バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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バカと覗きと強化合宿
第一問なのじゃ!


「大和、もうすぐ強化合宿だな」

 

「そうだな。もう一週間後か」

 

「合宿と言えば風呂があるよな?」

 

「当然だろう?お前、風呂のない合宿で数日間外の流れている川で

体を洗えっていうのか?」

 

「それはある意味美味しいシチュエーションだが、

俺様の言いたいことはそうじゃない。俺達思春期の男子にとって

合宿と言えば―――覗きに決まっているだろう?」

 

「えーと、鉄人の電話番号はっと・・・・・」

 

「待て待て!いきなり鉄人にバラそうとするな!

合宿の醍醐味をしたくないのか軍師大和よ!」

 

「俺は平穏な学園生活を過ごしたいんだ。女子の敵になりたくない。

お前だけやっていろ」

 

「俺達は友達だろう?」

 

「俺の友人に犯罪者はいない」

 

「協力してくれよ!ヨンパチや他の奴らは嬉々として引き受けてくれたのにぃ!」

 

「俺の知略は覗きの為に使いたくない」

 

「大和ぉーっ!カムバーックッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、朝からガクトにふざけた要求をされた」

 

「ガクトの行動はムッツリーニ並みだね・・・・・」

 

「その寡黙なる性識者(ムッツリーニ)も覗きに協力する態勢のようだ」

 

「・・・・・だと思った」

 

設備がランクダウンした教室にHR(ホームルーム)が始まるまで明久と雑談。

 

「まさかだと思うがお前も覗きなんてしないよな?」

 

「し、しないよ!僕だって命が欲しいんだ!」

 

「だよな。お前まで覗きを参加したら・・・・・」

 

「したら・・・・・?」

 

「ハーデスに頼んで・・・・・お前のあられもないチャイナ姿の写真を

ネットワークに流出させてもら王と思っていたところだった」

 

「絶対に参加しないと心から誓うよ大和」

 

釘は刺した。これでガクトの餌食に遭わないだろう。

 

「おーい、明久。ちょっと話があるんだが」

 

「断わる!」

 

「話の頭すら言っていないのに断わられただと!?」

 

声を駆けてきたガクトが愕然とする。早速来たな!だが、もう遅い!

 

「僕の社会的な問題に関わるんだ!今回だけガクトのお願いは聞けない!」

 

「おのれ、大和の入れ知恵だな!?」

 

「これでも純情な明久を汚すわけにはいかんのだよガクト!」

 

「ねえ、これでもってなに?僕は心と体も純情だよ?」

 

俺にそんな事を言う明久に突っ込みを入れる男子が話しかけてきた。

 

「頭は純情じゃないほどバカだけどな」

 

「ムッキィー!そんなこと言う雄二のバカは霧島さんの妹に

人生の墓場まで連れて行かれればいいんだ!」

 

「ふざけんな!俺は絶対に翔花から逃げきってやるからな!」

 

心の底からの決意だと分かったんだが・・・・・お前、後・・・・・。

 

「雄二には・・・・・鋼鉄の首輪を嵌めて牢屋に入れる必要あるみたい」

 

「しょ、翔花!?」

 

「雄二・・・・・逃がさない」

 

禍々しいオーラを全身に纏って鋼鉄の首輪とスタンガンを片手で掲げていた霧島翔花。

 

「「因みに、坂本(雄二)が話しかけた瞬間から後ろにいた」」

 

「お前ら謀った(バチチチチチッ!)うぎゃあああああっ!?」

 

スタンガンの電流でやられた坂本。俺までカウントされている。

まあ、教えなかった時点で謀ったようなものか。

 

「明久、誰かと付き合うならあれほど重い愛を向けてくる女や暴力女、

壊滅的な料理を作る女以外にしろよ」

 

「うん・・・・・そうするよ」

 

島田と姫路には悪いが、お前らじゃ明久を幸せにしてくれるか怪しい。

 

「そういや、ハーデスの奴は見掛けないな・・・・・?」

 

「そう言えばそうだね。霧島さんのところにいるのかな?」

 

「違う・・・・・」

 

霧島の妹が坂本の首に首輪を嵌めながら否定した。いない?

じゃあ、ハーデスは休みなのか?

