IS×GARO《牙狼》~闇を照らす者~   作:ジュンチェ

16 / 32
名~Name~

 

 

ブリュンヒルデ戦後……なんとか救出されたラウラは数日は経つも、意識は戻っていなかった。未だに病室で静かに瞳を閉じている…

 

撃破されたブリュンヒルデ……もとい、ラウラのシュヴァルツァ・レーゲンの残骸とコアは学園側に回収されており、モニタリングされたデータを暗室の中……千冬と麻揶は見ていた。

 

「こんな…、まさかこんなものが……『VTシステム』なんて。」

 

「ああ。ヴァルキリー・トレースシステム……かつての私の戦闘データを忠実に再現するとは、随分と酔狂なことをしてくれる輩がいたものだな。」

 

「…それにしても、詳細は不明ですね。ボーデヴィッヒさんとの癒着の跡といい、未知の物質といい…これを止めた流牙くんから何かわかることは…?」

 

「いや、奴も止めるだけで手一杯だったらしい。何にせよ、私の可愛い教え子を実験体《モルモット》にしてくれたのだ……礼を返さなくては貰わなくてはなるまい。」

 

「…怖いです、織斑先生……」

お礼まいりする気満々の千冬に怯えながらもキーボードを操作して手順を踏む麻揶。まずは、この事実をラウラの祖国たるドイツに突きつけるべきだろう。このあとの事は麻揶に任せようと、千冬は外に出てある場所に向かう……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「さて、調子はどうだ苻礼法師…?」

 

「ああ。これなら『アレ』が創れそうだ。」

 

彼女が訪れたのは、なんと苻礼法師のアジトだった。苻礼は魔導筆でフワフワとブリュンヒルデの斬り落とされた腕のユニットを操り、水の入った壺の中に放り込む。すると、ジュワッ!!と煙が上がり千冬は顔をしかめた。

 

「……これが、ソウルメタルの錬金か…?」

 

「ああ。ISの部分と剥離すれば良質なソウルメタルが獲れるだろう。それに、少しはデータが吸い出せるはずだ。」

 

「…」

 

ソウルメタル……魔戒騎士の纏う鎧や魔戒剣をはじめとしたホラーを狩る者たちにとっては縁が深い超重量の物質。一般の世界中にはまず出回らないが、理由はこの物質の由来がホラーにあるからである。無論、魔導ホラーといえど例外ではなく…むしろ、これから獲られるソウルメタルはかなり質が良い。

故、こっそりと千冬が横流ししたブリュンヒルデの腕を錬金しているのだが、最中……2人とも、暫し無言であった。

 

「…」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ボーデヴィッヒは何故、魔導ホラーになった?」

 

「…」

 

その沈黙を破ったのは千冬。彼女は静かでこそあったが強く知りたかったのだ…何故、自分の教え子が魔導ホラーになったのか?ホラーになった人間は助けられないはずなのに、どうしてラウラは助かったのか?疑問は幾つも浮かぶが苻礼は黙りを続ける……

 

「…あの翼の騎士といい、苻礼……まだ、何か多くのことを隠しているんじゃないのか?」

 

「…」

 

更に問われようと、尚も黙る……。もう、隠し事があると言わんばかりの表情であったが、やっと彼は口を開く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ自身は……恐らくは魔導ホラーになっていない。むしろ、なり損なった…。」

 

「…なり損なった?」

 

「ああ。推測だが、ボーデヴィッヒは仮にも軍人…となれば、隙は少ない。だから、奴のISを魔導ホラー化させ…あのVTシステムごと、ボーデヴィッヒを取り込もうとした。あれが、完全な魔導ホラーとなっていたら俺達が束になっても敵わなかっただろうな。」

 

推測……にしては、妙に確信を持っているような気がした。確かにラウラと彼女の愛機とは人間と機械であるに関わらず、癒着の跡があったのは事実。あれが、魔導ホラー化の影響なのは疑うまでもないが、結局は魔導ホラー化そのものの原因は不明。

 

いや、千冬は……少し心あたりがあった。

 

 

 

「苻礼法師……失礼を承知で訊く。魔導ホラーの元凶は…『もう1人の貴方の娘』か…?」

 

「…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「がりゅっち、元気してた~?セッシーもだいぶ元気になったみたいだね~?」

 

「のほほんさん!」

 

「心配かけましたわ。」

学園の廊下では流牙と回復したセシリアは茶髪にツインテール+ロングヘアーな小柄な少女と話をしていた。彼女は『布仏本音』…通称・のほほんさんで相性が通る文字通り、のほほんとした娘である。余った制服の袖をブンブンと振り回し、流牙らセシリアの周りを元気に跳ね回る姿はなんとも愛らしい。

 

「セッシー、あんまり無茶はしちゃ駄目だよ~?クラス代表の仕事に無理なトレーニングをするから、この間みたいに落っこちちゃうんだよ~?がりゅっちもセッシーがまた無茶してたら止めてね!」

 

「ちょ……」

 

「うん、わかってるよ。」

 

「なら、良かった!あ、そうだ!私、用事あるんだった……じゃあね~。」

 

