バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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真約九問

「・・・・・ここは」

 

襲いかかる賞金稼ぎ、暗殺者集団、ならず者をどれだけ斬って

生き残ったのか・・・・・。そんなことを脳裏にかつての仲間達を思い出しながら

意識を落としたら見知らぬ白い空間に私はいた。

 

「ようこそ、選ばれし者よ」

 

「・・・・・選ばれし者だと・・・・・?」

 

「そうだ。私は神であり、神によって選ばれた者をそう呼ぶ」

 

「・・・・・」

 

神など、この世に存在していたのか・・・・・。

 

「その神が私に何の用だ。今さら地獄に落とす気か?私は一向に構わない。

今までそれだけのことをしているからな」

 

「そなたにやってもらいたいことがある。とある者を倒して欲しいのだ」

 

「私に依頼とは・・・・・殺しか?」

 

「どう捉えようと構わない。だが、倒して欲しい者はあまりにも力が強大で、

私の力ですらどうすることもできない。彼の者を倒しうる力を秘めた者を

探しこうして見つけて頼んでいる」

 

・・・・・・。

 

「私以外の者は全滅しているということか」

 

ギクゥッッ!!!!!

 

「そ、そんなことはないぞ!?あと一歩のところで追い詰めているが、

倒されているのであってでな!?」

 

「返り討ちに遭ったのだな?」

 

「・・・・・はい」

 

神・・・・・にしては人間味があり過ぎる。本当に神なのか・・・・・。

 

「そ、そんな目で見るな!本当に私は神なのだ信じて欲しい!」

 

「なら、人一人甦らすことは造作もないな?」

 

「それは世界の規律に反するのでできない」

 

「・・・・・」

 

「ええいっ、本当に私は神なのだ!神ったら神なんだ!騙されたと思って取り敢えずそう思ってくれ本当に!」

 

神と連呼する神が目の前にいるのか・・・・・。そう言えばお腹が空いたな・・・・・。

 

「もうやだ・・・・・なにこの子、人を斬り殺し過ぎて

思考がおかしくなっているんじゃないの・・・・・?」

 

「・・・・・それで、誰を倒せと言うのだ」

 

「(パァッ)それはだな?イレギュラーだ。化け物の域を超えた化け物だ。

人の姿をしていて、正体は巨大な化け物だ。世界の大半を支配して人類を蹂躙しているのだ」

 

「・・・・・そいつを倒せばいいのか?」

 

「そうだとも、やってくれるか?」

 

・・・・・この空間は私がいた森の中・・・・・世界ではなさそうだ。

周囲を見渡し神に視線を戻す。

 

「倒し終えたら私はどうなる?」

 

「何でも願いを叶えたり、元の世界に戻してやることもできるぞ」

 

「倒し終えるまで私はどうすればいい?」

 

「私が衣食住を提供しよう。無論、知識と情報を与え、不自由な暮らしはさせない」

 

食べることに関しては不自由せずに済むか・・・・・。

 

「そのイレギュラーとやらを倒して欲しい理由はなんだ?」

 

「それは言えない。だが、我々神にとってイレギュラーは―――――」

 

神の感想を聞いて私はしばらくして・・・・・了承した。

 

「分かった。これが本当の最終ミッションとしよう。ただし、条件がある」

 

「何でも申してみよ」

 

「私のかつての仲間も最終ミッションを共にしたい」

 

「・・・・・」

 

「それを了承してくれなければこの話はなかったことにする」

 

私の要求に神は深く悩み、思考の海に潜った。

 

「・・・・・偽りの神か」

 

「神だからね!?分かったよ、そこまで言うなら奮発しようじゃないか!キミのかつての仲間を甦らしちゃうよ!ついでに敵対していた者達もだ!」

 

「よろしく頼む」

 

―――チョロいな。だが、敵対していた者まで甦らすなど必要あるのか?

 

「・・・・・バカにした?」

 

「なんのことだ?それより、私以外にも誰かに依頼したのだろう。後何人ぐらいいる?」

 

「現時点で三人・・・・・いや、一人は倒すべき者の側についてしまったから二人だ。これからもそなたのもとへ送るつもりだ」

 

「では、早速送る。イレギュラーについては用意した家にあるからな」

 

神の言葉に頷いた瞬間。私は穴の中に落ちてしまった・・・・・。

 

「ふぅ・・・・・ようやく終わった。あの者の武器は一斬必殺。

―――これであの者も倒されるであろう」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「・・・・・どっちが平常心か、だって?」

 

