バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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フハハハ!第三問である!

『・・・・・プール?』

 

「ああ、明久と坂本からの誘いみたいだが、お前はどうする?」

 

『・・・・・いい、地下のプールがあるから行かない』

 

と、そう書いたスケッチブックを見せられて断わられた俺だった。

 

「霧島達も参加なんだけどそれでもか?」

 

『・・・・・誰が来ようと俺は行かない』

 

むぅ・・・・・中々釣れないな。

 

「霧島が頼んでもか」

 

『・・・・・そうだ』

 

「・・・・・」

 

ピッポッパッ・・・・・プルルルルッ・・・・・。

 

「霧島か?悪い、ハーデスが行かないって。・・・・・ん?ハーデスに?分かった」

 

『・・・・・?』

 

ハーデスが疑問で子首をかしげるように俺も疑問を浮かべたところ―――。

 

『・・・・・死神。こないと正体をバラす』

 

『喜んで行こう』

 

すげぇ!鶴の一声で決まったぞ!?霧島が苦手と言うよりは、

秘密を握られているから従う他ないって感じだ。ハーデスも行くと伝えた後、

コッソリと聞いた。

 

「・・・・・霧島、ハーデスの正体ってのはなんだ?」

 

『・・・・・二人だけの秘密だから教えれない』

 

「あー、そうかい分かった。鎌の手入れをし始めたハーデスから逃げるからいいや」

 

その後、俺は命懸けでハーデスから逃走したのだった。

怖い、マジで怖い!姉さんさえも恐がるぞあれは!

 

 

 

休日、ハーデスは川神市の隣町である七浜に立ち寄っていた。

その町にあるデパートで買い物をする為だ。髑髏の仮面は被っておらず、

素の姿でのんびりと買い物籠を入れた台車を押して歩いていた。

 

「・・・・・死神、一緒に買い物できて嬉しい」

 

―――隣に霧島翔子を付き沿いながらだ。

 

「・・・・・お前はエスパーなのか?

いや、それよりもどうしてお前がここにいるのか不思議だ」

 

「・・・・・新しい水着を買いに来たの」

 

「・・・・・気を探知していなかったから気付かなかった・・・・・」

 

肩を落とすハーデス。隣町に来ればおいそれと誰かと会うこともないだろうと

踏んでいたので、仮面と黒いマントを装着せずにいたから

あっさりと霧島翔子に見つかった。

 

「・・・・・何時もここで買うの?」

 

「いや、今日はたまたまだ。気分転換でここのデパートにある食材を買いに来たんだ」

 

「・・・・そう」

 

ハーデスが会計をし終えるまで霧島翔子はずっと片時から離れずにいた。

その際、レジ係の従業員から一言。

 

「恋人同士仲良く一緒に買い物ですか?微笑ましいですね」

 

「・・・・・未来の夫婦です」

 

「おい、親同士で決め合った許嫁のように言うな。俺達の関係は―――」

 

バチバチバチッ!(ハーデスがスタンガンを食らわされた音)

 

「友達だからな」

 

「・・・・・効かない?」

 

「その程度の電流なんて俺が効くか」

 

「あは、あははは・・・・・」

 

思いっきり引いている従業員を余所に、

購入した品を自前の鞄にホイホイと入れて二階に向かった。

 

「・・・・・どうして二階に行くの?」

 

「愚問だな。水着を買いに来たんだろう?お前の水着を選んでやるよ」

 

「・・・・・嬉しい」

 

死神は何だかんだ優しいと、霧島翔子は嬉しく思い意中の人の腕に抱き付いた。

二階はファッションコーナーであり、二人が目的の水着コーナーに足を運んだ。

 

「・・・・・やっぱり明日でいいか?」

 

「・・・・・ダメ」

 

態度が180度変わった。その理由は―――、

 

「この子はアタシの弟なので、男物の水着をお願いします」

 

「弟さん・・・・・?妹さんの間違いでは?」

 

「いいえ、れっきとした男です。

生まれた瞬間も性別は男として生まれたんですから間違いございません」

 

「は、はぁ・・・・・分かりました」

 

「アハハ・・・・・優子、弟君のことになると苦労するねぇ~」

 

「まったくよ。アタシも水着を買いに来たからいいものの、

アンタがハッキリと言わないから店員さんも間違って女物の水着を持って

来たんだからね」

 

「ううう・・・・・ワシは男なのに・・・・・」

 

