IS×GARO《牙狼》~闇を照らす者~   作:ジュンチェ

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あけまして、おめでとうございます。
意外と長くなったぜ?

実はあと1話だけ、おまけくらいですが更識姉妹編…もとい、簪編は続きます。多分、今回の話のモチーフわかる人いるかな?

ぶっちゃけ、今回の話は今までの中でわりと怖いです。


簪~Sister~ 後編

・Side簪………

 

 

私の人生は酷いものだった…。勿論、生活に苦するようなことは無かったし学ぶ場所も事欠くことなく、友達もいた。

 

………でも

 

 

更識という血統。優秀すぎる姉………私の前に立ちはだかる壁はあまりにも大きかった。それでも、努力すればきっと報われるって信じていたのに…………

 

 

………道外流牙…

 

 

 

あの男は私の積み上げてきた全てを嘲笑うように奪っていった。

 

 

何故、私ばかりがこんな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「気がついた?」

 

「!」

 

目が覚めた時、自分は保健室のベッドに担ぎこまれていたことと見慣れない男が付き添っていることに気がつく。簪はおもむろに身体を起こすと、今までの記憶を思い出す…そして、項垂れる。ああ、自分は失敗したんだと…………

 

「俺は道外流牙…………えと、よろしく…」

 

「…」

 

タイミングが悪いのは重々承知だが、とにかく自己紹介する流牙。そこらの女子なら明るく振る舞えるだろうが彼女の辿ってきた道を考えるとどうもらしくなく、ぎこちなくなってしまう。それでも、嫌な関係のままではいたくないと笑顔を向けようとするが…………

 

「…………何しにきたんですか?」

 

ギロリと眼鏡を外した紅い瞳が流牙を射抜く。親の敵を見るような視線が彼の足を後退りさせる…………

 

「わざわざ私を笑いにきたんですか?」

 

「ち、違う………俺は君のお姉さんに頼まれて…………」

 

その時、より彼女の眼は鋭くなった。逆鱗に触れられた竜のごとき、形相で流牙を突き飛ばすと荒々しく叫ぶ!

 

「出ていって!」

 

 

そのまま、枕を投げられたりした勢いで保健室から叩きだされてしまった。何とか話を聴いてもらおうと思ったが、少女は今、あまりにも強く心を閉ざしている。伸ばそうとして拒絶された手は虚しさと痛みばかり掴む………

今はどうしようも出来ない。流牙は心痛な表情を浮かべてその場をトボトボと後にする…………

 

「なんで……どうして、貴方たちは私を苦しめるの!?どうして!どうして!?」

 

去った跡もまた怒りと悔しさのやり場の無い感情にのたうちまわる声……

 

 

 

 

 

………その様子を千冬に似た黒づくめのサングラスをかけた青年が眺めていた。

 

 

 

…彼は流牙と入れ替わりに簪の病室に入ると

 

直後に少女の悲鳴が廊下をこだました…。

 

 

 

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「簪!?」

 

流牙はすぐに身を翻して、保健室に駆けつけたがそこに簪も男の姿も無い。代わりに、ぐちゃぐちゃになったベッドと折り畳み式の持ち歩きテレビに…先のオルテガが腰を抜かしている。すぐに、オルテガを起こし現状を問う。

 

「何があった!?」

 

「し、知りません…。日本の政府の役員ってのがあの娘に用があると言うから案内しただけ。そ、そしたら…吸い込まれて…………ひぃぃ!」

 

彼女は話すと半ば錯乱した様で逃げるように飛び出していった。流牙は別に彼女を追おうとはせず、持ち歩きテレビを手にとると耳を傾ける。すると、微かに簪の叫ぶ残留思念が聴覚に届く…………

 

「……まずいことになったな。」

 

察する。これは間違いなくホラーの仕業であると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【簪ちゃん…あなたはこのまま無能でいてね…】

 

 

「…いやっ!?」

 

不意に耳元で囁かれたような姉の声に悲鳴をあげて飛び起きた簪。一体どうしたのか…辺りは学園の保健室ではなく、小綺麗で清潔な病室。ただ、心なしか古ぼけて不気味な雰囲気があり……彼女は血のような赤い染みがついたベッドに寝かされていたと気がつく。

 

「…なに?」

 

気味が悪い…とにかく、病室の外に出てみれば、患者はおろか看護士1人もいない無機質な廊下。夜中でもないのに明かりが不調のためか薄暗く、車椅子や注射器など医療品などが散らばっている。さながら、ホラー映画の1シーンを覗いてみた気分…いや、飛び込んでしまったようである。

