バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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夏九問

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「武闘会に参加する方は受付の窓口にお越しくださぁいっ!」

 

蒼天の中央区。私、川神百代は家族達と一緒に三度蒼天へやってきた。武闘会の参加をするためだ。

戦わない家族達は観客席で応援をするということで別行動中だ。受付でエントリーをすると選手控室へと案内された。そこは岩で積み重ねた控室で、見るからに屈強な男達や珍しく美人なお姉さんまでもがいた。

 

「えーと、すいません。武器ってどこにありますか?」

 

「こちらです」

 

武器を持って戦う家族は係員に案内された。拳が武器の私には不要な長物と言えよう。

 

「ここは壮大だな。まるでこの日の為に作られたという雰囲気と世界各国の強者達が集う」

 

「義経達も全員参加ですし、自分の腕を試すには絶好の機会ということですしね揚羽さん」

 

「我が九鬼家にとっても絶好の機会でもある。この中で目ぼしい者達を選り抜きにし、

九鬼家の為に働いてもらう勧誘もできるわけだ」

 

「で、揚羽さんから見て目ぼしい奴はいたのか?」

 

「ふむ・・・・・中々見つからないが・・・・・強いて言えば梁山泊だろうか」

 

「昔から存在している傭兵ですか。確かに強いですが私には勝てませんよ」

 

「聞いたぞ?死神に怖い思いをさせられて自ら降伏したと」

 

・・・・・嫌なことを耳にするなこの人は・・・・・。

 

「戦い以外でお前というものが自ら降伏するとは耳を疑ったが―――可愛いではないか

百代よ。お化けが怖いとは」

 

「うぐっ・・・・・」

 

「ふはははっ!今度、九鬼家が催しの特大お化け屋敷に堪能してもらおうか。

死神に協力してもらってな」

 

「か、勘弁してください・・・・・」

 

「ふふふっ。さて、雑談はこのぐらいにしようか。そろそろオープニングが始まる」

 

揚羽さんは視線を上に向けた。その視線の先には巨大なモニターがあって、

水に囲まれたステージの真ん中にタキシードを身に包みサングラスを掛けた男が立っていた。

 

『会場の観客の皆様お待たせしました。―――いよいよ、世界の王者を決めるバトルロワイヤル大会の開催です!』

 

モニター越しや、ここ控室にまで轟く大勢の歓声。この大会の趣旨はバトルロワイヤルか・・・・・。

全員が敵の戦いは楽しくなりそうだ・・・・・っ。

 

『私、中央区の王に司会を承ったアメリカ出身のアメリヤンと申します。

彼女募集中なので惚れた女性の方々は何時でもどこでも貴方の告白を受けます!

蒼天は一夫多妻制なのでハーレムを希望しておりまーすっ!』

 

ドッ!と笑い声が生じる。私にとってはその発言はおかしいと思ってしまう。

 

『さて、皆さんを和ませたところでこの大会の事と選手達のことを説明しましょう。

先ほど申しました全員が敵同士のバトルロワイヤルで選手達に戦って貰います。

今大会に参加した選手の数はあと二桁で―――千人に届くほどの選手が控室で待ち構えております!』

 

それはすごい数だな。

 

『そしてこの水に囲まれたステージ!コンピューターによってランダムに選ばれた

選手達はこの戦場で戦って貰います!制限時間は無制限。

決勝に勝ち残るためには最高二人までが決勝進出でき、

それをA~Dの四回戦も行いますので観客の皆さんは楽しんで観戦してください!』

 

ランダムか~。私はどの知り合いとぶつかるかな?まっ、決勝進出は私がそのうちの

一人だろうけどな。

 

『さらに決勝進出まで進んだ選手は優勝を懸けて中央区の王と戦って貰います!

世界の王者でもある中央区の王は決勝戦に勝ち残る選手達を待ち構えております!』

 

中央区の王・・・・・そう言えばどんな奴だ?