二人の同級生がそこにいたからだ。これ以上知り合いと出会って関わりたくないと

ハーデスは思っての行動だったが―――。

 

「ん?あれ、代表じゃん」

 

「え?代表?」

 

「むっ、本当じゃの。・・・・・隣におる者は一体誰なのじゃ・・・・・?」

 

三人に発見されてしまったのである。

 

「・・・・・見つかった。霧島だけで良かったのに・・・・・」

 

「・・・・・それを言われると、私も少し後悔しちゃう」

 

二人だけの秘密では無くなったと霧島翔子は少し残念がった。

 

「わっ、近くで見ると格好良いね。・・・・・ってあなたはあの時の!?」

 

「・・・・・お主は・・・・・」

 

「・・・・・どうして代表と・・・・・?」

 

三者三様の反応。ハーデスは同級生から視線を逸らした。

 

「って、優子の弟君。彼のこと知っているの?」

 

「いや・・・・・知っておると言うより、見覚えがあるのじゃ。

お主・・・・・ハーデスかの?」

 

「え・・・・・彼が死神?」

 

信じられないと目を丸くする少女にハーデスは溜息を吐き、

どこからともなく取り出したスケッチブックに書いてこう伝えた。

 

『・・・・・ああ、そうだよ』

 

「「なっ・・・・・!」」

 

「ほう・・・・・それがお主の正体じゃったのか。

霧島と一緒におる理由が納得したのじゃ」

 

二人の少女は驚いたが、もう一人の少女―――。

 

「ワシは男じゃ!」

 

少年が納得した面持ちで何度も首を縦に振って頷いたのだった。

 

「これが死神君の素顔なんだ・・・・・」

 

「お、驚いたわ・・・・・まさか、思っていた以上の容姿なのね」

 

「・・・・・お前の中で俺の容姿はどうなのかは敢えて聞かないぞ」

 

「あはっ!それが本当の声なんだね?初めて聞いたよ!」

 

ボーイッシュな少女が嬉しそうに笑ったことに対してハーデスは怪訝な面持で言った。

 

「Sクラスの教室で喋ったが?」

 

「違うよ。こうしてマントと仮面を被らないありのままの姿で喋ってくれたことが

僕にとって初めてになるんだよ」

 

「そうじゃの。ワシも工藤の言葉に同意じゃ」

 

「右に同じくよ」

 

三人の言葉にハーデスは頬をポリポリと掻く。

どう反応していいのか当惑している様子。

取り敢えず「そうか」と述べたハーデスは霧島翔子に視線を向けた。

 

「水着、どんなのがいい?」

 

「・・・・・死神が選んでくれた水着ならどんなものでも」

 

「・・・・・スクール水着にしてやろうか?」

 

「・・・・・死神が望むのならそれでもいい」

 

「分かった。ちゃんと選んでやるからそれは絶対に着るな」

 

深く溜息を吐くハーデス。そんなハーデスに少年は呟いた。

 

「まるで第二の雄二―――」

 

ガシッ!

 

「木下秀吉、あいつと一緒にされては困るんだが?」

 

そう名で呼ばれた少年の顔を掴んで床から足を離したハーデス。

その腕力に誰もが目を丸くする。

 

「す、すまんのじゃハーデスよ・・・・・っ。じゃから、

じゃからこの手を放してほしいのじゃ。姉上みたいにしないでくれ・・・・・!」

 

「・・・・・木下優子がこんなことをするんだな」

 

「ちょっ、アタシが暴力的な女だと思っていないでしょうね!?

―――秀吉、帰ったら覚えておきなさいよ」

 

「・・・・・その言葉を言った時点で自分がそうだとバラしたぞ」

 

「はっ・・・・・!?」

 

最後は小声で呟いたのだがハーデスに聞かれてしまい、

ハーデスの中の木下優子に対する印象が変わった瞬間であった。

木下秀吉を解放した後にハーデスは霧島翔子の水着を選んだ。

 

「・・・・・これがいいだろう」

 

選んだ水着は下の水着にスカートがある黒一色の物だった。

それを霧島翔子と照らし合わせて・・・・・頷く。

 

「ん、似合ってる」

 

「・・・・・これにする」

 

大事そうにハーデスから受け取って、霧島翔子は一人でレジの方へ向かった。

 

「・・・・・ねえ、死神君」

 

「なんだ?」

 

「この後、何か予定でもある?」

 

