バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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夏三問

「うわぁ・・・・・。なんか、凄いことになったね・・・・・」

 

「そうじゃな・・・・・。ここまでやるとなれば、学園側もかなりの投資が必要じゃった

じゃろうに・・・・・」

 

翌日、お化け屋敷と化した新校舎三階を覗いてみて、正直驚いた。薄暗い雰囲気といい、

外観からでも伝わってくるほどに複雑そうな構造といい、まさかここまで凝った

作りになっているなんて思わなかった。

 

「雄二。僕らは旧校舎に集合だよね?」

 

「ああ。三年は新校舎三階、俺達は旧校舎三階でそれぞれ準備。開始時刻になったら

一番目のメンバーから順次新校舎に入って行くって寸法だ」

 

旧校舎と新校舎を繋ぐ渡り廊下には防火シャッターが下ろされていて、

雰囲気は伝わってくるものの中の様子は窺えない。きっとあの中では三年生達が

舌なめずりしながら僕らを脅かそうと準備しているだろう。

 

「・・・・・カメラの準備もできている」

 

ムッツリーニが大きな鞄を掲げてみせた。あの中には何台かのカメラが入っているようで、

僕らはそのカメラを持って中を進んでいくらしい。不正チェックと通過の証拠、

あとは待っている人を退屈させない為だと、か色々と理由があってカメラを使うことに

なっているけど・・・・・。

 

「よく先輩達はカメラの使用を認めたね?」

 

「あっちもあっちなりの思惑もあるんだろうよ。さて、俺達の準備はカメラとモニターの用意と、組み合わせ作りだな」

 

「あ。そっか。組み合わせをまだ決めてなかったよね」

 

「組合せの方法はハーデスに指示してある」

 

ルールでは肝試しは基本二人一組。これは全くその手のものを怖がらない人がいても

肝試しが盛り上がるように、という処置のつもりだったらしい。状況が変わっても

三年生との勝負となった今、勝つためには全く怖がらない人同士を組み合わせるのが

セオリーなんだろうけど・・・・・。

 

「組合せの方法って具体的にどんな?」

 

「男女それぞれ専用の箱から数字が書かれたボールを取って、

同じ数字のボールを持った者同士がペアとする」

 

「ふ~ん。なるほどね~」

 

納得したように頷いてみせる僕。

 

「で、本音は?」

 

「翔花とペアにならないよう且つその確率が低い方法を選んだ。

ハーデスも翔子とペアにならないよう俺と一緒に考えに考えた結論だ」

 

うん。大体予想通りだ。目的地の集合場所に辿り着くと―――巨大な二つのガチャが

置かれていて、それに群がる二学年生徒達。

 

「・・・・・俺の予想を上回る物を用意しやがったな」

 

「流石はハーデス。やることが豪快だよ」

 

「皆もやっておるし、ワシらもやろうかの」

 

長蛇の列と化になっている場所の最後尾に並んでガチャを引く順番を待つ僕ら。

そして、その時がやってきた。

 

「よいしょっと!」

 

「おらぁっ!」

 

「・・・・・ふん!」

 

「よいっしょなのじゃ!」

 

レバーが大きいため、力いっぱい回すと、ボールが出てきた。えーと、

 

「僕は9番だって」

 

「ん?俺も9番だぞ」

 

「・・・・・83番」

 

「ワシは60番なのじゃ」

 

雄二も同じ?一体どういうことだ?

 

「あ、ハーデスじゃ」

 

秀吉がいち早くハーデスを発見した。僕達はハーデスに近寄る。

 

「おい、ハーデス。俺と明久の数字が同じなのはどう言うことなんだ?」

 

「男女ペアだよ?間違ったの?」

 

ハーデスは首を横に振った。スケッチブックにペンを走らせてこう伝えてくる。

 

『・・・・・二学年の生徒、男子の方が多いから何組か男子同士のペアが出来てしまう』

 

「あー、そういうことか。それなら仕方がないな」

 

雄二が納得した様子で了承したようだった。霧島さんの妹とペアにならなければ

こいつは誰だってよかったんだろう。

 

「ハーデスよ。お主はボールを取ったのかの?」

 

『・・・・・』

 

ハーデスは自分のボールを見せてくれた。69番と、

 

「・・・・・!(ブシャアアアッ!)」

 

「えっ、ムッツリーニ!?」

 

「いきなりどうしたというんじゃ!?」

 

盛大に鼻血を吹いた悪友でムッツリスケベな友達。

ハーデスのボールの数字にエロの要素があったというのか!?

