「…はぁぁ!」
「んッ!!」
真っ先に一夏へ斬りかかった流牙だったが、刃を受け止められカウンターのキックを受け待機中のISに叩きつけられた。ラウラやシャルも鋭く両サイドから迫るが軽くいなされてしまう。
「何をしている!」
すかさず、アグリが矢を放つ……
「こんなものか、楠神流?」
「!」
その放った矢はキャッチボールのように敵の掌におさまった。『なっ!?』と驚くアグリに一夏は矢を投げ返すと怯む彼に無慈悲に連打を叩き込む!そして、彼を倒すと弓ごと革靴の足で踏みつける。
そこを助けようと魔導筆を構えたセシリア……
「よせ。」
だったが…槍を突き出し制止をかける一夏。そして、どの刃より彼女の心を一番抉る言葉を刺す。
「お前が一番弱いぞ、セシリア・オルコット…」
「!」
「うおおおおおおおォ!!!!!!」
直後、流牙が剣で凪ぎはらい…アグリの上から退避した一夏。そして、最後に斬られた右肩を押さえながら一言…
「もっと強くなれ…道外流牙。我が主のために…」
意味ありげに言葉を吐き霞のように靄となって消え去る。『待て!』と追った流牙だったがそこにはもう影も形も無かった…
「くそ……大丈夫、アグリもセシリアも…?」
もう追跡しようが無いならとアグリとセシリアに駆け寄るが……
(楠神の矢が……届かなかった……)
(私が……一番、弱い……?)
ふたりの心は…そこには無かった。
★☆ ★☆ ★☆ ★☆
苻礼法師のアジト……
「ゆゆしき事態ね……最強の魔導ホラーの侵入を許すなんて。」
楯無は頭を抱えていた…。やはり、学園のセキュリティを抜けてホラーが集結していることが明らかだからだ。先の戦いに一夏が現れたことがそれを証明している…このままでは学園が魔導ホラーたちの巣窟になる日もそう遠く無いだろう。
「苻礼法師、何か策は……?」
「現状、今で手一杯だ。番犬所もこれ以上、細工にも限界があるに加えて、番犬所も人員をまわせないと言っている。」
「まさに、八方ふさがり…。最悪のシナリオに向かってるわけか。」
楯無が一番恐れる事態…学園祭は日に日に近づいてきている。されど、状況は悪化するばかり…頭を悩ませざらえない。ましてや、生徒会長の身となればだ…
「…だが、我等も遅れをとってばかりではない。」
そう言って苻礼法師が出したのは不気味な赤ん坊のガラガラのような魔導具。楯無は気がついた…
「魔導ホラー探知機…。」
「そう、我等が敵から奪いとった切り札だ。」
…これはまだ鈴音が転入をしたばかりの頃現れた魔導ホラーの舌から造ったモノ。魔導ホラー探知機……魔導火ライターなど魔導具で正体を晒せない魔導ホラーの存在を暴く唯一のアイテム。今まで遭遇か罠を張る必要があったこれまでを覆す逆転のカギ…
「諦めるにはまだ早い……と、思うのだが…セシリア、アグリ?」
「…!」
あらいつの間に…並んで立つセシリアとアグリ。はてさて、何を諦めるというのだろう?
「俺は……ただ、元老院に魔導ホラーについてもっと…調べれば……」
「わ、私は……」
「…」
…苻礼法師はただ黙っている。いや、なにもかもを見通しているような眼差しだった。対する2人は言い訳を親にする子供のよう…
彼は、それぞれに言い渡す。
「貫き通すものは何か考えろ。見つけるその時まであがき続けると良い。」
そして、デスクに座りまた魔導具の製作に取りかかる。その一部始終を見て楯無は想う……
(…どうやら、問題はこっちにもか……)
★☆ ★☆ ★☆ ★☆
「貫き通すもの……か…」
月光が注ぐビルの屋上…アグリは物思いにふけっていた。苻礼法師の言う貫き通すものとは何なのだろう…ずっとその答を考えていた。 自分にあるのは弓矢…そして、楠神流のみ……貫くものなど他に無い。苻礼法師は何を求めているのだろう?
「アグリ……こんなとこにいたのか。」
悩むそんな時、ふらりと現れた流牙。彼を見た途端、普段なら思いもしないことを思いつき…気がつけば口にしていた。
「流牙、俺と手合わせをしてくれ。」
「…どうしたんだ、急に。」
「良いから、頼む。」
もしかしたら、他人の目からなら何かわかるかもしれない。それが、未熟な騎士とはまあ癪だがこの際仕方ない。アグリは弓をつがえ…流牙はおもむろに剣を構える。
この時、初めてアグリは気がつく…
(驚いた…隙が無い。)
未熟未熟と侮っていたが、矢を撃ち込めない…当たるビジョンが浮かばないのだ。何処に射ようとも弾かれる…そんな確信があった。
(…なら!)