明久と坂本に話しかけられたかと思えば、どっちが取り乱しやすく、

どっちが冷静に対処できるかそう言う話しに熱が入って互いが認めなくなり俺に決めて

もらおうと言うらしい。・・・・・ふむ、

 

「どっちもどっちだろう」

 

「「そんなことない!」」

 

異口同音で否定された。

 

「雄二は霧島さんの妹にいつも動揺しているじゃないか!大和だって見ているよね!?」

 

「明久は俺の何百倍も隣で喚いて騒いでいるよな直江!?」

 

「・・・・・どっちも毎日しているからやっぱりどっちもどっちだ」

 

「「そんな事実は明らかにされていない!」」

 

呆れた風に答えると二人は頑になって否定する。こいつらの言い訳は子供だな。

 

「そもそも、そういったことは同じ条件で比較しないと優劣なんて付けられないだろう」

 

二人に諭すように言えば、思案顔で明久と坂本は視線を向け合った。きっと似たような

考えを心の中でしているんだろう。

 

「それなら、条件を揃える必要があるな」

 

「だね。同じ条件なら、僕が雄二なんかに負けるわけがないんだから」

 

「まだ諍いを続ける気か。仲が良いなお前ら」

 

「「誰がこいつと仲が良いもんか!」」

 

互いに向けて指差すなよ・・・・・・。

 

「しかしそう言うがお前ら、同じ条件などそうそうあるわけは―――」

 

と言っている途中で俺はハーデスの姿に目を止めた。

 

「二人とも、少し待ってくれ」

 

携帯を取り出してハーデスにメールを送る。内容は二人を何でもいいから驚かして欲しいと。

しばらくして、ハーデスが携帯を手にして俺のメールを見てくれた。これでいい、

 

「じゃあ、今から俺がお前らに仕掛けたからその仕掛けが始まったら冷静にしていろ。それで決着が付くだろう?」

 

「随分と早い仕掛けだな」

 

「大和は頼りになるね」

 

・・・・・俺が誰に仕掛けてもらったのか知らずに余裕だなぁ・・・・・。

 

『・・・・・(トントン)』

 

ハーデスが明久と坂本の肩を叩いて意識を俺から逸らした。

二人はハーデスを見た途端に顔を強張らした。

 

「お、おい・・・・・直江・・・・・」

 

「できればハーデス以外の人に頼んで欲しいなぁ、なんて・・・・・」

 

「なに言ってんだ。適材適所だ。さぁ、ハーデス。二人に驚かしてくれ」

 

散々ハーデスに仕出かされている二人にとってあまり好ましくないだろうが、

これ以上のない驚かし役だ。

 

『・・・・・俺のマントの中に手を突っ込んで胸を触れてくれ』

 

「手を中に突っ込め?何かマントの中で仕掛けたってか?」

 

「へ、変なものじゃないよね・・・・・?」

 

『・・・・・安全な物だから大丈夫』

 

そう言って口元の部分の仮面を取り外した。さて、どんな仕掛けをしたんだハーデスは。

明久と坂本は互いに顔を向け合い、躊躇の様子を窺わせながらも同時にハーデスの

マントの中に手を突っ込んだ感想は・・・・・。

 

「ん?なんだかほんのりと暖かくて肌触りが滑々しているね?」

 

「肉まん・・・・・じゃないな。なんだ?ここ辺りにコリコリした小さな感触が・・・・・」

 

「あっ、本当だ。大きさは・・・・・かなり大きいね。果物かなにかかな?」

 

「なんだ、警戒して損したぜ。大したことないじゃないか。

しかし、このコリコリとしたものが気になるな・・・・・」

 

坂本が何かに気になってマントの中に隠れた手を動かす。

 

「ねぇ、ハーデス。マントの中に隠したものは何なのか見せてよ」

 

「だな。別に俺らが驚くようなものじゃなさそうだし」

 

『・・・・・分かった』

 

ゴソゴソとマントを外し始めた。そして、ハーデスのマントの中に隠されたものが表に晒された。

 

「んなぁーっ!?」

 

俺は目を疑った。だ、だって・・・・・。

ハーデスの胸が大きく膨らんで・・・・・・黒いブラジャーを上に外した状態で

俺の目に飛び込んで来た・・・・・っ!

