしてて、あまり良い雰囲気じゃないよ」

「そっか。なんか、ほっとした」

「そうなの?」

「私以外にも、そう思ってくれる人がいるんだなって。銀はちゃんとクラスメイトと仲良く出来てたんだなって」

「…うん。勉強大好きだったから、みんなに教えたりしてたよ。宿題とか、テスト対策とか。それを通じてみんながななみんの良さを知っていって。大好きになっていったんだ」

「へぇー。私には教えてくれなかったのに」

「かんちゃんは必要ないんじゃない?」

「そういうことじゃないの」

「たはー」

 

てへぺろ、と効果音がぴったりなジェスチャーでこつんと頭を小突く本音。無理をして元気を装っている感じでは無さそうなので、少し安心した。もうちょっとだけ付き合ってもらおう。

 

「私ね、学園が好きだけど、嫌いなんだ」

「かんちゃん?」

「ちょっとだけ、愚痴を聞いて。一組の人とか、四組は(私がいるからなんだけど)結構重たい雰囲気でね、他は全くそうじゃないの。いつも通りに友達と駄弁って遊んで、授業を受けて、部活で汗を流してる。それが堪らなくムカツク。分かるよ? 全く関係ない、会ったことのない人の死を悲しめなんて無理だよ。でも、これが織斑君だったなら……きっとそうじゃないんだろうなって。銀が悪口言われていたの、私絶対に忘れないから」

「……だね」

 

いつのころだったかな、銀が亡霊みたいっていう悪口が流行ってるって、本音が教えてくれたんだっけ。そのことについてなんとなく聞いてみたけど、本人は笑って流していたから私もそこまで追求しなかった。何も言い返さないことでそれはどんどん広まってって……今も囁かれている。

 

だからだろう、誰も興味を持とうとしていなかった。亡霊みたいな奴が死んで本当に亡霊になっただけ。みんなはそう考えているんだろう。

 

くっっっそムカツク死ねばいいのにというか死ね。

 

ただ、それは私の気がすくだけで誰も得しない。何より銀が悲しむ。だから私の目の前であからさまに侮辱する様な言い方をするだけは捌くと決めた。今の所は喧嘩を買ってないけど。

 

「かんちゃんは、ななみんのこと大好きだった?」

「うん。愛してる。お姉ちゃんは結婚しても良いって」

「なにそれ聞いてない」

 

誰か。私と彼を知る誰かには、私達のことを知ってほしかった。覚えていて欲しかった。

 

ごめんね、ありがとう、本音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見たところは、問題なさそうだった。時折感情がブレる事も無い。街中では家の者に尾行させたが、ビックリするぐらいいつも通り、という報告も上がっている。

 

一年一組の教室、窓際最高列に座ってその様子を眺めていた私は、妹がベンチから離れて行ったことを確認して双眼鏡を下ろし、本音に付けさせていた盗聴器の電源を切る。

 

妹は錯乱するのではないかと心配していた。狂ったようにモノを投げたり、自分を傷つけたり、人にあたったりするんじゃないかって。部屋の監視カメラや盗聴器が拾う限りは問題なかったが、外では何が起きるか分からない。故人との思い出の場所を巡る行為は、大層危険だ。

 

あの日を思い出す。密漁戦に近づいた私は、ISを展開する前の彼の顔を見た。そして、私はもとから警戒していたからこそ何とか反応できた速度の攻撃。あれが妹だったら、織斑君だったら、間違いなく即死寸前の大怪我を負っていただろう。

 

真っ黒で、濁りきった、焦点の合わない目。ぶつぶつと聞き取れなかったが、恐らくそれは呪詛の類。ああ、そうだ、今なら分かる。彼は―――

 

「更識を殺せ姉さんの仇」

 

そう言っていた。まるで誰かに操られていたかのような、呪いから生まれた亡霊だった。私でさえ背筋が凍る思いをしたのだから。次に目を覚ましたらさっぱり忘れていたが……。

 

