バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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第七問である

「ねえねえー大和」

 

「どーしたワン子」

 

「ハーデスってどんな家に住んでいるんだろうね?」

 

「急にどうしたの?」

 

「だって、ハーデスから良い匂いがするんだもん。気になっちゃって」

 

放課後。帰りの支度をするとワン子がそう言いだす。

 

「いい匂いってどんな?」

 

「んーと、甘いの!」

 

「・・・・・言われてみれば、今日はあいつからデザートみたいな甘ったるい匂いがしたな」

 

「そうだね。お菓子でも作っていたのかな?」

 

「聞いてみればいいんじゃね?」

 

キャップの指摘で今教室から出ようとしているハーデスに声を掛けたら振り向いてくれた。

 

「ハーデス、家でお菓子でも作ったか?お前から甘い匂いがするんだけど」

 

『・・・・・そうだがどうかしたか?』

 

「へぇ、お菓子作れんのか?意外だな」

 

「因みにどんなお菓子を作ったんだ?」

 

『・・・・・ワンホールのイチゴショートケーキ』

 

普通だった。普通のケーキだった。

 

「それって誰かに食べさせるために作ったの?」

 

『・・・・・いや、自分用だ』

 

「寂しいなおい!?一人でワンホールのケーキを食べるのかよ!」

 

『・・・・・暇つぶしで作っただけだし、家は俺一人しかいない』

 

おっ、ハーデスの情報ゲット。一人暮らしか。

 

「はい!ハーデスの家に行きたいわ!」

 

「一人暮らしだったら狭いかもしれないがな」

 

「でも、急に押しかけたら迷惑じゃない?」

 

モロの言葉にそれもそっかという雰囲気になるが。

 

「なんだ?ハーデスの家がどうかしたんか?」

 

「何やら興味深い話しをしておるのぉ」

 

「・・・・・ハーデスの家」

 

「遊びに行くなら僕達も行くよ?」

 

明久達までもが興味を示してしまった。

 

「・・・・・死神の家、私も行く」

 

「雄二がいるなら私も・・・・・」

 

「って、翔子と翔花!?お前ら何時の間にいたんだ!」

 

「Fクラス同士で隣同士だからね。渡り廊下の階段から帰ろうかって

話をしていたら聞こえたんだよ」

 

「・・・・・工藤愛子」

 

「死神の家ね。弟が行くならアタシも付き合ってあげない訳も無いわ」

 

「姉上もかの!?」

 

元Aクラスの奴らも現れてきやがった。

 

「てか、言っておいて何なんだが・・・・・お前の家、これだけの人数で入れる広さか?」

 

『・・・・・問題ない。が、俺はバイクで登校している。距離が少し遠いぞ』

 

「距離が遠いってどこだよ?」

 

『・・・・・親不孝通りだ』

 

 

 

 

 

「まーさか、ハーデスの家は親不孝通りにあるなんて信じられん」

 

「あそこって治安が良くない場所なのよね?」

 

「ああ、俺達みたいな生徒が好んで行く場所じゃない」

 

「ハーデスはアレだから、行っても問題なさそうだけどね」

 

「えっと、地図によればこの辺りのはずなんだが・・・・・」

 

家の場所を書いてもらった地図を頼りに俺達は親不孝通りのど真ん中に来ていた。

親不孝通りは立ち入り禁止区域も存在していて、大勢のヤクザやマフィアが

闇に潜むように住んでいるとか。そんな場所にハーデスの家が建っている。

 

「な、何だか人気も無くなってきたし・・・・・怖くなってきたね」

 

「どんな奴が現れてもおかしくない雰囲気」

 

と、戦えない女子を囲むように歩いている俺達。

随分遠くまで進んだが未だにハーデスの家は見つからない。

 

―――ダァンッ!

