バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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現れる挑戦者・暗殺者
真約一問


「で、俺に報告したいってのは?」

 

「ちょいと試験召喚システムの操作系統を変えてみようと弄っていたんだけどね」

 

「うん」

 

「半自動化を試したのさ。今までの設定が召喚者のハッキリとした意識のみを読み取って

いたとしたら、今回はその一歩先の意識と無意識の間あたりも読み取って、

ある程度自立的に行動できるようにしてみたんだよ」

 

「意識と無意識の間か・・・・・召喚者の心を読み取って召喚獣が言動するわけだな?」

 

「だいたいそんな感じさ。まぁ、だからこそそのおかげで召喚獣が面白いことになっていてね」

 

「召喚者の意思を逆らう召喚獣なんて大丈夫か?」

 

「問題ないさね。観察処分者はともかく他は物理的干渉ができない召喚獣だ。

仮に暴動が起きたらお前さんが抑えて欲しいね」

 

「それ、調整失敗した意味に繋がるが―――もう一度調整に失敗したら

どうなるか・・・・・前に言ったよな?」

 

「だ、大丈夫だよ!アタシを信用しな!今回はあくまでも召喚者の無意識と意識、

その間を読み取って喋る召喚獣なんだからね!」

 

「そうか・・・・・あくまでもそう言う事ならお前が考案した実験のデータの情報を

採取してやろう。それはそれで面白味がありそうだからな」

 

「(ホッ)なら、今回の実験の第一人者として死神・ハーデス。お前さんが人選した

メンバーでデータを採っておくれ」

 

「了解。が、あいつらはただで引き受けてくれるとは限らないからちょっとした

報酬を用意してくれよ。学食&デザート一週間分の引換券とか図書券とかな」

 

「そのぐらいならいいさね」

 

 

『明久テメェ!なんであのタイミングでくしゃみなんかしやがるんだ!途中までは

上手くいってたってのにこのバカ野郎!』

 

『雄二こそ!あのタイミングでお腹が鳴るなんて何考えてるんだよ!あれがなければ

上手くいっていたのにこのクズ野郎!』

 

『ええいキサマら!いいから補習に戻らんかあっ!』

 

『『くそぉおおっ!あとちょっとでハーデスがいるババァ長の部屋なのにぃっ!』』

 

 

「―――ほんと、あいつらはバカ騒ぎをしてくれるから見ていて楽しいんだ」

 

「アタシとしちゃぁ、いい迷惑なんだがね」

 

「それじゃ、俺は戻るとしよう」

 

「頼んだよ」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「「「召喚獣の試運転?」」」

 

『・・・・・そうだ』

 

学園長に呼び出されたハーデスが戻って来るや否や、僕らにそうスケッチブックで伝えてきた。

 

『・・・・・学園長の依頼で俺が人選したメンバー、つまりお前らに協力してほしい』

 

「ハーデス、試運転って具体的に僕らはどうすればいいの?」

 

『・・・・・大したことじゃない。喚び出して、適当に動きまわらせるだけでいい。

無論、タダじゃない。学園長に協力してもらえば学食&デザート一週間分の引換券に

図書券が報酬付きだ』

 

「「「「おおー」」」」」

 

ハーデスが言う報酬に、皆が感嘆の声をあげる。

 

「んで、ハーデス。ただ動き回らせるだけであのババアに何の利益があるんだ?』

 

『・・・・・操作系統の変更のデータの蓄積情報』

 

操作系統の変更・・・・・?なんだろう、僕達が操作するだけで報酬がもらえる

なんて学園長にしちゃ気前が良過ぎる。

 

『・・・・・協力して貰うメンバーはこの場にいる全員だ』

 

えっと・・・・・・この場にいるのは風間ファミリーと雄二、秀吉、ムッツリーニ、

島田さんと姫路さん。極道さんとエスデスさんに史文恭さんと梁山泊の皆。

Cクラスの代表の小山さんの他にAクラス代表の霧島さんと霧島さんの妹、

木下さんに工藤さんと最後に僕だ。

 

『・・・・・既に学園長に学校全体にフィールドを展開して貰っている。科目は古典。それとこの教室から出ないで欲しい。データが採りにくいからな』

 