 

(……病院?誰もいない…)

 

血の鉄臭さと消毒液の独特の臭いが強烈に嗅覚を刺激し、不安定な神経もあいまって吐き気が胸の底で燻りだす…。

まず、外を出よう。少なくともここよりかはマシだろう…そう思い、階段を見つけて下っていく……。

 

 

 

ーーカツカツ…カツカツ……

 

「…」

 

 

踊り場……階段……踊り場……階段……

 

無機質な足音が規則正しく脈打つように、響き渡る……

 

 

 

 

 

 

ーーカツカツ……カツカツ………

 

 

「…?」

 

階段……踊り場……階段……

 

おかしい。暫くして簪は足を止める。奇妙なことに、いくら降りても下の階層に着かない。おまけに心なしか、下に進めば進むほど建物錆びてくるような気がする。

 

(…嫌な予感がする。一旦、戻ろう……)

 

悪寒が走る。踵をかえして、今まで下ってきた階段を戻ろうと……

 

 

 

 

ーーガシャァァン!

 

「きゃ!?」

 

しかし、振り向いた途端にハンマーでも降り下ろされたように上の踊り場を繋ぐ階段が轟音をたてて崩落してしまう。まるで、後戻りなどできないというように……

流石の簪もこれには腰を抜かして涙を浮かべる。

 

「な、なに……何なのよもう!」

 

もう恐怖が彼女の心の大半を支配しつつあり、まともな思考機能すらも徐々に奪われていく。誰かが嘲笑している気がしたが、怯える少女の知る所ではない。すると、突然に足許から巨大な真っ暗な穴が出現して簪を呑み込む…

 

「!…きゃあああああああああぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァ……」

 

同時に彼女は漆黒の闇の中に……悲鳴の尾を引いて見えなくなっていった……。

 

 

 

 

 

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「…道外流牙ァ!」

 

「!」

 

直後、楯無はアジトへ戻った流牙の胸ぐらを掴みあげる。その表情は期待に対する裏切りへの憤怒に燃える彼女は今まで流牙が見たことがない一面である…。戸惑いながらも、彼はゆさぶりに身を任せた。反抗も口答えもしない。

すぐさま、アグリと箒が彼女を引き剥がしたがその罵倒は続く……

 

「私は!!貴方を信じていたのに!セシリア・オルコットと凰鈴音と同じように、簪ちゃんを助けてくれるって…!!」

 

「よせ、生徒会長!落ち着くんだ!!」

 

「どうして!どうしてよ!!」

 

箒がなんとか宥めようとしたが、妹の消失に完全に我を失っている。仕方ない…確かにそうかもしれない。いくら、学園の生徒会長といえど人間で姉なのだから。

しかし……

 

 

パチン!と彼女の頬を叩く音がした。

 

 

「…いい加減にしなよ。結局、貴女は流牙に他力本願してただけじゃないか!」

 

意外……その人物はシャルであった。いつも優しそうな顔から一変した喝に、楯無は項垂れた。すると、見かねた流牙が保健室に残されていた折り畳み式の持ち歩きテレビを取り出して告げる。

 

「…楯無さん、まだはやまるには早い。多分、簪はこの中で『生きている』。今ならまだ、助けられるかもしれない。」

 

「成る程、自らの巣の結界に獲物を引きずりこんで喰らうタイプのホラーか…。面倒だな。」

 

苻礼法師は即座に流牙の持つアイテムの邪気から大まかな内容を推定する。ならばと、箒は声をあげた。

 

「…なら、このテレビごと破壊すれば……」

 

「いいや、それは危険過ぎる。確実にホラーをこっちに現界できるけど、高確率で中の人間は結界が崩壊するショックで死ぬ。危険すぎるよ。」

 

「…しかし、もう生きているとは限らな………ぁ……」

 

しまった…。勢いあまって配慮を忘れてしまったと気がつく箒。しかし、彼女の推察も正しい。ホラーの巣の中にいる人間が生き残っている可能性低いのも事実。

 

それでも……

 

 

 

「…手を貸して下さい、苻礼法師。」

 

 

黄金騎士・道外流牙は退きはしない。苻礼法師に彼は頭を下げる……

ほんの一筋の光、1%の可能性があるというのなら彼は全身全霊、己の命すら賭ける。

「駄目かもしれなくても、簪は俺が救いにいかなくちゃ駄目なんです。それに、待ってる人もいるのに見殺しには出来ない!」

 

「…流牙くん……」

 