「・・・・・特にはないが、どうした?」

 

「えっと、ね?代表と一緒でもいいから遊園地でも遊びに行かない?」

 

「コスモワールド七浜でか?」

 

ハーデスの訊ねに、少女こと工藤愛子はコクリと頷いた。

顎に手をやってハーデスは漏らす。

 

「まあ・・・・・家に帰っても・・・・・霧島と一緒にいるだけで

時間が過ぎそうだからな。いいぞ、楽しいことは俺も好きだしな」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

背後に回った工藤愛子がハーデスの背中に飛びついては、

両腕を首に回して宙吊り状態になる。

 

「意外と背が広いんだね。マントで隠れていたから分からなかったよ」

 

「そう言う工藤愛子も軽いな。ちゃんと食っているのか?」

 

「食べているよ。それにボクは水泳部員だから結構身体を動かしているんだよ?」

 

「水泳部員だったのか。意外だな」

 

「そう?帰宅部だと思った?」

 

「ん、そうだと思った」

 

首肯するハーデスに工藤愛子は「残念、外れでしたー♪」と微笑んだ。

 

「・・・・・死神、私がいない間に愛子と仲良くなったの・・・・・?」

 

黒いオーラを纏いながら現れた霧島翔子をどう宥めようかとハーデスは悩んだ。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

デパートを後にし、ハーデスは遊園地に足を運び、

 

「きゃあああああああああああっ!」

 

「はっはっはぁっー!」

 

思いっきり楽しんでいた。

 

 

 

「・・・・・ジェットコースターなんて二度と乗らないわ」

 

「思いっきり叫んでいたもんな。まあ、ストレス解消になっただろう」

 

休憩と近くの喫茶店で腰を下ろしていた。

丁度横に座っていたハーデスの手でボサボサになった髪を整えられる木下優子。

 

「ああ、そうだ。霧島」

 

「・・・・・翔子」

 

「いや、霧島・・・・・」

 

「・・・・・ちゃんと翔子と呼んで。私の為に戦ってくれたお礼も兼ねて」

 

「・・・・・いいのか」

 

「・・・・・うん、いいの」

 

紫の瞳をハーデスに向ける。ジッと見つめられてハーデスは肯定と頷く。

 

「分かったよ、翔子。これでいいか?」

 

「・・・・・うん。それで、なに?」」

 

「ああ、その髪を戻してやろうと思ったんだ」

 

自然体で霧島翔子の短くなった髪を梳かすように撫でた。

その手は淡い光に包まれていて、一度撫でると短かった髪がスラリと伸びて

元の長さに戻った。

霧島翔子は自分の長くなった髪を触れてハーデスと交互に見た後に尋ねた。

 

「・・・・・死神、どうやったの・・・・・?」

 

「そ、そうよ。目の前で代表の髪が伸びるなんて・・・・・」

 

「マジックか何かかな?」

 

「仕掛けをしたようには見えんのじゃが・・・・・」

 

四人の疑問に淡く光る手を見せるハーデス。

 

「川神百代みたいな四天王、強さの壁を越えた武の達人の領域に踏み込んだ奴らなら

扱える気というもので翔子の髪を元に戻したんだ」

 

「気・・・・・?」

 

「厳密的に言えば活力のことを指す。やる気とか元気とかそういうもんだ。

人は気が無いと動くことすらままならないからな」

 

「それをお主は使用して霧島の髪を元に戻したと?

それならば川神先輩もお主みたいにできるのかの?」

 

木下秀吉の問いにハーデスは横に振った。

 

「俺の気の扱い方は特別でね。対象の相手の行動は気や生命で把握できて解るし

操る事も可能。逆に相手の気を操って乱したり断つ事で生命ダメージを与え

行動不能もできるし対処方法は限られているから大概死に至る」

 

「そ、それって・・・・・相手を殺すこともできるの?」

 

「説明しただろう。対処方法は限られているって。俺の気の扱い方は四天王ですら

扱えないかもしれない技だ。これは俺だけしかできないから戦ったことが無いが、

川神百代も一撃で倒れるかもしれない」

 

ゴキゴキと指の関節を鳴らしながらハーデスは告げた。それがもしも現実になれば

ハーデスは武神を上回る最強の存在となる。

 

「まぁ、戦う気はしないけどな」

 

「え?どうして?」

 

「考えてみろ。あいつ、強い奴と戦いたがっているんだ。

もしも俺が強いと言うことが分かったら決闘を申し込んでくるぞ」

 

