バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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第六問だな

吉井明久さまへ

 

突然ですが、吉井君にどうしても伝えたいことがあって、お手紙を書かせていただきました。

 

驚かせてしまったらごめんなさい。

 

 

吉井君は覚えているでしょうか?私と吉井君は小学校三年生のころ、

初めて一緒のクラスになったんですよ?そのときから、ずっと面白い人だなあと思っていました。

クラスのムードメーカーで、いつも楽しそうで、なにか問題が起きたときは

みんなを励ましてくれたり、初めて私がクラス委員になったとき、色々助けてくれたり。

そんな吉井君のことを、えらいなあと思っていました。グループに加わって

遊んだりとかはしていませんでしたけど、吉井君がグラウンドや教室にいるのを見ているだけで、

心が温かくなりました。

 

 

中学はクラスが別々になってしまいましたが、噂は時々聞こえてきました。

たまにバッタリ会って、挨拶すると、なぜかドキドキしてしまって、あれ?なぜだろう、

と思ってしまいました。高校も偶然でしたが、同じ学校だと知って、本当に嬉しかったです。

 

 

そして、振り分け試験の時に私をかばってくれたことで、

吉井君のことを本当に意識するようになって―――これは好きだってことなんだな・・・・・って、

今更なんですが、気が付きました、

 

 

あなたのことが好きです

 

 

今はこの気持ちを伝えるだけで精一杯なんですが、吉井君に私の気持ちを知ってもらって、

徐々にもっと仲良くなれたらいいな、と思っています。一方的な手紙でごめんなさい。

あと、誰か付き合っている人や好きな人がいる場合は、本当にすみません。

でもでも、好きです。大好きです。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

『・・・・・』

 

可愛らしいピンクの封筒がハーデスの下駄箱に入っていた。

どうやらこの差出人は入れる生徒の下駄箱と入れ違ったようだ。

しかし、下駄箱に生徒の名前があるのに入れ違うものなのか?ハーデスは内心小首を傾げ、

取り敢えず直接本人に手渡そうと手紙を封筒の中に、そしてマントの中に仕舞った。

四階建ての神月学園。世界から注目されている『試験召喚システム』を開発した国、

蒼天から試験校として選ばれた神月学園も注目され、この学校に入学してくる生徒も多い。

死神・ハーデスは蒼天からの編入生、

そして、ハーデスの姿は二学年の間で既に覚えられている。廊下を歩いていると、

 

ガチャッ。(第二のFクラスの扉が開く音)

 

ガシッ。 (ハーデスを掴む音)

 

バタンッ。(ハーデスがFクラスに拉致された音)

 

「・・・・・おはよう、死神」

 

『・・・・・どうして教室に拉致して開口一番に挨拶の言葉が出てくる?』

 

「・・・・・おはよう、死神」

 

『・・・・・おはよう』

 

ハーデスを拉致した張本人、第二のFクラス代表の霧島翔子。過去に助けた一人。

 

『・・・・・教室に行っていいか?』

 

「・・・・・まだ、時間がある」

 

『・・・・・お前がFクラスに来ても同じだと思う』

 

「・・・・・」

 

霧島翔子はギュッとマントの中を潜り込んで直でハーデスに抱きついた。

―――その時、霧島翔子は何かを見つけた。

 

「・・・・・死神、これ・・・・・なに?」

 

マントから出て来て霧島翔子の手にはラブレターが握られていた。

それをハーデスが大切に持っていたということは・・・・・。

 

「・・・・・誰からの手紙?」

 

不気味なオーラを発し、バチバチと電気が迸らせているスタンガンをハーデスに見せびらかす。

脅迫するそんな霧島翔子に対し、スケッチブックで伝えようとする。

 

『・・・・・それは吉井明久のものだ。送り主が俺の下駄箱と吉井明久の

下駄箱といれ違いをしたようだから直接本人に渡そうと思って持っていた』

 