 

「それにしても霧島さん。どうしてAクラスはFクラスになっちゃったの?」

 

「Sクラスが・・・・・学園長と交渉して本来の試召戦争のルールとは

異例のルールで宣戦布告をしてきた。負けたらFクラス、

勝ってもSクラスの設備のランクダウンや設備と教室の交換ができない」

 

「そんなっ。それじゃAクラスにとって意味のない戦いじゃないか」

 

学園長と交渉・・・・・大方、Sクラスは政治や経済、国家権力とパイプで

繋がっている名家がいるから断わるにも断わり切れなかったんだろう。

 

「英雄の奴は何をしたいんだ?Aクラスを追いこんだところで意味があるのか?」

 

「言っていた・・・・・『我は第二学年を統べる』と・・・・・」

 

「第二学年を統べる?」

 

霧島の妹が教えてくれた情報。あいつの性格を考慮すると・・・・・。

 

「―――そういうことかっ!」

 

奴のしたいことが今になってようやく理解した。

だとすると・・・・・これはある意味面倒なことになるっ。

 

「え、大和?何か分かったの?」

 

「霧島の妹から聞いた情報と英雄の性格を考えれば直ぐに答えが結びついた。

あいつは、Sクラスは上位クラスから宣戦布告をして、

負けたクラスはAクラスのように下位のクラスへ転属させる事が目的だ」

 

「でも、それは何のために?」

 

「英雄の夢は九鬼財閥を受け継ぎ、世界を統べることだ。

多分だが、世界を制する予行練習としてSクラス以外のクラスと試召戦争をしては

負かし、Sクラスの配下にしようとしているのかもしれない。

設備と教室を奪って下位のクラスに転属させ一纏めにする為に」

 

そう仮説を口にした時、明久が恐る恐ると口を開いた。

 

「えっと・・・・・AクラスはFクラスに転属させられたから・・・・・Bクラスは

Eクラスに、CクラスはDクラスに転属させるってことなの?」

 

「順で行くとそれで間違いないのかもしれない」

 

ガラッ!

 

Fクラスの扉が開いた。西村先生が入って来たのかと思ったら。

 

「お前達、SクラスがBクラスに試召戦争をする。教室から出ず自習をするようにな」

 

西村先生が俺達にそう言い教室からいなくなった。

 

「や、大和・・・・・!」

 

「直江の予想が当たった・・・・・・」

 

「俺達は三ヶ月間試召戦争ができないから指を銜えて事の成り行きを

見守ることしかできない」

 

後日談、BクラスはSクラスに破れBクラスの設備と教室はSクラスに

奪われ予想通り、Eクラスの生徒として転属したのだった。

 

 

 

 

 

「Sクラスのガキ共が好き勝手にクラスを奪って自分の物にするだけ飽き足らず、

負けた生徒達を他のクラスに追い込んでいるんだよ」

 

「元々いるクラスに転属しようとも既に満員状態。SクラスはCクラスとも

試召戦争をする可能性があるから俺にどうかしてほしいと?

俺達Fクラスは三ヶ月間の試召戦争はできないぞ」

 

「蒼天の力でクラスを拡張できないかい?」

 

「旧校舎自体を壊してから工事をしないと無理がある。・・・・・が、

俺の力ならできないわけじゃない」

 

「ほう、それは頼もしいね」

 

「俺のやり方でさせて黙認してくれるなら引き受けてもいいぞ。追及も一切無しだ」

 

「分かっているよ。学園の長としてアンタの秘密は守るさね」

 

「それならいい。だが、今度から視野を広げて警戒ぐらいはしておけよ」

 

「肝に銘じるよ」

 

「それじゃ、後顧の憂いのないままいつも通り過ごしてくれ」

 

 

 

 

 

 

「にょほほほ!今回も下々のクラスに勝てて此方は良い気分じゃ。

どれ、元Aクラスの奴らの顔をでも見に行くかの。お主らも同伴するのじゃ」

 

「分かったよ不死川さん」

 

「俺達に負けた元Aクラスに不死川さんの名家の栄光を刻んでやったらいいと思うぜ」

 

「そうじゃのそうじゃの。此方の名を知らぬ者なぞおったら

その者はFクラスのような山猿じゃろうて」

 

「それに、敗者は俺達Sクラスに従うって言うアレもそろそろしたいなって

思っていたし」

 

「ふむ。それもそうじゃったの。では、此方達がそれを実行しようではないか」

 

「流石!不死川家の名は世界一だ!大統領より偉い不死川家!」

 

「にょほほほっ!その通りじゃ、此方の家は名家で下々の輩の人生を

左右させることができるほど偉いのじゃ!」

 

 

 

―――第二Fクラス―――

 

 

―――霧島翔子side―――

 

 

「にょほほほっ!新しい教室はどうかの。『元Aクラス』の下々の輩達よ」

 

