IS×GARO《牙狼》~闇を照らす者~   作:ジュンチェ

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絶~No hope~ 後編

少し時計の針を巻き戻そう…

 

 

 

空を駆ける流牙と箒は海面を真下に…雲を切り裂きながら、視界の彼方へ影を捉えた。まるで、天使が翼を拡げたような純白のIS…ホログラムを出してデータを照合すれば目的の『福音』であるとわかる。

 

「見つけたぞ!私が回りこむ!お前は一撃でしとめろ!!」

 

「応ッ!」

 

箒が正面にまわりこむ形でスピードを出し、弧を描く!流牙も後方で挟み撃ちの姿勢をとろうと月呀を構える…。

タイミングはバッチリ…福音も反応を見せたが、回避は叶わない。

 

「やあッ!」

 

斬!!と一閃……紅椿の空裂が福音の翼を裂いた。福音はバランスを崩し、大きくよろけたところを流牙が狙う!

 

「今だ!道外…!!」

 

「むっ!」

 

白狼のスラスターにエネルギーが充填される。後は月呀を突き立てれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【【DANGER~熱源接近~】】

 

 

 

ズギュウウウウウン!!!!!!

 

「「!?」」

 

…その時、けたたましい警報と光の柱がごとき紫のビームが流牙と箒をかすめ…一瞬で福音の機体を蒸発させた。直撃こそは紅椿も白狼もしなかったが、衝撃波だけでゴッソリと耐久エネルギーであるシールドエネルギーをもっていかれている。

 

「なんだ!?」

 

「…ビーム攻撃?しかし、まだ封鎖空域の側では……」

 

「警戒しよう。まず、先生たちに連絡を……」

 

福音は落ちた……しかし、自分たち以外にISはおろか…人間と呼べる存在もいないはず。背中合わせで警戒態勢をとりながら、流牙は通信を繋ごうとするが……

 

「…先生!山田先生!?」

 

「どうした?」

 

「繋がらない…それに、ノイズも酷い。」

 

「なんだと!?」

 

連絡しようにも、酷い砂嵐のようなノイズがするばかりでろくに反応しない。嫌な予感がする……

 

「道外、撤退だ。福音が墜ちたなら、私たちが長居する理由も無……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そうはいかない。】

 

 

 

「「!」」

 

そのタイミングをついたように海面を突き破って、『奴』は現れた。真っ黒な腕が白狼の脚を掴み…一気に海中へと引きずりこむ!不意をつかれた流牙は抵抗しようとするが、水中での活用を想定していない白狼はズブズブと海底へと引きずりこまれていく…。そして、翼を貫いてアンカーガンを撃ち込まれ…近くの岩礁に繋ぎとめられてしまった。

 

「ガボッ…がばばッ!?!?」

【フン…】

 

それを確認すると、再び海面を穿ち空へと舞い上がる!ロケットのように垂直に大気圏まで達しそうな速さの機影を箒は紅椿の推進力にモノをいわせて追撃を開始した。

 

「待て!」

 

【…ついてこい。】

 

…それが、罠だと気がつくこともなく……

一方で海中で流牙はもがいてワイヤーを月呀で切ろうとしたがうまくいかない。力任せに引き抜こうにも、アンカーガン自体がかなり強力なのかグラグラとしても抜ける様子が無い。

 

【フンッ!】

 

その頃、急襲者は雲の高さにて蝙蝠のような翼を拡げ…紅椿を待ち受けていた。そのシルエットに箒は目を見開いた…。

 

「バカな…黒い……白狼!?」

 

こちらは重厚そうで、搭乗者が仮面をしているが…明らかに区画やパーツが共通している。そう……これが『ゲイヴォルグ』と呼ばれていることなど箒が知る由も無いが……相手が細身の黒鉄に輝く日本刀らしき武装を取り出した時、反射的に応戦の形をとった。

 

「くうっ!!」

まず、ゲイヴォルグが斬りかかったのを空裂で箒がいなし…雨月でビーム凪ぎ払いをするが間合いをとられてかわされてしまう。そこへ、間髪いれず踏み込んでいく箒。

 

「…やああっ!」

 

