バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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夏八問

キィィィィィン。

 

 

蒼天の武闘大会当日。僕達はとある空港にいます。長い時間を掛けて飛行機に乗って

さっき降りたばっかりだ。

 

「弁慶弁慶。蒼天はどんな場所なんだろうか?」

 

「そうだねー。まあ、いいところじゃない?」

 

「楽しみだねー」

 

それともう分かったと思うけど、僕達がいる空港は・・・・・蒼天なんだ。バックや鞄を

所持した友人達はイキイキとして漏らす。空港の出入り口でとある人物と待ち合わせしている。

その場所へ辿り着くと二人の少女がいた。そんな一人の少女の片手に長刀みたいな武器を持っている。

この国は銃刀法違反とかはないのかな?

 

「お待ちしておりました。ハーデスのご友人の方々ですね?私は愛紗。こちらは凪です」

 

「ハーデスからお話を窺いしております。この国の案内を私たち二人がしますのでついてきてください」

 

その女の子達は以前、清涼祭で出会った人達だった。武闘大会に参加する

川神先輩達の応援をする為、僕達も蒼天にやってきた他にも観光をしようということで

大会が始まるまでハーデスに蒼天を案内してもらおうと思ったんだけど・・・・・

 

「あれ、ハーデスは?」

 

「彼は仕事が入ってしまったのでこの国にはいません」

 

「他の国からの依頼じゃからな?」

 

秀吉が尋ねると凪さんがコクリと頷いた。

 

「ハーデスって国から依頼を務めれるのかしら?」

 

何気ない島田さんの一言に、愛紗さんが武器を島田さんに突き付けた。

 

「ひっ!?」

 

「彼のことを何も知らないあなたが、彼に対してその物言いは慎んでもらおうか」

 

「な、なによ・・・・・アタシはただ―――」

 

「悪意が無いにしろ、彼は国から依頼された任務を全てこなす。

だからこそ、この国は格差問題や環境問題など他の国とは違い平和なんです」

 

凪さんも眼光を鋭くして島田さんに向ける。

 

「・・・・・では、蒼天を案内しましょう」

 

島田さんに突き付けた武器を収めて僕達に背を向ける愛紗さんや凪さん。

 

「中々の強さではないか。なあ、ヒューム?」

 

「私にとっては赤子も当然ですが・・・・・九鬼家従者部隊の二桁ぐらいの実力者ですな」

 

「おおっ。お主がそこまで言うほどの者か」

 

「ですが、九鬼財閥に引き抜くことは難しいでしょうな。忠誠心を感じましたからな」

 

「死神・ハーデスとやらにか?む・・・・・どんな人物であろうな」

 

そう話しているのは九鬼君の姉と妹の九鬼揚羽さんと九鬼紋白さん、

執事のヒューム・ヘルシングさんだった。僕達は案内してくれる二人の背を追ってついて行く。

 

「今、私達がいるのは東区の空港です」

 

「東区の空港?」

 

「大雑把に説明をすれば、この国は五つの区があり、

市町村のような概念はなければ名前もないのです」

 

「東西南北・・・・・中央か。教科書にもそう載っていたな」

 

雄二が問うと愛紗さんは頷いた。

 

「その通りです。その五つの方角に区を付け、一つに纏めて蒼天と呼ぶ国となります」

 

「今でも思うが変わった国だな。そんな名前で区別されているなんて」

 

「それでも、私はこの国が好きです。ある人に重要な役職を務めさせてもらい、

自分の手で国を守れるのですから」

 

愛紗さんは遠い目で空を見上げた。ある人ってのも気になるな・・・・・。

 

「移動する際はこの乗り物で行きます」

 

「おおっ。車が地面から浮いている!」

 

「何世紀先の乗り物が現実しているよ」

 

皆が浮いている大きな車、というか強化合宿の時に乗ったバスじゃないか。

それを見て興奮、驚愕している。僕自身も浮いている車なんてあるとは思いもしなかった。

 

「自動車が燃料を燃焼することに起因する排気ガスの排出や騒音などによる環境問題は

ありません。だからこそ、蒼天の空気は新鮮で人にも優しい乗り物なんです」

 

「これはどうやって造っておるのだ?」

 

「企業秘密です。これらの乗り物はここでしか造れません」

 

「自動車産業、自動車工学の見学はできるかの?」

 

「日本と同盟国ではないので、見学することはできかねます」

 

車を製造している工場を見せることはできないと言われた。

 

「どうして他の国と同盟を結ばないんですか?」

 

「あの人が言うには人は国、国は人だと一人で成長し、どこまでも伸び伸びと成長できるか

挑戦したいと言っておりました」

 

「ですが、同盟を結ばなくても交流はしていますよ。現に他国から解決できない事を

蒼天に依頼して、その見返りに物資を提供してもらっていますから」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

別に同盟を結ぶなくても交流をすれば同盟のように人と接する事ができる。そう言う事なんだね。

 

「そのおかげで蒼天の名は広まって、自国では解決ができない事件のような事があれば

この国に依頼してくるようになったのです」

 

「ハーデスもそんな仕事をしているのね」

 

「ええ、私達の中では一番の稼ぎ頭と言っても良いぐらいです」

 

「だけど、あの強さはどこからくるものなんだ?」

 

川神先輩が首を傾げた。

 

「ハーデスは蒼天の上空に浮いている大陸に住んでいるドラゴンと手合わせしているほどです」

 

「「「・・・・・なんですと?」」」

 

・・・・・ハーデスが、ドラゴンと戦っている?いやいや、それはないでしょう。

 

「私達もドラゴン相手に稽古をして貰っているので、それなりに戦えますよ」

 

・・・・・本当に、有り得ないって。

 

「ドラゴンと会えるんですか?」

 

「会えなくはないですが、ドラゴンにも自我があり、性格も様々です。

優しいドラゴンがいれば、凶暴なドラゴンがいます」

 

そんなドラゴン・・・・・よく纏めているのね。誰が飼い慣らしているのだろうか・・・・・?

 

「私達もドラゴンと会えるのか?」

 

「会って、どうしたいのです?」

 

「勿論、私は戦ってみたいぞ」

 

川神先輩らしい発言だった。戦闘狂だからか、ドラゴンと戦える好機が巡って

戦闘モードに切り替わった?

 

「愛紗、どうする?」

 

「ハーデスはそこまで案内してくれと言われていないからな・・・・・」

 

二人は悩んで首を傾げる。

 

「メリアぐらいのドラゴンだったら問題はないかもしれないが」

 

「確かにそうだが・・・・・」

 

一般人にドラゴンと会わせるのは危険だよねやっぱり。凪さんが僕達にこう言った。

 

「それは後ほどにして今は観光を楽しんでください」

 

「行くにしろ。特殊な移動方法と許可を得なければなりません。

移動しながらしますので観光を堪能して下さい」

 

仮に会えるとしたら僕達は人生初、伝説の生物とまた会えることができる。

ドラゴンがいる場所に行くためには特殊な移動方法でしか行けない為、

特別に僕達はその移動方法で蒼天の上空に浮かんでいる浮遊大陸の一つに向かう事になったけど。

それは蒼天の町中を観光し終わった後になった。

 

―――☆☆☆―――

 

浮遊する車に乗って数十分。俺達は南区に訪れた。南区は水産業を主にした区のようだ。

この魚の生臭さ特有の臭いがその証拠だ。今でも活気にゴツイ漁師達が漁業した色んな魚を仕分けしている。

 

「大和見て!なに、この安さ。スーパーの魚より安いわ!」

 

「確かに。詰め合わせが300円って安いな」

 

「ちょっ、ズワイガニ丸ごと200円って有り得ない値段だよ!?」

 

皆、魚介の値段に驚いている。俺もこの値段にこの人達はちゃんと生活できているのかと疑問に思う。

 

「見ての通り、南区は水産業が主とした区だ。漁業で生業している人もいる」

 

「だからこんなに人がいるんですね」

 

「この辺りの海は蒼天が育てているプランクトンが豊富でな。魚の質もいいのだ」

 

「プランクトンを育てているんですか!?」

 

あんな極小の生物を育てるとは驚いた。

 

「全ての海に棲む魚達にとって必要不可欠な存在。そんな魚達の餌という重要な役割が

あってこそ魚が海にいるようなもの。もしも海にプランクトンがいなければ、

プランクトンを食す魚はいなかったでしょう。水界の生態系を構成する食物連鎖の

下位に位置しているが、プランクトンはそんな水界の生態系を保つ必要不可欠な

全水界の生物の命の源です」

 