他の四人の王は何度も見たことがあるが・・・・・まあいい。

その顔を拝めれるなら、拝んでやろうじゃないか。

 

『おっと、言い忘れるところでした。バトルロワイヤルのステージを囲む水に落ちた選手は即失格です。また戦闘不能の選手もまた同様です。最後の二人になるまで試合は続行

されますので仮に試合の中で命を落とされた選手はご冥福をお祈りいたします』

 

だからあの契約書か。確か、命に関する事が記されていたがそういう状況になりかねないわけだな。

 

『それでは、選手達を選抜します!Aブロックの試合に参加する選手達はランダムで

表示した自分の番号を確認してステージに赴いてください!』

 

映像は切り替わり―――多くの数字がモニターに表示された。・・・・・なんだ、

私の数字は無いぞ。

 

「我の数字があった。では、行ってくるぞ」

 

自分の数字が表示されていることを確認した揚羽さんがそう言ってステージへと赴いて行く。

私の番は次の試合かぁ・・・・・。

 

 

 

一回戦Aブロックの試合はゴングの鐘で始まった。ざっと数えて二百人はいるであろう

相手に参加者である九鬼揚羽は元四天王としての実力を発揮していた。

長い銀髪を揺らし、拳と蹴りで相手をふっ飛ばしリング外へと落とす。

阿鼻叫喚、一種の地獄絵図。周りは用意された武器や銃火器を駆使して決勝戦に

勝ち残る決意と欲望で相手を倒す光景が当たり前のように繰り広げられている。

 

「(さて・・・・・蒼天の者はどこにおる?)」

 

打ち倒しながら九鬼揚羽は蒼天の強者を求めていた。

 

 

『うりゃあああああああああ!』

 

 

ドッガアアアアアアアアアンッ!

 

 

「む?」

 

凄まじい闘気を身体で感じた九鬼揚羽。蒼天の者かと視線をとある方へ向けると煙が

生じていた。やがて煙が晴れると身の丈を超える槍、佗矛を手にして佇んでいた。

 

「うにゃー。いっぱい人がいるのだ。でも、何がなんでも鈴々が優勝するのだ!」

 

―――一度身の丈を超える得物を振るうと、得物に包みこむ気が横薙ぎに振るわれると爆発が生じた。

 

「・・・・・面白い戦い方をするなあの者」

 

小さな体にしては有り得ないほどの怪力に気の扱い。九鬼揚羽は小さい敵に向かって

飛び掛かる。

 

「はああっ!」

 

「うにゃっ!?」

 

得物の柄で九鬼揚羽の拳を受け止めた少女。腰が深く落とし、

裸足でステージを踏んでいる為に吹っ飛ばされないでいた。

 

「お前、蒼天の者だな?名はなんという?」

 

「鈴々は鈴々なのだ!」

 

「鈴々か・・・・・蒼天の強敵は確かに強そうだな!」

 

九鬼揚羽は嬉々として鈴々に蹴りを放つ。その威力は豪快で子供の骨を砕くには

充分なものだが、

 

「お兄ちゃんの蹴りより遅いのだ!」

 

小さな手が豪快で鋭い蹴りを難なく柄で受け止めた。その事実に九鬼揚羽は目を大きく丸くした。

しかも、

 

「うりゃっ!」

 

受け止めた武器をそのまま前に倒したことで九鬼揚羽は腕をクロスして

ガードせざるを得なく防御態勢となって、攻撃を防いだ瞬間―――九鬼揚羽を包むように爆発が生じた。

 

 

 

―――観客席―――

 

「おいおい、あんなちっこいのが揚羽さんと戦っているぞ!」

 

「元だけど四天王の一人と戦える女の子ってどんだけ?」

 

「蒼天は小さい女の子までも戦わせるなんてな」

 

「あれ、絶対に見た目で判断しちゃいけないタイプだよ」

 

姉さん達の戦いぶりを見守る為に観客席で観戦している俺達。姉さんはまだ出場していないけど

揚羽さんの他に何人か知り合いが出ている。だけど、相手も・・・・・蒼天の代表者もいた。

 

「あ、ガクトがふっ飛ばされちゃった!」

 

「相手は・・・・・凪ってやつだな」

 

家族の一人が敗北した。だけど、まだまだ俺達の家族は負けてはいない。

 

 

 

 

「ふははは・・・・・っ」

 

「うにゃ?」

 

「いい攻撃だ・・・・・引退した身とはいえ我にダメージを与える無名の者が現れたことに

我は感謝の念で一杯だぞ」

 

服の所々が破れ、傷を少なからず負った九鬼揚羽がガードしたままの態勢で

鈴々の前に立っていた。

 

「一つ訊こうか。お兄ちゃんとは誰のことだ?」

 

「お兄ちゃんはお兄ちゃんなのだ」

 

