「大丈夫、鈴?」
「あ、うん………ありがとう…。」
保健室へとやってきた鈴音は流牙に脚の傷の手当てをしてもらっていた。脱脂綿に消毒液を含ませ、ピンセットで摘まみ傷口を消毒する流牙。一方の鈴音は懐かしそうな顔をしていた…。
「…昔は逆だったのにね。いっつも、アンタがケガしてきて私が手当てして…。」
「うん。あの頃はね…懐かしいなぁ……」
2人は追憶していた……。数年前、流牙が鈴音の家に居候している時は今と逆のことが日常茶飯事だった。鈴音たち家族が知る由も無いが、指令を受けた流牙が傷を負った時は鈴音が傷の手当てを担当していた…。夜な夜な仕事で家を出る流牙をよく心配してたっけ…?
「…」
「……鈴?」
ん?……どうしたのだろう?突然、思い詰めた顔で黙ってしまった鈴音。流牙は首を傾げた。すると……
「流牙……あのさ…………もう…いなくならないわよね?あの時みたいに…」
「え…」
「もう何処かに行ったりしないでしょ?…ね?これからはずっと一緒にいられるのよね…」
「鈴…」
「卒業したらさ、またウチに来なさいよ!アンタくらいだったら、面倒みれるし…だから………」
彼女が口にしたのは寂しげな…普段の勢いは感じさせないほどの声だった。対する流牙は驚きつつも、黙々と作業を続けて絆創膏を張った。
「…ごめん。それは約束出来ない。」
「…どうして!?」
「さ、これで大丈夫。戻ろうか。」
「流牙、待ちなさいよ!誤魔化さないで…!」
彼は約束出来ないと告げると立ち上がり、保健室を後にしようとするが鈴音が止める。その時……
「ふぅ……また会いましたね道外流牙くん。」
「…鷲頭さん?」
突然、鷲頭が保健室を訪れたのだ…。ただ、様子がおかしい。先程とは変わって無表情で喋り方も無機質な雰囲気になっている。まるで、人間さがOFFになってしまったかのように……
「…全く、『泥棒』のくせに……こちらの優遇な条件を蹴るとは随分と良い度胸ですよね。」
「わ、鷲頭さん?」
泥棒……?何の事だ?
流牙は戸惑っていると鷲頭は彼の胸ぐらを掴み、突き飛ばした。そのため、流牙は保健室の機材へとぶつかり鈴音が悲鳴をあげる。
「ちょっと、アンタ!いきなり何すんのよ!!」
「…部外者は黙ってて下さい。私はただ盗まれた物を返しにもらいにきただけですから……」
盗まれた物……鈴音にはわからないが、鷲頭は執拗に流牙を狙う。
「やめて下さい、鷲頭さん!」
「貴方が悪いんですよ。全く、私は人間の魂なんて好まないというのに……」
「!」
人間の魂を好まない……流牙はこの言葉にあることに気がついた。まさか、この男…
「…ホラーか!?」
「ホラー…?何ですかそれは…?」
しかし、鷲頭は疑問の表情をするのであった。いや、おかしい。魂を喰らう化け物などホラーぐらいだ。でなければ、人間の魂なんてなどという発言はしないはず…
そんなことなど気にすることなく追撃を加えようとするが………
ーーパンッ!!パンッ!!パンパンパンッ!!!!
「…うぐ!?」
突然、背後からの銃声…。振り向けばリボルバー式の魔戒銃を構えるリアンの姿があった。
「…うぅ!?貴様!」
「嘘…まだ動けるの…!?」
この時点で数発の弾丸を受けた鷲頭だが、それを物ともせず標的をリアンに変えて襲いかかる鷲頭。その隙に流牙は体勢を立て直し、魔戒剣を取り出して構える。
「どうやら、アンタ…少なくとも人間ではなさそうだな…!はぁッ!!!!」
とにかく、魔戒銃の弾丸に耐えれるようなら人間ではない。流牙は刃を煌めかせ、斬りかかると鷲頭はこれに気がつき流牙の腕を抑える。ならばと、流牙は片手で腹部にチョップからの顔面への掌の一撃で鷲頭をベッドの上に転倒させる。
「…うおお!!」
「くっ…」
ーーベリッ!!
「!」
このまま一気に斬り裂こうとしたが、直前でなんと顔の皮膚を引き剥がして魔戒剣を受け止めた鷲頭。直後、剥がされた皮膚はウゾゾ…と黒い触手から束ねられて禍々しい剣として形を為す。また、再生しつつある皮膚を剥いだ顔からは異形の顔が覗いていた…。
「はああっ!!!!」
ーーガンガン!!ギャン!
