バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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騒八問

渡良瀬が転校して、それから数日後。待ちに待っていた日食の日が訪れた。

僕達は大和達風間ファミリーの秘密基地の屋上から月と太陽が重なる日を待っていた。だけど、

 

「ハーデス、来ないね」

 

「そうだな」

 

「・・・・・連絡にも出ない」

 

「もしかしたら蒼天の仕事でこれなくなったのではありませんか?」

 

屋上にいないただ一人の友達。姫路さんの言う通り、来れない事情ができたのかもしれない。

だけど、秀吉や秀吉のお姉さん、霧島(姉)さんの表情がなんか思いつめたような面持になってる。

ハーデスが来られない理由を知っているのかな?

 

「おっ、始まったぞ!」

 

その声が聞こえた時はハーデスのことは一先ず意識するのを止めた。空へサングラスを

付けた目を向ければ太陽が黒に遮られる瞬間が目の当たりにした。

 

 

 

『・・・・・この日を待っていた』

 

 

 

太陽が少しずつ月と重なり、

 

 

 

『・・・・・これがラストチャンスだ』

 

 

 

完全に月と太陽が重なるのは数分後、

 

 

 

『・・・・・吉と凶どっちが出るか』

 

 

 

僕達はずっとその瞬間を逃さないとばかり見守っていた。

 

 

 

『・・・・・始めようか』

 

 

そして・・・・・その時が訪れた。太陽と月、地球が一直線に重なり月が太陽の影と成り、

皆既日食となった。

 

 

『――――――』

 

 

その直後。狙っていたかのような、真紅の光の柱が突然姿を現した。

しかもあの真紅の柱・・・・・あそこって学校がある場所じゃなかった・・・・・?

 

「っ!なに、この今まで感じたことのない力は」

 

「あの光の・・・・・アタシ達の学校じゃない?」

 

「だよね・・・・・」

 

なんで、学校からあの光が発生したのか分からない。

だけど―――秀吉達が動き出したことで僕達も行動を始めた。

 

―――神月学園―――

 

なんだ、これは・・・・・。グラウンドに幾何学的な魔方陣が展開している

その中心部にイッセーさんとハーデスがいた。あの二人がこの光を発生させている原因か!

 

「イッセーさん!ハーデス!」

 

呼び掛けても反応がない。聞こえているはすだけど無視しているのか。

 

「いったい、なにを始めようとしている?」

 

「分からない、だけど平和的じゃなさそう」

 

このまま、なにもしないでいた方が良いのかそれすら分からないでいる。

あの人が他の人に迷惑を掛けるような人じゃないって俺達が良く知っているからだ。

蒼天の何か特大な催しの準備なのかすら思えてしまう。

 

「見て、空が!」

 

仲間の声に反応して空を見上げれば、青い空だったはずの景色はなにか、映し出して揺らめいている。

・・・・・町?空一面に蜃気楼のように町が見えてくる。

そして、日食が大きな穴を作り出してゲートみたいに広がった。

 

「・・・・・ははっ」

 

イッセーさんが遠い目で空を見る。異常な現象が発生したって言うのに。

 

「はははははっ!」

 

高らかにの人は哄笑している。

 

「やっぱりそうだったか・・・・・やったぞ・・・・・実証できた・・・・・!」

 

「ハーデス君ッ!」

 

「工藤?」

 

悲痛にハーデスの名を呼ぶ工藤からとんでもない一言が。

 

「いやだよ、帰っちゃ嫌だよ!」

 

「・・・・・帰る?」

 

イッセーさんがどこかに帰る・・・・・?蒼天に帰るぐらいなら俺達は納得する。

あの国はもう知っての通り、あの人が数十年懸けて築いた国なんだから当たり前のことだ。

でも、工藤の様子はなんかおかしい。工藤はイッセーさんの何を知っているんだ?

