僕の心が染まる時   作:トマトしるこ

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011 貴女のもとへ

 こんな時にメールが届いたところで、見る余裕なんてない。授業の課題だろうが、家からの呼び出しだろうが関係あるものか。

 

 でも、銀の送った間の悪いメールは何故か見なければならない気がした。

 

 ふらりと浮いた指が、OPENをタップした。

 

『や。きっと、暇してるだろうから自動送信するメールを送ったよ。武装関係はそろそろ終わりそうだったから、今頃はシステムと出力に頭を悩ませてるんじゃないかなぁ……

 本当は一緒に試合を見たいんだけど、簪さんは機体を完成させる事のほうが大事だろうから、来てほしいなんて言わない

 でもやっぱり一緒に楽しみたいから、早く終えられるように参考になりそうなデータをまとめておいたから、添付してるものをインストールすればわかるよ。

 

 頑張ってね』

 

 メールを開いた瞬間にインストールした傍から解凍されていく謎のデータ。止めさせようと動いた手を慌てて引っ込めて文を読んだ。

 

 《complete》

 

 読み終わる頃には全て終わっていて何か何やら……。わかっているのは、数秒前の打鉄弐式ではないということ。

 

 視界がクリアだ、パワーもバランスも安定している、感覚も敏感になった、何より無駄がない。

 

 私は何もしてないのに……まさか、自分でデータを参考にして組み立てた?

 

 ……すごい。銀が送ってくれたデータもだけど、分類から応用まで単体でこなしたコアなんて聞いたこともない。何から何まで最適に書き換えられてるし、完成の目処がまるで立たなかったマルチロックオンシステムまで出来てる。

 

 悔しいなぁ。私、結局何もしてない。データを用意したわけでもないし、組んだわけでもない。

 

 自分で組み立てようと決めて、他人が完成させたこの機体。

 

 ………私に乗る資格があるの?

 

 ガシャン!

 

「くっ……!」

 

 今はこのISをなんとかしないと!

 

 壁に張り付かないと禄に撃てなかった時とはもう違う。打鉄らしからぬ素早さで突進して、大盾を使ってぶつかった。上手くいくのか不安だったけど、油断していたらしく面白いくらい吹き飛んでくれて助かる。

 

 ただし、ここからはあの敵も手加減はしてくれない。少なくともゆっくり歩くことはないはず。

 

 戦わないと。

 

 でも……。

 

 いや、今を乗り切らなければならないことはわかる。でも、何もしていない私が乗ることは、違う気がしてならない。男だし、私よりも銀が乗るべきなんじゃないかって。

 

《NO!》

 

 視界いっぱいに広がった、一つの単語。それは私が予期しない相手からの言葉だった。メールでもチャネルでもない、ただのメッセージ。

 

 誰なのか、直感的に理解した。

 

《I. I'm……》

《Watashiwa……?》

《……わたしは、あなたの、ために、つくられた》

 

 !? 意思を、文字で伝えようとしている?

 

 設定された言葉以外はすべて公用語の英語で表示するようにしているのに、わざわざ、日本語に変換してる。

 

 こんなの、はじめて。

 

《あなたに、のって、欲しいから、わたしは、さいてきな、こたえを、える、ために、あなたから、なかまから、くみたてかた、というものを、まなんだ》

 

 ………学習能力が、戦闘以外の分野で働いた。ということ。かな?

 私がISを通して検索をかけることで、その結果を見て学び、意欲を膨らませて、自ら学ぶことを学んだ。

 

 こんなこと、どんな本にも載っていない……。

 

《かれは、わたしを、あなたに、のせるために、いっぱい、てつだった》

《そして、わたしが、かんせいする、ことで、えられる、ものは、あいえす、だけでは、ないはず》

 

 そうだ。完成した打鉄弐式を見せてやりたい。旧型と嘲笑って捨てた倉持の研究者達に。お姉ちゃんへ一歩近づくために。何よりも、誰より側で手伝って………支えてくれた銀のために。

 

《あなたの、おもいや、きもちが、わたしを、つくった》

 

