バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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大変な学校生活
第一問


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『・・・・・』

 

ハーデスは屋上の出入り口を作る際、必然的に造られた設備の上で足を伸ばして

仰向けになっていた。空は晴天で青空が広がって白い雲は風力でゆったりとした

速度でどこかへ進んでいく。そんな光景を仮面越しで眺めている。

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが鳴り始めた。そのチャイムに呼応して上半身を起こすハーデスはゴソゴソと

マントから五重箱を取り出して蓋を開ける。そしてポツリと呟いた。

 

『・・・・・まだ言うのが早かったか。

まあ、いずれはあんなことを言うつもりだったから遅かれ早かれ変わらないか』

 

口の部分のマスクを外し口元を曝け出せば、作って来た料理を一人で黙々と食べ始める。

 

「およ、こんなところで一人寂しく食べている死神を見つけちゃったよん」

 

聞き慣れない声が聞こえてくる。声がした方へ赤い目を向けると影が現れ

ハーデスの前に降り立った。女子制服を身に包み腰に装備品を巻き付けるように

携えている背中まで届いている黒髪の女子生徒。

 

「こんにちは死神君♪」

 

『・・・・・』

 

「あれ、無反応?」

 

自分が予想していた反応とは違ったようで女子生徒は不思議そうに小首を傾げた。

 

『・・・・・なんでここにいる?』

 

「あ、喋れるじゃん。それと私がここにいる理由はサボリスポットを探しているから。というか、もうここは探索済みだったけどねん」

 

『・・・・・そう言う意味じゃない』

 

「うん?」

 

『久信はどうしているんだ?』

 

ハーデスから告げられた名前に女子生徒は目を丸くした。自分しか知らない人物の名を目の前の死神が知っているという反応である。

 

「なんで、おとんの名前を知っているの・・・・・?」

 

『・・・・・生の声で喋っているんだが。いや、この姿で話しても気付かないか』

 

「へ・・・・・?」

 

徐に仮面に触れて頭を覆うフードと一緒に外すと、真紅の髪と金色の双眸が女子生徒の視界に飛び込んできた。ハーデスの素顔を見て目を大きく向いた女子生徒。

 

「久し振りだな燕」

 

「た・・・・・旅人・・・・・さん?」

 

「ああ。株に手を出して多額の借金をし、技術屋としての能力を蒼天に貢献するなら

借金を肩代わりに返済しても良いぞとお前の父親、松永久信に言った旅人さんだ」

 

「アハハハ・・・・・ほ、本当に旅人さん何だね・・・・・お久しぶりです」

 

皮肉気に言うハーデスに頬が引き攣る燕という松永燕という女子生徒。

 

「どうしてここにいるんですか?」

 

「俺、この学校の生徒として通っているんだ」

 

「へ?そうなんですか?」

 

意外そうに目を丸くする燕。自分が知っている限り、

年齢はもう二十歳を過ぎているはずだ。大人なのにもう一度学校に通う必要なんて

あるはずがない。そう思っているとハーデスが口を開いた。

 

「この目で試験召喚システムの調子を見る為にな」

 

「蒼天の王様が直々に視察してくるなんてね。

旅人さんのこと、他にも知っている人はいますか?」

 

「いや、ある意味だが一部の人間は知っている。俺が蒼天の王だということをな」

 

「そうなんですか。一緒に座っても?」

 

ハーデスはコクリと肯定し仮面とフードを被り直した。

 

「どうしてそんな恰好をするんですか?」

 

「俺の正体を明かさない為だ。

この学校には旅人という人間と交流を持っている生徒がいるからな」

 

「へぇ、私みたいな子がこの学校にいるんですね」

 

「川神百代もその一人だ」

 

「あれま、身近な所にいたよん」

 

松永燕も布に包まれた弁当を取り出して開ける。

その時、ハーデスが爆弾発言をした。

 

「この前、旅人を殺したって言ったけどな」

 

「はいっ!?」

 

自分で自分の存在を抹消するなんて何を考えているの!?

