バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

9 / 84
第三問だぜ!

「ハーデス。キミの力なら余裕で優勝できると思うけど、誰と組むの?」

 

『・・・・・木下と組もうかと考えている』

 

清涼祭、Fクラスがする催しを準備の最中、ハーデスにそう訊くと木下と組むと返ってきた。

 

「本人には?」

 

『・・・・・引き受けてくれた』

 

「そうか、そいつはよかったね」

 

「大和ー。他のクラスから学園祭期間中使わない机を借りてきたわよー」

 

「こっちは綺麗なクロスを作ってきたぜ!」

 

「食材の調達、これで完了だ!」

 

「調理器具も何とか揃えれたよー」

 

「教室の飾り付けももう少しで完成だよ」

 

テキパキと動く風間ファミリー。

 

「・・・・・飲茶(ヤムチャ)も完璧」

 

「おわっ」

 

いきなり後ろから響くムッツリーニの声。いつもながら存在感を消すのが巧い。

別に常日頃はそんな事をしなくてもいいと思うんだけどな。

 

「ムッツリーニ、厨房の方もオーケー?」

 

「・・・・・味見用」

 

そう言ってムッツリーニが差し出したのは、木のお盆。上には陶器のティーセットと

胡麻団子が載っていた。

 

「ところで、ムッツリーニ。ハーデスは?」

 

「・・・・・あっち」

 

ムッツリーニは指をとある方へ向ける。僕はその方へ視線を向けると・・・・・。

 

『・・・・・』

 

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!ですから、無言の圧力を掛けないでください!怖いです!」

 

何故か、ハーデスが姫路さんに顔を近づけながら大鎌を構えていた。

姫路さんも涙目だ。

 

「・・・・・ねえ、なにがあったの?」

 

「・・・・・姫路が厨房に立っていた」

 

ナイス、ハーデス!キミは多くの人間の命を救ったよ!

 

「ねえ、大和。召喚大会にキャップと出るんですって?賞品が狙いなの?」

 

「そうだな。チケットを手に入れたら適当にどっかの誰かに売り渡す予定だ」

 

「あはは、小遣い稼ぎが目的なんだね」

 

「大和らしいちゃらしいがな」

 

納得の面持ちの一子とガクトだった。すると、ハーデスが姫路さんから離れ、

秀吉に近づき一緒に教室からいなくなった。そう言えば召喚大会に出るんだったね。

さらに言えばだ。大和とキャップ、ハーデスと秀吉―――。

 

「おい、明久。俺達も大会に行くぞ」

 

「うん、分かっているよ」

 

僕と雄二も召喚大会に出る訳だ。優勝したら僕らはある達成を果たせて一石二鳥。

その目的はまた後ほど説明するね。

 

―――☆☆☆―――

 

「えー。それでは、試験召喚大会一回戦を始めます」

 

校庭に作られた特設ステージ。そこで召喚大会が催される。

 

「三回戦までは一般公開もありませんので、リラックスして全力で出してください」

 

今回立会人を務めるのは数学の木内先生。当然勝負科目は数学となる。

 

「い、いきなり相手が死神なんて・・・・・が、頑張ろうね、律子」

 

「う、うん・・・・・」

 

対戦相手の女子が頷き合う。ハーデスの存在は既に学園中に知れ渡っていよう。

 

「では。召喚してください」

 

「「試獣召喚(サモン)っ!」」

 

相手の二人が喚に声を上げると、馴染みある幾何学的な魔方陣が足元に現れて召喚者の姿を

デフォルメした形態を持つ試験召喚獣が喚び出された。

 

 

                『数 学』    

 

   Bクラス 岩下律子 179点 & 163点 菊入真由美 Bクラス

 

 

 

 

向こうは二人とも似たような装備の召喚獣じゃ。西洋風の鎧とハンマーとメイスを持っている。

姫路の召喚獣を一般的な強さにしたような感じじゃろう。

 

「ハーデス、ワシらも召喚しようぞ」

 

『・・・・・そうだな』

 

 

「『試獣召喚(サモン)』」

 

現れるワシらの召喚獣。ワシの召喚獣は相変わらずの袴姿と長刀を装備しておる。

一方、ハーデスの召喚獣は

黒いマントを全身に包み、顔には髑髏の仮面を被って刃が備わっているトンファーを持っている。

死神は鎌と通常装備なのじゃが、何故トンファーなのじゃろうか?