 

「ムッツリーニの妄想もそこまで至ったか」

 

訳の分からないことを言う雄二の後ろから。

 

「ハロハロ、吉井君達。何だか賑やかだね」

 

「工藤さん」

 

「ところでさ、96番の番号を持っている男子はここにいるのかな?」

 

工藤さんがピンクのボールを手の中で弄びながら尋ねた。

だけどその番号を持っているボールはこの場にいないことを教えると工藤さんは

自分のペアを探しに僕らから離れて行った。

 

「雄二・・・・・」

 

「ぬおっ、翔花!?」

 

「雄二・・・・・番号教えて」

 

「は、はははっ、悪いな翔花?俺は明久とペアを組むことになったんだよ!

だからお前と組めれないわけだ!」

 

僕の持つボールと一緒に霧島さんの妹に見せつけた。するとあからさまに残念そうな

顔をしてどこかへ行ってしまった。

 

『・・・・・』

 

そんな彼女にハーデスが追いかけた。慰めに行ったのかな?

 

「さて、ワシの相方を探しに行くとしようかの」

 

「・・・・・これだけの人数、探すのは大変」

 

秀吉とムッツリーニも自分の相方を探すべく一時僕らから離れて行くのだった。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

《ね、ねぇ・・・・・。あの角、怪しくない・・・・・?》

 

《そ、そうだよな・・・・・。何か出てきそうだよな・・・・・》

 

 

ムッツリーニが設置したモニターから、尖兵として出撃したていったBクラスの

男女ペアの送ってくる映像と音声が流れてくる。まず最初に向かうことになっているのは、

作りの関係上Bクラスの教室のチェックポイントでそこは古めかしい江戸時代あたりの

町並みをモチーフとした作りになっている。演出のために光量が絞られていてボヤけた

感じのその画は、皆のいる教室で見ていても結構なスリルがあった。

 

 

《そ、それじゃ、俺が先に行くから》

 

《うん・・・・・》

 

 

カメラが見るからに怪しい曲がり角を中心に周囲を写していく。カメラを構えた二人は

入念な警戒態勢を取りながらそちらへと歩を進めていった。

 

「み、美波ちゃん・・・・・。あの陰、何かいるように見えませんか?」

 

「きき気のせいよ瑞希。何も映ってないわ」

 

『・・・・・』

 

「「きゃあああああっ!?」」

 

姫路さんと島田さんが手を取り合ってモニターを遠目から見ていると、

ハーデスが二人の肩を叩いた結果、悲鳴を上げた。

 

『・・・・・怖いなら目を瞑っていればいいのに』

 

「ハ、ハーデス!驚かすんじゃないわよ!」

 

「そ、そうです!女の子にそんなことして失礼です!」

 

『・・・・・?』

 

ハーデスからしてみれば、ただ伝えようとこっちに振り向かせるために叩いたんだろう

けど、姫路さん達にとっては驚かしたんだと思っているんだろうね。

 

 

《《ぎゃぁあああーっ!?》》

 

「「きゃぁあああーっ!」」

 

 

モニターから目を話していると尖兵のペアがモニター越しで悲鳴を上げた。

それを聞いた姫路さんと島田さんが同時に悲鳴を上げていた。

悲鳴だけで驚いちゃうなんてよほど怖い物が苦手なんだろう。

 

「・・・・・失格」

 

ムッツリーニが機材をさして呟く。カメラ①と書かれたデジタルメーターは一瞬で跳ね上がり、

赤い失格ラインを遥かに超えた音声レベルを示していた。

 

『・・・・・耳栓でもつけていろ』

 

姫路さん達の耳に栓で塞いだ。これで悲鳴を聞いても彼女達も悲鳴を上げることはないだろう。

 

「「???」」

 

ちなみに同じ女の子でも、霧島さんと霧島さんの妹の翔花さんは島田さんや姫路さんが

何を怖がったのか分からないようで、しきりにモニターを姫路さん達を見比べては首を

傾げていた。

 

「う~ん・・・・・。先発隊が一つ目の曲がり角でいきなり失格なんて・・・・・。

向こうも本気のようだね」

 

「だね。流石は三年生といったところか」

 

カメラは五台用意してあって、時間をずらして何組かが同時に突入することになって

いるんだけど、まだ二組目が出発する前にいきなり一組目が失格になってしまった。

これは想定外だ。

 

「これだと最初のところに何があるのか分からないね」

 

