バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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真約四問

2年Aクラス

 

 

「愛子・・・・・大丈夫?」

 

「・・・・・無理して学校に来なくても」

 

「あはは・・・・・家にいても家族がいないからね。仕事で三日ぐらい家にいないんだよ」

 

「お見舞行くのに・・・・・」

 

「もうすぐ体育祭だからね・・・・・楽しみしているから休むわけにも・・・・・」

 

・・・・・真っ赤な顔で口元にはマスクをつけている愛子。

どうやら夏風邪になってしまったらしい。

 

「辛かったら先生かアタシ達に言いなさい?フォローするから」

 

「うん・・・・・ありがとう」

 

・・・・・席に座っている様子も何だか辛そう・・・・・。高橋先生が入ってくると、

 

「今日からこのクラスに入ること転入生が入ってきます。皆さん、仲良くしてください」

 

・・・・・このクラスに転入生が来ると説明された。この時期にこのクラスに・・・・・?不思議に心の中で首

傾げていると、教室に男子制服を身に包んだ男の子が現れた。

 

「森羅彰といいます」

 

・・・・・教卓の前で恭しくお辞儀をした。お辞儀をする姿勢と頭を下げるその仕草は

どこかの貴族の生まれの者かと思うほど綺麗な挨拶の仕方だった。

 

「皆さん、これからよろしくお願いしますね(キラーン☆)」

 

『『『きゃああああああああああああっ!カッコいいっ!』』』

 

『『『ケッ!』』』

 

女子が色めきたち、男子がつまらなさそうに舌打ちをする。確かにあの笑みを格好良い、

もしくは綺麗だと思うけれど・・・・・。

 

「・・・・・なんかあの笑った顔は好きじゃないね」

 

・・・・・近くの席に座っている愛子の呟きが聞こえてくる。愛子の言う通り。

アタシはあの笑みは作られたメッキだと思う。自然と笑みを浮かべる死神の方がまだ好ましい。

代表も絶対にそう思っているはずだ。

 

「えっと、このクラスの代表は?」

 

「・・・・・私」

 

代表が挙手をする。森羅君は真っ直ぐ彼女の近づく。

 

「可愛い代表だね。試召戦争が興味あって他の学校から転校してきたんだ。

ねね、試召戦争をしたいんだけどするならFクラスから始めて欲しい」

 

「・・・・・どうして?」

 

「弱い方から経験を積んで、さらに実力を身に付けて最後はSクラスと勝負してみたいからだよ。

このクラスに貢献したいしさ」

 

彼は知らない。Sクラスは強いけどさらに強い人物がその弱いFクラスに正体を隠して身を潜んでいることを。

だけど、それ以前に―――。

 

「・・・・・AクラスはSクラスに負けてまだ試召戦争解禁されていない」

 

「え・・・・・負けた?Sクラスに?」

 

「・・・・・だから、試召戦争はまだできない」

 

知らないのは無理無いわ。三ヶ月前からずっとそうだったし、今月でようやく解禁されるもの。

 

「代表、Aクラスはこれからどうする?Sクラスに挑む?それとも・・・・・」

 

「・・・・・Fクラスに挑む。そして、死神を私達の教室に入れる」

 

「死神が相手じゃないわよ。あっちはSクラス並みの主力メンバーがいるわ」

 

「・・・・・分かっている。集団戦はしない」

 

集団戦はしないって・・・・・もしかして代表・・・・・。

 

「一学期のあの戦いを今度はアタシ達からするの?」

 

「・・・・・勝率はある」

 

本当にする気のようね・・・・・だけど、その戦い方なら確かに勝ち目は薄くない。

 

「・・・・・死神?」

 

森羅君が小首を傾げて疑問符を浮かべているけれど、代表が口を開いた。

 

「・・・・・休憩時間、雄二のところに行く」

 

 

―――Fクラス―――

 

 

「ねえ、雄二。そろそろ僕達の試召戦争解禁になるんじゃない?その後はどうするの?」

 

「そうだな。Fクラスの主力メンバーは増強されたからAクラスといい勝負ができそうだ」

 

「召喚獣の操作が長けている僕と極端なハーデスに、Aクラス並みの姫路さん、

数学がBクラス並みの島田さん、保健体育が最強のムッツリーニ、古典が得意な史文恭さん、

Sクラス並みの極道さんにエスデスさん。なんだか弱みを突かれる心配のない布陣になったね」

 

「だが、Sクラスの奴らはそうもいかない」

 

雄二は重々しく呟く。AクラスがエリートならSクラスは選ばれた者達。

そんな二つのクラスに僕達Fクラスは挑もうと試みている。

だからこそ雄二は解禁間近になっても早計なことはしないでじっくり作戦を大和と

一緒に練っているみたいだ。それにSクラスとAクラスだけじゃない。

虎視耽々と他のクラスも状況に応じて乗じようとするはずだ。

今のところ、試召戦争解禁になりそうなクラスはEクラスとAクラスだけ、

他のクラスはもう少し先。

 

「今は成績を向上することに専念だ。

いくら強い奴らが増えようが元々弱いままの状態で挑むのは愚の骨頂」

 

「雄二は別に成績を向上する必要もないと思うけどね」

 

「そうだな。それに、出しゃばっても俺は出番ないだろうしな」

 

己の立場を再確認して肩を竦めた雄二だった。

 

「夏休みも終えてあっという間に秋の季節に入りそうな今月は、

どんな学校生活を送れることやら」

 

「いきなりどうしたんだよ雄二」

 

「なに、なんとなく言ってみただけだ。ただの一人言だ」

 

