IS×GARO《牙狼》~闇を照らす者~   作:ジュンチェ

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ええ、お待たせしました…

まだ生きていたジュンチェです。詳しいことは活動報告にて…



華~Wild flowers~ 後編

……

 

 

 

知らなかった。突き放されることがこんなに痛いなんて………

 

知る由も無かった。また自分から大切な人が離れていくなんて………

 

 

「流牙…」

 

夜になり、未だに明かりが無いリビングで涙を流す千冬。いつの間にか忘れかけていた独りの感覚…自分以外、この家という密閉した箱の中で生活の音をたてる者がいないということ。ああ、これがこんなにも辛く胸が締めつけられるようだとは………忘れてしまいたかった。

でも、自分から流牙を突き放してしまった。彼が何を思っているか知らず………何を考えているか今も解らず………………

 

 

「…私は………どうしたら………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのォ~~、ちょっといいですかぁ?」

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

その時だった。居間の闇…更に暗く深いところから、水面から静かに顔をだすように青年が現れたのは。千冬は彼を知らない…ツナギに帽子と工場の作業員なのだろうが、こんな知り合いがいた記憶は無い。咄嗟に声をあげようとしたが、青年は手をだして制止する。

 

「待ってくださいよぉ~。オリムラさん、あんたにはあってもらわないといけない人がいるんすよ?わかるでしょ?」

 

「なに…?」

 

会わねばならぬ人間?反射的に流牙の顔が千冬の脳裏をよぎる。

 

「りゅ、流牙か!?流牙のことを言っているのか!?」

「それはすぐに分かりますよ。」

 

すると、青年は彼女の眼前に手をがさし………そのまま、昏倒させてしまった。明らかに人間の技ではない…。

 

「………オマエハ、ユルサナイ…」

 

そんな彼の瞳は異形の色に輝いていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★

 

 

 

 

 

 

 

それから、暫くして織斑家へと訪れた流牙とリアン…。しかし、あることに気がつくリアンはすぐに足早に門へと駆け寄った。

 

「……ホラー避けの結界が、壊されてる!?」

 

「!」

 

すぐに、流牙は家の中に飛び込むとドタドタとありとあらゆる部屋…物置まで探しまわるも、千冬の姿は無かった。

まさか………嫌な予感がして、翻して門まで戻るとリアンを押し退けてアスファルトの地面に耳を当てる。すると、巨大な円盤タイプの電動ノコギリのようなアームが結界を強引に突き破っていく様子が浮かんだ。

 

「やられた、ホラーだ。」

 

「そんな…タイミングが悪いわ。そろそろ張り直そうと思ってた矢先に………」

 

リアンは手に黒札を持っていた。本来、これはホラーを寄せつけないために織斑家の随所に貼られて結界を形成するものだが、時間が経ち効力が薄まってしまったのである。そこへ、ホラーが強引に突破して千冬を連れ去ってしまったのである。

 

「どうするの、流牙?」

 

「あの人には万一の時にって魔導具を持たせてる。弾に頼めば捜せるはずだ!」

 

「じゃあ、急がないと…!」

 

2人は闇夜の更に暗い場所へと目掛け、駆け出していた…。恐らく、残されている時間は少ない。

 

 

 

 

☆★ ☆★

 

 

 

 

 

 

「………っ?」

 

 

目が覚めると…感覚が戻りつつあった肌に肌寒さが身体中に走り身震いする。千冬は朦朧とする意識の中………頭を抱えて起き上がると、無機質で固い床に違和感を感じる。確か、自分は自宅にいたはず。なのだが………周りは広くて暗い…倉庫だろうか?それにしても、何故に自分はこんな所に?

すると、闇の中に倒れこむもう1人の人影に気がつく。

 

「お、おい!?大丈夫か…!?」

 

「あ………んん…?っ、ここ何処だよ?」

 

若い男…高級ブランドのスーツの彼はリアンと一緒にいたあの若社長だ。彼も事情がわからないらしく、起き上がるや機嫌悪そうに声を洩らす…

その時、みかねたようにボゥ…と暗がりからあのツナギの青年が現れた。

 

「やっと、目が覚めたか屑ども。」

 

「ああ?なんだ、テメェ?」

 

「あんたが見捨てた工場の従業員だよ若社長。」

 

「それが何の用だよ!?こんなことしてタダで済むとは……!?」

 

次の瞬間、キラリと刃のような円盤が輝いて見えたかと思うと、若社長の右足が足首ごと離れて宙を舞っていた…。刹那…何が起こったか理解できなかった彼だがバランスを崩し転倒したショックで自分に何が起きたかを認識し、同時に襲いくる激痛に悲鳴をあげる!