「あれだけではむしろ余計身構えてしまい、恐怖が助長されるだけじゃな」

 

Fクラス女子で唯一怪談に耐性のある秀吉がうんうんと頷いている。

 

「・・・・・二組目がスタートした」

 

ムッツリーニがカメラ②と書かれたモニターを指差した。

そちらにはAクラスの男女ペアが進んでいく姿が映し出されている。

 

「今度は向こうがどんなことをしてくるのかがハッキリ映っているといいね」

 

「そうじゃな」

 

一応コレは三年生との勝負だし、怖がっている姫路さんや島田さんの為にもちょっと

くらいは情報が欲しい。Bクラスをクリアとまでは言わないけど、

せめて何が来るのかぐらいは分かっておきたいところだ。

 

「いや、それは難しいだろうな」

 

「え?雄二、それってどういう―――――」

 

何かを知っているような物言いの雄二にその真意を確認しようとしていると、

 

《《ひゃぁぁあああ―――――っ!?》》

 

開始早々、またもやモニターの向こうから悲鳴が聞こえてきた。

 

「・・・・・失格」

 

今度はさっきとは若干違って、まだ曲がり角が見えてきたばかりの地点だ。

ポイントをずらしてくるなんて、

向こうもやってくれる。

 

 

 

《ち、血まみれの生首が壁から突然出てきやがった・・・・・》

 

《後ろにいきなり口裂け女がいるなんて・・・・・》

 

 

 

そんなつ呟きが聞こえてくる。カメラには何も映らなかったのは資格に突然現れたからか。

今回の召喚獣は今までと違って等身大になっている。血濡れの生首や口裂け女も

リアルな形で現れているだろうから、かなり怖いに違いない。

 

「のう雄二。さっきお主が言った難しいとはどういうことじゃ?」

 

隣で秀吉が雄二に尋ねる。それは僕も気になったことだ。

 

「・・・・・カメラを使っているのは私達だけじゃないと思う」

 

雄二よりも先に霧島さんが答えてくれる。

カメラを使っているのが僕達だけじゃないってことは・・・・・。

 

「三年生もこの映像を見ているってこと?」

 

「そりゃそうだろう。そうじゃなかったらカメラの使用なんて俺達に有利過ぎる」

 

「カメラの使用もババァのところで決め合ったの?」

 

「ああ、そうだ。ご丁寧に三年Aクラスの代表がいてな。今回の肝試しのルールを決め合ったんだよ」

 

三年Aクラスの代表・・・・・。どんな人なんだろうか。

 

「こっちのカメラの映像を見ていたら、標的がどの位置でどこら辺に注意を払っているのかが分かるからな。

驚かす側としてもタイミングが取り易いし、四角から襲いかかるのも簡単だ」

 

「あ、そっか」

 

位置の確認くらいなら他の方法でもできるけど、どこに注意を払っているのかは

カメラを通した方が断然分かり易い。

 

「おまけにお前以外の連中の召喚獣は物に触れないからな。障害物をすり抜けて急襲できる。

相手の位置と方向が分かればいきなり背後に化け物を配置するなんてことも可能になる」

 

「なるほどのう。それは向こうもさぞかしやりやすいじゃろうな」

 

「・・・・・召喚獣を使った肝試しならでは」

 

モニターには三組目の取っている映像が映し出されているけど、今度もやっぱり

チェックポイントに至ることなく失格になってしまった。最初のBクラスから

この調子だと、勝負の先が思いやられる。

 

「とは言え、切羽詰まってなくても勝負は勝負だからな。一方的にやられたままって

いうのも気にくわねぇ」

 

ふん、と雄二が鼻らを鳴らす。うんうん。負けず嫌いなコイツらしい考えだ。

 

「最初は様子見と思っていたが、これはそうも言っていられないな。

あまり点数の高い連中が失格になり過ぎるとチェックポイントが辛い」

 

三年生側の召喚獣バトルをする人は全部で五組十名。その人数なら間違いなく全員を

チェックポイントのバトルで全滅なんて言う可能性も十分にあり得る。

 

「でも、Sクラスの生徒が何人かいるよ?」

 

「そいつは分かっている。だが、慢心はできない」

 

雄二は座ったまま声を上げた。

 

「皆!順番変更だ!Fクラスの須川&福村ペアと、同じくFクラスの朝倉&有働ペアを

先行させてくれ!」

 

しばらくしてカメラ④と⑤のモニターにそれぞれFクラスの見慣れた顔が映った。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