プランクトンに対してそんな事を言う人は生まれて初めて見た。

 

「さて、次は西区に行こう。あそこは自然が豊富な区域だ。そこで昼食しよう」

 

愛紗さんの言葉に俺達は頷き、再び浮遊する乗り物に乗ろうとした矢先、

俺の目は死神の格好をした存在が魚を購入している様子を写り込んだ。

 

「・・・・・ハーデス?」

 

俺はキャップ達から離れて、そいつの方へ歩み寄る。

 

「おい、ハーデスか?」

 

『・・・・・?』

 

声を掛けると髑髏の仮面がこっちに振り向く。あっ、こいつハーデスだ。

 

「お前、何時の間に戻って来ていたんだ?他国からの依頼でこの国にいなかったんじゃなかったのか?」

 

そう言うとハーデスはスケッチブックでこう伝えてくる。

 

『・・・・・さっき帰って来た。依頼を終えてな』

 

「そうなんだ?まあいい。ハーデス、暇なら一緒に来てくれ」

 

『・・・・・』

 

コクリとハーデスは頷いて、一緒に皆のところへと戻った。

 

 

 

 

 

 

乗り物に乗って建物が段々少なくなって、森林が多くなった。そんな場所、西区に私達は来ている。

 

「姉上、森が多いのぉ」

 

「そうね」

 

弟の秀吉が感嘆する。確かに、自然が豊かな場所。鳥の(さえず)りも聞こえ、空気も新鮮。

ここに別荘を建てるに適している所ね。

 

「・・・・・」

 

「着きましたよ」

 

凪さんが伝えてくる。アタシは考えを止めて乗り物から降りた。死神も蒼天を案内してくれるというので、愛紗さんに凪さん、死神と三人がアタシ達を色んな場所へと連れてくれる。

乗り物が停車した場所は森林に囲まれた駐車場で、整備された道に歩かされていく。アタシ達が歩く隣には車道みたいな道が設けられている。その後、山のように急な坂を登ること数分。

 

「ここが西区の町です」

 

森から抜け出た愛紗さんが言った。アタシ達も彼女が向ける先へ視線を向けると、凄い光景を目の当たりにした。

 

「樹木が・・・・・家・・・・・!?」

 

広々とした緑の草原。その奥には大きな山もあり、草原に数多の巨大な樹木があって、

その樹木に沿う形で螺旋状の階段やつり橋、樹木自体がまるで高層マンションのように

窓が幾つもあった。そんな珍しい樹木の家より大きなヒマワリが二十本程、

二手に離れたところで太陽に向かって咲いていた。他には大きな川が山から流れてその

川に大きなホースが入っていて、樹木の住宅地に伸びる形で車道が発見した。

だけどここが自然の区域だと頷ける。

 

「ツリーハウスの究極版ってやつか!?」

 

「すっげっ!あんな家見たことがない!」

 

「斬新で新鮮で義経は感動した!」

 

皆が目を丸くして、変わった家に興奮していた。アタシと秀吉の家も木造だけど

あそこまで凄い家じゃない。

 

「電気と水道、ガスは通っているんですか?」

 

「水道はあそこで流れている川から汲み上げています。電気はソーラータワーで

蓄積した電力で補い、ガスは電気と同じ電気の力で火に換えています」

 

「ソーラータワー?」

 

「あの巨大なヒマワリみたいな塔がありますよね?あれが太陽の光を吸収して

ソーラーパワー、電力に換えているんです」

 

あれ、機械だったの?規格外な花かと思ったわ。

愛紗さんの促しにアタシ達は足を前に運ぶ。樹木の家に近づけば、木でできた橋に

渡って何気なく下を見下ろすと浮遊する車が向こうから接近して通り過ぎていく。

 

「ここにも車があるんだ」

 

「西区は商店がございませんからね。商店があるのは中央と北区だけです。

日本で言うと中央と北区は大都会みたいなものです」

 

「そうなんだ。ところで北区ってどんなところなんだ?」

 

「社会的なことが主なところですね。他の国と外交、交流、テレビ局等と色んな会社が密集しています」

 

「ちゃんと仕事もしているんだな」

 

「あのソーラータワーも過剰の電力を各国に売って国の資金としていますよ」

 

この国は本当に同盟を結ぶなくても交流しているのね。

もしも蒼天に対する問題が出てきたら万点は間違いなさそうだわ。橋を下りると、

巨大な樹木の麓を歩くアタシ達。

 

「西区は自然が多い区域ですが、牧場もあるんですよ」

 

「じゃあ、馬もいますか?」

 

「勿論です。その上、日本の競馬にも出場させてもらっています」

 

「け、競馬に?」

 

「蒼天の馬は世界一速い馬ですよ。自慢で誇りです。珍しい馬がいますが見ますか?」

 

「見たいぜ!」

 

秀吉の友達が勢いよく挙手した。結果、アタシ達は牧場へ向かう事になった。

その場所はソーラータワーの少し離れた所。アタシ達は馬や牛、

羊などを囲む木の柵に歩み寄ってのんびりと過ごしている動物達を見据える。

 

「うわー!いっぱいいるわね!」

 

「あの牛、いつか精肉として死ぬんだな」

 

「お前、それは言わないお約束だろう」

 

本当よ。せっかくの気分が台無しじゃない。

 

「珍しい馬ってどれかな?」

 

「あれです」

 

凪さんが指した馬。その馬は全身が真っ赤で体がガッチリとしていて鬣も燃えるような赤い。

 

「ほう、赤い馬か。まるで三国志に登場する赤兎馬みたいだな」

 

「はい、それに因んであの馬をそのままの名前に名付けました」

 

「赤兎馬。その名前以外あの馬の名前に合わぬな」

 

「現在、競馬にも出場させているところ全戦全勝。赤い閃光を残す程の速度でゴールを

してしまうので何時しか『馬中の赤い彗星 赤兎』と称されるようになりました」

 

愛紗さんは自慢げにとばかり微笑んで赤い馬を見ていた。それからアタシ達は西区の

牧場で取れた乳製品を食べて心なしか肌がツルツルになった気がした。

 

「お風呂に入れて浸かると肌が潤うんですよね。私もよく使っています」

 

「これ、いくらですか?」

 

女としてのプライドの為に、秀吉より女の子らしく成りたいと思っての購入。

 

「姉上、ワシは男じゃからな!?」

 

「うっさい!」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

西区から離れて、今度は北区。俺、坂本雄二は物珍しい物を見る目で辺りを見渡す。

 

「日本と差して変わらない建物だな」

 

「そうだね・・・・・」

 

「翔花・・・・・だからと言って俺の手を握るな。

明久とムッツリーニが文房具を指で挟んで構えているから止せ」

 

あいつらの嫉妬にも困ったものだ。俺は逆に明久の不幸を楽しむ思考があるんだぞ。

 

「西区で仰ったとおり、ここは大都会の一つです」

 

「はい、愛紗さん!」

 

「なんですか?」

 

「ハーデスから聞いたんだけどよ。ここの結婚制度に一夫多妻制があることは本当なんでしょうか!」

 

島津が鼻息を荒くして尋ねた。こいつの思考は丸分かりだ。

 

「ええ、私達がこの国に来る以前からその婚姻に関わる法律は定められていました」

 

「おお!」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・同性愛結婚も・・・・・ですか?」

 

「そうですが、それがなにか?丁度、市役所が見えてきましたので婚姻届が欲しいですか?」

 

目と鼻の先に北区市役所と大きな建物が見えている。その建物に一瞥して愛紗が言ったが、

 

「いえ、欲しくないです!」

 

「はい、欲しいです!」

 

こいつらの考えが丸分かりだ。ここで俺も質問をする。

 

「日本じゃあ男は一八歳、女は一六歳と決められているが、この国の婚姻制度は何歳だ?」

 

「男女が結婚する場合は変わりませんよ。同性愛結婚の場合は、

互いが両想いであったら十六歳で結婚できます」

 

「へぇ、そうなんだ・・・・・って雄二。どうして僕に苦々しい顔を向けるんだい?

