バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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夏五問

学年対抗肝試し大会は終わって翌日、ボク工藤愛子は学校の前で鞄を持ってある人を

待っていた。待ち時間の30分前にその人は現れた。

 

「おっはよーう死神君!」

 

『・・・・・二重の意味であついのに元気だな愛子』

 

「全身黒いマントを着ている死神君が異常だと思うんだよねー?」

 

『・・・・・それで、俺を呼んだのは?』

 

「うん、ボクと一緒に水泳勝負してもらいたいんだよ」

 

外見だけ、一言で言えば死神。でも中身は列記とした人間・・・・に見えるドラゴン。

こうして目の前に立っていても信じられないね。彼は赤い目を学校に向けた。

 

『・・・・・人がいるな。いや、夏休み中補習を受けさせられている奴らか』

 

「プールに来る人はいないと思うんだけど」

 

『・・・・・校舎からプールを眺めれる。が、大丈夫か』

 

「そうそう、大丈夫だよ。ほら、行こう?キミの分もボクが用意したんだからさ」

 

ボクの水着と一緒に入れてある鞄を見せ付けた。表情は分からないけど死神君は頷いた。

―――用意周到だなと、スケッチブックに書いて。

 

 

 

「泳ぎは自由で一往復したら勝ちってことでいいかな?」

 

「構わないぞ」

 

プールのスタート位置の台の上で佇むボクと死神君。お互いゴーグルを付けずに競泳する姿勢で―――。

 

「それじゃ、よーい・・・・・スタートッ!」

 

それぞれのコースに向かって前から飛びこんだ!と、その時だった。死神君があろうことか

プールの半分の距離まで飛んで、水中飛び込んだ!あれ、いくらなんでも跳び過ぎだよ!?

距離が離された状態で勝てるわけ無いじゃん!ボクが折り返し地点に辿り着いた時には

死神君が既に往復をし終えていた。

 

「か、勝てるわけがない・・・・・」

 

「悪い悪い。久々に誰かと競泳するのって久々だからいつもの調子でやってしまった」

 

「え、なに・・・・・あんなに跳んでから泳ぐことがいつもの調子なの?」

 

信じられないと死神君のところまで泳ぎった後にボクは目を丸くした。

 

「俺の身体能力が他の人間より逸脱しているからな。軽くやっても人より何倍の力を発揮する。

こういった肉体での勝負だと俺が何でも勝ってしまう」

 

「ドラゴンって凄いんだねー」

 

「あまり、凄すぎても困るがな。張り合いがないからさ」

 

それじゃ、ボクがどんな泳ぎ方で勝負しても死神君には勝てないってことか。

川神先輩に泳ぎでも勝てるのかな。

 

「俺は誰かと勝負をするよりも、誰かと一緒に楽しむことが大好きなんだ」

 

「プールだとどんな風に楽しむの?」

 

「そうだな・・・・・例えばこうだ」

 

死神君が手を開いてプールに伸ばした時、プールの水が柱のように形を変えて、

水のトンネルや階段まで出来上がっていく。

 

「魔法の力で水を操ることだ」

 

「す、凄い・・・・・・でも、こんなことして学校にいる先生達に気付かない?」

 

「そこは問題ない。ここのプールを一帯に俺達の姿が見えないように結界、バリアを張ってある。

どんなに騒いでもバリアで声も消してくれて誰にも気付かない」

 

何時の間にそんな事をしたんだろう?でも、誰にも気付かれないなら・・・・・。

そう思っているとボクの手を掴んで水の柱に向かって歩き引っ張られた。

 

「上がるぞ」

 

「上がるって・・・・・水を触れることができても登れないよ?」

 

「百聞は一見に如かずってな」

 

プールの縁から死神君は水の階段の最初の一段に何とでもない風に素足を乗せた。嘘・・・・・無機物の水の上に足がしっかりと乗っている・・・・・!?

 

「魔法・・・・・魔力はこういったこともできる。無機物の質を変えたりとか」

 

死神君の手の中で水が鳥の形になって、ボクの周りを飛び続ける。

 

「魔力で水を具現化して何かの形にすることもできる」

 

「それって、水を氷にしたように?」

 

摑まれたままの手を引っ張られ、水の足場に乗った。

足の裏から感じる水の感触は冷たくてブヨブヨしていた。ゼリーを触れている感じ・・・・・。

 

「これ、本当に水だよね・・・・・?」

 

「その気になれば、水だらけの遊園地も具現化できるぞ」

 

「あはっ、それはとても面白そうだね」

 

この夏の間にそれをして貰おうとボクは思った。螺旋状の階段を上ってボク達は水の柱の中に侵入した。

中は無色透明。プールの中だったら水色だったけど、それはプールの壁と床が水色に

塗装されているからであって、本来の水は無色。ユラユラと水が揺らいでいるから

ボクは水の上に乗っているんだと改めて思い知らされ、

 

「愛子、一緒に滑ろう」

 

水の滑り台の前に来させられた。足が水の足場に乗れることを分かったから膝を折って腰も下ろした。

 

「わ、冷たい」

 

「水だからな」

 

ボクの後ろから話しかけてくる死神君が腰を下ろした。ボクの背中は死神君の胸と密着し、

 

「―――それじゃ、滑るぞ?」

 

「うん!」

 

後ろから押され、ボクは水のトンネルの中を死神君と一緒に滑りだした。

物凄い速度で下に進んだかと思えば、右へ左へ、いきなり一回転。蛇行や逆さまに

滑ってしばらく滑り続けていると目の前から光が見えた―――。

 

ザッパァァァァァンッ!

