バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

8 / 84
よろしく、第二問

拝啓。桜色の花弁が徐々に姿を消し、代わりに新緑が芽吹き始めたこの季節。

僕らの通う神月学園では、新学年最初の行事である。『清涼祭』の準備が始まりつつあった。

お化け屋敷のために教室の改造を始めるクラス。焼きそばのために調理道具を手配するクラス。

この学校ならではの『試験召喚システム』について展示を行うクラス。

学園祭準備のためのLHR(ロングホームルーム)の時間は、

どの教室を見ても活気が溢れている。そして、我らがFクラスはというと―――。

 

『明久!こいっ!』

 

『勝負だ、ガクト!』

 

『てめぇの球なんざ、場外まで飛ばしてやる!』

 

『言ったな!?こうなれば意地でも打たせるもんか!』

 

準備もせずに、校庭で野球をして遊んでいた。

 

 

 

 

 

 

「あー、二年Fクラスの出し物は中華喫茶に決定ー」

 

俺こと直江大和は校庭で野球をしているバカ共を余所に、

数少ないメンバーと『清涼祭』という学園祭の出し物を決めて今しがた決まった。

 

「ねえ、ウチらで勝手に決めていいの?」

 

「こっちはそれなりに学園祭に向けて真面目にやっている。

んで、あっちは学園祭の準備すらやらず遊んでいる。発言権は俺達に有りだ。

後から何を言われようと、既に決まったことだ。文句は言わさない」

 

『・・・・・同意』

 

ハーデスもスケッチブックを前に出しながら頷く。この教室にいる女子と男子共に問う。

 

「んじゃ、取り敢えずこのメンバーの中からホールとキッチンのメンバーを決めよう。

まずは料理ができる奴は手を挙げてくれ」

 

キッチンメンバーを決めるために皆に訊ねたところ―――。島田、

ハーデスをはじめFクラスの数少ない女子である小笠原千花、甘粕真与が手を挙げた。

よし、俺も含めてこのメンバーをキッチンにしよう。

 

「あ、あのー直江君。私も手を挙げているんですけど、

どうして見向きもしてくれないんですか?」

 

―――お前が料理に劇薬を入れるからだ!

 

「ああ悪い、姫路はホールの方が適切なんだよ。適材適所ってやつだ。

姫路の可愛い容姿と抜群なスタイルで客寄せを頼みたい」

 

「わ、私もお料理がしたいです」

 

『・・・・・』

 

「ハーデス!頼むから教室に血で汚すようなことをするな!姫路を何とかホールにして

もらうように説得するから!」

 

姫路の発言に大鎌をどこからともなく取り出すハーデスに苦労が絶えない俺だった。

 

「ねえ、姫路って料理できないの?」

 

「小笠原、できるできないの問題じゃないんだ・・・・・。後で教えるから何も言わないでくれ」

 

「ふーん?分かったわ」

 

ふぅ・・・・・キッチンの方はこの四人にしよう。

 

『貴様らッ!学園祭の準備をサボって何をしているか!』

 

『全員鞭叩き10回だ!』

 

もうすぐ戻ってくるだろうあいつらも聞かないとな。

 

「じゃあ、ホールの方は・・・・・ハーデスは無理だな。その姿じゃ」

 

『・・・・・悪いな。試験召喚大会で宣伝ぐらいはしておく』

 

「大会に出るのか?商品が目当て?」

 

俺たちが通うこの神月学園には、世界的にも注目されている『試験召喚システム』

というものがある。今年はその注目されているシステムを世間に公開する場として、

清涼祭の期間中に『試験召喚大会』という企画が催されるらしい。

俺はこれといって興味がないけどな。

 

『・・・・・俺の存在を世界中に知らしめる』

 

「お前、どれだけ出しゃばりなんだよ・・・・・」

 

『・・・・・冗談。優勝賞品に興味深い腕輪がある。それが欲しい』

 

「ああ、そう言えばそういうのがあったな」

 

まっ、ハーデスが出るなら間違いなく優勝できる。あの大会は二人組まないと参加できない。

 

「って、『試験召喚システム』を開発した蒼天から来たお前に直接貰えないのか?」

 

『・・・・・本国から稼働データのためと送られてくるなら話は別』

 

「なるほど。学園側がお前を贔屓するわけもないか」

 