 私は何もしていない……なんてことはない。挫けなかったその姿勢や気持ちが、打鉄弐式を完成させる道を手繰り寄せた。

 

 そう、言っているんだ。

 

《さあ》

 

 私には結局わからない。努力はしたけれど、実ることは無かった。

 

 でも、問われていることは簡単なことだ。

 

『打鉄弐式を赤の他人へ渡せるか?』

 

 NOだ。有り得ない。

 

 なら選択肢は一つだけだ。

 

《一次以降終了報告》

《Get Ready?》

 

 私は《完了》のボタンを拳で叩いた。

 

 更に感覚が鋭く、広がる。これで、打鉄弐式は誰がなんと言おうと私のパートナーだ。

 

 達成感その他諸々が広がるが、その気持ちを抑えて粉塵を見やる。あの中にはまだあの無骨な機体が私を狙っているんだから。

 

 ここからは機動戦だ。大盾を煙の中心へ向かって投げつけて、その代わりに使い慣れた薙刀『夢現』を手に取る。床には投げつけた武器が散らばってるけれども、そのまま使えるのはこれだけだった。

 

 ぎゅっと柄を握りしめて薙刀を構える。

 

 換気扇によって煙が全部外へ吐き出される頃、ようやく敵……腕長のISは立ち上がった。

 

「っ!」

 

 瞬く後には、柄で腕を防いでいた。殆ど反射に近い。あのまま棒立ちしていたらもうやられていただろう。

 

 重心を前に移して、押し返すように腕を伸ばす。これくらいじゃ夢現は折れたりしない。このまま押し切って……っ!?

 

 メーターがゼロ? 推進剤が……ない!? 

 

「あっ……」

 

 思い出したのは、つい数日前のこと。そう、入学する前に打鉄弐式に触っていた時。その前のテストで暴走して、推進剤が切れるまで試験場を爆走するなんて事件があった。そうならないようにわざと少量を残して抜いたんだった……。

 

 ……もう! バカ!!

 

 なんて言っても仕方がない。昔の自分をどれだけ恨んでも推進剤は満たされないんだ。なら使わない方法で倒すか逃げるか考えないと……。

 

 相手がスラスターを使って強引に押してくる前に、すり足で敵の右脇に入り込んで、短く持った薙刀を振るう。

 

 ヴヴヴヴ、と振動し始めた薙刀の刃が淡い光を帯びる。手のひらから感じる感触と揺れで、夢現の機能が正常に作動している事を把握した私は、右腕に狙いを定め、豆腐のように切り落とした。

 

 肘から先だけがガシャンと音を立てて身体から離れる。生身の腕に傷がつかないギリギリのラインだ、中の人間は無事のはず。

 

 床を蹴って飛び退き、再び距離をとる。

 

 さっきの一撃で感触は分かった。全身装甲は実戦向きだって聞いていたから、通用するのか心配だったけど、これならいける。次は足を落として、そのまま逃げよう。ついでに背中のスラスターまで壊せれば完璧だ。

 

「………ッ!」

 

 深く息を吸って、吐いて、吸って………鉄の床を蹴る。

 

 たったの一足で再び懐へ入りこんだ私は、足払いの要領で膝から先を両方とも斬り落とす。

 

 ―――筈だった。

 

「か………っっっく」

 

 薙刀を振りかぶったところまでは覚えているし、理解できる。でも、一秒後には、なぜか私は壁に背中をつけていて、息を詰まらせていた。

 

 ………なん、で?

 

 違和感を感じる腹部を見れば、どこかで見たことのあるような大きな腕が、私を壁に押し付けていた。余程の勢いだったのか、棒を握るように私の身体を掴みながら、指先がどれも壁に埋まっている。

 

 これは、私が斬り落としたあいつの腕!?