と、ハーデスは僕らにそう伝えると木下さんが挙手した。

 

「ねえ、死神。試運転でアタシ達の召喚獣が暴走した時の考慮しているのかしら?」

 

『・・・・・その時は戦死させる。この中で強いのは俺だからな』

 

「とても清々しい返事をしてくれてどうもありがとう」

 

うん、点数は極端で操作は全校生徒の中で逸脱しているハーデスがそう言うなら

安心できるだろう。

 

『・・・・・そう言うことで全員、この文字を口に出して言え』

 

そう言ってスケッチブックに書いた文字を僕らに見せつけた。えっと・・・・・。

 

「「「「「格差問題?」」」」」

 

『・・・・・正解』

 

文字を読み上げた瞬間。毎度お馴染の幾何学模様が僕らの前に浮かびあがり、

そこから徐々に姿を現す召喚獣。

 

「へ?勝手に召喚獣が・・・・・」

 

「あっ、やられた・・・・・っ」

 

「大和?」

 

「俺達、召喚獣を召喚するキーワードを言ったんだよ。まんまとハーデスに嵌められてな」

 

キーワードを言った?試獣召喚(サモン)と詠唱しないとダメなはずなんだけど・・・・・。

格差問題⇒格 差 問 題⇒かくさもんだい⇒カクサモンダイ⇒ カク サ モン ダイ

⇒サモン―――試獣召喚(サモン)!?

 

「しまったぁぁぁっ!?」

 

「ようやく気付いたか。そういうことだ」

 

おのれハーデス!僕達を協力させるためにこんな方法で召喚獣を喚び出すなんて卑劣なやつだ!

 

「あれ、服装が学校の制服ね?」

 

「蒼天が俺達の装備を変更しているからだろう。そのせいじゃないか?」

 

「・・・・・妖怪じゃなくなっている」

 

「やはりこっちの方がしっくりくるのう」

 

「・・・・・耳と尻尾も以前と同じ」

 

皆、自分の召喚獣を見降ろして淡々と口にする。パッと見て分かる変更点といえば、

現れた召喚獣は神月学園指定の制服姿で、手には何も持っていないというところくらい。

喚び出された召喚獣が全員とも同じ格好であるところを見ると、

これが装備を設定していない時のデフォルトなんだろう。

 

「一応、いまのところおかしな部分は見当たらないね」

 

「安心するのはまだ早いぞ明久。さっきのハーデスの話だと、

変更したのは操作系統の部分らしいからな。動かしらからが本番だ」

 

「ふむ。ならば、早速動かしてみようかの」

 

見た目の確認を終えて、秀吉が自分の召喚獣に指示を出そうとする。その時、

 

 

《ハーデス、ワシを抱きしめてほしいのじゃ》

 

 

「「「へ?」」」

 

 

子供のような高い声が、教室に響き渡った。な、なんだ?誰が喋ったんだ?

 

「い、今の・・・・・何かしら・・・・・?」

 

「小さなこの声が聞こえましたけど・・・・・」

 

辺りを見渡してみる限り、子供のどころか僕ら以外の人の姿はどこにも見当たらない。

強いて言えば、ピョンとハーデスに跳び付く秀吉の召喚獣・・・・・。

 

 

《ハーデスの温もりは心地良くて好きじゃ!》

 

 

「・・・・・優子の弟の召喚獣が喋ってる」

 

「あ、本当だね」

 

 

《のう、もっとギュッとしてくれんかの?》

 

 

よく見てると、秀吉の召喚獣が口を動かしていて、

それに合わせてさっきの声が聞こえてきた。

 

「へぇ~。こりゃ面白いな」

 

「となると、俺達の召喚獣もあんな感じになるわけだ」

 

「しかしまぁなんつーか、操作性の向上というよりは、自動かって感じだよな。

おいハーデス。あのババァ空他に何か聞いていないのか?」

 

雄二が問うとコクリとハーデスは頷いた。

 

『・・・・・操作系統を変更したと言ったな?学園長は半自動化を試しある程度自立的に

行動できるようにしたらしい』

 

「ある程度自立的な行動だぁ?」

 

『・・・・・召喚者の意識と無意識、そしてその間あたりも読み取って言動する』

 

こんな感じにとハーデスは秀吉の召喚獣の頭を撫でると嬉しそうに目を細めた召喚獣。

 

「・・・・・物凄く嫌な予感がしてきたぞ」

 

大和が顔を強張らせた。へ、どうして?