右…左……2振りの刃が怒涛の責めを行うが、中々当たらない。ヒラリヒラリとかわされ、時に刃で受け流され……ついに、カウンターの一太刀を受けて左脚に斬り傷がつく紅椿。新品の愛機を傷つけられた箒は黒の不届き者をキッと睨む。

 

「…貴様、よくも私の紅椿を!」

 

「フンッ…」

 

「……!?」

 

 

その時、箒は見た……

 

襲撃者が左手を開いたり閉じたりする動作をしていることに……

 

【箒!】

 

脳裏に浮かぶ幼き日の記憶…。愛した彼が、市内を持って自分に挑んでくる光景。あの少年も調子に乗っている時に同じ仕草をしていた…

 

(何を考えているんだ、私は!?戦いに集中しなくては……ならないのに!)

 

すぐに我にかえった箒は敵の機体と激しく大空に交わる飛行機雲を作りながら、斬り合いを繰り広げていく…!命と命のやりとり……気を抜けば死が待つであろう…なのに………

 

(何故だ!?何故、コイツと戦っていると…!懐かしさがこみあげてくる!?)

場違いな感情が胸を充たそうとしてきて、頭が混乱しそうになる。そんな彼女を嘲笑うように、ゲイヴォルグは剣を振るう…!

 

「ぐ…おおおおおォォ!」

 

時を同じく…海中では無理やり力任せにワイヤーを断ち切ることに成功した流牙が白狼にスラスターを噴かせ、海中から脱出。海面を突き破るや、すぐに箒のあとを追う!

 

「箒!」

 

 

刹那……襲撃者と箒の合間に割って入った流牙。弾丸のように滑りこんだ彼の月呀は黒の装甲を捉えることはなく…かわりに、狼を模したような仮面を砕いた。そこから、垣間見えた顔は…

「え……」

箒の動きを……一瞬だけ、完全に思考もろとも止めた。

そこへ向けられる黒光りする銃口。灯る紫色の光……。センサーが告げる警報も今の彼女の耳には届かない。

 

「箒ッ!!」

 

咄嗟に、身を翻して彼女を庇う流牙。直後、先の福音を撃ち墜としたと同様のビームが炸裂し…白狼と紅椿は抱き合う形で海へとまっ逆さまに落ちていった……。

 

「充分だな。」

 

ゲイヴォルグ…正確にはその操縦者は砕けかけた仮面の下でほくそ笑んだ。破損した顔を左手で抑えながら…落ちた獲物たちに手を伸ばそうと高度を下げ……

 

「むっ!?」

 

「させるか!!」

 

ようとした瞬間、行く手を遮ったビームに飛び退いた。見れば、彼方より紫の蝶のようなISが見えた…。

 

「邪魔が入ったか。」

 

「待て!」

 

ゲイヴォルグはこれを機に撤退。それを新なISが追撃していく……

 

その頃、海中から浮上した紅椿が解除された箒。ぶはっ!?と肺に息を流しこみながら、彼女は辺りを見渡す…

 

「流牙…!?流牙…!?」

 

すると、海面を浮遊する彼を見つけた。すぐに、泳いでいき流されないように掴まえると…彼女は視界の先に島を見つけた。

とにかく、今は陸に上がらなくては……

 

「頼む、最新機だというなら……もってくれよ紅椿!」

 

 

 

 

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「嫌な予感が的中したそうだ……洋上で未確認のISに襲われたらしい。」

 

旅館の駐車場に待機していた苻礼法師は端末から入った凶報をバイクにもたれていたタケルに伝えた。すると、タケルは血相を変えて立ち上がる。

 

「じゃあ、流牙と箒は!?」

 

「……連絡もつかん。しかし、時期に捜索隊も出るだろう。タケル、お前はアグリに連絡しろ。俺は楯無に手を打ってもらう。我等も独自に捜すぞ!」

 

「ああ……仕方ないな。いや、学園の守りはどうすんだよ!?」

 

「予め、学園には羅号が放ってある。抜かりは無い。」

 

雲行きが怪しくなってきたのが肌でわかる……いつ以来かの不安を抱きながら苻礼法師は海の彼方を見据える……

 

その手に歯がゆさを握りしめながら…

 

 

 

 

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何処かの洞窟……響く神聖な歌………

 

 

ふと、甦る母の記憶…。

 

 

 