 

『この試合はどうなるでしょう高橋先生』

 

『BクラスとFクラスでは試合にはならないかもしれませんね。

一回戦ですのでバランスの悪いカードも多いでしょう』

 

実況を務めておる福原先生と高橋先生が、ワシらの戦況を見据える。

 

                

               『数 学』

 

   Fクラス 木下秀吉 69点 & 1点 死神・ハーデス Fクラス

 

  

 

 

まあ、言われるまでもないじゃろうが。ワシらはFクラス並みじゃ。

ハーデスはワザと1点にしておるがの。

 

「律子。先に死神をやっつけちゃいましょう!」

 

「そうね!あんな雑魚をさっさと片付けよう!」

 

むっ、ハーデスを先に狙うようじゃな。

 

『・・・・・木下』

 

「なんじゃ?」

 

ハーデスがスケッチブックをワシに突き付けてくる。ハーデスの召喚獣もワシの召喚獣に近寄り、

何故だかワシにトンファーを渡してくる。

 

『・・・・・長刀と交換してくれ』

 

「それは構わんが・・・・・良いのか?」

 

『・・・・・木下に長刀の扱い方を学ばせるためだ』

 

召喚獣同士は互いの武器を交換し、戦闘スタイルが変わる。

にしてもこの大会でワシに長刀の扱いを学ばせるとは・・・・・。

 

『・・・・・』

 

と、お主は何時の間にリアルに本物の長刀を持っておるのじゃ!?

まさか、本当にワシを学ばせるつもりなのか!?召喚獣だけでなく、己自身も振るうのか!?

驚いている最中、ハーデスの動きに合わせてハーデスの召喚獣は長刀を軽く振るい、

構えて敵に飛び掛かる。

ハンマーを持つ敵は大振りでハーデスの分身を潰そうと振り下ろすが、

ワシの長刀で真っ直ぐ振り下ろされるハンマーの軌道を横から叩きつけて逸らし攻撃を外した。

 

「なっ!?」

 

完全に狙いが外れたハンマー。地面から持ち上げるその瞬間、

次の攻撃をするためのタイムログをハーデスは

突いたのじゃ。ハンマーに乗り、そのまま敵に向かって駆け―――。

横薙ぎに払い敵の首を刎ねた。

 

「律子!?」

 

『・・・・・他人を心配するより、自分の方を心配したらどうだ?』

 

ハーデス自身が長刀を自信の召喚獣を操りながら乱れ突きの素振りをする。

その攻撃は敵の武器ごとダメージを与え、点数を減らしていくのじゃが、それでも威力は小さく、

一桁しかダメージを与えておらん。

 

「よくも律子を!」

 

大切な友を討たれた怒りに燃え上がるのがよう分かる。敵はメイスを縦、突き、

横薙ぎに振るってハーデスの召喚獣を攻撃するのも、ハーデスは一切防がず、

軽くかわし続けて―――敵の背後に回って長刀の刃を敵の胴体に深く突き刺して

長刀を直立に立てた。そうすることで敵は刃から抜けることができないまま

点数が減り続け―――何時しか、0点となり召喚用フィールドから姿を消した。

 

「勝者、死神・木下ペア!」

 

木内先生が勝者の名を告げる。殆どハーデスの一人勝ちじゃがな。

 

『・・・・・取り敢えず、少しだけ長刀の扱い方は分かったか?』

 

「うむ、あのようなことをできるのはお主ぐらいしかおるまい」

 

『・・・・・演劇部のホープの木下なら、俺の動き方ぐらい演技(真似)ができるはずだ』

 

む・・・・・そう言われては、ハーデスの動きをマスターしなければワシの演劇に対する

誇りが廃るではないか。よかろう、お主の長刀の扱い方を演技させてもらうのじゃ!