「・・・・・雄二が紳士になった?」

 

「慣れないことをするもんじゃないぞい雄二よ」

 

ムッツリーニと秀吉が話に割り込んできた。どうやら僕達の話を聞いていたらしい。

この二人も交ざったことで他愛のない雑談が花を咲き、何時ものようにバカ騒ぎもした。

 

 

ガラッ

 

 

「雄二・・・・・」

 

「ん?翔花、と翔子も一緒か。姉妹揃って何か用か」

 

霧島姉妹が教室に現れた。特に姉の霧島さんは雄二に近づいた。

 

「・・・・・雄二、もう少しで試召戦争が始められる」

 

「そうだな。なんだ、仕掛けられる前に仕掛けようという腹か?」

 

「・・・・・そんなところ」

 

「そっか。まあ、そうだろうな。こっちはお前達Aクラスを倒す実力がある奴が

いるから警戒しても不思議じゃない」

 

「・・・・・だから、解禁後の翌日。代表戦の一騎討ちも含めて三回戦を勝負したい」

 

い、一騎討ちだって・・・・・?まるで僕達がAクラスと戦ったあの時みたいじゃないかっ。

今度は三人だけって・・・・・。

 

「代表戦の一騎打ちとは別の三回戦か・・・・・五回戦とかじゃなくてか?」

 

「・・・・・死神が確実に勝つ。だから三回戦。

今度は科目を選択する権利はAクラスが二つ、Fクラスが一つ」

 

「Aクラスの代表様にしてはかなり警戒をなさっている様子だ。だが―――いいだろう。

あの時も俺の提案を呑んでくれた例も兼ねて今度こそお前達Aクラスを打破してやる」

 

「・・・・・それはこっちの台詞。今度こそ死神を手に入れる。・・・・・だからこそ雄二」

 

「なんだ?」

 

「・・・・・負けたら何でも言うことを聞く権利も忘れないで。

 今度負けたら翔花と正式に結婚すること」

 

雄二が固まった。霧島さんは言いたいことを言ったのかハーデスと話しもせずに

教室からいなくなったところで、

 

 

ガシッ!

 

 

「頼むハーデス。何がなんでも一騎討ちを勝ってくれ・・・・・!

俺の人生の終止符を打たれる前にっ」

 

『・・・・・大船に乗ったつもりで任せてくれ』

 

「ああ・・・・・!ああ・・・・・!」

 

縋る思いでハーデスの両肩を掴みだした雄二を少しだけ哀れに思ってしまう。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

午前の授業が終わって昼休み。Aクラスの工藤さん、木下さん、

霧島姉妹も交えての昼食会はもう当たり前のようになっている。だけど今回だけはちょっと違う。

 

「すまんな大和。我らも輪に入れてくれて嬉しいぞ」

 

「クラス同士だと敵だが、こうして接してくるお前らを拒む理由はないぜ」

 

「京ー今日も辛いお弁当なのー?」

 

「うん、食べる?」

 

「おうムッツリーニ。例の写真はどうだ?一ダース」

 

「・・・・・既に入手済みだ。1200円」

 

「一子さん、今日も元気ですね」

 

「うん!それがアタシの取り柄の一つだもの!」

 

「ふむ・・・・・死神が作った摘まみは川神水とここまで合うとは・・・・・。

これからちょくちょく頂こう」

 

「し、死神君。申し訳ない。義経の弁当で良ければ弁慶が食べた分を返す」

 

「義経、別にそんなことしなくても死神は気にしないと思うぜ?」

 

「美味しい・・・・・」

 

「勝負も負けて料理の腕も負けるとは・・・・・」

 

「お嬢様。いつも死神の手料理を?」

 

「ああ、とても美味いんだ。ほら、マルさんの好きな料理もあるぞ?」

 

「うーん!死神君の手料理は美味しいよん!」

 

「何故だろう。イッセーが作った料理と酷似した味だ・・・・・懐かしいなぁ・・・・・」

 

「そうだね百代ちゃん。美味しいっ」

 

Sクラスの主力メンバーに上級生の川神先輩や松永先輩、葉桜先輩までもが僕らと

一緒に昼食している。なに、この個性的しかいない集団のパーティーは。

 

『・・・・・工藤、大丈夫か?』

 

「うん・・・・・大丈夫だよ」

 

顔が赤い工藤さん。食欲もないのかあまり食べていない。

そんな彼女の額を手を当てた木下さんが嘆息した。

 

「ダメね愛子、保健室に行きましょう。熱いわ」

 

『・・・・・風邪か』

 

「そうなの。それとも、死神が何とかしてくれる?」

 

木下さんがハーデスにそう言う。ハーデスに視線を向けたら徐に立ち上がって

工藤さんの前に近づく。それから腕を伸ばして彼女をお姫様抱っこして僕らから離れる。

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

『・・・・・戻った』

 

「お帰りなさい。愛子をどうしたの?」

 

『・・・・・治した』

 

二人が戻ってきた。改めて工藤さんを見れば、元気そうな面持ちと態度をしている。

 

「・・・・・愛子、大丈夫?」

 

「うん、死神君に治してもらったよ・・・・・ふふっ」

 

意味深に自分の唇に触れる工藤さん。ん?その仕草の意味はなんなのかな?