秀吉とムッツリーニも」

 

お前、久保にこの国に連れて行かれないことを祈るぞ。俺はそれだけしかできないからな。

 

「因みに、この中で婚約を結んだ方、または両思いの方はいますか?」

 

 

ガシッ!(ハーデスと俺の腕を掴む翔子と翔花)

 

 

「「・・・・・」」

 

愛紗と凪が何故かハーデスに苦々しい顔をする。

 

「結婚をする気があるのですか?」

 

「・・・・・あります」

 

「あります・・・・・」

 

「俺は断じてない!なっ、お前もそうだろうハーデス!」

 

『・・・・・(コクコク)』

 

ハーデスはコクコクと首を縦に振る。

 

「こんなハッキリと食い違いをする人は初めて見ました」

 

「こいつは俺に対する感情に勘違いをぉおおおおおおおおおっ!?」

 

「雄二・・・・・そんなに私のことが嫌い?」

 

俺の顔にアイアンクローで顔面の骨がメキメキと音を立てているぅぅぅぅっ!?

 

「あの、そろそろその手を放しては」

 

「ここで騒ぎを起こせば、私達はあなたを捕まえなければなりませんので」

 

「分かりました・・・・・」

 

愛紗と凪に立締められて翔花は渋々と手を放してくれた。た、助かったぁ・・・・・。ハーデスの方は・・・・・?翔花の姉だからきっと翔子も―――。

 

ナデナデ。

 

「・・・・・」

 

翔子はハーデスに抱きしめられながら頭を撫でられていて、折檻していなかった。

その顔は頬を膨らませているものの、どこか嬉しそうな器用に表現している。

 

「なぜだ!なぜ俺とハーデスの違いがこうも差がある!?翔子が単純に優しいからか!?

ハーデスが女の扱いになれているからか!?あまりにも不公平だろう!」

 

「姉さん・・・・・羨ましい」

 

くそっ、折檻から逃れるためには俺もああしろとお前はそう言いたいのかハーデスよ!

 

「・・・・・次に行きましょう」

 

凪に呆れられて先に歩きだした。なんだ、俺がおかしいのか?俺がおかしいのか!?

 

「雄二、美少女に求められているんだからいいじゃないか」

 

「そうじゃぞ。お主は向きあうべきじゃ」

 

「・・・・・妻帯者」

 

この野郎共、他人事だからって言いたい放題言いやがって・・・・・!

日本に帰ったら覚えていろよ。

 

 

 

 

次に訪れたのは中央区。

 

「ここは中央区です。見ての通り、ここが一番人と人の交流が多い場所です。

そしてこの中央区の象徴とように立っているあの塔は天照と名前で現在は有名な観光の

名所の一つとなっています」

 

愛紗の説明にワシらは顔を上げた。白い塔で雲を突き抜けるばかりか、

下から見れば天まで伸びているようにも見える。

 

「で、でっけぇ・・・・・てっぺんが見えねえや」

 

「凄い。初めて近くで見れたわ」

 

「ロマンだよな!宇宙って!」

 

「・・・・・東京にあるタワーより断然大きい」

 

じゃな。ワシもそう思うのじゃ。

 

「ん?なあ、あの人達は取材の人か?」

 

島津がとある方へ差した方へ向けると、天照の前で大きいカメラを肩に担いでマイクを

持った女性の人に向けておった。

 

「そうみたいですね」

 

「そうみたい?」

 

「確かに他国と交流しているのですが、ああいった事を認めていないんです。

蒼天のカメラマンやスタッフ以外では」

 

なんと、そうじゃったのか。ということはあの者たちは外国の者か?

・・・・・顔立ちからして日本人のようじゃな。

 

「じゃあ、止めなくてもいいのか?」

 

「通報しましたので警備の者が来ますでしょう」

 

その数十秒後。空から物々しい物が舞い降りた。

 

「なんだ、アレは・・・・・」

 

腕や足、背中といった体の部分に機械が装着して取材の者達を囲んだのじゃった。

あっという間に取材者達をワイヤーで捕縛して、空へ飛ぶ警備員達に連れて行かれた。

 

「あれが我が国が誇る警備員でありこの国を守る盾。

IS、正式名称はインフィニット・ストラトス」

 

「あの装着している物の名前だな?」

 

「ええ、そうです。あれは軍用兵器でもあるため、世界中の兵器より速く、

威力もあります」

 

「お父様が知りたがっていた軍事兵器があれだったのか・・・・・」

 

クリスが静かに漏らした。そう言えばハーデスにそんな事を聞いておったな。

 

「愛紗よ。あのISとやらを他国が買えばいくらになるのだ?」

 

「あれは売れるものではありませんよ。整備だって必要です」

 

「ならば、その整備の者を九鬼家に派遣してくれぬか?」

 

「売る売らない云々以前にISを提供する気はありません。

九鬼家は何でも物が欲しがる子供みたいな財閥なのですか?」

 

愛紗はきっぱりと拒否した。

 

「貴様、紋様にその物言いは許さんぞ」

 

老執事が鋭い目つきで愛紗を睨む。じゃが、そんな愛紗にハーデスが庇うように立ちふさがった。

 

『・・・・・ここで騒ぎを起こせば、二度と入国できなくなる。それでもいい?』

 

「赤子如きの脅しに俺が通用すると思うか?」

 

『・・・・・九鬼家財閥との交渉すら無くしてもいいんだな?』

 

ハーデスの文字を見て九鬼の姉上が口を開いた。

 

「ヒューム。止せ」

 

「しかし、揚羽様」

 

「蒼天とはいずれ対談をするために場を設けるつもりだ。この国を見て我は思った。

この国は他の国と根本的に違うと。このような国と交流を拒まれたら我が九鬼財閥は

これ以上成長できなくなる。同じ世界の半分を手中に収めている企業として、敵に回したくない」

 

「・・・・・かしこまりました」

 

執事は下がりながらも目を鋭くハーデスを睨む。

 

「すまぬな。死神とやら」

 

『・・・・・敵になったらもう半分を手に入れそうだったのに』

 

「ふふっ、我の前にしてそのようなことを書くのだな。面白いやつだ」

 

『・・・・・蒼天を手に入れようと思っているなら止めた方が言い』

 

「それはどういう意味だ?」

 

九鬼の姉上が問うた。ハーデスはスケッチブックに書き、こう伝えながら上に指す。

 

『・・・・・上空にいるドラゴンまで手に入れることは不可能だから。欲しいなら、

まずドラゴンを服従させないと』

 

ハーデスの物言いに九鬼の姉上から緊張を感じた。ドラゴン・・・・・蒼天の上空に

浮かんでいる複数の大陸に棲んでおる話じゃったの。

 

「じゃあ、そのドラゴンと会わせてくれ死神。そろそろ会いたいぞドラゴンと」

 

川神先輩が口の端を吊り上げて言った。ハーデスはしばらく無言じゃったが、

コクリと頷いた。

 

『・・・・・分かった。後で案内する。まずはこの天照の中を楽しんでくれ』

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

完成したばかりの宇宙にまで伸びているこの建物の1階のフロアに入る。

そこは大勢の人達が賑やかに並んでチケットを購入しようと立ち並んでいる。

 

「大人と学生の人数分のチケットを購入する!」

 

九鬼君が僕らの分までチケットを購入してくれた。この建物の階層は全部で100以上の層がある。

殆どはショッピングセンター、フードセンターといった店で、中にはバー、

宿泊できる階層があれば娯楽だらけの階層もある。

僕らが目指す階は最上階。宇宙空間だ。はぐれないように固まって大勢の人が階段や

エスカレータ、エレベーターと上へ行く移動手段で昇っていくように僕らも時間を掛けて

ようやくエレベーターで一気に最上階の宇宙空間の部屋へと移動した。結構な広さで

20人以上乗ってもまだ余裕があった。

 

その間、エレベーターから見える外の景色は壮観だった。蒼天の国が真上から一望できて、

天井や床、壁が全てガラス製で設けられているから視線を落とせばぐんぐんと

高く昇っていくのがよく分かる。

 

「うっひゃー!たっけぇー!」

 

「こ、これ壊れないわよね?」

 

「こ、怖いです・・・・・」

 

足場が透けて見える恐怖心に島田さんや姫路さんは互いに寄り添って怖がっていた。

物凄い速さで上昇するエレベーターは十分ぐらいしたころに最上階へ辿り着いた。

扉が自動で左右に開き僕らは出た瞬間、窓ガラスだらけの暗い空間を目の当たりにした。

まだ昼ごろだっていうのに夜みたいに真っ暗だ。ここって・・・・・まさか宇宙?