「申し込まれても負けたらいいじゃない」

 

「そこは俺のプライドが許さない」

 

即答・・・・・と木下秀吉は漏らす。意外と負けず嫌いなのかもしれないと

その後に思ったのであった。

 

「ちょいと話が反れたな。まあ、そういう技で翔子の髪を伸ばしたんだ」

 

「なるほどね・・・・・じゃあ、ボク達の髪も伸ばすことができるの?」

 

「生命力がある生物全般できる。さて・・・・・」

 

席から立ち上がったハーデス。

 

「時間は有限、色んなアトラクションを楽しまないと損だ。行くぞ」

 

ハーデスの言葉に四人は頷き、代金を払って喫茶店を後にした。

素の姿のハーデスと楽しむために。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

プール当日。雲一つない抜けるような青空の下。

貸し切り状態のプールを泳ぐ為に風間ファミリーを含め、明久達が全員集合を果たし、

 

「大変だよ雄二!ムッツリーニが生の秀吉の着替えを見て出血多量だよっ!」

 

「ちくしょう!こんなことで死ぬなムッツリーニ!いま、輸血をしてやるからな!」

 

「なぜ、ワシの裸を見ただけでムッツリーニが瀕死になるのじゃ・・・・・」

 

「すまん木下。俺様もお前の肌を見てムラムラしてきた・・・・・」

 

「し、島津・・・・・?お主、目が血走って気迫というか肉食獣のような目じゃぞ・・・・・?」

 

「性別なんて、関係ないんだよなぁぁぁあああああっ!?」

 

ドッ!

 

「ガクト・・・・・とうとうその領域に片足を踏んでしまったか」

 

「どうする?」

 

「木下の奴はハーデスに任せよう。この場であいつをどうにかできる奴はハーデスと

女子で言えば姉さんとワン子、クリスぐらいだからな」

 

腹部を両腕で抱えて蹲るファミリーを一瞥して溜息を吐く。

 

「しかし、ハーデス。せっかくのプールなのにお前は何時もの格好だな」

 

『・・・・・プールを泳ぎに来た覚えはない。脅されて来ただけだ。

文句を言われる筋合いはない』

 

「そりゃそうだが・・・・・お前だけが物凄く浮いているぞ。

って、本当に浮くな!それ、マジでどうやって浮いてんだお前は!」

 

「うはっ!空飛べんのか、おもしれぇっ!俺も空飛びたいぜ!」

 

約一名子供のようにはしゃいでいる奴がいた。明久達の方はなんとか土屋の輸血を

終えて一息ついている。

 

「・・・・・ごめん、僕も今の秀吉を見ていられない」

 

「な、なぜじゃ明久よ!?ワシは男じゃぞ。

男の裸を見ていられないほどワシの裸はおかしいのかの!?」

 

「・・・・・血、血が足りなくなる・・・・・」

 

なんのコントだよこれェ・・・・・・。

 

「えーと、明久と土屋は欠席。ガクトは予備軍だな」

 

 

―――――トンテンカン。トンテンカン。

 

 

不意に何か叩くような音が聞こえた。その音の方に振り向くとハーデスが

曲がり角の部分のフェンスに休憩場を作っていた。

既に屋根の部分を付けているところだった。

 

「お、おいハーデス?勝手にそんなところに作っても大丈夫なのかよ?」

 

『・・・・・簡易の休憩場。直ぐに取り外せれるから問題ない』

 

あっという間に屋根の取り付けを終えるとブルーシートを敷いた。

どこから出したか分からないテーブルと椅子をまでも設置してしたところで、

 

「お、誰か来たぞ」

 

坂本が呟く。顔を向けると、更衣室から島田の妹が小学生らしく

おとなしめな紺のワンピースの水着を身に包んでいる。

 

「どどどどどどどうしよう雄二!?あれってスクール水着だよね!?そ

んなものを来た小学生と遊んでいたら逮捕されたりしないかな!?」

 

「・・・・・弁護士を呼んで欲しい」

 

「あのな・・・・・落ち着け二人共。小学生の水着姿でそこまで取り乱すな」

 

「寧ろ、この場に準がいなかったことが幸いだ。

あいつ、ロリコンだからこの場に小学生が―――」

 

「俺がどうしたって?大和君よ」

 

・・・・・まさか、今回の事を教えていないはずの奴が

ここにいるのだ・・・・・!?

