バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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はい、第四問だよ

「残念だったね。大和と翔一」

 

「流石に点数だけの勝負じゃ負けるな」

 

「後はハーデスと木下、明久と坂本ペア、島田と姫路ペアだけだ。しっかり頑張れよ」

 

「うん、頑張るよ」

 

『・・・・・』

 

あれ、ハーデス?ホールに出てきちゃダメじゃないか。

 

「ん?ハーデス、どうしたんだ?」

 

「・・・・・あ。俺、用事が思い出した。ちょっと―――」

 

ガシッ!

 

ハーデスが大和の首根っこを掴んで大和をどこかへと連れて行った。

 

『お、おい!本気で俺を―――!?待て!他のことならするがこれだけは!―――あああああ!』

 

「・・・・・」

 

えっと・・・・・ハーデスが大和に何かしたのは分かった。でも、一体なにをしたのだろうか?

しばらく固唾を呑んで待っていると・・・・・。

背中まで伸びたショートヘアにチャイナドレスを身に包んだ人物がハーデスと共に現れた。

 

「えっと・・・・・誰?」

 

「ぐすっ・・・・・俺だよ」

 

「え・・・・・・えええええええ!?」

 

『・・・・・結構いい仕上がり。土台が良かったから可愛いい』

 

た、確かに・・・・・男とは思えないほど大和は女の子っぽくなった。

 

「・・・・・ハーデス」

 

あっ、ムッツリーニ。何時の間に・・・・・。

 

『・・・・・なんだ?』

 

「・・・・・新しい商品の発掘、感謝する」

 

「ちょっと待てムッツリーニ!まさか、この姿の俺を販売する気か!?」

 

「・・・・・(カシャ!カシャ!カシャ!)」

 

「無言で勝手に撮影するな!俺の黒歴史の一ページが増えるぅっ!」

 

大和がちょっと壊れていく。でも、可愛いからいいじゃないか。

 

『・・・・・土屋』

 

「・・・・・なんだ?」

 

『・・・・・直江は学園祭中この姿だ。存分に撮れ。限定商品として悪くない』

 

「・・・・・!」

 

ムッツリーニのカメラのフラッシュが止まらない。

 

『・・・・・大丈夫だ、直江』

 

「なに・・・・・?」

 

大和の肩に手を置いた。

 

『・・・・・俺は天才だからな。お前の黒歴史が増えようが増えまいが関係ない』

 

「ちょっと待て!お前、どうして俺の黒歴史の一部を・・・・・!?」

 

『・・・・・カマを掛けたつもりだったんだけど・・・・・本当に言ったんだな』

 

「―――――はっ!?」

 

語るに落ちるみたいなことになった大和。ほら、顔が物凄く耳まで真っ赤に染まって―――。

 

『・・・・・まさか、人生は死ぬまでの暇つぶし・・・・・なんてこと言わないよな?』

 

「止めて!もうこれ以上何も言わないで!俺のHPはゼロだよ!」

 

そう言って大和はハーデスから離れホールに行ってしまった。

 

『・・・・・大和?お前、ついにそっちの趣味に走ったのか?』

 

『ち、違う!これはハーデスと交わした罰ゲームをしているだけだ!』

 

『か、可愛いです・・・・・』

 

『はは、大和も僕と同じ目に遭ったんだね。―――良い気味だよ?』

 

『モロが黒くなっただと・・・・・!?』

 

『お姉様に写メールをするわ!』

 

『止めろワン子!そんなことされたら俺は姉さんの中で女装好きの舎弟と認識されちゃうから!』

 

『・・・・・(パシャ!パシャ!パシャ!)』

 

『土屋もいい加減に撮るなぁっ!』

 

大和・・・・・強く生きるんだよ。

 

「おーい、吉井。手が離せなくて悪いけど、茶葉と餡子を持ってきてくれないか?」

 

「須川君?分かったよ。ハーデス一緒に来てくれない?」

 

ハーデスとストックの置いてある空き教室へと向かう。

あっ、いくつぐらいもっていけばいいかな?きちんと数を聞いておけばよかったな。

 

「ところでハーデス。何時の間に大和とあんな約束をしたんだい?」

 

『・・・・・秘密だ』

 

スケッチブックにそう書いて教えてくれなかった。まあ、大和のあんな姿はとても

新鮮だったからよしとしよう。

 

「おい」

 

「うん?」

 

空き教室の中で考えていると後ろから声がかかった。声の主は同年代くらいの男三人組。

困ったことに勝手に空き教室に入ってきている。

 

「ああ、ここは部外者以外立ち入り禁止だから出て行ってもらえます?」

 

うちの学校では見たことのない顔だから、きっと他校の生徒だろう。道に迷ったのかな?

