僕の心が染まる時   作:トマトしるこ

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016 一日目/毒づき

「いってらっしゃーい」

 

 朝早く、始発のモノレールに乗って一年みんなが宿泊先へと向かった。向こうに着いてからバスに乗って行くらしい。僕は一組のみんなと簪さん、更識さんを見送ってから職員室へ足を向ける。

 

 今日からお世話になる人が来る事になってるから、挨拶に行くんだ。

 

 既に授業中の時間。廊下には誰もいない。静かすぎて靴の音しか聞こえない。

 

 ヴーッとポケットの中で携帯が振動する。周りを見て先生がいないことを確認してから取り出して画面を見た。

 

『行ってきます。買えたらお土産買ってくるからね』

 

 簪さんからだ。

 

 自然と嬉しくなる。ふふっと笑みを浮かべながら『ありがとう』と返してポケットに直した。職員室はもうすぐそこだ。

 

「失礼します」

 

 ノックを数回して中に入る。

 

「あー、こっちこっち」

 

 僕の方を振り向いた一人が手招きしている。言われた通りにそっちへ行くと、見慣れないスーツの女性が隣に座っていた。

 

 茶髪の癖のある長髪。モデルさんと言われても疑う余地のない美人だ。

 

「えっと……」

「こっちの人が一週間警護してくれる亜紀原さん。日本政府の役人、でいいですよね?」

「ええ。短い間ですけど、宜しくお願い致します」

「こちらこそ、お願いします」

 

 軽く握手。フニフニ柔らか……ではなく少し硬かった。ナイフや銃を使ってできたタコみたいなものかな。実力のある人だという事で少し安心しつつ、怖くなる。

 

「あと……はい。織斑先生から預かってた課題ね。詳しくは書いてあるみたいだし、それで分からなかったら電話して聞いてみるといいわ。番号わかる?」

「あ、わかります」

「じゃあ頑張ってね」

「はい。失礼しました」

 

 課題を受け取って職員室を出る。

 

「……」

「……」

 

 めちゃくちゃ気まずかった。と、とりあえず何か話さないと……!

 

「あ、あの……」

「はい?」

「亜紀原さんは、普段どういった事を?」

「そうですね……幅広すぎてなんと言っていいやら」

「いろんな事をされてるんですか?」

「まぁそんなところです。ですがまぁ、ざっくりと言うと守ることと奪うこと、ですかね」

「守ると奪う……?」

「人や物を守る。そして何かを、脅かすものを奪う。抽象的になりますが……」

「……いえ、なんとなく分かります。ご立派ですね。僕は少し羨ましいです」

「羨ましい?」

「ええ」

 

 物心ついた頃から病室が家だった僕は、生まれた時から色々なものを奪われて、常に誰かに守られていた。子供は守られて当然なのかもしれないけれど、とても嫌だったんだ。せめて姉さんと妹と弟くらいは、守ってあげたかったし、何かしたかった。

 

 家族を守りたくて、家族に奪われたかった。だから少し、亜紀原さんが羨ましい。

 

「何をしましょうか?」

「そうですね……歩けるのなら、普段行かれるところを案内していただけますか?」

「じゃあ……近いので図書室から」

「IS学園の図書室ですか。さぞ珍しい文献や資料があるんでしょうね」

「僕はそんなにISに詳しいわけじゃないので分かりませんけど、知ってる人は知ってるような珍しい書籍が多いそうですよ。他には……たしか小説とかもあった気が……」

「あら、意外ですね。他には?」

「IS関連の雑誌も常に最新号を置いてますね。一番人気なのは、織斑先生の写真集らしいです」

「うわぁ……」

 

 一週間、僕はこの人と仲良くしていけそうだと思った。

 

 

 

 

 

「これが先ほどの写真集。あぁ現役の頃ばかりなんですね」

「ブリュンヒルデと言っても今では一教師ですし、学園内にマスコミやメディアの人達は入れませんから。取材したくても無理でしょう」

「で、こちらが雑誌ですか。外国の物もありますね」

「多国籍ですから。母国の雑誌を読みたい人も結構いますし、聞く中ではわざわざ取り寄せてる人もいるらしいです」

 

 

 

 

 

「保健室。確かに場所は知っておきたいところの一つですね」

「つい最近までお世話になってましたから。多分卒業まで通いますね、多分、いや絶対。亜紀原さんも具合悪くなったら来てもいいと思いますよ。ここの先生気さくでいい人ですから」

「護衛の私がここの世話になるわけにはいきませんから、極力私用で近づきたくはありませんね」

 

 

 

 

 

「来るかは分かりませんけど、僕が通う教室です」

「一年一組ですか。確か織斑一夏を始めとした殆どの専用機がここのクラスだそうですね」

「お陰様で、実習の先生には困りません」

「受けられるのですか? 聞いた話ではISの着用は身体に毒だと」

「歩くだけですよ」

 