肝試しが順調に行われいてる頃。ハーデスはモニターを見ている肝試しに参加している

生徒達から離れ、隅っこで座布団を枕代わりにして寝転がっていた。遊園地のお化け

屋敷のようにただ通過して召喚獣バトルをするぐらないなら、

呼ばれることはないだろうと踏んで人知れず場の雰囲気を読まずにいた。

このまま寝ていたら、起きた頃には終わっているだろうと仮面の中で目を閉じたい

ところだが、そうもいられないでいる。

 

「「「・・・・・」」」

 

ハーデスの傍に工藤愛子と木下優子、霧島翔子がハーデスを見下ろしているからだ。

 

「アンタ、協調性が無いのね?」

 

「寝たら仮面を取っちゃうよー♪」

 

『・・・・・』

 

スケッチブックに直江達は?と書いて二人に尋ねた。

 

「モニターを見ているわよ」

 

「ボク達以外は皆ね」

 

満足のいく返事が返ってきたからか、ハーデスはスケッチブックではなく自身の声で発した。

 

『協調性が無いのは、俺がいなくても問題ないと思っているからだ。

Sクラスの奴らが何人かいるし、そいつらに任せようと思っている』

 

「まあ、普通はそう考えてしまうわね」

 

『優子も優秀だからな。問題なくクリアするだろう?》

 

「当然じゃない。伊達にAクラスにいないわよ」

 

ふん、と鼻を鳴らしてそっぽ向く優子。

 

「そういえば死神君。相方は誰なのかな?」

 

『・・・・・翔子だ』

 

「え、代表?確か、翔花と一緒のペアじゃなかったの?」

 

「・・・・・死神と同じ番号を持つこと交換してもらった。翔花から面白い事を教えてくれたから」

 

「へぇー?それはどんなことなのかな?」

 

工藤愛子が興味深々と霧島翔花に尋ねた時だった。

 

 

 

『『『『『ぎゃぁああ――――――っ!!!!!』』』』』

 

 

 

「「「っ!?」」」

 

『・・・・・?』

 

モニターを見ていなかった三人だった為、急に叫びだす同級生が何か遭ったのだろうかと

顔をモニターに向けた瞬間。―――全身フリルだらけの、ゴシックロリータファッションで

スポットライトを浴びて静かに佇んでいた坊主頭の上級生がそこに映っていた。

 

「いやあああああああああああっ!」

 

「あ、あはは・・・・・」

 

木下優子は見るに堪えない者が映っているモニターから目を逸らしてハーデスの胸に飛び込む。

工藤愛子は驚愕、悲鳴すら出すことを忘れて乾いた笑い声しか出せないでいた。

 

「・・・・・死神・・・・・!」

 

霧島翔子も木下優子と同様に目が耐えきれないとハーデスの胸に縋る。

 

 

《ぎゃぁああーっ!誰か、誰か助けて―――》

 

《嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!頼むからここから出してくれ!》

 

《助けてくれ!それができないならせめて殺してくれ!》

 

《☆●♦▽¬♬❤☓っ!?》

 

 

突入したペアが全滅した様子だと、ハーデスは悟った。

 

『分かっている!向こうがそう来るならこっちだって全力だ!突入準備をしている連中を全員下げろ!ハーデス&翔子ペアを投入するぞ!』

 

 

 

『『『おおお―――――っ!』』』

 

 

自分達の名前を聞いて教室中に雄叫びが響き渡った。

 

 

『『『ハーデス!ハーデス!』

 

『『『霧島!霧島!』』』

 

 

 

鳴り止まない『霧島&ハーデス』コールの中、

 

「だってさ。死神君」

 

『・・・・・』

 

ハーデスは首を横に振った。

 

「え?行きたくないの?」

 

愛子の質問にハーデスは首を横に振って、スケッチブックにこう書いた。

 

『・・・・・目には目を、歯には歯を・・・・・あの先輩にも恐怖を味わわせる』

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

俺は三年Aクラスの夏川俊平。クソ生意気な後輩を驚かす側で今はカメラが映らない

場所で身を潜めて通過者を現れてくるのを待っている。着付けをやった連中のおかげで

ことごとく悲鳴を上げ、失格していく。

 

「(しっかし、顔は見えないからともかく。こんな服を着ただけで驚くなんて

生意気な後輩共はビビりが多いな)」

 

男が絶対に着るもんじゃない衣装を身に包んでいる自分の姿を思い浮かべただけでも

吐き気がする。

 