 

「おい!あんた、空に何をしたんだ答えろ!ハーデスもだ!」

 

「・・・・・」

 

坂本の追及にイッセーさんは初めてこっちに向いた。

 

「お前らには関係のないことだが・・・・・いいだろう、教えてやる」

 

イッセーさんはそう言いながら空に一瞥した。

 

「あの空に映る町はこの世界とは違う世界の町の風景だ」

 

「違う世界の町・・・・・?あんた、何を言ってんだ?」

 

俺の疑問は皆の疑問でもあるはずだ。俺たちの疑問に肩を竦めだしたイッセーさん。

 

「お前の要望通り答えたのに坂本雄二は目の前の現実を受け入れるのにまだまだガキだな」

 

呆れ顔で坂本にそう言った彼は、

 

「今が全て現実だ。それさえ受けいれば全て納得できて、お前らの疑問は直ぐに解消される」

 

両腕を広げて演説みたいに言う。両手に地球儀みたいなものが魔方陣の出現と共に出てきた。

 

「俺は異世界とこの世界、二つの世界に繋げるゲートができるかどうかを実験していた。

それが今、二つの世界は次元を超えて繋げることに成功した。太陽と月、

そして地球が重なるこの短時間限定だがな」

 

「・・・・・イッセーさん、二つの世界を結ぶゲートを開いてどうするつもりなんですか」

 

「言っただろう、実験だと。ま・・・・・このまま俺は異世界に帰っても良いがな」

 

「帰る・・・・・?あんた、何を言って・・・・・」

 

「―――優子はとっくの昔に俺のことを気付いているのに、直江大和は未だに気付かないようだな」

 

っ!?木下の姉が・・・・・イッセーさんの何かを知っているだと・・・・・?

 

「イッセーさん。さっきからフルネームで呼んでいるけどどうしてなんですか?」

 

「まるでハーデスみたいだよな。俺達が知っている中でフルネームで言う人って」

 

仲間がそんな疑問をぶつけた。だけど俺はそんな事より、

木下(姉)がイッセーさんの何かを知っている事実に今更ながら頭をフル回転している最中だ。

なんだ、俺はイッセーさんの何を気付いていない。くそ・・・・・情報が足りないっ。

 

「ガクト、良い線言っているな」

 

「はっ?」

 

「死神・ハーデスなんて名前の奴は存在しない架空の人物だ。

何せとある理由でこの学校に送り込ませたんだからな」

 

イッセーさん、なにを言いたいんですか?送り込ませたって

まるでスパイみたいな言い方じゃないですか。

 

「死神・ハーデスの正体は・・・・・この俺自身だ」

 

『     』

 

突然のあの人の爆弾発言に思考が停止して空白の状態が続いた。だけど、最初に言ったのが、

 

「お兄様、ハーデスの正体がお兄様だなんて冗談でしょう?アタシ達はこの目でハーデスの素顔を見たことがあるのよ?」

 

ワン子だった。ああそうだ。俺達はハーデスの正体を見た。

その後、キツいお仕置きを受けたがな・・・・・っ。

 

「知ってるよ」

 

「え?」

 

「これだろう?ハーデスの素顔は」

 

徐にあの人は自分の髪を自分の手で短く切り落とし、頭全体を撫でる瞬間に黒く染まり、

目を覆った手を離せば金色の目が黒い目になっていた。

そう、それがハーデスの正体・・・・・!当のハーデスも骸骨の仮面と黒いフードを

剥ぎ取って素顔を晒した。それを見て俺は何とも言えない感情が湧きあがるのを自覚した。

なんで・・・・・どうして・・・・・ハーデスがもう一人あんたに

なっているんだよ・・・・・!?信じられない光景を目の当たりにした俺の目は

もう一人のイッセーさんが、ハーデスが煙と成ってイッセーさんを残して消えた。

 

「俺が死神・ハーデス。この数ヶ月間、ずっとお前らと共に学校生活を送り、

試召戦争をし、バカをやって、楽しい時間を過ごした死神・ハーデスだ。

なっ、林冲、楊志、史進、武松、公孫勝、史文恭、エスデス、遼子、秀吉と優子、翔子に愛子。

それに英雄と与一、弁慶、義経、信長、正宗、燕、百代、ユウキ」

 

『なっ・・・・・!?』

 

挙がった名は思いもしなかった友人の名ばかりだった。

 