手加減は無かった、すれば殺されてしまうという謎の確信があった。織斑君との一騎打ち、整備室での戦闘ログ、私が留守にしていた間の私闘、そして今回。たったの四回しか彼はISでの戦いを経験していない。束博士も彼で実験してはいないはずだ。それでいてあの強さ。努力では到達できないセンスの領域。健全なままなら今頃彼が生徒会長だろう。

 

もっと言うならあの機体だ。はっきり言って解析不可能。装甲強度やシールドエネルギーはお粗末なものだったが、武装面はオーバーテクノロジーの塊だった。

 

ブルーティアーズのようなビット。

 

甲龍のような空間圧縮砲撃。

 

シュヴァルツェアレーゲンのようなワイヤーとAIC。

 

打鉄弐式のようなミサイル群。

 

今世界各国ではやっとの思いで実用化に漕ぎつけた第三世代兵装を当然のようにごろごろと合わせ持っているのだ。しかも現行機よりもアップグレードしているオマケつきで。馬鹿だってもう少し遠慮する。もしかしたら他にも様々な武装を持っていたのかもしれない。下手をすれば、零落白夜だって……。

 

「……っ」

 

だとしたら、私が生きているのは単なるマグレにすぎないのだろう。

 

結果的には、癪だが彼を片付けるべきと言っていた彼女……篠ノ之箒は正しかったわけだ。今回、或いはそれ以前から彼女が用意した舞台が幾つかあったのだろうか…。

 

正しい? いや、当主としては正しいと思わざるを得ない。一攫千金のチャンスだが、同時に地獄の門扉を叩く行為でもあったのだから。ならば後者を避けるべきだ。でも……

 

楯無は……刀奈はそう言っていないらしい。

 

『更識さんって縫物が苦手なんですか?』

『苦手じゃないの、挑戦するものを残しているだけなのよ。それに弱みがあったほうが可愛いでしょ?』

『はいはい』

『てきとーねぇ。泣くわよ』

『どうぞ。でも、一理あります』

『何が、かしら。美少女先輩と美少女同居人に手厚い看護を受けながらもそっけなくあしらう贅沢ボーイ』

『-10点。何でもできる完璧更識さんよりも、ちょっと意外な弱点ある更識さんのほうが可愛いと思います。そっちの方が好きですね』

『っ!? そ、そう? 貴重な男子の意見だし参考にさせてもらおうかしら? ところでそれってプロポーズ? 簪ちゃんから私に乗り換え? いいわよ~、お姉さんの方が包容力あるしナイスバディだから引かれちゃうのも無理ないわよね』

『ー200000点』

 

懐かしいやり取りだ。そう言えばそんなこともあったっけ。実はその会話を聞かれてて簪ちゃんにスリーパーホールドを決められた。その時の彼の苦笑いが傑作で……。というか彼もかなりの天然ジゴロよね、あんな歯の浮く台詞をさらっと言っちゃうあたりが特に。漫画や小説でときめくキャラにアホかなんてもう言えないわ。

 

携帯を取り出す。待ち受けはその時に撮った写真で、彼と妹とのスリーショット。臨海学校前の、多分この頃が一番楽しい時間だった。

 

仲直りもできて、初めて同年代の男の子と友達になれて。何だかんだで生きてきた中で幸せな時間だった。

 

「どうして……」

 

どうして。

 

例えばもう一人だけ男性操縦者が現れて、出来れば元気の良いタイプがいいわね、それで篠ノ之箒はそっちを警戒するだろうから、彼はノーマークでのびのびと学園生活を送れて。私達は三人仲良く過ごせていたかもしれない。

 

例えば何か一つだけ歯車が噛みあわなければ、身体の一部を失う事があっても彼は生きていて、更識と寄り添って生きていけたかもしれない。

 

例えば…。

 

「何で、君だったのかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室からかすかに聞こえる嗚咽に耳を傾けて、その場を去った。どうやら先客がいたらしい。血が繋がってるなら、考えることも一緒なのかな。

 