アグリは顔面スレスレに矢を放ち、流牙は最小限の動きでかわす……そのがら空きの懐に一矢。
ーーガキンッ!!
「何!?」
しかし、矢は軽く捻った剣の柄で弾かれた。次に矢をつがえようとした時にはもう遅い。
「チェックメイト。」
……刃が首もとに当てられ勝負はついていた。
負けだった…ほぼストレートの…
アグリは弓矢をおろし、流牙も剣を鞘におさめる。『これで良い?』と、立ち去ろうとした流牙だったが……
「待て、流牙!俺は何故、負けた!?何故、お前に届かなかった!?」
訊かねばならない。自分が敗北したわけを…自分が理解しえない何かを……
すると、流牙は向き直り口を開く。
「楠神流の特徴は精密な射的と早撃ちにある…まさに、そのものと言っても良い矢だった。でも、……
……結局、それ以上のものを感じられなかった。」
「!」
「アグリの矢は…楠神流の教科書の中で止まってる。だから、正確な動きは逆に見切られるし読まれる。」
絶句……いや、ある種の悶絶をせざらえなかった。まるで、崖から突き落とされたような絶望感と大事なものを中から崩された虚無感がアグリを襲う。そして、プライドと呼んでいた傲慢さがズタズタに引き裂かれていく……
「…俺が言えるのはそれくらい。戻ろう……」
「流牙!!」
その時、タケルが慌てた様子でやってくる。
「…何だかシャルの奴が大変なもん見つけたらしいぞ!」
★☆ ★☆ ★☆ ★☆
場所は戻り、アジト……
千冬まで含めて全員がデスクの周りを囲んでいた。デスクの上にはトランクボックスが鈍く輝いているが何なのかはまだ謎だ。ここは見つけた本人…シャルに話を訊こう。
「これ、さっき倒した学園内のホラーが持ってたんだ。何なのかはわからないけど……」
「……開けるわよ?」
リアンの合図で開けられるトランクボックス。そこに入っていたのは薄明るく光を放つ液体がつまった小瓶の羅列だった。鈴音といった解らない者たちは『綺麗…』などと口にしていたが、箒や苻礼法師たちは一気に青ざめ流牙は小瓶のひとつを手にとり耳に当てた…。
【…お母さん!ありがとう!!ありがとう!!】
「…」
…声が聞こえた瞬間、予感が確信に変わった。この小瓶の中身は……
「人間の……魂だ。」
「「「「!」」」」
…魂?そんな馬鹿な……それに、真っ先に反論したのは鈴音だった。
「待ちなさいよ、何だってホラーが人間の魂なんか持ち歩いて…………まさか…」
だが、自分で言い出して気がついてしまった。ホラーは人を喰らう存在であり、それが魂を持ち歩くとしたら理由は勿論、食べるためだろう。持ち歩く食べるもの…則ち、
「……『保存食』だな、ホラーの…」
苻礼法師が答を告げる。
そして、流牙は次々と小瓶に耳を当てていく……
「……受験に受かった…春には子供が産まれる……恋人がプロポーズを受けてくれた……」
ひとつひとつ…生きていた。希望を持って明日が来ると信じていた。その思念が流牙たちの胸に突き刺さる……もうこの魂たちの肉体は生きてなどいない…願った未来も希望も来ないのだから。
そして、リアンがサッと魔導筆を振るうとトランクボックスから魂たちが飛び出してそれぞれの人間であった頃の形を宙に象る。
「……おい、嘘だろ。これ、全員がホラーの保存食にされたって言うのかよ!?」
タケルが目を見張るのも無理はなかった。最低でも30人は超える人間の魂が老若男女問わずしてそこにあったのだ。皆、まだ死んだとも自覚もなく生前の様子で動いており想い想いの言葉を語る。
それを見るや、流牙たち魔戒騎士は拳を握りしめ…少女たちは涙を流していた。こんなもの…こんなものいくらホラーといえど残酷すぎる。
「一夏…これが魔導ホラー(おまえたち)のやることかッ!!!」
悔しさのあまり流牙は吼えた。すると、アグリがその肩を掴む。
「流牙、次で決着をつけよう。」
彼の眼は…すでに腑抜けではなかった。強い意思宿す光に流牙はただ頷いて応えた。
★☆ ★☆ ★☆ ★☆
夜……すでに、消灯時間を過ぎた体育館。ステージにて流牙たち一行を待ち構えているのは…
「待っていたぞ、道外流牙。」
複数体のホラーを引き連れた一夏。連れのホラーたちは『シュゥゥ……』と叫び、普段のホラーより苛立っているように見えた。それらを制しながら一夏は話す。
「お前たちがコイツらの食事を盗っちまったから、苛ついてるぜ。代わりにお前の取り巻きをエサにしてやろう。」
「貴様!」
「待て、流牙。コイツは俺がくいとめる。先に周りのザコを片付けろ。」
すぐさま、斬ってかかろうとした流牙だったがアグリの判断により彼がステージの上へ。同時にホラーたちも一夏の指示で流牙や少女たちへ向かう!