やがて、本音は風のように去っていった。まさに、マイペースを絵に書いたような女の子だ。

 

「…まあ、のほほんさんの言う通り…あんまり無茶しちゃ駄目だよセシリア。」

 

「流牙さんには言われたくありませんわ!でも……気をつけます。それはそうと、そろそろクラス対抗のダックマッチでは?」

 

流牙にも注意されながらもそこから、話題をきりかえたセシリア。クラス対抗のダックマッチ…確か、代表2人をクラスから選出してトーナメント勝ち抜きだとか。それには、外国の要人もくるから流牙は間違いなく出る羽目になるだろう。問題は誰と組むかだが……

 

「対抗マッチね……まず、セシリアは休まないといけないし……。やっぱり、男子同士でシャルルと組むことになるかな。」

 

「まあ、そうなりますよね……男子ダックが話題にならないわけがありませんし…」

 

そこらは大人の事情が絡むことくらいはすでに、察している。何にしろ、セシリアが出場することはかなわないはず。仕方あるまい。

 

「そういえば、シャルルと同室になったんだよな…このことも含めて色々と相談してみるか。」

 

「では、私はこれで…」

 

「うん、またあとで。」

 

なにはともあれ、シャルと相談しなくてはならないだろう。男子同士ということで、同室になったこともあり自室前にて流牙はセシリアと別れた。開けた瞬間に、また楯無がいたのでお約束のセリフを言われる前に放り出し、ドアにカギを閉める。

 

「…ちょっと、流牙くん!?ノーリアクションは酷いんじゃない!?」

 

「他人の部屋に勝手に入るよりマシですよ。また千冬先生呼ばれたい?」

 

「あ、それはご勘弁!?」

 

全く、いい加減にしてほしい…それに、流牙の部屋にはアジトに繋がるゲートの他にも幾つか魔導具といったアイテムがある。あんまり、物色はされたくはないのは事実…下手をすればこちらの事情に勘づかれかねない。

 

「流牙くん~、どうしたの~?」

 

「シャルル…?あ、シャワーか?何でもない!」

 

どうやら、シャルルもいたようだがシャワーを浴びてて楯無に気がつかなかったようだ。特に気にすることなく、物色の痕跡がないかバッグをチェックしていると壁のゲートからタケルが現れる。

 

「ふぅ~…よう、流牙!シャワー借りるぜ?アグリの奴がアジトのシャワーから出てこねぇんだよ…」

 

「残念、ここもシャルルが使ってる。そうだ、これ渡しといて!」

 

彼のお目当てはシャワーらしいが、先に使う者がおり…ついでにと、流牙に代えのシャンプーの容器を投げ渡されてげんなりとしながらもシャワールームに向かう。

 

「お~い、シャルル!代えのシャンプー……え?」

 

「…え?」

 

 

「?」

 

ドアを開けたまでは良かったが、突然……間の抜けた声と沈黙に流牙は首をあげた。どうしたのかと思っていると、目の焦点があっていない明らかに動揺しているタケルが戻ってきた。

 

「…タケル、どうした?」

 

「……あ、あ…ありのまま起こったことを話すぜ!?ドアを開けて、シャンプーを渡そうとしたらなシャルルが『女』になってたんだ!!男なはずなのに、立派なボインがあったんだ…!何を言ってるかわからねぇと思うが、俺もわからねぇ!?とにかく、アイツが男から女になってたんだ!!!!」

 

「…は?」

 

…どうした、頭がおかしくなったか?流牙は最初はそう思った。要はシャルルに何かしら異常があるようなので、流牙もシャワールームへ……

 

「シャルルがいったいどうしたって……」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ひっ!?」

 

 

「!」

 

 

 

…あ、ありのまま起こったことを話す。タケルが何を血迷ったかと思ったら、シャルルが…シャワーを浴びていたシャルルが『彼』から『彼女』……『男』から『女』になってたんだ。

 

 

 

…このあと、無茶苦茶殴られた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

さて、道外流牙は今までの状況を整理している。まず、シャルルか女だったこと…滅茶苦茶、取り乱したシャルルに殴られて今は血の涙を流していること。隣のタケルはボコボコにされた顔がとても酷い。この点は流牙は心配するが、まずは知らなければならない…『彼女』のことを。

 

「ごめん……取りみだしちゃって…」

 

シャルルはその身を白いジャージで包んでいる。その胸には男の時には見られず、何処から飛び出してきたのかたわわな果実が実っている。ウホッ!?とタケルが鼻の下を伸ばしたのは反射だが、血の涙を拭った流牙が鋭い視線で彼を引き締めさせた。全く、ここからシリアスな話になるであろうにどうしようもない奴である。

 

「あ、あのさ……その、僕…女の子、だったんだ…。本当の名前はシャルルじゃなくて、シャルロット。ISを扱える男子っていうのは全くの嘘っぱち。」

 

「「…」」

 

「ごめん、なんか騙すようなことしてて……怒ってる…よね?」

 

「いや……それよりも、シャルル……シャルルがそんなことをしないといけなくなった理由を知りたい。」

 

「はは……そう、だよね。やっぱり……」

 