「おい・・・・・何バラしているんだお前」

 

姉さんがイッセーさんに尋ねた。それが本当にイッセーさんがハーデスの正体であると

言う明白な発言だった。

 

「もう隠す必要が無くなった。そう判断したんだ俺は」

 

「・・・・・異世界に行くからか?」

 

何故か臨戦態勢の構えをする姉さん。だけど姉さんはあの人には勝てない。

例え逆立ちになってもだ。

 

「あくまで俺はこの神月学園に導入した試験召喚システムの調査をする為に来た。

カヲルは色々と失敗もしてきたが成功もしている事実が確認している。だから、

もうシステムの調査をしなくても問題ないと俺は決断した。よって俺は、正体を明かすことにした」

 

「そんなことすれば、世間に注目されて大騒ぎをするとお前は言っていたではないか」

 

「いえ・・・・・英雄。あの人の言葉の真意を考えると・・・・・イッセーさんはもしかすると」

 

冬馬は真剣な眼差しでイッセーさんを見やる。

 

「あの人は、イッセーさんは蒼天に戻るのではないでしょうか。文字通り学校を中退する形で」

 

「なんだと?」

 

「おー、葵冬馬。良く分かったな。ま、それがこの学校の規則だ。

学校を辞めたいなら中退するしかないだろう?」

 

英雄が怪訝になる余所にイッセーさんは否定すらしなかった。マジかよ・・・・・俺達、

何も知らずハーデス(イッセーさん)とこの学校を通っていたのかよっ。

いくら仕事だからって、俺達の前に、横にいたのに拘わらず

どうして・・・・・どうして・・・・・。

 

「「「「「「教えてくれなかったんですか!イッセーさん!」」」」」

 

ワン子、京、ガクト、モロ、キャップと一緒に悲痛に叫んだ。

あの人は・・・・・イッセーさんはこう言った。

 

「何度も説明した言葉だがお前ら、俺が旅人だと知って毎日のように纏わりつくだろう?

俺は真剣にシステムの調査をする為の時間がどうしても欲しかったんだ。

悪いがお前らと遊ぶ暇のないから正体を隠す為に変装をしていたんだ」

 

「じゃあ、何で姉さん達は知っているんですか!これじゃまるで俺達は仲間外れですよ!」

 

「色々と遭ってなぁ・・・・・俺の正体がバレたりバラしたりとかそんな機会が遭ったんだ。

無論、他の誰かに俺の正体を教えたりしたら記憶を抹消するとおど―――じゃなかった

釘を差していたからお前らが俺に気付くことができないのは無理もない」

 

いま・・・・・脅しと言おうとしたよな絶対に。あいつら、それが嫌で俺達に言えなかったのか。

記憶を消されるのがどんなに辛いのか分からないが、大切な思い出と時間、

体験をしたあの日の記憶が消えるなんて嫌過ぎるよな・・・・・。

 

「だが、お前らには悪いと思っていたのも事実。信じられないだろうし信じてもらおう

なんて思っちゃいない。騙すような形でお前らと接していたしな」

 

「イッセーさん・・・・・」

 

苦笑を浮かべつつ申し訳なさそう、バツ悪そうに言う。だけど・・・・・。

 

「俺達に対してあの言動に、本当に悪いと思っていたんですか?」

 

「いや、思う存分楽しませてもらったぜ?ハッハッハッハッ!」

 

この人・・・・・やっぱり何も変わっちゃいない!

性別を転換させたあの時も絶対に楽しんでいたはずだ!

 

「で・・・・・イッセーよ。異世界と繋げてこれからどうする気だ?この世界に何らかの影響は生じないのか?」

 

「この世界には何の影響もないだろう。天変地異になるほどの強い力を放ったわけではない。

それと繋げてこれから俺はどうするかと言うと・・・・・」

 

そこで口を止めたイッセーさんに影が迫っていた!