 

「お、準。来たんだな」

 

「おー、ガクト。俺達も誘ってくれてありがとうな。

おかげで・・・・・良い光景が見れたぜ」

 

「おのれガクト!貴様の仕業だな!?」

 

「どうして大和は怒る!?友達だから呼んでも問題ないだろうが!」

 

「そうですよ大和君」

 

「やっほー!」

 

新たな声が二つ。その声の方へ目を向けると、Sクラスの葵冬馬と榊原小雪、

井上準が何時の間にか水着姿で立っていた。

 

「準、クラスメートの妹だから手を出すなよ?見ているだけで十分だろう」

 

「ああ、分かっている。

しっかりと寡黙なる性識者(ムッツリーニ)にも写真を頼んであるから問題ないぜ」

 

「いや、そういう意味じゃないんだが・・・・・」

 

「こ、こら葉月っ!お姉ちゃんのソレ、勝手に持っていったらダメでしょ!?

返しなさいっ!」

 

絹を裂くような感じの声が聞こえた。

また視線を変えれば胸元を手で隠している島田が駆けてくる。

 

「・・・・・パッド」

 

「ん?」

 

ボソリと呟いた土屋の視線を追うと、

その先には腹が膨らんでいる島田の妹の姿があった。

 

「あぅ。ずれちゃいました」

 

島田の妹が水着の中に手を入れてゴソゴソと何かを弄る、

 

「た、たまらん・・・・・っ!(ブシャァァァァッ!)」

 

「トーマ、準が盛大に赤いアーチを作ったよー」

 

「土屋君から輸血用のパックを分けて貰いましょう」

 

なんと冷静に対処するんだ冬馬よ。

 

トントン。

 

「ん?」

 

俺の肩を誰かが叩く。振り返るとハーデスがいて、

 

『・・・・・人の夢は儚いものだな』

 

指先を真っ直ぐ胸元を腕で隠している島田に差していた。

そこへようやく復活したガクトが何かを悟ったような顔をして口を開いた。

 

「そう書いてやるなハーデス。貧乳の奴は貧乳のことで悩んでいる女が多いんだ。

うちのワン子だって、モモ先輩みたいになると毎日牛乳を飲んでいるが、

あれは無駄な抵抗―――」

 

「「うるさいわねっ!」」

 

飛び蹴りとボディーブローが同時に炸裂しプールの中へ沈んだ我が友。

 

『・・・・・口は災いの元』

 

「・・・・・だな」

 

危うく俺も似たようなことを言いかけた。ガクト、後で肉まんを奢ってやるからな。

俺の身代わりになってくれたせめての礼だ。

 

「だけど島田。そんな物を頼っても虚しいだけよ?

アタシみたいに堂々としていればいいじゃないの」

 

「同じ胸のサイズなのにどうして川神はそこまで自信たっぷりでいられるのよ!」

 

「旅人さんが言ってたもん。

『胸のことで気にしている奴はな?心の余裕もなくて性格も粗暴で

男に好かれにくくなるんだ』って」

 

 

グサッ!(島田のハートに見えない矢が刺さった音)

 

 

「だからアタシは気にしていなくてもお姉様みたいな巨乳を目指しているのよね!

努力すればきっと努力した分が良い意味で返ってくるんだから!」

 

「因みに、私はこんなに大きいから心も余裕で性格は荒々しくないよ?」

 

ワン子の言葉を拾って現れた紫色の水着を身に付けている京。

 

「・・・・・その旅人やらの発言は誰かに的を射ているのぉ・・・・・」

 

「秀吉、それは一体誰のことかしら?」

 

「うむ、それはワシの姉―――」

 

 

ゲシッ!   ザッパアアアアアアアアンッ!

 

 

ああ、木下が姉の回し蹴りでプールに飛び込んだぞ。

 

「一度、その旅人さんってい言う人と話し合ってみたいわね」

 

何事もなかったように木下の姉が腕を組んでそう吐いたのだった。

自分の弟を躊躇もなく容赦もなくあんな足蹴りをするなんて・・・・・。

 

『・・・・・一癖も二癖もある女子メンバーしかいないな』

 

「そうだな、ハーデス」

 