そして、歌姫は2人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流牙ァ!」

 

「!」

 

箒の叫びにより、意識を取り戻した流牙。自身が砂浜に打ち上げられていることを悟った流牙は心配そうな顔をした彼女に痛む頭を押えながら訊く。

 

「箒……どうなったの、さっきのあと…」

 

「お前が私を庇ったあと、あの黒いISは行ってしまった。あのISは何なんだ!?」

 

「わからない。でも…白狼に似てた。」

 

わからないことだらけ…仕方ないだろう。解明するためのキーもピースも無い。なら、今わかることを訊こうと流牙は箒に口を開いた。

 

「箒は…なんともない。」

 

「え、あぁ…私は平気だ。すまない、不甲斐ないばかりに……」

 

「良いよ。それにしても、まだ通信は回復しないのか……」

 

箒が無事なのはせめてもの救い。されど、連絡手段が未だにダウンしており…白狼も紅椿も反応せず。

辺りは海と後ろには雑木林といった具合からしてここは無人島か……

 

「さっき、見てきたが奥に無人だったが施設があった。何か使えるものがあるかもしれない……行ってみるか?」

 

「そうだね……ここでじっとしていても仕方ないし。」

 

流牙は立ち上がると、魔法衣から水気をはらい…箒と共に雑木林の中に進んでいく。

いずれ、その先で運命の戦いが待つとも知らず……

 

 

 

 

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それから、すぐにバックアップで控えていた代表候補生たちは流牙と箒の捜索へと駆り出された。ISを展開した彼女たちは、美しく染まる海面の夕陽にも目もくれず……渡り鳥のように戦いがあった地へと飛んでいく。

その先陣をきって、とばしていたのはリアンだった…。

 

「リアンさん、飛ばしすぎですわ!?あまり離れるなと織斑先生も言ってたではないですか!」

 

セシリアが叫ぶも彼女はぐんぐんと前へ進んでいく…。その様子を鈴音は心痛な表情で見つめていた…。

 

「しょうがないわよ。付き合いが実際に長いのはリアンだし…なんせ、まだ仲直りもしてないんだから。そりゃあ、必死になるわ。」

 

リアンと流牙はひと悶着あってから、まだ関係の改善は出来てはいない。確かに喧嘩はしたが、彼が彼女にとって大切な人であることには変わりないのだ…。それが、いざこざがあってそのまま別れるなど耐えられない。せめて、文句を言い尽くして…自分の想いをきちんと理解させるために……なんとしても生きて帰ってきてもらわなくては…

「そろそろ、例の空域だが……」

 

ラウラが呟く。間もなく流牙たちが消息を絶った場所……

恐らく、ここで何かあったと思い…辺りを散開して探索する。

 

 

 

 

……その様子を猛禽のように遥か上空から見つめる黒い影。

 

「……では、手筈通りに。」

 

簡単に告げると一気にそれこそ猛禽の狩りの速さで滑るように落ちていく。直後、警告に気がついた少女たちだったが…

 

すでに、一行から離れすぎていたリアンが叩き墜とされた後だった。

 

 

 

 

 

 

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「…デュノア社?」

 

流牙と箒が林の奥へと進んだ先は採掘場跡とおぼしきさびれた施設。かろうじて、壁に企業ロゴを確認すると事務所らしき施設にとりあえず入ったみる…。中の計器は何のものかはわからないが埃を被り、ピクリともしない。他、パソコンや電話といった類いのものも見当たらない。時に、人気も無くネズミなどがチョロチョロしているあたりからだいぶ昔に破棄されたのだろう。

 

「駄目だな…ライフラインも皆、死んでいる。何か燃料の採掘場だったみたいだが…役立ちそうなものは何一つ無いな。」

箒は電気などを使おうとしたが、照明などはスイッチを押しても反応しない。人がいないのならメンテナンスする者もいない…当然だ。まだ幾つか施設はあるが、恐らくは同じだろう。

白狼も紅椿も未だに回復せず、起動も出来ない2人は意気消沈しながら外へ出ると……流牙は恐らくは採掘用と思われるトロッコを見つけた。レールの先には洞窟がある……この先を掘削して出てきた土砂を運んでいたのか?