蒼天の出身者とは言え、この学校にいる限りは一生徒。ということか。

 

ガラ・・・・・。

 

校庭で野球をしていた奴らが戻ってきた。・・・・・何人か恍惚の表情を浮かべているのは

無視しよう。クラスメイト全員が戻るや否や、鉄人が教卓の前に立った。

 

「どうやら、学園祭の催しは決まっているようだな?」

 

「はい。俺達だけで決めさせてもらいました」

 

「お前だけがまともな生徒でいてくれて俺は正直安心している」

 

・・・・・なんと返事をして良いやら。

 

「さて、お前らに伝えないといけないことがある。

―――このクラスに転入生が加わることになった」

 

『はい?』

 

この時期に転入生・・・・・?

 

「先生、本当ですか?」

 

「教師が生徒に嘘を吐くものか。お前達が不思議がるのも無理ないが受け入れろ」

 

鉄人は顔と視線を教室の扉に向け、入って良いぞと告げた。

扉は開き、この教室に転入生が入ってきた。金の長髪に赤いリボンが結ばれていて、

瞳が青い外人の少女が鉄人の隣に立った。そして、彼女は口を開いた。

 

「私の名前はクリスティアーネ・フリードリヒ!ドイツ・リューベックより推参!

この寺小屋で今より世話になる!」

凛々しく、ハキハキと軍人のように自己紹介をした。

 

「おおお、金髪さん!可愛くね?マジ可愛くね!?」

「超、当りなんですけどぉぉぉぉぉ!!!」

 

『うおおおおおおおっ!金髪美少女キタァァァァァァァァァッ!』

 

凛とした声と立ち振る舞いに、男子達は見惚れていた。興奮していた。

 

「へぇ、ドイツから来たんだ」

 

モロが感嘆の声を漏らす。

 

「なんだか個性的なキャラが現れたって感じだぜ」

 

キャップは面白そうに笑う。京は興味がないとばかり本に夢中。

 

「あの子、強いわね。決闘を申し込んでみたいわ」

 

ワン子は彼女と戦いたいようで、ウズウズしている。

んで、ガクトは変態顔で彼女を凝視している。

 

「ええい、静まらんかこのバカ共が!」

 

シーン・・・・・・。

 

鉄人の一喝により、Fクラスが静寂に包まれた。

 

「すまんな、このクラスはバカしかいない。

頭を抱える学校生活になるかもしれんが我慢してくれ」

 

「大丈夫です。問題ございません」

 

「うむ、いい返事だ。空いている席は・・・・・あの髑髏の仮面を付けている生徒の隣だ」

 

「分かりました」

 

クリスティアーネは視線を自分の席に向けた時。一人の男子が手を挙げた。

 

「クリスティアーネさん!質問いいですか!?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「じゃあ、クリスティアーネさん。俺と付き―――」

 

『異端審問会を開く!』

 

『『『『『了解でございます!』』』』』

 

「って、ぎゃああああああああっ!」

 

・・・・・Fクラス男子達が殺気立っている・・・・・。

俺も彼女と話しただけで異端審問会に掛けられてしまうのか・・・・・。

 

「・・・・・なんだ、アレは?」

 

「ああ、アレは気にしなくて良いわ。クリスティアーネさん。

ドイツ出身なのね?ウチもドイツの帰国子女なの」

 

「おお、そうだったのか。えと名前は・・・・・?」

 

「ウチは島田美波。趣味は吉井明久を殴ることよ☆」

 

「・・・・・それは趣味といえるのか?」

 

言えない!そんな物騒な趣味を外国人の転入生に教え込むな!

 

「ねえねえ、クリスティアーネ!」

 

ワン子?