そこから、魔戒剣と異形の剣がぶつかり合い火花を散らす!だが、やがて鷲頭が圧されはじめ、流牙が剣を弾いて腹部に一閃………
「だあっ!!」
ー斬!!
しかし……
ーーキュオォォォォォォ…ン…!!!
「…!?…うわあああああ!!!!!?」
斬った傷口から黄金の波動が漏れ、流牙や保健室の備品が弾きとばされてしまう。おまけに、傷もすぐにふさがってしまったではないか。
「…な、何なんだよコレは……!?」
一体、何事なのか?壁に叩きつけられた流牙は混乱する。今までホラーを何体も倒してきたがこんなことは無かった。見れば、刃は淡く金色の光を帯びている……これは、いったい…
「う…あぁ……頭が、痛い!!」
「鈴!」
ふと、聞き覚えがあるうめき声に視線を向ければ鈴音が頭痛に苦しんでいた。まずい、早く決着をつけねばと鷲頭の剣をかわして一太刀いれるが……
ーー斬!!
ーキュオォォォォォン…!!!!
「ぐああああぁぁ!?」
「きゃああああああ!!!!」
またしても、黄金の波動が阻む。再び流牙はふっとばされ、床をゴロゴロと転がってしまい鈴音もさらに苦しみだす…。
「……どうやら、お前は俺を斬れないようだな?」
そんな2人にジリジリと迫る鷲頭。どんな理屈かは知らないが好都合…仕事を終わらせてしま……
「2人から離れなさい!!」
「!」
しかし、不意をついて何処からか現れたセシリアがブルー・ティアーズを起動して鷲頭を抑え2人かかった。これは好都合……リアンは魔導筆を取り出すと青空が映る魔方陣を天井に記してセシリアに叫ぶ!
「…セシリア!奴を上に!!」
「はい!」
「……は、離せ!!」
そのまま、セシリアは鷲頭と共に天井の魔方陣からはるか彼方の青空へとブースター全開。戦いの場所を人目のつく場所から移したのであった。
この内に、リアンは流牙に駆け寄り状態を確認する。
「流牙、大丈夫?」
「俺は大丈夫……鈴を頼む!」
まだ戦える……よくわからない黄金の波動は厄介だが、意志は折れてはいない。リアンに鈴音を託すと流牙は自らを奮い立たせると白狼を起動し、セシリアの後を追って飛び立った…。
一方……
IS学園上空では……
「は、離せ!!」
「…きゃあ!」
鷲頭は無理矢理、キックでセシリアを引き剥がすと下に視線を向けた。すると、下から向かってくる白狼に気がつき身構える。
「…来い!」
そして、落下しながらも鷲頭は本性である素体ホラーに似つつも羽の無い悪魔のような姿のホラー『ディアーボ』へと皮を破り変化。赤黒いボディに随所に施された黄金の模様が輝き、勢いのままに流牙と対峙……
流牙も白狼の展開を解除すると、怒りの視線を向けながら魔戒剣を突き上げ円を描く!
「……斬り裂いて…斬り裂いてやるッ!」
ーーガルルッ!!!!
やがて、召喚された鎧を纏って漆黒の黄金騎士・牙狼となる流牙。両者は落下しつつも、お互いに剣をぶつけあって激しい空中肉弾戦を展開…剣を交えながら殴る、蹴る……斬り裂く…!されど…やはり、ディアーボを斬りつけると黄金の波動で吹き飛ばされてバランスを崩してしまう。
『うおおおおお!!!!』
この隙にと、牙狼に襲いかかるディアーボ。しかし……
「そうわいきませんわ!」
ーーバシュバシュ!!
『ぐぅぅ!?』
ディアーボの周りにまとわりつき、レーザーを撃ちまくるティアーズ。セシリアの援護だ…。確かにISの武装では決定打は与えられないがディアーボは飛行能力に飛び道具を持たないため、制空権においては遥かにブルー・ティアーズが優位にたてるのだ。おまけに、遠距離タイプなのでディアーボに為す術は無い。
「流牙さん!」
「…セシリア!うぉぉ!!!!」
すかさず、セシリアは牙狼に回り込んで腕を交差させると、足場代わりとなり牙狼はブルー・ティアーズを踏み台にして立て直すとディアーボに向かい、飛びかかり組み合うと波動が出ないように柄で何度も殴りかかる…
ここで、セシリアはあることに気がついた…。
「まずいですわ。このままではアリーナに……」
そう……飛行能力が無い牙狼とディアーボはいずれ落ちる。だが、まずいことに落下地点はISを展開した生徒たちがいるアリーナだ…。このままでは、牙狼たちの姿が一般生徒に見られてしまうが為す術がセシリアには無い。
その頃、アリーナではタケルと苻礼法師の姿があった。
「おいおい、あれまずくねぇか!?こっち来るぞ!?」
「…」
タケルは落下してくる牙狼たちに慌てるが、苻礼は無言で見据えるのみ。そのうちに生徒たちが落下してくる牙狼とディアーボに気がつきはじめる。
「ねぇ、あれ何?」
「ん?どうしたの…?」
「…なになに?」
少女たちは呆けたような顔をして見つめていた…。見たところで、何かは理解できるわけでもないが………
『ふんっ!』
「うわあ!?」
ズドォン!!…ガガガガガガガガガガガガ!!!!