 

「・・・・・あ、あんなに俺の胸を触るなんて・・・・・二人のえっち。

お婿に行けなくなったじゃない。責任をと、とってよ!」

 

「ちょっと待てぇーッ!?」

 

「えええええええええええええええええっ!?」

 

「・・・・・っ!(ブシャァァァァァッ!)」

 

明久と坂本は完全に動揺し驚愕した。目が大きく見開かれて絶叫をしたほどだから

冷静を欠けている。だが、勝手に一人が鼻血を噴きだして床に倒れ込んだ。

 

「よ、吉井君っ!ハ、ハーデス君の胸を触ってんですかぁっ!?」

 

「吉井っ!ちょっとこっちに来て説明をしてお仕置きを食らいなさいっ!」

 

「雄二・・・・・!私と言う妻がいながら他の女の子の胸を触るなんて・・・・・!」

 

姫路と島田はともかく、何時の間に霧島の妹がここにいたんだっ!?

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ二人とも!?」

 

「そうだぞ翔花!俺達は男のハーデスの胸を触って―――!」

 

「坂本雄二が私の胸の先端を執拗に弄られちゃった。吉井明久は私のFカップを

堪能されちゃったの・・・・・こうなったら二人には蒼天で

私と結婚してもらうしか・・・・・」

 

「「「・・・・・(怒)」」」

 

「「ハーデスっ!余計なことをぉおおおおおおっ!?」」

 

 

『異端者が堂々と死神の素敵な胸を触った様子です!(ドバドバッ!)』

 

『奴らをひっ捕え死刑しろぉっ!(ドバドバッ!)』

 

『死神ちゃんのおっぱいの感触を言いやがれ吉井と坂本ぉっ!(ドバドバッ!)』

 

 

「「ちくしょぉっ!死んでたまるかぁっ!?」」

 

二人は色んなものから逃げて行った。それを追う姫路達。対してハーデスは玩具の銃を

取り出して自分に目掛けては引き金を引き、怪光線を浴びると(自称)Fカップが

見る見るうちに縮んで鍛え上げられた肉体にと戻った。

 

『・・・・・お前もさっきからガン見しているなよ。変態軍師』

 

「ぶっ!?だ、誰がお前の胸なんて―――!」

 

「直江、お前は完全にハーデスの胸を見ていたぞ」

 

「ああ・・・・・隠しようのないことだがな?」

 

首筋や後頭部に冷たい感触が感じ始めた。ああ・・・・・これってアレかな?

 

「―――三十六計逃げるに如かず!」

 

「「逃がすかっ!」」

 

 

 

 

ボロッ・・・・・

 

「「「・・・・・」」」

 

くっ・・・・・どうして俺まで巻き添えを食らうんだ・・・・・。

 

『・・・・・二人どころか三人が冷静じゃなかったな』

 

「「「お前があんな驚かし方をするからだろうがっ!」」」

 

『・・・・・女の胸の感触はどうだった?』

 

「「それは―――はっ!?」」

 

・・・・・危うく本音を喋る召喚獣のようになるところだった明久と雄二。

 

「だ、だが・・・・・これで分かっただろう。二人は同レベルだ」

 

「「なっ・・・・・!」」

 

「ほら、動揺したぞ」

 

「「うぐっ・・・・・」」

 

言ってる傍から動揺なんてしちゃ、もう決まったも当然だろう。

 

「認めろよ二人共。な?」

 

「「認められるかっ!」」

 

『・・・・・ん』

 

ズイとハーデスが何かを握っている物を俺達に突き出した。

 

 

―――黒いブラジャー。

 

 

「「「お前は何てものを出しているんだぁーっ!?」」」

 

『・・・・・三人共、OUT』

 

「「「ぐぅっ・・・・・」」」

 

ダメだ、ハーデス相手だと冷静になれないっ。

 

『・・・・・二人(三人)が認めないなら俺が動揺させる仕掛けを用意する。

それで勝負をしたらいい」

 

仕掛けを用意するって結構大変じゃないか?

 

「いいの?」

 

『(コクリ)・・・・・一度、そう言うのをやってみたかった。

・・・・・皆もやってもらおう』

 

キャップ達も巻き込む気か。だが、それは面白いかもしれないな。

 

「どこで仕掛けを用意するんだ?」

 

『・・・・・ここ、神月学園。週末の夜九時ぐらいになったらグラウンドに集合』

 

学校かぁ・・・・・それは驚かし甲斐があるってことだな。

 

「明久、坂本。ハーデスの提案に乗るか?」

 

「乗るね!これで雄二が冷静じゃないって証明できるなら!」

 

「ああ、もうさっきのような態度はしないぜ」

 

『・・・・・決まりだな。夜が楽しみ』

 

こうして、俺達はハーデスが用意する吉井明久と坂本雄二の平常心を試す催しが

始まったのだった。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

『キチキチ☆第一回!平常心を保つことができる?学校の七不思議体験会を始めるぞっ!