 

『っ!?』

 

一発の銃声が聞こえた。思わず足を停めて臨戦態勢で警戒していれば、

周りから屈強な男達が凶器を携えて現れた。

 

「ヒュー、こんな場所に正義感溢れる少年少女が来なすったぜぇ?」

 

「お坊ちゃん達。ここはこわーい大人しかいない町だよぉ~?」

 

「痛い目に会いたくなければお家に帰りなー!」

 

白昼堂々と銃を持っている奴は空に向かってぶっ放している。これが立ち入り禁止区域の由来。

銃刀法違反だろうか知っちゃこっちゃないとばかり刃物や鈍器、重火器を持っている。

 

「おいおいどーすんだよ?」

 

「今のアタシ達、武器なんてないからかなりキツいわよ」

 

「それに、戦えないこいつらを守るのも骨が折れるぜ」

 

「モモ先輩も連れてくるべきだったね・・・・・」

 

俺達は窮地に追いやられた。抵抗しても銃が持っている奴に狙い撃ちされるだけで

被害が出てしまう。ここは大人しく引き下がるか?今度はハーデスと一緒に同伴して・・・・・。

 

―――ゾッ!

 

この場をどうしようかと考えていたら、背筋が凍るような感じが突然に襲いかかった。

俺だけじゃない、キャップ達も感じているようだ。冷や汗を流している。

それに周りの屈強な男達が顔を青ざめて異様に身体を震わせていた。

 

「せ、整列っ!」

 

一人の男が叫ぶと、男たちが忙しなく動き、左右に立ち並んで深くお辞儀をした。

そして、俺達の目の前から死神の格好をした奴が現れる。

 

『・・・・・』

 

「あっ、ハーデス!」

 

その人物は俺達をここに来させた張本人だった。

 

『・・・・・銃声が聞こえたから来てみれば・・・・・こういうことだったか』

 

ハーデスは辺りの男達を見回しながらそう書いてあるスケッチブックを見せてくれた。

あの男達がお辞儀をしている理由は・・・・・ハーデスに屈服させられている為だったからか。

徐に仮面を触れたハーデス。正確に言えば口の部分を触れて外し、唇を覗かせてくれた。

 

「・・・・・お前ら、俺の客人が来るから何もするなと言ったはずだが?」

 

とても低い声音だった。あれは平常の声じゃない。怒っている声だ。

 

「す、すいませんでした!そこの学生さん達がアンタの客人とは―――――」

 

「言い訳は無用。こいつらに謝れ。誠心誠意を籠めて。

さもなくば・・・・・この場でお前らの首を刎ねるぞ」

 

ハーデスの発言に屈強な男共はその場で俺達に向かって正座をし、

心からの謝罪の言葉を放ってきた。

 

「次から俺に連絡するか、確認をしてからこの場を通せ。

今日のことはお前らのボスには何も言わないでおく」

 

『あ、ありがとうございます!申し訳ございませんでした!』

 

「散れ」

 

男達は蜘蛛の子が散らばるように建物の影や裏路地にへと消えていく。

その間、口の部分の仮面を付けて俺達に背を向け手を振る。ついて来いと言うことだろう。

 

「・・・・・ハーデスって蒼天から来たんだよな?」

 

「今のハーデス、ヤクザかマフィアのボスみたいだったね・・・・・」

 

「統率力が半端ねぇ・・・・・」

 

ハーデスの後に続く俺達。あいつに声を掛けないまま数分ぐらいして

ようやく目的地に辿り着いた。

 

「え、ビル?」

 

「しかも、見るからに廃屋なビルだな」

 

どこにでもありそうなビルがハーデスの家だった。

だけども、その入口の両脇にはヤクザが好んで着ていそうな服を見に包む

顔が怖い大人二人が佇んでハーデスを出迎えた。

 

「「お帰りなさいませ」」

 

『・・・・・(コクリ)』

 

ただいまと風に挙手をすると二人の男が離れた。まるで警備員のようだった。

ハーデスは玄関に近寄ると鍵穴に鍵を差し込んで中に入った。ドアノブを掴んで開け放つと、

俺達を招き入れてくれた。

 

「コンクリートだらけの家なのかな?」

 

「入ってみりゃわかるだろう」

 