人も大勢ここにいて、フードコーナーの売店で購入した料理を設けられた椅子に

座ってテーブルを囲んで食べている。

 

「うわ・・・・・凄い混雑」

 

「皆、宇宙空間で食べに来たんだね」

 

「見て、上にも階層があるわ。しかも階段が宙に浮いているってどういうこと!?」

 

まるで魔法でも掛けられているかのように一定の間隔で浮いている階段。

ワイヤーに吊るされているわけでも、そう言う風に見える目の錯覚でもなさそうだ。

 

「宇宙空間にいるというのに無重力ではないのは不思議だな」

 

「・・・・・確かに」

 

僕達は宇宙の中に作られた建物の中にいる。雄二の疑問は尤もだけど、

きっと浮かないように特殊な作り方をしているからじゃないんだろうかと僕は思う。

 

「もっと上に行きましょ!」

 

「だな!」

 

あっ、一子と翔一が上に行っちゃった。二人の様子を見ていると僕の肩にハーデスが叩いた。

振り返るとスケッチブックにこう書いていた。

 

『・・・・・ここにしばらくいるなら自由行動をしよう。

何人か組んでここから離れるときは連絡し合って集まればいい』

 

「自由に動いても良いの?」

 

僕の言葉に視線を感じ始めた。

 

『・・・・・このルームの最上階に無重力を体験できる催しがある。

お前らも体験してきたらどうだ』

 

「そう言う事なら四人一組で行動しようぜ」

 

雄二がいきなりそんな提案を言いだした。まあ、別に構わない行けどさ。

 

「俺と秀吉、ムッツリーニに明久でいいだろ」

 

「・・・・・問題ない」

 

「ワシも異論は無いのじゃ」

 

「何だか何時ものメンバーだね」

 

『・・・・・騒ぎを起こすなよ?学校一の問題児クワットロ』

 

「「「「お前(お主)に問題児扱いされる覚えはない」」」」

 

失礼な発言をするハーデスに僕らは異口同音でツッコンだ。

 

「義経達はどうする?」

 

「主の意のままに従うよ」

 

「あー、俺は死神と行くからいいぜ」

 

「与一?」

 

「与一君が死神君と一緒なら私も・・・・・」

 

与一が自分からハーデスと行動するなんて珍しい。僕の知らない間に接していたのかな?

それに葉桜先輩もハーデスと一緒に行動をしたいと言うし。

 

「・・・・・死神、私も一緒」

 

「じゃあ、ボクと優子、翔花でいいカナ?」

 

「別に四人一組じゃなくても連絡が取れれば問題ないしね」

 

木下さん、工藤さん、霧島さんの妹は三人一組という形で一緒になった。

 

「姉上、紋。我らも行きましょうか」

 

「うむ。では参ろうか」

 

「はい!」

 

九鬼家兄弟姉妹の三人は家族と一緒に。義経さんは伊達さんと織田さん、武蔵坊さんと。

極道さんはエスデスさん、島田さんと姫路さん。大和はガクトと卓也、京、川神先輩と。

 

「あずみと私とヒュームは揚羽様達の護衛として付き従います」

 

「はい☆お任せくださいませ☆」

 

「気にせずに楽しんでください。もしものことがあればすべて死神に責任を取らせてもらいますので」

 

『・・・・・また、一日動けない身体にして欲しいようだな』

 

ハーデスの手がゴキリと関節の骨を鳴らした。って、暴力はダメだよ!?

 

「死神様。ヒュームを抑えますのでどうか治めてください」

 

『・・・・・分かった』

 

えっとクラウ・・・・・さんだったっけ。その人の言うことを素直に応じたハーデス。

 

「なあハーデス。ここって食べ歩きはいいのか?」

 

『・・・・・ゴミを持って帰るなら』

 

「よし、何か買って歩き回ろうぜ」

 

満足気に頷いたリーダーシップの雄二が僕らを催促して歩き始めた。

他の皆もバラバラになって行動をし始める。

雄二はお腹が空いているのか歩く先はフードセンターに向かっている。

 

「食ったのは西区の牧場だけだったから腹が減ったぜ」

 

「席は満員で座れそうにもないの」

 

「・・・・・食べ歩きができる食べ物が限られる」

 

店の窓口に並んでいる人達の数も凄い。長蛇の列とはまさしくこのことだろう。

僕らの前に並んでいる人の背後に立って待っていると、

近づいてくる店員さん(金髪に蒼い瞳、胸が巨乳)がスマイルで接してきた。

 

「いらっしゃいませ。大変長らくお待たせしまいますのでご注文はこちらから

選んでお決まりになりましたら手をお挙げてくださいませ」

 

そう言ってもらったメニュー表。目をそのメニュー表に落とすと・・・・・な、なんと

日本から来た僕達、つまり外来者の人は値段が40%OFF!?蒼天の店のシステムは

なんて素敵なんだろうか!

 

「値段が安くしてくれるとは嬉しい限りじゃな」

 

「・・・・・お買い得」

 

「パスポートを見せればそういうことにしてくれるようだな。

これならかなりの食い物を買えそうだぜ」

 

僕らが店のシステムの事を話しているとどんどん前に進んでいく。

その間に食べたい物を決まった僕は手を挙げたら素早く店員さんが来てくれた。

ポケットに入れてあるパスポートを見せながら注文っと。

 

「はい、ご注文を御受け致します」

 

「えっと、その前に訊きたいことがあるんですけど食べ歩きができる料理って

どの辺りまでですか?」

 

「このメニュー表が全部でございますよ」

 

「そ、そうなんですか?じゃあ・・・・・フライドポテト(L)にハンバーグ、

ライスは大盛りでコーラも(L)です」

 

「かしこまりました。パスポートを拝見いたします」

 

店員さんは僕のパスポートを手にして腰に差していた装備品から蒼い革製の本を取り出した。

すると、店員さんはスラスラとパスポートを見ながらペンを走らせると、

僕のパスポートを返してくれた。

 

「ありがとうございました。また蒼天にお越しくださいね」

 

ニッコリと綺麗な微笑みで言い残すと今度はムッツリーニのところに近づき、

僕と同じようにし始めた。雄二と秀吉にも店員さんが話しかけられて・・・・・。

 

「綺麗な人だったね雄二」

 

「ああいう店員はアメリカじゃなきゃそうそういないよな。

男受けもいいし商売は繁盛するだろう」

 

ボクと雄二の視線は先ほどの店員さんに向けたまま。

うん、確かにあんな美人な店員さんだったら―――ってあれ、何時の間に僕は寝転がっているんだろうか?

 

「吉井ぃ~っ!」

 

「吉井君っ!」

 

「へ?島田さんと姫路さん?どうしてそんな殺気だって僕の足や腕にを関節技を掛けるのぉぉぉぉっ!?」

 

「雄二・・・・・変な目で女の人を見ない」

 

「ちょっ、待て翔花・・・・・っ!俺は決して変な目で見てうぎゃあああああああっ!

目がぁ!目がぁっ!」

 

「島田と姫路と霧島(妹)!ここで騒ぎを起こしてはならんとハーデスが言っておったじゃろう!」

 

「・・・・・警備の人が来る」

 

秀吉とムッツリーニが僕と雄二を助けようとするけれど、

 

「邪魔しないで!これは吉井に対するお仕置きなんだから!」

 

「そうです!外国に来て他の女の人にいやらしい目つきで見る吉井君が悪いんです!」

 

「雄二が浮気したから・・・・・妻の私がお仕置きするのは当然」

 

この二人と霧島さんの妹が聞きいれようとしないぃぃぃっ!?

足と腕から嫌な音が聞こえたよぉぉぉぉっ!

 

「そこのキミ達!なにをしているんだ!」

 

警備員と思しき人達がこっちに駆けつけてくれた!流石に島田さんは騒ぎを駆けつけた

人達が来たことにお仕置きを中断せざるを得なかったのか僕から離れてくれた。

 

「蒼天で相手に苦痛を与える行為は禁じられているのは知らないのか!」

 

「す、すまぬのじゃ。ワシらは観光をしに来た者で・・・・・」

 

「観光者か。だが、そういう行為を蒼天では固く禁じられている。

蒼天の法に則って従ってもらうぞ。現行犯逮捕だ」

 

た、逮捕ぉぉぉっ!?島田さんと姫路さん、霧島さんの妹に素早く手錠が嵌められた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!私達はただいやらしい目で女の人を見ていた

吉井君にお仕置きをしていただけなんですよ!?」

 

「そ、そうよ!どうしてウチらが逮捕なんて・・・・・!」

 

「蒼天の法律だ。観光者のキミ達は知らないだろうがこの建物の中で騒ぎを起こした者は

厳罰をする決まりがある。知らないとはいえ、キミ達三人は蒼天の国で罪を犯した。

蒼天に住む者として許す訳にはいかない。署まで来てもらうぞ」

 

「・・・・・隊長、彼の足と腕の骨が脱臼をしています。靭帯にも損傷が確認します」

 

「い、いや、これは別に慣れているから大丈夫ですよ?」

 

脱臼した腕と足の骨を嵌めながら言う。よし、これで動けるね。

 

「慣れている?まさか、何度もこんな酷い人体に苦痛を与えられた行為を受けているの?」

 

あ・・・・・何だかヤバイ雰囲気・・・・・。警備員の人が真顔でこう言った。

 

「とにかく、キミは直ぐに病院で検査しないと」

 

「えええ!?病院にお世話になるほど僕は怪我なんてしていませんよ!」

 

「検査するだけです。入院するほどの損傷でなければすぐに終わりますから。

―――私です。人体に損傷を受けている少年がいますので直ぐにタンカーを」

 

笑みと共にそう言われても・・・・・って、本当に僕を病院に連れて行く気!?

