バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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騒五問

―――2-A―――

 

 

ザワザワ・・・・・。

 

 

・・・・・教室がザワついている。何か不思議なことが起きたわけではない。

またこの教室に新しい転入生が加わるから。

 

「神童光煕です。皆さん、よろしくお願いします(ニコリ)」

 

・・・・・肩までかかる金髪に澄んだ空色、顔の容姿も整っていて美形。

だから笑った顔も綺麗・・・・・。

 

『・・・・・』

 

・・・・・ザワついていた教室がピタリと止まった。どうしてなんだろうと辺りに

視線を見渡すと、クラスメート(女子)の皆、優子と愛子を除いて顔が赤くなっていたり

胸に両手を当てたりとして熱い視線を教卓の前に立っている転入生へ一心に向けていた。

・・・・・男子の皆は心なしかつまらなさそうにふてくされている。

 

「高橋先生、俺の座る席はどこですか?」

 

「空いている席がありますからそこに座ってください」

 

「分かりました」

 

・・・・・転入生は高橋先生にも笑みを浮かべ、自分の席に座ろうとこっちに来る。

その際、クラスメート達に「よろしく」と改めて挨拶をしながら。

 

「よろしくな」

 

・・・・・そして私にも声を掛けてきた。私は返事をする代わりにコクリと頷いて応じる。

 

「可愛いなキミ」

 

・・・・・他の皆とは違い、何故か頭を撫でられた。どうして頭を撫でるのか分からないけど、

彼は笑みを浮かべ自分の席に向かった。

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

・・・・・一時限の授業が終わって、少しだけの休憩時間。

この時間は私達の行動が二つ選択を決める。

一つはハーデスのところに行く、二つは教室で優子達と話をする。

・・・・・優子と愛子がこっちに来る。

 

「代表ー行こっか」

 

・・・・・愛子がそう言うことはハーデスのところに行くということ。

断わる理由もないから席から立ち上がって残り少ない時間を無駄にしない為にも

Fクラスに行く。そう思っていたけれど・・・・・。

 

「ねぇ、この学校の案内をしてくれない?」

 

・・・・・神童が頼んで来た。だけど、幸運にも。

 

『神童君!学校の案内なら私がするわ!』

 

『ズルイ!私も案内したいっ!』

 

『私もよ!』

 

・・・・・クラスメート(女子)達が一斉に神童に自分がと買って出て主張し始めた。

その間に私達はFクラスに行くことができて一安心・・・・・。

 

「なんか、あの転入生いけ好かないわ」

 

・・・・・いきなり優子が顔を顰めて言いだした。

私と愛子はそんな事を言う優子に珍しいと思った。

人の悪口は滅多に言わないから本当に珍しい。・・・・・だから愛子は珍しいものを

見る目で優子に話しかけた。

 

「優子がそう言うなんてね。もしかして代表の頭を撫でたからなのかな?」

 

「そうよ。いきなり初対面の女の子の頭を撫でる普通?

まるで狙ってやったかのような感じだったし」

 

・・・・・優子がそこまで考えていたなんて。私はそこまで気にしていなかった。

 

「・・・・・私は気にしていない」

 

「ああいう奴は警戒しておいた方がいいわよ。女慣れしてそうだし」

 

「そんな風には見えないけど、分かったよ」

 

「代表も。私達は見知らぬ男子に散々な目に遭っているんだから。

だから彼はアタシ達にこれをくれたのよ」

 

・・・・・胸元に触れる優子。制服の中には首にかけている十字架がある。

私達もハーデスに言われた通り肌身離さず食べる時もお風呂に入る時も寝る時も付けている。

・・・・・人は見掛けに寄らない。ハーデスもそうだったから。

二人と話しているとFクラスの教室が見えて来て扉を開けると、

 

「「「・・・・・」」」

 

『・・・・・』

 

・・・・・大きな銃を持ったハーデスと床に死屍累々が出来上がっていた。

 

「・・・・・これ、なによ?」

 

 

―――2-F―――

 

 

秀吉のお姉さん達がクラスの凄い惨状に目を丸くしながらも教室に入って来た。

 

「ハーデス、何してんのよ」

 

『・・・・・妬みで襲われたから』

 

「うむ、突然襲いかかっての。ま、見ての通りじゃがハーデスに返り討ちされたがの」

 

ハーデスの彼女=秀吉のお姉さん達が休憩時間に来ることは既に日課みたいになって

いるから来る前に潰そうと魂胆みたいだったけど秀吉の言う通りになったわけだ。

ハーデスが持つ銃の弾丸は男の急所だけ当たって須川君達は怒りと殺意よりも急所から

来る激痛に苛まれているだろう。っと、霧島さんがハーデスの前に座って頭を突き出した。

 