 

「……なんだ?」

 

…しかし、奇妙なものを感じる。まるで、暗闇の中になにかあるような……

 

「道外?」

 

「…いや、何でもない。」

 

気にしすぎか……箒に促され、その場を後にした。やがて、辺りは薄暗くなりはじめる。ならばと、剥き出しの鉄骨の上をよじ登り…流牙は自分たちを捜しにくる者はいないかと水平線の彼方まで目を光らせた。まあ、そんな都合よくいるわけもなかったが……

 

「…まだ助けもくる様子も無いな。」

 

「そうか……」

 

「なんだ、名前で呼んでくれないの?」

 

「えっ!?」

 

不意に流牙は下で待っていた箒に訊いた。あまりにも突然だったので、彼女は変な声を出してしまった…。彼はこの場で何を考えたのだろう…心臓が変な脈の打ち方をしてしまう。

 

「だって、さっきは『流牙』って呼んでくれたじゃん。」

 

「いや、それは…その……つい、勢いで…」

 

「良いよ。なんか道外だと距離を置かれているような気がしたし……」

 

そう言われてみれば……振り返ってみると、今までは周りが流牙呼びだったのに自分のみが道外呼びだった箒。でも、月日が経ち…時折、無意識のうちに名前で呼んでいたような気がする。そして、先の気を失っていた彼を前にした時は『流牙』と必死に叫んでいた…。何故だろう?

 

…もしかして、知らないうちに自分は彼に心を許しはじめているのか?

 

そんな考えがよぎったが、共にあることが頭に浮かぶ。

 

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「お前は気がついていたのか?私が…『あの人』の妹だってことを。」

 

あの人…即ち、束のこと。大罪人として魔戒騎士や魔戒法師から睨まれる裏切り者の妹…。普段は優しい流牙ですら、敵意を初見から見せた相手の妹で自分はある。彼は父である苻礼法師とも付き合いが以前よりあったとするなら……知っていてもおかしくはない。すると……

 

「知ってたよ。俺も苻礼法師との付き合いはそこそこ長いからね。」

「!」

 

彼は知っていると答えた。ならば、何故…自分には普通の態度で接していた? 最大の疑問…自分とて白い目でみられたっておかしくはないのに…

 

「…でも、箒は箒でしょ?学園の生徒でちょっとぶっきらぼうだけど優しい。そして、自分の道を生きる魔戒法師だ。」

 

それを下らないと彼は笑う。道外流牙はあくまで、箒個人しか見ていない…。姉がどうだ?父が誰だ?さして、どうでもよいこと。箒という少女がどうあろうとするかで…彼はまっすぐ向かいあっていた。そのまっすぐさは……あまりに愚直なまでの心は………

 

「私は……そんなに大層な人間ではない…」

 

少女の心に重みをかける。ある種の罪悪感に近いような…嬉しいが望まない評価を受けた気持ち。本当の自分は迷っている…何が正しいか何が間違っているのか…どんな道を歩んでいくか迷っている。

 

だから、今更になって一度は捨てた魔戒法師の道に戻ってきた……

 

だから、姉に紅椿なんてものをねだった……

 

 

違う…何も見えていない。目隠しされて歩くようにな感覚で、今を生きている。本当に自分を生きるというのは流牙のことを言うのだ…だからこそ、その生き方に魅せられた者たちが続いていくのである。

 

「道外流牙……私は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…失礼。」

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

まるで、そよ風のように…肌を撫でられてから存在を気づくように……その時、『彼』は現れた。あまりにも場違いなスーツにサングラスと黒光りする革靴…片手には事切れた『手土産』。

 

「…この女は返す。」

 

頭を鷲掴みにされていたのは気を失っていたリアン。その彼女をはさながら、サッカーボールのように蹴って箒の前にパスをする男。流牙は血相を変えてすぐに鉄骨から降りてくると彼女を抱き上げた…。

 

「リアン!?」

 

酷いものだった…。顔や素肌をさらしている場所でおびただしい数のアザに擦り傷。鼻血がスゥ…と頬を伝う様が痛々しい。そんな彼女と流牙を嘲笑うように男は告げる。

 

「その女…気を失うまで、お前の名を呼んでいた。」

 

「!」

 