松永燕は目を大きく向いて驚愕した。

 

「そのおかげで旅人と交流を持った奴らに嫌悪感を抱かれてな。

親の仇のような目を向けられるようになった」

 

「や、どうしてそんな事を言うんですか?旅人さんを自分で殺したなんて言う

理由が分からないんですケド」

 

「未練を残さない為だ」

 

「未練を・・・・・ですか?」

 

「俺のことを死んだと思わせて会いたいという気持ちを殺し、

俺という存在を消したかった。個人的な理由もあったからな」

 

その理由を聞いても教えてはくれなさそうだねん。

松永燕は静かに訊きながらハーデスに目を向ける。

 

「でも、どうして私に正体を明かしたんですか?」

 

「久信と交流するし、何時かお前と出会う時がある。

だが久信は蒼天にいるはずなんだが?ミサゴさんと一緒に」

 

「あー、うん。それは私のわがままでこの街に引っ越してきたんだよん。

私も神月学園に通ってみたいって言ったらオトンが蒼天の王様に頼んでくれたおかげで、

晴れた私は神月学園に編入することができました♪今現在、一人暮らしだよん」

 

「・・・・・あいつら、そんなこと一言も聞いていないぞ」

 

仮面で表情は隠れてみてないが、少し不満げな声音が含まれていることに

松永燕は理解した。

 

「燕、俺のことを誰にも喋るなよ」

 

「いいんですか・・・・・?旅人さんのことを知っている子に教えなくても?」

 

「ああ、個人的に俺の存在を消したい。俺のことを知っていいのは一部の人間だけで

十分だ。俺は旅人じゃなくて蒼天の中央区の王だからな」

 

「・・・・・そして、私の未来の夫」

 

ひょっこりと顔を出して自分の夫と名乗る黒髪の少女、霧島翔子が現れた。

 

「・・・・・気配が、全然感じなかったよん」

 

「あいつは神出鬼没だからな・・・・・」

 

「・・・・・死神、ここにいた」

 

霧島翔子がハーデスと松永燕がいる屋上に上がると、

 

「流石は代表。死神君を見つけるのはお手の物だね」

 

「まったく、分かりにくい所にいないでよね」

 

「そうじゃのぉー」

 

「お前、ミカン箱に鞄を放り投げるや否や昼休みまでサボるな」

 

「そうですよ」

 

ぞろぞろと工藤愛子に木下優子、木下秀吉や極道遼子に続いて

フィリーリング・エースデースが昇って来てハーデスと松永燕の周囲に腰を下ろした。

 

「わっ、何時の間にか女の子がいっぱいになっちゃった」

 

「ワシは男じゃ」

 

「え、嘘?」

 

「えーと、あなたは?」

 

木下優子の質問に松永燕は自分の胸に手を当てながら名乗った。

 

「私は3年F組の松永燕だよん。多分、死神君の正体を知っているんだよね?」

 

「・・・・・死神の正体を知っている人?」

 

「うん。旅人さん・・・・・や、蒼天の中央区の王様だって正体を知っているよ」

 

その言葉にハーデスを知る面々は驚嘆する。

 

「ほう、先輩がハーデスの正体を知っているとはの」

 

「ハハハ、実はさっき正体を明かしてもらったから気付いたんだけどね。

うちのおとんがお世話になっているし」

 

「お世話になっているって?」

 

「うちのおとんは技術屋だからさ、試験召喚システムにも関わっているんだよね。

死神君はおとんの技術屋としての腕を見込んでスカウトして、

一家諸共蒼天に引っ越したんだよん」

 

松永燕とハーデス以外の面々、木下秀吉達はなるほどと納得した。

蒼天に引っ越したならハーデスと接触する機会がある。

それにスカウトした時は素顔でいたからその時、松永燕も同伴していて

素顔を見ていたに違いない。だからこそ正体を知っていると言っても不思議じゃない。

 