『・・・・・?』

 

彼女の様子に小首を傾げたものの、包帯だらけの手で霧島さんの艶のある髪を梳かす

感じで撫でるハーデスだった。

 

「・・・・・やっぱり、こっちがいい」

 

『・・・・・どうしたんだ?』

 

工藤さんが説明に買って出てくれた。

 

「今日ね、またボク達のクラスに転入生が来てさ。代表の頭を突然撫でたんだよ」

 

『・・・・・』

 

またAクラスに誰かが入って来たというのか。でも、こっちには精強揃いで

心強い味方がいるから今のところまだ安心できる。

でも、ハーデスはAクラスの増強より・・・・・。

霧島さんを自分のものだとばかりギュッと抱きしめた。

 

「・・・・・ん、ハーデス」

 

とても幸せそうに彼女は目を細めてハーデスの胸に顔を埋める。

ふと、姫路さんと島田さんの姿が目に入った。

なぜだか羨望の眼差しを霧島さんに向けている。ああ、そうか。

 

「ねぇ、ハーデス」

 

『・・・・・なんだ?』

 

「姫路さんと島田さんにもやってあげたら?」

 

きっと彼女達もハーデスに抱きしめられたいんだと思い指摘した。だけど何故だろう、周りから深い溜息が吐く音が聞こえるのは。

 

『・・・・・お前、女になっていろ(ガチャ)』

 

「な、なんでぇえええええええええええっ!?」

 

性別を換える中から放たれた怪しい光が僕を包みこむ!い、いやぁああああああっ!

 

「明久よ・・・・いくらなんでもそれはな」

 

「・・・・・死んでも気付かない」

 

「バカに薬はないってか」

 

「ハーデスがあんなことする理由、なんとなくわかったぜ」

 

「え?なになに、アタシは分からないわよ」

 

「ワン子が分からなくて良いと思う。これ、男の問題だからね」

 

女になってしまった僕を余所に好き勝手に言う皆。ぐぬぬ、何か釈然としない!

こうなったら・・・・・っ。

 

「えいっ!」

 

雄二に両腕を伸ばす。あいつも僕が掴みかかろうとしている事を既に気付いていて

嫌な笑みを浮かべながら、僕の手を掴んで力の根競べをしてくれた。

 

「おいおい明久。女になったお前が俺に敵うと思っていたら大間違いだぞ?」

 

「・・・・・ふっ、僕が何も考えずにしたと思ったら痛い目に遭うよ」

 

「ほう?それは面白いことを言うじゃないか。なら、俺に勝つ方法があるんだな?」

 

「雄二、キミは間違ってる」

 

今度は僕が不敵の笑みを浮かべた。

 

「あ?」

 

「僕の狙いはこうだよ最初からっ!」

 

勢いよく両腕を上に挙げ、摑んでいた雄二の手を放すとその隙に奴の身体に抱きつき、

 

「きゃーっ!雄二に襲われる!霧島(妹)さん助けてぇーっ!」

 

「んなっ!?」

 

奴は大きく目を見開いて僕の言動に大慌て!

 

「て、テメェ明久ぁっ!」

 

「ふはははっ!雄二、キミの人生の墓場はもうすぐだよ!」

 

何時までも男に抱きつくなんてこっちから願い下げ!離れて不敵に高らかに笑った!

雄二は憎々しげに僕を睨むが、この後に起きるビジョンが奴の脳裏に

ハッキリと浮かんでいるのか、腰は既に逃げ腰だ。

 

 

ガラッ

 

 

「っ!」

 

扉が開く音と同時に雄二の身体が跳ね上がった。そして、扉から―――。

 

「そろそろ授業だぞ三人とも。遅刻はしてはいけないからな」

 

金髪に空色の瞳の見知らぬ男子が・・・・・霧島(妹)さんの手を繋いだまま入って来た。

 

「・・・・・翔花、そいつ誰だ?」

 

「雄二・・・・・忘れたの?」

 

「は?」

 

「小さい時から・・・・・雄二と私と一緒にいたじゃない」

 

霧島(妹)さん・・・・・?なにを言っているんだ・・・・・・?

 

「おい翔花。何をふざけているんだ。俺が見ず知らずのそんな男と小さい時からずっと

一緒にいた記憶なんてないぞ」

 

「雄二は忘れているだけ・・・・・」

 

「そうだぞ雄二。お前、神童って言われていたのにFクラスの代表になってから

記憶力が低下してんじゃないか?」

 

名も知らない男子が苦笑を浮かべる。だけど対して雄二は困惑と苛立ちが混ざった

表情で声音も若干、低くなってる。

 

「てめぇ・・・・・本当に誰だよ。馴れ馴れしく翔花と手を繋いでよ」

 

「俺だって雄二。神童光煕だ。それに手を繋ぐも何も俺と翔花は付き合っているんだぞ。

別に不思議じゃないだろう?」

 

神童君と言う男子が信じられないことを言いだす。霧島さんの妹が彼と付き合っている!?

