ハリーポッターと3人目の男の子   作:抹茶プリン

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セオドール・ノットの悩み

 火曜日の夜、夕食を食べ終わったため大広間から寮に帰ると、談話室は人で溢れかえり騒がしかった。夕食を食べたらすぐに眠りについてしまう初々しい一年生もちらほら目につく。

何かあったのだろうか?何事かと同級生に問いかけると掲示板を見ろと興奮気味に言われた。

人の垣根をかき分けてなんとか談話室の掲示板の前にたどり着く。

掲示板には大きな文字で木曜日にクィディッチの選抜試験を行うことが書かれている紙が貼られていた。なるほど、道理でここまでスリザリン生が大興奮している訳だ。

ドラコとセルスは俺より先に帰っているから、もうこのことを知っているだろうな。一通り周りを見渡し、背の高いクラッブの姿が見えないことを確認した俺は部屋に向かって歩き出した。

 

 

 部屋に戻るとドラコがニンバス2001を手に持ち、選手になれるチャンスがようやくきたと同室の三人に捲し立てていた。

 

「おぉ、ノット戻ったか!談話室で話を聞いたよな!?選抜試験が木曜日に行われるぞ。あー、木曜日が待ち遠しいな……」

 

ドラコは飛び跳ねんばかりに試験が行われることを喜んでいた。自分なら必ず選手になれるという自信があるから選ばれない場合の不安がないのだろう。

セルスのことが気になりチラリと様子を伺うと、ベットに腰掛けて百味ビーンズを食べながらドラコの話を聞いていた。こちらは確実(・・)選ばれることがわかっているんだろうな。頬が上がっているのは選抜試験が楽しみだからだろうか?……セルスのことだから百味ビーンズが美味しいからだけなのかもしれないが。セルスはよくわからないのだ。

 

「お前らなら確実(・・)選手に選ばれるよ。才能もあるしニンバス2001もあるからな。セルス俺にも一個くれ」

 

それにマルフォイ家のご子息という看板もある。

セルスが投げたビーンズを受け取る。キレイな緑色のビーンズだった。メロン味か芽キャベツ味だろうか。

口にいれ、ゆっくり噛む。ハズレだった場合すぐに吐き出すためだ。

何だろう……土っぽい味がする。すぐに紙を取り出し、そこに吐き出した。

 

 

 ドラコがいつまでもクィディッチの話をしていたせいで、俺たちが全員ベッドに潜り込んだ時には水曜日の二時だった。いつもなら日が変わる前にベットに入る俺たちからしたら夜更かしにはいる。

夜更かしか……。

ふと、俺は去年、ドラコとセルスが初めて喧嘩(俺が知らないだけであったのかもしれない)した時のことを思い出した。

 

あの時、俺は二人が喧嘩した理由を知らなかったが、些細なきっかけで二人の関係が崩壊することは予想できていたから喧嘩が起きたことは不思議でも何でもなかった。そして、一度崩れた二人の関係は修復することがないと思っていたから何かしようと思っていなかった。

ドラコとセルスの関係は、俺からしたら歪でいつ崩れても可笑しくないものにしか見えないのだ。だからあの二人が仲良しなのが初めて会った時からずっと信じられない。

優れている部分はあるが特別抜き出た才能とカリスマ性を持たないドラコは、血筋や財産で他の人よりも自分が優れていると思い込み無駄に高いプライドを維持している。だが、その血筋や財産は弟のセルスと比較されるときには役に立たない。

ドラコがセルスよりも優れているのなら今の仲の良さは納得できるのだ。

でも、ドラコは弟のセルスに比べて劣っている。セルスは勉強という分野で才能があることは勿論、人を……いや、スリザリンに入るタイプの人間を引きつける、一種のカリスマめいた才能を持っているからだ。

弟よりも劣る兄、そのレッテルをドラコが受け入れるはずがない。マルフォイ家は純血家を引っ張っていくような高貴な家だ。当然、本家の当主が優秀なことを望まれる。第一候補のドラコは相当なプレシャーのはず。やはり、仲が悪いのが自然だと思う……。

 

でも、二人は一日にして仲直りした。夕食を食べていない二人のために食べ物を部屋に持ち帰った時、二人は握手して関係を修復していたのだ。

仲直りしたことは嬉しかったが、自分が惨めに感じて心の底から夜更かしを楽しめなかった。その理由はよくわかっていない。でも、純血であるノット家を支えるために考えていたことが馬鹿らしく思えてきてしまったのだから理由は何となく察している。そうであってはいけないのだが……。

 

寝返りをうち、セルスのベットの方向に体を向ける。カーテンを閉めているから見えはしないが、軽い(いびき)が聞こえるからそこにいることはわかる。

目をつぶると、ドラコとセルスの顔が浮かんできた。そして、同時に二人と関わると俺は変わっていってしまうのだろうか?という疑問が頭に浮かんだ。

それは何か恐ろしいことであるかのように感じる……。

不安になった俺は再び寝返りを打ち、微かに光る湖が見える窓の方向に体を向けた。

 

 

 選抜試験は六年生の全ての授業が終わった後に競技場で行われた。試験を受ける人の集中を乱さないようにと見物、または応援する人数は限られた。そのため、この場には上級生と家柄が良い一部の下級生しかいない。

幸い、ノット家という割と影響力が高いネームとマルフォイ兄弟の友人ということで、俺はその一部に選ばれ、この場に来ることが許された。クラッブとゴイル達はここにいて不思議ではない立場だが、選抜試験自体に興味がないということでこの場には来なかった。過程には興味を示さない彼ららしい。

 

「みんな集まってくれ!よし、今から選抜試験を行うぞ。まずは、ポジションごとに分かれてくれ。ここからチェイサー、ビーター、キーパー、シーカーの順だ。」

 