「・・・・・そうなの?」

 

『・・・・・確認すれば一目瞭然だ』

 

送り主に対して申し訳ないと思いつつ封から手紙を取り出して内容を読み始める霧島翔子は、

納得した面持ちで頷き封に入れ直してハーデスに手渡した。

 

「・・・・・ごめんなさい」

 

『・・・・・気にするな』

 

ポンと包帯だらけの手を霧島翔子の頭に乗せ、優しく撫でた後。踵返して第二のFクラスを後にした。

 

「・・・・・あ、行っちゃった」

 

第二のFクラスから出て、Fクラスの戸を開き、

目的地に足を踏み込んだ。

既に何人かのクラスメートがおり、

のんびりと寛いでいた。HRまで自分の席=場所に腰を下ろしていると、Fクラスの生徒達も

増え続け段々賑やかになる。ハーデスの町人が中々現れないままHRの時間寸前になっていた。

そして、待ち人は来た。ハーデスは立ち上がり、待ち人の前で立ち止まる。

 

「ん?ハーデス?」

 

観察処分者に課せられた吉井明久がハーデスから突き出されたラブレターにキョトンとする。

 

『・・・・・お前のだ』

 

「僕の・・・・・?」

 

ハーデスから手紙を取った吉井明久にハーデスがスケッチブックで告げる。

 

『・・・・・俺の下駄箱に入っていた。だが、中身の内容は吉井明久に対する告白だった』

 

刹那。

 

『なんだとぉぉぉぉっ!?』

 

スケッチブックに書かれた文字を見たFクラス男子達が悲鳴を上げ、殺気立つ。

 

「どういうことだ!?吉井がそんなものを貰うなんて!」

 

「それなら俺達だって貰っていてもおかしくないはずだ!自分の席の近くを探してみろ!」

 

「ダメだ!腐りかけのパンと食べかけのパンしか出てこない!」

 

「もっとよく探せ!」

 

「・・・・・出てきたっ!未開封のパンだ!」

 

「お前は何を探しているんだ!?」

 

急に教室がさらに騒がしくなったことでハーデスは小首を傾げた。

 

「ねえ、吉井。ちょ~っと話を聞かせてもらえる?」

 

黄色いリボンで赤毛をポニーテールにした女子生徒、島田美波が吉井明久の肩を掴んだ。

 

「あ、あはは・・・・島田さん、顔が怖いよ?」

 

「それ、本当にアンタの?どうなの?告白が書かれているって本当なの?」

 

「ハーデスに渡された僕が知りたいところなんだけど・・・・・」

 

怖い表情で吉井明久に問いだす島田美波は困惑する吉井明久に業を煮やし、

 

「いいからおとなしく指の骨を―――じゃなくて、手紙を見せなさい」

 

断われば指の骨を折ると言いたかったのだろうか?

 

「あの、吉井君」

 

ウェーブが掛かった豊かな桃色の髪に兎の髪飾りを付けている

女子生徒の姫路瑞希に声を掛けられたが、

 

「お前ら!なぁに騒いでおるか!席に付け、HRを始めるぞ!」

 

Fクラス担当教師、趣味はトライアスロンという筋肉隆起がスーツから分かるほど

鍛え上げられた肉体を窺わせる中年男性、西村宗一の一喝で騒ぎは一瞬で静まった。

 

「吉井、また貴様か?」

 

「僕じゃないですよ!なにか騒ぎを起こす度に僕を目の敵にしないでください!」

 

「お前と坂本は問題児の中で問題児だ。俺の私物を売ったバカだからな」

 

「・・・・・意外とまだ根に持っていたんですね」

 

「ほう、俺の補習を受けたいとはいい度胸だな?」

 

「うぎゃあああああああああ!」

 

ハーデスは叫ぶ吉井明久を余所に自分の場所へ戻った。

 

 

―――☆☆☆―――

 

「工藤」

 