「・・・・・Sクラスの人達が何しに来たのかしら?」

 

「あなた達、今は授業中ですよ。自分のクラスに戻りなさい」

 

高橋先生が厳しく言う。だけど彼女達は先生の窘めをそよ風のように流して嘲笑。

 

「なに、無様に負けた敗者の顔と新しい教室で過ごす

お主らの様子を見に来たまでじゃ」

 

「・・・・・そう、満足したなら自分の教室に戻って」

 

「嫌じゃ。なぜ名家である不死川家のこの不死川心がお主の言うことを

聞かねばならぬのじゃ。寧ろ、お主らが此方達に従うのが道理なのじゃ。

敗者は勝者の言うことを聞く決まりを忘れたわけではあるまいな?」

 

「僕達にどんなことをさせようとするのかな?」

 

「にょほほほ、此方はそれをまだ考えておらぬ故・・・・・此方が考えている間に

この者達の指示に従ってもらおうかの」

 

・・・・・不死川心と名乗った着物を身に包んだ女子がそう発すると、

取り巻き達が嫌な笑みを浮かべて一歩前に出た。その決まりは確かにした。

私達は従うしかない・・・・・。

 

「不死川さんにそう言われちゃしょうがないよな?」

 

「俺達はそれを果たす義務がある。敗者はしっかりと俺達の言うことを聞かないとな」

 

「ああ、その通りだよな。んじゃ、俺から課す指示はっと」

 

Sクラスの男子生徒がとある女子に目を向けた。

 

「確か、木下優子だったな?今日から学校にいる間、お前は俺を御奉仕してもらうぜ」

 

「なっ・・・・・!?」

 

「俺は霧島翔子と結婚を前提に付き合ってもらおうか。胸も大きいし顔も可愛いし、

俺の伴侶にするには申し分ない。俺、前から決めていたんだよな」

 

「霧島翔花、俺の肉奴隷にでもなってもらおうか」

 

「「・・・・・っ」」

 

「お前らがそうなら工藤愛子を選ばせてもらうよ。確か保健体育の実技が

得意なんだっけ?だったらそれを証明してもらおうじゃないか。保健室でさ」

 

「・・・・・っ!?」

 

・・・・・ゲスな連中だと私は心の中で零した。

こんな人達が学校に通っているなんて信じられなかった。

このクラスにも人を見下す人がいるけど、彼らはそれ以上だ。私達を人ではなく、

家畜・・・・・ゴミのような目で見て接してくる。

 

「うむ、此方も決まったのじゃ。元Aクラスの代表。その髪をバッサリと

この場で切ってもらおうか。その綺麗な髪を見ておると目障りなのじゃ」

 

「えーと不死川さん。僕の翔子の髪を切らないでほしいんだけど」

 

「なんじゃ、此方に意見を申すのかお主は」

 

「・・・・・いや、なんでもないよ」

 

・・・・・同じクラスメートだろうと、上下関係があるみたい。

不死川心は誰かの机を薙ぎ倒して、はさみを手にすると私に近づく・・・・・。

 

「待って!何もそこまでしなくて良いじゃない!アタシ達に勝ったからって、

アタシ達を従わせる権利があるからって、同じ女として女の子の髪を切って

何とも思わないの!?」

 

「思わぬ。それに此方と下賤なお主と一緒にするではないわ」

 

「人として心が無いと言うのか・・・・・っ!Sクラスの人達は・・・・・!」

 

「Sクラスは選り抜きされたエリート中のエリート。

Aクラスがエリートの集団というのであれば此方達は至高の集団である。

お主らの考えなど此方達と考えているレベルは違うのじゃ」

 

・・・・・不死川心は底意地の悪い笑みを浮かべて口を開いた。

 

「では、この不死川心がさっぱりに切ってやるのじゃ」

 

・・・・・鈍く光るはさみは、私の髪に迫った。

 

 

―――Fクラス―――

 

 

「―――死神君っ!」

 

授業が終わるや否や、久保利光が現れた。切羽詰まった表情で真っ直ぐハーデスに

向かうあいつに首を傾げる。

 

「え、久保君?どうしたの?」

 

「なんだか様子がおかしいわね」

 

「うむ、とても困っているようにも窺える」

 

あいつの様子に疑問を浮かべるが成り行きを見守ろうか。

 

「死神君、ちょっと来てくれ」

 

『・・・・・?』

 

ハーデスも小首を傾げるけど久保の催促に従い、

久保と一緒にFクラスからいなくなった。

 

「何だか気になるね。僕も行ってくるよ」

 

「俺も行くぞ明久」

 