実況は俺、蒼天の中央区の王であるイッセー・D・スカーレットだ!皆、よろしくっ!』

 

『解説はアタシ、学園長の藤堂カヲルがするさね』

 

「「「ちょっと待ってぇっ!?何でここにいるのっ!?」」」

 

『因みに、ツッコミも動揺していると受け取られるから注意するように!』

 

「「「無視しないで!説明してください!」」」

 

週末の夜の九時。グラウンドに集合すると、何故かこの場にいないはずの王様と

学園長が設けたステージの舞台に座っていて話を進んでいた。

 

『あー、理由?ハーデスに頼まれて学園長に許可をもらった時に学園長も面白そうだから

一口噛ませて欲しいと言われてな。こうして実況と解説の係をしているわけだ』

 

『ガキ共がどれだけ冷静に保つことができるか見てやろうと思ってね。

季節外れの肝試しに期待しているよ』

 

『因みに、お前達の言動は蒼天や日本にお茶の間に流れているから楽しく盛り上げて

欲しいところだ』

 

そんな勝手に!?だから、大勢のカメラマンの人がいるのか!

 

『さて、参加者の学生達はかなりいるな。まっ、驚かし甲斐があるってもんだ。

お前ら、ルールを説明するからよく聞けよー』

 

 

・何があっても平静を保つこと

 

・平静を保てなかった場合、罰ゲームを受けること

 

 

このたった二つのみ。要するに、常に平常心を保っていればいいと言うだけの話だ。

簡単簡単。

 

 

『なお、参加者の皆にはカメラ付きのヘルメットを被って学校の中を歩き回って貰う。

校舎の中には待機しているカメラマンもいるから怪我させないよーに』

 

『罰ゲームはゲームの終わった後で言うからね。それと失格の判別を見極めるために

測定器も備えさせてもらっている。校舎に行く人数は二人だけだよ』

 

『自分の番が来るまで他の皆には待機所で待っていてくれ。当然、学校の中の様子を

見ることは禁じているから音声だけ楽しんでくれ』

 

物凄く凝っている・・・・・っ。どれだけあの人は僕と雄二の為に色々な物を

費やしたんだろうか?

 

『出発してもらう二人組は一部を除いて俺と学園長が名前が書かれたくじを引いて

決めさせてもらう』

 

僕と雄二のことだろう・・・・・。王様と学園長が口の端を吊り上げながらくじが

入った箱の中に手を突っ込んでそれぞれ一枚の紙を取り出した。

 

『発表する。最初に侵入してもらうのは―――川神一子』

 

『そして、もう一人は史進だね』

 

この二人か。どっちも武術を学んでいてお化けの類には怖がりそうにないペアだ。

 

『呼ばれた参加者に一枚の羊皮紙を渡す』

 

『呼ばれなかっ参加者は待機所に行きな。最初のペアが戻ったらこっちから呼ぶからね』

 

グランドの隅にある施設のことだろうか。僕らは一子と史進と別れて待機所へ赴く。

 

「俺達を使って生放送だなんてズル賢いことをするな」

 

「だね。でも、なんだかワクワクしてきたよ」

 

「ううう・・・・・ウチは全然楽しくないわ・・・・・」

 

「か、帰りたいです・・・・・」

 

待機所に入り、自由な場所に座ってテーブルにある飲み物と駄菓子を手にした時、

 

『『ぎゃあああああああああっ!?』』

 

「「きゃぁあああああああっ!」」

 

『―――川神一子、史進ペアOUT』

 

「え?なに、もうなの!?」

 

「おいおい・・・・・シビアじゃねぇか」

 

島田さんと姫路さんまで音声のみの悲鳴に激しく反応して悲鳴をあげちゃった程だ。

 

『次、霧島翔花&師岡卓也』

 

「雄二とじゃない・・・・・」

 

「もう僕か・・・・・緊張するなぁ・・・・・」

 

片や残念がり、片や緊張の面持ちで待機所を後にした。ワン子と史進が戻ってこないのが

不思議に思いつつ、音声が流れるスピーカーに耳を傾ける。

 

『うわ・・・・・何かゾンビみたいなのがウヨウヨ徘徊しているよ』

 

『学校の七不思議のひとつ・・・・・。女子トイレの花子さんと会う』

 

『それってトイレの花子さんのことだよね?会うってどういうことなんだろう』

 

『分からない・・・・・。でも、会いに行く』

 

なるほど、映像を見れないのは学校の中の状況とどうやってクリアできるのか

その様子を見させない為か。

 

『うっ・・・・・廊下にもゾンビ』

 

『大丈夫・・・・・怖くない』

 