 

 

 

 

その後、直江と風間に雄二に明久の試合を見ず、教室に急ぎ足で戻ったところ。

 

「お、覚えていろよっ!」

 

教室から坊主頭の男子生徒を抱えて逃げるようにっ走り去っていくモヒカンの男子生徒。

何があったのじゃろうか?ハーデスと顔を見合わせ教室の中に入ると、

 

「ん?おー、お前ら。戻ってきたか」

 

「うむ。それで、先ほどの二人はなんなのじゃ?」

 

「ああ、三年の先輩らが営業妨害をしやがってな。『パンチから始まる交渉術』~

『キックで繋ぐ交渉術』~プロレス技で締める交渉術』をして

速やかに退出させてもらったところだ」

 

島津の物言いに内心溜息を吐く。まるで雄二みたいな言動じゃ。

 

「それで、被害は?」

 

「んーと、大和が騒がしてしまった謝罪に今いる客達にタダで提供をするそうだぜ」

 

「落ちた評判を取り戻さなくてはな」

 

『・・・・・厨房に戻る』

 

そうじゃな。じゃが、何故このクラスに営業妨害をするのじゃろうか・・・・・。

後で雄二に相談してみようかの。

 

 

 

 

 

「ここがあの人が通っている学校なんだねー」

 

「予想通り、賑やかね♪」

 

「私達は蒼天のスポンサー兼来賓として来ているのだから、あまりはしゃがないでちょうだい」

 

「あの御方はどこにいるのだろうか?」

 

「・・・・・早く会いに行く」

 

「カヲル殿の下へ訪問し終えたからだぞ」

 

「では、参りましょうか」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

 

「次は二回戦じゃが・・・・・相手はあの二人のようじゃな」

 

『・・・・・』

 

校庭に設けられた特設ステージにワシらと対峙する対戦相手の姿を見て確認した。

 

「BクラスとCクラス。またしても上位クラスコンビとはの」

 

「ふん、お前らか。この勝負はもらったのも当然だな。友香」

 

「・・・・・」

 

根本が小山に話しかけるも、小山は根本の言葉に同意しない。

あの者の視線は真っ直ぐハーデスに向けられておる。

 

「・・・・・そうね」

 

「それでは、試験召喚大会二回戦を始めてください」

 

今回の立会人は、多少のことには目を瞑ってくれる英語担当の遠藤先生。

 

 

「「「『試獣召喚(サモン)!』」」」

 

この場にいる四人の生徒の召喚獣が出現する。

 

 

             『英語W』

 

Cクラス 小山友香 165点 & 199点 根本恭二 Bクラス

 

 

 

 

流石はBクラスとCクラスの代表コンビ。ワシらFクラスの数倍以上の点数を得ておる。

 

 

            『英語W』 

 

Fクラス 木下秀吉 22点 & 1点 死神・ハーデス Fクラス

 

 

 

 

対するワシとハーデスの点数が表示される。この手の科目は得意じゃないから必然的に

この点数じゃが、ハーデスはワザとこの点数をしておるから本来の点数は如何程じゃろうかの?

 

「くたばれFクラス!」

 

『・・・・・』

 

根本の召喚獣が真っ直ぐハーデスの召喚獣に迫る。小山の召喚獣は一歩も動かん。

様子見か漁夫の利を狙っておるのか定かではないが、警戒しておくに越したことはない。

 

「ちぃっ!ちょこまかと避けやがって!」

 

必死に武器である鎖鎌を振るうのじゃが・・・・・攻撃が当たる雰囲気ではない。

サーカスの劇団みたいに軽やかな動きをし、相手の動きを翻弄し、隙が出たら敵の体勢を崩して

立ち直るまで攻撃をしない。そんな繰り返しをしばらく繰り返しておると。

 

『・・・・・飽きた』

 

ハーデスがそれだけワシに伝えると、敵の召喚獣の体勢を崩した後に敵の顔面に絶え間なく

殴り続けた。その連続の打撃に点数も凄い勢いで減り―――0点になった。

 

「そ、そんな・・・・・!」

 

愕然とする根本を余所にワシは小山に問うた。

 

「小山よ。お主は戦わんのか?」

 

「止めておくわ。返り討ちに遭うのが火を見るより明らかだもの。

私より点数が高い根本(・・)君がいい実証人になってくれたわ」

 

それだけ言って小山は特設ステージから降りて行った。

 

「ま、待ってくれ友香!これは何かの間違い―――!」

 

情けなく追う根本。

 

「勝者、死神・木下ペア!」

 

これで三回戦進出決定じゃな。

 

―――☆☆☆―――

 

「ただいまなのじゃ・・・・・。む?あまりお客がいないようじゃの」

 

繁盛していた喫茶店内にお客はほとんどいなかった。

 

「あ、戻ってきたのね」

 

椅子に座って暇そうな態度をする川神が声を掛けてきた。

 

「今回もハーデスの一人勝ちじゃ。して、この状況は一体どうなっておるのじゃ?」

 

