ハリーポッターと3人目の男の子   作:抹茶プリン

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飛行訓練

 談話室の掲示板に、『飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です』というお知らせが張り出されてから、一年の生徒たちの話題はクィディッチの話や飛行時の武勇伝で持ち切りだった。

ドラコはマグルの乗ったヘリコプターを本当にギリギリのところでかわす話を自慢げに何度も話し、決まって最後には自分と俺なら、今すぐクィディッチ・チームの選手になっても活躍出来ると言って話を終える。

ドラコがヘリコプターを交わした話は本当なのでいくら話そうと構わないが、俺のことを巻き込むのはやめてほしかった。ドラコも俺も下手か上手いかで言えば上手いが、飛び抜けて上手いという訳じゃないんだから。

 

 

 

 

 朝食を食べていると、郵便の時間になり、ミニッツが新聞とお菓子を運んでくる。ドラコも同じお菓子を貰っており、このお菓子がどれだけ高く、そしておいしいのかを説明した後、周りの人にお菓子を配った。

ほぼ毎日送られてくるので甘いものに飽きてきているのだ。だから、ナルシッサの手作りではないお菓子は友人やスリザリン生に配っている。

今日の俺のお菓子はノットにあげることにする。クラッブとゴイルが物欲しそうにお菓子を見つめてくるが、ここは無視だ。彼らにはいつも何らかの食べ物をあげている。

 

不意に立ち上がったドラコが、「行くぞ」と言ってグリフィンドールの席の方に歩き出す。

慌てて俺とクラッブとゴイルはドラコの後を追いかけた。ノットの方をチラリと確認したが、お菓子を食べることに夢中でこちらに来る気配はなかった。

 

ドラコはグリフィンドールの席に近づいた瞬間、眉間に皺を寄せるネビルから真っ赤に光る玉をひったくった。

あー、こっちだったのか。

てっきりハリーに喧嘩を仕掛けにいくのかと思っていたが、狙いはネビルの持つ思い出し玉であったらしい。

自分が両親からプレゼントを貰う姿を、ハリーが羨ましそうに見ているかどうか確認した際に目に入ったんだと思う。

 

これはいくらなんでも横暴な行いであるし、ドラコの誇りを汚している。

 

ドラコの手から思い出し玉を奪い取り、ネビルに返す。

 

「ごめんな。行くぞ、ドラコ!」

 

ドラコは俺に文句を言おうと口を開くが、近くにマクゴナガルがいることに気がつくと口をつぐんだ。

 

大広間を出るやいなやドラコは叫んだ。

 

「どうして止めたんだ!」

 

「分からないのか!?自分がいかに恥ずかしいことをしているのか?重要な目的があるならいかに汚いやり方でもいいさ。でも、あんなくだらないことで自分を辱めるな!」

 

堪らず怒鳴り散らしてしまう。

 

ドラコは静かに俺を見つめると、無言で去っていった。

 

妙にイライラして、ドラコについていったらいいのか、この場にとどまるべきかを迷い、あたふたとしてしている二人に怒鳴ってしまう。

 

「ドラコの後を追いかければいいだろ!!」

 

二人はビクッと体を止めると、何度もこちらを振り返りながらドラコの後を追いかけていった。

 

何やってるんだろう……。最低だ……。

 

 

 

 午前の授業はノットの隣に座って過ごした。いつもならドラコと一緒に座るはずの俺が自分の隣りに来たことで何かを察したようだが、ノットは特に何も言わなかった。ノットなりに気を利かせてくれたのだろう。

 

ドラコは昼食のときも俺を寄せ付けようとしなかった。俺もどうしたらいいのか分からなくて、話しかけようとしなかったし近づかなかった。

 

 

 

 飛行訓練を受ける為にグリフィンドール生とスリザリン生は、晴れ渡った過ごしやすい校庭に集合していた。

 

「なにをボヤボヤしているんですか」

 

マダム・フーチは校庭に来るなり、生徒を叱った。

 

「みんな箒のそばに立って。さあ、早く」

 