フリント先輩の指示で候補者は四列に分かれる。

チェイサーの所には十人ほどの人が集まり、ビーターの所には屈強な体つきをした五年と七年の先輩がいた。キーパー志望の人は、去年補欠メンバーにもう少しで選ばれそうだった先輩のみ、そしてシーカー志望の人もドラコだけだった。

ここに集まった人達は現在のレギュラーメンバー、もしくは控えメンバーの人よりも役に立つ(・・・・)と判断されればチームの一員になることができる。

俺は友人二人に頑張れよと声をかけてから、試験を見物するために競技場からスタンドに移動した。

 

フリント先輩は、まずチェイサー候補者の選別にかかった。この選別試験はすぐに結果が出た。

何故ならビーター候補者によってブラッジャーが飛び交う中でもキーパーにフェイントをかけ確実にゴール出来る人物がいたからだ。

セルスだ。もう流石としか言いようがない。レギュラーメンバーのチェイサー空き枠は一つなので、セルスが選ばれた時点で試験は終わった。

笑顔のドラコが同じく笑顔のセルスの肩を殴っている。やっぱり、あいつら仲がいいな……。

 

 

 試験が終わった。

友人二人のところに行くためスタンドから立ち上がり、競技場に繋がっている木製の階段を動かし辛い足を使って降りた。

 

「ノットーーー!!!」

 

満面の笑みを浮かべたドラコがこちらに向かって走ってくる。

 

「二人とも選手になったぞ!これで憎きポッターを打ち倒してスリザリンに勝利を導けるな!」

 

もしかして二人が仲がいいのってポッターがいるからなのか?だとしたら悩んでいる俺が馬鹿らしく思えるんだが……。そんなことはどうでもいいか。俺の中にある問題とポッターは無関係だ。

 

「ドラコの飛行見事だったよ。これならグリフィンドールなんて目じゃない」

 

本当にドラコの飛行技術は見事だった。シーカーとしての才能があるんだと思う。ヒッグズ先輩と互角といっていい勝負をしていたんだから。ただしニンバス2001を使ってだが。

別に文句がある訳じゃない。ただ、やはり家の力は重要なモノなんだなと再認識しただけだ。

ドラコに遅れてセルスがやってきた。

 

「ノット、寒い中ありがとな。お前がスタンドにいたおかげで安心して試験を受けられたよ」

「いや、むしろ有り難いのは俺の方さ。セルスが選手になれる瞬間を目撃出来たんだから。おめでとう、よかったな」

 

セルスが恥ずかしそうに鼻をかく。

 

「寮に戻らない?冷え込んできたし、何よりみんなに結果を教えたい」

「じゃあ、ドラコの箒しまっておくから貸してくれ。ノットも長時間ここにいて冷えただろう。早く帰って体を温めた方がいいぞ」

「じゃあ、頼むなセルス!」

 

ドラコはセルスに箒を渡すと校舎に向かって走っていく。

 

「じゃあ、またあとでな」

「あ、うん……あとでな」

そう言ってセルスは箒置き場に向かって歩き出した。

 

俺は気がついた。俺が揺らいでいる原因は、ドラコとセルスの仲が良いからではない。こいつが異常だからだと。

 

俺は見えなくなるまでセルスの背中を追い続けた……。

 

 

 

 金曜日の夕方、マルフォイ氏からスリザリン寮の談話室宛てに五本の細長い包みが届いた。一緒に送られてきた手紙はフリント先輩宛てだった。フリント先輩は手紙を黙読すると、手紙の内容を大まかに説明した。

『息子が所属するスリザリンチームを応援するために箒を送ることにした。君たちなら去年の雪辱を果たしてくれるだろう。頑張ってくれ』みたいなことが書かれていたらしい。

 

包みを開けてみると、やはり包みの中身は箒だったが、恐るべきことにその箒は全てニンバス2001だった。これには全てのスリザリン生が驚いた。いくらなんでもニンバス2001を五本も送ってくるとは思っていなかったからだ。

このことによってスリザリンの生徒は、マルフォイ家は財があり由緒正しき家であることを再認識した。そして、ドラコとセルスと親しくしたり、手助けをする機会があった場合、自分にも得があるかもしれないという期待を抱くことになった。

 

 

はしゃぐみんなと離れ、空いているテーブルに腰を下ろし、腕を組みながら考え事をする。

問題が解決した時、机の上が誰かのお菓子とその食べ(かす)で汚れていることに気がついた。でも、そんなことどうでもよかった。今、俺の問題が解決したことに比べれば。

 

俺はもう迷わない。セルスと過ごすことで抱いてしまう淡い期待は完全に頭から追い出す。もうそう決めた。

 

一度決断すると、今まで俺が抱えていた問題は対した物ではなかった気がしてくる。

気分が楽になった俺は掃除ぐらいしてやろうという気分になり、杖を取り出した。魔法を唱えようとしたとき、置いてあるお菓子の中に百味ビーンズがあることに気がつき手を止めた。

食べるべきだと思ったのだ。

箱を手に取り、適当に一つ取り出す。緑色のビーンズだった。

おそるおそる口に入れる。

 

なんてことはない、ただのマスカット味だった。

 

机に箱を戻し、呪文を唱えた。

 

 

 

 

 

 




読者にうまく伝わるかちょっと不安。
簡単に言ってしまえば純血の家の嫡男としてあるべき姿と一般的な人との間を彷徨うノットの話でした。

昔からの考えや自分が正しいと思っている考えは、もしかしたら間違っているかもしれないと思うことがあっても変えることは難しいことです。周りの人間がその考えを肯定しているなら尚更。
ノットは変わることができるんでしょうか?

読んで頂きありがとうございました!

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