 

『・・・・・俺の弁当が・・・・・』

 

あ・・・・・殆ど無くなっちゃっているね。交換はしているけれど、

ここまで大勢で食べるとその分以上ハーデスの弁当の中身が減っていく。だからこそ、

彼の弁当を食べた者は少しバツ悪そうにしていた。

自分達の弁当も殆ど食べているから分けてあげるにもあげれない状態だ。

 

「・・・・・こんなことあろうかと」

 

『・・・・・?』

 

「・・・・・死神の分の弁当を作って来た」

 

霧島(姉)さんがどこから出したのか分からない赤色の弁当箱をハーデスに差し伸べた。

 

「あれ、代表も?」

 

「・・・・・愛子も?」

 

「アハハ、一応食べてくれない前提で作って来たんだけどまさかこんなことになるとは思いもしなかったよ」

 

工藤さんは緑色の弁当箱をわざわざ持ってきた学生鞄から取り出した。

 

「・・・・・優子は?」

 

「う・・・・・」

 

「この展開だと、優子も作っているって感じなんだけどねー?」

 

「・・・・・優子、その鞄の中にあるの?」

 

そう言えば木下さんも鞄を持ってきている。聞いた時は読書する為に入れてあるって

言われたけど、実際は・・・・・そういうことなんだねぇ・・・・・。

 

「死神、いらないなら残しても構わないからねっ」

 

学生鞄から可愛らしい弁当箱が出てきた。

なんだ、この展開は・・・・・三人の女の子から手作り弁当だと・・・・・っ!?

 

「・・・・・視線だけで人を殺せれたら・・・・・っ」

 

奥歯を噛みしめ、血の涙を流すムッツリーニは深く悔しそうな顔をしていた。

ハーデスがそれぞれの弁当を受け取り蓋を開けて行く。

霧島(姉)さんの弁当は色鮮やかな手作り料理、

工藤さんの弁当は至って定番な料理、木下さんの弁当は―――。

 

「んむ?姉上、その弁当の中身は確か昨日の―――」

 

「秀吉・・・・・それ以上言ったら・・・・・バラすわよ」

 

「すまん、ワシは見間違いをしたようじゃから気にせんでくれ」

 

秀吉、お姉さんに何か弱みでも握られているのかな・・・・・。

お姉さんから濃厚な殺意が感じてしょうがない。

キミの境遇には深く同情するよ・・・・・。

 

『・・・・・いただきます』

 

最初に手を出したのは木下さんの弁当だ。おかずはサバの味噌煮か・・・・。

 

『・・・・・サバの身に味付けがしっかりしている。優子が作ったんだよな?』

 

「そ、そう・・・・・よ」

 

何故かハーデスから視線を逸らした木下さん。

あれ、どうしてそんな反応をするんだろうか?

一通り木下さんお弁当を食べたハーデスは工藤さんの弁当に手を出す。

おかずはアスパラとベーコン巻。

アスパラを巻くベーコンはほどよくこんがりと焼かれていて、

塩とコショウが塗されているだろうからとても美味しそう。

 

『・・・・・この味は好きだ。思いの籠った味と念が伝わってくる』

 

「な、何だか恥ずかしいね。そう言われると照れちゃうよ」

 

顔に朱が散らばった工藤さん。褒められて嬉しいけれどハーデスの褒め言葉に恥ずかしいようだ。

そして最後は霧島(姉)さんの弁当だ。おかずは唐揚げ・・・・・なんだけど、

何故か衣が摩訶不思議に虹色だった。

 

「お、おい翔子・・・・・。唐揚げの衣が虹色って・・・・・」

 

「・・・・・最高傑作」

 

自信満々に胸を張らないでっ!?

ほら、流石のハーデスもこれを食べないといけないのか・・・・・と物凄く躊躇しているって!

 

「ハーデス・・・・・安らかに眠れ」

 

「・・・・・骨は拾ってやる」

 

「非力なワシを許してくれハーデスよ」

 

「ハーデス、老後でもキミのことは忘れないよ」

 

僕ら四人は胸に十字をする他に皆も固唾を呑んで見守る。

 

『・・・・・』

 

虹色の唐揚げがハーデスの口の中へ。咀嚼する口の動きは段々としなくなり・・・・・。

 

『・・・・・坂本雄二』

 

「なんだ・・・・・」

 

『・・・・・翔子をよろしくたたたたたったたたっらった~!?(バタリ)』

 

「「「「「ハ、ハーデスゥッ!?」」」」」

 

「「「「「し、死神ぃっ!?」」」」」

 

ダメだった!あのカラフルな唐揚げが絶対に元凶だ!

ハーデスがきっと頼むと言いたかったんだろうけど可笑しな発言をしてとで

コンクリートの床に倒れ込んだ!

 

「明久直ぐにAEDの準備だ!ムッツリーニはお茶を持って来い!

こいつだけは何がなんでも死なせちゃあならねぇんだっ!」

 

「「「「「わ、分かったっ!」」」」」

 

秀吉と木下さん、工藤さんに霧島(姉)さんや九鬼君や与一君の必死に願いで仮面は

付けたまま蘇生活動が始まった。ま、まさか・・・・・アレだけでハーデスを

TKOするなんて・・・・・怖ろしいやカラフル唐揚げ!