雄二じゃなくて?一体彼女に何が起きたと言うんだ・・・・・?

 

「ふざけんなっ!誰がお前と付き合っているだと!?知るかよ!

おい翔花、お前もお前で何時までもそんな奴の手を握って―――!

 

大股で苛立ちを隠さない雄二が二人に近づこうとした時、

ハーデスが雄二の襟を掴んで引き寄せた。

 

「んだハーデス。今はお前と相手を―――」

 

『・・・・・』

 

刃が備わったトンファーを雄二の首筋に押し付けた。それ以上言うな、騒ぐなとばかりに。

雄二もそれには口を噤んで黙った。ハーデスは一体何をしたいのか僕にはわからない。

神童光煕とか言う男子生徒は満足気に笑みを浮かべた。

 

「三人とも、教室に戻ろうか」

 

『・・・・・お前が先に戻れ』

 

ハーデスが低い声音で喋り出した。

 

「初対面に命令なんて随分上から目線で言うんだな」

 

『・・・・・今日転入してきたばかりの男が初対面の女に頭を撫でたり

手を繋いだりする方が失礼千万じゃないか?』

 

「女の子は優しく接するのが俺のモットーでね。当然じゃない?」

 

『・・・・・じゃあ、そこにいる羽黒も例外じゃないんだな?」

 

トンファーの切っ先をこのクラスの女子の一人に突き付けながら言う。

だが、神童は鼻で笑い、こう言った。

 

「醜い女は女じゃない。ただの豚だ」

 

その一言に羽黒さんは激怒して立ち上がった。

 

「イケメンだからって調子こくんじゃねぇぞコラ!」

 

「しかも仮にも女の子に豚呼ばわりする男なんて最低ね!」

 

「おい千花、仮にもってンだよ仮にもって喧嘩売ってんのか?」

 

「あ、ごめん。言葉の綾よ。気にしないで」

 

実はそう思っていたんじゃないの?そう思っていると

彼は視線を僕らから外して・・・・・姫路さんに向けた。

 

「この教室にも可愛い女子がいるんだな」

 

「え?」

 

「俺は神童光煕。キミは?」

 

「え、えっと姫路瑞希ですが・・・・・」

 

「可愛い名前だね、瑞希ちゃんって呼ばせてもらうよ。俺のことも光煕って呼んでくれ」

 

スッと姫路さんに近づく奴は手を彼女の頭へ伸ばした時だった。

神童君と姫路さんの間に氷の壁が発生して彼女達の接触を阻んだ。

 

「おい貴様、本当に馴れ馴れしいな」

 

エスデスさんっ!?貴女が原因でしたのね!

しかも極道さんも学校に持ってきてはいけない代物を手に持って構えているし!

 

「初対面の女の名前を呼び捨てとは何様だ?」

 

神童は肩を竦めて姫路さんとの接触を諦めたようで教室の入り口に足を運ぶ。

 

「俺は何者かだって?俺は神に愛された神の申し子だ」

 

「神の、申し子だと?」

 

「そうだ。今後とも仲良く付き合おうじゃないか。

その方がお前らにとって良いこと尽くめだぞ」

 

今更仲良くなんてできるわけがないと思うけれどね・・・・・。

霧島(妹)さんの肩と並び、またこっちに顔を向けてくる。

 

「しょうがないからそこの死神の言う通り先に戻ってやるよ。

ただし、神の申し子である俺に指図をするのは今回が最後だ」

 

霧島(妹)さんと手を繋ぎ、教室からいなくなった神童君という男子。

そして静まり返った教室の中、雄二がハーデスの胸倉を掴みかかった。

 

「おい、ハーデス。何で俺を止めた・・・・・」

 

『・・・・・』

 

「答えろハーデス!なんで、なんで俺を引き止めたんだと聞いているんだ!」

 

「よすのじゃ雄二よ!」

 

怒りで顔を歪ませる雄二と骸骨の仮面で表情が分からないハーデス。

そんな二人の間に割り入って必死に場を押さえようとする秀吉。

 

『・・・・・分からなかったようだな』

 

「なにがだ!」

 

『・・・・・あの神童という男。お前を瞬殺するほど強い男だと、

相手の力量を計れなかったようだなと言うことだ』

 

「なんだと・・・・・」

 

神童君が強いって・・・・・全然分からないよそんなこと・・・・・どうして

ハーデスがそれに気付くのかも。ハーデスは雄二に真っ直ぐ赤い目を向ける。

 

『・・・・・翔子の妹をお前はどうしたい?』

 

「何言っているんだお前は・・・・・」

 

『・・・・・お前の返答次第で、翔子の妹はアイツから遠ざけることができる。

お前はあのままでいいのか?そう問うている』

 

「・・・・・」

 

雄二が沈黙した。まるで神童が危険な奴だって言い方だ。

もしかしてハーデスは神童君に警戒しているの?