 

「ぎゃああああああぁぁぁああああああああぁァァァァァァァァァァァァ!!!!?!?いいだイイイイイイイイイイイイ!?!?!?痛いぃぃイイイイ!?!?」

 

「…っ!?」

 

千冬はいきりなり繰り広げられたグロテスクな惨劇に言葉を失った。普通、人間の肉体を腕や首を斬りおとすなど巧みの技で鍛えられた銘刀や現代の刃物であっても難しいはずが…ツナギの青年の背後から回転ノコのようなアームが現れ…否、いきなり生えてきて若社長の足を切断したのだ。普通の人間が出来る真似じゃない。

 

「若社長……実はですね、貴方の帰ったあとですが…うちの親方は自殺したんすよ?優しい人だったのに…工場にあった薬品飲んで。そして、俺に言い残したんですよ…無念を晴らしてくれって。」

 

そして、青年の正体は若社長に突き放された工場長の部下『だったモノ』。最も敬愛していた存在をある意味、殺されて…今まで積み上がってきた工場長への信頼感や希望の感情が反転して怨み・憎しみ…陰我となりホラーへと堕ちてしまったのである。それが、工場内の危険薬物で自殺した最も尊敬する人の遺体が魔界へ通じるゲートになってしまったというのはなんたる皮肉か………

無論、そんなことを今の千冬が知る由も無い。

 

「若社長………何か謝罪とか懺悔の言葉はありますぅ?」

 

「いぃだいいいいいいイイイイいい!?!?デメエエ、コンナコトシテ、タダで済ませねゾォ!?絶対ニィ、ブッ殺してヤルゥ!!!!!!!」

 

「……」

 

青年は若社長に問う………が、激痛と遥か格下扱いしてた末端に蹂躙される屈辱といった激情にすでに全うな思考が困難を極めていた。罵り、罵詈雑言を吐きつけ…切れた足首を抑えて悶えながらも尚も罵る。羽をもがれた蜻蛉…脚の折れた駿馬のように哀れな様を魔の瞳が無言で見据え………

 

 

 

 

 

 

 

ーーガッ!!!!

 

 

「ぐえっ…」

 

 

容易く、鈍足の虫をひねり潰すように…魔の回転刃が若き男を血が吹き出る肉塊にして喰らう。口などそこに無いはずなのに、ゴキッ…バキバキと肉を裂き、骨を削り、血を啜る。

千冬は思わず、後退りしていた。こんなこと、ありえない…ありえてはいけないはずの現象が目の前で起きている。パニックになりかける頭で嘘だと否定しても悪夢は終わらず、若社長だったナマモノはあっという間に喰い尽くされて床に大量の血痕のみが残った。

 

『フゥ……まあ、ソンナモンダよな…テメェのヨウナ人間なんざ…』

 

心無しか青年の口調すらも人間味が無くなってきたような気がする。そして、彼の目標は…ギロリと千冬に移る。

 

『オリムラァァ!!!!テメェはイッッチバン、罪ヲ償ワネエトいけねぇんだ。』

 

「わ、私は…お前など知らない!!!私は何もかも知らないぃ!!!!」

 

千冬は恐怖した。自分は明らかに部外者であるのは間違いない……目の前の青年だったバケモノと周囲の人物については面識すら無いのだ。でも、血走るはくだくした眼は憎悪の視線を走らせ…口は怨念の吐息を洩らす。このままではあの若社長と同じくいずれ自分も肉塊にされてしまうだろう。

…しかし、逃げ場などない。哀れな女に魔は己の理屈を語る。

 

『お前がよぉ…!世界大会にでなければよぉ…!!ISになんて触らなければ…!!!!俺達は今まで、普通通りニィッッ生活デキタンダ!!!!!!ゾレヲヲッッ、ゾレヲヲゥ!!!!』

怨念……怨怨怨怨怨怨怨……

 

怨み、憎しみが空気を震わす禍々しい波となり千冬に被さっていく…。命を喰らい、肉を切り裂く回転刃が振り上げられ……

 

 

「あぶねぇ!!」

 

その時、不意に割り込んだ影が千冬を突き飛ばす。聞き慣れた声……顔をあげればそこには……

 

「お前は!?」

 

「…たく、俺の領分じゃないでしょココは!!」

 