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

「―――はっ!?」

 

ハーデスは目を覚ました。保健室のベッドの上で上半身を起こし、

辺りを見渡せば視線を送ってくる数人の男女がいた。

 

「よ、良かったのじゃ!意識を取り戻したのじゃ!」

 

「もう、死んじゃったのかと思ったよ・・・・・っ」

 

木下秀吉と工藤愛子が安堵で胸を撫で下ろしていた。さらに木下優子は溜息を一つ。

霧島翔子は申し訳なさそうに頭を俯いている。

 

「・・・・・俺、寝ていたのか?」

 

「霧島の唐揚げを食べてお主は生死の狭間を彷徨っていたぞ。

何度も『お父さんお母さん、どうしてそっちに行っちゃダメなんだ!』

ってうわ言を・・・・・」

 

「ああ・・・・・川を挟んだ綺麗な花畑と川の向こうに死んだ両親がいた夢を何度も

見たな。その度に蹴り飛ばされた」

 

「り、臨死体験をする程って・・・・・代表。もう二度とあんな料理を作らないで。

死神君の寿命が長いからって好きな人を殺しちゃ悲しいよ」

 

「・・・・・死神の為に一生懸命作ったのに」

 

「代表、絶対に余計な物を入れちゃダメって。代表は料理が作れるんだから普通に

調理すれば美味しいはずよきっと」

 

「・・・・・普通に作る」

 

場の空気は緩和し、話が付いたと察したハーデスは仮面を付けていないことに気付いた。

 

「おい、俺の仮面は?」

 

「取り敢えず、お主が心配するようなことはない。窓にはカーテンを閉めておるし、

扉には鍵を掛けておる」

 

「そうか・・・・・それならいい」

 

正体がバレていないのだと安堵で息を吐くハーデス。

 

「翔子、普通に作ってくれ。アレは流石に食べれない」

 

「・・・・・ごめんなさい」

 

「ん」

 

何時までも落ち込ませないと霧島翔子の頭を撫でる。

 

「今度は俺が美味しいと言わす程の料理を作ってくれよ、楽しみにしている」

 

「・・・・・分かった、頑張る」

 

「おう、頑張れ」

 

ハーデスは素で笑みを浮かべた。木下優子と工藤愛子、霧島翔子はその笑みを見て安心し、

自然と口元が緩む。

 

「うん、死神君の笑顔が好きだね」

 

「ま、まぁ・・・・・嫌いじゃないわ」

 

「・・・・・優子、素直じゃない。・・・・・死神、伝えたいことがある」

 

「ん?」

 

霧島翔子の瞳を覗きこむように反応した死神の耳に爆弾発言。

 

「・・・・・私と愛子と優子は死神のことが好き」

 

言葉を失い静寂な空気に包まれた爆弾発言から一拍遅れて、

木下優子と工藤愛子の顔が一気に赤くなった。

 

「ちょ、ちょっと代表ぉっ!?」

 

「こ、こんな時にこんなところで暴露しなくてもいいんじゃないカナッ!?」

 

「・・・・・こんな時だからこそ言う。それに死神も気付いていると思う」

 

三人の少女の視線を浴びるハーデスは頬を掻く。

 

「まあ・・・・・薄々そうだろうなと思ってはいたが・・・・・まさかこんな形で

好意を暴露、ぶつけられるなんて初めてだ」

 

「・・・・・それでハーデスよ。お主の返答は?」

 

「一貫する。俺は誰とも付き合う気はないぞ。立場も種族も違うと教えたし」

 

「・・・・・関係ない。死神がそう言っても私達は私達で死神と接するから」

 

「他の二人もそうだって言うのか?翔子じゃないんだぞ2人は。俺の気持ちを理解してくれる」

 

ハーデスの言葉に木下優子と工藤愛子は口を噤む。

 

「・・・・・どうしても?」

 

「どうしてもだ」

 

「・・・・・なら、諦める代わりにあなたの全てを教えて?」

 

「な―――っ」

 

「・・・・・」

 

真剣な表情でハーデスを見つめる霧島翔子。少なからず短い付き合いをしていない

霧島翔子を知っているハーデスからしてみれば自らこんなことを言う少女ではないはず。

しかし、諦める代わりにハーデスの全てを教えて欲しいと懇願した。

言えば諦めてくれる。だが、本当に諦めてくれるのか疑わしい。

 

「お前から諦めるという言葉が出るのは初めてだ。―――本気で言っているのか?」

 

「・・・・・っ」

 

瞳が一瞬だけ揺れた。それを見逃す訳がない。

 

「俺を諦めたくないその本心はお前の強さだ。

無理するな、表情には出さないが心が泣きそうになっているぞ」

 

「・・・・・だって、死神は・・・・・教えてくれない。

秘密でも私は・・・・・心からあなたのことを知りたい」

 

「教えたくないんじゃない、教えれないんだ。本当に、これは俺だけの問題なんだよ」

 

「・・・・・自分だけ抱え込もうとしないで、私も・・・・・私達も抱えるから」

 

「お前が思っているような重さじゃないんだ。信用、信頼してもどうしようもない境遇と現実に力のない人間のお前らに何ができる?」

 

ハーデスの指摘に誰もが言えなくなった。

きっと自分達の想像を遥かに超えた何かを抱えているんだろう。

―――力のない人間―――。その言葉が深く突き刺さる。

 

「その通りじゃ、子娘共」

 

突如、変わった話し方をする者が音も無く出現した。黒いセーラー服を身に包む見慣れない少女の腰辺りに何かが生えているのが木下秀吉達の目に飛び込んだ。

動物の・・・・・狐の尾みたいて数は九本。

 

「あ、アンタ誰よ!何時の間にいたのよ!?」

 

「喚くな小娘、妾はずっと一緒にいた。―――一誠の中でな」

 

「一誠・・・・・?」

 

「イッセーはこの子の渾名みたいなものじゃ、本当の名前は一誠という」

 

少女は、一本の尾を動かしハーデスの頬を添えるように触れる。

 

「玉藻・・・・・どうして出てきたんだ」

 

「何、妾もたまには表に出てみたかったのじゃ。それにこの者達に分からせる必要がありそうじゃしの?」

 

