バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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第四問

「死神、ここで貴様をひれ伏してやるのじゃ!船越先生、模擬試召戦争を行うから

承認許可をするのじゃ!」

 

「承認します」

 

数学の召喚専用のフィールドが展開された。

 

「試獣召喚サモンじゃ!」

 

『・・・・・試獣召喚(サモン)

 

               数学 

 

Sクラス 不死川心 421点 VS 1点 死神・ハーデス Fクラス

 

 

 

「にょほほ♪庶民らしい点数じゃの。もはやFクラスどころか最低の最低のクラスに

一人で授業すればよいではないかの?無論、一人ぼっちでじゃがな」

 

『・・・・・』

 

「此方の舞で一瞬で蹴散らしてくれるのじゃ!」

 

不死川の腕に嵌っている金の腕輪が光り輝く。不死川心の召喚獣の周囲に幾重の

扇子が出現した。

 

「どうじゃ、この数の武器を相手に避ける術もなかろうて」

 

攻撃を仕掛ける不死川心。幾重の扇子が不死川心の動きと合わせて動き、

鋭くハーデスへと襲う。対してハーデスは武器を腰に差して迫りくる扇子の二つを

紙一重で交わしながら手にし、別の扇子の上に乗ってサーフィンをしているような

光景を見せてくれる。

 

「なっ、此方の武器にその汚らしい足で乗っかるではないのじゃ!」

 

振り払おうとする不死川心。だが、巧みに乗っかるハーデスを振り払う事ができず、

奪われた扇子を投げ放たれた。

 

「その程度の攻撃など効かぬわ!」

 

宙に浮いていた扇子を前に展開して、自分の扇子を防いだ。

 

「ふっ、庶民の考えなど、所詮その程度―――」

 

一枚の扇子が地面すれすれに投げ放たれ、不死川の片足を両断した。

 

「・・・・・ほぇ?」

 

その束の間もない時間差でハーデスの武器が真っ直ぐ不死川の額と心臓に突き刺さった。

この瞬間、不死川心の召喚獣が粒子と化となって、フィールドから姿を消した。

 

「勝者、Fクラスの死神・ハーデス」

 

船越の宣言によってハーデスは勝者となり、

 

「0点になった戦死者は補習っ!」

 

「な、なんでじゃああああああああっ!?」

 

西村宗一の剛腕に抱えられて補習室地獄へと連行されたのだった。

 

 

―――Sクラス―――

 

 

「おのれぃ!あの死神めぇ・・・・・!」

 

「しばらく教室に戻ってこないと思ったら、あの死神と模擬試召戦争をした上に

負かされて補習送りされていたのですか」

 

「たーしか、1点で戦う神経が可笑しい奴だったよな?」

 

「心、1点のFクラスの人に負けちゃってダメだねー」

 

「召喚獣の操作が達人なのです。召喚獣を動かすことが長けた者にいくら

点数があろうが、回避するぐらい訳が無い」

 

「我らもその操作には悩まされている。故にそれを解消すべく学園長に

交渉しているのだが、首を縦に振ってはくれぬ」

 

「いくら全校生徒の中で優秀な生徒たちの集まりのクラスだからって、

そこまで特別扱いはしないんじゃない?」

 

「義経もそう思うぞ」

 

「死神は蒼天の出身者である為、操作も長けているのは当然として、

Fクラスにとっては最後の切り札であるのはまず間違いないわね」

 

「・・・・・そして、旅人を殺した死神」

 

「あー、伊達がまた・・・・・」

 

「気持ちは分かりますが、殺そうとしないで下さいよ。

日本と蒼天の戦争が勃発しそうです」

 

「・・・・・お前達はこのまま野放しにしていい気分でいられるのか?」

 

「そんなわけがないだろう。だけどよ、あいつの口から言ってもそれが

全てってわけじゃないんだ」

 

「落ち着いて冷静に考えると、突然あんなことを言い出す理由も不明です。

憎まれることを分かっているなら隠し通せばいいのになぜ殺したなどというのか」

 

「不思議だねー。僕も怒ったけど、トーマの話を聞いておかしいと思うよー?」

 

「じゃあ、やっこさんに訊くか。俺達三人だけで」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「ハーデス。携帯のメールを見てくれた?ハーデスの家に、泊らせてくれない?