『おい、次の通過者が現れたぜ』

 

「りょーかい。奴らにまた恐怖のどん底に突き落としてやるぜ」

 

携帯から聞く報告に俺は意気揚々と飛び出すタイミングを計らってジッとその時を待つ。

 

『気をつけろよ。相手は死神の格好をしたペアだ』

 

「あ?死神だと?」

 

あの忌々しいふざけた格好をした二年か。どっちかが本物の死神か。

まあいい。ここであいつも驚かせて失格になったら高らかに笑い上げてやる。

 

 

 

ザッザッザッ。

 

 

 

・・・・・来たな?さあ、お前達も驚け!恐怖しろ!俺に恐れ戦け!

 

 

 

バンッ!(スポットライトのスイッチが入る音)

 

 

 

「いやっはっぁぁああああああっ!ははははははっ!」

 

こいつらも失格にしてや―――!

 

 

 

バサッ!(死神の格好をしたペアが脱ぎ捨てる音)

 

 

 

オエエエエエエエエエエエエッ!(俺が嘔吐する音)

 

 

 

な、なんてものを見てしまったんだ俺は・・・・・っっっ!?通過してくるペアは

男女かと思ったらどっちも男で・・・・・その筋骨隆々にギチギチと悲鳴を立てて

収まりきれていないゴスロリに包み、顔に酷い厚化粧した男と、

坊主頭に猫耳のカチューシャを付け、顔に厚化粧を施され、ゴスロリのメイド服を

包んだ男が俺の目の前にいた。額には幼女LOVEと書かれている。そんな奴らが俺の前に・・・・・っ!

 

「テ、テメェら!何て恰好で通過してきやがったんだ!思わず吐いちまったじゃねぇか!」

 

「うるせぇっ!こっちだってテメェみたいな気味の悪い男を見たかねぇんだ!」

 

「うくっ・・・・・こうして間近で見るとこっちまで吐き気がしてくるぜ・・・・・」

 

それはこっちの台詞じゃボケッ!

 

「さて、作戦を始めるか」

 

「あ?作戦だと?」

 

後輩が何か大きなものを俺の目の前で置いた。

 

 

 

ドンッ!(後輩が大きな鏡を置く音)

 

 

 

オエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!(俺と後輩達が嘔吐する音)※鏡は両面鏡である。

 

 

 

「ハ、ハーデスの野郎・・・・・ッ!俺達にこんな恰好を強引に着させただけじゃなく、

俺様の顔に何て化粧を施してくれたんだ・・・・・!」

 

「くそっ。想像を絶する気持ち悪さに自分で驚いたぜ・・・・・どうりで着付けを

やった連中が頑なに鏡を見せてくれねぇワケだ」

 

「ヒ、ヒデェ・・・・・こんな姿で若達のところへ戻れって酷過ぎるだろうが・・・・・」

 

あ、あいつらも俺と同じ事をされていたのか。ど、同情してしまうぜ・・・・・。

 

「うぷっ。お前らを見ているとまた吐き気がしてしまう・・・・・!」

 

「それはこっちの台詞だ!」

 

「・・・・・なら、ここで互いこの場から離れよう」

 

「賛成だ・・・・・」

 

互いの気持ちが一致し、俺はこの場から離れた。畜生、どうやらあの死神野郎の

仕業のようだ。現れたらゼッテェぶちのめしてやる・・・・・!

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

ハーデスの作戦で、見事(?)先輩を撃退をした。

 

「おぇ・・・・・二度目のショッキングで気分が・・・・・」

 

「ハ、ハーデスもなんてものを見せてくれたんだ」

 

「・・・・・怖ろしい奴」

 

ガクトと準が未だに姿を現さないのはどこかで着替え直し、化粧を落としているからだと思いたい。

 

「だがまあ・・・・・これでチェックポイントに進める」

 

「う、うん・・・・・そうだね」

 

今現在、土屋と冬馬がチェックポイントで先輩達と対峙している。

片方がSクラスなら負けることはまずないだろう。

 

 

《《《《試獣召喚(サモン)っ》》》》

 

 

土屋の情感獣は前にも見たとおり吸血鬼で、冬馬のは藁とかボロ布を着ている

みすぼらしい格好の召喚獣だった。

 

「あれ、冬馬君の召喚獣。Sクラスにしては地味過ぎない?」

 

「だな。てっきり吸血鬼あたりだと思っていたが・・・・・あれは何の物の怪だ?」

 