 

 

 

「自室です。あ、棚のものには触らないで下さいね」

「大事なものですか?」

「ええ、家族の遺品です」

「……失礼しました」

「いえ」

 

 

 

 

 

「で、食堂です。一通りですけど普段行くのはこの辺りですね」

「思っていたより歩きましたが……身体は?」

「今日は調子が良い日みたいです。普段からこんな距離を歩いたりはしませんから」

 

 立ち寄った場所で雑談したり、休憩を挟みながら練り歩いて最後は食堂に。丁度お昼ご飯の時間だからということで食事になった。まだ昼休み前の授業が行われている時間内だから人は居ない。僕と亜紀原さんの貸切だ。

 

「こんにちは、おばさん」

「あらぁ! 臨海学校じゃなかったのかい?」

「あははは。僕はお留守番です」

「そうかい、残念だねぇ。何時ものでいい?」

「はい」

「私が受け取りますから、座っていてください」

「いいんですか? ありがとうございます」

「お姉さんは?」

「月見で」

「はいよ」

 

 好意に甘えて近くの席へ座る。向かいの椅子を開けておくのも忘れない。ついでに二人分のお茶と水も用意する。

 

 僕の分の食事を持ってきてくれた亜紀原さんは「ありがとうございます」と言って対面に座った。

 

「では、改めて自己紹介等を」

「お願いします」

「亜紀原陽子と申します。所属は……まぁ日本政府の一員程度に思ってください。主に警護などを担当しています」

 

 一礼。

 

「今回の契約内容ですが、一週間緊急時や体調不良を起こした際にすぐ対応出来るように護衛すること、と聞いています。更識簪が普段行っている貴方近辺に関する出来事を私が代理で行い、彼女が何らかの理由で帰りが遅れた場合は、彼女が帰ってくるまで引き続き私が対応します。ここまでは?」

「いえ」

「では、幾つか取り決めたいことがありますので次はそちらを。まずは起床時間ですが」

「えっと……普段は七時半です」

「結構早いのですね。日中は主に何を?」

「提出課題を進めようかと思います。全部レポートなので、自室のPCか図書室で主に進めようかなーと」

「就寝は?」

「そうですね……寝るのは十一時頃ですね。消灯と同時にもう寝てます」

「成る程。ではこうしましょう、私は空いた教員用の部屋をお借りすることになってますので、八時に部屋に伺います。この時には起きていて下さいね。あぁ、合鍵はけっこうです。課題を自室でされる場合はお邪魔します、図書室へ行かれるならそちらにも付き添います。夕食を済ませて消灯前の十時半には自室へ戻りますが、よろしいですか?」

「はい。あの、もし何かあった時のために連絡先だけ教えて頂けますか?」

「勿論です」

 

 携帯を取り出した亜紀原さんから電話番号の画面を見せてもらって、自分の寂しい電話帳に登録する。因みに四人目。

 

「この一週間でISに乗る予定は?」

「ありません。けど、もし課題が行き詰まって、乗る事で解決するなら乗ります」

「怖くはありませんか?」

「怖い?」

「左腕を奪ったのは、他でもないISなのですよ?」

 

 一瞬考える。

 

 確かに亜紀原さんの言う通りだ。袖がぷらぷらと垂れているのはISに左腕をミンチにされたから。もっと言うならISと関わりがなければこんな目に会うことはなかったはず。

 

 でもそれを言うなら、ISと出会うことが無ければ僕は今頃一人のままだ。家族みんなが死んで、引き取り手も現れず、煙たがられながらずっと病室のベッドの上に。束さんとくーちゃんという第二の家族を得ることも無く、簪さんに会うことも無かった。そもそも病室の床すら踏めなかった僕がこうして歩けることが出来るのは、束さんのおかげだ。

 

 憎い部分がないわけじゃない。でも、得られたものはそれだけの価値があると思う。

 

 怖くは、ない。

 

「大丈夫です」

 

 だからそれだけ答えた。

 

「そうですか。もしそうなれば、ですが私もISの経験はありますので何かとお役に立てると思います。その際は一声お掛け下さい」

「あ、ありがとうございます」

 

 ないに越したことは無いんだけど……。

 

「さて、食べましょうか。伸びてしまいます」

「……ですね」

 

 パキリと割り箸を割って合掌。割り箸同士を擦ってささくれをとってからすすり始めた。全く同じ行動に、亜紀原さんと揃って笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 ご飯を食べた後は一旦自室に寄って、課題を回収してから図書室に篭り続けていた。

 

 亜紀原さんはと言うと……珍しそうな本を持ってきては読んで返して探してを繰り返している。やっぱり僕にはわからないだけで貴重なものが多いのかもしれない。ちなみに付け加えておくと、千冬さんの写真集には見向きもしなかった。