明久に続いて俺もついて行く。俺の後ろからワン子達もついてくる。

さて、空き教室は元Aクラスが使用しているから直ぐに辿り着いた。

俺と明久はハーデスの背中を追って元Aクラスの皆が何かを

囲んでいる場所に入ると・・・・・。

 

「・・・・・」

 

長かった黒寄りの紫色の髪が無造作な切り方でかなり短くなっていた霧島翔子が

鎮座していた。

 

「霧島さん?どうしたの?急にイメチェンしたなんて珍しいね」

 

「吉井君。何も知らないからしょうがないけど、その発言はどうかと思うよ」

 

「え?へ?」

 

周りの雰囲気からして考慮すると・・・・・何か起こっていたようだな。

明久がそう言ってしまうのも仕方がないとして、

 

「ていっ」

 

ズビシッ!(明久の頭にチョップ)

 

「あだっ!?や、大和?」

 

「今のはお前が悪いからちょっとしたお仕置きだ。少しだけ喋らないでくれ。

俺が聞く」

 

「う、うん・・・・・」

 

素直でよろしい。さて、色々と情報を聞こうか。

 

『・・・・・』

 

ハーデスが霧島の頭を抱き締めている。霧島は小さく体を震わせ、ハーデスのマントを

握って顔を埋めていた。そんな様子を一瞥して久保に尋ねた。

 

「まずは、何が遭った?」

 

「それは・・・・・」

 

ガラッ。

 

聞こうとしたらこのクラスの扉が開いた。またFの誰かが入って来たのか?

 

「おい、愛子。約束通り保健室に来いよ」

 

「翔花、お前もな」

 

「優子、お前のご主人様が直々に迎えに来たんだ。ちゃんと俺を出迎えろよ」

 

―――違った。誰だ?そんな物言いをする輩は。

 

「Sクラス・・・・・っ」

 

「Sクラス?」

 

扉の方へ視線を向ける。俺の視界に悠然とした態度をしている三人の男子がいた。

 

「何だか部外者までいるな」

 

「「「・・・・・っ」」」

 

木下優子と工藤愛子は顔を強張らせた。あの二人との間に何か・・・・・?

 

「死神君・・・・・助けて」

 

「おいおい、部外者に助けを請うなって。お前の保健体育の実技を体験させてくれよ」

 

「そうだぜ、俺達の肉奴隷の分際で俺達の言うこと聞けないのか?」

 

Sクラス、肉奴隷、従わせる・・・・・。

 

「もしかしなくても、Sクラスと関わっている?」

 

「ああ、その通りだ。霧島さんの髪を切ったのもSクラスだ。

Sクラスに敗れた決まりとして僕達に何でも言うことを従わせる

権利を行使してきたんだ」

 

・・・・・英雄の奴。好き勝手にやらせておいてなにやってんだよ・・・・・。

 

『・・・・・』

 

霧島を抱き締めていたハーデスが霧島から離れあのSクラスの男子三人に近づく。

 

「なんだよ」

 

「俺達の邪魔をするって言うのか?こっちにはな、

国家権力と深く繋がっている奴らがゴロゴロいるんだぞ。俺の親だって議員の人だ」

 

「俺の親も議員であの総理大臣と親しいんだ。俺の一言でお前の人生なんて―――」

 

刹那。三人が順番に廊下へ吹っ飛んだ。

その光景に俺達は目を丸くして唖然とした面持ちでいると、

ハーデスは廊下に出ていった。

 

「・・・・・ハーデス、どうするつもりなの?」

 

「わからない。が、とんでもないことが起きるのは確かだと思う」

 

俺も廊下に出ると、三人の制服の襟を掴んで新校舎へ進むハーデスの姿が映った。

 

「おい、ハーデス!どこに行くつもりだ!?」

 

声を掛けても無視されてどんどん進んで行ってしまう。

 

「まさか・・・・・Sクラスに殴り込みするんじゃないだろうな?」

 

「今のハーデスなら物凄くする可能性があるよ」

 

「おい、どーすんだよ。止めた方がいいんじゃないのか?」

 

「取り敢えず、俺達もついて行こう」

 

「ボ、ボク達も・・・・・」

 

ハーデスの後を追う。新校舎の廊下を走ってハーデスへ辿り着いた時には、

あいつはもうSクラスの豪華絢爛で壮大な扉の前にいて豪快に蹴り壊した。

 

「壊した!?」

 

「あいつ、怒っているな!?」

 

B・C・Dクラスから騒ぎを聞き付け、教室から顔を出してくる奴らが出てくる。

俺達はSクラスの教室に侵入する。

 