 

『・・・・・因みに召喚者の意思も逆らう可能性がある』

 

「「「「「ちょっと待てぇっ!?」」」」」

 

 

《それにしても、困ったのじゃ。今朝のことはどうしたら良いじゃろうか・・・・・・。まさかまた近所の男子中学生に告白されるとは・・・・・。

こんな話が明久達にバレてしまえば、ワシはさらに女扱いにされてしまう。

秘密裏に断わらねば・・・・・!》

 

《リン~!リンのパンツをちょうだぁ~い!》

 

《い、いや!私の下着は死神が私の為に買ってくれたんだ!

これは何がなんでも奪わせない!絶対に守る!》

 

《モロ・・・・・お前の女装姿を見るとムラムラして・・・・・!》

 

《ちょっ、ガクト?目が恐いよ・・・・・?》

 

《ふっ、誰も俺に近づくなよ?この力を解放してしまった俺は俺自身さえ

 止められないんだからな!》

 

《ボク、最近・・・・・死神君と一緒にいると胸が弾むんだよね。

これってやっぱり・・・・・》

 

《ハーデスは誰とも付き合わないって言ってるけど・・・・・。

 やっぱりアタシ・・・・・》

 

《死神・・・・・いえ、私はあなたのペットになりたい。その強い眼差しで

私を見つめられながらあなたに組み敷かれて・・・・・それで・・・・・!》

 

《イッセーさん・・・・・私、夜一人であなたを思いながらシているの。

だからこの体の疼きを止めてくれるのはあなたしかいないのぉっ!》

 

 

召喚獣達が口々にそんな事を言い始めた。え・・・・・?今のって、何・・・・・?

 

「木下君・・・・・。ついに学校外の男の子にまで告白

されちゃったんですか・・・・・?」

 

「リン、死神に下着を買ってもらったんだ?」

 

「ガクト・・・・・僕をそんな目で見ないでくれる・・・・・?」

 

「大和、あの時の病気がまだ治っていないのねー?」

 

「・・・・・愛子、優子・・・・・どういうこと?」

 

「エスデス・・・・・お前・・・・・ドSだと思っていたが実はドMだったとはな」

 

「椎名さんって・・・・・実はエロいのね・・・・・」

 

皆がそう問いかけると、皆はそれぞれ否定の姿勢で返事をした。

 

 

「姫路よ。いくらなんでも、男のワシが近所の男子中学生に告白されるなぞ、嘘にもほどがあるぞい」

《今月はこれで三人目じゃ》

 

「う、ううう・・・・・っ。誰にも言わない約束なのに守れないとは・・・・・(ぐすっ)」

《しかも黒だ。今もその下着を穿いている》

 

「信じてくれ!俺は断じて男に興奮するような男じゃないんだ!」

《モロだけじゃなく、最近は木下と蒼天の学校で出会った渡良瀬ってやつもいいなー

 と思っているぜ!》

 

「もうあの時の俺は卒業したんだ!」

《だが、与一のあの言動を見聞すると・・・・・あの時の俺が力が溢れんばかりに

 甦りそうで抑えきれないのはまた事実だ・・・・・っ!》

 

「ち、違うよ代表!僕は死神君を何とも思っていないからね!?」

《何度も助けてくれた死神はまるでボクの騎士だって思っちゃうね》

 

「あ、愛子の言う通りよ代表!アタシは別に死神のことなんて!」

《ハーデスって女の子に人気よね。愛子も代表だってそうだし、何気に秀吉もハーデスに気があるようだし・・・・・ア、アタシも・・・・・あいつのこと嫌いじゃないわ》

 