 

「ここでお前を倒してやる!」

 

―――神童!?あいつ、イッセーさんを倒そうと敵意を剥き出しにしている。

対してイッセーさんは自然体で神童に目を煌めかした途端に神童がピタリと映像が

停止したように止まって動かなくなった。

 

「・・・・・イッセー・・・・・さん・・・・・?」

 

「動きを止めただけだ。後で・・・・・おっ、招かざる客達が来たか」

 

イッセーさんが向けている視線の方へ辿ると、俺達以外にもグラウンドにやって来た

見知らぬ少年と少女、男性や女性。中には見知った面子もいる。さらには―――

 

『見つけたわよイッセー!』

 

赤、青、白、緑の大きな四体のドラゴン達がグラウンドに舞い降りた。それだけじゃない、

ドラゴンの身体に少女や女性が乗っている。誰だ・・・・・?見たことのある少女も

一緒にいるから蒼天の幹部達か・・・・・?青のドラゴンがイッセーさんに近づく。

 

『朝からあなたの姿が見ないと思ったらここにいたし、この異変も知っているわよね。

色々と聞かせてもらうわよイッセー』

 

『イッセー、私達に他にも隠し事があったなんてね』

 

『ご主人様、一体何をしようとなされているんですか?』

 

『教えてください!ご主人様!』

 

この声って・・・・・まさか東西南北の王達・・・・・?

嘘だろう、彼女達も正体はドラゴンだって言うのか!?

 

「・・・・・桃花、華琳、雪蓮、月」

 

イッセーさんは静かに四匹のドラゴンに目を向けた。

 

「俺がいなくとも蒼天はお前達の協力すればこれまで通り問題はないだろう。蒼天はお前らに託す」

 

『『『『えっ!?』』』』

 

蒼天を・・・・・あの四人の王に託すって・・・・・どうして?

あの国はイッセーさんがいないとダメじゃないか。

 

「事実、四人だけで蒼天を纏めている。もう俺を頼ることなくお前ら四人でやっていける」

 

『な、何を言っているんですかご主人様!?

あの国は、ご主人様がいるからこそ蒼天は存在しているじゃないですか!』

 

『一方的に託されて良い迷惑よ。

あなた、中央区の王としてその発言はどういうつもりなのか説明して』

 

『そうよイッセー。言って言いことと悪いことだってある事を知っているはずよ。

なのにどうしてこのタイミングで言う必要があるの』

 

『私達四人とご主人様がいるからこその蒼天です!誰一人欠けたら蒼天は―――』

 

白いドラゴンが言いかけたその時、黒い無数の羽が降って来た。

 

「ごきげんよう」

 

「は・・・・・?」

 

十二枚の黒い翼を生やす少女。その姿は堕ちた天使・・・・・。黒い長髪に紫の双眸、

神月学園の制服を身に包む見知らぬ女が宙に浮いたまま挨拶をしてきた。

その女にハーデスは金色の双眸を細くして言葉を発した。

 

「・・・・・まさか、お前のような存在がいたとはな・・・・・それで俺に何か用か?―――堕天使」

 

堕天使・・・・・あの女が堕天使だと?そんなファンタジーな事、とてもじゃないが信じられない。

 

「あなたにお礼が言いたいの。私も元の世界に帰れるから」

 

「・・・・・なら、アザゼルにも再会できるということか」

 

「そう、再び甦り強くなった私をあの方に認められる。それこそ私の最大の願い。

だけどその前にやらないといけないことがあるのよね」

 

魔方陣を発現して紫のダイヤを出した。そしてどこからともなく堕天使の隣に森羅が現れる。

あいつ・・・・・あの女のことを知っていたんだな。

 

「相手があなたと知って物理的に倒せないなら・・・・・封印する事であなたを

無力した方が手っ取り早いと考えたの」

 

「・・・・・っ!」

 

「貴方はドラゴン。ならば当然発動キーはこうでしょう。―――封龍!」

 

ダイヤが禍々しく光り輝きイッセーさんが吸い込まれる。

 

「イッセー!?」

 

「神は・・・・・ここまで・・・・・俺を・・・・・!」

 

俺達の目の前でイッセーさんはダイヤの中に吸い込まれた。

同時に光りもなくなって後に残ったのは

イッセーさんがダイヤの中に吸い込まれた光景を見守っていた俺達と神童、森羅に

堕天使とだけとなった。

 