 

「そうはいかねぇ。死神と吉井明久に用があるんでな」

 

そう言って、向こうの一人が後ろ手で扉を閉めた。

 

「へ?僕らに何か?」

 

「お前らに恨みはねぇけど、ちょっと大人しくしててくれや!」

 

言うや否や、拳を固めて殴りかかってきた。えぇっ?なんで?

 

『・・・・・』

 

動揺する僕の目の前にいるハーデスの身体に―――相手の拳がすり抜けた。

 

「は・・・・・?」

 

唖然となる相手だったけど、残りの二人も飛び掛かりハーデスを攻撃する。

でも、動かないハーデスの身体をすり抜けるだけだった。

 

「な、なんだよこいつ!?身体がすり抜けるって聞いていねぇぞ!」

 

「こいつ、本当に死神なのか!?冗談じゃねぇぞ!」

 

「―――ひっ!?」

 

一人が悲鳴を上げる。その理由は至極的簡単だ。ハーデスがどこからともなく

大鎌を取りだして宙に浮いたからだ。

 

『・・・・・誰から魂を狩られたい?』

 

次の瞬間。

 

「「「ご、ごめんなさぁぁああああああいっ!!!!!」」」

 

見知らぬ三人が脱兎の如く僕達の前から走り去った。彼らがいなくなるとハーデスは床に

降りて餡子が入った箱を数個手にした。

 

『・・・・・行くぞ?』

 

「あ、うん。分かったよ」

 

茶葉のストックを何個か手にし、空き教室から出る。

 

「ハーデス。あの連中、なんだったかわかる?」

 

『・・・・・』

 

両手が塞がっているからかスケッチブックで伝えようとしない。

代わりに「さぁな」と感じで肩を竦める。

再び教室に入り、大繁盛している喫茶店へと戻って行った。

 

 

 

―――――そんなこんなで二時間が過ぎ―――――

 

 

 

「ハーデス。そろそろ四回戦の時間じゃぞ」

 

『・・・・・』

 

パートナであるハーデスに声を掛ける。時計を見て時間を確認すれば、

午後二時過ぎになっておる。大繁盛の喫茶店に夢中になっているうちに随分と

時間が過ぎ去るもんじゃ。

 

「あれ?秀吉達もそろそろなの?」

 

「おいおい、明久。大戦表を見ていないのか?こいつらとは同じAブロックなんだぞ。

いずれぶち当ると俺は思っていたぜ」

 

獰猛に笑う雄二。ふむ、ワシらは似た点数じゃからほぼ互角といって良いじゃろう。

 

「お兄ちゃん、葉月を置いてどこか行っちゃうの?」

 

明久の裾を握る幼女は島田の妹の島田葉月。どうやら明久と知り合いのようで懐いておる。

微笑ましいの。

 

「チビッ子。バカなお兄ちゃんは今から大切な用事があるんだ。

だから大人しく待っていないとダメだ」

 

雄二が島田の妹の頭を撫でる。

 

「う~。でも・・・・・」

 

不満げに膨らむ島田の妹の頬。

 

「その代わり、良い子にしていたら―――」

 

雄二が急に微笑む。むっ、あの顔は何時も明久を陥れる時に見る顔じゃ。

 

「バカなお兄ちゃんがオトナのデートを教えてくれるからな?」

 

超弩級の爆弾を投下した。こやつもそうじゃが明久も、お互い本当に友達なのか時々

疑ってしまうのじゃ。中学時代からの付き合いじゃが、

この二人は相手を陥れるのに躊躇もないからの。

 

「葉月お手伝いをしてくるですっ!」

 

「ち、違うんだよ葉月ちゃん!僕には君が期待するような財力はないんだ!