 

「自分としてはクリスと呼ばれることを希望する」

 

『『『『『クリスさぁああああんっ!!!!!』』』』』

 

『『『『『『『『『『愛しているうぅっ!』』』』』』』』』』

 

「・・・・・すまない。恋愛事はまだする気が無い」

 

Fクラス男子の殆どが地に伏して血の涙を流した・・・・・・。

 

「じゃあ、クリス。なにか武道とかやっているの?」

 

「フェンシングを小さい頃からずっと」

 

「YES!じゃあ、あなたの腕を確かめたいわ!」

 

ワン子はワッペンを取りだした。そのワッペンを見た皆は目を丸くする。

 

「おいおい、マジかよ?」

 

「うはっ!久々に決闘が始まるのかよ!」

 

この神月学園には『試験召喚システム』の他にも切磋琢磨、

相手に直接肉体的な意味で決闘を申し込むこともできる。この町は武家の家系が多いから純粋な

力比べ、物事を決着を白黒つけるために決闘も行うことがある。

 

「クリスティアーネ。川神はお前に歓迎の義をしたいそうだが。お前の意志はどうだ?」

 

「なるほど、新入り歓迎ですね?分かりました。受けて立ちます。―――ただ」

 

「む?」

 

「私は・・・・・あの髑髏の仮面の者と決闘をしてみたいです」

 

―――☆☆☆―――

 

『これより、第一グラウンドで、決闘が行われます。内容は武器有りの決闘。

見学者は第一グラウンド―――』

 

グラウンドに学園祭の準備をしているはずの生徒達が集まってくる。

本人達の希望があれば見学不可もできるが。

他のクラスや違う学年も面白がって集まってくるのでお祭り状態だ。

 

「ハーデス、大丈夫かしら?あいつ、強いわよ?」

 

「大鎌を軽々と振るうぐらいだから・・・・・それなりに戦えるだろう」

 

グラウンドの方へ目を向ける。

 

「これより、神月学園伝統、決闘の儀を執り行う!

二人とも、前に出て名乗りをあげるがいい!」

 

この学園の理事長である川神鉄心が審判を買って出ている。

 

『・・・・・二年Fクラス、死神・ハーデス』

 

「今日より二年Fクラス!クリスティアーネ・フリードリヒ!」

 

「ワシ、川神鉄心が立ち会いのもとで決闘を許可する。

勝負がつくまでは、何があっても止めぬ。

が、 勝負がついたにも関わらず攻撃を行おうとしたらワシが介入させてもらう、

良いな?」

『・・・・・了解』

 

「承知した」

 

「いざ尋常に、はじめいっっっ!!!!!」

 

理事長の開始宣言と共に決闘は始まった。

 

「参る!」

 

『・・・・・』

 

クリスが鋭く突貫する。手に持っている武器はレイピア。

全身を使うスポーツでもあるため、身体能力も高いはずだ。

 

「はぁっ!」

 

狙いを違わず、クリスのレイピアはハーデスの身体に吸いこまれるよう貫いた―――!

 

「って、えええええええっ!?」

 

「さ、刺さった・・・・・?」

 

信じられないと唖然になる。いくらなんでもあっさりすぎる。

だが、誰から見てもハーデスの身体にレイピアが刺さっているのが分かる。

この後、どうなるんだ?様子を窺っていると、

 

「―――いや、あの髑髏の仮面の男は防いでいるぞ」

 

「ね、姉さん!?」

 

「よお、弟よ。何だか面白そうなことになっているじゃないか」

 

俺より身長が高く、赤い双眸に甘い香りがする黒い長髪にドギマギしてしまう。

 

「姉さん、防いでいるって・・・・・?」

 

「マントを貫いているが、その中身はどうなっているんだろうな?」

 

姉さんの言葉に俺は改めてハーデスを見やると、ハーデスの腕がマントから出た。

クリスが突き付けたレイピアの先端を摘まんで受け止めていた。

 

「な?」

 

「・・・・・あいつ、簡単にクリスの攻撃を受け止めたってのか」

 

「それだけじゃないんだ。あの仮面の奴、まったくの気を感じさせない。

気を完全に抑え込んでいる」

 

「え、それって・・・・・」

 

「ああ、武の達人だ」

 

ハーデスが動く。レイピアを摘まんだまま、もう一方の手を鋭くクリスの顔に伸ばす。

 

「っ!」

 

クリスは上半身を反らして、片足を薙ぎ払うように振るう。

その足を避けることもなくハーデスは

彼女の胸倉を掴んだ。そして、そのまま横薙ぎに振り回しながら空高くジャンプをして―――。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

背中からクリスをグラウンドに激しく叩き付けた!?