『き、霧島さんは凄いね。こんなの怖くないの?』

 

『平気・・・・・』

 

「だろうな。アイツに怖いもんなんてあるわけがない」

 

前に座っていた雄二が漏らした。

 

『花子さんって本当にいるのかな・・・・・』

 

『会わないといけないルールだから・・・・・』

 

ガチャリと開く音が聞こえた。どうやら女子トイレに着いたようだ。

 

『え、えっとぉ・・・・・はーなこさーん?』

 

『―――――はぁぁぁぁぁい・・・・・・』

 

「「きゃぁあああああああああああああああっ!」」

 

姫路さんと島田さんが悲鳴を上げる。幼い子供のような声がスピーカーから流れた。

卓也の呼び声に応えたんだきっと。

 

『ここ・・・・・(ガチャリ)』

 

『普通に開けるその神経は感嘆しちゃうよ』

 

『花子さん・・・・・みっけ』

 

『見つかっちゃった。―――きゃはっ、キャハハハハハハ!』

 

こ、怖い・・・・・っ。この笑い声は聞いているだけでも恐怖を感じさせてくれるっ。

姫路さんと島田さんはもう互いに身を寄り添って震えているぐらいだもん。

 

『会ったから、次に行く』

 

『え?これだけ?』

 

『次は・・・・・』

 

呆気なく最初のミッションをクリアした卓也達。霧島さんの妹は怖がることもなさそうだし、

卓也もなんとかいけそうだ。そう思った時だった。

 

ダダダダダダッ!

 

『ん?誰かが走って―――』

 

次の瞬間。

 

『イヤァッハァァァアアアアアアアアアアッ!』

 

『う、うわぁああああああああああああっ!?』

 

な、なんだっ!卓也に何が起きたんだ!?当然ながら卓也が叫んだため、失格となった。

 

「・・・・・イッセーさん、本当に驚かすことに関しては右に出る者がいないな」

 

「ああ・・・・・気ぃ引き締めて行かないとヤバいかもしんねぇな」

 

大和とガクトがうっすらと冷や汗を頬に流していた。

あの王様はやることにはとことん徹底してやるようだ。

それから続々と皆がお化け屋敷と化した学校へ挑むも失格になってしまった。

でも、中には―――。

 

『霧島翔子、椎名京ペア。クリア!』

 

クリアしたペアもいる。

 

『さて、残るペアは吉井明久と坂本雄二。カメラ付きのヘルメットを付けて学校の中に

入ってもらおうか』

 

うっ、いよいよ僕らか・・・・・。

 

「明らかに狙った組み合わせだな。おら、さっさと終わらせに行くぞ」

 

「そうだね。驚かすと言っても、可愛い脅かしだろうしね」

 

「あいつらはタダ怖がり過ぎなだけだ」

 

「僕達が用意されたお化け程度で平常心を揺れるわけ無いのに」

 

だが、それは間違いだと言う事を直ぐに思い知らされた。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「お、おい・・・・・ギラギラと目を光らせてこっちを見ているゾンビがいるんだが」

 

「こっちには虫みたいな後ろ足が異様に長くて前足が短い人みたいな

お化けがいるんだけど・・・・・」

 

特別接触する様子はないけど、見てるだけでもドキドキものだ。玄関に入った途端に

これだからもっと先に進むとこれ以上平常心を奪う何かが仕掛けられているはずだ。

 

「雄二、もらった指令書は何て書いてある?」

 

「1Fの女子トイレの花子さんと出会えだ」

 

待機所で聞いた最初のミッションか。廊下を徘徊するお化け達の間をすり抜けて

女子トイレに侵入を果たす。

 

「よし、明久。お前が開けろ」

 

「貴様・・・・・怖いんだな?」

 

「なにを言ってるんだ?俺は別に怖くとも何ともないぞ?」

 

「なら雄二が開ければいいじゃないか」

 

「別に俺が開けろなんて指示は出されていない」

 

憮然と態度をする雄二をどうやって開けさせようかと悩んでいると、

 

『ゆ~う~じ~・・・・・』

 

「っっっっっ!?」

 

まだ開けてもいないのにトイレの扉の向こうから

コン・・・・・コン・・・・コン・・・・・と叩く音が雄二の平常心を奪う。

 

「あ、明久・・・・・?ものは相談だが・・・・・」

 

ポン・・・・・。

 

「雄二、キミに開けてもらいたいそうだよ花子さんが」

 

「ざ、ざけんなっ!今の声をお前も聞いただろっ!?あの声はどう聞いても―――!」

 

『おっとぉ?坂本雄二の平常心が激しく揺らいでいるぞぉー。

対して吉井明久の平常心は一切揺らいでいない』

 

『トイレの花子さんがあの生徒に開けて欲しいようだねぇ?