ねぇ、聞いている!?」

 

諦めぃ。明久よ。もはや島田の妹の姿は見えないのじゃ。

物凄い勢いで厨房に消えてしまったからの。

 

「吉井、ちょっと校舎裏まで来て?」

 

「吉井君、ちょっとお話があります」

 

島田と姫路のどこまでも低い声音。明久の肩を掴む握力は今にも外れそうかもしれん。

 

『・・・・・』

 

ハーデスが徐に動き出し、二人の背後に回ったかと思えばそれぞれの首に手を伸ばし―――掴んだ。

 

「い、痛い!?痛いってば!」

 

「放してください!痛いです!」

 

『・・・・・』

 

明久にしていることを自分達まで同じ痛みを与えられる。

因果応報というのはこの事じゃろうな。

スケッチブックにペンを走らせ書いていき、島田と姫路に見せる。

 

『・・・・・坂本の冗談にいちいち嫉妬するな。目障りだぞ』

 

「嫉妬じゃないわよ!妹に手を出さないようにお仕置きをするだけじゃない!」

 

「そうです!明久君にお説教をするだけです!―――って、明久君を連れて行かないでください!

まだお話をしていませんよ!」

 

脇に抱える明久を連れて行こうとするハーデス。途中で止まり、

直江によるとスケッチブックで何かを伝えた。直江は少し目を丸くするが、

真剣な面持ちで首を縦に振って教室から出るハーデスを見送る。

 

「秀吉」

 

「なんじゃ?」

 

「お前が戦わなくても、あいつは俺達に勝てるか?」

 

「勝つじゃろうな。首を刎ねられての」

 

「・・・・・そうか。んじゃ、秀吉。お前に頼みたいことがある」

 

なんじゃろうか。とても嫌な予感がするぞい。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

『それでは、四回戦を始めたいと思います。出場者は前へどうぞ』

 

マイクを持った審判の先生に呼ばれ、ワシら四人はステージへと上がる。

外部からの来場客のために作られた見学者用の席。それらはほぼ満席といった状態で

ワシらの四回戦は始まろうとしていた。

 

「凄い数の観客じゃの~」

 

『・・・・・この学校がそれほどまで注目されている証拠だ』

 

うむ。確かにな。

 

『・・・・・ところで、どうして俺の腕に抱きついてくる?』

 

「そ、それは・・・・・」

 

ワシはいま、包帯だらけのハーデスの腕にしがみ付いておる。

何故そうしているのかと言うとじゃ。

 

『隙を突いてハーデスの仮面を剥ぎ取れ。そうすることができるのはお前しかいない。

できたらでいい頼んだ』

 

雄二にそう頼まれたからじゃ。だから、そうするためにもハーデスに近づかんと行けないし、

こうするしか方法がないのが心情じゃ。

 

「ダメかの・・・・・?」

 

『・・・・・』

 

無言で返される。沈黙は是也、かの?

 

「ハーデスゥゥゥゥゥゥ・・・・・!」

 

「落ち付け明久。あれは秀吉の演技だ」

 

血の涙を流す明久に宥める雄二。

 

「ハーデス!同じ仲間とはいえ手加減はしないからな!」

 

「そうだね!絶対に僕達が勝たせてもらうよ!」

 

意気揚々の雄二と明久。ハーデスと渡り合えそうなのは姫路と明久ぐらいじゃ。

ハーデスの召喚獣操作を間近で見ている明久なら直ぐにはやられはせんじゃろう。

 

『・・・・・』

 

スケッチブックにペンを走らせ、書き終わると上に掲げる。それはモニターの画面に大きく映る。

 

『・・・・・俺が勝ったらお前ら二人、清涼祭期間中に女装してもらう』

 

「「絶対に負けられねェッ!!!!!」」

 

こやつも何気に考え方がFクラスっぽくなってきておるのぉ・・・・・。

 

『それでは四人とも、召喚獣を召喚してください』

 

審判の促しにワシらはその通りに召喚獣を喚び出す。

 

「「「『試験召喚獣召喚・試獣召喚(サモン)!』」」」

 

ワシら四人(三人)の声が綺麗に揃い、それぞれの足元に魔方陣が現れた。

この様子だけで観客席から小さな歓声が上がる。この試合から見始めた人にしてみれば、

これだけでも十分に物珍しい光景じゃろうて。

そして、本命の召喚獣が姿を現す。相変わらずのデフォルメサイズで、

見た目は愛嬌たっぷりじゃ。ハーデスの召喚獣を除いての。

因みに毎度おなじみの点数は未だ表示されていない。特別に設置されている

大型ディスプレイに表示する為、若干情報処理に時間がかかっておるのかもしれない。

 