無線機で救助隊を要請したの!?

 

「は、放してください!」

 

「この程度で捕まえる蒼天の法律は厳しすぎるわよぉっ!」

 

「この程度とはなんだ!必要ではない状況に危険な関節技を、しかも学生がしてはならないんだぞ!

キミ達のご両親にもこの事を説明する為にきてもらうからな!」

 

「「そ、それだけは勘弁してください!」」

 

「お願いします・・・・・」

 

三人が警備員に懇願するけれども・・・・・。

 

「「「「「創設数十年を費やして完成した記念すべき天照の中で騒ぎを

     起こしたキミ達の自業自得だ」」」」」

 

警備員さん達には聞き受けてもらえず冷たい対応された。そして僕自身もタンカーを

持って現れた新たな警備員達に介護されながら病院へ強制的に搬送されたのだった。

 

 

 

「・・・・・ハーデスに申し訳ないのじゃ」

 

「・・・・・誠心謝るべき」

 

「だよなぁ・・・・・」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「おいおい・・・・・姫路と島田、霧島の妹が逮捕された上に明久の奴が病院送りって何やってんだよあいつら・・・・・」

 

「これって・・・・・経歴に傷付くんじゃ・・・・・」

 

「間違いなくね」

 

俺、直江大和は逮捕された三人に呆れて溜息を吐くしかできないでいる。

 

『・・・・・問題児はあっちだったか』

 

ハーデスも嘆息している。なんというか、この国に来てこんな騒ぎが起きるとは

思いもしなかった。

 

「すまぬハーデス。三人を止められんかったワシらも悪いのじゃ」

 

「・・・・・申し訳ない」

 

「すまねぇ・・・・・」

 

木下と土屋に坂本がハーデスに頭を下げた。罪悪感を感じている様子で

申し訳ないという思いが伝わってくる。

 

「ハーデス、お前からなんとか翔花達を釈放とかできねぇか?」

 

『・・・・・あんな大勢の前で関節技、蒼天の法律を犯した。直ぐには釈放はできない』

 

「四人の王とは仲がいいんだろう?そいつらに頼んでくれないか?」

 

『・・・・・それは無理』

 

なんでだ?四人の王と仲がいいんなら王の権限で警察に捕まった三人を釈放すること

だってできるはずだぞ。

 

『・・・・・ここは中央区。中央区の警察には中央区の王じゃないと従わせれない。

五つの王が統べているそれぞれの区の警察はその区の王しか従わない』

 

「ま、マジかよ・・・・・その中央区の王様はいるのか?」

 

『・・・・・世界中に飛び回っている。だから今もいない』

 

「連絡はできないの?」

 

『・・・・・緊急時以外、連絡はしてならない王同士の間で決まっているそうだ』

 

万事休すか・・・・・。

 

「ねぇ、英雄君。英雄君もなんとかできないの?」

 

「・・・・・すまぬ。九鬼家と蒼天はまだ繋がりを持っておらぬゆえ、

我ら九鬼家の力でも蒼天に通用しないのだ」

 

「交渉の場を設けて蒼天と同盟を結べば何とかなるのだがな」

 

「だが、蒼天はこれから先も独立をと宣言しておる故に手も足も出ぬ」

 

九鬼兄弟姉妹が苦い顔を浮かべてる。さすがに九鬼家の力は蒼天に通用しないか・・・・・。

 

「だが、彼女達の行為は自業自得だ」

 

「少しの間は独房で頭を冷やしてもらういい機会かと思います」

 

愛紗と凪が冷たい反応を示す。

 

「彼女達のことは私達に任せてください。何とか今日中に日本へ送ります」

 

「中央区の王と連絡ができるのは四人の王だけです。

私と愛紗の、西と北の王に進言しましょう。今日のところは彼女達三人のことは

忘れて観光を楽しんでください」

 

そう言う彼女達に誰かが安堵で息を漏らし胸を撫で下ろした。

取り敢えず何年も牢屋の中で過ごすということは無いようで俺も安心した時、

待ち人がようやく姿を現した。

 

「あ、皆!」

 

「明久!」

 

俺達がいる場所は中央区の病院。葵病院より高く大きい病院の玄関の外で待っていた。

特に変わった様子は無い。

 

「検査の方は無事に終わったんだな?」

 

「うん。少し薬を飲まされた程度であっさりと返してもらったよ。

観光者だからって費用がタダだったしね」

 

「観光者にえらく寛容だな。治療費がタダなんてよ」

 

「おかげで助かったよ。治療費って結構掛かるんでしょ?」

 

「状態によって費用は変わりますがね」

 

冬馬は親が病院の院長だからな。病院に関する知識はこいつが詳しい。

 

「さて、次はどこに行きます?」

 

島田達の件はこの際置いておこう。今は、蒼天を歩き回って情報収集。

 

「そういや、蒼天の学校は見たことがないんだよな。

ハーデス、この国の学校はどこにある?」

 

『・・・・・学校は一つしか無い。幼小中高とエスカレータで進級する』

 

「ということはマンモス校ってやつか?教師や給食を作る人員の確保も大変だろうに」

 

坂本が腕を組んでそう言うがハーデスは書き続けた、

 

『・・・・・因みに』

 

「なんだ?」

 

『・・・・・藤堂カヲル、西村先生、高橋女史、福原先生、大島先生、布施先生、長谷川先生、船越先生、遠藤先生、竹中先生達は蒼天の出身者』

 

『『『『『な、なんだってぇっ!?』』』』』

 

い、以外だ・・・・・まさか、あの人達がこの国の出身者だなんて!

 

「ん?じゃあ、お前と面識があるのか?」

 

『・・・・・学園長と高橋女史、福原先生は俺のことを気付いている。他の先生は気付いていない』

 

「なるほどな。でも、知っていてもあの西村先生は生徒として接しそうだな。

さて、蒼天の学校に案内してくれるか?」

 

促すと、

 

『・・・・・騒ぎを起こすなよ?』

 

「また警察沙汰になるようなことをすれば今度は私達が直々に捕まえます」

 

「肝に銘じてくださいね」

 

ハーデスと愛紗と凪に釘を刺されてしまった。

 

「幼小中高・・・・・幼い子供もいるのか・・・・・」

 

「トーマ、準が暴走しそうだよー?」

 

「釘を刺されてしまいましたので大和君達と抑えましょう。身内に逮捕がでないように」

 

・・・・・伏兵がここに潜んでいた。

 

「・・・・・」

 

「ムッツリーニ。ここの学校の女子に盗撮したら捕まっちゃうから止めなよ?」

 

「・・・・・捕まるようなヘマはしない」

 

「よし、俺様はナンパするぜ!」

 

―――こっちの身内にも逮捕されそうな奴がいた!