「・・・・・ここが、Sクラス・・・・・?」

 

横に立ち並ぶ彫刻が施され、壁と一体化した幾重の柱と壁に絵画が飾れている通路を

進む最中、明久は呆然と呟いた。そして、ようやくハーデスに追い付いた

俺達が通路から出ると教室の中は―――豪華絢爛。

机の立ち並びは一言で言えば国会議事堂のように設けられていて、

Aクラスのようなノートパソコン、個人エアコン、冷蔵庫等々と設備もあった。

 

「ははは・・・・・ここだけ学校とは思えない作りがされている教室だね」

 

「ああ、今までこの教室に入れたのは俺達だけだろう」

 

「すげぇーな。場違いな場所にいると思わせられる」

 

Sクラスの設備と教室に感嘆している俺達を余所にハーデスはずんずんと歩きだす。

その歩みはSクラス代表の九鬼英雄のところで止まった。

 

「貴様は死神か?我に何の用だ」

 

『・・・・・』

 

英雄の前に引き摺った三人を突きだした。

 

「むっ。その者は我がクラスの者だな。

その者達が貴様に何かしたと言うのであれば我に告げるがいい」

 

『・・・・・』

 

突き出していた三人を思いっきり明後日の方へ投げた後、

スケッチブックに書き始めた。

でも、ここからじゃ見えないからハーデスの横から見る。

 

『・・・・・霧島翔子の髪を切った奴は誰だ?』

 

「霧島?霧島財閥の者の髪を切った者を知りたいだと?」

 

英雄は怪訝な面持でハーデスに発した。その疑問は後ろから解消された。

 

「死神君。代表の髪を切ったのは不死川心って女子だよ」

 

工藤がハーデスに説明した。工藤は目と共に指をとある女子に向けた。

 

「なんじゃ、下賤な輩が此方に何か用かの?」

 

学校なのに学生服ではなく、着物を身に包んでいるおかししな女子が自分から来た。

すると、ハーデスが不死川心という女子に近づき、素早く着物の胸倉を掴んだ。

 

「なっ・・・・・!貴様は・・・・・!?」

 

驚く不死川心の腕に力を籠めて横薙ぎに振るって壁に叩き付けた。

 

「お前、不死川さんに手を出したな!?」

 

「この野郎!」

 

一人のSクラスの男子が拳を突き出してくるが、

ハーデスは簡単に受け止めてはそのまま真上に振るって床に叩き付けた。

その際、思いっきり蹴り飛ばした。

 

「「お前ぇっ!」」

 

飛び掛かる別のSクラスの男子二人に対し、

ハーデスはマントから二丁のガドリングガンを突きだして

ゴム弾をぶっ放した。あっという間にSクラスの生徒達を倒したハーデスに愕然と

した面持ちで見守る俺達だった。

 

『・・・・・お前ら、調子に乗り過ぎだ』

 

どこまでも低く怒気が籠っている声が仮面から発せられた。

 

「うぐっ・・・・・貴様はFクラスの死神じゃな・・・・・!

此方を誰と心得ておるのじゃ!」

 

ダンッ!

 

「みぎゃっ!?」

 

『・・・・・知るか。高が一般人より優れている人間だけだろう』

 

ゴム弾を不死川心のこめかみに当てたハーデス。

 

『・・・・・お前らの愚行はSクラスなんて名乗る資格がない』

 

「我らの愚行だと?我はそんな愚かなことはしていないぞ」

 

「英雄、お前がしていなくてもお前のクラスメートがしたんだ。

不死川の奴は霧島翔子の髪を何でも言うこと聞かせる権利で利用して切ったらしいが

それだけじゃない。木下優子、工藤愛子、霧島の妹の霧島翔花を

さっきハーデスがお前に突き出した三人が肉奴隷扱いをしたんだ。未遂だけどよ」

 

「なんだとっ・・・・・!?」

 

やっぱりか。こいつは知らないでいたようだな。

 

『・・・・・お前らは人間以下の存在だ。社会のゴミにも等しい』

 

ハーデスがどこまでも冷たく言い放った。

 

「なんじゃと・・・・・!此方達をそんなこと言って

タダで済むと思っておるのか!?」

 

『・・・・・なら、こいつでケリを付けるか?』

 

ハーデスはマントからワッペンを取り出して床に叩き付けた。

 

『二年F組の死神・ハーデスはお前達、二年S組の生徒全員と決闘を宣戦布告する』

 

突然の急展開。英雄が応えるまでもなく、

不死川心が自分のワッペンをハーデスのワッペンの上に叩き付けた。

 

「よかろう!受けて立つのじゃ!」

 

「待て不死川よ!代表である我を差し置いて何を勝手に了承しておるのだ!」

 

『・・・・・決闘は成立した。今さら無化にはできないぞ』

 

「待て死神!分かっているだろうが我はそんな事を許した覚えはない!