『では、四回戦を開始してください!』

 

ディスプレイにワシらの点数が表示された。

 

 

                  古典

 

Fクラス 木下秀吉   10点       211点 坂本雄二 Fクラス

      &           VS         &

Fクラス 死神・ハーデス 1点         9点 吉井明久 Fクラス

 

 

 

 

「よし明久、直接ハーデスに攻撃しろ!」

 

「ええっ!?そんなことしたら反則負けになるってば!」

 

「仕方ねぇな。じゃあ、こうしよう。ハーデスの召喚獣をお前が相手にする」

 

「うん」

 

「ハーデスの本体はお前自身が攻撃しろ」

 

「無理だって!というより全部僕任せじゃないかぁっ!そんな器用じゃないよ僕は!」

 

あの二人・・・・・何がしたいんじゃろうか?ほれ、

ハーデスが・・・・・雄二の召喚獣の首をあっさり刎ねたぞい。

 

「あ・・・・・」

 

『・・・・・坂本、女装決定』

 

「んなバカなァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

天に向かって叫ぶ雄二。・・・・・同情はせんぞぃ。

さて、残るのは明久だけじゃ。明久はどう戦う?

 

「僕一人でハーデスに勝てるわけ無いじゃないか!」

 

『・・・・・俺に一撃を与えたら賞金10万プレゼント』

 

「俄然やる気出たよぉっ!」

 

欲望丸出しじゃ。やる気を出させるハーデスもハーデスじゃ。

二人の召喚獣は物凄い速さでフィールド内を駆け回り、攻防を繰り広げる。

 

『これは凄い!吉井選手とハーデス選手の召喚獣が凄い速度で走り回り、

凄まじい攻防を繰り広げております!』

 

審判の実況に観客も湧く。ワシは既に脇役みたいな存在になっておるの、

腕を組んで精神を集中しているハーデスは真っ直ぐ明久と明久の召喚獣を見ておる。

 

「この・・・・・!」

 

『・・・・・』

 

明久の召喚獣の木刀はハーデスの召喚獣の横っ腹、肩、頭、色んな身体の部位へ叩きつけたり、

突いたりするもハーデスの召喚獣が持つトンファーで全て弾かれ、決定的な一撃が与えられない。

 

「おい、秀吉!」

 

「む?」

 

雄二に呼ばれた。雄二に視線を向けるとアイコンタクトされた。

 

―――――ハーデスの仮面を取れ!

 

・・・・・了解した。

 

あやつからの指示が出され、ワシはハーデスを見上げる。腕を組んだまま前を見据えている

ハーデス。そんなこやつの腕にワシは抱きつくように密着しておる。

 

「・・・・・」

 

試合に集中しているのがよく分かる。本当ならば明久も簡単に倒されておるはずじゃが、

この瞬間をもう少し浸っていたいのかもしれん。チャンスは一回きり・・・・・。

それが―――今じゃ。

 

「すまぬ!」

 

『・・・・・?』

 

ワシの謝罪の言葉にハーデスは久し振りにワシへ顔を向けた。

ハーデスに抱きつく感じで飛び掛かり、動かれる前に素早くハーデスの仮面を―――はぎ取った!

 

「・・・・・っ!?」

 

その時ワシは見た。ハーデスの素顔を。整った顔に獣のような目をした双眸。その瞳は

金色に輝いて―――。

 

―――ガシッ!

 

ワシの視界が急に真っ暗になった。頭が掴まれたことを理解した際、物凄い痛みが伝わる。

 

「あ・・・・・う・・・・・っ」

 

足の裏に地面を踏む感触が無くなった。掴み上げられておるというのか・・・・・!?

最後にメキッ!と音が聞こえたかと思えば、ワシは意識を失う・・・・・。

 

 

 

 

秀吉がいきなりハーデスに飛び掛かってハーデスの仮面を奪い取った。

その瞬間、秀吉はハーデスに顔を鷲掴みされ、地面から持ち上げられたかと思えば、

解放されて地面に受け身を取らず倒れた。

 

「「・・・・・」」

 

僕と雄二頬は冷や汗が流れた。あんなことするハーデスは初めて見た。

 

 

ゴンッ!!!!!