 

「ぷはっ!」

 

水のトンネルからプールの水面に飛びこむ形で抜け出たボクら。

こんなプール場で凄い体験ができたことにボクは満面の笑みを浮かべてはしゃいだ。

 

「楽しいーっ!」

 

「喜んでくれてこうした甲斐があったもんだ」

 

「うん!あの水の滑り台は楽しいよ!ねぇ、もう一回滑ろうよ!」

 

笑みを浮かべたまま死神君の手を掴んで、今度はボクが水の階段のところまで引っ張った。

 

 

 

 

思う存分、水の滑り台を満喫したボクらは学校を後にして多馬川沿いの草原の上で寝転がった。

 

「はー、疲れたねー」

 

『・・・・・その分、楽しんだ』

 

「ほんと、アレは楽しかったよ。あーあー、僕も魔法が使えれたらもっと楽しいだろうに」

 

だから死神君に視線を向ける。羨望の眼差しを送ってね。

 

「ねぇ、死神君。キミはどうして魔法を使えるの?」

 

隣で寝転がっている死神君は携帯を操作しながらボクの質問に答えてくれなかった。

 

「ドラゴンってどうやって生まれるの?」

 

この質問も答えてくれなかった。そんな死神君にちょっとだけ腹が立って身体を

起こして携帯を操作している手を伸ばした。でも、逆に手を掴まれ引っ張られた

ボクは死神君を覆い被さっている状態に耳元で呟かれた。

 

『どんな心情で俺のことを知りたがっているのか分からないが教えたくはない』

 

「・・・・・」

 

『あまり面倒なことに突っ込むと自分を滅ぼすぞ愛子。それでもいいのか?』

 

その発言にボクは何も言えなかった。ちょっと聞いただけで、死神君が明らかに

拒んでいる。ボクの質問を答えたくないって。だから、少し寂しかった。

 

「ボク・・・・・死神君にとってまだ信用されていない?」

 

『信用とかそういうんじゃない。誰にでも言えない秘密がある。俺が教えたくないのは

それが秘密だからだ。ドラゴンの誕生やどうして俺が魔法を使えるのかそれが秘密だ』

 

「他にも色々と聞きたいことあるんだけど・・・・・それも死神君にとって秘密なの?」

 

彼は肯定と頷いた。

 

『俺自身のことは誰にも教えていない。教えられない。俺のことを知ろうとするが今のままじゃダメなのか?』

 

死神君の言葉にボクはゆっくりと首を横に振った。

 

「ううん、それでもいいよ。ごめんね、言いたくないことを聞いちゃって」

 

『・・・・・俺は秘密を多く隠して持っている。知りたがるのは無理ないだろう』

 

ボクの後頭部に死神君の手が触れて優しく胸に抑えつけられた。彼の心臓の鼓動が聞こえてくる。

ちゃんと生きているんだっていう命の鼓動が確かに動いている。・・・・・そう、だよね。

死神君がどうやって生まれたのか、どうして人の姿でいるのかも・・・・・。

 

「・・・・・」

 

なんだか撫でられるのが心地好い。代表が嬉しそうに撫でられているのがよく分かる。

やっぱり、スキ・・・・・な人に撫でられるのはとても幸せなんだろうね。

ボクも今になって理解した。

 

「死神君」

 

『・・・・・なんだ?』

 

「代表と付き合っていないんだよね?」

 

『・・・・・正式には、な』

 

だよね、じゃあ・・・・・ボクも交ぜてもらおうかなぁ・・・・・。

死神君と一緒にいると楽しいし、これからも卒業するまできっと優子や代表の三人と傍にいるよね。

 

「ボク、頑張るからね死神君」

 

『・・・・・?』

 

よーし、代表はともかく優子もきっと死神君のことを意識しているはず。

二人に負けないように頑張る!

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

突然だけど、アタシは木下優子。二年Aクラス所属の女子生徒。学校では品行方正で

成績優秀、社交性に富んでいると優等生の顔で通っている。家ではその真逆。

家の中だと下着かジャージ姿で乙女小説を読むことが唯一にして崇高な趣味。

こんなこと、バカな弟の秀吉以外、親でも知られてはアタシのこれからの私生活や

学校生活がとんでもないことになる。でも、いまは夏休み。代表や愛子といった

アタシの携帯番号を知る人以外連絡を入れてくる人はいない。それまでアタシは両親が

仕事に出かけている間にこうして下着姿で乙女小説を読める。

 

「・・・・・」

 

この乙女小説・・・・・作者はソー・テンって変な名前の人だけど、

あの死神が出版したものだとはね。

今ならこの名前の意味が分かる。ソー・テン⇒ソーテン⇒ソウテン⇒蒼天であることを

理解したアタシだった。理由がふざけて出版社に出したら称賛されてそのまま書かざる

を得なくなった・・・・・まったく、

 

「乙女の心をなんだと思っているのよ。普段もあんなふざけた格好でいるし。

中身はかなり恰好好いのに・・・・・勿体ないじゃない」

 

『悪かったな、ふざけた変装でよ』

 

「まったく、その通りよ。あんな恰好をするぐらいなら女装でも―――」

 

・・・・・いま、アタシは誰と話している?