まぁ、ここはいっか。私は特に思い入れがあるわけじゃない。ちょうど一週間前の最後の夜、二人でこっそりここに忍び込んだし、あれで手打ちにしよう。

 

いよいよツアーも最後だ。例によって人目を避けながら校舎を歩く。足音も立てない。

 

そこは、第一整備室。私に割り当てられた、打鉄弐式の為の部屋。私達の始まりを言うならまずココだろう。今日の様に授業をサボって二人で開発に熱中したあの日が昨日の様だ。

 

そうそう、ここで並んでディスプレイとにらめっこしてた。あっちのコンテナに座ってご飯を食べてた。呼び出した打鉄弐式の装甲を開いて配線を弄ってた。

 

懐かしいなぁ。

 

今同じようにディスプレイを見ても、映る真っ黒な画面には彼が居ない。食料は余分にあるけど、私一人の晩御飯。工具も一人分で事足りる。打鉄弐式は彼との合作だ、装甲は冷たくても中には彼の技術や思いがいっぱい詰まっている。私だけが分かる温かさがあるのだ。

 

でもそれだけじゃ物足りない。

 

マグカップも、日記も、髪飾りも、ネックレスですら足りない。私の飢えはちっとも満たされない。違う。違う違う。足りない足りない足りない足りない。

 

今日巡った時に思いかえす、あの温かさが、欲しい。他の誰かでも、何かでも絶対に満たされないって分かってるけど、でも、欲しいの。

 

だから……!

 

「かんちゃん?」

「本音、ごめんね。呼びだしちゃって」

「ううん、いいけど……先生からちゃんと許可貰ってるんだよね?」

「勿論。ほら、借入証もあるし」

「ならいいけど…」

 

思考を遮るように、本音が現れた。いや、私が呼びだした。

 

別れた後にわざわざ電話したのだ。お姉ちゃんが誰かにつけさせているの分かってたから、学園内なら本音が近づいてくるだろうって。だから、一度別れた後に呼び出した。さっき泣いていたし、盗聴器の電源も切ってるはず。何より本音にはお姉ちゃんには内緒で話がしたいと言ってある。打鉄弐式のセンサーも、それらを持って無いことを証明していた。

 

本音が気にかけたのは、打鉄弐式の隣にある一機のラファールリヴァイヴと打鉄。武装互換テストということで数日借りたいと申請したのだ。勿論、許可は下りていない(・・・)。借入証も偽造。許可なんて待っていたら一ヶ月も先になってしまう。なにより同時に二機なんて無理だ。

 

「それで、どうしたの?」

「えっとね、昼に買ったパーツがあるでしょ? アレがあれば完成する武装が一つあるから、それのテストに付き合ってほしいの。打鉄弐式は勿論、他の機体での運用も視野に入れた武装になっててね、急ぎなんだ。少しでも早くデータが欲しいから、付き合ってくれない? こんなの頼めるの、今は本音しかいないから……」

「うぅん……」

「お願い」

「……しょうがないなぁ。一時間だけだよ?」

「十分だよ、ありがとう!」

 

手を合わせて柄にもなく跳びはねる。一時間もあれば本当に事足りる。鍵は買ってきた部品次第だけど、恐らく問題ないはずだ。

 

早速作業に取り掛かる。本音は整備科志望で多少の知識もあるから彼女には簡単な作業をお願いして、私はプログラムの最終調整を行い、簡単な動作を試して問題ないことを確認した。

 

完成だ。

 

「これってなんなの?」

「単純なパワーアシスト装置。力押しになったらISの地力が勝負の分かれ目でしょ? だからそれをサポートするのがあっても良いかなって。特に打鉄弐式は腕部装甲が無いから押し負けしやすいし、量産型対専用機みたいなシチュエーションも似たようなものだから」

「なるほどー。じゃあどっちからするの?」

「ラファールからかな。こっちの方が広く扱われているし」

「おっけー!」

 