「わからないわ。少しずつお客さんが来なくなっちゃって」

 

「営業妨害とかは?」

 

「されていないわよ?」

 

ワシは首を傾げる。ハーデスはどう思うじゃろうか?振り向いたら、

 

「はーい♪遊びにきたわよー」

 

『・・・・・な、何でお前らがここに・・・・・!?』

 

「なに面倒くさい伝え方をしているのよ」

 

「あ、正体をバレちゃいけないからですか?」

 

「ですが・・・・・もう少しマシな変装をしてもいいかと思いますよ?」

 

な、なんじゃ。この者達は!?何時の間にいてハーデスを取り囲んでおるのじゃ!?

 

『『『『『いらっしゃいませーっ!』』』』』

 

男子達が水を得た魚のように、ようやく来た(美女)に歓迎した。

 

「「「・・・・・!」」」

 

「お前達、どうしたのじゃ?」

 

川神、椎名、クリスが警戒を露わにした。

 

「あの人達・・・・・かなり強いわ」

 

「うん・・・・・全然隙がないよ」

 

「気配すら感じなかったぞ・・・・・」

 

むぅ、その手の事は分からんからなんと反応して良いものか・・・・・。

取り敢えず、強いという事だけは伝わったのじゃ。

 

「お客様。この島津学人が席までご案内いたします」

 

変態的な顔を浮かべる島津が恭しくお辞儀をして手を差し伸べる。じゃが―――。

 

「オイゴラ!島津、なに自分だけ良い思いをしようとしているだ!」

 

「須川会長!ここに異端者が出現しました!」

 

「よかろう!かの異端者を捕縛した後に異端審問会を開く!」

 

『YES!MYROAD!』

 

あっという間にハーデスと同じ仮面とマントを羽織り、島津に襲いかかった。

 

「ぬおっ!?おいこら、なにしやがる!」

 

『黙れ、この異端者め!我らの鉄槌を食らうが良い!』

 

「くそ、ここじゃ暴れにくいから戦略的撤退だ!」

 

島津が教室からいなくなり、FFF団も島津を追う。

その際、「し、死神の集団!?」と悲鳴が聞こえたのは無視しよう。

 

「・・・・・今の、あなたの配下か何かかしら?」

 

少女の問いにハーデスはフルフルと首を横に振り。

 

『・・・・・何時の間にか複製されていた』

 

「そう、赤の他人なのね?」

 

コクリとハーデスは肯定する。

 

「ふーん。兵にしたら面白そうね」

 

「集団行動の熟練も中々だと見受けれました」

 

な、なんじゃと・・・・・!?この者達の考えていることは理解しがたい・・・・・!

 

「えーと、ハーデスと親しそうなんですけど、どういった関係で?」

 

師岡の訊ねに彼女達はこう言った。

 

「私達は蒼天の者よ。『試験召喚システム』にも関わっているわ」

 

「そ、蒼天の人達!?」

 

「そーよ♪私の名前は雪蓮。よろしくね」

 

「って、雪蓮。名前を教える必要があるの?今日はスポンサーとして来ているだけなのよ?」

 

「いいじゃない。個人の自由でさ」

 

雪蓮という者が朗らかに笑う。

 

「・・・・・(パシャパシャパシャ)」

 

ムッツリーニがこの手のことに関してぬかりはない。

じゃが、『試験召喚システム』を開発した国のスポンサーにそれはいささか失礼―――。

 

「失礼」

 

美しい黒髪をサイドに結んでいる少女が、何時の間にか手に持っているの武器であった。

 

「ふっ!」

 

「・・・・・!?」

 

刹那。彼女はあろうことかくムッツリーニに振り下ろした!いきなりの暴挙に、

ムッツリーニは自前の身体能力で回避した。

 

「いきなり何するんですか!?」

 

「そうよ!土屋が一体なにをしたって言うのよ!」

 

島田と姫路が食って掛かる。が、澄ました顔で黒髪の少女は答えた。

 

「無断で私達の姿を写真に収めるのは失礼でしたので、フィルムごとカメラを斬っただけです」

 

カメラを・・・・・?ムッツリーニの方へ振り向けば・・・・・。

 

「・・・・・お、俺のカメラが・・・・・」

 

真っ二つになったカメラに身体を震わせてショックを受けておるムッツリーニの姿。

その光景に島田も見て怒りを露わに叫ぶ。

 

「撮られたぐらいで、カメラを壊すことなんてないじゃない!」

 

「・・・・・では、あなたは無断で写真を取られても問題ないと仰りたいのですか?

