「…くっ!?」
ブルーティアーズの脚部ブースターを反転してふかし、ライフル…スターライトを乱射する。しかし、『影』に当たらずティアーズも放つビームの柱は右へ左へと縫うように避けられていく…
そして、抜き放たれる銃口に光が灯り……
ーードォォ!!!
「きゃあっ……!?」
撃ち抜かれた……的確にブースターと駆動系を…
セシリアはフラフラしながらアリーナの隅へ不時着し、反対側へは新たなISを纏うリアンが着地する。腰から天使の翼が羽ばたいているような飛行ユニットに騎士のような装甲。大破した百花繚乱から代わった新たな力…
「これが……アトラス!!」
アトラス…灰色の機体が光を帯びる様は神々しくも…また雄々しくも見えた。力強く天使のようで鷹のような……そんな迫力がある。だがそんな右手にはハンドガンが重々しく存在感を放つ。
それに駆け寄る簪。
「凄い…これが苻礼法師が独自に設計したISアトラス…。姿勢制御・推進力を直結した翼ユニットに全てを任せ、文字通り鎧のように『着こなす』ことを実現したIS……流石、IS産みの親の父ですね。」
「さながら、お爺ちゃんってところかしら?」
【聞こえてるぞリアン。】
「あ……ヤバ…」
響くマイク音声と地獄耳に震えあがるリアン。と、同時に紅椿を展開した箒が舞い降りる。
「リアン、少々手合わせを願いたい。紅椿をもう少し馴染ませたいんだ。」
「…別に、構わないけど?」
そして、ふたりは舞い上がる……紅と白の星。娘と父、それぞれの傑作が……その様子を観客席から苻礼法師と千冬が意味深い視線で見つめていた。親友と父…それぞれの想いで…
「千冬先生…アリーナを貸してくれて感謝する。まさか、候補生の集中演習でよく通ったな。」
「嘘ではあるまい。何にせよあの娘らも…そして、流牙たちも……強くならなくてはな。敵は強い…今まで以上に。」
「ああ。だから、もっと強くならねば…」
見据える視線の先は箒とリアンが飛翔し、己の技をぶつけあい…舞い…飛翔する。苻礼法師は目を細くする…その瞳は何を見ているのだろう?千冬にははかり知れなかった。
「箒は……乗りこえたようだな。」
「…は?」
「親よりも、子は良き師により成長するようだ。」
「ならそれは貴方だろう苻礼法師。私は何もしていない……私は流牙に肝心なところを押しつけただけだ。私を救ってくれたように箒も救ってくれると信じて。その流牙を育てたのは苻礼法師、貴方だ。」
…確かにリアンと戦う箒の戦い方に迷いなど無い。的確に銃撃を刀ではらいながらアトラスへ迫り一撃を狙う様はセシリアや他の候補生とは違う勢いを感じる。臨海学校で受けたショックなど微塵にも感じさせないがそれは自分のためではないと苻礼法師だが、千冬もまたこれを否定する。その言葉からISと魔戒法師と違いはあれど彼女も彼を尊敬しているのだと感じられた…。
「フッ……なら、この老いぼれもまだ生きてた甲斐があるというものだな。」
……そうだ。そうでなくては……あと残るこの命は…流牙(つづくもの)たちのために…
★☆ ★☆ ★☆
「……うわぁぁ!?!?」
IS学園のとある廊下……時を同じくして、流牙は魔導ホラーと遭遇し、斬りあいになっていた。しかし、相変わらずの金の波動に苦しめられ苦境に立たされている状態であり、流牙の消耗は激しかった。
『…ォオオ!!』
ーードドドドスッ!!
『!』
その時、異形を撃ち抜く幾本の矢…。魔導ホラーが倒れ、彼の背には不遜に笑い弓を構えるアグリの姿があった。
「アグリ!弓は直ったのか!?」
「お前が気にすることじゃない。まあ、射つ分は問題無い応急措置だ。」
こちらも相変わらず、人を見下した態度で弦を弄る。もういちいちカッカする流牙ではないが……
そこへ、楯無も扇子を開きやってくる。
「流石、魔戒騎士名門の楠神流って所かしら?本当にこの速打ちに正確さ…見事なものだわ。」
「…」
「楯無さんもありがとう。人祓い助かったよ。」
素直に感謝する流牙に対し、褒め言葉だろう無視するアグリ。『可愛いげない』と扇子の文字を拡げる彼女だったが話相手を流牙に口を開くことにした。
「それにしても、シャルちゃんの魔導ホラー予測はまたもドンピシャね。魔導ホラー探知機を完成したし…これなら学園の魔導ホラー撲滅も近いんじゃないかしら?」
「……今週で5体は斬った。まさか、こんなに学園に入り込んでたなんてね。」
「はぁ…残念ながら学園のセキュリティじゃホラーは見抜けないし仕方ないわ。でも、はやい所、ホラーを根絶やしにしてもらわないと……そろそろ学園祭もあるしねぇ…」
今、生徒会長として楯無の懸念はこのホラーが徘徊する学園内にてもう時期、学園祭が行われることである。本来、日本本土から海を隔てて隔離されてるIS学園だが学園祭という特別イベントに限っては一般に開放されるのである。つまり…
「敵が仕掛けてくるとしたら、間違いなく学園祭か。」
「……それまでに、私達で出来るだけ手を打たないと…」
魔導ホラー……そして、一夏。奴等と一般人がいる中で戦いとなったら、まさに最悪の事態だ。
★☆ ★☆ ★☆
……??????