まだ全員ではないな。女子の着替えは長過ぎる。そう思っていると更衣室の方から

誰かが歩いてきた。長い黒髪を翻しながら、まるでモデルのように優雅に歩いてくる。

全てが高水準で整えられた肢体を惜しげもなく晒しながら歩いてくるその姿は、

とても現実のものとは思えないほどに綺麗で、

俺は息をするのも忘れて彼女―――川神百代こと姉さん、霧島姉妹に見入ってしまった。

 

「なんと素敵な組み合わせでしょうか!」

 

「うん、この中でいち早く喜ぶのはお前だと思ったぞ冬馬。

それはそうと、英雄の奴はどうしたんだ?」

 

「誘いましたが『しばらく死神と顔を会わせたくない』との事で、断われましたよ」

 

「ハーデスと会いたくない?丸坊主にされたその影響でか?」

 

「いえ、本人は罰として受け入れているようなんですが・・・・・何か、

申し訳なさそうな面持ちで顔に影を落としていましたよ」

 

あいつが・・・・・?あいつらしくないしあいつとハーデスの間で

何か接点でもあるのか?

・・・・・不思議というか怪しいばかりだな。

 

「・・・・・死神。他の子を見ないように」

 

何時の間にか俺の目の前に霧島翔子がいて―――そのまま流れるような動きで

ハーデスの目を潰し―――。

 

『・・・・・俺の目を潰したらお前を見れないだろう?』

 

首だけかわしながら、そう書いてあったスケッチブックを霧島翔子に見せつけた。

今の彼女の動き。俺でもギリギリかわせるかどうかの速さで綺麗な仕草だったぞ・・・・・っ!?

 

「・・・・・それは、困る」

 

『・・・・・思った通り、似合っているぞ』

 

「・・・・・死神・・・・・」

 

霧島翔子がほんのりと頬を赤く染めて俯く。そんな彼女にハーデスが腕を伸ばして

長くなった髪を撫で始めた。

 

「ん?霧島、何時の間に髪が元に戻ったんだ?」

 

「・・・・・死神が髪を伸ばしてくれた」

 

ギュッとハーデスの腕に密着する霧島翔子。どんな方法で伸ばしてもらったのか分からないが、それは良かったな。

 

「ぐああああっ!目が、目がぁっ!」

 

・・・・・坂本の方は目を潰されたようだ。

同情する理由がないから放っておくとしよう。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

他の女子のメンバーも現れたことで思いっきりプールで遊んだ。

ハーデスは泳ぐ気はさらさらないようで、自作の簡易式休憩所で

テーブルにかき氷(ブルーハワイ味)を置いて本を開いていた。

その様子を見ていると姉さんが近づいてきた。

 

「おい大和。死神の奴、プールに来ても遊ばないとはどういうことだ?」

 

「殆ど脅された形でプールに来たんだよハーデスは。

来れば成立だから泳ぐ必要もないって考えだったし」

 

「私、死神のことは殆ど知らないんだが何者なんだ?」

 

「蒼天の出身者。成績はSクラス並みで、

実力は無傷でSクラス全員と戦って勝つほど。料理、デザートも作れて

何気に好かれている」

 

「ふーん・・・・・ワン子からちょっとは聞いたけど似たような情報だな。

全く気を感じさせてくれないしあいつは本当に生きている人間か?」

 

「生きていなきゃ、幽霊だってことになるよ姉さん」

 

「うっ・・・・・それもそうか」

 

ホラー系が苦手な姉さん。一瞬、顔を強張らせたけど

何か思いついたような顔になった。

 

「一人だけ違うことしてコミュニケーションのない奴だ。

プールに引きずり込んでやる」

 

そう言って姉さんはプールから飛び出してハーデスの前に降り立った。

 

「おい、死神。お姉さんと一緒に遊ぼうじゃないか」

 

『・・・・・』

 

ハーデスは姉さんの誘いにスケッチブックでこう書いた。

 

『・・・・・断わる』

 

「私の誘いを断ってもいいのか?私は強いぞー?」

 

『・・・・・』

 

徐にハーデスは立ち上がった。そして、マントから大きな銃口のようなものが覗いた。

 

「なんだそれ?」

 

刹那。その銃口のようなところから凄まじい勢いで

水が噴出して姉さんをプールへ吹っ飛ばした。

あれ、まさかと思うけどホースか!?どうやって水を出したんだあのマントの中で!