袖をまくった本音が機体に身体を滑り込ませる。慣れた手つきで起動させ、全てのセンサーや駆動系が問題ない報告をタブレットから受け取る。

 

ラファールが試験装備を手に取り、いったん格納してから再展開して装着する。ISのエネルギー源である背部と脚部のジェネレーター付近に外付けで装備するタイプのソレは、黒い箱の様な外見をしている。空気抵抗とか何も考えてないけど、試作段階なのでそれはスルー。

 

「いつでもいいよー」

「うん、じゃあ―――」

 

あぁ、心がワクワクしてたまらない。

 

 

 

 

「スタート❤」

 

タブレットの起動ボタンをタップ。

 

瞬く間に試作装備が起動し、ラファールの全システムを一瞬にして掌握。一定の間あらかじめ決められた行動だけをとるマシーンへと変身する。パワーアシストなんて真っ赤なウソだ。

 

プログラムは既に一週間前に組み込んだ。後はその通りに動いてくれることを、イレギュラーが無いことを祈るばかりである。

 

「えっ?」

 

ラファールがゆっくりと動き出した。離れた場所にいた私に向かって、一歩一歩、しっかりと踏み込んで、迫ってくる。銀が最後まで愛用していた、あのラファールが。それはまるで彼が迎えに来てくれたかのような錯覚を与えてくれる。いや、事実そうなのだ。

 

「ちょ、ちょっとストップ! なんかプログラムが暴走してるよ! かんちゃんストップー!」

「あれれぇ? そうかなぁ。こっちは正常に動いてるって表示が出てるんだけど……うん、問題ないから続行ね♪」

「ほんとに駄目だってば! 私の操作を受け付けてないの! 何もしてないのに動いてるの!」

「ふぅん」

 

「ちゃんと動いてるね、よかった」

 

銀のラファールは今から私を連れて行って(殺して)くれるんだ。彼の居る場所まで。

 

ズン、ズン、と足音が次第に大きくなっていく。彼が私闘の為にチューンとカスタムを加えたそれは一般生徒では歩くこともできない程の敏感な設定なので、歩行速度がかなり遅い。飛行特化の弊害か。書き換えるだけの時間は無かったし、これはこれで良い味を出しているので問題なし。

 

「止まって、止まってよ! このっ…!」

 

珍しく真面目な表情の本音は私に何か言うことを諦めて、装甲が無いので自由に動かせる左腕で装甲を叩いたり剥がそうと必死な様子だ。残念かな、そうなると思って袖に隠してた工具も外させたのよ。せっかくのお迎えの邪魔をされたんじゃあ流石の私も怒る。

 

「ねぇかんちゃん止めてよ! ラファールがロックオンしてるの! かんちゃん狙ってるの! 止めなくても良いからせめて逃げてよぉ!」

「なんだちゃんと動いてるじゃん。正常だよ」

「何言ってるのおかしいよ!」

 

プログラム通りに動いているようでほっと一安心。だとすれば、私の人生が終わるまでそう時間もかからないだろう。

 

タブレットはもういらない。適当に邪魔にならないように遠くへ放り投げて、予定通りに壁際へと移動する。ラファールもそれに合わせて若干の軌道修正をして、また歩きだした。

 

あと数歩で私に手が届く距離まで近づいた。本音の喚く姿が私の視界から消え失せて、銀がしょうがないなぁって顔で苦笑いしてる姿に切り替わる。一週間ぶりのその顔についつい嬉しくなって両手をひろげてラファールを迎え入れた。

 

「おいで」

 

隻腕が手のひらを向けて私へ伸びてくる。それは私の左腕へと迫り、包み込むように握りしめて……。

 

握りつぶした。

 

「いやああああああああああああああ!!」

 

本音の絶叫が整備室に響き渡る。あんまりおおきいと余所まで聞こえてしまうので止めてほしいんだけど。

 

いやいや、そんなことよりも現在進行形でひき肉になっていく私の左腕だろう。メチャクチャ痛い。痛いなんてもんじゃない。銀は、こんな痛みを受けていたんだね。私のせいで。ごめんね。

 

ホントにごめんね、銀。

 

私、すごくキモチイイの。

 

ああ。これが、これが銀が味わっていた痛み! 私を庇ってついた傷の痛み! 私の罪!