疑問に首を傾げていると俺の肩が叩かれる。叩いた張本人に振り向くとハーデスが佇んでいた。

 

『・・・・・・迷ひ神。 人を迷わせる妖怪。一説では、道に迷って果てた人の魂が

道連れを探しているとか』

 

「なるほど・・・・・人の道に迷って、仲間に引きずり込もうとする妖怪か」

 

あいつ、男でも女でも構いはしないから人の道に外れそうになっているんだろう。

もしかしたら準の奴も同じ妖怪の類かもしれない。

 

「それはそうと、こっちもそうだけど、向こうも向こうで分かりやすいお化けだね」

 

「そうだな。おかげで敵の行動も予測しやすそうだ」

 

一方、三年生の方はミイラ男とフランケンというラインナップ。どっちもメジャーな

お化けだから一目でそれと分かる。あの先輩達の特徴は怪我をしやすいとか根は

優しいとかそういった感じだろう。

 

 

               保健体育    

 

 Aクラス 名波健一 301点 & 303点 市原両次郎 Aクラス

 

 

そして点数は300を超えている。保健体育は受験の科目にないんだがな。

Aクラスは真面目だと見受けれる。

 

 

《土屋君。先輩達の召喚獣は、強そうですね?召喚獣の操作も私たちより一年も

長くやっていますし、少し苦戦しまうかもしれません》

 

《・・・・・Sクラスのお前が言う台詞じゃない》

 

 

対する土屋と冬馬の点数が表示される。

 

 

             保健体育

 

Sクラス 葵冬馬 629点 & 557点 土屋康太 Fクラス 

 

 

 

《流石です》

 

《・・・・・あの時より点数が上がっていたか》

 

 

瞬きすら許さないような刹那の後、ミイラ男とフランケンは敵と一度も組み合うことも

なく地に伏した。

 

「流石はSクラス。ムッツリーニ並みの点数を軽々と叩きだしてくれる」

 

「Sクラス戦は絶望的な戦いになっちゃいそうだよ」

 

「こっちにはハーデスがいる。あいつをどう動かすかが勝利の鍵となる」

 

Sクラス戦か・・・・・本当にあのクラスと戦うことになるんかね・・・・・?

 

 

《Dクラス、クリアってことで次はCクラスに行きましょうか》

 

《・・・・・》

 

《ふふっ、土屋君は無口で無表情なところを見ると愛くるしいです》

 

《・・・・・気持ち悪いことを言うな》

 

《女装をすれば、もっと可愛らしくなるはず・・・・・土屋康美という名前でどうでしょうか?》

 

 

土屋・・・・・強く生きろ。俺はお前に対してそう祈ることしかできない。

 

「順調だね雄二。このままだとあの二人で全部突破できちゃうんじゃない?」

 

あの二人がお化けを見て悲鳴を上げる姿は想像できない。向こうも今頃は頭を抱えて

困っているんじゃないか?

 

「いや、そうでもない。さっきの保健体育の点数を見て向こうもムッツリーニの

正体に気がついただろうからな。そろそろ対策を打ってくるはずだ」

 

「え?どういうこと?」

 

「三年はムッツリーニって名前は知らなくても『保健体育が異様に得意なスケベがいる』

ってことくらいは知っているだろう。そうなると、弱点もバレている可能性が高い」

 

「弱点弱点って言っても、ムッツリーニは鼻血を吹いて倒れるだけでしょう?別に悲鳴を上げることはないじゃないか」

 

「ああ。悲鳴は上がらないかもしれないな」

 

・・・・・ああ、坂本が言いたいことは分かったぞ。

 

「音声の一定値が超えたら即失格。つまり、何らかの音がその一定値を越えれば

失格となるわけだ」

 

「大和?」

 

「直江の言う通りだ明久。悲鳴じゃなくても標的に大きな音をたたせさせるのは

可能だってことだ。例えば、鼻血の噴出音とか、な」

 

「あ、あはは・・・・・。何を言っているのさ雄二。まさか三年生がそんなことを」

 

「まぁ、見ていれば分かる。・・・・・そろそろくるぞ」

 

俺も驚かす側で土屋を失格に追い込むならその手で行く。確実に失格する為に。

考えて顎に手をやっていて下に向けていた視線をモニターに戻すと、

二人の持つカメラが薄明かりの下に佇む女の人の姿を捉えていた。

あの先輩が坂本の言っている『土屋康太対策』なんだろうか。

 

 

《・・・・・っ!(くわっ!)》

 

《おや・・・・・》

 