「でも、どうしてこんな場所に・・・・・」

 

疑問を浮かべながらも入る。・・・・・・高級ホテルにいるかのような印象を与える

豪華絢爛な玄関ホールへと俺達は足を踏み込んだ。

 

「ええええええええええええええ!?」

 

「え・・・・・ここどこ?」

 

「建物の外見と中のギャップが違い過ぎるだろう・・・・・」

 

「ハーデスはこんな家の中を一人で住んでいるのかよ・・・・・」

 

愕然としていれば、ハーデスの奴は靴を脱いでどんどん奥へ進んでいく。

水を噴きだす噴水を避けるように進み、

レッドカーペットが床の上を歩いて大きな扉を開けて中に入った。

 

「あそこ・・・・・なんだろうね」

 

「取り敢えず、俺達も行こう」

 

靴を脱いでハーデスが入って行った部屋へ侵入すると、

最新の大型テレビや大きめなソファをはじめ、装飾が凝った複数のテーブルと椅子に食器棚。

壁際には絵画、花瓶。この部屋の奥には厨房と思しきキッチン。

 

「・・・・・色々と凄過ぎて驚きもできない」

 

「高級感が溢れているよこの部屋」

 

易々と触れていいものではないと凡人な俺でも分かる。

この家の主は人差し指でテーブルに差していた。座れという意味だろう。

その通りに座っていると、ハーデスは特大なワンホールのケーキを持ってきた。

 

「でかっ!?」

 

「これを、ハーデスが作ったのか・・・・・」

 

「うわ、甘い匂いがして美味しそう」

 

後にコーヒーと麦茶、紅茶の他にも緑茶と色んな飲み物までもが用意してくれた。

 

「用意する飲み物のバリエーションが豊富すぎるだろう」

 

「でも、ありがたいわ」

 

人数分をカットしたケーキを俺達の前に置いてくれる。

 

『・・・・・食べていいぞ』

 

そう言う事なら食べさせてもらおう。いただきますっと。

 

「・・・・・うーん、美味しい!」

 

「甘いけど、甘すぎていなくてスポンジがフワフワで、

噛むとプリンのように蕩けちゃうなんてこんなケーキは食べたことが無いわ」

 

「苺も酸味があって美味しいわ!それに大きい!」

 

「クリームと一緒に食べると酸味も相まってさらに美味しいよ」

 

評価は絶賛好評だった。店に出しても問題ないと文句のつけようもない。

 

『・・・・・』

 

ハーデスも自分で作ったケーキを食べている。

 

「死神君、シュークリームって作れるかな?」

 

『・・・・・大抵のお菓子とかデザートは作れる』

 

「本当?だったら、シュークリームを作ってくれないかな?

お礼にボクのおっぱいを見せてあげるよ♪」

 

「・・・・・っ!(ブシャァアアアアっ!)」

 

『・・・・・人の家を汚すな(パチン)』

 

ハーデスが指を弾いたかと思えば、土屋が噴いた鼻血が一瞬で凍結した。―――凍結だと!?

 

『・・・・・本気でもないことを言うな。作らないぞ』

 

「アハハ、ゴメンね」

 

頭を掻いて苦笑を浮かべる工藤。

 

「これ、固まっているよ」

 

「本当、いったいどうなったらこうなるのかしら」

 

「・・・・・自分で出して固まるとは摩訶不思議・・・・・」

 

明久達は固まった土屋の鼻血を触って不思議そうにしていた。

 

「それにしても贅沢な内装の部屋だな。お前だけ一人住んでいるなんて明久以上の贅沢だぞ」

 

「見た限り、ゲームとかなさそうだね」

 

『・・・・・あることはある。別の部屋に』

 

「それってハーデスの部屋?」

 

首を横に振って否定したハーデス。

 

『・・・・・地下一階』

 

「地下ぁっ!?九鬼家じゃあるまいし地下なんてあるのかよ!?」

 

『・・・・・地下三階まである』

 

どんだけあるんだよ地下!どうやったらそこまで建てれるんだよ!?