流牙は彼女の右手をとっておさまる指輪に耳をあてた…。

頭に流れてくるのはゲイヴォルグに殴られたり蹴られたりと、なぶられなているリアン。百華の展開が解かれても尚、男に気絶するまで首をしめあげられたりと蹂躙される様…

 

【流牙!】

 

それでも、大切な人が助けにきてくれると信じていた少女を嘲笑う者。

 

「…ゥ…ウアアア!!!!」

 

流牙は我を忘れた。いつ以来かの本気の怒りで魔戒剣で斬りかかった。

だが、男は手を掴んで止めると目にも留まらぬ速さで流牙の顔面と腹部に手を打ち込み…体勢を崩した流牙の首を掴みあげ蹴りとばしてみせる。

 

「…ぐ、うァァ!!」

 

負けじと流牙を剣を突き出すが吸い込まれるように掌にガードされ、がら空きの足許をはらわれる。そのまま男は流牙の腹を踏みつけ不敵に微笑んだ…。

 

「流牙!」

 

勿論、箒も見ているだけではない。魔導筆を取り出すと、法力をためて近接を挑むがヒラリヒラリとかわされて顔面を掴まれると力任せに事務所の窓ガラスへと放り込まれた。

 

「うわあぁぁぁ!?」

 

「箒!?」

 

ガラスが砕ける男と彼女の悲鳴……咄嗟に立ち上がると魔戒剣で再び挑む流牙。すると、男は高く跳躍して流牙もそれを追う…!

 

「はあっ!」

 

「ぐ!?」

 

しかし、待っていたのは空中での踵おとし。ちょうど耳許に足を喰らった流牙は聴覚が麻痺し…立ち直るのが遅くなったところをまた蹴りとばされてしまい、地面をゴロゴロと転がる。

 

「弱い。」

 

一言。あっさりと片付けると革手袋をつけた手を開いたり閉じたりしてコキコキと鳴らす男…。確実に舐めてかかっている。

そこへ、魔戒剣を投げつけられたが顔をかるくずらして鍔を掴まれてキャッチされてしまう。

 

「…黄金騎士も地に堕ちたものだな。」

 

彼はそのまま魔戒剣を使うことなく…まるで、ゴミのように投げ捨てる。続いて、流牙が素手で挑むもヒョイッとかわすとその右腕を捻りあげた。ボキッと関節が悲鳴を響かせ…苦痛に顔を歪める騎士に容赦なく背中にチョップの一撃。全くをもって男は反撃を許さない。

 

「流牙!」

 

一方で、箒も復帰すると窓から飛び出して男と相対する。ただ、目の前の光景には目を疑った……あの流牙が全く手も足もでない光景に……

 

「ホラーか!?」

 

「お前たちの敵だ。」

 

敵……シンプルな表現。でも、明らかに今までのホラーとかの比ではない。根本的に違う…獣ではなく、戦士とした佇まいがある。異質で、不気味なこの男の雰囲気に箒は息を呑む…。紅椿が動かない今の状態で勝てるのか?この男に…?

 

「む?」

 

その時、男がバックステップを踏むと彼のいた場所に矢が刺さった。

 

「流牙!」

 

上に視線をむければ、そこには白いISを展開した簪にそれに乗ってきたであろうタケルとアグリ。騎士たちは飛び降りると、タケルは斬りかかりアグリは矢を放つ!

 

「ふんっ!」

 

「ぐわぉ!?」

 

しかし、矢は受け止められるとタケルの魔戒剣の防御に使われ、正拳突きでタケルはふっとばされた。そして、残った矢は簪をかすめるように投げつけられ虚空に消えた…。

 

「ちぃぃっ!」

 

思わず舌打ちするアグリは男を中心に円を描くように矢を速射。絶え間など無いように放つも、身を反らしてかわされるとそのまま滑るように間合いを入るのを許してしまう。

 

「はああっ…」

 

「なにっ!?」

 

直後、男は凪ぎ払いの弓を跳躍してよけるとアグリに蹴りを入れて宙返り。華麗に着地すると、後ろから飛びかかってきたセシリアを一瞥。

 

「…やああっ!」

 

「鈍い。」

 

「!?」

 

彼女の腕をおさえると、続いて一撃をいれようとする流牙の剣を逆の手で防ぐ。これで、両手はふさがった……

 