「はは、ははは、ははははははっ!やったわ、見事に私は兵藤一誠を倒したわ!」

 

宙に浮かぶ堕天使はダイヤを掲げながら哄笑した。

イッセーさんが・・・・・負けた・・・・・?。

動きを停めていた神童も動き出して現状に困惑している様子を窺わす。

 

『あなた・・・・・っ!』

 

『ご主人様を返してください!』

 

『さもなくばここで殺すわよ』

 

『私達は本気です』

 

堕天使を囲む四人の王とその幹部達。殺気立って睨みつける

彼女達は本気だということが肌で感じる。

 

 

『・・・・・アカメ、俺達はどうするよ?』

 

『標的の暗殺が俺達の任務なんだが・・・・・』

 

『その標的がああなっちゃ、あたし達の出番はないんじゃない?』

 

 

見知らぬ少年と少女達が意味深な会話をしているがそれどころじゃない

イッセーさんが封じられたダイヤが堕天使の身体の中に沈み込んだんだ。

あれじゃ、手も足もだしようがない

 

「凄い・・・・・これがドラゴンの力なのね・・・・・っ!」

 

堕天使の全身から凄まじいプレッシャーが感じ、押し潰されそうな感覚が強いられるっ。

 

「どう?言った通り倒して見せたわよ」

 

「封印と言う形でね?」

 

「一言多い人間だわね。ま、いいわ。最強の力を手に入れたことだしこれで私は―――」

 

その時、影が堕天使に迫った。しかし、堕天使の翼が横薙ぎに払って突風を起こした。

激しい風にぶつかって影はそれ以上の進行ができず、

 

「ハーデスを、返せっ!」

 

後輩の紺野が必死に立ち向かう背が見えた。風が治まると凄まじい勢いで駆けだすが

 

「あら、あなたの同類がこっちにくるわね」

 

「お前もその類に入るけどね。―――おっ、来たか」

 

森羅が意味深な事を言う。その言葉の意味は・・・・・新たに二人の男がグラウンドに

現れ紺野を弾き飛ばした。

 

「遅かったね。イレギュラーは封印の形で倒したよ」

 

「おいおい・・・・・マジで?すげぇな」

 

「にしてはギャラリーが多いな」

 

見知らぬ男達・・・・・。そして堕天使・・・・・なんなんだこいつらは・・・・・。

 

「返せよ・・・・・ハーデスを・・・・・ハーデスを返せよっ!」

 

「無理よ。もう私の力の一部となっているから。それとも同化したと言えば分かるかしら?

私と彼は一つになったの」

 

「ハーデスが簡単にやられないっ!ボクは信じている!」

 

「目の前で起きた現実と光景に受け入れられないんて愚かな人間ね。

いいわ、手に入れた力でそれを証明してあげる」

 

不敵の笑みを浮かべ、何かしようとした堕天使を警戒していた――その時だった。

神月学園にまで聞こえるほどの弾ける音が聞こえた。

 

「・・・・・なんだ?」

 

辺りを見渡し、何の異常もない事を悟り今度は異世界と繋げていた日食に、

目を月に向けたらそこに驚愕的な光景が起きていた。

 

「・・・・・何の冗談だ、あれは」

 

地球から見える月と太陽が重なった皆既日食。

そこから―――大量のドラゴンが出て来て空を我が物顔で舞っていた。

 

『な、ド、ドラゴンンンッ!?』

 

『ちょっと待ちなさいよ。ドラゴンって守護龍とイッセー以外いなかったんじゃなかったの!?』

 

『ええええええええ!?こ、これどうしたらいいんですかぁっ!』

 

『へうへうへうへうぅぅぅっ!』

 

混乱する面々にさらなる驚愕の光景が。現れるドラゴンと混じって巨大な船が姿を現し始めた。

巨大な船が日食からゆっくりとだがその姿を晒し、ついには地上からでも

分かるほど巨大な船が大量のドラゴン達と空に威風堂々と顕現したのだった。

 

「あれ・・・・・船?」

 

「・・・・・」

 

「それしか見えないだろう。―――なんだアレは!?」

 

ドラゴンだけでも驚くのに今度は船!?まさか宇宙船か?