襲いかかる選手を倒しながら言う鈴々の純粋無垢な問いに、

九鬼揚羽も蹴りで敵を薙ぎ払いながら顎に手をやった。

 

「ふむ・・・・確かにそうだが・・・・・では、容姿は分かるか?お兄ちゃんの髪の色と目の色だ」

 

「うにゃ、それなら分かるのだ。お兄ちゃんの髪は赤くて長いのと目が金色なのだ!」

 

「赤い長髪に金色の瞳・・・・・か。そのお兄ちゃんは強いのか?」

 

「強いのだ!鈴々達が全力で勝負してもお兄ちゃんは無傷で勝っちゃうのだ!」

 

九鬼揚羽は脳裏に浮かんだとある人物と一致した。

 

「―――そうか」

 

あくまで予想。だが、九鬼揚羽は間違いなく確信した。

この歳になるまで想いに焦がれていた人物がこの国にいることを知り、

 

「この試合は何がなんでも勝たなければいかぬ目的ができてしまったではないかっ」

 

「鈴々だって負けられないのだ!お姉ちゃんや愛紗、お兄ちゃんの為に鈴々は勝つのだ!」

 

「いい気迫だ・・・・・この蒼天でお前のような者と戦えて誇りに思う。

お前をこの試合の中で最も強者と断定し、お前を倒してやろう!」

 

「うにゃ!今度は全力全開で攻撃するのだ!」

 

鈴々から膨大な闘気を感じ取り、九鬼揚羽は深い笑みを浮かべた。

この者は世界に埋もれている真の強者という原石のひとつ。

そして、その原石をここまで磨き上げた―――。

 

「(旅人よ・・・・・お前はやはり素晴らしいっ)」

 

 

―――選手控室―――

 

 

「おお・・・・・揚羽さんが燃えているな。あのチビッ子かなり強いじゃないか」

 

「凄いわねお姉様。あんな子でも武術を身につけてあそこまで強くなるなんて・・・・・」

 

「明らかに私達より年下だな」

 

「はい、豪快で力強い戦い方をします」

 

「・・・・・子供とは思えない戦い方だよね」

 

揚羽さんとチビッ子の戦いをモニターで観戦していた。あの強さ、まだまだ伸び代が大きいな。

蒼天の強者・・・・・私が思った以上の実力を持ち合わせているようだ。

 

 

『Aブロックの試合は二名の選手を残して終了!さてさて次はBブロックの試合に

出場する選手の発表だぁーっ!Bブロックの選手達の数字は―――これだっ!』

 

 

しばらくして、揚羽さん達の戦いは終わった。誰が勝ち残ったかは秘密だ。

モニターの映像は切り替わり私達選手がエントリーした際にもらった数字と交互に

見て確認するが・・・・・。

 

「また、私の出番がないか・・・・・」

 

「アタシの出番だわ!」

 

「私もです」

 

「犬、まゆっち頑張るんだぞ?」

 

「応援しているよここで」

 

ステージの準備が終わった後、出番のワン子達はステージに繋がる通路へと向かった。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

レプリカの刀を携えて黛由紀江はステージの端っこに佇んでいる。背後にはリングアウトである水。

背水の陣の態勢で勝負を挑もうを心持であった。

 

「(皆さん、凄い気迫を感じます)」

 

剣聖黛十一段の娘として相手の力量も測れる。ので、黛由紀江は自分以外の選手達から感じる

熱気と戦意に緊張するも気後れはしない。ふと、黛由紀江の視界にとある人物が映り込む。

 

「(死神の格好・・・・・死神さんでしょうか?)」

 

黒いマントを全身に纏い髑髏の仮面で顔を隠している人物が静かに佇んでいた。

視界に入れない限り、ハーデスの気は全く感じない。気を消して行動できる武人はまさしく強者と言えよう。

黛由紀江は開始のゴングの鐘が鳴るまでハーデスを見つめていると―――。

 

 

『Bブロック第二回戦―――試合開始ですっ!』

 

 

試合開始宣言と共にゴングの鐘が鳴った―――次の瞬間。

 

 

ゾワッ!