 

 それが四度目のこと。

 

「ふぅ……」

「一息吐かれては?」

「そう……ですね。水を買ってきます」

「ああ、いえ、私が行きますから座っていて下さい」

「じゃあお言葉に甘えて、お願いします」

 

 亜紀原さんは、読んでいた本に栞を挟んで立ち上がり、スタスタと歩いて角を曲がって消えた。最寄りの自販機は裏手のベンチコーナーにあるんだけど多分知らないだろうから……え、売店まで戻るの? うわぁ……ごめんなさい。やっぱり僕が行けばよかったかも。

 

 そうなると往復で二十分くらいはかかるから、それまで何をしていよう。

 

 端末を除いても特に誰かから連絡が来ている訳でもなし。簪さん、楽しんでるのかな……。そう言えば織斑君がお土産買ってくるぜって言ってたっけ。楽しみだなぁ。でも彼のセンスを信じてもいいのやら。旅館だったからとかで木刀を買ってきそう。食べ物はほとんど無理だから有り難いんだけど。

 

 あ、そうだ。携帯で亜紀原さんに場所を伝えれば良いんだ。こんな時のための連絡先交換だよね。五秒もかからないさ。

 

「ちょっと」

「はい?」

 

 時計代わりに置いていた携帯を手に取った所で、後ろから声をかけられた。

 

 振り向くとそこにいたのは学園生三人。今は臨海学校で一年生は僕以外残ってないので、必然的に上級生になる。先輩で知り合いなんて更識さんしかないから、僕と彼女達は初対面のはず。

 

 それなのに、どうしてそんなに鋭い目で僕を見るのだろうか。

 

「そのテキスト、私も読みたいから借りても良いかしら」

「えっ?」

 

 栞を挟んで表紙を見る。

 

『今日から始めるIS』

 

 これは初歩も初歩。小学校で簡単な漢字を習うくらい初歩的なことしか書かれていないのだ。入学倍率が二桁を軽く超える学園に来た人達が読むようなものではない。

 

 それにこの本は数冊棚に残っている。読む人がいないのに何冊も用意してれば残って当然。読みたいならそこから持っていけばいい。

 

 ……まぁ、もしかしたら この本だけにあるメモ書きとか、前使っていて栞を挟んだままとか、その他諸々の理由があるのかもしれないし。

 

 渡して僕が別の同じ本を使えばいいか。

 

 ページを覚えて栞を抜く。

 

「どうぞ」

「どうもありが、と!」

「ッ!」

 

 頭がクラクラする……。角で殴られた部分が熱を持って熱い。

 

 ……、そうだ、殴られた。手渡した本の角で殴られた。振り上げずに手首の返しだけでやられたもんだからびっくり。転けて頭をぶつけるのとはまた違う、力のこもった痛みだ。

 

 いやいや、なんで殴られなくちゃいけないんだよ。親にも打たれたことはないんだぞ。じゃなくて、暴力を振るわれる事はしてないはず。

 

「なぁんて言うと思ったの? きっも。ゴキブリが這い回るよりも汚い本なんて誰が触るか」

「は、いや、な……」

「あー危ない、触られるところだったわ」

「大丈夫?」

「可哀想に……」

 

 ……いやいやいや、まったまった。同じ本が残っているのに、わざわざ僕が使っている本を貸してほしいと頼んだのはそっちじゃないか。それを汚いから触らない? 触られるところだった? もう一回小学生から日本語の勉強しなおして来るといいんじゃないかな? それ以前に失礼だ。

 

「いこ。同じ空気吸いたくないし」

「触られそうになるのも御免よね」

「みんなに気をつけるように言っておかないと……」

 

 僕が反論しようと口を開く前に、三人の先輩はスタスタと去っていった。しばらくぼうっとしていたけど、殴られた部分がズキズキと痛み始めたことをきっかけに頭が回り始めてきたぞ。

 

 とにかく一方的だった。会ったことも話したこともない人達に、殴られるわ罵られるわ風評被害その他もろもろ……。堪ったもんじゃない。何もしていないのにサンドバッグ扱いしてさ、あぁ、むかつくなあ。

 

 僕が……

 

「僕が何をしたっていうんだ、くそっ」

 

 知らずに毒づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書室を出てまっすぐ売店へ……向かうのではなく、角を曲がって最寄りの自販機へ足を運んだ。特に彼から説明があったわけではないが、学園内の施設は一通り頭の中に叩きこんでいるのでここを選んだに過ぎない。欲しいものの指定もないので別にいいだろう。

 

 一息つくために一番安い缶コーヒーを購入。隣のベンチへ腰かけてプルタブを押して引いた。

 

「さて」

 

 かねてより気になっていることが、一つだけある。その為に、道に迷って時間がかかりましたという言い訳を、任務が決まった時から用意しているくらいには。

 