これは開けてやらないと可愛そうじゃないか』

 

どこからか王様とババァの声が聞こえてくる。何だか二人の顔がニヤニヤしているのが

脳裏に浮かんでくる。

 

「ほら、さっさと開けてよ雄二」

 

「て、てめぇ・・・・・!」

 

ガチャ・・・・・ギィ・・・・・

 

扉がゆっくりと開いた音が聞こえてきた。だけど・・・・・誰もいなかった。

 

「あれ?いないよ」

 

「な、なんだ・・・・・驚かしやがって」

 

安堵で胸を撫で下ろす雄二―――っ!?

 

「ん、どうした明久。まるで怖ろしいものを見る目で俺を見やがって」

 

あ、ある意味・・・・・そうかも。

だって・・・・・雄二の真後ろに逆さまの霧島(妹)さんがいるんだから。

 

「ゆ、雄二。花子さんは僕がったから次に行こうよ。ねっ?」

 

「は?まさか、バカにしか見えない花子さんだったのかよ?」

 

「ま、まぁ・・・・・うん、そんなところ・・・・・」

 

早足で女子トイレから雄二を引き連れる。ちらっと後ろに視線を向けると。

・・・・・うん、幽霊のように音も無く宙に浮く黒髪の少女を見ていないぞ。

 

「雄二、次のミッションは?」

 

「調理室の怪奇現象を探れ」

 

調理室の怪奇現象・・・・・?なんだろう、七不思議の定番の一つに音楽教室で

ピアノが一人勝手に演奏するって言うなら分かるけど調理室で起きる怪奇現象とは

知らないなぁ?心の中で捻って移動、でも辿りつくまでの道のりは険しかった。

 

「吉井明久・・・・・!殺します・・・・・っ!」

 

「ちょっ、お化けじゃないお化けが僕に殺意を抱いて天井を張っているよ!?」

 

「ゆ・・・・う・・・・・じ・・・・・」

 

「聞こえない、俺は何も聞こえないぞ・・・・・!翔花の奴が逆さまになって

俺の後を追っているなんて俺は知らないぞ・・・・・っ!」

 

同じ条件で勝負するとかもうそんなんじゃなくなっているような気がしてくる!

 

―――調理室―――

 

「ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・・」

 

「や、やっとついたぞコラ・・・・・」

 

恐怖に追われるも目的地に辿り着いた。少しだけ休憩して落ち着くと扉に手を掛けた。

 

ボンッ!

 

「「爆発・・・・・?」」

 

調理室に有り得ない音が聞こえ雄二と一緒に疑問が浮かんだ。これが怪奇現象の理由?

疑問の面持ちで扉を開けた隙間から―――。

 

「「うっ・・・・・!?」」

 

異臭の香りがしてきた。か、怪奇現象ってもしかして・・・・・。

 

「あ、吉井君と坂本君。良かったですぅ・・・・・ここにいて欲しいと

スタッフの方々に言われてずっと心細かったですよ」

 

エプロンを身に付けて片手にお玉を持っている可愛らしい姫路さんが・・・・・って、

やっぱりぃぃぃっ!?どうしてここに姫路さんがいるんだ!

しかも、鍋から異臭が漂わせているのは何!?雄二も顔中脂汗だらけで顔を強張らせている!

 

「ひ、姫路さん・・・・・その間に何をしていたの・・・・・?」

 

「あ、はい。何故かたくさんの食材があったのでちょっとした料理でも

作ろうと・・・・・あの、肉じゃがを作っていました」

 

「「―――っ!!!」」

 

「あ、でも・・・・・さっき圧力鍋で作っていたら爆発して壊れちゃったんです。

どうしましょう・・・・・」

 

さっきの爆発の原因はそれか・・・・・!

それにどうして肉じゃがを作るのに圧力鍋が爆発するのかこの際無視だ!