異世界から飛行する巨大物体、船が日食から現れたぞ!

 

「うわ・・・・・なんか凄いことになってるよ」

 

「事情が知らない俺達でも圧巻だ」

 

「この世界、どうなるんだ?」

 

それは生まれてからこの世界に生きている俺達も知りたい。侵略でもしに来たのか?

イッセーさんが開いた異世界の奴らがドラゴンを率いて・・・・・。

 

「私・・・・・生き残れるかな」

 

「イッセーがいない世界なんて・・・・・」

 

「もうこの世界は終わりかもね」

 

仲間が、友達が半ば諦めかけている。姉さんでも倒せなかったドラゴンがあんなにいる。

現代の世界中の兵器・武器が通用するのかすら怪しい。

 

 

バサッ!

 

 

力強く羽ばたく音が聞こえる。その原因は綺麗な鱗に覆われている巨大な一匹のドラゴンがグラウンドに舞い降りたからだ。鈍い音を鳴らしつつ着地して

 

『・・・・・』

 

ドラゴンはキョロキョロと何かを探している仕草を、目をいろんな場所に向け、

首を忙しなく動かす。そしてついにジッと堕天使を見詰める。何かを確かめているのか

それとも警戒しているのかグラウンドにいる面々がそう思っていると、

 

『・・・・・なるほど、そういうことですか』

 

人語、ドラゴンが人間の言葉を喋った。―――このドラゴンもメリアやグレンデルのように

喋ることができるのか!

 

『堕天使、直ぐに貴方の中に宿している者を解放しなさい。さもなくば酷い目に遭いますよ』

 

「いきなりしゃしゃり出てきたドラゴンに、この最強の堕天使のレイナーレ様が言う事を聞くと

思うのかしら?」

 

レイナーレと名乗った堕天使が嘲笑する。

 

「それとも、あのドラゴンを全部私に攻撃を仕掛けてみる?私は一向に構わないわよ。

逆に全て滅ぼしてやるから」

 

『・・・・・最終警告です堕天使レイナーレ。今すぐに兵藤一誠を解放しなさい』

 

「嫌よ。返して欲しければ力尽くでも奪ってみなさい」

 

拒絶したレイナーレ。ドラゴンは深い溜息を吐き、

 

『・・・・・愚かな堕天使です。兵藤一誠を解放すれば生きながらえていたものを』

 

憐れと籠った言葉がレイナーレに向けられる。そしてドラゴンは空に向かって咆哮する。

―――次の瞬間だった。グラウンド中に幾何学的な魔方陣が出現して、魔方陣の光と共に

誰かが姿を現した。そんな奴らにドラゴンが話しかけた。

 

『兵藤一誠は堕天使の中に封印されています。殺さず生きたまま捕えてください』

 

「―――そうか、解った」

 

ドラゴンの言葉に反応したのは、真紅の長髪に金色の双眸・・・・・イッセーさんを

思い浮かばせる女性が肯定した。というか彼女も含めて

こいつらは誰なんだよ・・・・・。敵か・・・・・?味方か・・・・・?

 

「・・・・・何者、あなた達」

 

「あら・・・・・誰かと思えば、あの時私に殺された堕天使レイナーレじゃない」

 

「っ!」

 

レイナーレの表情が一変した。レイナーレを殺したと発した赤い髪で黒いスーツ姿の女性だった。

そんな彼女を見て堕天使はさっきの余裕はどこにやらと、顔を強張らせ声すら震えていた。

 

「お、お前は・・・・・!まさか、異世界というのは・・・・・っ!」

 

「ええ、私達の世界よ堕天使レイナーレ。―――よくもイッセーを封印してくれたわね。

どうやってしたのか分からないけれど、あなたからイッセーを抜きだすのに造作もないから」

 

「ふっ、ふふふっ!バカね、今の私はあの時の私ではないの!今の私は最強で至高の堕天使!