「「「きゃ!?」」」
とうとう、組み合った牙狼とディアーボが不時着。寸前でディアーボが牙狼を下敷きにし、スノーボードよろしく踏みつけたまま剣を振るい、牙狼は牙狼剣で何とか防ぐ。さらに、勢いは殺せず牙狼は地面を抉りながら落下地点から反対側の壁にディアーボもろとも激突し、凄まじい土煙をあげて見えなくなる…。
「流牙さん…!」
すぐさま、駆けつけたセシリアはブルー・ティアーズに搭載されたカメラ機能で激突して煙が巻き上がる場所をズームされるが視界が悪く様子は窺えず、観客席にいたタケルも息を呑む……
すると……
ーーキュオォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン…!!!!!!
「「「きゃあああ!?!?」」」
『ぬぉ!?』
今までに無いような黄金の波動と共にゴォッ!!と煙が晴れ、ディアーボや生徒たちが弾きとばされた。よく見ると、ディアーボの胸に今まで以上の深い傷があり、黄金の波動が漏れている…
加え、生徒たちは全員が波動により壁に叩きつけられISを解除…全員、気絶していた。
そして……
…牙狼が………
「おぉぉ…!!!!」
ーオオオォォォォ!!!!!
ベルトに牙狼剣と同じ『△』の紋章が浮かび………
……『金色』に輝いていた…。
「鎧が…金色に……!?」
「…な、何だよありゃ!?」
この状態にはセシリアはおろか、同じ魔戒騎士であるタケルも驚愕するが………ただ、苻礼法師は無言でその姿に何か思案をしていた…。まるで、何かしら思い当たるものがあるかのように…
「くっそぉぉぉ!!!!」
当の牙狼はわけが解らず、雄叫びをあげながら体勢を立て直せていないディアーボに向け突撃。黄金に輝き、流星のように走りながら刃を突き立て走る…走る………
ーーキュオォォオオオオオオン…!!!!
「…ぐ…おおぉぉ!!!!」
その間にも波動は牙狼を更に金色へと光り輝かせるが牙狼は耐える………
「………これでぇ、終わりだァ!」
ー斬!!!!
ーーキュオォォオオオオオオオオオオオオオオオン…!!!!!!
ついに、トドメの一撃………
ディアーボを粉砕すると同時に奴に秘められていた波動が全て炸裂し、牙狼は苦悶の叫びをあげた。
「うわぁ!?…あっ、ぐぅぅ!?!?あああ…!!!?」
「流牙!」
「流牙さん!」
即座に、タケルとセシリアが駆け寄ってはみるがどうすることも出来ず、不安定に金色に輝きつつ牙狼はもがき苦しむばかり…。とうとう、牙狼は無理矢理、鎧を引き剥がすと強制解除して流牙の姿に戻った。見たところ、目立った外傷こそは無いが波動によるダメージは本人の苦しみ具合から察することが容易である。
「………な、何なんだよコレは!?」
「何だよじゃねえよ!?こっちが訊きてえぐらいだっつーの!」
「それよりも、早く手当てを………!」
「………ついに現れたか……『魔導ホラー』…」
その時………
苻礼法師がボソリと呟いた…。
魔導ホラー………?なんだそれは…?この場にいる全員がその名を知らない。
「…魔導ホラー………だと…?」
「ああ。陰我を介さず、何者かの意志によって産み出されたホラー………そして、お前が倒すべき敵…。」
そうだ…流牙は思いだした………確かに苻礼法師は来るべき敵がこの学園に現れると言っていた。それこそが魔導ホラーなのだろう。
「………道外流牙…これから現れる全ての魔導ホラーを斬れ。それが、黄金騎士・牙狼の称号を得た…」
「………お前のさだめだ!!!!!!」
・流牙side…
…何故、あの魔導ホラーは日の光の元で活動できた…?
………何故、鎧が黄金に輝いた………?
今の俺にはわからないことばかりだけど、これだけはわかる。この学園には何かがある…
……そして、確実にわかることは1つ…
俺の…黄金騎士・牙狼の戦いは…はじまったばかりだ………。
To be continued……
道外流牙篇…… 完ッ!
next…
次章『学園戦騎篇』…始動!