「吉井コロス」

 

「久保」

 

「死ね吉井」

 

「近藤」

 

「吉井マジ殺す」

 

「斎藤」

 

「バカ死ね」

 

西村宗一の出席の取り始めに呼応して未だに殺気立っているクラスメート達の返事は

吉井明久に対する罵倒だった。ハーデスはこのクラスの特徴をここで初めて理解し始めた。

―――他人の幸福はドブ以下、他人の不幸は蜜の味と。

 

「皆落ち着くんだ!なぜだか返事が僕への罵倒に変わっているよ!」

 

「吉井、静かにしろ!」

 

「先生、ここで注意するべき相手は僕じゃないでしょう!?

このままだとクラスの皆は僕に殴るけるの暴行を加えてしまいますよ!」

 

・・・・・ハーデスは今度から渡し方を隠密にしようと決意した瞬間だった。

 

「新田」

 

「吉井ブチ殺す」

 

「布田」

 

「吉井滅殺」

 

「根岸」

 

「吉井瞬殺」

 

もはやこのクラスメートたちは吉井明久を殺すことで頭にいっぱいのようだ。

それを黙認する教師もきょうしだが・・・・・。ハーデスは仮面の中で呆れ顔になる。

 

「よし。遅刻欠席はなしだな。今日も一日勉学に励むように」

 

出席簿を閉じ、教室を後にしようとする西村宗一。

 

「待って先生!行かないで!可愛い生徒を見殺しにしないで!」

 

保身のために、必死に西村宗一を呼び止める吉井明久。

 

「吉井、間違えるな」

 

西村宗一が扉に手を掛けたまま告げる。間違い?何が言いたいんだ?

ハーデスは静かに耳を傾ける。

 

「お前は不細工だ」

 

「武細工とまで言われるとは思わなかったよバカ!」

 

以下同文・・・・・。

 

「授業は真面目に受けるように」

 

「先生待って!せんせーい!」

 

吉井明久の叫びも空しく、西村宗一は教室を出て行ってしまった。

これでもうクラスに満ちる殺意に歯止めを掛ける者はいないだろう。

 

「あ、あの吉井君」

 

「ん?なに?」

 

「その・・・・・できれば、ですけど・・・・・私にも手紙を見せてほしいです・・・・・」

 

先ほど言い掛けた言葉の続きを言おうとするのだろう。

姫路瑞希はモジモジト困ったように俯く。

 

「その・・・・・ごめん」

 

吉井明久は申し訳なさそうに断わる。

 

「でも、でも・・・・・!」

 

それでも食い下がってくる姫路瑞希。

 

「いくら姫路さんの頼みでも、コレばかりは」

 

「でも、私は吉井君に酷いことをしたくないんです!」

 

「ちょっと待って!姫路さんまで僕に暴行を加えることが前提なの!?」

 

ダメだこのクラス、味方があまりにも少ない。

ハーデスはこんなクラスもあるのかと愕然とする。

 

「皆、ちょっと落ち着け」

 

そんな中、パンパンと手を叩く音が教卓の方から聞こえてきた。

このFクラスの代表である坂本雄二の声だ。

 

「今問題なのは明久の手紙を見ることじゃない」

 

坂本雄二がクラスの皆に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「問題は、明久をどうグロテクスに殺すかだ」

 

「前提条件が間違ってんだよ畜生!雄二のバカクソ赤ゴリラァッ!」

 

荷物を引っ掴んで教室から奪取出に逃走する吉井明久。

 

「―――ガクト、ワン子。坂本に天誅だ」

 

「「りょーかい!」」

 

筋肉隆起の長身男の生徒と赤よりの茶髪のポニーテールの少女が立ち上がった。

知性的な顔をしている男子生徒の指示に従うために。

 

「なっ!?直江、なんで俺に攻撃を仕掛けようとする!」

 

思わぬところからの攻撃に坂本雄二は慌てふためく。

 