「じゃあ死神を知っている者同士、自己紹介しましょう。アタシは2年A組の木下優子」

 

「・・・・・2年Aクラス代表の霧島翔子」

 

「同じく工藤愛子だよ♪」

 

「ワシは2年Fクラスの木下秀吉じゃ。見ての通り男じゃぞ」

 

「同じく極道遼子」

 

「2年F組のフィリーリング・エースデース。フィリーでもエスデスと呼んでも構わない」

 

自己紹介を終えると弁当を広げて食べ始める面々。

 

「ねえ、死神君。どうしてあんなことを言ったの?」

 

「そうね。とてもあんなことを言うタイミングじゃないわ。あれ、嘘でしょう?」

 

工藤愛子と木下優子に問われたハーデスは息を一つ。

 

「まあ、確かに言うタイミングじゃないことは自覚しているし少し後悔している。

後の祭りだがな」

 

「なら、なんで・・・・・」

 

「個人的な理由だ」

 

それ以上は聞くなと雰囲気を察知し何も言えなくなった。

 

「ねえ、キミ達って死神君のなんなの?」

 

「・・・・・私の未来の夫」

 

「燕、翔子が言っていることは聞き流して良いぞ」

 

「アハハ、死神君。頑固だねぇ・・・・・。まあ、関係は友達だね」

 

「アタシも・・・・・友達よ」

 

「ワシも友達じゃ」

 

「いずれ夫になってもらう」

 

「私の男になってもらう予定の男だ」

 

と、皆が答えたら松永燕は顎に手をやって一同を見回し他の地に木下秀吉に

視線を向けながら頷いた。

 

「ふぅーん、恋する乙女が三人と友達以上恋人未満の娘が一人、そんなところかな?」

 

「「「だ、誰が友達以上恋人未満なの(さ)(じゃ)!?」」」

 

顔を真っ赤に染める木下優子と工藤愛子、木下秀吉の三人であった。

指をスッと木下秀吉に突き付けながらハーデスは不思議そうに問うた。

 

「どうして秀吉まで反応する?他の二人とはともかく」

 

「ふふっ、木下君の顔を見て言ったから自分もそうだと勘違いしちゃったんだろうねぇ?

でも、まんざらでもなさそうだねん」

 

「ワ、ワシは男じゃぞ!?男同士付き合ったら―――!」

 

「私、男同士付き合っている人を知っているよ?」

 

朗らかに告げる同性愛。信じられない気持を顔に表す木下優子が問うた。

美少年同士の絡みが好物の木下優子の心は疑惑と期待が混ざる。

 

「ほ、本当にいるの・・・・・?蒼天に」

 

「うん。しかも物凄くイケメン。外国から移住してきた人でさ、凄く個性的だったね」

 

「そ、そうなんだ・・・・・」

 

「やー、蒼天は本当に恋愛に関しては自由すぎるよ。だから面白い人がいっぱいるんだよね。

蒼天じゃなきゃ同性愛なんてできないって。しかも結婚もね」

 

箸を片手に微笑む松永燕に極道遼子はハーデスと交互に見てから尋ねた。

 

「先輩は彼のことどう思っているんだ?」

 

「うーん、おとんの借金を肩代わりしてくれた恩人、私を鍛えてくれた師匠。

今のところそんな感じに思っているよ」

 

「今のところ・・・・・?」

 

「うん、もしかしたら・・・・・ライバルになるかも?その時はよろしくねん」

 

意味深な発言をする松永燕だった。

 

「・・・・・死神に恋する娘が多すぎて困る」

 

悩ましげに眉根を寄せた霧島翔子が呟いたのをしっかりとハーデスの耳に届いた。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

午後の授業が終わりの鐘で告げられ、全校生徒は帰宅する。

勿論ハーデスも例外じゃない。親不孝通りの他リィ斬り禁止区域に家を構えている

ハーデスと極道遼子、エスデスはバイクに乗って帰ろうと教師専用の駐車場に赴いた。

だが、そこに三人を待ち構えている面々がいた。

 