 

『・・・・・答えろ坂本雄二。今この場でお前が行動を起こさないとアイツは一生、

神童の人形のままだぞ。それでいいか?』

 

「・・・・・っ」

 

ハーデスの催促。雄二は拳を固く握りしめ、大きく振りかぶってハーデスに殴りかかった!

 

 

ガッ!

 

 

『・・・・・』

 

「テメェの言い方は心の底から気にくわねぇ・・・・・」

 

雄二の拳はハーデスの手の平に収まっている。

 

「いきなり現れて翔花と付き合ってるだと抜かすような輩に翔花の

何を知っているんだって言うんだよ!」

 

またハーデスの手の平に向かって拳を振りかぶった。

 

「ふざけんなよ!アイツは、アイツはずっとこんな碌でもない男に、

どうしようもない男に、バカでくだらないクズな野郎の俺の隣を、

片時から離れず好きだと一方的に言ってくる翔花が急に心変わりして

他の男に靡くような女じゃねぇんだ!」

 

「・・・・・雄二」

 

ただただ・・・・・ハーデスに怒りをぶつけているしか見えないけれども、

どうしてなんだろう。雄二が、雄二の心が凄く泣いているようにも

見えるのは・・・・・。しばらくして、雄二は拳を下げてハーデスに口を開いた。

 

「―――ハーデス」

 

『・・・・・なんだ』

 

「頼む・・・・・あいつを、あいつから翔花を助けて欲しい・・・・・っ」」

 

あの雄二がそんな事を言うなんて・・・・・とても信じられないっ。

ハーデスはコクリと頷き、霧島さんに赤い目を向けた。

 

『・・・・・翔子、頼みがある』

 

「・・・・・ハーデスのお願いなら何でも聞く」

 

『・・・・・どうしても翔子しかできないことだ。聞いてくれるか?』

 

「・・・・・ハーデスの望みは私の望み・・・・・言って?」

 

霧島さんに何か頼むつもりのハーデスは、霧島さんにこう言った。

 

『・・・・・これを翔花の指に嵌めてほしい』

 

ハーデスがマントから出したのは何の変哲のない銀色の指環だった。

別に宝石とか指環自体に装飾が凝っているわけでもない。至ってシンプルな指環だった。

 

「・・・・・これだけでいいの?」

 

『・・・・・放課後、神童光煕に不審がられず嵌めてほしい。そしたらその後俺に任せてくれ』

 

「・・・・・わかった」

 

霧島さんは指環を制服のポケットに入れたと思えば、ハーデスの胸に頭を押し付けた。

 

「・・・・・妹を救って・・・・・」

 

『・・・・・分かってる。俺もあいつに用ができたところだったからな』

 

「・・・・・うん、お願い」

 

工藤さんと秀吉のお姉さんと一緒に教室からいなくなった。

 

 

―――2-A―――

 

 

・・・・・放課後になれば私は翔花に話しかけて帰る。

そんな日常を送り続けてきた私達姉妹が

たった一人の男に邪魔されるなんてこの日まで思いもしなかった。

 

「それじゃ帰ろうか」

 

「うん・・・・・」

 

「・・・・・」

 

・・・・・当然のように翔花の肩と並び、私達についてくる。

 

「・・・・・神童」

 

「翔子、俺のことは光煕って何時も呼んでいただろう?」

 

「・・・・・家はどこだっけ」

 

「おいおい冗談はよせって。俺は翔花達と一緒に暮らしているんだぞ?」

 

「姉さん・・・・・どうしたの?」

 

・・・・・神童が私達と住んでいるなんてどうしてそう言えるのか

不思議でしょうがない。私も正気を失っているのだと思っている・・・・・?