 

 

「いっだぁあああああああああっ!?」

 

僕の頭に強烈な痛みが感じた!これってフィードバック!?ということは、

と思い僕の召喚獣を見るとトンファーに思いっきり殴られている僕の召喚獣と、

殴っているハーデスの召喚獣。その一撃で僕の点数は0点になった。勝者はあっちとなり、

審判の勝利宣言を聞かずハーデスは秀吉の手にある仮面を奪い去ると、

フードで隠れている顔に被った。それから倒れている秀吉を担いで僕達の前から姿を消した。

召喚獣も光と共に消える。

 

「雄二・・・・・もしかしなくても秀吉にあんなことさせたのは雄二?」

 

「ああ・・・・・そうだ。秀吉には悪いことをした」

 

「この事、雄二が主犯だと知ったハーデスは雄二の魂を狩るかも知れないよ?」

 

「・・・・・その時になったら誠心誠意に心の底から謝罪しよう」

 

こんなことを言う雄二は初めて見た。僕はそうさせるハーデスに畏怖の念を抱く。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

教室に戻ってきたハーデスと秀吉から感じる態度に俺は怪訝に思った。

明らかにハーデスが秀吉を避けている。警戒していると言ってもいいだろう。

ハーデスはさっさと厨房の中に籠り、調理をし始める。

 

「おい、木下。どうしたんだ?」

 

「ううう・・・・・頭が割れるかと思った」

 

「開口一番にどうしてお前の頭が割れることになる発言をして、

お前がそうなるようなことになる?」

 

「雄二に頼まれての。試合中、ハーデスの仮面を取れと」

 

あ、あいつ・・・・・そんな事を言っていたのか・・・・・。

 

「で、取れたのか?」

 

「う、うむ・・・・・顔は確かに見れた」

 

「怪我の功名だな。よくやったぞ」

 

だが、俺の労いの言葉に嘆息する木下。

 

「それで、ハーデスの顔はどんな感じなんだ?」

 

「むぅ・・・・・目が金色じゃった。顔も整っておった。流石に髪の色は分からんかった」

 

「目が金色・・・・・」

 

「それと獣のような垂直のスリット状じゃったぞい。あんな瞳を持つ人間をワシは初めて見た」

 

「・・・・・垂直のスリット状?」

 

その特徴に俺の中でとある人物が浮かんだ。確か、あの人もそんな感じの瞳だった。

だけど、ガキの時の俺はそんな事を気にせずあの人と遊んでいた。

 

「ハーデスはワシを警戒しておる。2度と同じ手は通用しないと思った方が良い。

じゃが、あそこまで避けられると少し寂しいがの・・・・・」

 

秀吉の顔色に曇りが浮かぶ。

 

「謝ってくれればきっと許してくれると思うぞ」

 

「そう思いたいのぉ・・・・・」

 

溜息を零し、トボトボと秀吉は接客をしに行った。

まったく・・・・・坂本の奴は余計なことをしてくれる。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

喫茶店の中で動き回ること一時間。いよいよ準決勝の時間となり、

ワシとハーデスは会場へと向かう。決勝戦は二日目の午後に予定されておるので、

今日の試合はこれでラストじゃ。準決勝の相手は霧島とワシの姉上。

まあ・・・・・ハーデスが一人で勝ってしまうじゃろう。

 

『・・・・・』

 

3メートルの距離を保ち会場へ行くハーデスの背後に追うワシ。

まるで目の前に壁が塞がっているような感覚を覚え、

何とも言えない気持ちが胸がいっぱいじゃ。それほどまでに自分の素顔、

正体を明かしたくなかったのじゃろう。ワシらは無言のまま会場に辿り着き、

ステージへと歩みを進めた。それから意気込みの言葉の掛け合いもせずに―――。

 

『お待たせいたしました!これより準決勝を開始したいと思います!』

 

まるで格闘技の入場じゃ、と思いながらお客さん達の前に立つ。

ワシらの向かいからは対戦相手の霧島と姉上がやってくる。

 

「・・・・・死神。邪魔しないで」

 

『・・・・・邪魔?なんのことだ?』

 