 

徐々にその人の姿がハッキリと見えてくる。その女の人は髪を結い上げた切れ眺めの

綺麗な美人で―――色っぽく着物を着崩していた。

 

 

『『『眼福じゃぁーっ!』』』

 

 

教室の中から歓喜の声が上がる。クールな表情や長い手足。タイプで言うと

霧島姉妹が一番近い。そんな人が着物を着崩して色っぽく立っているのだから、

皆が叫ぶのも無理はない。

 

『・・・・・なるほど、あの人か』

 

「ハーデス。知っているのか?」

 

『・・・・・茶道部の小暮葵。土屋康太、失格になるな》

 

何時の間にあの先輩と知り合ったのかこいつの行動力は計り知れない。

 

「雄二・・・・・」

 

「み、見ていない!俺は全然見ていないぞ翔花!」

 

「私だって・・・・・着物を着たらあんな感じになる」

 

「・・・・・死神、私も・・・・・」

 

霧島姉妹がムッとふてくれてる。自分と同じタイプの人に坂本とハーデスの目が

いったから対抗意識を燃やしているのか。可愛らしい嫉妬だな。

どこぞの二人の女子とは違って。

 

『・・・・・なら今度。着物を着てくれるか?』

 

「・・・・・見たいの?」

 

『・・・・・じゃなきゃ、着て欲しいとは言わない』

 

ハーデスが手を霧島の頭に乗せた。霧島は淡く顔を朱に染めてコクリと頷いた。

 

「姉さん・・・・・羨ましい」

 

「あいつ・・・・・ある意味羨ましい」

 

折檻されないことに対する意味でか?坂本よ。

 

 

《・・・・・この・・・・・程度で・・・・・この俺・・・・・が・・・・・っ!》

 

《中々お美しい先輩ですね。土屋君がこれほどまで過激に反応するのも無理はないでしょう》

 

《・・・・・(ブンブンブン)》

 

 

「すごい!あのムッツリーニがここまでの色気を相手に鼻血を我慢するなんて!

この勝負はもう勝ったも同然だよ!」

 

明久が感嘆に発する。土屋の性格上を考えて確かに凄い進歩だと言うべきだろうが・・・・・。

 

「いや待て!まだ何かある!」

 

「え?」

 

坂本が警戒心を露わにしている。

 

 

《ようこそいらっしゃいましたお二方。私、三年A組所属の小暮葵と申します》

 

 

艶っぽい声に濡れた瞳。伏し目がちに頭を下げて挨拶をしながらも、

着崩した着物はそれ以上はだけさせない。

 

 

《小暮先輩ですか。こんにちは。私は二年S組所属の葵冬馬です。その着物、似合ってますね》

 

《ありがとうございます。こう見えても私、茶道部に所属しておりますので》

 

《なるほど、あなたにピッタリな雅の部でしょう。いかがです?

この催しが終えたら私と一緒に七浜公園で全裸になりませんか?》

 

 

『『『『『須川隊長!異端者が堂々と羨ま―――ではなく、けしからん事を言っております!』』』』』

 

『奴の後を追い、本当に実行したら即火炙りの刑にするのだ!』

 

『『『『『おおおおおおおおおおおおおっ!』』』』』

 

 

バカが殺気立って各々と鈍器を掲げた。

 

 

 

《その御誘いは申し訳ございませんが、お断りさせてもらいます。

私、気になる男性がおりますので》

 

《その気になる男性とは?》

 

《今、学園では知らない人はいないだろう二年の―――》

 

 

 

『『『『『『『『『『・・・・・』』』』』』』』』』

 

教室が異様に静かになった。男子達が音も立たずあの先輩の言葉に耳を傾けているんだろう。

小暮先輩の口から出た人物の名前は。

 

 

《二年Fクラスの―――》

 

 

『『『『『『『『『『俺だぁぁあああああっ!!!!!』』』』』』』』』』

 

 

《死神・ハーデス君が気になっておりますので》

 

 

『『『『『『『『『『死神を殺せぇっ!!!!!』』』』』』』』』』

 

 

怒りの矛先は真っ直ぐハーデスに向けられた。まあ、その直後だった。

激しい銃撃の音が聞こえ、あっという間に静かになった。

 

 

《そうですか。それでは》

 

《そして、実は私―――》

 

《なんでしょうか?》

 

《―――新体操部にも所属しておりますの》

 

 

はだけられた着物は完全に脱ぎ捨てられ―――その下からは、レオタードを身に纏う小暮先輩が現れた。

 

 

『土屋康太、音声レベル及びモニター画面全て赤!失格です!』

 

 

・・・・・ハーデスの言う通りになった。

 

 

 

『大変だ!土屋が危険だ!助けに行ってくる!』

 

『一人じゃ危険だ!俺も行く!』

 

『待て!俺だって土屋が心配だ!』

 

『俺も行くぜ!仲間を見捨てるわけにはいかないからな!』

 

あ、このバカ共・・・・・!そんな今の状態で言ったら・・・・・!