 

 視点を真下から、未だに腕を斬られたままの体勢で蹲る敵へ移す。私がもう一度踏み込むまでピクリとも動いてはいなかった。奴に吹き飛ばされた今も変わっていない。

 

 あの敵が斬られた腕を投げたのかと思ったけど、違う。もし投げたのなら、野球選手の投手や、陸上選手の槍投げの様に、振りかぶった後の体勢をとっているはず。そもそも投げる腕が残っていない

 

「……この腕、まさか、自分で?」

 

 自分で腕が飛び付いてきたのか、もしくは、オルコットさんのビットの様に遠隔操作を行ったのかもしれない。

 

 普通のISは片腕を切り離して飛ばすなんてことは絶対しない。数本の腕を持つISならともかく、目の前の機体は二本だけ。だから、最初から腕が斬り落とされた時の為に遠隔操作できるようにしておく、なんてことは無い。ありえるかもしれないけれど、それだけの事になる前に、絶対防御が発動して負けている。

 

 ……いや、目の前の機体は無人機だ。なら、そんな細工がされていてもおかしくは無い。

 

 現行のISでの常識は、目の前の機体には通用しない。そうでも考えないと、この腕の説明が付けられなかった。

 

 視線をまた上に戻すと、敵は起き上がって私を見てきた。カメラと目が合う。

 

 背筋を這うようなおぞましい感覚と不安を振り払って、振りほどく為に手と足に力を込めた。

 

 打鉄弐式は、ここ数年………と言うよりも、全世代を通しても珍しい腕を装甲で保護しないという珍しいタイプだ。その代わりにマルチロックオン・システムという画期的なものを搭載している。ライフルやソード、ランスを持つのではなく、キーボードを叩く為だ。なのでこういう時は力勝負はまるで向いていない。なにせ装甲が無い分、ISのアシストを受けられずに私自身の握力と腕力でどうにかしなければならないんだから。

 

 ものは試しと思ってやってみたものの、案の定一ミリも動かないので、脚でなんとか踏ん張る事にした。PICだったり、割とISにとって重要な機関が多く詰め込まれているので、脚部の恩恵は大きい。

 

 地についていた脚を浮かせて、壁を踏む。重たい段ボールを持ち上げるように、一気に力を込めた。

 

 動いた感触はしない。でもやらないと……死ぬ。

 

 とにかく腕の拘束を緩める為に何度も繰り返す。腕を使ったり、荷電粒子砲の砲身をガシャガシャと動かして叩きつけたり、腕を壊そうと蹴りを入れてみたり。

 

 結局、ピクリとも動かなかった。それもそのはず、途中で気付いたけれどこの腕はやっぱり遠隔操作されていて、常に力が込められていたんだから。私に気付かれず、苦しめない程度に。それに気付いたのは、浮いたはずの指が元に戻ったところを偶然見たからだ。

 

 腕を引きぬくのは無理が……いや、まだいける。脚部の出力を調整して、腕の指先が食い込む以上の力が出せれば或いは。そうやって戦局に対応できるように、打鉄弐式は腕部装甲がないんだから。

 

 視界に写される機体情報の中に、他の機体には無い表示が、この機体にはある。センサーアイで焦点を合わせ、システムを起動。脚部の装甲が、簡易的に装着されたまま外されて裸足を晒す。そして両手両足の位置に電子キーボードが現れた。同時に、こめかみのあたりにモニターが現れる。

 

 真正面には睨むように私を見るIS。再び形勢逆転したとはいえ、この敵はもう油断なんてしないだろう。詰めを誤らず、私を潰しに来る。その前に何としても抜けださなくちゃ。

 

 四つの電子キーボードからはありえない量の鍵打音が整備室に響く。初期設定のポンポンという音ではなく、一昔前のPCキーボードのようなカタカタという音に設定しているので、違和感はまあある。それが協調性も無くガガガガガガガと削るような音になっているが。

 

 ………よし!