「どおりゃああ!」

 

この機を逃すかとタケル。魔戒剣を逆手に持った回転斬りで正面から一気に攻めたてる!しかし…男は両サイドを振りほどき……

 

「むんっ!」

 

「がっ!?」

 

蹴りあげ…俗にいうサマーソルトでタケルの顎をぶち抜き勢いを殺す。なんという荒業か……コンマでもタイミングが遅ければ脚を斬りおとされていたろうに。

 

「「はああっ!」」

 

そこへ、しかけるのは鈴音とラウラ。まず鈴が体勢を崩そうとスライディングをかけたが、軽く右足で受け止められて返り討ち。続けて、ラウラも持ち前の軍人として習得した格闘術を繰り出すが同等の動きで防がれてしまう。

 

(コイツ!?中々の手練れ!)

 

拳、拳、キック。まるで一寸先の未来が見えているように男の防御は完璧。そして、ラウラの微かな隙をつき連撃を叩きこむと彼女を流牙たちの前に転がすのであった。

このまま追い討ちをかけようとする男……

 

「させるか!」

 

それを、後ろにいたシャルが魔導筆より出した法力の鞭で縛りあげる。一介のホラーなら簡単に捕縛できる術だ。

 

「ふん!!」

あくまで、一介のホラーならの話だが。男は術を簡単に引きちぎると、シャルを息をつかせぬうちに間合いを詰めて首を締め上げると廃墟の白い壁に叩きつけた。

 

「弱い…弱すぎる。」

 

「離せ!!」

 

思わず、相手の手応えの無さに落胆の声。蹴られて、間合いをとらさせるとスーツにつく埃をはらい不遜に一行を見据える。

 

されど……彼が意識したのかは謎だが、ちょうど囲うような配置になっていた面々。目をあわせて、頷きあう魔戒騎士と少女たち…相手の正体がなんであれもう力の出し惜しみなどしてられない。

 

「「「うおおっ!」」」

 

「「「「やああっ!」」」」

 

 

炸裂する光。鎧を纏う魔戒騎士……ISを展開する少女。相手にするのは素手の男ただ1人……。箒は未だに紅椿が起動せず、簪は戦力外のためにこの場にいないが戦力差は圧倒的なはず。ここには、黄金騎士と各国の代表候補生たちがいるのだから………負ける道理が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、この程度か?」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「!」」」」」」」

 

 

…ないなんて甘い考えはすぐに消し飛んだ。

 

 

『…だァ!!』

 

男は合掌すると、身体から噴出する邪気と共に異形…即ち、魔導ホラーへと姿を変えた。ただ今までのものとは違う……魔戒騎士のような獣の顔をしつつも生物的で蝙蝠のよう。そして、純白と金色の生々しい肉体……

『どうっ!』

 

まず、魔導ホラーは一斉に襲ってきた者の中で先陣をきっていた牙狼をいなすと、プラズマ手刀で突っ込んできたラウラを掴み振り回すと鈴音に漸、牙射をなぎはらう。そこに、シャルがマシンガンを狙おうとするとラウラを投げつけて動きを止めてみせる。

 

「ティアーズ!」

 

ここで、攻撃を緩めてはいけない!セシリアはすかさず、ティアーズたちを飛ばしてビームを発射する……だが、魔導ホラーが手をかざすと空を舞う射手たちは動きを止めてしまう。

 

「な、なんで!?ティアーズ!?」

 

射手の主は慌てる……その一瞬が命取り。牙射が放った矢が蹴って弾かれると真っ直ぐ、青の射手の右足をぶち抜き破壊した。

 

「きゃあああああ!」

 

「セシリア!?」

 

『余所見か、道外流牙?』

 

思わず、叫んでしまう牙狼。無論、彼も然りで油断大敵…魔導ホラーが間合いに飛び込み激しい近接戦となる。牙狼剣を抑えられ、漆黒の鎧に叩き込まれる膝ッ!膝ッ!締めにしなかやな腕が顎を砕く!!