ハーデスの背後に回り背中から抱きしめるだけでなく九本の尾もハーデスを包むように囲む。玉藻と呼ばれた少女は真っ直ぐ黒い目を木下優子達に向けるのだった。

 

「子娘共に一つだけ告げようか。一誠のことを知ろうとするのは簡単じゃ。

じゃが、逆に言えば知るだけでお主らは何もできないか弱い人間の子よ。

無論、四天王と称されておる川神百代の力さえもこの子が抱いている問題の前では無に帰す」

 

「・・・・・知るのと知らないのじゃ違う・・・・・!」

 

「当然じゃ。当たり前のことを言ったところで・・・・・ほれ、何が変わるという?」

 

「・・・・・っ」

 

少しずつ突き付けられていく自分達の非力、無力さ。

 

「お主らと違ってこの子は生まれて直ぐに過酷な運命を、人生を歩んできた。

知った程度で一誠のことを心から理解できると思いあがっているならば・・・・・。

二度と一誠と接するな、近づくな」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「それがこの子の為でもある。蒼天にいるこの子の家族もまたお主らと同じだ。

この子は・・・・・一誠は常に孤独に強いられておる。

時間と言う縛りに一誠は・・・・・苦しんでおる」

 

悲痛な面持ちとなった玉藻を信じられない気持で見ている霧島翔子達は静聴の姿勢のままでいる。

そう、ハーデスが玉藻の手を握るまでは。

 

「玉藻、ありがとう。中に戻ってくれ」

 

「・・・・・一誠」

 

「後は俺が話を付ける。それで、こいつらが俺に対してどう接するのかも決めてもらう」

 

ハーデスの気持ちを汲んだのか、玉藻はハーデスの中へと戻る。

元の人数に戻ったことで四人に向かって話しかける。

 

「・・・・・お前ら、心から俺を知りたいか?

自分の非力と無力を自覚させられるだけだ。そして、後悔するかもしれないぞ」

 

「・・・・・後悔なんてしない。あなたの傍で生きて支えたい・・・・・」

 

「死神君・・・・・もう、教えて欲しいよ。どうして誰とも付き合う気がない、

結婚もする気はないのかも」

 

「信用とか信頼とか関係ないなら、心からアタシ達にハッキリと拒絶をしてよ。

それができないなら、魔法の力で記憶を消してちょうだい」

 

「全てを受け入れる自信はあるないの問題じゃないのじゃ。ワシらは友達であろう?

知ることしかお主の支えができないなら、他の方法を必死に探してお主の支えとなりたい」

 

四人の真摯な思いを察し、徐に指を弾いた。ハーデス達を包む金色の膜が発現したのだった。

 

「ここから話すことをこの場にいるお前達のみにしか言わない。

もしも俺のことを誰かに一人でも漏らしたらお前ら四人の記憶から今日の出来事を抹消

させてもらう。いいな?」

 

ハーデスの真剣な眼差しに四人は短く頷いた。

 

―――☆☆☆―――

 

―――秀吉side―――

 

「分かった。なら打ち明けよう」

 

ハーデスは短く深呼吸をし、短くこう言った。

 

「最初は優子の質問を答えよう」

 

姉上の質問・・・・・?

 

「アタシの質問って・・・・・」

 

「俺がどうしてドラゴンなのか、両親が人間なのにって秀吉と優子の家に

宿泊させてもらった時に言われた質問だ」

 

「・・・・・優子、死神と泊まったって・・・・・?」

 

「翔子、静かにしないと追い出すぞ」

 

それだけで霧島は大人しくなった。最近嫉妬する事が多い霧島じゃから自分の知らない

ところでハーデスが他の女子と合うことすら浮気だと認識してしまう。

 

「転生って言葉は知っているだろう?」

 

「うむ、ゲームとか二次創作によく出る単語じゃな」

 

「そうだ。俺は人からドラゴンに転生した身だ」

 

「・・・・・あっさりと言われたんだケド、本当に?」

 

「俺から言う言葉を信じられないなら―――「信じる!信じるから話を続けて!」―――話を続ける」

 

お主、本当に鬼畜じゃの。

 

「ドラゴンに転生した俺はもう人間じゃない。人間のベースで作られたこの肉体を持つ

俺は人型ドラゴンそのもの。既に理解しているだろうが、

転生によって俺はドラゴンになったんだ」

 

「転生ってそう簡単にできるものなの?」

 

「簡単ではないが一部の種族に転生する事なら可能だ」

 

「・・・・・ドラゴンだけじゃない?」

 

「悪魔と天使、堕天使にも転生できる」

 

悪魔と天使・・・・・堕天使じゃと?唐突にファンタジーなキャラクターが出たのじゃ。

それらとハーデスにどういう関係が・・・・・。

 

「悪魔と天使、堕天使って存在していないじゃない。

ドラゴンは・・・・・まぁ、目の前にいるけど」

 

「信じられないのは無理もない。確かに俺が言った三つの種族はこの世界に存在していない。

が、存在を知らす神話に関係する書物や物は探せばいくらでも出てくる。

例えば神の怒りによって海に沈められた水の都アトランティス」

 

「あの都も存在していた証だっての?」

 

「太古の考古学者に研究者、探検家が見つけた偉大な遺跡の一つだぞ?