敵を圧倒する力を有していてドラゴンの力も手に入れた私に勝てると思っているならば

それはとんだ―――!」

 

「・・・・・はぁ」

 

赤い髪の女性が溜息を吐いた。なんだろう、あの可哀想な子を見る目をするのは。

 

「あなた、死んで私達の世界がどれだけ時間が経っているのか知らないでしょう。その間、

私達もそれ相応に強くなってるの。―――最強の力?ドラゴンの力?

そんなもの、今の私達には関係ないわ」

 

「なんですって・・・・・!なら、私の力を食らってみなさい!」

 

極太の光の槍が一瞬で作り、赤い髪の女性に向かって投げ放った!

 

「あ、危ない!」

 

誰かがそう叫んだ。だけど、彼女はフッと小さく口角を上げて・・・・・。

 

「あなたと最初に出会った時の私より成長した姿をとくとご覧あれ」

 

両腕、両足に赤と黒が混じった何かに包まれ、

背中に蝙蝠の翼を浮かばせる六対十二枚の赤黒い巨大な翼。十二枚の翼が大きく広がり、

前方に盾のように展開した途端に極太の光の槍が直撃して、

吸い込まれていくように消えて無くなった。

 

「なにっ!?」

 

「私の魔力の力、忘れたわけじゃないでしょうね?私の力は消滅。全てを削り滅する」

 

「くっ・・・・・!お前達、あいつらを倒しなさい!」

 

森羅達に指示を下した。あいつら、実力は分からないが危険分子なのは変わりない。

ここは俺達も加勢した方がいいんじゃないか?

 

「・・・・・」

 

黒いワンピースを身に着け、胸にペンダントを垂らす細い四肢を覗かせている腰まで

ある黒髪の小柄な少女がトコトコと森羅達の前まで近づいた。

 

「ん?なんだこの女の子」

 

「おいおい、こんな小さな女の子が俺達と戦うって?」

 

「―――――こいつだけはヤバい!おい、離れんぞ!」

 

「なに?おい、どういうことなのか説明しろ!?」

 

一人が顔を真っ青にしてもう一人の男の手を掴んで急に離れた。

 

「あ、あの子・・・・・危ないよ!助けにいかないと!」

 

明久が慌てるのも分かる。俺もそうしたいがこの張り詰められた緊張の中を安易に

動いてはならないと気がしてしょうがない。

 

「イッセー、返す」

 

「あ?」

 

「我、怒ってる。イッセーを返す」

 

「何言ってんだこの子。彼は彼女の中に封印されているんだよ。

どうやって返して良いのか分からないよ?」

 

森羅が優しく声を掛ける。小さい女の子だからか戦う気はないのか。

 

「―――イッセーを返せ」

 

刹那。淡い光を帯びた手が二人に突き出したと思えば大爆発が起きた。

・・・・・はい?どうなっているんだ?あの子は・・・・・。

 

「お、おいお前らっ!」

 

あっ、逃げた奴まだいたのか。もう一人の奴はいないが・・・・・。

 

「どこでもいいから安全な場所まで避難しておけ!その女の子は無限の体現者、

ドラゴンの中でも最強の『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスっていうドラゴンだ!

姿形は人間に見えるが正体はドラゴンなんだ!」

 

ドラゴン・・・・・?あの女の子が・・・・・?え・・・・・マジで?って、あっ!

 

「―――アイツがあんなこと言っているが、相手がドラゴンなら殺せるだろう!」

 

何時の間にかオーフィスという女の子に迫っていたもう一人の男!

 

「我、無限。だから死なない」

 

「―――っ!?」

 

何時の間にか男の背後に回っていたオーフィスの手が淡い光を纏っていた。

 

「イッセーの敵は我の敵、皆の敵。だから、倒す」

 

「う、うおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

振り返り様に鋭く横薙ぎに振るった小太刀はオーフィスの華奢な身体に

傷つけることなく男は爆発した。す、凄い・・・・・。

 

「だ、だから言ったのに・・・・・」

 