 

「これで……っ!?」

 

 プログラムの書き換えが済んで、最後にエンターキーを叩こうとしたその時、目の前には片腕を失ったISが。レンズアイに、私が驚いているところがいっぱいに映っているところが見える程度には近い。

 

 息が詰まるような感覚。目の前に立つ、死。

 

 私は金縛りにあったように動けなくなってしまった。

 

 そんな私を余所に、品定めをするようなべたつく視線でじろじろとこちらを見てくる。この感じは……そう、下心を隠そうともしない四十代の男性。のような

 

「ひっ………」

 

 間違いない。これを操っているのは男だ。

 

 一気に増した嫌悪感が髪の先まで這いあがって来た。街を歩いている時の様な、周囲の視線が目の前にあるだなんて思うと、もう……。

 

 もう、だめ。

 

「……………やぁ」

 

 助けてよ……。

 

「いやあああああああああああああああああああああああぁぁぁ!! 銀ええええええええええええええぇぇぇ!!」

 

 私の叫びを笑う様に、敵は爆発で千切れた方の左手を私の身体に向けて飛ばしてきた。どれだけ身じろぎをしても、一向に拘束は緩まない。そもそも恐怖で身体が動かない。

 

「い―――――んぐっ!」

 

 勝手に開いた私の口が、敵の手によって抑えられる。人を呼ばれると思ってのことだろう。今日はトーナメントが離れたアリーナで行われているし、誰かが騒ぎを聞きつけてくる事なんて殆ど無さそうなものだけど。それをひっくり返せば、誰も助けに来てはくれないということでもある。

 

 わかってる。でも、諦めたくない。認めたくない。

 

 まだ、私は、鋼と…………。

 

 首を横にも縦にも振って、一瞬だけ手を振り払った隙に、もう一度だけ叫んだ。きっと、誰かに届くはず。

 

「銀ええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!」

「呼んだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの観客席から出て、別の安全な場所とやらに移動している最中、僕はあるものを見た。偶然僕だけがそこを見ていたからなのか、それとも卵をつけていることによってISの恩恵が受けられているからかもしれない。

 

 アリーナを襲ってきた腕長の機体が、もう一機いた。

 

 そいつは誰にも見つからないように気をつけながら学園の奥の方へと消えていった。

 

 ということは、アリーナで暴れている機体は囮で、こっちが本命だ。

 

 先生に伝えようとして………歩みを止めた。

 

 状況はこうだ。

 

 トーナメント中に乱入してきた謎のIS。これは今織斑君と凰さんが二人がかりで戦っている。もしくは教員の人達が戦っている。じき抑えられるだろう。その間に、僕ら一般生徒や一部の教職員は避難して、来賓は来た方法で帰る。

 でもそれは囮で、隠れて行動するように周囲に気を配りながら奥の方へ消えていった。方角だけで狙いは分からないから何とも言えないけど。

 僕がそれを先生に言ったとして、誰が対応に当たるんだろう? それが動き出すまでにかかる時間は? 探す事も考えると、人手が多くいるし、抑えるならもっと必要だ。現状アリーナ側で手一杯なのに動く人がいるとは思えない。

 

 そもそも敵の狙いは何だろう? 人が集まるところを襲って来ていながら、人には全く手を出さなかった。つまり学園生や職員、来賓は除外する。

 次に学園を狙う理由として考えられるのは………やっぱりISだ。たった一機すら持つことが出来ない国家があるにもかかわらず、ここには数十機というどこぞの大国もびっくりな数を揃えている。ISの戦力だけで見れば、ここIS学園が間違いなく世界最強の国家だ。

 なら、打鉄やラファールを奪うつもりなのか……? でも向かった方角はアリーナの保管庫じゃなくて、どちらかと言うと別のアリーナや整備室のような……………!?

 

 整備室!

 

 簪さんか!?