 

聞こえる? 皮膚がべりべりと螺子切れて、筋肉がぶちぶちと千切れて、骨は軟骨に至るまでが粉々に砕けて、神経がむき出しになったと思ったらそれらと混ざり合っていく音が。

 

どんなオーケストラよりも壮大な感動の波、あなたは感じてる? 私はダイレクトに聞こえるからちゃぁあんと聞いてるよ。たまんないわ。スタンディングオベーションを送りたいレベルで。

 

濡れるわ、ほんと。

 

「お嬢様! お嬢様聞いて! なんで来ないの!? 早く来てよかんちゃんがかんちゃんがああああ!!」

 

悲痛な叫びもこの音楽の前ではかき消されていく。それももう終わってしまった。

 

完全に閉じた隻腕は九十度手首を回転させる。皮がなんとか繋ぎとめていた私の左腕はぶちりという音を残して完全に離れて行った。さようなら。いい音と快感だったわ。

 

さあ、次を頂戴よ。

 

血と肉でまみれた右手に粒子が集まり武装が実体化する。それは打鉄弐式の薙刀。振動機能を持つソレはISの装甲ですら容易く切り裂く。生身の人体など豆腐のように容易く両断できる。両手での運用が前提だから少し不格好で危うげだが、コツを掴んだAIはしっかりと握りしめ。

 

私の両足を綺麗に断った。

 

「あはぁ……ぁ」

 

もうたまんないほんと。刃先が脚を撫でたかと思うと何の抵抗もなくするりと脚のあった場所を通り抜けて、一拍置いてから鮮血が吹き出していく。

 

左腕が音楽…耳で楽しませてくれたのなら、両足は優しくなでる様な愛撫か。

 

上手ね、何時の間にそんなスキル磨いたの? いいの、惚れ直しちゃったとこだから。お陰さまでくらくらしちゃってる。

 

……正直やばい。既に意識を手放しそうだ。思っていた以上に血が流れ過ぎている。全然良いんだけど、どうせならプログラムした最後まで起きていたい。銀ならきっとそうしてくれるであろう、私の妄想をぶっ込んだ最後まで。だから重たい瞼を必死に開く。

 

支えを失った私の身体は壁に身体を打ちつけて尻もちをつく。脚は偶然にも切断面から少し離れた場所に倒れてきた。

 

さぁ、もう少し。

 

次にラファールが構えたのは牽制用のハンドガン。IS相手には心許ない武装のそれは、戦車程度なら軽くねじ伏せる火力を持つ。生身の人体など以下同文。

 

それは私の右肩までがっつりと容易く奪っていった。内蔵で感じる着弾の衝撃は、まるで花火の様。いや、音も火薬のにおいもそっくりだから花火で良いだろう。会ったら夏祭りに誘うのも良いかもしれない。浴衣を着て屋台を冷やかそうか。

 

そんな幸せな妄想も続きそうになかった。チカチカと頭が明滅し始めて、だんだんと眠気が増していく。力を込めようにも込める場所が無い。視界も殆ど真っ赤に染まって、耳もイカレてしまった。なんとなく本音が叫んでいるようにしか聞こえない、きがする。どうだろう。

 

寒くなってきた。誰か温めてほしい。今日は涼しめな格好してたし、最近は夜も暖かいから油断してたな。

 

誰か…。

 

『簪』

 

「あ……?」

 

呼ばれた。幻聴じゃない、確かに声が聞こえた。私を呼ぶ声。簪と、そう呼んでくれるただ一人の彼。下がりかけていた瞼がかっと開いていく。赤く染まっていた視界も少しだけ鮮やかさを取り戻した。

 

伸びるラファールの腕。広がる真っ赤な手のひら。

 