何処かの生徒の部屋と思われるそこ…。壁には流牙たちの写真が貼られ………主の生徒は椅子にもたれかかり、不気味に笑っていた。その背後には執事のように一夏が控えている。
「主……箒は立ち直ってしまったようです。」
「ああ、わかってるよ。まあ、そうそう事はうまくいかない時もあるよね。」
彼女はシュッとダーツの矢を放つ。その針は貼り付けられたある人物の写真へ……
「なら、次は……」
……コイツだ。と刺されたのはセシリアであった。
★☆ ★☆ ★☆ ★☆
……物心つく時には自分はトップに立つべきと言われてきたし、自分もそうであるべきだと思ってた。
ジュニアスクールでも役員を努め、学業でも常に頭から片手で数えられるだけの順位にいたしISの操縦だって教官を退けて鳴り物入りで学園の戸を叩いた。そして、いずれはオルコット財団の総帥の椅子が用意されていて……
「セシリア…!」
「…ひゃい!?」
おっと、物思いに耽っていたら不意な声にすっとんきょうな声を出してしまった…。慌てた顔をラウラに覗かれ、急いで平静を装うセシリア。教室にいた生徒たちの視線が痛いが仕方ない。今はペーパーテストのおさらいをしてそれぞれ女子グループが固まり、彼女の周りはクラスの違うリアンと鈴音を除きいつもの女子メンバーが集まっていた。
「ふむ……一番はシャルロットか。中々だな。」
「いやぁ、それほどでも…。ラウラだって僕の次に良いじゃん?」
「教官の手前だ…無様は見せられんが……やはり、少々座学は苦手だな。私の次は……セシリアで、相変わらずのビリは…」
その時、顔をしかめたのは流牙。彼のペーパーテストの用紙は見るも無惨な赤のペケだらけ…辛うじて◯と拮抗しているかどうか。いくら、黄金騎士かつ惚れた相手といえどラウラも溜息をつかざらえなかった。
「嫁よ…いくらなんでもそれはあんまりではないか?」
「千冬さんも魔導ホラー狩りが多い時に、抜き打ちテストなんて酷いなぁ。」
「条件は僕達もほぼ同じ、日々の努力だね流牙。」
「う~ん…」
げんなりする流牙にシャルロットが正論の一言で一蹴。魔戒騎士なれど、学生というからには夜の仕事も言い訳にしかならないのである。といっても、最近の魔導ホラー狩りはかなり数が多いのも事実だが……
そんな他愛ない日常風景は……いつも、突然に終わりを告げる。
「……苻礼法師からの通信?…! 流牙、新しい魔導ホラーの反応だよ!」
「「「!!」」」
シャルロットの言葉に一気に空気が夜のものへと変わる。
★☆ ★☆ ★☆ ★☆
IS格納庫
ゲームをはじめる寸前のチェスのように行儀よくズラリと並ぶ機体の列。どういうわけか知らないがここはよく魔導ホラーが現れる場所……
アグリも合流し、捜索に向かう流牙たちだったが未だに異形の影は無い。
「嫁よ、魔導ホラーはこの間、斬ったばかりでは…?」
「ああ。おかしいな…」
(私は……私は……)
首を傾げる流牙たち……その後ろではセシリアがとぼとぼと上の空で歩いている。それに気がついたアグリは…
「オルコット、集中出来ないなら帰れ…邪魔になる。」
「!」
冷たく言い放つ。すぐに流牙が怒るが目の前であるのにそれすら頭に入ってこない……
(私が……邪魔……)
魔戒法師としても未熟…
ISは新たな力を得たリアンに負けた……
座学でさえ、シャルロットやラウラに遅れをとってしまった…
一体、自分は何をしているのだろう?
自分は何の役に立っているのか…?自分の個人としての存在価値は何なのか……?
「相変わらずだな、道外流牙…」
「「「「「!」」」」」
その時、ISの影から現れる人影。黒いサングラスにスーツ…見間違えようの無い佇まい…
「一夏!」
…宿敵との再会に流牙は魔戒剣を構えた。
To be continued…
お ま た せ
久方ぶりの更新になります。今はアグリ、セシリア編になっておりこれ終わったら学園祭編ですね。ガロ艦これ共によろしくお願いいたします。
感想おまちしてます。
★☆
ゼロ ドラゴンブラッド面白いっすね!やはり、零がカッコいい。そして、悲しい……銀のお約束といえど。いつか、彼も本編で幸せになってもらいたいものです。