そして、はじまる乱闘。流牙やタケルは剣でさばき、少女たちは魔導筆で応戦する。一方、アグリは一夏に矢を放つも槍で弾かれ間合いを詰められていた。
「言ったはずだ…お前の矢は届かない!」
「くっ!!」
弓を振り回して振りはらうも、これでは埒があかない。ならばと、突撃してくるタイミングを見計らい…
「はっ!!」
「!」
弓を分離させ、双剣形態へと変化させ不意をつき斬りつける!これは、かつて弓を折られたのを利用したものだ。だが、怒りに触れたのか攻勢が一気に激しくなる一夏…これにアグリは防戦を強いられていく。
その時、気がついたセシリアが魔導筆を構えて一夏を狙うがあまりにも遠すぎるのと荒々しい勢いに狙いが定まらない。
(せめて、銃があれば……!)
「セシリア…!」
その時、シャルが腰のホルダーからリボルバー式魔戒銃を引き抜き彼女に投げ渡す…!
「頼んだよ!!」
頼んだと言われても、セシリアは魔戒銃を扱ったことはない。いきなり手渡されても…
ふと、苻礼法師の言葉を思い出す…『貫きとおすものを考えろ』と……
(私の貫きとおすもの……)
自分はリアンや箒のように法術が長けているわけじゃない。シャルのように様々な時に機転がきくわけじゃないし、流牙たちのように魔戒剣を扱えるわけじゃない。……そんな自分が出来ることは…
……狙い撃つ、それのみ。
(やってみせます!)
撃鉄をお越し、トリガーに指をかけるセシリア。狙うは敵の頭部…いや、もっと絞る……眉間だ。
「いっけぇぇ!!」
ーーバァァン!!
「!」
放たれた弾丸は勢いよく空を裂き、見事に一夏のサングラスを粉砕。同時に、アグリは矢をいくつも一夏に叩き込む!
「ぐあああ……!?」
「「流牙(さん)ッ!!」」
「むんっ!!」
トドメは流牙。牙狼を召喚しホラーを蹴散らすと跳躍しステージへ…そのまま一夏の胸を一閃ッ!!直後、金色の波動が洩れ牙狼を金色に染め上げる…!
「あぁぁ…!がっ!?」
【一夏、もう充分だ…退け。】
「主……わかりました。」
大ダメージを負った彼は傷口をおさえ、主たる者の声に従い闇に紛れるように逃走した。『待て!』と追おうとした牙狼だったがまともくる激痛に鎧を解除して足をついてしまった。
それでも、今回は……紛れもなく流牙たちの勝ちだった。
箒やシャルたちも残ったホラーを倒し、流牙たちと合流する。
「やったな……やっと俺達の勝ちだ。」
アグリの言葉に全員が頷く。今回、はじめて大敗を期した相手から勝利をもぎとれたのだ。各々が笑顔を取り戻していく中、あっ…とセシリアは気がつきシャルに魔戒銃を渡す。
「シャルロットさん、これをお返ししますわ。」
「ん?ああ、良いよ…僕がセシリアにって作ったやつだし。」
「え……私にですか?」
「うん、苻礼法師と相談してね。セシリアや鈴たちは僕らのような魔戒法師の技術全部を短期間に身につけるのはさすがに無理だから、ならあえて射撃(長所)を活かそうって…だから、遠慮はいらないよ。」
…自分の武器。成る程、苻礼法師はしっかり考えてくれていたのか。嬉しさとちょっぴり申し訳なさが混じった感情が胸を充たす。
「ありがとう、シャルロットさん…大切にしますわ。」
とにかく、今は贈ってくれた友に礼を言うべきだろう。
すると、流牙が急にセシリアの頭を撫ではじめる。
「ありがとうは俺だよ、セシリア。おかげで助かったよ……な、アグリ?」
「フンッ…」
「りゅ、りゅりゅ流牙さん!?」
どきまぎする彼女だったが、気がつかない流牙。無論、こんな行為は恋のライバルたちを刺激刷ることになるのだが……
「流牙!!」
「嫁よ、私も撫でろ。これは命令だ!」
「ちょっとあんたら何、抜け駆けしてんのよ!?」
言わんことではない。リアン、ラウラ、鈴音にあっという間に囲まれてしまう……その様子をシャルは苦笑し見据えていた。
その傍らでセシリアはある決意を胸にする。
(私は…私の出来ることをしよう。それがきっと、私の大切な人達の助けになるはずだから……)
To be continued……
★次回予告
リアン「ついに開く学園祭……華やかな舞台に隠れ、闇が全てを巻き込み牙を剥く!!次回『戦~Wars~』…そして、守るべき者に希望は打ち砕かれる!」
★☆
次回からとうとう学園祭です。特別ゲストで牙狼でお馴染みのあのキャラクターが…?
感想お待ちしてます。