庶民A共が独断で行ったことであるのに我らSクラス全員が決闘をするなど!」

 

『・・・・・配下の不始末は代表の責任。

俺はお前らSクラスを・・・・・・許す気はない』

 

口の部分から煙を出した。あっ、何だか久し振りだ。

 

「・・・・・分かった。決闘を受けよう」

 

肩を落とした英雄が渋々と了承した。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

『これより、第一グラウンドで決闘が行われます。

内容は武器有りの決闘。見学者は第一グラウンド―――』

 

校内放送が何度も繰り返し全校生徒に知らせる最中。

俺達は当惑の面持で校庭に視線を向ける。

 

「な、なんでハーデスがSクラスの皆と決闘をすることになってんの?」

 

「俺も知りたいところだが・・・・・ハーデスの奴、

翔子達の為に怒っていることはまず間違いない」

 

「そうだね・・・・・何だかハーデス・・・・・怒っていたしね・・・・・」

 

校庭ではたった一人のFクラスのハーデスに、六十人のSクラスが対峙している。

 

「だけど、あんな大勢の相手に一人だけで戦うとは無謀ではないかの?」

 

立会人の下、理事長の川神鉄心が両者の間に立ち、話をしている。そして―――。

 

『いざ尋常に、はじめいっっっ!!!!!』

 

決闘が開始した。

 

 

 

 

 

ハーデスの心は憤怒で一杯だった。それを表に出さす、

冷静に拳や蹴りで敵を倒していく。

遅く見える攻撃をかわし、逆に味方に当てさせ同士討ちを狙い、

一度も攻撃を食らわず無傷で

攻撃をしていると、

 

「死神、覚悟しなさい!」

 

『うるさい』

 

マルギッテ・エーベルバッハが襲いかかってもハーデスは冷たく、

トンファーを蹴り壊しながら校舎にまで吹っ飛ばした。

 

「よう、死神」

 

『・・・・・』

 

スキンヘッドの井上準が朗らかに声を掛けてきた。

 

「一つ訊きたい。どうして俺達に決闘を申し込んだんだ?理由が知りたい」

 

『・・・・・お前らのクラスはゲスだからだ』

 

「理由がなっているようでなっちゃいねぇな。聞いていたが、

どうして俺達に決闘を申し込んだんだ?他にも方法があったはずだ」

 

ドンッ!

 

『・・・・・決闘で全てケリをつける為だ』

 

井上準の鳩尾に拳を突き刺したハーデスの猛攻は、

終わりを見せないどころか止まることすら知らない。

一人ずつゆっくりと最低五回は攻撃を食らわせて倒し、次々と地にひれ伏す。

見学者から見ればハーデスを怖ろしいものを見る目で見ていた。

 

「死神、いい気になるではないのじゃ!」

 

不死川心がハーデスに飛び掛かった。

 

「掴まえた!終わりじゃ超必殺、飛び関節!!!!」

 

『・・・・・逆だ。掴まえさせたのは俺の方だ』

 

ハーデスの手は不死川心の腕を掴んで―――力のあらん限り握った時、

場に嫌な鈍い音が聞こえた。

 

「いぎゃあああああああああっ!?」

 

凄まじい握力で不死川心の腕の骨が握り潰された。

その耐えきれない痛みにハーデスの腕を解いてしまい、

ハーデスに背中から思いっきり踏まれた。地面にクレーターができるほどに。

 

『・・・・・さて、残りは・・・・・・』

 

赤い眼光は七人のSクラスの生徒に向く。二人を除いて顔を青ざめていた。

 

『お前らだけだな?』

 

「こ、こう―――!」

 

一人の男子生徒が両手を上げて必死に何か言おうとしたが、

その口はハーデスの手に塞がれ、同じクラスメートに叩きつけられた。

光のように動き、さらなる獲物の顔に蹴ってふっ飛ばし、

別の獲物には空高く放り投げた。

また別の獲物の胸倉を掴んで何度かグラウンドに叩きつけては横薙ぎで放り投げた。

 

『残り、二人』

 

「っ・・・・・」

 

メイド服を見に包んでいる女性が小太刀を構える。

が、ハーデスと離れているにも拘らずメイドは何かにぶつかったような感じで

吹っ飛んだ。

 