それは私の頭を掴んで……やさしく撫でてくれた。そっと頬に指を這わせて、むにむにと頬を弄る。

 

「は、  …ね」

 

銀がにっこりと笑って私に触れてくれている。

 

とても儚くて、脆そうで、力を入れれば折れてしまうだろう。下手をすれば女の子よりも女の子のような、そんな。肌はまるで薄い白粉おしろいを塗ったように白くて、腕も足も細くて、脂肪は勿論必要な筋肉さえついていない。服もちょっぴりだぼついているし、それでいて髪は手入れが行き届いている。髪飾りも簪も黒髪によく似合っている。どんな火や宝石よりも赤く輝く、紅い目は私の心を捉えて離さない彼。

 

ああ。いるのね、そこに。

 

いま、いくから、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✾✾✾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やれやれ。そんな感想が僕の心を支配する。

 

こうなるんじゃないかなって、どっかで思ってた。彼女は引っ込み思案で、内気で、気が弱いけど芯がある。こうと決めたらブレない、強い芯。ちょっぴり頑固で、とても真面目な、そんな人。

 

だから、腕のことで自分を責めたり、僕の脚を斬ったこと誰よりも苦しんでいた。それらが起きるたびに、彼女は僕に対して尽くしてくれるようになっていった。愛情と、それに混じった義務感を僕はひしひしと感じていたとも。依存とも言える。

 

責任を感じて、現実に耐えられなくなって、後追いするかもしれないのは、容易に想像できた。

 

とか言っても僕にはどうしようもない。死んじゃってるし、その場に行けるわけでもないし。忘れてほしくはなかったけど、どうにか立ち直って強く生きてほしかった。次の恋に踏み出してほしかった。彼女は可愛いし、お姉さんはしっかり者だからきっといい人と巡り合えたんじゃないかな。それにいい技術者になれたと思う。束さんとも少し繋がったんだから、面倒見てくれたりしてね。

 

でも、それでも、僕を選んでくれたことが何よりうれしかった。これは人のこと言えないね。死んでくれてありがとうってバカみたいだ。

 

そうそう、話は変わるけどここって凄く便利なんだ。テレビでバラエティを見てる気分でみんなのことが分かってくる。驚いたのは篠ノ之さんが裏で糸を引いてたことかな。彼女は結構不器用なイメージがあったんだけど、どうやってそんな実力とコネを手に入れたんだろうね。何にせよ、彼女や織斑君に何もしてないのにこの扱いで最後は殺されるだなんて流石の僕も怒りが収まらないよ。絶対に呪ってやるからな。手始めに明日の朝階段から落ちてしまえ。全身骨折しろ。話はそれからだ。

 

もう一個驚いたのは束さんかな。まさかクローンとは恐れ入る。発想が僕らとは違うね、やっぱり。想ってもらえることは嬉しいけど簪とは違ったベクトルで行き過ぎじゃないかなー。くーちゃんも乗り気なのがどうしようもないけど。束さんにとっては普通なのかな。作ってしまったものは仕方が無い、どうか幸せに過ごしてほしい。応援してるよ、もう一人の僕。

 

「そろそろかな」

 

良い頃合いだろう。

 

「楓姉さん、人を迎えに行って来るね」

「人? こんなところに誰か来たの? っていうか死んじゃったのね、その人」

「うん。そうみたいなんだ」

「なによ、気になるじゃない。良かったら家に連れてきてよ。銀の友達なんでしょ」

「そうだね。きっと来てくれるし、姉さんも仲良くなれると思うんだ」

「そ。いってらっしゃい」

「行ってきます」

 

玄関で靴を履いて外に出る。うん、いい天気だ。

 

やっと一人で乗れるようになった自転車にまたがってペダルを漕ぐ。ISと比べてちっともスピードがでないけど、これはこれで楽しいから好きだ。

 

向かう先は近くの公園。市が管理しているそこは四季を通して花が咲き乱れる名所の一つで、僕が死んだ時も最初はそこで目が覚めた。だからきっとそこにいるはずだ。

 