 

 そこまで行きついた僕は急に走りだした。走るなんて生まれて初めてだ。これで走っているのかどうかは分からないけど、他人から見た評価なんて今はどうでもいい。一刻も早く駆けつけられればなんだっていいんだ。

 

「ちょ、ななみんー!!」

「忘れ物してきたんだ!」

「今はそれどころじゃないよぅ~~!」

 

 こんな時もブレないね、布仏さん。

 

 間延びした癒しボイスを置き去りにして、人の波に逆らいつつアリーナに戻って来た僕は更衣室……の先にある保管庫へ向かった。

 

 直接向かわなかったのは、ISがいるからだ。戦闘になったら生身の人間なんてホコリのように吹けば飛ぶ。対抗する為にはISしかない。たとえ向こうが解除した状態ならそれはそれで構わない。

 

 それに、この保管庫には――

 

「やあ」

「     」

 

 ――このラファールがいる。

 

「大切な人を守りたいんだ。力を貸してくれないかな?」

「    」

「ありがとう」

 

 装甲を開いて僕を迎え入れたラファールに腕と脚を通す。装着されたことを身体で感じた僕は、隣の武器庫へ急いだ。

 

 本当は……ISで戦いたくは無い。束さんの気持ちを直に聞いた人間としては、争いに使いたくは無いんだけれど、今は、今から少しの間だけは、身を守るために許してほしい。

 

 以前の様なスポーツじゃない。命をかけた実戦があるかもしれない。吐血して見動きが取れなくなれば、僕の負けだ。それだけは無いように気をつけないと。後の事なんて考えるな、今は、彼女の無事と限界が来る前に終わらせることだけを考えるんだ。

 

 詰められるだけ武器を詰めた僕は通路を通って整備室へ急いだ。外には避難している途中の生徒がいる。人の目に映るのはまずい。どうせ後になればバレるし怒られるけど、この貴重な時間を邪魔されるのは御免だ。

 

「たはは、千冬さんなんて言うかなぁ」

 

 ゲンコツだけは勘弁だよ。

 

 一先ず向かうのは簪さんがいるはずの第一整備室。そこでも見つからなかったら、外を回るしかない。

 

 無事であることと、せめてなんらかの手がかりがあることを祈って僕は速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 あらかじめラファールに入っていた学園内のデータをじっと見ながら、ガンガン速度を上げたお陰で直ぐに辿りつくことが出来た。専用機と違って学園の訓練機は量子化出来ないので、普通の入り口からは入れなかった。壊そうかとも思ったけれど、ここで貴重な体力を使うことも無いので少し回って搬送口から入った。ここならISでも楽々入れる。

 

 一つ一つの整備室が大きいことで、この整備関連の棟はとにかく大きい。目指す場所が分かっていても、広すぎて手間がかかった。

 

「そろそろかな」

 

 素手の左に扱いやすく面積もそこそこ広い縦長な六角形のシールドを装着し、右手にバトルライフルを選んだ。速度は落とさず、そのまま進む。

 

 風が機体の高速移動によって巻き起こる中、僕は遠くから聞こえた声を逃さなかった。

 

「簪さんだ……!」

 

 まだ第一整備室にいる、そして危ない!

 

 僕は入口……を通り過ぎて壁の前に立って脚を止めた。僕に近かった方は生憎と人間用で入れない。かといって奥側のIS搬入口まで行く時間すら惜しい。

 

 結果、僕はここの壁を壊す事にした。ここまでくれば体力温存なんて関係ない。

 

 ライフルを腰のラックに掛けて、代わりに一撃必殺を謳う近接武器を取り出す。

 

 パイルバンカー。

 

「いっくぞおおおぉぉ!!」

 

 装着した右腕を振りあげる。

 

「銀ええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!」

 

 ……ここに、壁一枚向こうに簪さんがいる! 

 

 でも、もう止められない。もし簪さんに当たりでもしたら。

 

 なんてことは想像もしなかった。大丈夫。そんなことは起きない。

 

 躊躇いなく、僕は振りかぶった右腕を前に突き出した。流石に整備室であっても、この杭は防げなかったようで簡単に壁は崩れた。

 

 右腕は簪さんの丁度右腕から五十センチ離れた場所を貫いており、怪我は無い。

 

「呼んだ?」

 

 返事を返して、僕は左腕で彼女を受け止める。そして右肩に取りつけたキャノン砲を、直ぐ向かいにいる機体の顔面へブチ込んだ。

 

「助けに来たよ」

 

 右腕が早速限界を迎えたことを悟った。


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