 

「・・・・・姉上、さっきから声を掛けておるんじゃが・・・・・」

 

これは愚弟の声。じゃあ、さっきの声は一体・・・・・。アタシは顔を声がした方へ

振り向く。そこにはアタシの弟、秀吉がいてその隣には―――ここにいるはずのない死神が

突っ立っていた。

 

『・・・・・』

 

死神は赤い目をアタシとリビングテーブルの上に置いてあるネット通販の箱を交互に見た。

 

『お買い上げありがとうございます、と言えばいいか・・・・・?

しかし、家の中だからといって・・・・・何て恰好をしているんだ』

 

「―――――っ!?」

 

今更ながらアタシは今の格好に気付いた。―――下着姿なのだ。今のアタシは。だからこ

そ、何時の間にか入ってきた弟と死神の存在にも気付かず、普段の格好で過ごして・・・・・。

 

「イ、イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

―――数分後。

 

 

『・・・・・俺が悪いのか?』

 

「分からぬ。じゃが、何故か理不尽なのじゃ・・・・・」

 

アタシの目の前で二人は床に正座する。

 

「お、乙女の裸を見たわね・・・・・っ」

 

『・・・・・全裸ってわけじゃないからギリギリだろう』

 

「反省の色がないみたいだから殴っていい?」

 

『・・・・・それ以前に、あんな恰好で本を読んでいたお前が悪い』

 

「くっ・・・・・!」

 

そう言われては強く言えない。私服を身に包んだアタシは死神を睨んだ。

 

「で、どうした死神がここにいるのよ」

 

「あー、学校でハーデスと演劇の練習をしていたんじゃよ。そしたら、話をするにつれ

ワシの部屋にある演劇に使うための衣装を見たいと言うので家に招いたのじゃ」

 

『今日は家族がいないと聞いたから秀吉の部屋で寝泊りさせてもらおうかと思っている』

 

秀吉が助け船を出す。それに確かに今日は家族がいないけれど、

よりにもよってこの怪しさ満載の男を泊らせるなんて。

 

「泊まりはダメよ」

 

「なんでじゃ?」

 

「だって、そんな恰好で泊らせるぐらいならアタシは追い出すわ」

 

『・・・・・しょうがない。ここなら脱いでも問題ないか』

 

アッサリと仮面と黒マントを正座したまま脱いだ死神。

うっ・・・・・物凄いギャップ。ビフォーアフターの言葉がまさしく彼の為にあるような

感じがしてしょうがないっ。

 

「これで解決したか?」

 

「・・・・・アンタの分の料理が無いわ」

 

「ああ、ここに来る途中スーパーで食材を買って来たから大丈夫だ。

美容にいい食材を使った鍋料理にしようとな」

 

学生鞄からどうやって入れたのか疑問で仕方がない、様々な食材が出てくる出てくる。

 

「・・・・・寝る場所が」

 

「秀吉の部屋で寝る。男同士だから問題ないだろう?」

 

・・・・・こ、これ以上の否定材料が・・・・・ないっ。

 

「姉上、諦めてハーデスを泊らせてくれんかの。姉上に迷惑を掛けるような男では

ないのは知っておろう」

 

「・・・・・それはそうだけど」

 

「じゃあ、家賃としてこれをあげよう」

 

鞄から薄い二冊の本を取り出してアタシに見せびらかした。

それを見てアタシは大きく目を見開いた。

 

「そ、それは・・・・・っ!」

 

「『伝説の木の下で貴様を待つ』の最新刊。まだ出版社にも出していない出来立てほやほやの美男同士の絡み合いの乙女小説&少女漫画本だ。これ、好きなんだろ?

作者として読んでくれることは嬉しいしな」

 

アタシの趣味を蔑にするわけでもなく、純粋に読んでくれていることを喜んで微笑んだ。

そんな笑みを浮かべてくる彼を追い出そうとするアタシがまるで穢れの塊で眩しくて

彼が見えない・・・・・!