鎖のついた黒い魔法衣を着ているが、間違いない。見慣れたバンダナは五反田食堂の店番にて跡取り息子の弾。右手に茜色に輝く細身な魔戒剣を握りしめ、ホラーと対峙すると千冬を庇うように剣を構える。

 

「な、何故お前が!?」

 

「決まったことだろ!不甲斐ない仕事仲間の尻拭いだよ、クソッタレ!!!」

 

飛んでくる回転刃を普段のぐーたらしている姿から彷彿できないほど素早く鮮やかに魔戒剣でいなし、弾きかえした1つをホラーに打ち返して怯ませると千冬の腕を引いて建物の外へ…

廃工場を抜けると、逃げ切るまでもう少し…というところだったのだが……

 

『ニガスカァァ!!!!』

 

「うわっとッ!?しつこい奴だぜ。」

 

逃さんと先回りし立ち塞がるホラー…。全くうんざりすると弾は溜め息をつくが察してくれる相手でもない。『こっちだ!』と手を引き…尚も逃走を続ける。まだまだ回転刃が幾つもとんでくるも弾は足を止めない。止まればもう、守りきれないのは解っているから…

 

「さあって、どうしたもんかね?」

 

「弾!?一体、なにがどうなって…ッ!?」

 

「説明はあと!!取り敢えず、流牙たちがはやく来てくれりゃあ……」

 

 

 

 

 

ーーズキンッ

 

「うっ!?(くそっ…!!)」

 

なのに、堪え性も無く激痛という悲鳴をあげる左足。しまったッ!?と思った時には千冬も巻き込んで脚がもつれ…闇に舞う幾つもの回転刃が牙を剥きせせら笑う…。

 

『オワリダァァ!!!!』

 

(やべぇ……)

 

畜生。弾は思う……よりによって仲間の尻拭いで死ぬなんて。おまけに、守るべきものすら守りきれず……

 

こんなもの、無駄な徒労に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流牙!!!」

「応ッッ!!!!」

 

 

…否ッ!!!!

 

弾がしてきたことは無駄ではなかった!弾丸がパァン!!パァン!!!と何発も放たれ、回転刃を粉砕するとこれを突き抜けて宙を舞うは漆黒の黄金騎士ッ・牙狼!!!!そして、牙狼剣が乱入者に気をとられているホラーへ向けて吸い込まれるように突き刺さり禍々しい肉と骨を腹から両断する!

 

 

ーー斬!!!

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!!!!?!?な、何故ダ…何故!??』

 

直後、裂かれた異形の肉塊はおぞましい断末魔と共に爆発し消滅。これを確認すると、牙狼は鎧を解き…素顔を弾と千冬に向け素顔を晒す…。

 

「……流…牙?」

 

「…」

 

千冬は戸惑い、頭が破裂しそうだった。余りにも非現実な命の危機を救ったのは自分を見放したと思った弟と等しき彼…。一瞬だったが確かに謎の黒金の鎧を纏うのが見えたしもう理解という行為を脳がやめてパニックになりそうだ。

それでも、何故に流牙は戻ってきたのか…?それを問おうとするや彼は背を向けて立ち去ろうと……

 

「逃げちゃ駄目、流牙!!」

 

…した所を引き留めるリアン。直接、彼女の手が掴んだわけではない…でも、その言葉は何よりも強く流牙を押さえる。

 

逃げるな、と……

 

 

「ここで逃げたら、本当に戻れなくなるわ!!自分の想いに目を背けないで……!」

 

立ち止まった足は…何処へ行くべきか先を迷う。このまま前へ行けば、今まで通りの『独り』の道……何も変わらない。でも、本当にそれで良いのだろうか…?

恐らく、千冬も元に戻ってしまうだろう。荒んでいたあの流牙に出逢う前のように……

 

なら?自分はどうしたい……?

 

 

 

…道外流牙が求める姿とはなんだ?