「・・・・・何を言っているんだ遼子。あまりふざけたことを言うとその口に氷を詰め込むぞ」

《死神に怒られると心のどこかで悦ぶ私がいた。それは死神に私だけを構って

もらえるから嬉しくてしょうがないんだ。お前もその気持ちは分からないはずがないだろう》

 

「うん、私はイッセーさんと肉体関係になりたい」

《そして、私はあの人のミルクを全身に浴びたい渇望もあるんだよねー》

 

 

語るに落ちるとはまさにこのことだろう。

 

《ここでハッキリと言うわ。アタシはハーデスのことが―――》

「ちょ、ちょっとぉーっ!?本当に何言ってんのよーっ!」

 

言って欲しくないことを口にされそうで、木下さんが慌てて召喚獣に飛び掛かる。

けれども、木下さんの召喚獣はその手をひらりとかわして逃げ回ると、

ハーデスの足元にしがみ付いた。

 

「あれ、今思えば秀吉の召喚獣が触れているね?」

 

本来なら物や人に触れないはずの秀吉の召喚獣が、ハーデスに抱き抱えている。

おかしいな。召喚獣は僕やハーデス以外は人や物に触れることができない

はずなんだけど・・・・・。

 

「あのババァのことだ。また細かい部分の調整に失敗したんだろ」

 

「ん~・・・・・どうも、そんな感じだね」

 

雄二の言う通り、学園長がその辺の設定に色々と手を入れて失敗したんだろう。

その証拠に、テストの点数だって未だに表示されてこないし。

 

「し、死神!その子をこっちに寄こして!」

《イヤッ。アタシはハーデスの傍にいたいのっ》

 

そう言ってハーデスの足にしがみ付いた木下さんの召喚獣。

さらには工藤さんの召喚獣までも何時の間にか木下さんの召喚獣がいるハーデスの

反対側の足に抱きついていて顔を満面の笑みのまま上に向けている。

 

「ほ、本当に召喚者の意思に逆らっていますね・・・・・」

 

「・・・・・死神は、無意識領域の一部を読み取ると言っていた」

 

「なるほど。それで体面より欲求に従った行動をとるワケか」

 

雄二達が何やら難しいことを話している。無意識の行動はより本能に近いものが多く、

そこから自動化のために自己を形成させたとしたら、その人格は幼児に近いものになるとか

なんとか・・・・・うん。何を言っているのかさっぱり分からない。

 

「えっと、要するに?」

 

「・・・・・この子達は、幼児程度の行動原理を持ち、自我があるということ」

 

「つまり、本音を喋っちゃう自分自身の子供の姿、といった感じですね」

 

「そっか。子供の姿か。だから秀吉や木下さん、工藤さんの召喚獣はああなんだね」

 

ハーデスが座ると、木下さんと工藤さんの召喚獣がハーデスの足の上に乗った。

それに呼応して女子達(ハーデスに好意を抱いている召喚獣)がハーデスに近づいて群がった。

 

「あははっ、ハーデスの周りが召喚獣だらけになっちゃっているわ!」

 

「第三者から見るとまるでハーデス君がお父さんで召喚獣達が子供みたいですねぇー」

 

「変なこと言わないでよ姫路さん!代表が禍々しいオーラを出してこっちを見ているんだから!」

 

「つまり、翔子と秀吉の姉と工藤、その他の女子の奴らは全員ハーデスの妻ってことになるんだけどな?」

 

雄二の言葉でハーデスに好意を抱いている女子達の顔が真っ赤になった。だけど雄二。

 

「雄二、アウトだよ」

 

「あ?なに言ってんだ明久」

 

「自分の横を見て自分が言った言葉を心の中で復唱してごらん」

 

そう指摘してやった。雄二は怪訝な面持で横に視線を向けると、

 

「雄二と私の子供・・・・・この子は私と雄二の愛の結晶・・・・・私は雄二の妻で

雄二は私の夫・・・・・」

 

「―――――」

 

霧島さん(妹)の間に彼女の召喚獣がちょこんと雄二の召喚獣を逃がさないように

摑んで座っていた。そして自分が言った言葉を復唱しながら彼女の言葉を頭の中で

リフレインしているだろう。見る見るうちに雄二の顔は汗が出始めた。

 

《吉井ー》

 

「うん?」

 

おや、島田さんの召喚獣じゃないか。僕の足の上に座っている。

 

「どうしたの?」

 

《ウチね、いつもは酷いことをしてるけど、ホントは吉井のことが》

 

「きゃぁああああああああーっ!」

 

「ぎゃあああああああああーっ!」

 

突然島田さんに腕関節を決められた。なにごと!?