楯無は眼を見開いた…。無責任に罵ったというのに彼は迷いもせず、妹を救うため命を投げうつ覚悟でいるのだ。

苻礼法師は首を傾げて考える……そして、答を出す……

 

「駄目だ、行かせるわけにはいかない。」

 

直前、否ッ……とアグリが立ちはだかる。

 

「…生きてる確率は低いのは事実。むざむざ、死ににいくようなものだ」

 

「やってみなければ、わからないだろ!」

 

「冷静に考えろ。下手をすれば、牙狼の鎧を失う可能性だってありえるんだぞ!」

 

「なら、何の為の魔戒騎士だ!何の為の鎧だ!?1人でも多く守るのが俺たち守りし者だろ!!」

 

「そんなもの綺麗事だ!」

 

どちらも……正論だった。流牙は理想的な正論、アグリは現実的な正論……ぶつかりあうのはやむを得ない。理想は綺麗事と斬って捨ててしまえば己たちの存在意義に歪みを起こし、かといって現実に眼をむければリスクが大きいのも事実。

お互いにどちらも背くには難しいが……しかし…

 

「待った。ここは僕達も忘れないでほしいな。」

 

忘れてもらっては困るとシャル。彼女は魔導筆を手にクルリとまわすと、黒札を幾つか取り出した。

 

「一応、ここには騎士だけじゃなく魔戒法師もいるんだ。僕らも、手を貸すくらいは出来る。1人で無茶はさせないよ。」

 

「……でも、今はリアンがいない…」

 

魔戒法師をアテにしろ……しかし、流牙は今はリアンが講習でタイミング悪く席を外していることに思いあたるが、彼女はそれを笑いとばす。

 

「忘れた?魔戒法師は一応、僕と箒もなんだよ?ねぇ?」

 

「え……」

 

急にアイコンタクトを飛ばされて箒は戸惑うが、流牙は彼女に真剣な眼差しで向かい合う。

 

「箒、すまない。君も手を貸してくれないか?お願いだ…」

 

「あ、……ぁぁ…勿論だ。」

 

「よし、決まりだね!手ならある……苻礼法師とアグリも協力してね?」

 

 

 

こうして、作業ははじった。アジトの下階に場所を移すとテレビを置き、シャルは黒札を八枚…隅に設置。そして、自身と箒に苻礼法師をテレビを中心に三角を描きその頂点に位置するように立たせる。

 

「…ハッ!」

 

すると、円のような魔法陣が3人を基点に形成され…テレビにホラーの結界へと続く禍々しいゲートが開かれた。

流牙はゴクリと唾を呑み込むと、一歩を前に踏み出す……が、苻礼法師が一言。

 

「流牙……鎧をあの邪気が濃い空間で召喚できるとは限らない。気をつけろ。」

 

「ああ……」

 

やがて、彼は恐れることなく闇の中へと飛びこんでいく……

ただ1人の少女を救うために、遥かに底知れぬ…

 

 

 

……果てなき、闇の中へ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……!」

 

 

意外なことに、10秒かちょっとしたら地面に足がついた。ぶちまけたミルクで満たされたような白い霧にアスファルトに立つ感覚……。見渡せば微かに見えるのは廃屋の並ぶ町並み…ゴーストタウンという奴か。もっと、禍々しくて息がつまりそうな空間を予想していたが、こんな寂れた場所とは流牙も拍子抜けする。

 

「簪!」

 

とにかく、彼女の名を叫んでみる…。

……反ってくるのは自分の木霊。応える者は誰も無し…やはり、彼女は付近にはいないのだろう。なら、この場所に留まることはないと空虚な町の中を歩を進めていく。

ショーケースが割れた洋服屋……泥や黄砂で汚れきった車……ひび割れたアスファルトに灯りの無い家々。これらの何処かに簪がいるかもしれない。まず、流牙は洋服屋を蹴破って入る。

 

「簪、いないのか!?」

 

木で造られ、朽ちかけたドアは流牙の脚で簡単に留め金が外れて床に砕けた。暗い部屋の中にあるのは簪そっくりなカツラをつけたマネキンが数体に最早、ボロキレになった服が棚に積み上げられている。埃臭く、思わず袖を顔に持っていきながらレジカウンターの影や、裏の事務所のドアを開けて捜してみるが……やはり、いない。

 

「…手当たり次第じゃ、埒があかないか……」

 

 

 

ガタッ

 

「!」

 