今夜はちょっと・・・・・帰りたくないんだ」

 

『・・・・・お前の家に何が遭った?』

 

休憩時間になるや否や、バカの明久がハーデスに頼む。

ああ、因みに俺は坂本雄二だ。よろしく、

 

『・・・・・理由は?』

 

「・・・・・ごめん、ここでは言えない」

 

『・・・・メールで言え』

 

理由次第で泊めてやるとのことだろう。明久の奴は本当に携帯を操作して

ハーデスにメールを送った。送られたメールを見てハーデスはスケッチブックでこう告げた。

 

『・・・・・お前の家に行こう』

 

「お願い!それだけは勘弁して!」

 

―――――お前の家で何が遭ったんだ?怪訝な面持でいると教室の扉が開いた。

また翔子か翔花、Aクラスの誰かと思えば、

 

「死神!今度は総合科目で勝負じゃ!」

 

Sクラスの女子が開口一番にハーデスを申し込んだ。

 

「今度は此方が勝つのじゃ!不死川家の名に懸けて貴様を―――」

 

「心、邪魔だよー」

 

「失礼。お邪魔しますよ」

 

「よー、大和達」

 

・・・・・ぞろぞろとSクラスの奴らが現れた。

 

「冬馬達か。どうしたんだ?」

 

「いえ、死神を少し話をしたくて参りました。所謂情報収集ということですよ」

 

「・・・・・訊いても教えてくれないと思うぞ?」

 

直江が急に態度が変わった。ここんとこハーデスと目を合わせようともしない。

旅人っていう人を殺したとあのSクラスとの最後の決戦場、

屋上で告げて以来ずっとこんな調子だ。

 

「なら、友達になりましょう。ハーデス君」

 

確か、葵とか言う奴だったな。エレガントクアットロとか、イケメン四人衆の一人。

 

『・・・・・間に合っているからいい』

 

「おや、釣れないですね」

 

「ねーねー、マシュマロ食べるー?」

 

『・・・・・それは貰う』

 

「じゃあー、僕と友達になろー?」

 

『・・・・・やっぱいい』

 

警戒しとるし。自分の情報の流通を漏らさない為か。

どうしてそこまでするのか気になるところだが、

直江の言う通り聞いても教えてはくれないだろう。

 

「ハーデス。好きな女の子のタイプは?」

 

『・・・・・木下秀吉』

 

「待つのじゃ!お主の答えは間違っておるぞ!ワシは男じゃとお主だって

認めていたのではなかったのか!?」

 

『・・・・・冗談。一緒に風呂入った中だろう?』

 

そう書かれたスケッチブックを見て秀吉は渋々と納得して、

何故かハーデスの隣に座った。

 

「じゃあよ。小さい女の子はどうだ?」

 

『・・・・・異性としては捉えないが、遠くから温かい目で愛でることは

一つの楽しみだ』

 

「―――――ここにも同志がいたか」

 

スキンヘッドの奴が慈しみが籠った目でハーデスを見つめる。

こいつ、もしやロリコンか?