 

「ちょっと、この子まで何を話そうとしてんのよ!?

どうしてウチの分身なのにウチが困るようなことを言うの!?」

 

『・・・・・自分自身だし、自分の本当の気持ちを隠しているから

自分の召喚獣がそれを読み取って言ってしまうんだよ』

 

「アンタ!それを知っていてウチらに協力させたって言うのね!?」

 

『・・・・・俺も知らなった。こういうことになるとは思いもしなかったんだがな』

 

召喚獣まみれのハーデスがポリポリと頭を掻く。

 

《参ったのじゃ、あの少年、いくらワシが男じゃと言っても聞いてくれんのじゃ》

 

《フハハハハッ!我は世界を統べる偉大な英雄王でなり!さぁ、我が威光にひれ伏せ!》

 

「むぅ・・・・・この召喚獣、何とかして消したいのじゃが・・・・・」

 

「同感だ!もうこれ以上俺の黒歴史を暴露されたくない!」

 

秀吉と涙目な大和も自由に話し続ける召喚獣に困っていた。僕の召喚獣はポケーとして

いて特に何も喋らない。これはありがたい。余計なことを言われる前に召喚獣を

消したくとも、よりによってフィールドは学校全体に広げられている。

これじゃ簡単に消すことはできない。自由に行動するから目を離せないし、

これはかなり厄介だろう。

 

『・・・・・演技が巧い秀吉の隠し事を聞けるとは中々面白い』

 

「ああ、それは確かにな」

 

「そうですね。木下君のパーカーフェイスは凄いですから」

 

「いやいや何を言うのじゃハーデスと雄二に姫路。ワシは常に自然体じゃと《演技を

褒められたのじゃ。嬉しいのじゃ》・・・・・」

 

ハーデスの腕の中で喜ぶ秀吉の召喚獣。これは面白い。ちょっと試してみよう。

 

「あのさ、秀吉」

 

「な、何じゃ明久?」

 

僕を警戒して、一瞬口ごもる秀吉。そんな秀吉には、この質問をしてみよう。

 

「秀吉は男子に告白されたことってある?」

 

「あるわけなかろう」

 

《ここのところはほぼ毎日じゃ》

 

「「「毎日!?」」」

 

「ななななんてことを言うのじゃ!明久よ!今のはこ奴の嘘じゃからな!?

 本当はワシは《金曜日と月曜日は特に多いのじゃ》違うのじゃ!

ワシは男に告白などされておらんのじゃ!」

 

そっか。週末と週初めはさらに増えるのか。道理でたまに姿が見えなくなると思った。

 

「あ、あれはその、きっと姉上と間違えられておるだけなのじゃ!《宛名を何度も確認

してもワシの名前が書いてあったのじゃ》だから違うのじゃ!

ハーデス、ワシの召喚獣を寄こすのじゃ!」

 

―――ポンッ。

 

「ねえ、秀吉。それはアタシに対する嫌味?それとも自慢したいのかしら?」

 

あ・・・・・般若がいる。秀吉が弁解する前に木下さんの手に引き摺られ廊下に出た。

 

『・・・・・坂本』

 

「なんだ?」

 

『・・・・・霧島翔花のことどう思っている?』

 

「い、いきなり何て質問をしてくるんだお前!?《どう思っているってそりゃ―――》

輝け俺の右足ぃっ!」

 

言って欲しくないことを喋る前に自分の召喚獣を蹴り飛ばした雄二。

 

『・・・・・なるほど、嫌いじゃないと(カキカキ)』

 

「待て!お前は何メモしているんだ!?」

 

『・・・・・自分の口で言いたいから召喚獣を蹴ったんだろう?初な奴だな坂本雄二は』

 

「雄二は照れ屋さんだから・・・・・」

 