悲観的に漏らした別の男・・・・・。知っていたからこそ逃走を図っていたんだろう。

だけど、味方が聞き入れず攻撃してしまったからあんな目に・・・・・。

あっ、でも体まで木端微塵じゃないからな?全身黒コゲの状態で気絶しているから

死んじゃいないから大丈夫だ。

 

「オーフィス・・・・・ですって・・・・・」

 

目元を引くつかせ、嫌な汗を流していたレイナーレ。最強のドラゴンと最強の堕天使、

どっちが強いのか分からないが無限の力を有しているならあのオーフィスって女の子の

勝ちなのだろう。

 

「ん、最後はお前」

 

「じょ、冗談じゃないわよっ!オーフィスと戦って勝てるわけが・・・・・!」

 

足元に展開した魔方陣。奴の焦りと行動を見るからして・・・・・逃げる気か!?

察した俺はオーフィスの味方に告げようと口を開いた。

 

「おいお前ら!そいつは逃げようとするぞ!?早く捕まえないと―――!」

 

「黙れ、既に解っておるわ」

 

難か知らないけど真紅の髪の女性に窘められたんだけど。

なにこの人、怖いんだけど・・・・・ぐすん。

 

「和樹」

 

「もうやってるよ」

 

朗らかに笑む男が指を弾いた時、レイナーレの足元の魔方陣がガラス細工のように

割れてしまって逃げれなくなった。

 

「ま、魔方陣がどうして!?」

 

「僕は魔法使いだからだよ堕天使。だから相手の魔方陣の術式を破壊することだって

朝飯前なんだ」

 

「たかが魔法使いにこの私が・・・・・!」

 

「その魔法使いにやられ、今度は俺に倒されるんだよこのバカ天使が!」

 

左手に緑の宝玉がある赤い籠手を装着した少年がレイナーレの懐に飛び込んでいた。

 

「お、お前はっ!」

 

「またテメェと会うなんて心の底から最悪だ!だから、俺の一撃を食らいやがれ!」

 

全身から赤いオーラが迸り少年を包みこみ、赤い鎧へと具現化して装着していく。

 

「これが今の俺だ堕天使レイナーレェエエエエエエエエエエッ!」

 

「い、いやぁあああああああああああああああああああああっ!」

 

龍を模した赤い全身鎧を纏う少年の拳がレイナーレの腹部に深く抉る。そして遠くまで

殴り飛ばされたのだった。

 

「あの女をたった一撃で・・・・・」

 

「強い・・・・・何て強さなんだ・・・・・」

 

「あれが異世界の人間達の強さ・・・・・」

 

 

『おい、あそこまで吹っ飛ばす必要がないだろう』

 

『・・・・・先輩、連れて来てください』

 

『えええ!俺がかよ!?』

 

『さっさと行って来い』

 

 

しかも、パシらされているし。最後にレイナーレを倒した男が。

扱い方が雑過ぎだろう・・・・・。

 

「―――――ふん」

 

真紅の髪の女性が俺達に目を向けてくる。な、なんだよ・・・・・。

 

「この世界の人間か。大方、一誠と交流している奴らだろう」

 

「・・・・・あんた、誰よ」

 

「何もせずただ見守っていただけの人間に我が名乗ると思うか」

 

「な、なんですって!?いきなり現れて何て言い草なのよ!」

 

島田が激怒するもあの女は既に俺達から視線を外している。それでも、

 

「あ、あの・・・・・」

 

紺野が恐る恐る尋ねる勇気は凄いの一言だ。

 

「ハーデス・・・・・いえ、イッセーは助かるんですか?」

 

「・・・・・」

 

紺野を一瞥しただけで何も答えようとしないのか。そう俺は思ったが、

 

「無論だ。我らは一誠を会いに来たのだ。どんな姿であれ、我らはアイツを受け入れる。

まさか封印されていたとは思いもしなかったがな。

まったく、あやつは修行を疎かしていたのであれば久々に・・・・・」

 

不穏な空気が漂い始める。なんか、聞いてはいけない単語が聞こえてくる。

砂漠を一週間歩かせるだの、北極と南極に一ヶ月間だの色々と・・・・・。

 

「(イッセーさん・・・・・御武運をお祈りします・・・・・)」

 


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