アレがどうやって海の中に沈んだのか、誰が何のためにあの遺跡を建設したのか、

お前らは分かるのか?」

 

「それこそ調べれば見つかるものでしょう?」

 

「当然だ。携帯でも調べれる」

 

ネットワークは便利じゃ。ワシもたまに使っておるぞい。

 

「死神君ってもしかして太古からずっとこの地球で生きていたの?」

 

工藤の問いかけに、ハーデスは苦笑を浮かべた。

 

「残念ながら違う。俺はまだ数十年しか生きていない。

千年も一万年前もその前すら俺は長生きしていない若輩者だぞ」

 

「じゃあ、悪魔とか天使とか堕天使とか本当に存在していると思っているの?」

 

人差し指だけ突き立てハーデスは確認するように発する。

 

「この世界は存在しない。なら、この世界の他にもファンタジー的な世界、

並行世界=パラレルワールドが存在しているなら可能性はあるとは思わないか?」

 

「そんな夢物語みたいな話、本当にあるワケ・・・・・」

 

姉上が途中で発言を止めた。姉上の中で何かが察知したのじゃろう。残念ながらワシは

チンプンカンプンじゃ。

 

「・・・・・悪魔と天使、堕天使みたいなファンタジーはこの世界には存在しない。

なら、ドラゴンもこの世界に存在していない。魔法ですら、概念があっても扱える人は

見聞したことがない。もしもパラレルワールドなんて世界が存在しているならそれを

否定する理由は無い」

 

「・・・・・優子?」

 

「パラレルワールド、ファンタジー、魔法・・・・・異世界・・・・・?」

 

顎に手をやって考える仕草をしておった姉上が、ゆっくりとハーデスに目を向ける。

 

「死神・・・・・あなた・・・・・魔法を使って元々住んでいた世界からこの世界に

来たってことなの・・・・・?」

 

「え・・・・・元々住んでいた世界って」

 

「・・・・・優子、どういうこと?」

 

「アタシなりに、ドラゴンのことや魔法のことについて色々と調べたんだけど。

二次創作ってインターネット内の小説じゃあ、魔法で違う世界に行った小説を

読んだことがあるわ。最初はそんな現実的に有り得ないしできるわけがないと

否定したけれど・・・・・死神が言う事実が全て本当だってことなら死神は、

この世界の人間じゃなくて、異世界の人間―――ってことになるの」

 

な、なんじゃと・・・・・っ!?ハーデスが、この世界で生まれた人間じゃないっ!?

じゃ、じゃが・・・・・ハーデスはドラゴン・・・・・この世界にドラゴンなど

本来存在していない。なら、ドラゴンはどうして急に姿を現した?

その答えを誰もが答えられずにいたのも事実で

魔法と言う力が存在しているなら・・・・・違う世界に移動することも不可能ではない。

 

「死神・・・・・異世界から来たドラゴン・・・・・そうなのよね・・・・・?」

 

姉上自身さえも信じられない気持と面持ちでハーデスに返答を求めている。

工藤と霧島も、ワシもハーデスから出る答えを聞く為に目と耳を傾ける。

 

「・・・・・くく、本当に優子は推理が得意だな。探偵になったら有名になるんじゃないか?」

 

「・・・・・」

 

「―――優子、点数を付けるなら99点だ」

 

その点数の高さは言い換えれば99%その通りだという事実。

 

「ああ、その通りだよ。俺は異世界から来たドラゴン、兵藤一誠だ」

 

「「「「―――っ!?」」」」

 

「だが、1点だけ不正解だ。俺は好きこのんでこの世界に移動したんじゃない」

 

「え・・・・・?」

 

「俺は自分の意思とは無関係に第二次世界大戦中のこの世界に来てしまったんだ」

 

―――愛子side―――

 

自分の意思とは無関係に来たって・・・・・どういうことなの。

 

「俺はとある日、突然空間に空いた穴に吸いこまれてこの世界に来た。

第二次世界大戦だから今から60年以上前になるな」

 

「ろ、60年・・・・・」

 

「その頃の俺は必死に元の世界に帰ろうと魔法の力を使った。

だけど、別の世界に繋がるはずの魔法が発動できなかったんだ。呪文は完璧に唱えた、

魔力だって十分ある。なのに、理由が分からない。俺は理解できないまま元の世界に

帰れないこの数十年間、この世界に生き続け、暮した。

元の世界にいる家族と行き別れをして」

 

「家族・・・・・蒼天にいるあの人達じゃない他の?」

 

「俺が小さい頃からの付き合いから共に戦い続けた仲間、戦友、友達、家族。

玉藻もその一人でドラゴン達も戦いの中で俺の家族にした」

 

仲間にしたってことかな・・・・・?だけど、そっか・・・・・元の世界にも家族がいるんだね。

 

「その世界には悪魔と天使、堕天使がいる」

 

「そうなのか・・・・・」

 

「それだけじゃない、ドラゴンもいれば神、魔王、妖怪もいるし、

ファンタジーな生物がいるんだ」

 

「・・・・・人魚も?」

 

「狼男も?」

 

「吸血鬼もかの?」

 

「全部いるぞ。因みにさっきお前らの前に現した玉藻は妖怪だ」

 

うわぁ・・・・・本当にファンタジーな世界だ。

死神君がドラゴンに転生したってことも納得かも。って、あの人は妖怪だったの?

 

「人間っていないの?」

 

「当然いるさ。種族が違えど、様々な種族が共に生存している夢のような世界だ」

 

「聞いているだけだと、本当に夢物語な話ね」

 

「だろうな。だが、全てが事実だ」

 

ベッドから抜け出た死神君。

 

「他に聞きたいことはあるか?今なら何でも答えるぞ」

 

「・・・・・死神、元の世界に好きな人はいる?」

 

「いるし、付き合っている女もいる。いや、もう・・・・・いたと言うべきか・・・・・過去の話しだし」

 

「だから、誰とも結婚もする気もなければ付き合う気がないと・・・・・元の世界に

いる好きな女の子に罪悪を勘を感じるから?」

 

「それもある。が、最もな理由は俺がドラゴンだという事実だ」

 

それって・・・・・もう解決したんじゃなかったの?