「あいつは風間ファミリーじゃないが。大事なバカ友だ。

理不尽な暴力に合うあいつを見過ごすと思うか?その元凶の一つのお前も罰を与える。

聞け、Fクラスの男子諸君!」

 

『・・・・・?』

 

「代表に好意を抱いている女子がいる。しかもその女子は第二のFクラスにいるぞ」

 

『なっいぃぃいいいいいいいいいいいっ!?』

 

「ちょっと待てぇえええええええええええええええっ!」

 

坂本雄二に好意を抱いている空き教室のFクラスの女子。

その女子を脳裏で受けべていたハーデスの考えを上回る行動をFクラス男子がする。

 

「坂本も同罪だ!」

 

「許すまじ!」

 

「吉井と共に殺セェェエエエエエッ!」

 

嘘にも気付かない大馬鹿共が暴走する。

 

「いや、明久よりその女子と同棲してイチャイチャニャンニャンしている

代表を殺した方が良いぞ。しかも毎日しているそうだ」

 

『・・・・・(怒ッッッ!!!!!)』

 

Fクラスの男子生徒達の怒りの矛先は坂本雄二に向けられた。

ラブレターと同棲の羨ましい度合いの天秤を計るまでもないのだろう。

坂本雄二は直江に食って掛かる。

 

「それを言ったら直江大和はどうなる!?同じ寮にいる椎名と一緒だろうが!

ある意味それも同棲と捉えるぞ!」

 

「・・・・・」

 

直江大和と呼ばれた男子生徒の頬に汗が流れた。

 

「・・・・・そう言えば、そうだったよな」

 

「毎朝、椎名と川神と川神先輩と一緒に登校しているよな・・・・・?」

 

「ということは・・・・・」

 

男子達の怒りの矛先は二つに別れた。坂本雄二と直江大和にだ。

 

『『『『『貴様ら二人も纏めて天誅じゃっ!!!!!』』』』』

 

「「この野郎!後で覚えていろよ!」」

 

二人は教室から逃走した。

 

『・・・・・』

 

ハーデスは一部の男子と女子しかいない教室でこう書き残し、教室からいなくなった。

 

『・・・・・このクラス。バカばっかりだ』

 

「ハーデス、身も蓋もないことをたまに言うのぉ。事実じゃがな・・・・・」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

旧校舎の古書保管庫。その中で僕は緊迫の面持ちで身を潜んでいる。

 

「どいつもこいつも・・・・・僕の周りは敵ばかりで、風間ファミリーだけが

味方なんて何の環境だよ」

 

島田さんはともかく、あの姫路さんまでもが暴力を加えようとしてくる。

小学生時代の姫路さんは兎のように可愛かったのにどうして

あそこまで変わってしまったんだろうか。

 

「・・・・・やっぱり、Fクラスに入っちゃったせいかな・・・・・姫路さんは

環境も設備もいいAクラスの方がいいよね」

 

今は第二のSクラスとなっているが、彼女が第二のSクラスになれば

暴力的な考えも無くなるだろう。だとすれば、ここはこんな状況を追いこんだゴリラと結託して、

Sクラスに勝たないといけない。

 

「・・・・・それにしても、皆が来ないな?」

 

怒り狂い暴徒と化となった皆が僕を探しに来ない訳がない。何か遭ったのかな・・・・・?

 

『・・・・・』

 

「うわぁっ!?」

 

目の前に何時の間にかハーデスがいた!赤い目が突然に視界に飛び込んできたから

びっくりしちゃった!