 

「・・・・・何でもない」

 

「まったく、翔子は少し物忘れがあるようだな」

 

「・・・・・」

 

・・・・・頭をまた撫でられる。何の意味があるのか分からないけど・・・・・・不愉快。

 

「・・・・・止めて」

 

「おっと」

 

・・・・・手を払い、翔花の手を握る。

 

「・・・・・翔花」

 

「なに姉さん・・・・・?」

 

「・・・・・あなたの誕生日は今日だね」

 

「そうか、もうそんな日か。だったら帰りに翔花の為に―――」

 

・・・・・神童はにこやかに笑みを浮かべそう言ったけれど。

 

「二人とも・・・・・違う」

 

・・・・・翔花が自分の誕生日は違うと否定した。

神童は「え」と呆けた顔で発した後に苦笑いを浮かべた。

 

「ははは、翔子とボケて翔花が突っ込む・・・・・久し振りにやったな」

 

「・・・・・じゃあ、翔花の誕生日は何時だったか分かる?」

 

「それは勿論だ」

 

「・・・・・なら、言って?」

 

・・・・・翔花の彼氏と偽るぐらいなら知っているはず。

・・・・・試す必要がある。彼は口を開いた。

 

「翔子と同じ誕生日で十二月二十五日だ」

 

・・・・・自身に満ちた表情で私達の誕生日を告げた。・・・・・うん、

 

「光煕・・・・・私達の誕生日は四月一日」

 

・・・・・彼はハッキリ間違えた。雄二ならつまらなさそうに言いながらも

当然のように当ててくれる。

 

「・・・・・翔花の彼氏なのに誕生日すら覚えていないなんて、それでも本当に彼氏なの?」

 

「・・・・・っ」

 

・・・・・一瞬、神童の顔が歪んだ。・・・・・やっぱり、神童は翔花の彼氏じゃない。

神童は翔花に偽っている男なんだ・・・・・。

 

「・・・・・翔花、これあげる」

 

「指環・・・・・?」

 

「・・・・・この前、内緒に買った指環」

 

・・・・・・翔花の薬指に指環を嵌めた。

ハーデスから貰ったこれはきっと何か効果があるはず。それを信じて指に嵌めた時、

神童が気を取り直して話しかけてくる。

 

「悪いな、何分海外生活をしていたから忘れていたよ」

 

「海外生活・・・・・?」

 

「・・・・・翔花?」

 

「あれ・・・・・」

 

・・・・・翔花が頭に手をやって何か思いつめた表情になった。

 

「・・・・・どうしたの?」

 

「頭が・・・・・っ」

 

・・・・・翔花の様子がおかしい。どうしたと言うの・・・・・?

 

「翔花、おいしっかりするんだ!」

 

・・・・・神童、翔花に安否を気にするのに―――どうして頭を掴んで翔花の目を覗く

必要があるの。

 

「・・・・・どいて」

 

「なっ・・・・・!」

 

・・・・・強く神童を翔花から突き放して、大切な妹を横抱きにして立ち上がった。

 

「・・・・・保健室に連れていく」

 

「それなら俺が・・・・・!」

 

「・・・・・人の妹の裸を見たいと言うの?」

 

・・・・・動揺する神童に冷たい視線を送る。それだけは許さない。

 

「何を言ってるんだ。俺は翔花の彼氏なんだぞ。心配するのは当然だろう」

 

「・・・・・私はあなたを翔花と付き合っているなんて認めない」

 

・・・・・保健室に翔花を安静させる為に足を動かす。遠巻きで見ていた優子と愛子も

一緒についてきてくれる。

 

 

―――神童side―――

 

 

どういうことだ・・・・・。俺の能力は完璧に発動していたはずだ。なのにどうして

翔花に異変が起きる。それだけじゃない。あの霧島翔子にも能力を発動しているのに

俺の思い通りにならない。他の女共が俺に媚びてくるというのに一部の女子は俺に

警戒するなんてなんでだよ・・・・・っ。クソ、訳分からねぇ・・・・・!

 

「はっ、傑作だね」

 

「あ?」

 

嘲笑う声がした方へ振り返れば、壁に背を預けて佇んでいる銀髪に紫の男がいた。

 

「大方、自分の思い通りにならない事を目の当たりにして苛立っているんだろう?」

 

「誰だよお前・・・・・」

 

「キミと同類だよ新人君」

 

同類・・・・・ああそうか。こいつもそうだったのか・・・・・。

舌打ちをして同類に敵意を抱く。

 

「俺の邪魔すると殺すぞ」

 

「やってみなよ。どんな能力だか知らないけど、そうやって自分が強いんだって

思いこんで勝負吹っかけて負けた時の屈辱を感じる同類の顔を見てみたいと

思っていたんだ。僕の邪魔にもなりかねないしね」

 

それはこっちの台詞だ。同じ同類がいることは聞いていたが俺にとっては邪魔でしかない。

好都合にもこの場には誰もいない。こいつを殺しにも三分も掛からない。

 

「もう一度死ねよっ!」

 

「初心者に教えてやるよ、世界の摂理をさっ!」

 

俺達は一斉に飛び掛かり、相手を叩き潰さんと攻撃を始めた!

 

『喧嘩するなら外でやれガキ共』

 

「「っ!?」」

 

壁から死神の格好をした奴が現れ、横から俺達の顔を掴むとそのまま校庭まで移動した。

そして、地面に思いっきり俺達を叩きつけやがった!クレーターが出来上がるほどにっ!