 

 

「―――――っ!?」

 

 

黛由紀江は見た。一瞬だけ目を閉じた時、ハーデスに首を刎ねられ、

胸を穿られた自分の死がまぶたの裏でリアルなビジュアルを。

一人の選手が突然ステージに倒れた。それが・・・・・呼び水となったように

次々とBブロックの選手達が倒れていく光景を目の当たりにした。声を出せずに唖然と見ている

黛由紀江の前に黒い影がその光景を遮断させた。その影の存在に気付いた時は刀を振るっていた。

目の前の恐怖を断ち切る為に無我夢中で。

ここで恐怖に勝てなければ絶対に心が崩れてしまう。動物の本能的な行動を取った時だった、

 

 

『び、Bブロック第二回戦終了っ!』

 

 

試合終了の宣言に黛由紀江の耳に届いたことで振るった刀の切っ先は

ハーデスの仮面に触れそうで触れられない一でピタリと止まった。

 

 

―――観客席―――

 

 

「なんだあれは・・・・・勝手にハーデスとまゆっち以外の奴らが倒れた・・・・・?」

 

「全員が何かの病に患っているわけじゃないはずだ。なのに、どうして倒れたんだ?」

 

「・・・・・不思議」

 

「ハーデスが何かしたようには見えん」

 

「そうだね。何時の間にか後輩のところに移動していたぐらいだったし・・・・・」

 

あっという間に終わったBブロックの試合。僕達以外にも他の観客席にいる人達も

疑問でいっぱいのようでざわめいている。

 

「・・・・・まあ、ハーデスがあそこに立っている時点で勝ち残る予想はしていたことだ。

ここは、称賛するべきだろう」

 

大和の言葉に僕は一先ず「そうだね」と頷いた。気を取り直すかのように司会の人が

実行した。既にステージに倒れている選手達はスタッフ達によって移動させられていて

司会の人以外誰もいない無人のステージと化と成っていた。次はCブロックの試合だ。

モニターに選手の番号が表示されてからしばらく、選手達が入場する通路から続々と

武器を持ってステージに集まる。

 

「おっ、ようやく姉さんが出てきたぞ」

 

「この試合はモモ先輩の勝ちだね」

 

「あと一人は誰なのかなーっと。って、天とアミがいるじゃん」

 

「姉さんと同じブロックだったか。・・・・・ドンマイだ」

 

 

 

 

ようやく私の番だと川神百代は心の中で愚痴をもらし堂々とステージに現れると中々

強そうな奴がちらほらといることを確認する。その後、試合の合図を待っていると

その時が訪れた。

 

 

カーンッ!

 

 

『Cブロック第三試合・・・・・開始のゴングが今、鳴ったぁーっ!』

 

 

試合開始の合図が聞こえ、川神百代は直ぐに周囲の敵を殴り数十人を巻き添えにして

場外へ落とす。

 

「川神流・無双正拳突きっ!」

 

ストレートパンチ、正拳突きが必殺技にまで昇華したこの一撃を敵に与えると一直線に場外まで吹っ飛んだ。

 

「川神百代、覚悟っ!」

 

横から叫ぶ挑戦者。その声の者へ正面に振り替えて突き付けた拳を上半身だけかわして、

拳を突きだす。これで一撃KOだ!と川神百代はそう思った。

 

「っ!」

 

「お?」

 

意外なことに・・・・・彼女の攻撃をかわした。見知った挑戦者に初撃でかわされるのは生まれて初めてだと目を丸くしていたところで、

 

「はぁっ!」

 

気合と共に繰り出された回し蹴り、屈んでかわすと目の前から鈍く光る銀が迫って来た。

宙で身体を捻って蹴りを振るってきた連続攻撃。だが、その一撃をかわすまでもない。

川神百代はある流派の技を炸裂する。

 

「川神流・人間爆弾!」

 

気を高め一気に暴発させ相手を道連れの形でダメージを与えた。

川神百代自身もダメージを負うがこの技がある。川神流・瞬間回復。

瞬時で体の細胞を活性化させてダメージを回復。

 

「うっ、くっ・・・・・!」

 

「あれ、意外としぶといな」

 

ダメージは大きいはずだが立てないほどではないようだ。

 

「わ、我々蒼天の者は過酷な修行を積んでおるのだ・・・・・っ。早々に敗北などできん」

 

「なるほど、そこらへんの武闘家や流浪の修行者より強いってことか」

 

「我ら蒼天の者をあの方に鍛えられていない者と一緒にされては困る!」

 

そう言って両手、両足に気を纏い、炎に変えた。

 

「うおおおおおっ!」

 