 

「ひ、姫路さん。そろそろ皆のところに戻らないと心配しているんじゃないかな?」

 

「そ、そうだぜ。ほら、一緒に行こう。な?」

 

「でも、これを完成しないと・・・・・」

 

「「いいいからっ」」

 

強引に姫路さんを調理室から追い出してグラウンドまで連れて再び校舎の中を歩き始める。

 

「怖ろしいことをしてくれるぜあの王様はよぉ・・・・・」

 

「僕達の命を狙っているしか思えないね」

 

次の七不思議は保健室の人体模型の調査・・・・・。調査って何を調べればいいんだろうか。

廊下を闊歩するゾンビ達を避けながら保健室へ。

 

「人体模型の調査・・・・・なんか、嫌な予感がしてきた」

 

「考え過ぎだろう明久。ほら、保健室だ」

 

平然と雄二は警戒していないまま保健室の扉を開け放って中に入る。続いて入って人体模型を探す。

 

「「ぶふぅっ!」」

 

同時に噴いてしまった。そ、その理由は・・・・・人体模型が鉄人を模した模型だったからだ。

 

「な、何の冗談だよこれぇ・・・・・」

 

「き、気持ち悪いもんを見てしまった・・・・・」

 

人体模型は裸で臓器を見えるようになって作られている。

だから、鉄人が鍛え上げた筋骨隆々の身体は素っ裸。

そんな全裸な鉄人を誰が見たいと思うか・・・・・っ。

 

「これの何を調べろって言うんだよ」

 

「嫌過ぎる。これならまだ普通の人体模型の方が抵抗がないよ」

 

「同感だ。見ろ、ご丁寧にブーメランパンツを履いているぞ」

 

「それはお茶の間の皆さんに気を使うよね」

 

「当然だろう。誰がこんな脳まで筋肉で作られた体の鉄人の全裸を見たがるかよ」

 

「そうだよね。鉄人を見ているだけでも砂漠にいるようなイメージをさせてくれるんだもん。ほら、夏の特別補習だってそれがいい例だよ」

 

「アレはないよなー。野太い声を授業中聞き続けないといけないなんて地獄に等しい」

 

ははは、と笑い合う。

 

「・・・・・ほう、貴様ら・・・・・俺に対してそう言う思いを胸に抱いていたとは

知らなかったぞ」

 

「「・・・・・」」

 

あれ・・・・・おかしいな・・・・・。

 

「今の雄二?」

 

「バカ言え、きっと秀吉がどこかでものまねを言っているに違いない」

 

「だよね、んじゃ。保健室から―――」

 

「貴様ら・・・・・俺が逃がすと思うか?」

 

「「・・・・・ダッッシュ!(逃)」」

 

 

 

 

『どこだぁっ!見つけ次第捕まえて鬼の補習をしてやろうじゃないか!』

 

『おっと、二人を追跡する人体模型が鬼の形相で学校中を駆けているっ!

捕まったら即失格であることは間違いない!』

 

『残りの七不思議は四つ。人体模型を掻い潜りながらだと厳しい状況になったねぇ』

 

あの人達、絶対に楽しんでいる!これは断言しても良いほどだ!

 

「雄二、どうする」

 

「残す七不思議は音楽室の不協和、俺達のクラスの闇の儀式、体育館の魑魅魍魎、

指導室から聞こえてくる悲鳴の四つだけだ」

 

残りの七不思議はどれもまともじゃない。

 

「二手になって回った方が早いんじゃない?」

 

「・・・・・鉄人の追ってのリスクを背負うが、その方が早いか」

 

「なら決まりだね?僕は体育館の魑魅魍魎と僕達のクラスの闇の儀式を回るよ」

 

「分かった。さっさとこのくだらない催しを終わらせよう。しくじるなよ」

 

「そっちもね。見て回ったら玄関で落ち合おう」

 

『そこかぁ・・・・・?』

 

バッ!と雄二と別れ、体育館へ赴く為、2Fの窓から飛び降りた。

このぐらいの高さなら問題なく着地できるっ。地面に強く足の裏で着地した衝撃で

思考が一瞬だけ停止したけれど、何時までもここにいたら鉄人に見つかって捕まる。

急いで体育館へ。

 

「でも、魑魅魍魎ってなんのことだ?」

 

お化けの一種だったような気もするけど、どうして体育館の魑魅魍魎という七不思議の

一つになっているのか理解できない。体育館が肉眼でも捉えると扉に向かいゆっくりと

開け放った。

 

『諸君!次の品はこれだ!ムッツリーニ商店から購入した姫路瑞希のボイスチャー付き

目覚まし人形!』

 

『『『おおおおおおおおおおっ!』』』

 

・・・・・え、なに、これ・・・・・?

それに、女の下着を被っているあの男子って・・・・・クラスメートの・・・・・。

 

『さらーに!最近盗撮に成功したかの死神・ハーデスが女である決定的な証拠である

この巨乳をはだけさせた写真付きだ!仮面で顔は隠して分からないが、この見事な形と

大きさを見ればそんなのを気にせず日々のストレスを発散できるのは間違いない!