 

 

「…」

 

おのずと、行くべき場所は解った……いや、解っていた。目を背けるのをやめただけ。

身を翻して、千冬の前に流牙は立つと…彼女に真っ直ぐと向き合った。

 

「千冬さん、俺は奴ら…ホラーからあんたを守るために近づいた。でも、俺を大切に想ってくれたことは嬉しいし、今でもあんたが大切なことには変わりないよ。だから、近くにいれなくても必ず守る…それが、俺の意思。だから、教えて……あんたの想いを。」

 

向き合ったのは身体だけではない…真っ直ぐな純粋過ぎる瞳に偽り無き心。家族ができたと流牙もまた思っていたということ……

そして、千冬は知る。そんな彼の想いを『弟の代用』として身勝手で彼の人格を踏みにじってしまったのだと。道外流牙という存在ではなく、その先にある弟の幻影を見ていたのである…。

…今にして思えば、代用品にされて喜ぶような彼ではない。解っていたはずなのに目をあえて向けようとしなかった。だから、流牙は離れていったのだ…

 

「私は……」

 

どうしたら良い?答えをだせずにいると、やれやれと溜息をついたのは弾…

 

「…そこにいるは、『道外流牙』だ。『織斑一夏(あんたの弟)』じゃない。だが、ソイツを家族にするか…永遠に他人にするかはあんた次第だ。取り敢えず、いい加減に自分の足で立ちな…誰かに寄りかかろうとする限りはあんたは絶対に変われないぜ。」

 

変わる…己が足で立つ。織斑千冬は弟を失った心の傷から酒に逃げ…いつしか忘れていた前を向く心。立ち直ったように見えても、流牙という代わりに寄りかかっていたにすぎない。

もう、そんな甘ったれている時期は終わったのだ…これ以上、失わないためには本当の意味で立ち直らなくてはならないのだ。

 

「……私は…」

 

脳裏で過る弟の顔。重なる流牙の面影………

しかし、徐々にこの2つは離れていき別々の像となる…。ああ、今更になって頭が受け入れた………

 

 

いくら、弟に向けようとした愛を流牙に注ごうとしても…贖罪にはならないのだと。

 

「…流牙、私は……」

 

でも、もう失わないたくはない。

 

「……お前と離れたくは無い!」

 

いとおしいのは何故か、それは…

 

「代わりじゃない…ひとりの家族として、お前を手放したくはない…流牙!!」

 

 

…かけがえのない唯一の存在だから。

 

すると、流牙は千冬を抱きしめ…一筋の涙を流す…。そして、心の奥底からの新しい家族のはじまりを告げる……

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「……素敵なお話ですね。」

 

シャルは素直に想いを口にした…。対する千冬は苦笑し、鼻を鳴らす。

 

「まあ、大半が私の黒歴史の話だがな………だが、まあ不思議な奴だな、あの男は…。奴は人を変える力がある。迷いを断ち切り、誰もを惹きつける何かが…」

 

もし、流牙と出逢わなかったら、自分はIS学園で教鞭をとる事もなかったであろう。今でも、嘆き悲しみながら酒に溺れる毎日がありえたかもしれないと思うとぞっとする。

振り返れば、少女たちがこうして集うのもはじまりは道外流牙であった。セシリアと鈴音が魔戒法師見習いになり、更識姉妹が協力者となった。そして、箒が迷いながらも守りし者として再び歩き出すキッカケになったのもまた………

確かに、彼には人の心を変える力があるのかもしれない。

 

「それから、私は誓ったんだ。私が変えてしまった世界をこれから歩む者たちのために、この命を捧げていくとな。」

 

千冬の瞳にはかつての弱さと迷いの濁りは無い。何処かは箒には分らない…されど、自らが歩むべき道は見えている…

しかし、自分はどうだ?かつて、姉が守りし者から離れたのを境に法師としての力を捨て、全てに目を背けてきた。そして、意志も固まらぬままに状況に流されて復帰したものの、今回の件で『一夏』という唯一の支えを失った絶望…暗い海にただ1人で放り出されたように不安と認めたくないと否定する激情に破裂しそうな今。どうすればいいのかなんて検討もつかない。

そんな彼女を察したのか…ある提案をする千冬。

 

「箒、とりあえず…流牙と話をしてみたらどうだ?」

 

「え…?」

 

「アイツも今回の件はこたえている。独りにするより幾分かは気が楽になるはずだ。私は山田先生が来るまでここを離れられん。頼む。」

 

話。流牙のため…とも言っているが間違いなく大半は箒への気遣いが占められているくらい解る。でも、何を話せば良い?思いつかない…が、千冬の静かな視線を前にして、気がつけば自分は頷いて部屋を出ていた…。

 

 

 

(私は……何をすべきなのか…?道外、お前はその答えをもっているのか?)

 

 

 

 

To be continued...

 

 

 

 

 

 





☆次回予告

箒「過去、願い…それはアイツも背負っていた。次回『誓~Promise~』……しかし、その先にあるのは……希望とは限らない。」



……

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