霧島の発言に怪訝な言葉を記されたスケッチブックを見せるハーデス。

身に覚えがないと風にじゃ。

 

「・・・・・死神、そんなに私と行くのが嫌?」

 

霧島が上目遣いでハーデスに問う。

 

『・・・・・悪い。さっぱり意味が分からない。俺が欲しいのは腕輪なんだ』

 

「・・・・・じゃあ、私と遊園地に行く約束をしてくれる?」

 

その言葉に合点したのか、ハーデスはポンと手を叩いてスケッチブックで伝えようとする。

 

『・・・・・それか。別にいいぞ』

 

「・・・・・嬉しい」

 

本当に嬉しそうに微笑む霧島。審判はワシらの様子とタイミングを見張らかって

試合開始宣言を告げた。

 

 

「「「『試験召喚獣召喚・試獣召喚(サモン)!』」」」

 

ワシら四人の姿をデフォルメした召喚獣が姿を現す。

 

 

                  『保健体育』

 

Fクラス 木下秀吉      41点       301点 木下優子 Fクラス

      &              VS        &

Fクラス 死神・ハーデス 1000点       425点 霧島翔子 Fクラス

 

 

 

 

『・・・・・あの時より、上がっている』

 

「当然よ。準決勝が保健体育だって分かった時から必死に勉強したもの。

あの時のリベンジをさせてもらうわ」

 

『・・・・・来い』

 

「言われなくても!」

 

姉上がランスを構えてハーデスに飛び掛かる。

 

『・・・・・木下バリア』

 

「なんじゃと!?」

 

ワシの召喚獣が盾にされた!召喚獣に長刀を振るう指示を下し、

姉のランスを横から叩きつけて軌道を逸らし、攻撃をいなした。

 

「お、お主。いくらなんでも味方を盾にするとはあんまりじゃぞ・・・・・」

 

『・・・・・だが、俺の真似をして攻撃をいなしたのは事実』

 

む・・・・・それはそうじゃが・・・・・。

 

『・・・・・ランスの攻撃パターンは主に突きと横薙ぎに払うこと。

相手の攻撃の仕草を見て慣れれば倒すことのは難しくない』

 

「・・・・・ハーデス」

 

『・・・・・ある程度、木下優子の点数を減らさなかったら、

お前を女として接するからよろしく』

 

「絶対に姉上の点数を減らしてみよう!」

 

ワシのことを男として接してくれていたことに嬉しいが、

これから女として接せられるのは男としてのプライドが粉砕されてしまう!

 

「あら、秀吉がアタシの相手になるとでも?」

 

「男のワシにも譲れないものがあるのじゃ!姉上、覚悟してもらうぞい!」

 

「いいわ。アンタがいると集中できそうにないし、アンタを倒してから死神に挑むとしましょう」

 

狙いの矛先をワシに変えてくる。そして、ランスを前にして突進。

ハーデスの言う通り相手の攻撃の仕草を見ていれば倒す機会が訪れるそうじゃが、

そう簡単にはいかんはずじゃ。

 

「はぁっ!」

 

槍が凄い勢いで突き出してくる。ワシは精神を集中させ、間一髪姉上の攻撃をかわし、

 

「せいっ!」

 

片手で横薙ぎに姉上に斬撃を与えた。威力は少ないが点数を減らしたことには変わりない。

姉上の召喚獣は後ろへ飛び下がり、再びワシに向かって突貫してくる。

真っ直ぐでしか攻撃できない物に避けれない訳がないのじゃ!長刀を垂直に立てて攻撃をいなし、

ランスの先端から根元まで過ぎるのを耐えれば

片手で拳を作って姉上の顔面に打撃を与えたのじゃ。

 

 

 

 

保健体育  Fクラス 木下秀吉 35点  VS  281点 木下優子 Fクラス

 

 

 

 

「この!」

 

「なんのぉっ!」

 

姉上は突く攻撃を止めて、思いっきり豪快に振るい始めワシの攻撃をけん制しつつ、

ワシに攻撃をし始める。

ハーデスは相手の隙を突いて攻撃をしおっておる。ワシも同じようにしていけば・・・・・!

 

「やぁっ!」

 

ランスを左から振り回してくる。完全にランスが右に振り、姉上がランスを戻す前に―――。

ここで長刀の刃の切っ先を真っ直ぐ前に突き付け、姉上に突貫する!