 

「俺がドラゴンだということはお前らしか知らない事実。

なら、俺がドラゴンであることを世間に知られたらどうなると思う?

結婚して子供が生まれるとその子供は俺の血と魔力を受け継ぎ、

半分人間半分ドラゴンの存在となる。もしもその子供の存在が知られれば

悪い事だらけなことになる」

 

「・・・・・誘拐・・・・・人身売買・・・・解剖・・・・・研究素材」

 

「おぞましいことをさらっと言うなこの無感情少女。まぁ、そう言うことだ。

この世界は表向きに受け入れられているが裏向きは受け入れられてない。

俺がこの世界にとって異物みたいな存在なのは確かだ」

 

肩を竦める死神君だけど、ボク達はそう思わない。死神君がそう思っても、

ボク達は違うと言うよ・・・・・。

 

「蒼天の家族すらドラゴンだって知らないのよね?」

 

「言う必要、あると思うか?それに、それとは違う意味であいつらは俺がただの

人間じゃないってぐらいは理解している」

 

死神君は神妙な面持ちで言う。

 

「元の世界だったら後顧の憂いどころか、町に人型ドラゴンが闊歩していようが問題ない。種族交流、共存ができていたそういう世界だからこそ俺は受け入れられていた。だけど、この世界は違う。ここは人間しかいない化け物という爆弾を抱えた世界だ」

 

「死神君・・・・・」

 

「こうして蒼天の中央区の王とご立派な立場で俺の正体を隠しつつ

今の今まで生きていた。今じゃ俺が天使だということが世間に広がり有名になった。

誰も俺が化け物なんて思いもしない。が、それでも俺は本当の意味で生きた感じがしない。

あの世界が、愛し合い、心から分かち合った親友と戦友がいるあの世界が懐かしい」

 

―――っ!

 

「ハーデス、お主・・・・・」

 

「ん?」

 

「・・・・・泣いている」

 

死神君の目から頬を濡らしている涙が出ている。手で頬を触れると、苦笑を浮かべた。

 

「久し振りに皆のことを思い出したからだろうな。誰かに俺やあの世界のことを言う

なんて初めてだから懐かしいあまりに・・・・・無意識で泣いたんだろう」

 

泣くほど・・・・・元の世界にいる家族が恋しいんだ。生き別れになって長い月日を

過ごしていて・・・・・帰りたいのに帰れないその状況をボクがそうなったら

一体どんな行動をとっていたんだろう。

 

「悪い、直ぐに治まるだろうから心配は―――」

 

死神君・・・・・ずっと、ずっと寂しかったんだね。あの玉藻って女の人のいう通りだ。

聞いたところで何か変わるわけがない。ボク達はあまりにも非力だ。

だから、せめてこれだけでも・・・・・。

 

―――翔子side―――

 

・・・・・愛子が突然、死神に抱き付いた。

 

「愛子・・・・・?」

 

「ゴメンね、ゴメンね・・・・・辛いことを思い出させちゃって・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「死神君のこと、全然分かっていなかった。聞いててとても悲しくなった。

でも、後悔していないよ・・・・・。ボク死神君のことが大好きだからずっと傍にいたい。

ボクの心は死神君に奪われちゃったんだよ?」

 

・・・・・死神は静かに愛子の話を聞いているだけで何も言わない。

 

「ボクのこと嫌いでも好きでもないならそれでいいよ。ボクはずっと死神君の傍にいるだけで

いいからね」

 

「そんなことになればお前は幸せにならない」

 

「ボクの人生はボクだけのものだよ。だから死神君・・・・・ううん、イッセーくん」

 

「っ・・・・・」

 

・・・・・愛子が、死神の唇に・・・・・自分の唇を重ねた。

キスの時間はあっという間に終わって、死神から顔を話した。

 

「二人きりの時だけ、キミのことをイッセーくんって呼ぶね?」

 

「あ、愛子・・・・・」

 

「ほら、今度は優子の番だよ?」

 

「へっ!?」

 

「嫌なら別に良いよ?代表がしたらもう一度ボクもするから」

 

・・・・・・優子を焚きつける愛子。・・・・・・優子は死神を見るや否や、顔を赤くする。

でも・・・・・意を決した優子の瞳は力強い光が籠った。

 

「イ、イッセー!」

 

「なっ、お前もか・・・・・!」

 

・・・・・死神に向かって飛び掛かった優子は固く目を瞑って死神とキスを交わした。

 

「せ、責任をとりなさいよねっ!?ア、アタシの初めてをあげたんだからっ!