『・・・・・残りはキング』

 

残っている生徒はSクラス代表の九鬼英雄一人となった。

空に放り投げられたSクラスの生徒が落ちてくるに対して落ちてくる

生徒に向かって思いっきり拳を突き刺した。

 

『・・・・・配下の不始末はしっかりと責任を果たしてもらう』

 

突き刺した生徒を無造作に蹴ったハーデス。

 

『お前はただ上を見ているだけで下のことなんて見てはいない』

 

音もなくハーデスは九鬼英雄の隣に佇んだ。

 

『ガッカリしたぞ、英雄様よ』

 

「っ!?」

 

『お前の夢は応援していたんだが、自分の配下の事を把握しきれていないようじゃあ

世界の王になるなんて夢は諦めろ』

 

「お前は・・・・・まさか・・・・・っ!」

 

ドンッ!

 

「ごはぁっ!?」

 

『俺のことを誰にも言うなよ。言ったら・・・・・どうなるか分かっているな?』

 

九鬼英雄は返事をすることも無く意識が失った。

この瞬間、Sクラス総勢六十人はたった一人の最低クラスのFクラスに破れた

事実が神月新聞部によってしばらく話題になった。

 

 

―――十分後―――

 

 

『・・・・・さて、勝者の権利として俺に従ってもらおうかSクラス』

 

意識が戻った半数のSクラスの生徒に向かってそう書いたスケッチブックを

見せるハーデス。

 

「・・・・・我らに何をさせるつもりだ」

 

『・・・・・そうだな・・・・・』

 

九鬼英雄の問いに、ハーデスのマントから刃が備わったトンファーが出てきた。

それを持つハーデスが一閃。その刹那、一部の男子と女子を除いて

Sクラスの生徒達の髪が全て切り落とされ、肌色しか見えない頭部が曝け出した。

 

『・・・・・二学期が始まるまで、一部の男子と女子を除いた全員は坊主頭で

登校してもらおう。そしてAクラスに何でも従わせる権利をはく奪。

他のクラスと戦争をし勝ってもその権利は使用禁止』

 

敗者にそう課した。だが、Sクラスからは当惑と怒気、罵倒が生じた。

 

「か、髪が・・・・・お、俺の髪が・・・・・っ!?」

 

「よ、よくも俺の髪を切ってくれやがったなぁっ!?」

 

「俺達を井上のようにしやがって!」

 

「絶対にお前を路頭に彷徨わせてやる!どんな手を使ってでもだ!」

 

「おい!聞いているのか!?」

 

用は済んだとばかりハーデスはSクラスに背を向けて歩きだしていた。

 

「この骸骨野郎がっ!」

 

そんな態度をするハーデスにブチ切れしたSクラスの生徒が殴りかかった。

理事長の川神鉄心が止めに入る前に、

裏拳で生徒の顔面に強打、肘で強く鳩尾へ突く。

 

「っ~~~!」

 

『・・・・・お前は確か、木下優子に奉仕をさせようと輩だったな?』

 

激痛でハーデスの足元で蹲るSクラスの生徒を今更気付いたように跪いて話しかけた。

 

『・・・・・正式な決闘で俺とお前らの代表が決め合った敗者に何でも言うことを

聞かせる決まり。代表でもないお前らが喚いたところで俺が一人で

お前らSクラスに勝った現実は変えようのない事実であり、

この場に証人がずらりといる。俺の行いは全て合法になる』

 

ペシペシと坊主頭に嘲笑うかのように叩く。

 

『・・・・・今の気分はどんな感じだ?

エリートが平民に負けた気分はどんな感じだ?なぁ、どんな感じだ?』

 

「・・・・・っ」

 

『・・・・・お前達は人を見下し過ぎだ。

だからこんな屈辱的な結果を起こしてしまった。

ま、自業自得だろうから同情なんてこれっぽっちも感じない』

 

立ち上がり、今度こそハーデスはグラウンドからいなくなった。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「・・・・・死神っ」

 

霧島さんがハーデスに飛び付いた。長かった髪は短くてちょっとした揺れなかった。

それはとても痛々しい。

可哀想に・・・・・元に戻るまで何ヶ月も掛かるだろう。

 

「・・・・・ありがとう、私達の為に・・・・・」

 

『・・・・・』

 

どういたしましてと風に霧島さんの頭を撫でる。

 

「死神君・・・・・」

 

工藤さんとその後ろに木下さん。

 