 

「ハ、ハーデス・・・・・?」

 

ドギマギしながらも声を掛けた。

スケッチブックで意志表示しようとペンを走らせては僕に見せてくれる。

 

『・・・・・Fクラスの男子は坂本と直江を追って行った。お前の身に及ぶ危険性は多分ない』

 

「ちょっと待って。どうしたら二人に追いかけるようになったの?」

 

『・・・・・売り言葉買い言葉・・・・・としか言えない』

 

・・・・・そ、そうなんだ・・・・・。

 

「じゃあ、僕は安心して教室に戻れるんだね」

 

『・・・・・それまで守ってやる。あの場で俺が手紙を渡してしまった原因でもあるしな』

 

「ありがとう。助かるよ」

 

物凄く心強い味方が僕に付いてくれる。これほど安心できる奴はいないだろう。

なので、ハーデスを引き連れて堂々と古書保管庫から退出する僕。

 

『・・・・・』

 

いきなりハーデスが僕の前に現れて僕の目では捉えきれないぐらい腕を動かした。

その手に握られているのは―――ボールペンやシャープが握られていた。

 

「誰だっ!」

 

「・・・・・裏切り者には、死を」

 

手に各種文房具を構えているのは、クラスメイトの土屋康太だった。

その旺盛な性的好奇心とその気持ちを隠そうとする姿勢から、

ムッツリーニとも呼ばれている僕の友人。

いや違う。今は友人じゃなくて、倒すべき敵だったな!

 

「・・・・・死神、そこをどけ」

 

『・・・・・悪いな。こうなってしまった原因は俺でもあるから謝罪の意も籠めてこいつを守る』

 

「・・・・・ならば、共に―――」

 

ガチャッ。

 

・・・・・ガチャ?

 

ハーデスの後ろにいるため、何を持っているのかここからじゃ見えない。

だけど、何故だかムッツリーニが物凄く顔が青くなっている。

 

「どうしたの?ムッツリーニ?」

 

気になりハーデスの前に移動すると・・・・・ハーデスの両手に

とんでもないものが握られていた。

それはこの学校にあってはならない代物であることが誰の目でも見ても明らかで、

殺傷能力が優れている鉄の塊だった。―――ガトリングガン。しかも片手で持っているため、

計2つをムッツリーニに突き出して構えている。

 

「・・・・・降参する」

 

『・・・・・』

 

両手を上げるムッツリーニの姿にハーデスは物々しい武器をマントの中に入れた。

 

「ねえ、今それをどうやって出し入れしたの?」

 

『・・・・・企業秘密だ』

 

ハーデスは僕の腕を掴んで三階に上がろうと階段に向かう。

 

「あ、ねえハーデス。屋上に行きたいんだけど」

 

『・・・・・どうしてだ?』

 

「えっと、手紙を読みたいんだ」

 

『・・・・・』

 

だけど、ハーデスは了承してくれなかった。

 

『・・・・・屋上に女子が待っているような内容はなかったぞ』

 

「え、そうなの・・・・・?」

 

『・・・・・誰だか知らないが、お前のことを昔から知っている少女からのラブレターだった。

読みたければ家で読め』

 

そう書かれたスケッチブックを見せられ、僕は渋々と頷く。現在地は二階だから、

ハーデスと共に廊下を歩き、三階のFクラスに戻るために階段を昇る。すると、その踊り場で、

 

「吉井っ!見つけたわよ!」

 

「げぇっ!島田さん!?」

 

僕の点敵と遭遇した。肌にビリビリと伝わってくる殺気。一触即発の気配。

ハーデスの背後に隠れ、全身を緊張させながら、階段の踊り場で向こうの出方を見る。

すると、彼女は意外にも落ち着いた足取りで僕達に歩み寄り、こんな選択を迫ってきた。

 

「おとなしく手紙を渡して殺されるか、殺されてから手紙を奪われるか、好きな方を選びなさい」

 

おかしい。僕が生きている選択肢が見当たらない。

 

「ハーデス、やっちゃって」

 

『・・・・・』

 

ここは僕が生きるためにハーデスを仕掛けさせる!案の定、島田さんは叫んだ。

 

「卑怯よ!ハーデスを仕掛けるなんて!