その時だ……不意にマネキンたちがひとりでに動きだして流牙を襲う!1体が組みつくと、首を締めあげにかかり…殴りとばして引きはがすと、次は2体が殴りかかってきて身を反らしてかわす。

 

「…成る程、歓迎の準備はできてるってわけね!」

 

流石、ホラーの結界の中……易々と進ませてはくれない。魔戒剣を抜くと、再び飛び掛かってきたマネキンを斬り捨てて流れるような動きで背後からきたマネキンをキック。最後のマネキンは腹部を貫き、頭突きでぶっとばす。すると、マネキンたちは血潮の霧を炸裂させて消えていった…。

 

「……ザルバ、コイツらは使い魔だ。このままだと、分が悪い。簪の場所は分からないか?」

 

『これくらい、自分でどうにかしろ坊や。』

 

「頼ろうとした俺が馬鹿だった…」

 

闇雲は敵の思うツボとこんな時に頼りたい指輪は仕事をしない。まだ一人前と認めていないという事だからだろうが、時と場合を考えてほしい……

軽く苛立ちながら、洋服屋を後にする流牙だったが……

 

 

 

ーーーウォン!!ウォン!!ウォン!!

 

 

「ぐっ!?」

 

今度はけたたましいサイレンの音がした途端に空気が赤黒く濁り、道路に何処からか走ってきたわけでもないのにパトカーが現れて、今度は警察官の格好をしたマネキンたちが行く手を阻む。

 

「クソッ!どけぇ!!」

 

 

 

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「……?」

 

その頃、簪は再び意識を取り戻すと見知らぬ部屋…今度は無機質で暗い小部屋程度の場所。確か、自分はあの穴から落ちたはずと頭を抑え、立ち上がると中央にある白い布が被せられた担架が目にいく。見てくれといわんばかりに、部屋の蛍光灯が照らし……布の盛り上がりは

 

丁度、人がひとりくらい…すっぽりと覆えるくらい……

 

「…ここってまさか……」

 

そんな刑事ドラマくらいでしか見た記憶が無い……本物なら、この白い布の下に隠されているのは……

 

恐る恐る、末端の布に手をかけてめくる……すると……

 

 

「ひっ!?」

 

生気の無い真っ白な肌で……横たわっていたのは自分とそっくりな顔。目を閉じて物言わぬが、後退りしてしまうのは見間違えようのない自分の『姉』だから……

 

ここは、霊安室……即ち、遺体を安置する場所。

 

「なんで……なんで…!?」

 

『それは貴女が望んでいたからでしょう簪ちゃん?』

 

「!」

 

 

屍たる姉は狼狽する妹に汚濁した紅い瞳を向けて、腐りかけの喉を動きして喋った。今の自分はお前が求める姿だと……

 

『憎い……憎い……憎いでしょう?この優れた姉が?殺したいほどに……』

 

「ち、違う…私は別に………殺したいなんて…」

 

簪は否と呟くが、目の前の現実は覆えらない。

 

『ここは貴女の心の中……だから、貴女の望みが具現化する。』

 

「違う!嘘!!私は絶対に……」

 

『いけないわね……くくくく、かかカカカカカカカカ……』

 

 

 

 

体現されたドス黒く否定しきりたい醜い欲望の化身はその身を不自然にカタカタと身体を動かし、腹を膨らませる。グジュグシュと死肉を生々しく掻き回す音…そして、白眼を向いた屍が跳ね上がると腹が突き破られて素体ホラーが現れる。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ…!!!!!!!!!!」

 

『シュゥゥ…!!』

 

簪は甲高い悲鳴をあげて咄嗟に霊安室を逃げ出した。ドアを開ければ灯り明滅する病院の廊下…… 戻ってきたかは定かではないが暗い密閉された空間は少女の恐怖心を煽る…。それでも、逃げなくては待つのは間違いなく『死』……もがくように延々と続く廊下を走りはじめる。

 

『シュゥゥ…!』

 

同時に、霊安室のドアが鉄槌がごとき太い大剣で叩き潰され、中から黒のレインコートを身につけた屍が歩を踏み出した。血の涙を流しながら、大剣を引きずって見据えるのは逃げ去る簪。フードを被って垣間見えた顔は確かに不気味に笑っている……

 

『殺さないと、殺されるわよ簪ちゃん……』

 

そのまま、ゆっくりと身の丈以上はある剣を地面にこすって追いかけていく。それに、気がついた簪は意識が散漫になり躓いて倒れてしまうが…右手が何かを掴む。無機質な鉄の感触に何だと見れば……

 

(け、拳銃……!?)