 

―――☆☆☆―――

 

「テメェ何しやがる!」

 

「僕達の戦いを邪魔しないで欲しいね!」

 

グラウンドに神童光煕と森羅彰がハーデスと対峙した。戦いに横やりされて怒りは

ハーデスに向けられているものの、

 

『・・・・・お前らが暴れるといい迷惑だ。やるならここでやれ』

 

子供を諭すようにハーデスはそれだけ言い残してこの場を後にしようとする。

 

「待てよ!神の子の俺に手をあげてどうなるのかしらないな!?」

 

「神の子?うわ、今時自分にそう言うなんて中二病を患っているおかしい連中しか言えないよ。

まさか、キミは中二病?・・・・・こっちに近づかないでくれる?」

 

「テメェは後で絶対に殺す!まずはお前からだ!」

 

神童光煕がグラウンドにクレーターを作るほどの跳躍力でハーデスの懐に飛び込む。

腕に力を籠めて力強く握った拳をハーデスの背中へ突き出した。

しかし、背中どころか腹を通り抜けてしまいそのままハーデスの前まですり抜けた。

その事実に神童光煕は目を丸くして体勢を立て直したと同時に目を後ろへ向けた瞬間。

黒い手が眼前に迫っていた。

 

 

ゴンッッッ!

 

 

完全に神童光煕の顔面に直撃して遠くまで吹っ飛んだ。しかし、その最中真上から

ハーデスが勢いが付いた飛び蹴りを食らわせまたグラウンドにクレーターを作った。

 

「がっ・・・・・!」

 

『・・・・・くだらねぇ理由で』

 

地面から隆起した土の槍が神童光煕の背を押し上げ、ハーデスの顔まで浮くと黒い手の

裏拳が炸裂した。

 

『・・・・・この世界の人間の人生を狂わせようとするんじゃねぇっ!』

 

再びグラウンドに叩きつけられた神童光煕。だが、直ぐにハーデスから離れると

憎々しげに睨みつける。

 

「調子に乗るんじゃねぇよ!雑魚がぁっ!」

 

全身から闘気を纏いだした。その量は天まで昇るほどだ。

 

「俺は記憶の改変と改竄の他に最強の肉体・無敵の力と不死身―――!」

 

『聞き飽きた。自慢の特典の話はな!』

 

「それと驚異的な動体視力と反射神経もだ」

 

不敵にハーデスの拳を容易くかわして回し蹴りを放った神童光煕の足は、

ハーデスの身体を透けて空ぶる。二人の能力の相性がよくない。

身体を文字通り透けて有機物を通り抜ける能力を持つハーデスに、

相手の動きを動体視力でかわすことが可能な力を得ている。

故にどちらも避けることが逸脱している為、

決着はつかないかと思った。だが、ハーデスはそれだけしか能ではない。

 

「顕現の三・毘沙門天」

 

天から伸びる巨大な足が神童光煕を踏み潰した。川神鉄心より早く繰り出した技は

驚異的な動体視力と反射神経は―――見えなければ意味が成さない。

 

「あいつ・・・・・あんな技まで・・・・・」

 

すっかり蚊帳の外になっていた森羅彰はポツリと漏らした。二人の戦いはまだ続くのを見詰めて。

 

「効かねぇ効かねぇ効かねぇっ!俺にどんな技で攻撃しようが俺は負けない!」

 

神童光煕は無傷のまま立ち上がってハーデスに攻撃を仕掛ける。

そんな相手にハーデスは自分の身体に空ぶる拳と足を見ながら深い溜息を吐いた。

 

『・・・・・お前の力はもう知っている』

 

「・・・・・なんだと」

 

『・・・・・それだけじゃない。お前のとっておきはそれらじゃない。

―――大嘘憑き(オールフィクション)って能力だろう』

 

ハーデスから告げられた最後の言葉に神童光煕は誰でもわかるほどに動揺した。

口にした覚えもないし、そのとっておきがあると素振りした覚えもない。

何時の間に目の前の敵はそこまで見抜いたのか、神童光煕はハーデスに戦慄した。

 

『・・・・・お前のとっておき、さっさと使えば俺をこの世から消滅すらできてただろう。

俺の存在を無かったことにすることも可能だろう。―――だけどお前はそれをしなかった。

その理由はお前の慢心がそうしたんだ』

 

腕を伸ばすハーデスの手の平は神童光煕に突き出された瞬間、神童光煕の足元の影から

幾重の鎖が飛び出して拘束した。

 

『縛』

 

鎖は神童光煕の身体に溶け込む。その目の前の現実に、

完全に自分の身体に溶け込んだ鎖を見てハーデスに吠えた。

 