「誰が照れ屋だ!俺はそんなんじゃねぇっ!」

 

ははは、ハーデスに弄ばれているよ。

 

『・・・・・次は吉井明久』

 

「うぐっ・・・・・!?ぼ、僕に何を言っても隠し事なんて・・・・・・!」

 

『・・・・・好きな女の性格はなんだ?』

 

うん?意外と普通の質問だった。

 

《男友達のように素で接することができる女の子かなー?でも、強いて言えば―――》

 

「飛んでけボールのように!」

 

《ふぎゃぁーっ!?》

 

余計なことを言われる前に自分の召喚獣をゴミ箱に蹴り込む!フィードバックで体が

痛むけど、何とか秘密の漏えいは防げた。危ない危ない。

 

 

 

 

これは・・・・・人生最大の屈辱だろう。まさか自分の貸していることを

自分の召喚獣が言ってしまうんだからな。

 

『・・・・・姫路瑞希と島田美波。好きな異性はどんな特徴?』

 

「こっちに話しかけないで!《えっと、バカだけど誰かのために一生懸命頑張る》

 いやぁあああああっ!」

 

「そうです!女の子の秘密を《笑うとまるで太陽のようで女の子の服を切ると可愛い》

 いやぁあああああっ!」

 

質問を召喚獣が代わりに応えるほどだ。あいつ、自分が召喚獣を喚んでいないから

面白そうに俺達に質問をしてきやがる・・・・・!

 

「・・・・・優子、愛子・・・・・死神のこと、好きなの・・・・・?」

 

「だ、代表。ボク達が代表と同じ男の子を好きになるわけじゃ

《プールで一緒に遊んだ時は面白かったね!それに水に濡れた死神君は

とても格好良くて》言っちゃダメェェェェッ!」

 

「そ、そうよ。アタシ達が代表を応援する側なのにどうして《代表がアイツのこと好きなのは

分かってるけど、裸とはいえ下着姿を見られちゃったしこれはもう責任を》

きゃぁああああああああああああっ!?」

 

・・・・・そうか、霧島の知らないところでハーデスと会っていたのか。

 

「ねぇ、ガクト。僕のことどう思っているんだい?」

 

「どう思っているって仲間だ《木下とメイド服を着てくれないかなー》

激しく待てモロ。俺から遠ざからないでくれ」

 

「クリに質問!ハーデスのことどう思っているのかしら?」

 

「む?それは《正体を明かさないおかしい奴だが、何故だか嫌いにはなれないな》まあ、こんな感じだ」

 

うん、見事にカオスな状況だ。

 

『・・・・・秀吉、気になる奴はこの場にいるか?』

 

「ハーデス!?お主は突然何を言う《んむ?それはな・・・・・恥ずかしくて言えんのじゃ。

まさか、同性とは》聞くではなぁあああああああああああああああああいっ!」

 

ほほう・・・・・あいつ、同性で気になっている奴がいるのか・・・・・。

 

「ねえ、死神」

 

うん?小山・・・・・?そう言えばアイツだけ物静かだったな。さて、アイツになんて言うんだ?

 

「召喚獣が本音で言ってしまうなら自分の口で言うわ」

 

『・・・・・?』

 

小山は跪いてハーデスの赤い目と合うように体勢を低くした。

 

「私、どうやらあなたのことが好きなのよね」

 

《《《・・・・・っ!?》》》

 

「「「・・・・・っ!?」」」

 

召喚獣と一緒に霧島と木下(姉)と工藤が目を張った。

 

「返事はしなくて結構よ。私があなたに好意を抱いているということを知って欲しいだけだから。

だからこそ―――」

 

こっちに視線を送ってくるのはハーデスに好意を抱いている女子に向けているからだろう。

 

「素直になれない女の子なんてライバルとは思っていないから私にもチャンスが

ありそうだし?アンタの心を私の者にできたらどれだけ達成感を感じれるか

思っただけで嬉しいわ」

 

おいおい・・・・・この状況で堂々と告白かよ。肝が据わっている女だな。

 

「そういうことで、誰かとは言わないけど私もハーデス争奪戦に交ぜてもらうから」

 