怒濤の正拳突きと足技、同時に炎攻撃も加わって川神百代は攻撃をしつつ

この戦いに深い笑みを浮かべた。全身の傷跡は過酷な修行をしてこの実力の証。

鋭い双眸に武神と戦うことに対して躊躇もない色が浮かんでいて、

熱く燃えている挑戦者に川神百代は笑みを浮かべながら漏らした。

 

「―――面白いっ」

 

ボッ!と炎が頬を掠め肌を焼く痛みを感じつつ、気弾が放たれても攻撃を繰り出す。

 

「「おおおおおおおおおおっ!」」

 

川神百代と挑戦者が激しいラッシュを繰り広げる。

 

 

 

『激しいっ!激しい拳と拳の怒濤のラッシュ!武神・川神百代と勇んで戦っている者は

北区の王の部下である凪!彼女もまた拳を武器にする!』

 

 

 

凪という少女の戦い方は川神百代と同じ。凪の腹部に思い一撃を与えると、

その手を掴んでもう一つの拳を炎から電撃に変え川神百代の急所に拳を突きだした。

 

「くっ、やるな・・・・・!」

 

「いや、まだだ」

 

「なに?」

 

怪訝に問い返した川神百代の視界に光が発生した。凪の全身が光り出し、バチッ!と放電した。

 

「あの方の為に、お前を倒す!」

 

刹那。姿を消失した凪を姿を探す川神百代の身体に衝撃が襲った。

その正体は足を突き出して背中から蹴りだした凪の蹴りだった。

 

「(速い・・・・・ッ!)」

 

背後に振り返ると凪の姿はいない。

 

 

ドゴンッ!

 

 

「が・・・・・っ!?」

 

腹部に伝わる激痛。顔を歪め視線を下に向けると凪が拳を突きだした状態が視界に飛び込んだ。

ここまで川神百代と渡り合った人物は片手で数えるぐらいしかいない。

一人は川神鉄心、もう一人は釈迦堂刑部。放電の音を鳴らす凪は距離を置いて臨戦態勢の構えをする。

 

「トドメです」

 

感情が籠っていない声が凪の口から発し、再び突貫した。

 

「―――――」

 

しかし、相手は武神。何度もタダで攻撃を食らわない。紙一重で雷速の凪を拳で殴り飛ばした。

 

「・・・・・っ」

 

「お前の動き、段々と見えてきたぞ」

 

全身に闘気を纏い、川神百代は指の関節を鳴らす。

 

「流石は蒼天の人間だ。私相手にそこまで動き攻撃ができる。もう四天王クラスの実力者だろう」

 

川神百代の中での凪の予想していた実力は斜め上に昇った。

気の扱い方はそう簡単にできることではない。

長い歳月を掛けて修行するか、天然の素材の人間でなければ気を放出することもできないのだ。

 

「だが、それすら私は凌駕する!」

 

両手を合わせた間に気を一点に集束させそれを放出する。

 

「川神流・星殺し!」

 

極太のエネルギー砲はステージを走り―――。

 

 

『おっとぉっ!?物凄いレーザービームがステージを横薙ぎに選手達を呑みこんだぞぉっ!

観客席まで伸びる伸びるぅっ!観客の皆さんは避難してください!』

 

 

司会のアメリヤンが促す。観客席まで突き進む川神百代の一撃は止まる事を知らず、

凪が避けても前へ行く。―――だが、それは途中で停まった。

片手で川神百代の砲撃を受け止め、徐に上空へ軌道を逸らしたのだった。

その光景に目が追ってしまう選手達と観客席にいる観戦客達。あの攻撃を誰が?

と攻撃を逸らした者へ視線を送る。

 

「・・・・・」

 

観客席とステージの間の水。その水上に足場も無く浮いている一人、

背中に翼を生やしている黒いコートに身を包んだ長身の女性がいた。金色と黒色が入り乱れた髪。

その相貌は右が金で、左が黒という特徴的なオッドアイだった。

黒ずくめの女性は観客席の壁に背中を預けて腕を組むだけで手出しはしないという気持ちを思わせる。

 

 

『わ、私としたことが申し遅れました。大会のルールを一つご説明します!