マダム・フーチに急かされてグリフィンドール生は箒の横に立つ。スリザリン生は既に箒の横に立っていた。

 

「右手を箒の上に突き出して」

 

マダム・フーチが掛け声をかける。

 

「そして『上がれ』と言う」

 

マダム・フーチの合図で、みんなが「上がれ!」と叫んだ。

 

箒はすぐに飛び上がって手に収まった。

周りを見渡すと、一発で成功させた者は少なかった。箒は使用者の感情を感じ取るので、初回の授業ということで不安な生徒には難しかった。

 

次にマダム・フーチは、箒の端から滑り落ちないように箒にまたがる方法と、箒の握り方を教えて回った。

 

「さあ、実際に飛んでみましょう。私が笛を吹いたら強く地面を蹴ってください。二メートルぐらいまで飛び上がって、それからすぐに前屈みになって降りてきてください。笛の合図でですよ。...1、2の」

 

ところがマダム・フーチが笛を吹く前にネビルが思いきり地面を蹴ってしまう。自分にコンプレックスがあるネビルはみんなから出遅れたくない一心だったのだろう。

 

「こら、戻ってきなさい!」

 

先生の大声をよそに、不規則に動きながらぐんぐん上昇していき、空中でネビルは箒の柄を離してしまう。声にならない悲鳴を上げて、ネビルは地面に向かって落下し始める。そして、ドサッ、ボキッという嫌な音を立てて地面に激突した。

 

「手首が折れているわ」

 

マダム・フーチは心配そうにネビルを立たせると、生徒の方を向いた。

 

「私はこの子を医務室に連れて行きます。その間誰も動いてはなりません。箒を動かしてみなさい。クィディッチの『ク』の文字を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ」

 

生徒に念を押した後、マダム・フーチは、痛みのあまり涙で顔をグチョグチョにしているネビルを支えてゆっくりと医務室に歩いていった。

 

二人がもう声の届かない場所に行ったとたん、マルフォイは大声で笑い出した。

 

原作通りの流れになったことは喜ぶべきことである。

このことをきっかけに、ハリーのシーカーとしての才能がマクゴナガルの目に留まり、ハリーはグリフィンドールのシーカーという誇れる物を手にするのだから。

でも、朝の俺の説教がドラコにはまったく届いていなかったことを考えると、とても悲しく、ひどく悔しかった。

 

みんなが二人の成り行きを見守り、ハッと息を飲みこむ瞬間も、俺は地面をただ見つめていた。

マクゴナガルがハリーを連れて行くのを見てスリザリン生が喜びの声を上げてもジーとその場に立っていた。

 

地面に人影が差し込むのを見て顔を上げると、満面の笑みを浮かべたドラコが立っていた。

 

「どうだ、セルス!僕はやったぞ!これでポッターは退学だ!」

 

やはりドラコは理解していなかった。

 

「俺が……俺が言いたかったことはそんなことじゃない。今回のだってたまたまだろ?お前が退学の可能性だってあったんだ」

 

ドラコに背を向けて歩き出す。本当に気落ちしていたのだ。

 

「なんなんだよ……なんなんだよ!!!」

 

ドラコの大声で騒いでいたスリザリン生がシーンとなり、この場にいる全ての人が俺とドラコに注目する。

 

「頑張ってるんだよ……頑張ってるんだよ!!だけど分からないんだ!セルスが言っていることが正論なのはわかるさ!でも、いつも正しい生き方なんて出来ない!!それに、セルスは僕の悪いところだけしか見ないで、いいところなんて見ちゃくれないじゃないか!!それに……それに……クソっ!」

 

泣きながら校舎に走っていくドラコを引き止めることは出来なかった。どんな言葉を掛けてやればいいのかわからないからだ。

 

ただ呆然とドラコが走っていった校舎を見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 飛行訓練を終えた俺は図書館のいつもの席に向かった。一人になって考えたかったのだ。

 

でも、誰もいない静かな空間にいても、頭の中には何も浮かんできやしなかった。

 

「本当にあの人たちって勝手よね」

 

声をかけて座ってきたのは、案の定ハーマイオニーだった。

 