 

「…ぐっ…ああ!?」

 

金色の兜からブシュゥ!!と血が迸った。あまりの威力に地面に転がった所をさらに追撃をしかけるため踏み込む魔導ホラー…

「むっ…」

 

「嫁はやらせん!」

 

しかし、不意を突こうと飛んできたレールガンを身体をよじってかわしてしまったために叶わない。振り向けば、ラウラとシャル…牙射の支援攻撃の嵐。矢、弾丸、ワイヤーを鉄骨のタワーを駆け上がっていき逃れる異形の僅かばかりに出来た隙にと牙狼をかっさらうように回収する鈴音。勿論、魔導ホラーだって黙って見ているわけではない。タワーに蹴りを撃ち込むと、牙射たちに倒し…回避した彼等を分散させるとゲイヴォルグを展開して後を追う!

 

「流牙、来たわよ!」

 

「いくぞ、鈴!!」

 

闇夜に舞い上がる牙狼を背に乗せた甲龍。 月をバックに弧を描くと燕の如く、ゲイヴォルグと相対する!

 

「「うおおっっ!」」

 

息はピッタリだった。だが、ゲイヴォルグは不敵に笑うとなんとスレ違いざまに甲龍から牙狼を叩き落とし、魔導ホラーに戻ると自分も牙狼に追いついて落下しながら尚、拳を叩きこみ続ける。鈴音も、牙狼を落としてバランスを崩した拍子に廃墟へと突入してしまい助けることは不可能だった。

 

『…どゥ!』

 

「ぐああっ!?」

 

再び決まる強烈なキック。この衝撃をバネに受け身をとる魔導ホラーと地べたに這いつくばる牙狼。漸、牙射も庇おうと前に立つが降り下ろす弓も剣も受け止められ…腹に流れるように拳と蹴りで押し返された。

一方、この離れたところでは必死に箒が紅椿を起動させようとしていたが…ピクリともしない愛機に虚しい叫びが響く…

 

 

「何故だ!?何故、動かない、紅椿!?」

 

 

 

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「…」

 

何処かの薄暗い密室……束はホログラムに映し出されている魔戒騎士たちの苦戦される様を眺めていた。ここには、千冬も苻礼法師もいない……

 

ただ青白い光に無機質に照らされる彼女の顔は何を思っているかはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

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「おおわぁああ…!?!?」

 

「タケル!」

 

深紅の鎧が砂利を巻き上げて、殴りとばされた勢いを殺しながら立ち上がる。漸の前に牙狼…続いて、牙射が立ち……鈴音とラウラ、シャルが頭上に滞空する。

 

「くそ、強すぎる!?なんなんだアイツは…!」

 

「気持ちで負けたら終わりだ、アグリ!」

 

「だけどよぉ、流牙!?」

 

三騎士はもう足並みがぐらつきつつある。ISも探索でさいたエネルギーのおかけでバッテリー切れも近い。残弾もふまえると早く勝負をつけたいところ……

 

そんな彼等を嘲笑いながら、魔導ホラーは己の肋骨を両手で引き抜いてそれぞれを剣と槍に変化させる。

 

『なってないな。戦い方も振る舞いも…三騎士揃って三流とは。俺が教えてやるよ…………魔戒騎士らしさって奴を!』

 

「黙れ、ホラーァァ!!!!!」

 

 

 

突きつけられた剣の切っ先と言葉に牙狼の怒りは頂点に達する。冷静さをうしなった剣筋など赤子の首をくびるようなモノ……槍で受け止められ、剣で胸を突かれて再び元の位置へ。シャルがすぐに銃撃をはじめるが、槍で弾かれて逆に弾丸の嵐が自分たちを襲う始末…。なんとかラウラが身を挺して盾になるも彼女の機体もエネルギーの限界が近づいていた。

 

「うおおっ!」

 

その背を飛び越えて、牙射が弦を引き絞るが矢尻が狙いをつけるより先に剣を捨てた手に間合いを詰められ首根っこを掴まれる。漸も助けようとしたが、牙射を蹴って返されて廃墟にラウラを巻き込んで3人は闇に消えた…。

 

「「「うわああああ!?!?」」」

 

『ふん…』

 

…情けない悲鳴に僅かに慢心した魔導ホラー。しかし……

 

「うおおっ!」

 

『!』

 

牙狼が残る力を全て持って立ち向かってくるのに気がつく。再び、両手に槍と剣を持ち…迎えうとうと……

 

「流牙さん!」

 