 

「がっはぁっ・・・・・!」

 

『・・・・・』

 

何時の間にかレイピアを奪っていてそれをクリスの首元に突き付けた。

 

「そこまで!勝者ハーデス!」

 

あっという間に決着がついた。あいつ・・・・・強かったのか・・・・・。

 

「あいつ、少しも本気を出していないな」

 

「え、マジで?」

 

「ああ、さっさと終わらせるために倒したようだな。

―――――はは、こいつは面白い奴を見つけたぞ」

 

そう言って姉さんがハーデスの下へと歩み寄った。

その時、ハーデスに弾丸の如く赤い何かが飛び掛かった。

ハーデスは自分に向かってくる何かを察知し、腕で防いだ。

 

「久しいですね。死神」

 

その正体は赤い長髪に眼帯を装着している軍服を身に包んだ女性だった。

ハーデスの腕に鉄製のトンファーがぶつけられていた。

というか、彼女はハーデスと知り合いなのか?

 

「次は、私と勝負しなさい」

 

『・・・・・』

 

女性の言葉にハーデスはフルフルと首を横に振った。

 

「何故です?」

 

『・・・・・』

 

「・・・・・なるほど、分かりました。必ずですよ」

 

何を分かったんだ!スケッチブックで伝えられたわけでもないのに何が分かったんだ!?

 

「あれ?美人なお姉さんだな。誰だ?」

 

「私はマルギッテ・エーベルバッハだと知りなさい。

今日より二年Sクラスに所属します。武神、川神百代」

 

んなっ、よりによってSクラスかよ!戦力が増強しているじゃないか!

 

「おー、よろしくな。それはそうと、死神だっけ?私と勝負しよう♪」

 

「こら、モモ!既に決闘は終わりじゃ!さっさと自分のクラスに戻って学園祭の準備をせんか!」

 

「えー!いいじゃんか、ちょっとぐらい!」

 

『・・・・・』

 

ハーデスはさっさと帰ろうとなのだろうか。クリスを担ぎ校舎の中へと戻ろうとしていた。

その時、クリスの身体が淡く光るのが見えた。あれって・・・・・。

 

「いや、見間違いか。あんなことできるのは旅人さんだけだし・・・・・」

 

―――☆☆☆―――

 

午前の授業は終わり、僕達はクリスさんも誘って屋上に昼食会を開いている。

 

「クリスさん、身体は大丈夫?」

 

「ああ、強く背中を打った程度だ。死神・ハーデス。やはり強いな」

 

「え、ハーデスと知り合いなのか?」

 

「いや、私が敬愛している軍人から聞いたんだ。骸骨の仮面を被った

黒いマントの者が紛争地域で敵の血を一滴も浴びず、

次々と首を刎ね飛ばしていくところを何度も見掛けたと」

 

『・・・・・』

 

それを聞いて、僕達はハーデスに目を向けた。召喚獣も相手の召喚獣の首を刎ねていたけど、

それってリアルでもしていたから簡単にできていたってこと・・・・・?

 

「ほ、本当にお前は人を殺したのか・・・・・?」

 

『・・・・・』

 

ハーデスはスケッチブックに書いて、僕達に伝えた。

 

『・・・・・戦争で苦しんでいる人間を解放するために敵をさっさと倒したまでだ』

 

首肯の意味の言葉がスケッチブックに書かれていた。

だからだろう、姫路さんや島田さんが顔を青ざめる。

 

「彼には何度か世話になっていると父からも聞いた。

まさか、この地にいたとは予想外だったが」

 

『・・・・・蒼天は苦しんでいる人間をできるだけ救う為の国でもある』

 

「そうか、騎士道精神な奴だな」

 

クリスさんは嬉しそうに微笑む。

 

『・・・・・さっきはすまなかったな』

 

「気にするな。自分が未熟だったから敗北したんだ。次は負けない」

 

『・・・・・何時でもどうぞ』

 

「ん?蒼天だと?」

 

あ、そっか。クリスさんは知らないんだっけ。彼女の疑問は雄二が答えた。

 

「ハーデスは蒼天の出身者なんだ」

 

「なんと、それは驚いたな。蒼天の軍事力を父様は気になっているのだ。

知っていれば教えてはくれないか?」

 

『・・・・・極秘扱い。だから無理』

 

「そうか・・・・・それは残念だ」

 

唯一、蒼天の事を知っているハーデスだけど、

やっぱり秘密なことはそう簡単には教えれないよね。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。