 

「・・・・・わ、分かったわよ。ただし、今日だけよ・・・・・それ、後でアタシの部屋に

持って来なさい」

 

彼から顔を逸らしてぶっきら棒に言い、最後に発売もされていない新しい小説&漫画を求めた。

 

「ああ、ありがとうな優子」

 

お礼を言われる。微笑みと共に・・・・・。横目で見る彼の微笑み。

彼の容姿はワイルド、ビューティーが混ざっている。どっちかって言うと格好良い部類

だろう。まるでアタシが呼んでいる小説の主人公のようだ。彼と・・・・・Fクラスの

吉井君か坂本君の絡みを考えると・・・・・わ、悪くない・・・・・っ。

 

「今、邪なことを考えていなかったか?」

 

「な、なんのことかしら!?」

 

「いや、なんでか知らないけど優子の俺を見る目から悪寒を感じてしょうがないんだ・・・・・」

 

大袈裟に自分の身体を抱き締める死神。何気に鋭いのねこいつ。洞察力も備わっているようだ。

これからは用心して接しないと。

 

「さて、ハーデス。ワシの部屋に行こうかの」

 

「俺の予想だと、女の服ばかりありそうだが」

 

「何を言うか。ちゃんと男用の衣装もあるのじゃぞ。それを証明してみせよう」

 

「・・・・・女用の衣装があるのは否定しないんだな」

 

自室へと戻る秀吉に付いて行く死神。アタシと秀吉の部屋は二階。完全に秀吉の部屋に

入ることを確認したら、素早く秀吉の扉に聞き耳を立てる。

 

 

『どうじゃ、これがワシの衣装じゃ』

 

『・・・・・女の衣装しか程んどないんだな。

秀吉、演劇部の奴らはちゃんと男として認識されているのか?』

 

『されておる!』

 

『じゃあ、男役はどのぐらい経験した?十で割ってくれ』

 

『・・・・・に、二じゃ・・・・・』

 

『・・・・・男より女役の方が適しているって男としてどうだろうか。まるで宝塚の逆バージョンだぞ』

 

 

他愛のない雑談だった。まあ、男同士の会話ってこんなもんでしょう。

 

 

『のう、ハーデスよ。お主も衣装を着てみんか?』

 

『は?なんでまた』

 

『なに。男は人生、一度ぐらいは女装をするもんじゃぞ?』

 

『・・・・・』

 

『ハーデス、なぜ急に黙りこむのじゃ?』

 

『いや、なんでもない。だけど、服のサイズが合わないから着れないぞ。着るつもりはないけど』

 

『む、そうなのか。残念じゃ』

 

 

そこ、なに残念がっているのよ!アンタの道に引き込もうとしないの!

 

 

『では、化粧を施していいかの?それぐらいなら問題あるまい』

 

『まあ、それぐらいならいいか』

 

『うむ。では早速するのじゃ。その後、姉上にも―――』

 

『優子ならさっきから扉の前にいるぞ』

 

 

「っ!?」

 

死神がアタシの存在に気付いていたことより、扉に穴が開いて手がアタシを捕まえて

秀吉の部屋に引きずり込まれたことの方が驚いた。

 

「盗み聞きするなんていい趣味の持ち主だな」

 

「あ、姉上・・・・・」

 

扉は閉まったまま。でも、アタシは秀吉の部屋にいる。どうやって?何かのマジック?

 

「ま、丁度いたから優子の部屋に行く手間も省けた。秀吉、よろしく頼む」

 

「任せるのじゃ」

 

死神は長い髪を一つに結い上げた。所謂ポニーテール。

 

「「・・・・・っ」」

 

また違う死神の容姿。それには思わず秀吉と一緒にときめいて―――。

 

「って、なんでアンタがときめくのよ!?」

 

「ち、違うのじゃ!ポニーテールのハーデスは格好良いと思っていたからじゃ!

男同士ならその感情を抱いてもおかしくはなかろう!?」

 

「・・・・・アンタの場合。女と勘違いされて告白され続けているから、

自分も女だと錯覚して死神を異性として認識しているんじゃないかって思っちゃうんだけど」

 

「ワシは列記とした男じゃ!それに男同士が付き合えるわけ―――!」

 

「蒼天は同性愛結婚できるんだけど?」

 

死神の横やりで秀吉は何も言えなくなった。

 

「今度男から告白されたら、受けたらどうだ?蒼天だったら問題なく気兼ねなく付き合えるぞ」

 

「ま、待て!お主はワシが女だと思ってはおらんかの!?」

 

「いや、男としてそう言っているんだが」

 

「ワシが男と付き合っても変とは思わんかの!?」

 

「愛があれば性別は超えれる」

 

「それよりも、早く化粧を施されなさいよ」

 

「そうだったな。秀吉、頼んだ」

 

「わ、分かったのじゃ・・・・・」

 

安堵で胸を撫で下ろす秀吉は化粧道具を用いて、死神の顔を女らしくしていく様子を

アタシは見守る。でも、どれだけ秀吉の化粧技術があろうとも死神は女の子らしくはならない

という事実をアタシは知った。

 

「もう、いいか?」

 

「ダメじゃ!メイクは演技の技術の一つじゃというのに、ハーデスを女の子らしくできんとは演劇のホープと言われているワシが廃る!」

 

「いっそのこと廃りなさいこの演劇バカ」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「ん、完成したぞー」

 

「「おお・・・・・」」

 

夕餉の時間。死神が作った鍋がテーブルに置かれる。鍋は二つあってどれも美味しそう。

 

「死神って本当に料理作れるのね」

 

「まあ、小さい頃から作っていたし」

 

小さい頃って・・・・・両親を強盗に殺された時のことかしら・・・・・それ以来、

彼はどうやって生きていたの・・・・・?