 

 

 

『『『『『今助けに行くぞ土屋ぁぁぁああああああああああああっ!!!!!』』』』』

 

『『『『『新体操ぉっ!新体操ぉっ!新体操ぉっ!』』』』』

 

 

 

「・・・・・突入と同時に全員失格したようじゃな・・・・・」

 

『・・・・・』

 

ハーデスがどこかへ行こうとする。

 

「ハーデス、どこに行くのじゃ?」

 

木下の問いに、マントからガドリングガンを取りだした。ああ、制裁ね。

 

「よし、頼んだぞハーデス」

 

Fクラス代表が了承し、ハーデスはきっちりとバカ共を制裁。

 

「向こうは色香で攻めてくるなら、こっちは―――木下姉妹で対抗する!」

 

「待て雄二よ!今お主、木下姉『妹』と言わんかったか!?」

 

「頼んだぞ秀吉」

 

「頼んだよ秀吉」

 

「ワシを男として接してくれるのは、もはやハーデスしかおらんのかのぅ・・・・・」

 

木下は大きく溜息を吐いて、木下の姉のところにトボトボと歩いて行った。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

《肝試し・・・・。困ったわね。アタシ、あまりこういうの得意じゃないのに》

 

《姉上。踏んでおる。セットの唐傘お化けお生んでおるぞ》

 

《あ。ごめんなさい。壊れてないわよね?》

 

 

あの二人は逸材だ。悲鳴を上げるなんて考えられないし、色仕掛けにも引っかからないし、

なにより見ていて華がある。できればもうちょっと中睦まじくしてもらえると言うことないんだけど。

 

「これで問題なく先に進めるね」

 

「だな。あの二人なら色仕掛けに掛かることはないだろうからな」

 

特に何かに引っ掛かることも無く例の先輩のところに辿り着く二人。

 

 

 

《あら?あなた方は―――そうですか。女の子同士の組み合わせで来ましたか。

それでしたら、私にはできることはありませんね。どうぞお通り下さい》

 

《だって、秀吉。お言葉に甘えて行きましょ》

 

《むぅ・・・・・すんなりと通れたのにこのわだかまりはなんなのじゃ・・・・・》

 

 

 

言葉の通り、着物の先輩は脇に避けて道を譲ってくれた。何の抵抗も無く。

 

「なんだかずいぶんとあっさりと通過させてくれたね」

 

「そうだな。いくらなんでも無抵抗過ぎる」

 

画面に視線を戻す。すると、着物の先輩がいた場所を通過してすぐのところに、

常夏コンビの片割れ―――モヒカン(常村)先輩が立っていた。

 

「なんだろう?秀吉対策かな?でも、別にさっきの坊主先輩みたいに変な格好も

してないし、特に悲鳴を上げる要素なんて見当たらないけど」

 

何度見ても特に仕掛けは見当たらない。普通に突っ立っているだけだ。ってことは

よほど凄い召喚獣なんだろうか。一目で見ただけで秀吉ですら悲鳴をあげてしまうほどの。

いや、でも召喚を始める様子もないし・・・・・。

 

 

《待て、木下秀吉》

 

《む?》

 

《木下秀吉、お前が来るのを待っていた》

 

《何だか知らないけど、早く済ませてもらいなさいよ秀吉》

 

《用件だけ言う》

 

《一体・・・・・なんじゃ》

 

 

画面の中、モヒカン先輩が真剣な顔で秀吉に一歩近づく。

そして、はっきりと、聞き間違えのない口調で、秀吉に告げた。

 

 

《木下秀吉。俺は―――――》

 

《・・・・・》

 

《お前のことが好きなんだ》

 

《――――――ッッッッッ!?》

 

《俺の気持ちを、受け止めてくれッ!俺のマイスイートハ二ーよ!》

 

 

モヒカン先輩は素早い動きで秀吉に抱きついた。その直後、僕は生まれて初めて、

秀吉の本気の悲鳴を耳にした。


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