意味深な笑みを浮かべ、背後からハーデスを抱きしめる小山。

 

「・・・・・死神は渡さない」

 

「死神は私の夫だがな」

 

「右に同じく」

 

霧島(姉)とエスデス、極道が小山と張り合う。その他のメンバーは・・・・・当惑して

いるのが数人と普通の態度をしているのが数人。激しくとは言わないが反応した三人は

小山と睨み合っていると、ハーデスが動いた。

 

『・・・・・坂本雄二』

 

「聞くなっ!もう俺に何も一切、金輪際、俺に話しかけてくるな!」

 

『・・・・・そこまで否定されると・・・・・霧島翔花の胸は好きか?』

 

「ショックを受けるフリをして聞くんじゃ《大好きだ!特にお尻が!》

ねぇええええええええええええええっ!!!!!」

 

「雄二・・・・・エッチなんだから」

 

霧島(妹)が顔を真っ赤に染めて俯いた。はははっ!あの坂本が尻フェチだったとは、

 

「同志だ」

 

「うるせっ!お前と一緒にするな!」

 

顔が髪と同じ色に染まる坂本。

 

「くっ・・・・・これ以上ハーデスに弄られるのはご免だ!」

 

「そう言えばハーデスだけ召喚獣を喚んでいないじゃないか!」

 

「・・・・・ズルイ・・・・・!」

 

「そうよ!ハーデス、アンタも召喚獣を出しなさい!」

 

「そうです!不公平です!」

 

「そうじゃぞ!」

 

明久達が異議を唱える。が、相手が上手だった。

 

『・・・・・全員に質問だ。好きな人の名前を言え』

 

「「「そんなこと誰が《《《えっと、好きな人は》》》どりゃぁあああっ!!!」」」

 

全員がそれぞれ一斉に召喚獣をバケツに蹴り込んだ。

 

「・・・・・死神」

 

『・・・・・なんだ?』

 

「・・・・・召喚獣、喚んで」

 

『・・・・・無理だ』

 

「・・・・・正体をバラすけどイイ・・・・・?」

 

『・・・・・試獣召喚(サモン)

 

 

ポンッ ←ハーデスの召喚獣登場

 

 

「「「「「出たッ!」」」」」

 

本当にお前は霧島(姉)に弱いな!お前の正体って本当になんだよ!?

 

「よーし翔子。よくやった」

 

「今度は僕らの番だよー?」

 

「覚悟しなさい・・・・・」

 

「色々と聞いちゃいますからね」

 

「・・・・・倍返し・・・・・」

 

「じゃな・・・・・」

 

Fクラスの主力メンバーが満面(邪)の笑みを浮かべている。

 

「俺から質問だ!ハーデス、お前は翔子達のことをどう思っている?」

 

ハーデスの召喚獣はどう答えるか?それがちょっぴり興味心身だったりする。

 

《・・・・・(カキカキ―――バッ)》

 

「ちっちゃくて何て書いてあるのか見えねぇっ!というか召喚獣自身も

スケッチブックで書くのかよ!?」

 

「素直に質問を答えているようじゃが・・・・・これではの」

 

少しがっかりな雰囲気が漂う最中。俺はあることに気付いた。

 

「召喚獣でも顔はあるから・・・・・ハーデスの召喚獣の仮面を外せば顔が見れるんじゃないか?」

 

「「「・・・・・」」」

 

素朴な疑問を漏らした時。明久と坂本、土屋や島田の召喚獣がハーデスの召喚獣に

襲いかかった。しかし、ハーデスの召喚獣は徐に教卓を掴んで―――振り回したってあぶなっ!?