無防備であられもない姿を、もしかしたら脅迫のために撮られる写真を」

 

「そ、それは・・・・・!」

 

「もしそれが良いと仰るのであれば・・・・・あなた今すぐここで衣服を脱ぎ棄てて全裸となり、

彼に写真を取られるべきかと」

 

な、何と言う物言い方なんじゃろうか・・・・・。正論であるが為、言い返す言葉がないが

それはあんまりだとワシは思う。

 

「そして、私達は安易で公にされてはならないのです。どうぞ、ご理解いただけると感謝します」

 

「命を失わないだけでも幸運よ。私達は殺生ができる権利だって得ているから、

例え警察沙汰になっても無条件で『今回の事件は何もなかった』とされるものね」

 

―――――っ!?

 

「いい?蒼天はそれほどまで絶大的な権力を有しているの。

裏で世界の半分を掌握している蒼天はね。だから人が一人二人死のうとっ―――!?」

 

そこで少女の言葉が途絶えた。その理由は、ハーデスが少女の頭に手刀を放ったからだ。

 

「な、なにするのよ・・・・・!?」

 

ハーデスはスケッチブックで伝えた。

 

『・・・・・蒼天の印象を悪くするな』

 

「だって、あなた・・・・・」

 

『・・・・・』

 

無言の圧力を掛ける。あの髑髏の仮面に赤い眼光は、初めて接する者に畏怖の念を感じさせる。

 

「・・・・・分かったわ。ごめんなさい」

 

『・・・・・分かればいい』

 

徐に少女の頭を撫でる。まるで子供を宥めた後の扱いじゃな。

 

『・・・・・しばらく学校にいるのか?』

 

「そうですよ?カヲルさんと話も終えましたし、後は自由時間です♪」

 

『・・・・・じゃあ、暇なんだな?』

 

「確かに暇ですが・・・・・それがなにか?」

 

ハーデスの質問の真意は次で分かった。

 

『・・・・・一緒に手伝え』

 

―――☆☆☆―――

 

「いらっしゃいませー!ようこそ中華喫茶ヨーロピアンへ!」

 

なんだ、ここは・・・・・!?僕、吉井明久が雄二と途中で出会った

小さな女の子と共に教室に戻ってきたらFクラスの教室の入り口からズラリと

客が立ち並んでいる光景を見て唖然となっていた。

 

「おい、こりゃどうなっているんだ?」

 

「僕にも分からない。取り敢えず入ろう?」

 

僕達がFクラスだと言いながら何とか教室の中に入る。

すると、見知らぬ少女と女性がFクラスの皆と働いていた。

 

「おお、明久と雄二。ようやく戻ってきたか」

 

「あ、うん。でも、これってどうなってんの?」

 

秀吉が話しかけてきた。うっすらと額に汗が浮かんでいてとても煽情的だった。

 

「ハーデスと同じ出身者達と共に働いてもらったら、あっという間に客がわんさか来たのじゃ」

 

『おい!食材が足りなくなったぞ!』

 

『誰か買出しに行ってくれ!』

 

『よし、風のように俺が行くぜ!』

 

・・・・・みたいだね。凄い繁盛じゃないか。

 

「どうしてハーデスと同じ国の人がここに?」

 

「詳しくはよう分からんが、どうやら学園長と話しをしに来たらしいんじゃ。

ハーデスが一緒に店を手伝ってくれと頼んだら今に至るのじゃよ」

 

「まあ・・・・・ここの学校の生徒だけでしろと言われているわけじゃないからな。

これは良い誤算だ」

 

そうだね。それじゃ、次の試合まで頑張るとしますか。

 

『お前達か。他のクラスで迷惑行為をしているという生徒達は』

 

『げっ、鉄人!?』

 

『お前達をキツーイ指導をしてやるから覚悟しろ!』

 

『俺達は何もしちゃいねぇよ!』

 

『黙れ!ありもしない発言行為及び、二年Sクラスからお前達が大声で話をして

迷惑だと訴えられている!営業妨害とみなし今日一日は補習室で過ごしてもらうぞ!』

 

『『そ、そんなっ!?』』

 

なんだか、聞き慣れた声と悲鳴が聞こえてくる。僕には関係ないことだけど。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「あれ、代表。どこにいくの?」

 

「・・・・・特設ステージ」

 

「試合はまだのはずだけど?」

 

「・・・・・死神と優子の弟の試合を見に行く」

 

「ああ、そういうこと。視察しに行くってこと?」

 

丁度休憩時間の時、代表が出し物で着ているメイド服を着替えずそのままどこかへ

行こうとしている様子にアタシは納得した。そんな代表に私もついて行く。

 

「でも、秀吉はともかくあの死神の点数を見ても1点で戦うんでしょ?