 

『・・・・・自重という概念がないのかこいつらには』

 

「騒ぎを起こされる前に問答無用で捕まえるか?」

 

「手錠をして貰って案内した方がよいかと・・・・・」

 

何だか本当にごめんなさい。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

島田ちゃんと姫路ちゃん、翔花がいないままボク達は蒼天の学校に赴いた。

天照という宇宙にまで建設された建物の少し離れた場所にあると死神君が言うので、

病院から徒歩で移動している。天照を通り過ぎ、大きくて長い外壁の横を歩くこと数分。

曲がり角を曲がってまた数分ぐらい歩いたらようやく門らしき物が見えてきた。

そこに天上天下唯我独尊と書かれた大理石に刻まれた文字が。

 

「立派な名前だな、名前負けしないようにしておるのか?」

 

『・・・・・蒼天が世界で最も優れているという意味合いで名付けられたとか』

 

「愛紗と凪はこの学校に通っているの?」

 

「ええ、通っています。いまは夏季休暇で私達各区の王の下で働いている者は仕事に

専念できる時期ですので」

 

「こうして警邏兼案内している私達のように他の者も仕事をしています」

 

同い年か一つ上の人なのに結構シビアな日常を過ごしているんだね・・・・・。

死神君も他の国からの依頼を受けているし・・・・・。

 

「それでは中に入りましょう」

 

閉まった状態の門の横にある人が三人ぐらい同時に入れそうな扉をあっさりと開けて中に侵入した。

ボク達も続いて入れば最初に目にしたのは森林。全員が入ったことを確認すれば、

死神君と愛紗さんと凪さんは先頭でボク達を先導する。森林に挟まれた道を歩き続ければ

目の前が広がった。

 

「うわぁ・・・・・」

 

「マンモス校だけあって、広いな」

 

「校舎が四つあるよ」

 

「校庭が学校のより広いんじゃない?」

 

ボク達が通っている学校の8倍はあるグラウンドを囲むように四つの石の階段や芝生の坂。

さらにそれすら囲む四つの校舎。校舎の壁に幼小中高と書かれた漢字のプレートが

大きく飾られている。

 

「高校生の校舎を案内しましょう。同じ召喚獣を扱う者同士の高校を気になるでしょう」

 

「よろしくお願いします」

 

「勝手にどこかへ行かないでくださいね」

 

ボク達を高校生の校舎へと案内してくれる三人について行く。

その間、グラウンドで部活活動しているここの生徒と思しき男女に目を向ける。

どこの国でもやることは同じだねぇ。高校生の校舎、玄関に侵入して教員専用の

下駄箱に全員が下履きとスリッパを履き換え終えると校舎の中を移動する。

高校の全校生徒の下駄箱から真っ直ぐ移動したアタシ達は大きな空間に出た。上の階へ

行く為の階段が設けられている。周囲にも目を配らせればいくつも通路があってここは

一番人の行き来が多い場所みたい。移動しながら愛紗さんは説明してくれる。

 

「ここの学校は高校生になると一年生から試召戦争だけじゃなく、

召喚獣を使った様々な作業を行うことがあります」

 

「一年生からか?俺達の学校は二年になってからなのに早く召喚獣をそうさせてくれるんだな」

 

「人の手ではできないことを代わりに召喚獣で補うんです。手が足りない時も、救助活動の際にも」

 

「でも、物理干渉がない召喚獣は物に触れることもできないよ?」

 

「高校を卒業した生徒達は教師の立会人無しでも召喚許可を得られるようになるのです。

勿論、物理干渉の設定は国の許可を得なければなりませんが、手術や災害での救助活動

といった人の人命に関わるような職業には特例として物理干渉が設定されます」

 

大人になっても召喚獣を操作できるなんて凄いね。何だか羨ましいや。

それに確かに人の手じゃできないことを召喚獣が変わりにやってもらえればかなり

助かる。重い物を召喚獣に持たせたり、狭い場所に入ってもらったりとか。

 

「でも、点数はどうやって補充されるの?」

 

「試験召喚システムの管理、開発者達が一定の点数にしてくれます。点数が減るとシステムのコアが自動的に回復してくれますので何度も召喚すれば減った点数分が回復しています」

 

「ところで、外国から移住してきた人間も召喚獣を操作できるのか?」

 

「いえ、門外不出なのであくまでも蒼天の出身者だけです」

 

うーん。ボク達が蒼天に移住しても召喚獣を操作できないんだね。ちょっと残念。

そう思いながら1Fの実習室と職員室、保健室、更衣室、大食堂、学園長室。

一年生の教室を案内されたら2Fの二年の教室、自習室、更衣室、空き教室、図書室。

3Fの三年生の教室、自習室、更衣室。4Fのプール場兼屋上、更衣室と案内してもらった。

 

「あれ、体育館が見当たらないんだけど?」

 

「体育館は校庭の地下にあります」

 

「ち、地下・・・・・?」

 

「一種の非難シェルターでもあります」

 

体育館が非難シェルターって・・・・・。

 

「他の校舎と唯一繋がっているのですが。その繋がっている通路は普段閉じられています」

 

「開ける方法は当然あるってことか」

 

「凄いわね蒼天の学校って」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです。では、学校の案内はこの辺で」

 

と、凪さんが学校を後にしようと雰囲気で伝えてくる。ボク達もそれには同意して

1Fに向かって階段を下りた最中にこの学校の生徒と出くわした。紫色の長髪の女の子だ。

 

「あれ、愛紗ちゃんと凪ちゃんじゃない。その後ろにいる人達は誰?」

 

「渡良瀬?お前もどうしてここにいる?」

 

渡良瀬って女の子か・・・・・可愛いね。

 

「うん、友達と召喚獣の操作の練習をしにね。で、そっちは?」

 

「ああ、その神月学園の生徒とその関係者に蒼天を案内しているところだ」

 

「えっ?神月学園の生徒?」

 

目を丸くした彼女はボクらを見つめる。

 

「初めまして、自分は神月学園一のナイスガイと称されている島津岳人です」

 

島津クンがポーズをしながら渡良瀬ちゃんに自己紹介をしたよ。

 

「あはは、凄い個性的な人だね。私は渡良瀬準って言います。よろしくね♪」

 

「おや、身内と同じ名前の人ですか」

 

「別に珍しいわけじゃないだろう?あー、俺は世界の幼女を愛する紳士こと井上準です。

どうもよろしく」

 

「こっちもこっちで自分の性癖を自己紹介する人なんだね。

もしかして他の人達も個性的な神月学園の生徒達かな?」

 

ニコニコと笑みを浮かべて僕らを見渡す渡良瀬ちゃんが、とある一点に視線を向けた。

 

「あら、双子だね?うーんと、姉弟?」

 

「ワ、ワシが男だと分かってくれたのじゃ・・・・・?」

 

「なんとなくだけどねー。へぇー、女の子みたいな顔をしているね?

女装をしたらきっと可愛い女の子になるよ」

 

「・・・・・あまり嬉しくないのじゃ」

 

優子の弟君が肩を落として溜息を吐く。すると、またどこからか溜息を吐く音が聞こえてきた。

その音に振り返ると愛紗さんが心底呆れた顔で口を開いていた。

 

「・・・・・あー、お前達。見た目で判断しないほうがいい」

 

「へ?どういうこと?」

 

愛紗さんの言葉を引き継ぐように凪さんが答えてくれた。

 

「彼女・・・・・いや、彼は男ですので・・・・・」

 

・・・・・・。・・・・・。・・・・・へ?

 

『『『『『えええええええええええええええええええええええええっ!?』』』』』

 

お、男の子・・・・・っ?う、嘘だよね!?女子制服を着ていなくても顔と髪が女の子だよ!

でも、渡良瀬ちゃんは頬を膨らませて口も尖らせると愛紗さんと凪さんに抗議した。

 

「もーう、どうして直ぐにバラしちゃうのかなー。せっかく楽しんでいたのに」

 

「そうしないと間違ってお前に告白してしまうだろうが」

 

「別にいいじゃん。ここは男と男が結ばれても問題ないんだしさ」

 

「まったく・・・・・あの人には学校の制度を改めてもらわないと・・・・・」

 

「男の子が女子制服を着ちゃいけない規則は無いよー?それに、私には似合っているから

誰にも咎められないしね。学園長先生も親指を立てて『OK!許す!』と公認だし」

 

「・・・・・はぁ」

 

学園長公認・・・・・本当に男の子なんだ。雰囲気からでもそんな感じがしないのに・・・・・。

 

「雄二、僕・・・・・秀吉以上の可愛い女の子が実は男だったって、

しかも同年代にいるとは思わなかったよ」

 

「ああ俺もだ・・・・・世界は広いんだな・・・・・」

 

「・・・・・確実に話題となる」

 

「姉としても・・・・・目の前の真実に驚きを隠せないわ」

 

うん、ボクもこればかりは目を疑うよ。

 

「の、のうお主・・・・・」

 

「ん?なーに?」

 

「男として見られたいとは思わぬのか?お主、男であろう?」

 

優子の弟クンが信じられない面持ちで渡良瀬ちゃん・・・・・じゃないや渡良瀬クンに問うた。

その問いに返ってきた答えは・・・・・。

 

「うーん別に?」

 

「は・・・・・?」

 

「私は私だもの。私が男だってことは自覚しているし、私がこの女子制服を着ているからって

女装は趣味ではなく自然の摂理と思うわ」

 

何て前向きな思考と性格・・・・・。

 

「それに、男が女物の服が似合っているなら堂々と胸を張っていればいいじゃない。

私はしょっちゅう女物の服で街中を歩いているわよ?」

 

「そ、それでナンパとかされぬのか?」

 

「普通にされるわよ?それに私はこう見ても読者モデルとして活躍中なの」

 

「ど、読者モデル・・・・・告白された時はどう思っておるのじゃ?」

 

「嬉しいわよ?それって自分が男でありながら女の子みたいに見られていることでしょ?