 

「死神、あなたは今まで誰と一緒に暮らしていたの?」

 

「藪から棒にどうした」

 

「えっと・・・・・なんとなく、ね」

 

両親を殺されて以来、あなたはどうやって生きていたの?なんてストレートに聞けれないから

遠回しで問うしか無いじゃないのよ・・・・・。

 

「そうだな、知り合いの人のところで世話になったと言うべきか」

 

「知り合い?ご両親の?」

 

「ん、そうだ」

 

ふぅん・・・・・そうなんだ・・・・・あれ?

 

「死神」

 

「今度はなんだ?」

 

「アンタ、ドラゴンよね?」

 

「それがどうかしたか?」

 

教えてくれた死神の秘密の一つ。死神は今さら何だと風に返されたけど、

 

「両親ってアンタと同じドラゴンだったの?」

 

アタシの疑問は物凄く分かりやすい態度をしてくれた死神だった。

 

「・・・・・ノーコメントだ」

 

明らかにアタシから目を逸らした。むぅ・・・・・怪しい・・・・・。

 

「もしも、もしもよ。アンタの両親が人間であったら死神、アンタも人間として生まれていたはずよ。

なのに―――どうしてアンタはドラゴンなの?」

 

「・・・・・」

 

「そもそもドラゴンは、物凄く古い昔に神話の生物として登場しているのよね。なのに、

数十年前に突如としてドラゴン達が何もなかった海に誕生した大陸、後の蒼天の上空に

浮かんでいる巨大な大陸に姿を現した。その時は第二次世界大戦の真っ最中だったはずよ」

 

アタシの話を聞くにつれ死神は背中を向けた。アタシの話を聞きたくないとばかりにだ。

 

「ドラゴンがどうやって誕生したのかは分からないけどこれだけはハッキリと言えそう。

蒼天も戦争中に誕生し、ドラゴンも同時刻に姿を現した。世界はそんな大陸を無視する

わけがなかったし攻撃を仕掛けたけどドラゴン達の力の前に破れ、日本は勝つことも

負けることもなく第二次世界大戦は終戦の幕を閉じた。そのドラゴン達の中に赤より

鮮やかな赤いドラゴンもいたって日本史や世界史に載っているわ。―――赤いドラゴンって

どう考えてもアンタしかいないのよね。そこんとこ、どうなの?」

 

死神は何時までも沈黙を貫いた。アタシは何時までも背中を向ける死神の背を射ぬく

ように見つめる。しばらくして、沈黙を破ったのは死神だった。溜息を吐いて顔だけこっちを向いた。

 

「・・・・・別に、教えたわけでもないのに何で辿り着いたんだろうな」

 

「・・・・・認める、っていうのね?」

 

「はぁ・・・・・認めるも何も、俺しかいないだろう赤いドラゴンって。

お前らに正体を明かしたんだからよ」

 

「じゃあ、アンタの両親もドラゴンだったの・・・・・?」

 

「その答えを言うならNOだ」

 

違うって・・・・・じゃあ、死神の両親は人間だったの?でも、死神はドラゴン・・・・・。

死神はこっちに向いて真っ直ぐアタシと秀吉を見つめてくる。

 

「あの人達は確かに人間だった。それは俺しか知らない事実だ」

 

「ハーデス、お主はドラゴンじゃろう?ならば、両親ともドラゴンではなくては・・・・・」

 

「秀吉の言いたいことは分かる。だが、俺の両親は人間だ。

じゃあ、どうして俺がドラゴンだと?悪いがそこまで教えるつもりはないぞ。

そこまで考えに至った優子には称賛するがな」

 

「・・・・・信頼、していないのねアンタ」

 

「信頼している、していないの問題じゃない。これは・・・・・そう易々と誰かに

言うもんじゃないんだ」

 

・・・・・初めて見た。死神の曇った顔を。そこまで言えない事情だって言うの・・・・・?

アンタ・・・・・いったいなにを抱え込んでいるのよ・・・・・。

 

「ほら、そんな話は止めて飯にしよう。木下姉妹」

 

「待つんじゃハーデス!今お主は姉『妹』と言わんかったか!?本当にワシを男として見ておるのか!」

 

「冗談だ」

 

そんな秀吉の反応を面白そうに死神は笑みを浮かべる。対して秀吉は恨めしいと死神を見つめる。

 

「・・・・・ワシをからかうお主は嫌いじゃ」

 

「そうか?俺は好きだぞ。演劇に魂を込めて一生懸命頑張る秀吉のことが」

 

「・・・・・っ」

 

死神の言葉に秀吉はテーブルに突っ伏して顔を見せんばかりに隠した。

 

「また一緒に風呂入ろうな。その時俺の背中を洗ってくれ」

 

ナデナデと秀吉の頭を撫でる死神。秀吉は答えなかったけど、

きっと心の中で了承したかもしれない。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「はふぅ・・・・・」

 

死神が書く小説だとは驚いたけど、やっぱりこの乙女小説は良い・・・・・!