『!?』

 

そこを、かすめるビーム。魔導ホラーの視界の端にいたのは確かに動けずも、瓦礫に寄りかかりながら狙撃で援護したセシリアだった。確かにうまれた刹那の隙…されど、牙狼剣は逸れてしまう。直後、煩いと感じた魔導ホラーが槍を投擲して直撃を受けたセシリアは瓦礫の山に打ちつけられてISを解除した。

 

「流牙!」

 

ここで、シャルはまた魔導ホラーを撹乱しようとして接近したが、これがいけなかった。

 

『邪魔だ!』

 

「なっ!?」

 

なんと、強引にリヴァイヴに彼は飛び乗ったのだ。シャルは勿論、暴れるが無慈悲にパーツを引きちぎられて操縦が効かなくなると廃ビルに突貫。そのまま、戦闘不能となった……

 

「シャル!?」

 

「流牙、もう一回あれやるわよ!」

 

嘆いている暇は無い。再び、鈴音の甲龍に飛び乗る牙狼は牙狼剣を煌めかせ…廃ビルから飛び出してきた魔導ホラーと睨みあう…

 

 

 

そして、互いの間合いに入ったその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『むぅん!!』

 

ボゴッ!!と回し蹴りのクリティカルが入ったのは牙狼の兜。勝った!魔導ホラーは必殺が決まったと直感したが……

 

 

「うぅうう…だァ!!」

 

『!?』

 

 

斬!!…牙狼剣は振り抜かれた…。

 

両者は地面に着地すると、牙狼は片膝をつき…魔導ホラーは胸を押さえる。

 

『ぐ……ぬぅぅ!?』

 

 

ーーキュオオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!

 

「ぐわぁ!?ぐっ!」

 

確かに一太刀…魔導ホラーの胸に反撃の跡があった。そこから、また金色の波動が漏れて金色に染まる牙狼……

すでに、限界へと達していた彼は更に波動の激痛に耐えることができず鎧を解除してしまった。

 

『…終わりだ、道外流牙。』

 

迫る魔導ホラー……もう味方はいない。万事休す……

 

 

 

否ッ!

 

「せめて、これだけでも届け!」

 

『!』

 

最後のひとり…箒は魔導筆を法力で弓を象ると渾身の力で矢を創造して魔導ホラーを狙う。今、動揺した瞬間はこのあとは来ないであろうチャンス……箒は躊躇いなく放った……。

 

 

その先に、触れてはならない『真実』があるとは思うこと無く……

 

 

『…ぐ!?』

 

空を裂いた矢は魔導ホラーの顔をかすめていき、奴を人間の姿に戻す。

その拍子にサングラスが地面に落ちる……

 

 

 

「え……?」

 

その時、箒は自分の目を疑った。最初は全く気がつかなかった…

でも、顔の輪郭が浮き彫りになってきたのと同時に……

 

 

『……がっ…』

 

この魔導ホラーは『ある少年』に似ていることに…脳裏の最愛の彼にあまりにも重なっていることに……

 

嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 

 

……そんなの嘘に決まっている。

 

『いってぇなぁ……』

 

 

……だって、流牙は…信じろと言ったじゃないか?でも、こんな再会が…愛した人との再会が…

 

 

こんな……

 

 

こんな……

 

 

 

 

 

 

 

「……一夏…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…痛いじゃねぇか、箒?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…残酷なんて間違っている。

 

 

 

To be continued…

 





☆次回予告

リアン「悲しめば良いか、嘆けば良いかはわからない。再び少女たちに迫る決断の刻。その時、彼女は本当のはじまりを知る…。次回【華~Wild Flowers~】…まだ、私たちは折れてはいない!」





感想おまちしてます。


☆仮称・一夏(魔導ホラー態)
尊士のような魔戒騎士の鎧に近い風貌をしているが、こちらは白く、槍と剣を使う。三騎士、ヒロインたちがまとまってもこれを凌駕する実力を持つ。IS・ゲイヴォルグは何者かに与えられた彼の愛機でビームマグナムは福音の装甲すら焼き尽くす。また、機体の殺人的スペックは人間での運用を視野に入れていない。
何らかの理由で牙狼へと至るための修行の最中、魔導ホラー化したようだが…?


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