そんな家があってたまるか!

 

「地下三階ってその階層になにがあるの?」

 

モロが聞くとハーデスはスケッチブックにこう書いてあった。

 

『・・・・・地下一階はゲームセンター、地下二階はプール広場、

地下三階はトレーニングルーム』

 

「地下にプール?本当にあんの?」

 

『・・・・・ある。夏は地下のプールで一人過ごすことが多い』

 

「へぇ、羨ましいな。けどよ、こんな家に住んでいてお前の家族は一緒に住んでいないのか?」

 

何気のない坂本の一言。ハーデスはこう返した。

 

『・・・・・家族は俺が小さい頃。強盗に殺されて天涯孤独になったんだ』

 

―――――っ!?

 

ハーデスの辛い過去が書かれていた。

 

「・・・・・雄二・・・・・!」

 

「・・・・・悪い、聞いて俺が無神経だったな」

 

バツ悪そうに坂本は謝罪する。ハーデスは気にするなとばかり首を横に振ったんだが、

意外だったな。ハーデスの身にそんなことが起きていたなんて。

だからこそ滅多に喋らなくなったんだろう。

 

「と、ところでハーデス!あの怖い人達は一体何なの?」

 

『・・・・・この辺りを巣くうヤクザとマフィアの下っ端達だ。

治安を良くしようと幹部とボス達を片っ端から倒していたら俺に何故か忠誠を誓い始めたんだ。

そのおかげでヤクザとマフィアのボスの一人娘とお見合いをさせられる

羽目になりそうだった。その娘達も俺を見て一目惚れする始末だ』

 

「・・・・・死神、その娘達とのお見合いは断わった・・・・・?」

 

霧島がスタンガンを手にしてハーデスに問うた。返答次第では許さないと言った感じだったが、

ハーデスはコクリと頷いた。

 

『・・・・・断わった』

 

「・・・・・そう、安心した」

 

『・・・・・お前の愛は重くてしょうがない』

 

肩を落とすハーデス。良いじゃないか、可愛い女の子に想いを寄せられてよ。

 

「・・・・・その重さが死神の事を想っているあ・か・し」

 

「私も・・・・・姉さんに負けないぐらい雄二のことを想っている」

 

『・・・・・坂本、苦労するな互いに』

 

「ああ・・・・・男は弱い生き物だ。強く生きようハーデス」

 

どこか嬉しそうに言う坂本だった。

同士が見つかったとばかりに目の端に涙を溜めていたほどだ。

 

「はー、ごちそうさま!とても美味しかったわ!」

 

ワン子の発言は同意だ。カットされたケーキを胃の中に入れてしばらくする。

 

「見かけによらず、死神はデザートを作れるなんてね。

・・・・・女のプライドを刺激してくれちゃって・・・・・」

 

「姉上は料理なぞ一切しないからのぉー。乙女とは裏腹のぉおおおおおおあ、姉上!

ワシの腕の関節はそっちには曲がらんのじゃぁぁぁああああああっ!?」

 

『・・・・・あいつらは何やってんだ?』

 

「聞いてやるなハーデス。あれは一種の姉妹のコミュニケーションだ」

 

「待て直江よ!今お主は姉『妹』と言わんかったかの!?」

 

あいつ、俺との位置の距離があるっていうのによく聞こえたな。

 

『・・・・・そろそろ帰った方が良いぞ。夜は賑やかになるからな』

 

「賑やか?」

 

『・・・・・町の不良共が活発になると言った方が早いか?』

 

それもそうか、時間が時間だしそろそろ帰った方が賢明だろう。

次来る時は姉さんも連れて来よう。そんで武器の所持もだ。

 

『・・・・・駅が見えるところまで送ろう。俺がいれば手出しする輩はいなくなる』

 

「どんだけここは治安の悪い場所なんだよ」

 

『・・・・・俺が歩けば閑古鳥のように静かになるぞ』

 

お前はどれだけのヤクザとマフィア、不良達を鎮圧したんだ!?


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