これがまだアタシだけしか見ていない事実にも優越感を感じる。

愛を受け入れてくれなかったシンジはユウイチから逃れることはできたけど、

運命から逃れない宿命だからか、気を抜いて海水浴をしていたところをユウイチが現れて

砂浜で追いかけっこをするシーンが・・・・・。

 

「とても素敵・・・・・っ」

 

アタシの心を理解してくれている。だからこそ、この素敵な小説を書いているのね。

 

「・・・・・寝ているよね?」

 

今でしか見れない死神の寝顔。秀吉の部屋で寝ると言っていたから・・・・・。

よし、あいつの寝顔を覗いてやろうじゃないの。そう決めたら即実行。秀吉の部屋へと向かう。

足音を立てず、秀吉の扉を小さく開けて片目で中の様子を覗くと・・・・・。

 

「(なに、あのキラキラ光るものは?)」

 

中は薄暗かった。だけど、淡い光が発光していて若干明るかった。

怪訝に思い、静かに中に入れば信じられない光景を目の当たりにした。

 

「なんだ、まだ起きていたのか」

 

金色の翼を生やして秀吉を翼の上に寝かせている死神がいた。

 

「なにしているの・・・・・?」

 

「見ての通り、秀吉を寝かせている」

 

「そうする必要があったの?」

 

「本人の希望だから仕方がないだろう」

 

ベッドの上で壁に背を預けている死神は肩を竦める。その隣に寄り掛かる形で弟の秀吉は寝ている。

 

「どうして寝ていないの?」

 

「性分でな。誰かが近づいてくる気配がすると目が覚めてしまうんだ」

 

「まるでアタシがアンタの命を狙っているような言い方ね」

 

「・・・・・実際、俺は狙われるような存在だしな」

 

苦笑を浮かべ出した。・・・・・そう言えばコイツ、蒼天の王様だったのよね。

だから狙われても当然で警戒もしちゃうんだ・・・・・。

 

「ここ、アタシと秀吉の家なんだからアンタの命を狙うような人は現れないわよ」

 

「分かってる。でも、体に沁み付いてしまった習慣というか、反射神経のようなもんだ」

 

「苦労、しているのね・・・・・家でもそうなの?」

 

「ああ、殆ど毎日だ」

 

あの変な格好も自信の正体を隠す為のカモフラージュか。だから代表に脅されたら

素直に言う事を聞いちゃうんだ。一見、成績優秀・頭脳明晰・運動能力抜群と料理も

作れて強くて完璧超人だと認識しちゃうけれどその裏ではかなりの苦労も

身に纏っている・・・・・それを知らずにアタシ達は接していたのね・・・・・。

 

「俺自信が生きている限り安心した生活はできない。食事中も楽しく話し合いながら

食べても警戒しているし、睡眠はかなり浅い。誰かの気配が動けば敏感に反応するからな。

―――いや、これは元々小さい頃からの経験で身に沁みたものだな」

 

「―――――」

 

「俺も少ししたら寝る。優子も部屋に・・・・・っておい」

 

アタシは死神の話を無視して秀吉のベッドに上がるとそのまま秀吉の反対側に腰を

下ろし、金色の翼に背中を預けて死神の肩に寄り掛かった。

 

「・・・・・しょうがないからアタシもここで寝るわよ」

 

「なんでまた・・・・・」

 

「いいじゃない。どこで寝ようがこの家に住んでいるアタシの勝手よ」

 

「・・・・・」

 

「それじゃ、おやすみ」

 

固く目を瞑って、死神の腕を胸に抱きかかえながら必死に意識を落とそうとする。

でも、背中から感じる心地好い温もりに何時しか本当に睡魔に襲われて眠ってしまった。

 

「・・・・・ありがとうな」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「・・・・・死神、お仕置き」

 

『・・・・・ここ最近、Aクラスの女子と会うことが多いな』

 

・・・・・Aクラスの女子・・・・・優子と愛子のこと・・・・・?私に黙って

二人だけ会っていたなんてやっぱり許せない。

 

『俺を呼んだのはお仕置きをする為か?』

 

「・・・・・うん」

 

『理不尽な暴力をすれば俺との記憶を消すという約束、忘れてはいないな?』

 

「・・・・・これは、理不尽な暴力じゃない」

 

『その手錠とスタンガン、血濡れた釘バットは?』

 

「・・・・・死神のお仕置きに使う為の道具』

 

『オーケー翔子。今日一日はデートをしよう。夏休みだから綺麗な花園や水族館、

海か温泉にでも行かないか?』

 

「・・・・・行く」

 

・・・・・我ながら甘いと思うけど、二人と同じことをしてくれるなら取り敢えず

お仕置きを後にしよう。

 

『どこに行きたい?』

 

「・・・・・映画館」

 

『了解、それじゃ駅前の映画館に行こうか』

 

・・・・・肯定と頷いて私は直ぐに逃げられないように手錠を嵌めたけど、

突然燃えだした炎に焼き尽された。

 

『手錠を嵌めるな。逃げやしないから普通に行こう』

 

「・・・・・死神は普通じゃない」

 

『・・・・・自覚している』

 

・・・・・逃げないならいい。包帯だらけの手を握って川神駅前の映画館へ足を運んだ。

・・・・・そういえば、翔花も雄二を連れて映画館に行くとか・・・・・きっと

バッタリ会えるかもしれない。その時はダブルデート。

 

 

―――映画館―――

 

「・・・・・死神、どれ観たい?」

 

『そうだな、翔子はどんな映画が好きなんだ?』

 

「・・・・・死神が見る物が全て」

 

『・・・・・興味ないんだな』

 

・・・・・そんなことは、ない。

 

『・・・・・まあいい。・・・・・『愛のプレデター』でいいか』

 

・・・・・上映時間は一時間二十分・・・・・少ない。でも、今日一日デートなら他のところに行く時間も大切。

 

 

『あっ、あそこにいるのは翔子とハーデスか!?