ほらね。

 

肩まで伸ばされた水色の髪に瞼を開ければ真っ赤な瞳がそこにある。少し変わった眼鏡をかけていて、白い肌に細い身体は、力を入れれば簡単に折れてしまいそうな花みたいだ。綺麗な紫陽花や朝顔、多くの花が風に揺れている中で、一際可憐な花。

 

頭を軽く撫でて、頬を指で撫でる。軽くつまむと弾力と整った肌が良い触感を与えてくれる。

 

あんまり遊ぶと怒られるので、風邪をひくといけないし、軽く肩をゆすって起こす事にした。

 

「……ねえ」

「………くぅ」

「起きて……」

「ううん………」

 

口からもれた声は見た目にピッタリの少し高めで、さらりと垂れる髪や、寝がえりをうって少し覗ける首の根や鎖骨の白い肌は官能的だ。じゃら、と音を立てて覗かせるネックレスに頬が緩む。

 

 

「起きて……簪」

「ん、んぅ………くあぁ………」

 

もう少しだけ強く揺さぶると、少しあくびをしながら目をこすり始めた。起きてくれたみたいだ。

 

「あ……」

「やぁ。やっと起きてくれたね」

「は、が……」

「うん。久しぶり、簪」

「銀っ!」

 

跳び起きた簪を受け止める。僕の胸に顔をうずめ、存外強めの力で抱きしめられた。

 

「寂しかった……っ!」

「うん」

「毎日退屈で、つまんなくて、何をやっても楽しくなくて、苦しかった……」

「…そっか。ごめんね、死んじゃって」

「ううん、いいの。銀は何も悪くないよ」

 

少し身体を離して、同じタイミングで二コリと笑いあう。一週間ぶりに見た彼女の満面の笑みに、僕もつられて笑ってしまった。

 

「えへへ、来ちゃった」

「うーん、来ちゃったか」

「駄目だった?」

「駄目って言うか、もう遅いって言うか」

「え、遅かったの?」

「いやいやそういう意味じゃなくてね?」

 

はぁ、と溜め息一つ。ちょっと天然入ってるの忘れてたよ。遅かったって、早く死んでよっていう奴最悪じゃね? 少なくとも僕は違うぞ。

 

「しょうがないなぁ、簪は」

「えへへ。あったかい」

「まったくもう」

 

そんなのよしてくれよ。許しちゃうじゃないか、てか許す。

 

寒かったろうね。血が身体から抜けていく感覚は、誰だって慣れるものじゃない。僕だって何度か経験あるけど嫌なものだった。辛いし、苦しいし、何より孤独が強すぎて嫌だ。今の所そんな心配はしなくていいんだけど。

 

「それで、ここは?」

「さぁ? 起きたらここに居たんだ。よく分かんないけど、僕の家があった場所によく似てるよ」

「ふうん。ね、じゃあ銀の家があるの?」

「あるよ。勿論、来るよね」

「うん!」

 

勢いよく立ちあがった簪の手をとって歩きだす。胸から覗かせるネックレスと、僕がエムに託した髪飾りがよく似合っていて、それをつけてくれたことに嬉しい気持ちでいっぱいになった。

 

「身体大丈夫なの?」

「みたいだね。しこりみたいなのをいつも感じてたんだけど、それももう無いんだ。身体も元通りだし。だから思いっきり走ったりできるし、疲れるまで運動できるんだ。凄く楽しいことだったんだね、運動って」

「じゃあさ、今度一緒に何かスポーツでもしない? 二人でできるやつ!」

「賛成。考えとくよ」

 

停めていた自転車に近寄って……少しだけ引き返した。困惑する簪の手を引いて、ベンチに腰掛ける。簪も隣に座って、二人で並んで公園の花畑を見わたした。風がきもちよく吹いて、日差しも程よく温かくて、夏なのに春先みたいに過ごしやすい季節。

 

思っていたのとはちょっと違うけど、これはこれで良い。

 