 

「そう言えば、俺達のことは知らないよな。俺は井上準、こっちの褐色肌のイケメンは

葵冬馬。んで、さっきマシュマロをあげようとしたのが榊原小雪だ」

 

「以御お見知りおきを。勿論、Fクラスの代表である坂本雄二君もね?」

 

「よろしくねー」

 

『・・・・・よろしく』

 

俺にも挨拶をされた。ハーデスも返事をする。人としての当然のことはするんだな。

当たり前だが。

 

「これユキ!此方の邪魔をするではないわ!」

 

「えー?心の番はもう終わり―。今度は僕達の番だからだめー」

 

「ぐぬぬぬっ!」

 

―――ガチャ。

 

ガチャ・・・・・?機械的な音がしたと思えば、ハーデスのマントから・・・・・

何故か殺傷力が高いガトリングガンを出して不死川に突き出した。

 

「・・・・・お主、それをどこから取り出したのじゃ?」

 

『・・・・・』

 

ハーデスは返事をしない。代わりに返事をしたのは、

またマントから繋がった銃弾をガドリングガンに装填したことだった。

それを見た不死川は脱兎の如く逃げだした。それを見届けたハーデスは、

何事もなかったようにマントの中へと仕舞ってごろりと寝転がると。

 

「いやいやいや!ちょっと待て!いまの銃器をどこに仕舞ったんですかァッー!?」

 

突っ込まれた。

 

「おー、手品?」

 

「本物、でしたよね?」

 

反応は様々だが、物凄く同意だ。

 

「ん?一緒に風呂を入ったってのはどういう事だ?」

 

「ああ、多分あれだろ。お前達が参加しなかった強化合宿の時だ」

 

「なるほど」

 

「・・・・・つーことは、死神の顔を見たのは木下ってことになるよな?」

 

「おー、そうだねー」

 

「流石に大浴場で仮面をつけたままでは洗うこともできませんし・・・・・木下君、

彼の顔は一体―――」

 

ガチャ。

 

「・・・・・いえ、何でもございません」

 

そりゃそうなるわ。目の前で再び出したガトリングガンを零距離で突き出されたら

言葉を変えるしかないって。

 

「すまんのう。本人も言わないでほしいと言われておるのじゃ。

男友達として、友人の秘密を教えることは出来ぬ」

 

「あーそうか。若、今日は一先ずここいらで帰ろうぜ」                                                 

「そうですね。そろそろ休憩時間も終わりますし、また会いに来ますよ」

 

「まーたーねー」

 

Sクラスの三人組はとっとといなくなった。

 

『・・・・・ありがとうな、秀吉』

 

「なに、気にする事ではないのじゃが・・・・・どうしてワシの頭を撫でる?」

 

『・・・・・いいこいいこ』

 

「解せぬ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

『・・・・・あっ、聞くの忘れたな』

 

『そうでしたね。警戒心を解くために最初は友達からと思って話しかけていたんですが』

 

『見事に流されちゃったねー僕ら』

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「さて、明久」

 

「な、なに?大和」

 

「今日のお前は、お前らしくない点が多々見受けれる。

真面目に授業を受けたり―――その手作り弁当を作っている点がな」

 

「た、たまには真面目になったり自分で作ったりするさ」

 

「そうか?勉強の方はともかく、食生活に関してはゲームに注ぎ込んで金欠のお

前が急に弁当を作るなんて信じられないんだが。

大方、今まで買ってきたゲームを売ったんじゃないのか?」

 

昼食と成り、ワシらは周囲の卓袱台をどかして円になって座って自分の弁当を広げて

食べていたのじゃが、直江が明久に疑問をぶつけるのも無理はないのじゃ。

今日の明久は怪しいのじゃからな

 

「どうした?なにか悩みごとでもあるのなら・・・・・いや、正しい生活に戻すという

なら別に悩みごとでもないか」

 

「寧ろ、ようやく栄養のある食生活をするようになったと思えばアタシは安心したわ」

 

「だけどよ。どーしてまたハーデスの家に行きたがったんだ?」

 

「『今夜は帰りたくない』・・・・・と言うしね」 

 

明久は周りから疑問をぶつけられドギマギしながらも答えた。

 

「ハ、ハーデスに勉強を教えてもらおうと思って」

 