―――二つ合わせるからお得だぞ3000からだ!』

 

『3100!』

 

『3400!』

 

『バカめ、俺は5000を出すぜ!』

 

『―――10000だこんちくしょっ!どうだまいったかっああっ!?』

 

・・・・・これ以上見ない方が賢明かも。そう思うと後ろに下がって背を向けようとした時、

 

「・・・・・」

 

「げっ、鉄人・・・・・!」

 

しまった、何時の間にか鉄人の攻撃範囲にっ。

 

「貴様を捕まえるより先にやることができたな」

 

「・・・・・へ?」

 

「吉井、ここでしばらく待っていろ。直ぐにお前を捕まえるからな」

 

鉄人が体育館の中へ入って姿を消した。

 

『貴様ら、なぁーにをしているかぁっ!』

 

『『『『『て、鉄人だとぉっ!?』』』』』

 

『福本、貴様がこの騒動の主犯だな?この場にいる全員と鬼の補習室に来てもらうぞ!』

 

・・・・・ご冥福を祈るよ魑魅魍魎達。さて、残りは僕のクラスだ。

鉄人の言うことなんて聞くバカはいないね!

 

―――2-F―――

 

闇の儀式・・・・・ああ、なるほど・・・・・こういうことかぁ・・・・・。

 

『罪人、吉井明久よ。最期に言い残すことはあるか?』

 

「うん、どうして出会い頭に僕を縛りあげて雄二の隣で磔にするのか教えて欲しいかな?」

 

FFF団の皆に囲まれながら笑みを浮かべる僕。そんな僕の質問に嫉妬と恨みと妬みの

塊の隊長である須川君を地の涙を出し始めた。

 

『貴様が、貴様らが死神ちゃんのおっぱいを揉んだことに根を

持っていないからな・・・・・っ!』

 

「思いっきり根に持っているよね!?」

 

『さらには、坂本雄二は霧島翔花と結婚する噂が流れているではないかっ』

 

「断じてその噂はデマだ!俺と翔花はそんな関係じゃない!」

 

『なら、赤の他人であると?』

 

「赤の他人どころか、俺は―――」

 

「雄二・・・・・赤の他人どころか・・・・・なんだって?」

 

禍々しいオーラを身に纏っている雄二の(仮)彼女が怪しい光を目に宿している。

うん・・・・・あんな彼女に逆らう奴はバカだろう。流石の雄二も口を噤んで必死に

明後日の方向へ目を向けている。

 

『罪人、吉井明久と坂本雄二。以下の処刑の選択権利を与えよう』

 

「選択だって?」

 

『1、紐無しバンジーを屋上からする。2、我々FFF団のローキックを一周分。

3、火炙り』

 

「それ、どっちも僕達は危険な目に遭うよね!?」

 

『よかろう。全部を選択するとは罪人らしい発言だ』

 

「誰も選択をしていないし勝手に決めるんじゃないよこのバカ!」

 

誰か助けて!僕達のピンチだよ!?

 

 

ピンポンパポーン

 

 

『あー、吉井明久と坂本雄二。二人に告げるぞー』

 

「蒼天の王様?」

 

『敢えて告げなかったが、お前ら二人はとっくに失格者だ。

言わなかったのは―――お前らの慌てふためきを見るのが面白かったから』

 

「「お前は最低だ!」」

 

『よって、罰ゲームを告げる。よーく聞け』

 

な、なんの罰ゲームを告げるんだろうか・・・・・。

心の準備をしつつ王様の言う言葉を静かに耳を傾ける。

 

『失格者は姫路瑞希の肉じゃがを食べることだ』

 

「「な、なにぃいいいいいいいっ!?」」

 

『強制はしないがその代わりに西村先生と汗だらけのレスリングをしてもらう。

それでもいいなら西村先生に伝えてくれ』

 

「「どっちも嫌に決まっているだろうこのバカッ!」」

 

『西村先生、吉井明久と坂本雄二はFクラスでレスリングを所望しているぞ。

先生と生徒の熱いぶつかり合いで絆を深めてくれ』

 

「「ちょっと待てぇっ!?」」

 

王様、それは酷過ぎる!人としての情はないの!?あっ、須川君達逃げないで!

逃げるならせめてこの縄をほどいてから逃げてよ!

 

ドドドドドドッ!

 

「・・・・・明久、来世があったら俺はまっとうな人生を送りたい」

 

「・・・・・雄二、僕も理不尽な目に遭わない生活をしたい」

 

僕達は悟った・・・・・どんなに抗おうが覆すことはできないこともあるのだと。

後に、姫路さんの手料理を食べた失格者達は体調不良を起こしてしばらく葵紋病院に

入院したとかしなかったとか。


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