「死神・・・・・っ」

 

ギラギラと殺意と敵意が籠る目を向けてくる伊達正宗。

他に織田信長や源義経、武蔵坊弁慶にヒュームがいた。

 

「なんだ、この者達は?」

 

「尋常じゃない怒りと敵意・・・・・殺意も感じるな」

 

『・・・・・』

 

どうしてこの場にSクラスがいるのかハーデスは理解し、溜息を吐く。

関わりたくないとばかり踵を返せば、音も無くヒュームが先回りしハーデスの前に

立ち塞がる。

 

「あの者達と戦ってから帰ってもらおうか」

 

ヒュームの話を聞き、徐に指を弾いたハーデス。

その瞬間、雷が発生して那須与一を除く英雄のクローンが直撃して地にひれ伏した。

 

『・・・・・倒したぞ』

 

「雷を操る体質だとは調べている。だが、俺には効かんぞ」

 

話が違うと心の中で愚痴る。ヒュームから感じる戦意に極道遼子とエスデスの手を

握って引き寄せると抱きしめた。

 

「なっ・・・・・」

 

「あ、あなた・・・・・人前でこんな・・・・・」

 

顔を赤らめる初な反応をする二人を余所にハーデスは爆発的な脚力で跳躍した。

―――所謂敵前逃亡。

 

「逃がさんぞ、赤子め」

 

「もう追い付いてきただと・・・・・!?」

 

「しかも、宙を蹴って・・・・・!」

 

2メートルぐらいの距離ヒュームが何度も爆発的な脚力で宙を蹴り続けハーデスを

追い掛けてくる。

 

「ぬぅん!」

 

一気に蹴って迫ったヒュームが拳を出してくる。ハーデスは足の裏で受け止め、

その反動で宙返りしヒュームの顎下を狙って蹴り上げたが、紙一重で首だけ横に動かし

かわしたヒューム。今度は横薙ぎに払う足蹴りをするも片手で受け止められた上に

摑まれた。

 

「これで逃げることもできまい」

 

『・・・・・』

 

落下していく最中、ハーデスはエスデスに目を向けた。

口で何か言ったわけでもない。だが、エスデスは気付いた。―――攻撃しろと。

 

「その仮面を剥がして貴様の顔を見てやる」

 

「そうはさせんぞ」

 

指を弾いたエスデス。ハーデスとヒュームを囲むように前後左右、

四方八方に氷の槍が数多に出現した。

その氷の槍らは真っ直ぐヒュームに襲いかかる。360度からの攻撃に止むを得なく

ヒュームはハーデスの足を離して全身で防いでいく最中、

ハーデスはこれを機に逃走する。全て防ぎった時には三人の姿が視界から消えていた。

 

「おのれ・・・・・逃げ足の速い奴め・・・・・っ!」

 

気で探知しようにもハーデスは気を殺していて分からない。

さらにどういうことか二人の少女の気さえも感じない。まるで霧に包まれた感じで

高いところから肉眼で探しても見つからない。

 

「鉄心に頼む・・・・・?いや、それでは奴にからかいの材料を与えるだけで

俺のプライドが許さない」

 

昔のライバルにも手伝ってもらおうと思ったがプライドがそれを許さず、

結局ヒュームは学校の敷地で気絶している源義経達のところへ戻ることに決断した。

 

 

 

 

 

「・・・・・撒けたようだな」

 

「まったく、いい迷惑だ」

 

『悪いな。巻き込んで』

 

「いや、気にするな。寧ろ良い思いをしている」

 

「それに関しては右に同じ」

 

『・・・・・?』

 

「ふふっ、分からないならそれでもいいさ」

 

「だけど、私達を巻き込んだ責任として手料理を作ってくれると嬉しいな」

 

『・・・・・了解』


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