「また、助けられちゃったね。

もう一体どんなことをしてお礼をすればいいのか悩んじゃうよ」

 

『・・・・・気にするな』

 

「気にするよっ。ボク達を守ってくれたんだもん」

 

頬を膨らませる工藤さん。あっ、女の子らしくて可愛い。

ハーデスと交互に見ていると、

 

『・・・・・なら、俺が困った時に手を貸してくれ』

 

「え、それだけでいいの?」

 

『・・・・・今のところそれしか思いつかない』

 

「そっか・・・・・うん、分かったよ」

 

どうやら互いの意見が一致したようだ。

 

「・・・・・死神」

 

今度は木下さんが話し掛けてきた。

 

『・・・・・礼は言わなくて良いぞ?』

 

「あなたがそう言うと思ったから敢えて言わないわ。

でも、今度の平日にアタシはお礼としてあなたにお弁当を作って来て上げるわ。

それが今のアタシなりの精一杯のお礼よ」

 

ぶっきら棒に顔を逸らした木下さんの頬は若干染まっていた。照れているんだね。

 

『・・・・・それは楽しみ。女の子の手作り弁当は初めてだ』

 

そう言いながら木下さんの頭を撫でるハーデス。

 

「それならボクも作って来て上げるよ!」

 

「・・・・・死神、私も」

 

「ちょっ、愛子に代表!?なんでアタシの真似をするの!?」

 

工藤さんと霧島さんが挙手しながらそう発した。

そんな二人に木下さんは目を丸くする。

 

「今思えば、そう言うお礼もいいなって思ったんだよ」

 

「・・・・・愛する夫の為にお弁当を作るのは妻の務め」

 

『・・・・・誰が夫だ。俺に妻はいない』

 

「・・・・・死神、その考えを私の家で変えさせる」

 

 

 

「雄二・・・・・私も作って来てあげる」

 

「お前も便乗するな。作らんでいい」

 

「私も・・・・・好きでもない男に身体を

汚されそうになったのに・・・・・雄二は長馴染みを心配してくれないんだ」

 

「うぐっ・・・・・」

 

「その気持ち・・・・・じっくり家で変えてみせる」

 

「ちょっと待て翔花!お前、お前の家で俺を一体どうする気だ!?」

 

「・・・・・姉さんから借りた動物の調教―――」

 

ダッシュ!

 

「ハーデス!逃げるぞ!」

 

『・・・・・了解』

 

あっ、二人が逃走した。それを追い掛ける霧島姉妹。

 

「雄二はともかく、ハーデスは難儀じゃのぉ」

 

「・・・・・他人の幸せは許さない」

 

「その通りだムッツリーニ!野郎共、あのリア充共を異端審問会で罰するぞ!」

 

『『『『『了解だ島津っ!』』』』』

 

あーあ、皆が行っちゃったよ。

 

「おーい、明久。そろそろ行くぞー」

 

「うん、分かったよ」

 

ハーデス達を放っておく方針を取る大和。まあ、放っておいても大丈夫だよね。

 

『こらぁっ!何を騒いでいる坂本に吉井・・・・・死神だと!?

とうとうお前までそっちに引きずり込まれたか・・・・・俺の拳で

お前を正常に戻してやる!』

 

『げっ、鉄人だとっ!?―――俺達よりあっちで女子更衣室を覗いていた

明久が逃げて行ったぞ鉄人!』

 

『ほう、その情報は本当だろうな?後で吉井も捕まえて

鬼の補習室でボッキリと聞いてやろう』

 

ちょっ、あのバカゴリラァッ!?

なに鉄人に嘘の情報を流して僕まで巻き込むんだよっ!

 

「・・・・・吉井、ちょっとこっちで坂本に言っていたことを

聞かせてもらいましょうか」

 

「吉井君・・・・・私も聞きたいです」

 

「えっ?島田さんと姫路さん!?二人共、雄二の話を真に受けないでよ!

ずっと僕は二人の傍にいたじゃないか!」

 

「問答無用よ!さぁ、吉井。こっちに来なさい!」

 

「お仕置きです吉井君!」

 

「そんなぁっ!僕は何もしていないのに雄二のバカァッ!」

 

僕も二人から逃げる為に逃走する。だけど、運悪く鉄人と鉢合わせし、

鉄拳を食らって無実の罪を着せられたまま補習室へ連行された。

そこには雄二だけがいた。

 

「あれ・・・・・ハーデスは?」

 

「あいつ、逃げ足が風間並みに速い上に・・・・・壁を駆け登って鉄人を撒いたんだ」

 

―――忍者かよ!死神のくせに!


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