「それならお前ん家かここ教室でも教えてもらうことができるぞ?」

 

「うぐっ・・・・・」

 

島津の指摘に口を紡ぐ。怪しいのじゃ・・・・・。

 

「それにしても明久は料理ができるのね。意外だったわ」

 

「ま、まあこのぐらいは―――――」

 

「嘘ね」

 

「嘘ですね」

 

島田と姫路が何時の間にか明久の背後に立っておって明久の弁当を凝視しながら

遮ぎおった。

 

「だって、吉井に料理なんてできるわけがないもの。正直に言いなさい。

誰かに作ってもらったんでしょう?」

 

「随分と上手なお弁当ですよね・・・・・。吉井君の周りでこんなに上手にお弁当を

作れる人というと」

 

「きっと―――って、ハーデス!ウチの襟を掴んで引き摺らないでよ!」

 

『・・・・・清水のところに連れて行ってやる』

 

「待ちなさい!どうして美春のところに連れて行くのよ!?」

 

『・・・・・夫婦なんだから当然一緒にいるのは当然だろう?』

 

「美春と結婚した覚えがないしできるわけがないじゃないの!」

 

『・・・・・蒼天で式を挙げれば、正式に夫婦になれる』

 

「いっやあああああああああああああっ!」

 

教室から居なくなった島田。その様子を見ておるとハーデスが戻った。

それから自然体で姫路の背後に回ると首筋に手刀で叩きこみ、

姫路はその場で崩れ落ちて気絶しおった。

そんなことしたハーデスは教室からいなくなった。

 

「よ、容赦ねぇ・・・・・」

 

「お前、女が嫌いなのか?」

 

『・・・・・』

 

何も言わず、元いた位置に腰を下ろして料理を食べ始める。

 

「んで、明久。本当のところどうなんだ?」

 

「だから、僕はまじめに勉強を―――」

 

「明久、お前が自分からまじめに勉強するなんて天変地異の前触れだ」

 

「僕はそんな現象を起こす程、おかしいって言うの!?」

 

何時もバカをやっておった明久に周りからすればおかしいと思うのは当然じゃろうて、

 

「・・・・・まあ、お前がそこまで頑になって言いたくないならこれ以上追及はしない」

 

「大和・・・・・あり―――」

 

安堵で胸を撫で下ろし、直江に感謝の言葉を言おうとした明久。

 

「俺達がお前ん家に行けばいい話しだからな」

 

「のぉおおおおおおおおおおおっ!?」

 

じゃが、現実はそう事がうまく進むわけがなかったのじゃった。

 

「久々だな。明久の家って」

 

「うん!広々として風間ファミリー第二の基地にしたいほどね!」

 

「2000冊のエロ本もありそうだしね」

 

「京!僕の家にそんな数のエロ本はないよ!?」

 

「じゃあ、あるんだ?エロ本」

 

「しまったっ!?」

 

語るに落ちるというのはこのことじゃろう。

 

「なんだ、明久の家に行くっていうなら俺も行くぜ。今日の明久は妙におかしいしな」

 

「・・・・・俺も行く」

 

雄二とムッツリーニも同行すると発する。無論ワシも行くと言いながら心の中でハーデスにも誘おうかと考えた。

 

 

 

 

「くしゅん!・・・・・風邪?」

 

アタシは木下優子。真っ直ぐ家に帰らず、友達の愛子と七浜に一人で来ていた。

その理由はあの町だと知り合いが多いためだ。学校帰りにここまで来ないだろうと

踏んで、知り合いがいない七浜の本屋に寄って、探している本の発売日を見て―――。

 

「一ヶ月後かぁ~」

 

新発売の本はまだ先。携帯で調べることもできるが、

今日はなんとなく自分の目で調べたかった気分だ。

 

「優子、見つかった?」

 

「ううん。一ヶ月後に発売されるわ」

 