私、いまの自分が好き。男が女の子になれるのって滅多にないことだろうしさ」

 

堂々と言い切った渡良瀬クン。

 

「ねぇ、キミも女の子の服を着たらどう?すっごく可愛くなるわよ。私が保証する」

 

「ワ、ワシは男じゃ・・・・・」

 

「そう思うのはキミの自由だよ。でも、口で言って相手に心から伝わっているの?」

 

「―――――っ」

 

「その反応からして見間違えられていることが多いようね」

 

優子の弟君は口を噤んだ反応に渡良瀬君はそう指摘した。

 

「生まれ持った容姿は手術でもしなきゃ変えようがないわ。でも、間違えられてもいいじゃない。

それは相手の認識がそう思って勘違いしているだけだし、今を楽しく生きないと損だわ。

これ、中央区の王様の言ってくれた言葉よ?」

 

「中央区の王・・・・・」

 

「私、男の子と結婚するなら中央区の王様がいいわ。なんたって格好良いし♪」

 

う、うわ・・・・・堂々とハーデス君の前で言っちゃったよ。

 

「死神・・・・・」

 

『・・・・・』

 

ああ・・・・・ボクの背後で折檻しようとしている代表とそれを必死に防いでいる

死神君がいるよねきっと。

 

「本当に自分を男として認識してもらいたいなら、言葉じゃなくて行動で示した方がいいわ。

私は女の子であるかのように振舞っているけれどね」

 

「・・・・・」

 

「それじゃ、私はそろそろ行かないといけないからここでお別れね。

また会いましょう?男の娘君」

 

それだけ言い残して渡良瀬君はどこかへ行こうとしたけれど、

途中で足を止めてボクらに振り返った。

 

「キミはキミだよ?男でありながら女の子のように見えて、勘違いされてもキミはキミで

あり続けると良いと思う。きっとそんなキミに素敵な男の子か女の子が受け入れてくれるはずだだから♪」

 

今度こそ行ってしまった。衝撃的な人との出会いは帰ってもしばらくは

忘れそうにないのは確かだね。特に優子の弟君にとって忘れたくても忘れられない出会い。

自分と同じ境遇だけれど渡良瀬君は威風堂々と今の自分の在り方を胸張って生きている。

これから優子の弟君はどう生きてくのかな・・・・・。

 

 

 

 

 

俺達は学校を後にし中央区を見て回り終えれば、特殊な移動方法でドラゴンが棲む大陸へと向かった。

 

「ここが・・・・・ドラゴンが棲む大陸・・・・・」

 

俺、直江大和は辺りを見渡す。ドラゴン達が棲む大陸・・・・・木々がしっかり

生えていて自然が豊かそうだ。この大陸の状況を目の当たりにした俺達は、

こんな場所にドラゴンがいるんだ・・・・・と思いだろう。

案内してくれる三人の後ろを歩きながらキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「なあ、ハーデスはドラゴンと戦って強くなっているのか?」

 

「日々戦い続ければ、否が応でも強くなりますよ」

 

「だから、強いのか・・・・・」

 

それから歩き続けること十分ぐらいだろうか。俺達は巨大な洞穴の前に辿り着いた。

 

「メリア殿、おられるだろうか!あなたに会いたいという者を連れてきました!」

 

愛紗の呼び掛けに洞穴の向こうから鈍い音が段々とこっちに近づいてくるのが分かった。

そして、ドラゴンの姿が肉眼で捉えることができた。

 

「あれ、あのドラゴンって・・・・・?」

 

「あっ、学校に来た金色のドラゴンじゃん!」

 

全身が金色、瞳は空色、翼はないのは不思議だったが、それよりも目の前に巨大な生物が現れたことに俺や他の皆も驚愕した。だが、ドラゴンは口を開けた途端。

 

『私に客人とは?』

 

ドラゴンが人語、喋ったのだった。

 

「喋った!?ドラゴンって喋れるの!?」

 

『私達ドラゴンは心がありますからね。知性もあれば話すことだってできますよ』

 

当然のように言うドラゴンは、青い目を俺達に向ける。

 

『それで、私に会いたいという者はこの者達ですか?』

 

「ええ・・・・・そうです。ドラゴンと会いたいというもので、あなたに会わせに来ました」

 

ドラゴンは頷き口を開いた。

 

『私はメリア。創造の力を司る「無限創造龍(インフィニティ・クリエイション・ドラゴン)」メリアと申します』

 

「創造?」

 

『新しく零から物を造ることです。蒼天もまた私の力で創られたものですからね』

 

「ドラゴンって、そんなことができるんだ」

 

『全てのドラゴンがそういった能力を持っていません。

私は創ることに長けたドラゴンですからね。生命も創造することだって可能です』

 

そんなドラゴンがこの世界にいるなんて・・・・・。

 

「メリアと申したな?我が九鬼財閥の力となってもらえぬだろうか?」

 

『お断りします』

 

「・・・・・断わるのが早いの」

 

木下が唖然と漏らす。九鬼紋白、俺は紋様と呼ぶようになっているが、

彼女の申し出に断るなんてドラゴンはプライドもあるようだ。

 

『力のない人間の下にいたくないので』

 

「では、我と契約を結んではくれるか?お前の望みを何でも叶えてやるぞ?」

 

『私の望みを?』

 

不思議そうに首を傾げる。人間味ある仕草にこのドラゴンは人と接し慣れているのが理解した。

 

「そうだ。我が九鬼財閥は可能な願いならば叶えてやるぞ」

 

『では、あなた方が支配している世界の半分を我らにくれると?』

 

「・・・・・豪快な望みを要求してくる。それは無理だ」

 

『ならば、契約は無かったことに。元々私は力のない、認めていない者に使われることも

仕える気もないのですから』

 

プライドが高い・・・・・だけが断わる理由ではなさそうだ。

 

「ではドラゴン。お前を倒したら認めてくれるのだな?力のある人間であることを」

 

『認めるだけであって、何も変わりませんよ。―――戦う気ですか?』

 

「ああ、是非ともドラゴンと戦ってみたい」

 

姉さんが闘気を纏いだす。ドラゴンは息を吐いた。溜息か?

 

『私よりあなたに適したドラゴンがいます。そのドラゴンと戦ってください』

 

「どんなドラゴンだ?」

 

『いま、来ますよ』

 

ドラゴンは顔を明後日の方へ向けた。俺も他の皆もその方へ向けると、

 

『グハハハハハッ!いようっ、メリアァァァッ!』

 

浅黒い鱗に覆われた人型の巨人が翼を羽ばたかせて降りてきた。

顔は目の前のドラゴンと似たフォルム。この巨人も・・・・・ドラゴンなのか!?

 

『グレンデル、やはり来ましたか』

 

『また人間共の相手をするなら今度は俺だと決めているからな!』

 

グレンデルと呼ばれた巨人は、狂喜の笑みを浮かべている。ああ、姉さんと戦うに相応しい生物だ。

 

『彼の名は「大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)」グレンデル。

暴れることが好きな邪悪な龍です』

 

『その通りだぜ?今すぐにこの世界の人間共を踏み潰しては蹂躙し、暴れ回りたいほどだ!』

 

―――こいつ、かなり危険なドラゴンだ。こんなドラゴンがこの世に存在しているなんて

危険極まりないだろう!?何時俺達の国に襲いかかっても不思議じゃない!

 

『さーて、メリアと相手すんなら俺と遊ぼうぜ?命を懸けた死合いをよぉっ!』

 

凶暴なドラゴンが巨大な拳を真っ直ぐ俺達に向けてきた。

 

『待ちなさいグレンデル』

 

『あ?』

 

メリアの制止に巨大な拳は、俺達に衝撃波を与えただけで止まった。こ、こえぇっ・・・・・!