「簪、一つだけ言っておきたいことがあるんだ。だから帰る前に少しだけゆっくりしない?」

「うん。いいよ。私も言いたいことがあるの」

「……同じ気がするよ」

「奇遇だね、私も」

「じゃあせーので合わせてみない?」

「いいね」

 

子供みたいだなって頭の片隅で思うけど、こんなやりとりが僕らの普通だった。だからちっとも嫌じゃない。懐かしくて、楽しいよ。ちょっと緊張するけどね。

 

胸に手を当てて深呼吸。ベンチに着いた手に、簪の手が重なって、指が軽く絡みあう。

 

「「せーのっ」」

 

「「あなたが好きです」」

 

「「……っふふ」」

 

どちらからともなく、互いに笑みがこぼれて…。

 

そのままそっと、厚く、熱く、僕らは唇を重ねた。

 

 

 




○後書き


はい。と、いうわけで、今作はこれにて閉幕となります。

いかがだったでしょうか? 原作の時間軸的には3巻~4巻ぐらいを目安に構成したつもりです。入学から数ヶ月程度、半年にも満たない期間で、銀や簪を始めとした彼らにはイベントが目白押しだったことでしょう。

そんな彼らのめまぐるしい日々を楽しんでもらえたのなら、私も銀も嬉しい気持ちでいっぱいです。


書き手の皆さん、物語りを作ろうとするならどう考えますか?

私はこんなシーンが見たいな、と頭の中に不意に浮かんで、こんな展開も見てみたいな、というのをつなぎ合わせて一つの作品を書きだします。これに限らず、他のものもです。

僕の心が染まる時。これに関しては、「簪ヒロイン」「鬱な展開」「最後に少しだけ、歪な救い」これがキーワードでした。特に最後の告白シーン。あれは最初から決まってました。大人な香りが漂う作品の中で、二人は誰よりも愛し合っていてクリーンな関係だったつもりです。私好みな展開は単純なオレツエーなんですが、それだけに今作は挑戦のつもりで発車しました。

ええ、辛かったですとも。最後は二人が死ぬと分かっていながら、キャッキャウフフな展開を繰り広げられるんですから。困りますね、私の身になってほしいもんですわ。何せ涙を浮かべながら書いたシーンが山ほどあります。多分一番の被害者は本音ちゃんですけど。

何はともあれ今の自分を出し切った様な作品でした。そして成長を実感させてもらった作品です。どれもこれも、読んでくださった皆様のおかげです。何より、感想を送ってくださった方々のお陰です。この場を借りて感謝申し上げます。



さて、今後の話についても少し語らせていただきます。

これで終わり? と思った方々もいらっしゃるのではないでしょうか? 展開に納得いかないのはまた別としてもらって……。

回収していない伏線だったり、解説のないまま放置されているところが散見されると思います。

なぜ、箒はあのような力をもっていたのか
銀の孵化したISはなんだったのか
委員長の目的とは
エム達亡国機業とはどんな話があったのか

言いだしたらキリが無いですが……設定はあります、が、全てを公開はしません。そのつもりならこの短さで完結にはさせなかったですし、謎が少しくらいあった方が可愛げがありますもんね。

もしかしたら(十中八九)、ですが番外編やありえたかもしれない世界、幕間などを数話だけ投稿するかもしれません。そのときに、ちらりと垣間見えるかもしれませんね。一先ずそれらの疑問を晴らすためのものではないことを、先に宣言しておきます。ですので、完結として処理はしますが、もしよろしければお気に入り登録をされている方はそのままにしていただけると幸いです。そしてまた読んでいただけたければと思います。



最後に。

重ねて、今まで読んでくださった全ての方々、ならびに感想を送ってくださった皆様、本当にありがとうございました。拙い文章や誤字脱字で御不快な思いをおかけしてしまったことを謝罪します。それでも修正してくださったり、ここまで読んでくださった皆様に、感謝を。

またどこかでお会いしましょう。

それでは!


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