「ふうん、そうなんだ。こんな隣町まで来て優子が探している本は一体何なのかな~?」

 

ニヤニヤとアタシの反応を楽しむかのような笑みを浮かべる愛子。

アタシがあっち系だというのは一部しか知らない。

だからこそ、アタシはぶっきらぼうに返す。

 

「別に、関係ないでしょう」

 

「まーね。それじゃ、川神市に戻ろっか」

 

長居は無用。アタシにここまで付いてきた友達に同意と首を縦に振って帰宅する。

電車に乗り、川神駅で降りて、途中まで愛子と一緒に帰るはずだった。

 

「おやー、その制服は神月学園の生徒さんかな?」

 

「可愛いNE!」

 

「暇なら俺達と一緒にカラオケでもしない?」

 

ナンパと出くわしてしまった。ここは当然軽くあしらうべきだ。

 

「ごめんなさい。アタシ達は帰らないといけないので」

 

「ごめんねー?」

 

普通ならここでナンパは退くべきだ。誘いを乗らない女は固いとか、

軽い男に付き合うほど安い女ではないからだ。

 

「そんな釣れないことを言わないで、たったの30分ぐらいで良いじゃん」

 

「そうそう。俺達と一緒に遊ぼうZE!暇同士、時には運命の出会いも訪れるYO!」

 

「親もちょっとぐらい遅れたって文句ぐらいでしょ?」

 

ナンパ達は粘ってアタシ達を引き留める。

 

「えっとー、そういうのは他の人にも声を掛けた方がいいんじゃないかなーなんて」

 

「今の俺達はキミ達しかMEがないんDA!」

 

「そう言う事だ。ほら、時間は有限だから一緒にカラオケ行こうぜ」

 

強引にアタシ達に腕を伸ばすナンパ達。

 

「いい加減にして!」

 

その手を鋭く払いのけたアタシは叫んだ。

 

「アタシ達はあなた達と付き合っている暇はないの!」

 

「威勢の良い女だな。気に入った。俺、こいつできーめた」

 

化けの皮が一気に剥がれた。ナンパの一人がアタシの腕を掴んだ。

ジットリと汗ばんだ手が腕に伝わって生理的にも嫌悪がする。

 

「は、放して!」

 

「そうはいかないんだよなーこれが。神月学園の女子は美人揃いだからよ。

お前らを売ったらどれほど儲かるか分かったもんじゃないぜ」

 

―――――人身売買!?こんな堂々とナンパしてくる理由はアタシ達を売ろうとしていたの!?

 

「この、放してよ!」

 

愛子も必死に抵抗するが、二人に捕まれては女の力で振り払うこともままならない。

 

「んじゃ、親不孝通りにごあんなーい!」

 

「早く金を手に入れて綺麗なお姉ちゃんとハァハァしたいぜ」

 

「HAHAHA!」

 

駅には人がいるのに、誰も見て見ぬふり・・・・・。

アタシ達に関わりたくないって態度が丸分かりだった。

明らかにアタシ達の事を気付いているのに視線を下に向けたり、

明後日の方へ顔を向けたりとこの場から逃げるように過ぎていく。

 

「誰か、誰か助けて!」

 

大声を張り叫んでも誰一人、応えてくれない。こんな時、こんな時あいつがいれば―――。

 

「おら、さっさとこい!」

 

「売る前に俺達がたっぷりと味わってやるからな!」

 

ナンパ達が強引に腕を引っ張る。必死に抵抗する最中、アタシはある想いを抱く。

お願い、助けて・・・・・!