ウチじゃハーデスに勝てないことを知っているでしょうが!」

 

「だからこそだよ!僕が生きている選択肢がない選択を選ばせる

島田さんは人の皮を被った鬼だ!」

 

「なんですってぇっ!?」

 

「それにどうしてそんなにこの手紙にこだわるのさ!島田さんには関係ないじゃないか!」

 

島田さんに向かってハッキリと言った。今の僕はハーデスに守られているから安心を得ている。

だから余裕を持って疑問をぶつけれる。

 

「ウチには関係ないって、酷い・・・・・!吉井は本当にそう思っているの・・・・・?」

 

「え・・・・・?」

 

島田さんが急に傷付いたような表情になる。

さっきの言葉の意味を考えると、島田さんは僕に彼女ができるということに

対して関係があるってこと?

 

「まさか、それって」

 

「だって、ウチ・・・・・」

 

いつもと違ってしおらしい島田さんの様子に、何故か僕の鼓動が速くなる。

この感覚は一体何だろう。

 

「ウチは吉井が彼女を作れるわけ無いと思っているし、吉井に彼女なんて作らせる気なんて

吉井が死んでもさせないから!」

 

「『・・・・・』」

 

速くなっていた鼓動が急に冷めた感じで治まった。

僕の青春は、この学校にいる間はできそうにないことを思わず天に仰いで

遠い目で天井を見やった。目から頬にかけて流れている液体はきっと汗だと思いたい。

 

 

 

ピッ―――《吉井が彼女を作れるわけ無いと思っているし、吉井に彼女なんて

    作らせる気なんて吉井が死んでもさせないから!》

 

 

 

「ハーデス、それ、僕の前で再生しないで。僕の心のガラスハートに罅が入るから」

 

「って、アンタはまたウチの邪魔をしようっていうのねっ・・・・・!」

 

あれ、どうして島田さんは怒るんだろうか・・・・・。

そんな事を思っているとハーデスに担がれ―――、島田さんを飛び越して

一気に三階の廊下に辿り着き、あっという間にFクラスに帰ってこれた。

 

「あ、明久!無事だったんだね、よかったわー」

 

パタパタと畳の上で掛けてくる一子。

 

「死神に助けられたんか。まあ、無事で何よりだ」

 

「後は大和と坂本が無事教室に戻ってこれるかだな」

 

畳に下ろされ、僕は風間ファミリーに囲まれながら席に座った。

 

「まだ大和と雄二が返って来てないの?」

 

「ああ、あいつらの腐った根性が凄まじいみたいだぜ」

 

「んで、さっき鉄人が騒ぎに掛け付けて鎮圧しているところだと思う」

 

翔一が説明してくれたところで、

 

「吉井!ウチに手紙を寄こしなさい!」

 

島田さんが現れた!

 

「ハーデス、お願い!」

 

『・・・・・』

 

僕のお願いでハーデスは一瞬で島田さんの背後を取り、

何故だか亀甲縛りと言う縛り方をして動きを封じてくれた。

 

「・・・・・あいつ、あんな縛り方ができたんだね」

 

「はえぇ・・・・・一瞬だったぞ」

 

「女に対して容赦がないね」

 

「ちょっと!なんなの、こ、この縛り方は・・・・・!

身体の至るところに食い込んで・・・・・っ!」

 

ついには島田さんは教室の天井に吊るされて、そのまま拷問という恥辱の時間が訪れた。

しばらくして雄二や直江が頭にタンコブがいくつも作って、

Fクラス男子生徒達もタンコブを作って帰って来て、吊るされている島田さんを見て―――。

 

『ふぉおおおおおおおおおっ!!!!!』

 

一部の男子を除いて興奮した。その後、僕はなんとか手紙を読むことはできた。

差し出し人の名前が書いてなかったけど。

 

「まさか、ね・・・・・」

 

この手紙の差出人が彼女とは思えなかった。

だけど、もしこれが本当に彼女だったら僕は・・・・・。


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