 

「ハーデスの召喚獣が暴走した!?」

 

「いや、あれは襲いかかって来たお前らの召喚獣を弾き飛ばしただけのようだ」

 

史文恭が指摘した。召喚者も強ければ召喚獣も強いってことか。教卓で弾き飛ばした

明久達の召喚獣達は壁に叩きつけられているし、暴れられると手のつけようがない。

 

『・・・・・捕縛する』

 

《・・・・・了解》

 

召喚獣と召喚者が動き始める。マントから縄を取り出したハーデスが自身の召喚獣にも

渡すと襲った明久達に近づき、あっという間に芋虫のように縛りあげた。

 

『・・・・・さて、これで質問が心おきなくできるな』

 

「や、やめろぉっ!」

 

「ごめんハーデス!もう襲ったりしないからそれだけは勘弁してぇっ!」

 

「・・・・・懇願する・・・・・!」

 

「お願いだからウチに何も聞かないでっ!」

 

だが、無情にも明久と坂本の召喚獣は霧島(妹)と姫路に手渡された。

 

『・・・・・空き教室でいくらでも質問して来い。こいつらは俺が見張っている』

 

「死神・・・・・ありがとう」

 

「ありがとうございます!」

 

嬉しそうに明久と坂本の召喚獣を胸に抱きしめたまま教室からいなくなった。

でも、召喚獣に質問して召喚者の気持ちを代弁できるのか?

 

『・・・・・土屋康太』

 

「・・・・・聞くな・・・・・っ!」

 

『・・・・・好きもしくは気になっている女はこの場にいるか?』

 

「・・・・・そんな奴は《・・・・・いる》いないっ・・・・・!」

 

『・・・・・島田美波』

 

「卑怯よ!身動きが取れない状態でウチに質問しないで!」

 

『・・・・・吉井明久のことが好きか?』

 

「ぜ、絶対に《吉井のこと?うん、ウチは》もういやぁあああああああああああっ!」

 

しばらく縛られた明久達はハーデスに弄られ続けていた。

 

 

 

『あ、あの吉井君・・・・・私のこと、どう思っていますか?』

 

『雄二・・・・・私のこと、好き・・・・・?』

 

《《えっと、それは・・・・・》》

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

「・・・・・もう、疲れた・・・・・」

 

「終わった・・・・・何もかもが・・・・・」

 

「ううう・・・・・」

 

「ウチ、色々とハーデスに奪われた気がするわ・・・・・」

 

霧島(妹)と姫路が嬉しそうな表情と浮かべて戻ってきてからしばらく経った頃。

俺達は満身創痍なぐらい疲弊しきっていた。一部の奴は別として。

 

「楽しいけど、やっぱり人の秘密をそう易々と聞くもんじゃないかしらね」

 

「うむ。誰にだって秘密の一つや二つはある」

 

「それを、ハーデスに散々言わされたんだがな・・・・・・」

 

見ろ、涼しい顔で(?)ミカン箱に今まで俺達(召喚獣)から聞いた秘密を報告書

よろしく書いた紙をファイルに収納している。

 

「というか、何で俺達がこんな目に遭わなきゃならねぇんだ」

 

「まったくじゃ。理不尽にも程があろう」

 

「そうよ。アタシ達にこんな目に遭わす元凶は誰なのよ」

 

「えっと、誰って言いますと―――」

 

ふと、全員の顔にとある人物の姿が思い浮かぶ。ハーデスも今回の件に関わりあるが、

さらに元凶の顔を浮かべると・・・・・白髪で、口が悪く、こう言うことになると

知っておきながら俺達にハーデスで召喚をさせた、老婆の姿が。

 

 

《《《・・・・・・》》》

 

 

ガラッ ザッザッザッ

 

 

すると、全員の(一部の召喚獣以外)召喚獣がドアを開けて教室から出て行った。

ああそっか。皆同じ結論に辿り着いたのか。

 

「まぁ、そりゃそうだよな」

 

「人を実験台にしておいて、自分だけ無事でいようなんていうのが甘いよね」

 

「因果応報じゃな」

 

「・・・・・当然の報い」

 

「ま、そう簡単に許せることじゃないわよね」

 

俺達はうんうんと頷き合う。なんだ、最初からこうすれば良かったんだ。

 

 

数分後、階下からは老婆のしわがれた悲鳴のようなものが聞こえたが―――それはきっと、召喚獣が暴走したせいだろう。システムの暴走が原因なんだから、俺達には一切何の責任もない。

 

『・・・・・協力感謝する。ご苦労さま。先に帰ってくれ』

 

ハーデスはそう伝え残し、召喚獣と共に教室からいなくなったのだった。きっと元凶のところに行くんだろうな。


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