 

「ハァァァァァァデェェェェェスゥゥゥゥゥッ!」

 

「あ?何言ってんの?」

 

怪訝な面持でアタシを見るナンパ。

 

―――刹那。

 

「おい」

 

アタシ達に声を掛ける人物が現れた。反射的にその声の主に振り返ると。

 

「なんだ、テメ―――」

 

赤い光がアタシの横を通り過ぎ、一拍して鈍い音が聞こえた。

 

「・・・・・え?」

 

何が起きたのかさっぱり理解できないでいたアタシは、

赤い光が過ぎた方へ視線を向ける。そこにアタシの目が―――、

 

「・・・・・っ!?」

 

ナンパの顔を鷲掴みにして、その細い腕からどこから力が出ているのか分からないほど

持ち上げていた。そんな事をしている人は、腰まで伸びた赤い・・・・・赤よりも

鮮やかな真紅の髪の男だった。その男をアタシは知っている。

 

「嫌がる女を無理矢理連行するのはどうかと思うぜ?―――少し、頭を冷やそうか」

 

男の手がバチッ!と電気が迸るその瞬間だった。ナンパの全身に激しい電流が流れ、

あっという間に黒コゲになったナンパを無造作に捨てると、

 

「お、お前!よくもヤスイをやってくれたな!」

 

愛子を捕まえていたナンパがポケットから鋭利な折り畳み式のナイフを

手にして突っ込んできた。

 

「仲間を思う気持ちは称賛しよう。だが」

 

男は振られるナイフを踊るようにかわして、ナンパの頭を掴んだ。

 

「お前らの行いはクズだ」

 

ドッ!

 

「―――――っ!?」

 

頭を掴まれたナンパが駅のホームの床にまで抑えつけられて、

床に埋まってしまったナンパは白目を剥いて口から泡を噴きだした。

 

「ひ、ひいいいいいっ!」

 

最後の一人のナンパが愛子を解放して、仲間を見捨てて逃げだした。

 

「おいおい、どこに行く?」

 

腕を逃げ出すナンパに向けた時、ナンパが床から足が浮いて

あっという間に男の方へと舞い戻った。

 

「罰は公平に、だ」

 

ドゴンッ!

 

鋭い正拳突きがナンパの腹に当たった。

 

「ぎゅ、ぎゅえ・・・・・」

 

一発でナンパは倒れた。しばらくして静寂がこの場を包みこむ。

 

「こら!そこのお前達、何をしている!」

 

今頃になって駅員が数人ほど駆けつけた。あまりにも遅い対応だ。

 

「おっと、捕まったら面倒だ。逃げるぞ」

 

何故か楽しそうに言い、男性はアタシと愛子に抱きついた。

 

「・・・・・!?」

 

いきなりの言動にアタシは目を見張ったけど、男は肩でアタシ達を担ぐようにして

駅から逃げるように離れだした。そう、親不孝通りに駆けて。

 

「二人とも、大丈夫だったか?」

 

真紅の髪を靡かせる男から問われた。

 

「あ、うん・・・・・ありがとうハーデス」

 

アタシが助けを請うた男の名前。いつもの死神の恰好じゃなくて

赤い服に青いズボンを履いている姿だ。

 

「まったく、駅員の対応が遅くて呆れる」

 

「で、でもどうしてあそこにいたの・・・・・?」

 

「出版社に原稿を提出し終えて戻って来たところだったんだよ」

 

そ、そうなんだ・・・・・。ということは新発売される本の数ヵ月後には発売されるのね。

 

「さて、なんとなく俺の家に来たけどはいるか?」

 

立ち入り禁止区域にあるハーデスの家。アタシと愛子はいつの間にか

そこへ連れて来られていた。

 

「ええ、お邪魔させてもらうわ。愛子、いいでしょ?」

 

「うん、ボクも構わないよ」

 

「それじゃ、いらっしゃい」

 

「「お邪魔します」」

 

アタシの助けに応じてくれた謎の多い男の子。分かっていることもあるけれど、

まだこいつのことを知らない。

でも、もっとこいつのことを知りたいと思う自分がいる。

 

「ね、ねぇ・・・・・優子」

 

「なに?」

 

「・・・・・死神君、やっぱりボク達の騎士だって思っちゃうや」


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