今日からアンタとアタシはこ、こい・・・・・!」

 

・・・・・最後まで言えない優子はオーバーヒート状態で頭から煙を発生させている。

 

「・・・・・もっとムードがあったら感動していたかもしれないな」

 

「うっさい!」

 

・・・・・優子は照れ屋さんなんだから。

 

「・・・・・死神」

 

「翔子・・・・・」

 

「・・・・・愛子と優子と同じ、私もあなたのことが好き」

 

「強化合宿の時もいったが、いいのか。俺はドラゴンだぞ」

 

「・・・・・死神は死神。それ以上でもそれ以下でもない私が唯一大好きな死神しか興味ない」

 

・・・・・二人のようにできない。だ、だから・・・・・目を瞑ってみた。

 

「・・・・・イッセー」

 

・・・・・胸のドキドキが止まらない・・・・・少しどころかすごく緊張している。

 

『・・・・・後悔しても知らないからな』

 

・・・・・そう言う彼の声が耳に入ってきた直後。私の唇に柔らかく生温かい感触が伝わった。

 

「・・・・・っ」

 

・・・・・私、彼と・・・・・イッセーとキス・・・・・しているんだぁ・・・・・。

 

「・・・・・イッセー、嬉しい・・・・・っ」

 

「・・・・・そうか」

 

・・・・・ぶっきら棒に言う彼だけどそれでもいい。・・・・・私は、私が小さい頃から

願っていた夢がようやく・・・・・叶ったのだから。

 

「・・・・・イッセー、大好き・・・・・!」

 

―――優子side―――

 

代表が嬉し涙を流しつつ彼に抱きついた。アタシは、アタシ達は正式に彼と付き合う

ことに

この場で決まった。・・・・・のよね?ア、アタシの初めてを捧げたんだから・・・・・。

 

「・・・・・イッセー大好き愛している、イッセー大好き愛している、

 イッセー大好き愛している、イッセー大好き愛している、イッセー大好き愛している」

 

「・・・・・翔子が壊れたように連呼していてちょっと怖い」

 

「ハーデス君と付き合えるようになって嬉しいあまりに噛みしめているんじゃないかな」

 

「・・・・・そう言う事にしよう」

 

あまり触れないようにしようと言う気持ちが伝わってくるわよ。

でも、確かに良いムードとは言えないわね。

 

「ハーデスよ、姉上を幸せにして欲しいのじゃ」

 

「約束はできないぞ。俺は何時か、元の世界に帰るつもりでいる。

それ以前に結婚していなく三人が寿命で死んでいるかもしれない。」

 

「元の世界に帰るって、どうやって?帰れないからこの世界にいるんでしょう?」

 

「やり方が問題があったのかもしれないんだ。通常ではなく通常ではない方法でしないといけないんだ」

 

「・・・・・どうやって?」

 

誰もがその方法を気になり視線で尋ねる。彼はこう言った。

 

「日食の日、月と太陽が重なった瞬間に元の世界に帰る魔法の呪文を唱える」

 

「本当にその方法で元の世界に・・・・・?」

 

「わからない。だけど、試してみる価値がある。実際にやってみせるとこんな感じだぞ」

 

一瞬の閃光が弾け、龍を象った金色の軍杖が発現して彼の手の中に収まった。

その軍杖を構えて聞いたこともない言葉で呪文の如く言い続ける。

 

「―――――」

 

その後、呪文を言い終えたと思う。彼が軍杖を横に突き付けたと同時に口を閉ざしたからだ。

でも・・・・・何の変化もない。

 

「・・・・・やっぱり、発動しないか」

 

「・・・・・ハーデス?」

 

「今聞いた言葉は異世界に繋がる魔法の呪文だ。だけど見ての通り、なんにも起こりはしない」

 

それを、彼は何度も何度も繰り返し・・・・・最後は・・・・・。

 

「だから、残る手段は日食のときにまた試すしかないんだ。もしもそれでもダメなら

俺は一生この世界で生き続けるしかない。きっとそうなれば何百年何千年何万年と

長い年月の中で生きることに強いられる」

 

「「「「・・・・・っ」」」」

 

「その間、知り合った者、友達、戦友、もしかすると恋人や家族は寿命で死んだり病で

死んだり・・・・・いや、病だったら俺が治すから死にはしないか。取り敢えず、

俺が生きている間にそう言った人間は俺を残して死んでしまう。それはとても辛く、

悲しく虚無感を感じ続けて、永遠の生に生き続けることがどうしようもなく暇で

俺の心はいつか植物人間みたいになるだろう」

 

今はやることがあるから暇じゃないがなとそう付け加えた彼だった。

 

「永遠の命、不死身、不老不死と聞こえはいいが実際に体験していない奴だから

そんな幻想を抱く。共に生きる仲間がいなければ、死ねば孤独を感じ強いられる」

 

「お主はこの数十年間・・・・・・そう思い続けておったのか」

 

「思ったことはある。だが、今の俺は世界から注目される国の王の一人。

やることがあるからこそ退屈な思いはせず、一時の戯れとして家族と生きている。

残りの数十年の命で俺(ドラゴン)は軽く何千年と生き続けるがな。

まだそこまで生きたことないけど」

 

そ、そんなに寿命が長いなんて・・・・・!

 

「ついでに言うと悪魔と天使、堕天使は永遠に近い寿命だ。

個体差によってバラバラだけど一万年の寿命だ」

 

「い、一万年・・・・・!?」

 

「な、永過ぎだよいくらなんでも・・・・・」

 

アタシもそう思う。気が、精神が、心が狂ってしまっておかしくないわよ。

 

「もう一度言うぞ。俺といても碌な目に遭わない。それでもいいなら好きにしろ」

 

そうアタシ達に告げる彼。だけど、もう決めたことを今さら曲げるつもりはない。

 

「・・・・・ハーデス、ずっと傍にいる」

 

「寿命の違いに驚いたけど、キミの傍で精一杯生きて幸せの中で死んでみせるよ」

 

「好きにさせてもらうわよ言われなくても。

だから、アンタもアタシ達を放っておかないように。いいわね!?」

 

彼は嘆息し、まったくと漏らした。

 

「勝手にしろ」

 

「「「勝手にする」」」

 

今日からアンタはアタシ達の彼氏!絶対にお互い楽しい思いをしましょうよ、ね?ハーデス!


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