 

なんで、病院なんかに……しかも、都合の良い場所に落ちているなんて……

だが、今の簪に気にしている余裕は無い。腰をついたまま銃口を迫り来る屍に向けて引き金に手をかけた。

 

「…ッ」

 

でも、撃てるのか?仮にも、姉と同じ声をして同じ顔をする存在を……

 

『撃てる……?臆病な貴女に撃てるかしら、簪ちゃん?』

 

「来ないで!」

 

撃たないと…撃たないと……殺される…殺される…間違いなく殺される。震える手に瞳に浮かぶ涙……。

気がつかない、背後の影から具現化するホラーのシルエット。

 

『貴女はずぅっと、私のモノ……』

 

「…ぅぅ……あああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

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「!…簪ちゃん?」

 

ふと、顔をあげた楯無。今、妹の叫びが聞こえたような気がすると法師たちが形成する魔法陣にアグリを振り切り、駆け込むと持てる限り叫ぶ!

 

「簪ちゃん!!こっちよ!帰ってきて…!簪ちゃん!!」

 

 

 

 

 

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「お姉ちゃん?お姉ちゃん…!!!!」

 

『ギッ!?』

 

その声は確かに、簪にも届いていた。心にさした一筋の希望の光は迫るホラーのシルエットを弾き、ただ純粋に殺意でもなんでもない姉を求める叫びはこの男の耳に届く…!

 

「簪…!そこかァ…!!」

 

外の霞みがかる街でマネキン使い魔たちを払いのけるこの男、道外流牙。魔戒剣を頭上にかかげ、鎧を召喚すると一気にパトカーを踏み越えて建造物にパンチ。壁を砕いて中に突入すると、腰を抜かしていた簪と屍の間に立つ。

 

「あ、あの時の…!」

 

簪は牙狼を見た瞬間、先日…格納庫で激闘を繰り広げていた戦士と全く同じ姿であることに気がつき、驚嘆。また、牙狼は簪の無事を安堵しつつも屍に牙狼剣を向けて構えて戦闘態勢をとる!

 

『クソゥ、あと一歩のところで!!』

 

「黙れ、ホラー!」

 

屍が肉食昆虫のような口を展開し、戦いは開幕した。屍は楯無の顔を破ると、ガスマスクのような素顔に身体も流牙以上の巨体となり…ホラー『プギージュ』へと変態。牙狼に大剣で壁を抉りとりながら、襲いかかるがジャンプして頭上から牙狼が後ろにまわりこみ、牙狼剣で背後から貫く!

 

『ぐ!?ギャアアアア!?!?』

 

「ふんっ、はァ!!」

 

そのまま、刃を反転させ頭上に向かって一閃……

斬りあげられた刃はプギージュの胸と頭を両断して穢い花を咲かせた。やがて、異形の身体は塵となり牙狼は決着を確認すると鎧を解除して簪に歩み寄った。

 

「大丈夫?」

 

「ど、道外流牙…?な、なんで……」

 

「話は後……ここを出よう。」

 

流牙は腰を抜かしている彼女を抱き上げると、彼方に見える光に走り出す…。既に、悪夢の世界は崩壊をはじめていた……

 

 

 

 

 

……まるで、少女を長い間…がんじがらめにして苦しめていた感情が消え去っていくように……

 

 

 

 

To be continued……

 

 

 




☆次回予告

リアン「知った想い……貫かれた信念……紡がれた絆。宿命の姉妹と黄金騎士はどの道を歩んでいくのか?次回【姉妹~Sarashiki~】。その選ぶ道は誰のために…?」




★ホラー紹介

・プギージュ
陰我のオブジェを媒介に獲物を引きずりこむアリジゴクのような性質を持つ結界をはる。別に決まった姿があるわけではなく、結界と共に引きずりこまれた獲物によって姿を変える。そして、分身を憑依させて現実世界で活動する。しかし、オブジェそのものは無防備なので本体ごと破壊されればひとたまりもない。
簪の場合はコンプレックスの対象である楯無を屍化させて、大剣を持つ姿で現れた。

イメージは某・静丘の▲様とプギーマン。結界世界も静丘をイメージしたもの。実は屍の腹からホラーが出てくる演出はエ◯リアンがイメージだったり……



★★

本当なら、もっとアグリとかの活躍や鎧召喚できないシーンをいれたかったのですが想像以上にテンポ悪い展開になりそうだったのでカットしました。 ううむ、無念……

さて、今年もIS GAROをよろしくお願いいたしますよ!感想、おまちしております。


あと、Twitterはじめました。

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