見ても大した情報もないわ」

 

「・・・・・保健体育で1000点という隠し玉みたいなことがあるかもしれない」

 

うぐ・・・・・あの時のことを言っているのね・・・・・。

アレはいくらなんでも勝ち目はない。Sクラスとならいい勝負ができそう。

 

「・・・・・それに見ないより見ていれば対処方法も考えれる」

 

「ふーん。代表って死神のどこが好きなの?あの骸骨の仮面を被ってて不気味とは思えない?」

 

気になったことを真っ直ぐ代表にぶつける。正直、あの仮面を被っている限り

慣れ合いなんてできそうにない。なんというか、近寄りがたいのよね。

 

「・・・・・私は小さい頃、助けられたから」

 

「代表、何か遭ったの?」

 

「・・・・・最初の出会いは小学校だった」

 

へぇ、小さい頃からなんだ。

 

「・・・・・私が周りからいじめられた時に彼は現れて助けてくれた」

 

「同じ小学校だったんだ?」

 

「・・・・・違う。彼は雄二を会いに来た時に私がいじめられているところを

目に入って助けてくれたの」

 

坂本君を会いに来た・・・・・?違う学校の子が違う学校に来るなんて珍しいわね。

 

「・・・・・それ以来、彼と私は会うことはなかった。

でも、私が中学一年の時、とある事件に巻き込まれたの」

 

「事件って大丈夫だったの?」

 

「・・・・・うん、彼がまた私の前に現れて助けてくれた。

その時、父が運営している会社が蒼天の会社と同盟を結ぶための集会に来ていた。

でも、父のライバル会社が蒼天の会社と同盟をするって情報を聞きつけて、

父の命を狙った騒動が起きた」

 

そんなことが遭ったんだ・・・・・。

 

「・・・・・その時だった。私はその騒動に巻き込まれ、殺されかけた時に死神が助けてくれた。

それから。物凄く申し訳なさそうに何度も謝ってきたの。自分たちの不注意だって」

 

「死神ってすごく強いのね」

 

上靴を外出用の靴に履き替え校庭に出る。

 

「・・・・・強かった。あっという間に犯人を亀甲縛りで縛り上げたから」

 

「ちょっと待って。とても信じられない結び方の名前が出たわよ?」

 

「・・・・・本人曰く『俺に牙を剥く奴ら限定でSだから』だって」

 

い、意外・・・・・そんな性格なんだ。死神って・・・・・。

 

「でも、代表が言う死神と今の死神の性格と言動がちょっと似つかないような・・・・・?」

 

「・・・・・正体を隠しているからだと思う」

 

「正体って・・・・・蒼天の出身者なんでしょう?」

 

「・・・・・それもそう。だけど、他にも理由があるかも知れない。だから―――」

 

アタシと代表は観客席に繋がる入り口を通り、会場に踏み込んだ。

 

「・・・・・この大会で死神の仮面を取って、本当の意味で向き合いたい」

 

『三回戦、開始です!』

 

丁度、三回戦の試合が始まろうとしていた。

 

「あの二人は間違いなく準決勝にまで上り詰めてくるわね」

 

「・・・・・うん」

 

「アタシは弟と相手をするわ。代表は死神の方をよろしくね」

 

「・・・・・分かっている。絶対に勝つ」

 

静かな強い決意の炎が代表のつぶらな瞳に宿る。死神・ハーデス。

代表の心を掴むその魔の手は安心して良いかどうか、アタシが確かめるわ。

 

『勝者!死神・木下ペア!』

 

「・・・・・優子、帰る」

 

「何か掴めた?」

 

踵返す代表に問うた。代表はアタシに背を向けたまま言った。

 

「・・・・・あとは実戦で」

 

―――頼もしい発言だわ。それでこそAクラス代表だわ。私も頑張らないと。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。