この大会の審判がおりまして、いまのような観客席にいる皆様にまで届く攻撃は

審判が全て防いでくれます!彼女は蒼天を守るドラゴンの一角、三日月の暗黒龍(クレセント・サークル・ドラゴン)クロウ・クルワッハ!』

 

 

その審判の正体の事実に大会にいる誰もが驚愕した。人の形をしているのにドラゴンである。

しかし、その背に生やす翼は確かに人間ではないことを明かしている。

 

「ドラゴンが人だと?いや、グレンデルも人型になったからな・・・・・・ドラゴンは

全部ああなることができるのか?しかし・・・・・」

 

強張った表情に脂汗が浮かんでくる。身体に漂わせる静かなオーラは、

その実、有り得ないほどの濃密さを滲ませている。戦いを求め、強者と戦い続けてきた

川神百代には見た瞬間に分かってしまった。

 

 

―――あれは怪物クラスの強者だ。

 

 

―――観客席―――

 

 

「やべぇ・・・・・あれは姉さんより強いってことが肌で感じるぞ」

 

「審判だから攻撃はできないけど、もしも直撃し合うようなことがあればモモ先輩、

どうなるんだろう・・・・・」

 

「グレンデルってドラゴン以外にも人型になるのか・・・・・しかも女かよ」

 

「本当に翼を生やしているよ」

 

 

―――選手控室―――

 

 

「・・・・・あの人型ドラゴン・・・・・怪物クラスの強者であるな」

 

「はい、言わずとも義経達では足元すら届きませんでしょう。この私やヒュームでも」

 

「なら、我も敵わないな。だが、誰があのドラゴンを審判に仕立て上げたのだろうか・・・・・」

 

「蒼天の幹部クラスの者ではないでしょうか?」

 

「幹部クラス、か・・・・・ならばその者に問おうではないか」

 

「心当たりでも御有りですか?」

 

「ああ、少なからず私の中でドラゴンを従わせる者が一人いる」

 

控室のモニターを見つめる未だ戦っていない選手と勝利者達の目には

Cブロックの二名の勝者が映る。次はDブロックの試合。

 

 

『さぁーっ!いよいよ残すブロックは後一つ!Dブロックの選手はステージに出場してください!』

 

 

そして、Dブロックの選手達は徐にステージへと足を運んだ―――。

 

 

 

 

 

「結構盛り上がっているじゃない」

 

「だけど、皆が出ているのに決勝戦まで勝ち残っている皆がいないですね」

 

「目立っているのは・・・・・川神から来た人達かぁ~」

 

「強いですね。でも・・・・・あの方がいます」

 

「そうね。川神の武家達がどう足掻いてもあいつには敵わないわよ。―――一生懸ってもね」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

Dブロックの試合は圧倒的な実力で選手達を倒したヒューム・ヘルシングとクラウディオ・ネエロによって

計八人の勝者は決勝戦進出が決まった。

 

 

『四ブロックの試合は終わり勝ち残った選手達がいまステージにおります!

Aブロックの勝者達は西区の王の部下、鈴々に打ち勝った九鬼揚羽と圧倒的な能力で

勝ったフィリーリング・エースデース!

Bブロックからは剣聖黛十一段の娘、黛由紀江と死神・ハーデス!

Cブロックからは武神・川神百代と松永燕!

Dブロックからは九鬼家従者部隊コンビのヒューム・ヘルシングとクラウディオ・ネエロ!

我が国が誇る東西南北の王の幹部達を倒した挑戦者は凄まじいです!』

 

 

凄まじい熱気と共に歓声が湧く。勝ち残った川神百代達はその歓声に身を受けて司会のアメリヤンの言葉に耳を傾ける。

 

 

『決勝戦のルールは中央区の王と混じってのバトルロワイヤル!勝者はただ一人!

優勝者には賞金と副賞として様々な景品が授与されます!各ブロックを勝利した皆さん、

準備はよろしいですか?』

 

 

司会の問いに面々は肯定と意思表示をする。早くやれと言わんばかり目で訴えられたりも

しているが司会は気にせず実行した。

 

 

『それでは、最後の試合を始めたいと思います。我が蒼天の中央区の王の登場だぁ!』

 

 

張り叫ぶ司会の言葉は観客席にいる観客達を更に盛り上げた。

選手達が入場する通路の反対側の通路から誰かが来る気配を察知する川神百代達。

 

 

『蒼天が誕生して以来数十年。この国を最初に統括した人物!第二次世界大戦を

ドラゴン達と終戦に導いた生きた伝説!だからこそ中央区の席に座るに相応しい!

その名も―――――!』

 

 

通路から姿を表した人物の名を司会は叫んで言った。

 

 

『イッセー・D・スカーレットォォォォオオオオオオオオオオオッ!』


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