じゃが、姉上は後方に下がってしまいワシの攻撃は空振りとなった。

 

「甘いわね。そんな簡単に何度も攻撃を食らうわけないじゃない」

 

「分かっておる。だからこそ、倒し甲斐があると言うものだとは思わんかの!」

 

「・・・・・何時にも増して熱いわね。そんなに女として接せられるのは嫌なの?」

 

「ワシは男じゃぞ!女じゃないのだ!」

 

それからのワシは姉上に猛攻を繰り返す。ランスは近、中距離からの攻撃しかできん。

ワシも似たようなものじゃがの。

 

「ほらほら、そんな単調な攻撃じゃアタシには通用しないわよ?」

 

「くっ・・・・!」

 

攻撃の手を止めて防御に専念し始める姉上。時にはワシに攻撃をして点数が減らされていく。

防御される時は刀身が長い上に大きいランスは中々姉上の身体に刃が通りにくい・・・・・!

 

「―――なんてワシがただ闇雲に攻撃をしておらんぞ」

 

「え?」

 

ワシは不敵の笑みを浮かべて思いっきり前へ突き出した。

姉上はその場でワシの攻撃をランスの腹で防いだ。予想通りの動きを見せてくれたの、姉上!

長刀の柄を徐々に短く持ち姉上に攻撃しつつ姉上と距離を縮めてついに、

 

「そこじゃ!」

 

片方の手に持つ長刀をランスに攻撃し、片方の手を握りしめ

姉上に同時で攻撃し、点数を減らした。

 

「秀吉・・・・・!」

 

「突くことがランスだけの特権じゃないのじゃ、姉上!」

 

突きだしてくる姉上の攻撃を点数を減らしながらも屈んで交わし、

長刀を地面すれすれに振り回し、姉上の足を遠心力が付いた勢いで薙ぎ払い、

体勢を崩したところで―――!

 

「これで止めじゃ、姉上!」

 

腹から突き刺し、力いっぱい姉上を突き刺したまま長刀を立てて―――。点数を0にしたのじゃ!

 

「アタシが、秀吉に負けるなんて・・・・・!」

 

 

 

 

保健体育  Fクラス 木下秀吉 9点  VS  0点 木下優子 Fクラス

 

 

 

 

「ワシが勝てたのはハーデスのアドバイスのおかげじゃよ」

 

悔しそうに顔を歪める姉上に、疲れで溜息を吐く。

 

「・・・・・最後、アンタは男らしい顔つきになっていたわよ」

 

「ほ、本当じゃろうか・・・・・?」

 

「ええ、そこだけは認めてあげるわ」

 

柔和に笑む姉上。

 

「さて、アタシ達は教室に戻るわ」

 

「む。何故じゃ、まだハーデスと霧島は―――」

 

 

 

 

保健体育 Fクラス 死神・ハーデス 1000点  VS  0点 霧島翔子 Fクラス

 

 

 

 

「アンタが夢中でアタシに攻撃をしている時にもう終わっていたわよ」

 

「な、なんじゃと・・・・・」

 

ワシは苦労していたというのにハーデスはあっさりと霧島を倒していたと言うのか。

 

「それじゃ、明日の決勝戦頑張りなさいよ。応援しに行ってあげるから」

 

姉上は霧島を引き連れてステージからいなくなった。

 

『・・・・・』

 

残ったワシとハーデスも審判の勝利宣言を聞いた後に自分の教室へと戻った最中。

ハーデスの手がワシの頭に乗せてくる。

 

「な、なんじゃ・・・・・?」

 

あんなにワシを警戒して距離を置いていたハーデスが唐突に頭を撫でてくる。

 

『・・・・点数を減らすだけじゃなく、倒したか』

 

「――――っ!?」

 

『・・・・・見直したぞ。木下秀吉』

 

ハーデスがスケッチブックで伝えず、自信の声でワシに労いの言葉を送ってくれた。

 

「あ、ありがとうなのじゃ・・・・・」

 

何だか認めてもらったようで嬉しいのじゃ。

 

『・・・・・その調子で決勝戦も頑張れよ』

 

「うむ!お主の動きを演技させてもらうのじゃ!」

 

さっきまでの雰囲気と態度が緩和して、良かったのじゃ。

 


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