「何をした!?」

 

『・・・・・お前の能力を封印した。大嘘憑き(オールフィクション)、不死身、記憶、

精神に関する能力』

 

それに女に対する能力もだとハーデスは不敵に言った。

 

『・・・・・他の能力は俺の暇潰しとして残してやる。ただし、この指が弾けば直ぐに

他の能力も連鎖的に封印することができるがな。

例え、俺が死んでもその能力を封印する鎖は解くことはできない。俺しか解除できないからよ』

 

「・・・・・んだとっ・・・・・・!」

 

『・・・・・それと無敵の力って履き違えていないか?無敵は非常に強くて敵対する

ものがいない意味だったはずだ』

 

「それがどうした!?実際にお前は俺の攻撃の威力が怖ろしくて、

臆病者みたいに身体を透かして当たらないようにしているだろうが!それが証拠だろう!」

 

 

―――ガッ!

 

 

振り上げた足がハーデスの頭にぶつかる直前に黒い手で防がれた。

 

『・・・・・転生者ってのはどいつもこいつも、面倒くさい奴らばかりだ。

神から得た力で自分が最強になったと勘違いしているバカが多いんだからな』

 

「何が・・・・・!?」

 

『・・・・・お前ら転生者は全員、俺にとって敵じゃないってことだよ』

 

「っ!?」

 

全身の力が入らなくなり、グラウンドに倒れた神童光煕。自分の身に何が起きたのか

分からないと目に困惑と同様の色が浮かぶ。

 

「お・・・・・お前・・・・・何をした・・・・・っ」

 

『・・・・・敵にペラペラと自分の能力を教えるほどバカじゃない。一日寝ていろ』

 

ハーデスの拳が綺麗に神童光煕の鳩尾に突き刺さり、最強の肉体に激しい激痛が襲った。

それ以降、身体を蹲り痛みに堪える神童光煕から逸らし森羅彰に目を向けた。

 

『・・・・・次はお前か?』

 

「い、いや・・・・・遠慮するよ」

 

冷や汗を流して首を横に振る戦意喪失な森羅彰。ハーデスは少しガッカリだと風に言う。

 

『・・・・・つまらないな』

 

「いや、お主はやりすぎじゃて」

 

何時の間にかハーデスの傍にいた川神鉄心。

 

「お前さん、はしゃぎすぎじゃぞ。もう少し大人しくせんか」

 

『・・・・・善処する』

 

後にクレーターだらけのグラウンドを元に戻し、ハーデスは保健室に赴いた。

 

 

―――保健室―――

 

 

ガラッ

 

「・・・・・ハーデス」

 

『・・・・・具合はどうだ?』

 

「ええ、回復したわ」

 

ハーデスが入って来た。ベッドに横たわっている翔花の顔を覗きこみ、

 

『・・・・・霧島翔花。気分はどうだ?』

 

「うん・・・・・大丈夫」

 

『・・・・・因みに、坂本雄二が金髪の女子大生に鼻を伸ばしていた』

 

「死神、それ本当?」

 

『・・・・・本当だ』

 

何て事を言ってんのよアンタ。だけど、今の会話のやり取りと翔花の反応からして

彼女は正常に戻ったと思っても良いのかもしれない。

 

「・・・・・翔花、あなたの好きな人は誰?」

 

「雄二・・・・・」

 

「・・・・・神童じゃなくて?」

 

「神童じゃない・・・・・私は雄二しか好きになれない」

 

―――良かった!翔花は元に戻っている!

 

「・・・・・ハーデス、何をしてくれたの?」

 

代表がハーデスに問う。そうね、アタシも知りたい。ハーデスにそう視線を籠めていると

翔花が嵌めている指環に指を差した。

 

『・・・・・その指環は三人に渡した十字架のネックレスと同じ効果がある。

その効果によって霧島翔花の変化を正常に戻したんだ』

 

そういうことだったの・・・・・。でも、ただの指環じゃないわね・・・・・魔法の類かしら。

けれども、これでようやく安心できたわ。ホッと安堵しているとハーデスは翔花の

指から指環を外した様子を見守っていると、マントからアタシ達と同じ十字架の

ネックレスを出して翔花の首に掛けた。

 

『・・・・・念のために、それを肌身離さず付けていろ』

 

「死神・・・・・ありがとう」

 

『・・・・・俺じゃなくて坂本雄二に言え。アイツに頼まれた口だからな。

・・・・・動けれるか?』

 

「うん・・・・・行ってくる」

 

翔花がベッドから起き上がって、どこかへ行こうとするから

愛子に頼んで一緒に同行してもらう。

二人が保健室からいなくなると代表が尋ねた。

 