「セルスは悪くないわ。だって、フーチ先生は箒には触っちゃいけないっておっしゃったもの。それなのに二人は空に飛び上がってしまったんだから、叱られて当然よ。マルフォイーーーああ、あなたじゃないわよ?マルフォイの朝の行動を止めたのは正しいことだったわけだし。彼らって子供過ぎるところがあるのよ。だか『もう黙ってくれないか!!!』」

 

どうして俺の気持ちを察してくれないんだ!今は一人になりたいんだ。机に顔を伏せて拒絶をアピールする。

 

静かになったと思ったらシクシクと泣く声が聞こえてくる。慌てて顔を上がるとハーマイオニーが泣いていた。

 

「お、おい、どうしたって言うんだよ?」

 

「わ、私、あなたを慰めようと思って……うっうっ……でもまた余計なことを言っちゃって!ヒック……いつもそうなの。いつも相手のことを考えないで余計なことを言ってしまうの...未だにと、友達だって出来ないしっ!……うっうっ、うううう」

 

「……」

 

彼女もドラコ同様、溜めに溜め込んでいたのか。そして、それがふとしたきっかけで爆発してしまったのだろう。

 

「俺も同じだよ...。ドラコの気持ちを考えずに自分の望む姿を押し付けていた。しかも、兄弟であるのにも関わらずだ。最低だと思う。それにハーマイオニーに言われるまで、そのことに気がつけていなかった……」

 

ハーマイオニーは静かに俺の話に耳を傾けていた。

 

「でも、そのことに気がつけたなら変われるはずだ。衝突はこれからも起きるかもしれないけど、時間をかけて妥協点を見つけていけばいい。ドラコも努力してくれているしな。ハーマイオニー、君だって変われるはずだ。自分で気づけたんだから。それに、ハーマイオニーの優しさが伝われば友達なんてすぐに出来るさ。一緒に頑張ろうぜ。……それに友達はもうここにいるだろ?」

 

ハーマイオニーは、泣き顔を笑顔溢れる素敵な顔に変えると、元気よく「うん!」と頷いた。

 

 

 

 ドラコを探しに夕食の時間の大広間に行ったがドラコはいなかった。ドラコが寮にいることを聞いた俺は走って寮に戻った。

寮に戻るとドラコは自分のベットにうつ伏せになっていた。

 

「はぁ、はぁ……。ドラコ……。すまなかった」

 

カサッと布団が動く。

 

「俺は……ドラコに自分の中の立派な人のイメージを押し付けていた。気に入らない部分ばかり気にしてた。……ドラコにはドラコのよさがあるのに、それを見ようとしなかった。本当にごめん」

 

ガサガサという音を立ててドラコが布団から這い出てくる。

 

「僕もごめん……。感情を爆発させて。悪いところは直していくけど、嫌いな奴に嫌がらせをしたいと思うのは僕の感情なんだ。僕は、セルスみたいにはなれない。そこは分かってほしい」

 

「俺だって悪いところはたくさんあるさ。そうだな、俺たちは兄弟だ。それぞれのいいところを伸ばしていこう。仲直りでいいか?」

 

ドラコに手を差し出す。

 

「ズズッ……うん、もちろんさ」

 

ドラコは鼻水をすすり上げ、涙を袖で拭い取ると、俺の手をガッチリと握りしめた。

 

夕食を終えて帰ってきた三人は、夕食で出てきた食べ物やたくさんのお菓子を持ち帰ってきてくれた。

俺たちはそれをつまみに真夜中までおしゃべりし、朝まで騒ぎまくった。

いつもなら夕食を食べ終わったらすぐに寝てしまうクラッブとゴイルも眠そうに目をこすっていたが、最後まで起きていてくれた。

 

友人たちのおかげで俺とドラコの溝は完全に埋まった。

 

 

 




すごい恥ずかしい...。ハーマイオニーのことを慰めるシーンで納得出来ない方がいるかもしれません。ですが、作者には女性を慰める才能がないようで、これが限界です。
それにしても恥ずかしい...。
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