お、おいハーデス!俺―――(バチッ!)ってうぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁっ!?』

 

『雄二・・・・・姉さんの邪魔をしない』

 

 

「・・・・・学生二枚、一回分」

 

「はい、学生一枚と死神一枚に一回分ですね♪」

 

店員さんにお金を払ってチケットを貰って指定されたホールに赴く。

 

『・・・・・俺が払ってもよかったのに』

 

「・・・・・大丈夫。次に払ってもらうから」

 

『・・・・・了解』

 

 

―――ショッピング―――

 

 

「・・・・・死神、これを着て?」

 

『女物じゃないか・・・・・!』

 

「・・・・・大丈夫、死神はきれば何でも似合うから」

 

『お前は俺を変態にしたいのか!?』

 

・・・・・映画を観た後はショッピングセンターで死神の為に服を買おうと立ち寄った。

でも、死神は何故か拒む。

 

「・・・・・死神を知っている人はいないから大丈夫」

 

『・・・・・教えようか、十メートル先に愛子と優子、秀吉がいるぞ』

 

・・・・・見つかったら困る。だから、私は強引に死神を試着室に入らせて私も入った。

 

『どうしてお前まで入る?』

 

「・・・・・今は私が死神とデートしている。三人も交ざったらデートじゃなくなる」

 

『・・・・・』

 

「・・・・・それに」

 

・・・・・死神にギュッと抱きしめた。

 

「・・・・・個室で二人きり、凄くドキドキする」

 

『・・・・・翔子』

 

・・・・・今の私・・・・・ドキドキしている。きっと死神も気付いている。

 

 

『むっ。この靴は・・・・・』

 

『どうしたのよ秀吉』

 

『この靴はハーデスの物ではないかの?』

 

『え、死神君の?よく分かるね』

 

『ハーデスの存在自体が気になるからの。よく観察しておるんじゃ』

 

『仮にこの靴が死神の物だったら試着室にいるってことね?』

 

 

・・・・・外から優子達の声が聞こえてきた。本当にいたんだ・・・・・。

どうしよう、このままじゃ見つかる。

 

『・・・・・マントの中に隠れていろ』

 

・・・・・徐に私を黒いマントの中に隠された。すぐ傍には死神の体温を感じる。

腕を胴に回してしがみ付いていると試着室の扉が開いたような音が聞こえてきた。

 

 

『おおっ、ハーデス!こんなところで何をしておったのじゃ?』

 

『・・・・・きゃー、覗き魔』

 

『待てハーデスよ!?ワシは覗き魔ではないのじゃ!男同士だから別に問題は―――!』

 

『・・・・・用があるならノックをするのが礼儀じゃないか?

見知らぬ女だったらお前を通報しても問題じゃないんだぞ』

 

『む、むぅ・・・・・それは申し訳ないのじゃ』

 

『まったく・・・・・男の裸を見たいなんて秀吉は何時からゲイになったんだ・・・・・』

 

『ワシはゲイじゃないのじゃ!』

 

『男じゃない?じゃあ・・・・・女・・・・・?』

 

『女のでもないのじゃ!というかハーデスは試着する衣装がないのにどうしてここにおるのじゃ!?』

 

『・・・・・あるぞ、これ』

 

『・・・・・女物ではないか』

 

『・・・・・蒼天の祭に女装コンテストがある。それに参加しようと思っているんだ』

 

『そ、そうじゃったのか・・・・・』

 

『その為の準備をしようとしているんだけど・・・・・何時まで開けている気だ?』

 

『す、すまん・・・・・では、閉めるぞ。着替えたらワシらに見せてほしいのじゃ』

 

 

・・・・・扉が閉まった音と同時に優子の弟との会話のやり取りは終わったようだった。

私は顔だけマントから出して死神を見つめる。

 

「・・・・・あんなこと言って大丈夫なの?」

 

『・・・・・問題ない。有言実行をするまでだ。それに俺は嘘をついていない』

 

・・・・・女装コンテストがあるのは本当みたい・・・・・蒼天という国はどこか変わっている。

・・・・・そう思っていると死神はマントから玩具の銃を出して自分に向かって引き金を引いたのだった。

 

 

―――秀吉side―――

 

 

「へぇ、女装コンテストに出るんだ死神君」

 

「絶対、面白がって出るに決まっているわね。でも、女の子みたいにならなかったのに

何で出る気があるのかしら」

 

「さぁーの。取り敢えずワシらは見守ろうではないか」

 

試着室の前で姉上と工藤と待ち構えている。ハーデスがワシに見せてくれた女物は

わら帽子に白いワンピースとシンプルなものじゃった。

じゃが、ワシの技術をもってしてもハーデスを女らしくできなかった。

正直言って悔しいのじゃ。もっと技術を磨いてハーデスをより女らしくに―――。

 

シャッ。

 

試着室の扉が開いた。ハーデスが着替え終えたのじゃな。

さて、お主の姿をとくと見せてもらおうではないか!