「・・・・・ハーデス、妹はどうしたの?」

 

『・・・・・』

 

その問いの意図は翔花の変化のことだろう。今日一日、翔花はおかしすぎた。

今日初めて出会った男に好意を抱くなんて有り得ない。

それもすでに熱烈な好意の想いを坂本君に向けているのにだ。

ハーデスはどうやって翔花を元に戻せたのか気になる。

 

『・・・・・神童光煕は特殊能力を有していた』

 

「特殊・・・・・能力?」

 

『・・・・・ああ』

 

ベッドに腰掛けた彼は言い続けてくれる。

 

『・・・・・相手の記憶を改竄して自分の都合の良い記憶に書き換えていた。

そして洗脳をしていた』

 

「・・・・・なによそれ」

 

それが事実だとすれば、人として人権を奪った行為をした最低な奴じゃないっ!

 

「・・・・・神童がそんなことをしていたの?」

 

『・・・・・お前達も見ていたから気付いていたはずだ。

今日一日クラスがおかしかったのを』

 

「確かに・・・・・今日はおかしかったわ」

 

特に女子の皆がそうだった。アレは異様過ぎて逆に疑問を抱いたわよ。

そう、神童がそんなことをしていたなんて・・・・・!

 

「だけどハーデス。どうしてアタシ達は何も変化がなかったの?

アタシ達も記憶を書き換えられ洗脳させられていたんじゃないの?」

 

『・・・・・俺が渡した十字架がソレを守ったんだ』

 

このネックレスが・・・・・?表に出して十字架のネックレスを見る。

 

『・・・・・それには魔法を掛けたお守りだと言ったはずだ。

だから神童光煕の特殊な力を受けつけなかったんだ』

 

それじゃ、アタシ達が正常だったのもこのネックレスがあったから・・・・・。

 

「・・・・・ハーデス、ありがとう」

 

代表が感謝した。そうね・・・・・これがなかったらアタシもあんな奴に好きになっていた。

それだけ考えると心底ゾッとする。

 

「やっぱり、アタシ達はハーデスしかいないわ」

 

「・・・・・私は最初からハーデス一筋」

 

『・・・・・やれやれ』

 

ハーデスが徐にアタシ達を抱き締めた。

 

『・・・・・お前達は必ず俺が守る。勝手に俺から離れるなよ』

 

・・・・・なにを言ってんのよ。

 

「アタシ達がそう簡単に離れる軽い女だと思わないでよね」

 

「・・・・・嫌だと言っても私達はあなたの隣に立つ」

 

代表の言葉に頷いて彼の体温を抱き絞められたまま堪能するアタシ達。

 

 

 

 

 

『雄二・・・・・』

 

『っ!翔花・・・・・』

 

『私が知らないところで知らない女の人に鼻を伸ばさない・・・・・』

 

『ちょっと待て!?なにを誤解しているんだお前うぎゃああああああああっ!?』

 

『・・・・・あれ、どうなってんの?』

 

『・・・・・とりあえず、霧島(妹)さんは何時も通りに戻ったって感じだね』

 

『でも、アレを見てほっとしたわ』

 

『・・・・・雄二も元気なかったし』

 

『めでたしめでたしじゃの』

 

 

 

 

『くそくそくそぉっ!よくも俺の能力を封印してくれやがったなあの死神野郎!』

 

『あーあー、面白いぐらいに怒っているねキミ。女の子にモテなくなって残念無念、

良い気味だよ。はははっ!』

 

『てめぇさっきからゴチャゴチャとうるせぇぞ!』

 

『僕の目の前で女の子モテている姿は腹を立てていたから良い気分だよ。

それに今のキミは負け犬だ。嘲笑うのも僕の勝手だろう?はーっはっはっはっ!』

 

『っ・・・・おい、俺に協力しろ』

 

『は?』

 

『俺に協力すればお前は最高の優遇のしてやれるんだ。俺は神の子だからな。

協力してアイツをどんな方法でも封印された能力を解くんだ』

 

『や、嫌だし』

 

『なっ・・・・・』

 

『僕の邪魔になりそうな同類と手を組む気はさらさらないよ。いいんじゃない?

王道的に容姿が整った顔にお金持ち、力もあるんだから好きなように生きていれば。

それとも封印した能力がないとキミは生きていけれないほど臆病のかな?』

 

『―――っ!』

 

『ま、僕もあのイレギュラーに負けたけど能力を封印されるような真似はしていないから。

僕は純粋に最強の座を座る為にイレギュラーを倒す為にいるんだ。キミみたいにゲスな

欲望でしか突き動かされない男と組むなんてこっちから願い下げだ。

せいぜい、能力を解いてもらうまで大人しく生きていなよ。自称神の子君』


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