 ズバリ、彼の現状だ。馴染めているかと言い換えてもいい。

 

 一応IS学園は共学ということになっているが、ISが女性にしか起動できないという条件があるため実際は女子高に等しい。そこへイレギュラーの織斑一夏と名無水銀が現れ、新入生としてやってきた。良くも悪くも、話題のネタというか恰好の的というべきか……本人たちは、猛獣の檻に放り込まれた生肉の気分だと言っていた。そんな環境でどういう立場にあるのか、外部の人間からすれば興味津々のネタであり、護衛を引き受ける身分からすれば知っておくべきことでもあるはず。

 

「……ふん」

 

 結果から言えば、彼はサンドバック扱いだった。反撃という行為が浮かばないのか、それとも呑まれているのか。一方的に殴られ、暴言を吐かれてと終始受け身の姿勢だ。

 

 想像していなかったわけじゃない。むしろこうなるだろうという確信すらあった。世の中の風潮と、学園に通う学生が総じてエリートなのだから、女尊男卑を体現したような女子が大勢なのは間違いないのだから。

 

 それでも入学から今まで、迫害を受けてこなかったのは織斑千冬という存在と、更識簪という護衛がいたからだ。

 

 横暴ギリギリのラインで指導する(らしい)織斑千冬が彼の担任なのだ。虐めがバレれば速攻で犯人捜しが始まり、捕まるだろう。その後はまぁお察しだろうが……とにかく、女生徒からすれば危険なわけである。彼へのバッシング行為がリスクに釣り合うだけのモノかと言われるとそうじゃないだろう。

 

 そして更識簪だが、彼女は日本の代表候補生であり専用機を所有している。学生の中でも特にエリートであり、実力は三年生と比較しても光るものがある。姉の陰に霞んでいるが、彼女もまた天才だ。が、彼を守っているのは実力よりも更識の名前と姉の力という面が強いだろう。

 その筋の人間なら更識の名前は誰もが知る程のネームバリューを持っている。日ノ本に更識あり。実の姉はその長であり、学園の長なのだから織斑千冬とは別の意味で、虐めがバレれば終わる。色々と。

 

 家を嫌う更識簪にとっては皮肉な話だな。

 

「反応を見るからに、明らかな暴力を受けるのはこれが初めて、か? 敵意にすら慣れてないとなると…よほどの箱入りと見える」

 

 普通の高校生でも堪える環境だというのに、彼が一週間まともにやっていけるのか不安になってきた。

 

「お」

 

 ずずずとコーヒーを啜っていると、先ほど銀を本で叩いた女子三人組が図書室から出て来た。

 

「あーもーマジムリ。なんであんな幽霊みたいな奴がいるわけ? 図書室使えないじゃん」

「それ。しかもよりによっていつも私たちが使ってるテーブルでさ。もうあそこ座れないって」

「はあぁ、織斑一夏君だったよかったのになぁ」

「なに? アンタ彼みたいなのがタイプ?」

「えー? だってかっこよくない? 爽やか系で身体づくりもしっかりしてるし、社会ステータスもバッチリじゃん! 正統派ってやつ?」

「わかるー! そんでさ―――」

 

 角を曲がったのでそれ以上は聞き取れなかったが、まぁ大体は分かった。

 

 名無水銀は肌が白すぎる。女子よりも透き通るように白い肌は確かに不気味だ。それが男となれば猶更かもしれない。髪飾りも女性のモノを付けているし、髪も男にしては長い方だ。織斑一夏とは違って鍛えている訳でもない。特に深くかかわらなければ、好印象を持てる対象じゃあない。幽霊なんて言いえて妙だ。

 

 隣の比較対象が、絶滅危惧種並の優良物件なら尚のこと。彼はそんなつもりもなく接しているんだろうが。

 

「胸糞悪いったらない」

 

 私個人としては、男が女がなんて気にしていない。だからか、ああいうのは嫌いだった。

 

 飲み干した缶コーヒーをカツンと音を立ててベンチの手すりに叩きつける。癖で胸ポケットからタバコとライターを取り出したが、そういえばここは高等学校だったと思い直して手を離した。灰皿(缶コーヒー)があるのに吸えないのは、結構な苦痛だ。

 

 空き缶をゴミ箱に放り投げ、二人分のお茶を買ってから図書室へ戻った。

 

 意気消沈したのが見て取れる。

 

「どうかされましたか?」

「亜紀原さん……いえ、なんでもないです」

「そうですか。何かあればいつでも言っていただいてかまいませんので」

「はい」

 

 彼が普通じゃない生き方をしてきたのは聞いている。書類でも見た。どんなことでも初めての体験に違いない。いじめもそうだろう。

 

 きっと人の頼り方も分からないんだろう。捨てたはずの良心が、少しだけ疼いた。

 

 

 


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