 

「「「・・・・・」」」

 

最初に下から見よう。視線を下に向けるとスラリとした足がスカートから伸びて足の指は

真っ直ぐワシらに向けている。徐々に視線を上げていくと白くてスラリとした細い腕と

手が白いワンピースの肩口から出て、白い布を押し上げる豊満の胸に谷間が胸元にある

鎖骨と共に理解させてくれる。さらに視線をハーデスの顔に向けると、

腰まで伸びた金髪に蒼と翡翠のオッドアイの双眸が・・・・・ワシらに向けていた。

うむ、紛う方ない女・・・・・って、な、なんじゃとぉっ!?

 

「え、えーと・・・・・どちら・・・・・さまでしょうか?」

 

「私、死神・ハーデスだが?」

 

「え、ええええええええええええええ!?」

 

「う、嘘じゃ!ハーデスは男でじゃったぞ!?お主は女である!」

 

「事実、女になったからな。なんだ、信じられないのか?」

 

姉上と工藤と共に何度も首を縦に振った。当然じゃ、ハーデスは男であるのじゃ。

ちゃんとこの目でハーデスが男であることは確認している!

 

「ならこうすればいいか?」

 

試着室から出た謎の美女が徐に手を髪を梳かすようにすれば金髪が真紅になり変わり、

どこから取り出したのか分からない玩具の銃を取り出して自分に向けて引き金を引いた。

銃口から怪しげな光が出て謎の美女に直撃すると、女の象徴である胸がなくなった。

そして、手で目を触れるとオッドアイの双眸が金色になった。

 

「理解したか?」

 

「・・・・・アンビリーバブルじゃ」

 

「ほ、本当に死神君だったんだね・・・・・」

 

「こ、これだけは目の当たりにしても信じられないわ・・・・・っ」

 

再び玩具の銃口から出る怪しい光を浴びたハーデスは女に戻ったのじゃった。

 

「見ていて分かっただろうけど、この玩具の銃は『性転換銃』といって、

相手の性別を換えることができる俺しか持っていない面白い物だ」

 

「せ、性転換・・・・・」

 

「優子と愛子を男に、秀吉を女にすることができると言った方が分かりやすいか?」

 

「じょ、女装というより・・・・・本物の女になってしまっては女装とは言えんじゃろう?」

 

「男が女の姿をすることこそが女装だ。これが女装の究極版と言えるだろう?」

 

色気がある笑みを浮かべながらワシの顎を人差し指で触れてくる。

な、なんじゃ・・・・・目の前の者はハーデスじゃというのにどうしてワシはこんなに

ドキドキをするのじゃ・・・・・っ!?

 

「ふふっ、いまの私なら秀吉とキスができるけど・・・・・ファーストキスを奪っていいか?」

 

「―――――っ!」

 

艶やかに微笑む女のハーデス。男とは違うハーデスの微笑みにワシは視線を逸らすことが

できずにいて金色の双眸に吸いこまれてしまいそうになる。ハーデスは男、じゃが今の

ハーデスは女・・・・・つい熱い息が漏らしてしまう。顔が熱くなっているのを

自覚し、心臓の鼓動が激しく動いていることも自覚しながら

ワシは・・・・・ワシは・・・・・。

 

「なんてね。冗談だ」

 

「っ・・・・・」

 

「体が女でも心が男だ。秀吉の嫌がることはしないよ。女装になるっていうのはきっと

自分の趣味だけじゃなくて男でありながら女のように生きたいという気持ちがあるから

こそ女装という言葉と概念が生まれたんだ。男装もまた同じだろうな」

 

白いワンピースを掴んでシュバッとハーデスが一瞬でいつもの格好に戻った。

 

『別の店でも探しに行く。それじゃ、三人共またな』

 

ハーデスはワシらから離れてどこかへ行ってしまった。

 

「・・・・・同性でも、死神君となら・・・・・って思っちゃった」

 

「あ、あんな笑い方をするなんて・・・・・気をしっかりしないと・・・・・っ」

 

工藤と姉上が顔を真っ赤にしておる。というか、ワシもそうなっているおろうな。

 

「(・・・・・じゃがこの気持ちを・・・・・この気持ちを曝け出していいので

あろうか・・・・・)」

 

 

 

『・・・・・死神、次はどこに行く?』

 

『・・・・・お前の家でのんびりしたいかな』

 

『・・・・・分かった。死神の部屋を用意してあるからそこで』

 

『・・・・・俺の部屋・・・・・?嫌な予感が・・・・・』

 

『・・・・・大丈夫、雄二の部屋とは隣同士だから』

 

『―――――っ!?』


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