 

『その体では一方的な戦いになると仰っていたはずです。

戦うならば、対等の形で戦えとも言いましたよね?』

 

『・・・・・ちっ、わーったよ』

 

舌打ちをしたグレンデル。あっさりと何か了承したようだ。

拳が離れてグレンデルの身体が光に包まれ、見る見るうちに縮んで・・・・・。

 

『これでいいだろう』

 

不満げな物言いをする身長が二メートルもある浅黒い肌に銀の双眸、髪は深緑の男。

腰辺りに尾が生えている。

 

「・・・・・ドラゴンが人間に?」

 

『ドラゴンが人型になった、とも言います。まあ、意味は合っていますがね』

 

メリアが説明してくれる。こんな現象。皆に口で言っても信用してくれないだろう。

 

『んじゃ、誰から俺と戦うか?何時でもいいぜ?』

 

「私だ!」

 

姉さんがうきうきと前に出た。

 

『一人だけか?何人でもいいぜ?』

 

「私だけじゃ不満だと言いたいのか?」

 

『戦うなら多い方がいいだけだ。ぶっ殺し甲斐があるからよぉ』

 

そんな物言いのグレンデルに―――。

 

「こいつは危険なドラゴンだな。殺すことに躊躇いがないと見える。我も参加しよう」

 

揚羽さんまでもが姉さんの肩に並んだ。

 

『おうおう、いいぜいいぜ。久々に暴れそうだぁ・・・・・』

 

狂喜な笑みを浮かべ、背中に翼と腰に野太い尾を生やすグレンデルが体勢を低くした。

 

『んじゃ、殺し合いの始まりだぁっ!』

 

轟ッ!

 

世界最強、強さの壁を越えた武の達人2人とドラゴンの前代未聞の戦いは始まった。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「はぁあああああああああっ!」

 

私は川神百代。四天王の一人だ。神月学園三年でもあるが、私はドラゴンと戦っている。

こんなことは生まれて初めてだ。―――ドラゴンと戦うなんてさ!

真っ向から向かってくるドラゴンに川神流の技を放った。

 

「川神流無双正拳突き!」

 

ストレートパンチを必殺技にまで昇華した一撃を繰り出す。

ドラゴンは私の拳に笑みを浮かべ、拳を突き出してくる。拳と拳がぶつかり合い、

激しい衝撃波が生じる。こいつの拳、鉄のように硬いな・・・・・。

 

「九鬼決戦奥義古龍昇天派ッ!」

 

揚羽さんも拳での一撃を放った。そんな拳に対してドラゴンも拳を出し、

揚羽さんの拳を受け止めた。

 

「むっ、硬いな・・・・・!」

 

『おいおい柔い拳だなっ!あいつのほうがよっぽどいい拳を放ってくるぜ!』

 

「あいつ・・・・・?誰のことだが知らないが安心しろ。お前の期待を裏切らぬからな」

 

『そいつは・・・・・楽しみだな!』

 

ドラゴンの腹が何度も膨れ上がった時、ドラゴンの口から炎が漏れ出したのを確認した。

 

「揚羽さん!」

 

「分かっておる!」

 

揚羽さんの反対に横へ回避した瞬間、ドラゴンが火炎球を吐きだした!

狙う相手がいなくなった火炎球は大地に直撃して爆発した。

 

『グハハハ!避けられたか。まあこんなんで倒れるよりはマシだな!』

 

「舐めるなよ!」

 

あっという間にドラゴンの懐に入り、足を薙ぎ払って攻撃するとドラゴンの姿が消えた。

 

ゴッ!

 

「ぐっ!?」

 

何時の間にか背後に回れていて、肘で背中を強く突かれた。

 

『おっせーの!』

 

足首に尾が巻かれ、私は地面に叩きつけられる。

 

「こ、のぉ・・・・・っ!」

 

『おっと!』

 

私が攻撃しようとした矢先に横薙ぎに振るわれて、

揚羽さんとぶつかってしまって目の前から赤く燃える巨大な球が迫ってきた。

 

「川神流雪達磨!」

 

気を冷気に変えて火炎球を氷漬けにして―――。

 

『そいつはブラフだぜ?』

 

「っ―――!?」

 

技の発動中の私の背後にドラゴンが口角を上げて現れていた。

 

『おらっ!』

 

瀑布のような凄い威力が籠った拳の一撃が私に直撃する。

 

「百代!」

 

揚羽さんが加勢しようと動く。グレンデルは揚羽さんに気付き、翼で防御した。

 

「川神流人間爆弾!」

 

私を中心に大爆発が起こる。相手を吹き飛ばすためこの技を発動する。私自身もダメージを負うが、

自己再生の川神流瞬間回復ですぐに回復する。

 

『そんな程度の爆発、俺が効くかよぉ!』

 

「なに・・・・・っ!?」

 

あっという間に攻め込まれて、嫌な音と鈍痛が脳に伝わった。

 

『ハッハー!まずは肩腕を貰ったぜ!』

 

―――左腕を持っていかれた。こんなこと、生まれて初めてだ・・・・・!

これが本当の殺し合い・・・・・!

 

「姉さん!」

 

大和の声が聞こえてきた。私を心配してからだろう。流石に瞬間回復で腕を生やすことはできない。

精々止血程度だ。

 

『さーて、次はあの銀髪の人間だな』

 

目の前で、私の腕を食らっているドラゴンがそう言う。

この狂気、この強さ。ドラゴンと相応しい言動だ。

 

「ヒューム!姉上を助けるのだ!」

 

「無論、そのつもりです」

 

九鬼英雄がヒュームさんに指示を下した。流石に危険だと判断したようだな。

 

『なんだ?今度はテメェーが相手か?』

 

「トカゲ如きにやられるような俺ではないぞ?」

 

『言ってくれるじゃねぇか。老いた人間がよぉ』

 

ドラゴンは完全に私の腕を喰ってからヒュームさんに立ち向かう。

 

『かかってこいや!』

 

「貴様を始末してやろう」

 

凄い勢いで飛びだすヒュームさん、腹を何度も膨らませ巨大な火炎球を吐きだすドラゴン。

 

『・・・・・』

 

その間に現れた死神の格好をした奴。―――はっ?

 

 

ガッ!(ヒュームさんの拳を受け止める音)

 

フッ!(火炎球を横薙ぎで払った手で消した音)

 

 

「ハ、ハーデス!?」

 

「死神!?」

 

大和達から驚愕の声が上がった。こいつ、何時の間に現れたんだ?

 

『テメェ邪魔すんな!』

 

 

ドゴンッ!

 

 

怒ったドラゴンに対して死神は思いっきり明後日の方向へ蹴り飛ばした。

 

『この野郎!後で覚えていやがれぇぇえええええええええッ!』

 

ドラゴンはそう言い残して星となった。いや、ただ蹴り飛ばされただけか。

 

「貴様・・・・・」

 

『・・・・・』

 

ヒュームさんの問いに無視して私に近づく。肩腕が無い腕に赤い目が向けられ、徐に私の肩を掴んだ。

何をするかと思えば、包帯だらけの手が神々しい光を発し、光に包まれる私の腕が見る

見るうちに腕の形にへとなり、何時しか喰われたはずの腕が生えた。

私は目の前の現実に信じられず、腕を動かすと自分の腕のように動かせた。

 

「お前・・・・・」

 

『・・・・・』

 

スケッチブックで私にこう伝えた。大丈夫だったか?と。

 

「あ、ああ・・・・・ありがとう」

 

感謝すると何故か頭を撫でられた。意外と懐かしい感じがしたのは不思議だった。

 

「百代。腕の方はどうなっておるのだ?」

 

「私自身も何が何だか理解できませんが・・・・・元に戻ったみたいです」

 

「あの者・・・・・強いな。我らが手古摺っているドラゴンを・・・・・」

 

大和達は死神の格好をした奴に群がっている。

 

「・・・・・」

 

「ヒューム。そんな怖い顔をしてどうしたのだ?」

 

「・・・・・いえ、何でもございません。私の勘違いでしょうな」

 

勘違い・・・・・あの死神に何と勘違いしたんだ?

 

「それにしてもあの時の光・・・・・」

 

まるで旅人が傷を直してくれた時と同じだった。まさか、あいつが旅人?いや、そんなわけはないか。

うろ覚えだが、旅人の温もりと気は覚えている。死神から旅人と同じ感じはしない。

きっと別人だ。

 

「揚羽さん、今でも旅人のことが好きですか?」

 

「愚問だな。そう言うお前はどうなのだ?別れの際、我の前であんなことをしたお前もだ」

 

「勿論。私の初恋はまだ続いていますよ」

 

旅人は私のものだと自己主張してもいいぐらいだ。さて、戦いに水を差されたが仕方がない。大会が始まるまで蒼天の観光の続きをしよう。得れたものはあった。

ドラゴンは強いということをな。


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