驚いた俺の耳に呪詛のような呟きが聞こえてくる。

 

「・・・・・やってくれたな、死神」

 

「あっ」

 

「私に不意打ちしてくる奴は久し振りだ・・・・・」

 

プールから上がってくる姉さん。全身に気を纏ってハーデスを睨んだ。

 

「こうなったら、強引でもプールに入れてその仮面を剥いでやる!」

 

姉さんが真剣(マジ)になった!ハーデスを捕まえようと飛び掛かる。でも!

そこに何もないかのようにハーデスの全身をすり抜けて思いっきり

フェンスにぶつかってしまった姉さん。

 

『・・・・・バーカ』

 

「えっと、姉さん。ハーデスがバーカって言っているよ?」

 

「・・・・・教えてくれてありがとう大和。ちょっと、離れてくれるか?」

 

「りょ、了解・・・・・」

 

ハーデスの背後から怒気のオーラを感じた。これはヤバいと思い、

プールの中へ飛び込んだ瞬間。轟音が聞こえた。

 

『ちょっ、川神先輩が暴れ出したぞ!』

 

『ぎゃー!レーザーを放ってきたぁーっ!』

 

『モモ先輩!ここで暴れないで下さいよ!プールが滅茶苦茶にぃー!』

 

『ダメだ!ハーデスに夢中で聞こえちゃいねぇッ!』

 

『直ぐに理事長か鉄人に応援を要請!というかハーデス!校庭に行ってくれ!

このままじゃマジでこっちまで命の危険が及ぶ!』

 

『ちょっ、土屋が鼻血を噴いてプールが赤くぅぅぅっ!?』

 

『やっぱり木下の裸体を見たせい!?何でもいいから、その体を隠しなさい木下!』

 

『な、なぜじゃっ!?ワシは男じゃと言うのにぃっ!』

 

水の中から聞こえる阿鼻叫喚。いざ顔を自ら出せば・・・・・。

まるで空爆があったかのようにプールが滅茶苦茶に壊れていた。

姉さんとハーデスの姿が見えない。校庭に行ったのだろうか。

そして、プールが俺のすぐ傍まで赤く広がっていた。

 

「「「「「絶対にハーデス(死神)川神先輩(モモ先輩)と会わしちゃならない・・・・・」」」」」

 

二人が出会うと台風が発生すると悟り、

今後極力会わせないように気を付けることを決意した俺達だった。

 

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

 

そして、週明けの朝。

 

「・・・・・吉井、坂本。それから直江。聞きたいことがある」

 

現れるなり朝の挨拶もせずに西村先生が低い声で俺達を呼び出した。

 

「断わる」

 

「黙秘します」

 

「弁解をさせてください」

 

それに対して、俺と明久と坂本は拒否の構えを取る。

というか俺の場合は本当に弁解をさせてほしい!

 

「・・・・・どうして―――」

 

一度言葉を区切り、大きく息を吸う西村先生。

 

「―――どうして吉井と坂本にプール掃除を命じたはずなのにプールが血で汚れ崩壊して

いるんだ!?鉄拳をくれてやるから生活指導室で詳しい話しを聞かせろ!」

 

響くは教室全体を揺るがすような大音声。

 

「説教なんて冗談じゃねぇ!寧ろ、こっちも被害を被った方なんだぞ!」

 

「全ての元凶は川神先輩だって知っているでしょう!?」

 

「それとハーデスもだ!」

 

「黙れ!川神は理事長からきつーくお灸を据えてもらい休日も含め一週間の鬼の補習、ハーデスは崩壊したプールを直した為に免罪だ!残るはあの二人を呼んだ直江と貴様らバカ二人だけだ!」

 

「「ちょっと待て!?()らの理由がそれだけかよ!あんまりだっ!」」

 

「ハーデスに至っては寛容じゃないですか!?

プールを直したのはハーデスじゃなくて蒼天のスタッフ達でしょう絶対に!」

 

「問答無用だ!貴様らとは拳で語り合った方が早い!歯を食い縛れっ!」

 

「ええい、この暴力教師め!逃げるぞ明久!直江!」

 

「「了解っ!」」

 

「吉井と坂本、今度は反省分とプール掃除では済まさんぞっっ!直江も同罪だ!」

 

そして、必死の抵抗も空しく西村先生に捕まる俺と明久と坂本。

殴られながらも一応事情を離すと、西村先生は溜息まじりに一言、

 

「・・・・・今度の強化合宿の風呂は、木下を別にする必要があり、

死神と川神を戦わせないようにする必要もあるようだな・・・・・今度は校舎を

壊されかねない」

 

などと呟いた。


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