そして、シャルロットは哀しげな目をしながら語り出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

・Sideシャルロット

 

僕の実家でありスポンサー…フランスのIS企業・デュノア社。世界シェア3位という地位を持ちつつも、結局は初期のIS産業に乗り遅れた落ちこぼれ寸前の企業だったんだよ。経営は不振に陥り良くない状況……おまけに、社長は外部には洩れてないけど愛人に産ませた隠し子がいることが発覚した。それが、僕。経営不振にスキャンダルなんて企業的には大きなダメージ……だけど、社長である父さんは逆手にとって母さんを亡くして路頭に迷う僕を実子として認知して引き取ると、ISを扱える男子『シャルル・デュノア』として仕立てあげ…広告塔としての効果に、更に流牙の白狼や他の候補生のデータを盗めという任を与えた…。

 

 

 

 

 

 

 

「……それが、真実。最も、父さんは母さんや僕が魔戒法師の血筋とは知らないけどね。」

 

どう答えれば良い?なんて言葉をかければ良い?

哀しい瞳と真実にどうやって向き合えば良い…?

 

「んじゃあ……シャル…ロットは…実の父親に勝手に道具にされたってのか?」

 

「ううん。魔戒法師としても半端者でただの野良になるしかなかった私はこうすることでしか、生きられなかった……それだけ。」

 

「…」

 

タケルは唖然としていたが、流牙は黙っていた。その中でもシャルロットは続ける……

 

「でも、それも今日でおしまい!結局、白狼についてはなーんにも、解らなかったし…正体もバレちゃったし……このまま、本国に強制送還かな?このあと、口封じで殺されちゃうかも…?ははは…あははははは!」

 

そのあと、不意に目を逸らして笑い出すシャルロット。自暴自棄か絶望か…ただ狂ったように笑った。

 

 

……ただ

 

 

 

 

 

「……でだよ…?」

 

 

………ただ

 

 

 

「どうして、笑ってられんだよ!?この状況でどうして笑ってられんだよ!?」

 

彼女と逆にタケルは泣いていた…。悔しくて、悔しくて、悔しくて…目から涙が滲み出しながらシャルロットの胸ぐらを掴む。

 

「…はは。だってさ……結局、私はこのあとは普通の女の子としても…魔戒法師としても生きれないんだよ。師だった母さんは私を遺して死んで…1人じゃホラー退治もままならない。おまけに、表の世界から追われる身…これじゃぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、シャルロットはどうしたいの?」

 

 

 

 

 

 

その時、不意に今の今まで沈黙をしていた流牙が口を開いた。身の上話は大体わかった…同情の余地もある。でも、訊きたいのはそこじゃない。待ち受けるさだめでらなく、シャルロット・デュノアという個人がどのような未来を望むかである。

 

「…本国に帰りたいならそれでも良い。法師として独りで生きるのも俺達は止めない。ただ、俺は学園に残ったほうが良いと思うよ。」

 

「…え!?」

 

「馬鹿か、流牙!?こんなのそう長い間、誤魔化せるわけねぇだろ!?」

 

さてさて、予想通りのリアクションがかえってきたところで制服(に偽装した魔法衣)の懐から小さな本を取り出して開くと、シャルルとタケルに見せる流牙。

 

「ここ……読んでみて?」

 

「あぁ?IS学園の所有権を有するもの…生徒を含み、一切の国家をはじめとした勢力のいかなる干渉を受けない……て、おいこれまさか!?」

 

「そ、シャルロットがこの学園にいるうちはデュノア社だろうと、フランス国家だろうと、手を出せない。それをこの学園で定めている。」

 

そう……学園はいわば、様々な国家の人間たちが集う場所。故に、取り決めにより企業どころか国家すらそう簡単に事情に介入は不可能。男子でフリーの生徒である流牙はこれくらいの条項くらいきっちり把握していたのである。おかげで、自分もどれだけのスカウトをかわしてきたか……

 

「少なくとも、3年は無事だよ。それだけの時間があれば魔戒法師として修練を積むことだってできるし、もっと他の生き方で模索できる。諦めることないよ……俺達もこのことはだれかに話すつもりは無いし…」

 

「ぁ……」

 

「だから、諦めるにはまだ早いよ。もっと、俺たちと一緒にいよう…シャルロット。」

 

とにかく、彼女に必要なのは暖かく受け入れてくれる場所。当にこれを理解しているからこそ、流牙は笑顔で手を差しのべた。すると、今まで絶望の笑みを浮かべていたシャルロットは…歓喜の涙を流した。ああ、ここには自分の居場所があるのだと。

 

「…ごめん。ぐず……何か、涙が……」

 

「泣け泣け!蛇崩タケル様がしっかり受け止めてやるよ!」

 

思いもよらないハプニングだったが……これで、一見。泣き崩れるシャルロットを受け止めて今回は終幕になるはずだった…。でも、忘れていないだろうか?

 

 

…コンコン

 

「すまない、道外……いるか?」

 

 

「「「!」」」

 

ここは、アジトへのゲートの役割も果たしている。ましてや、かつての同居人をはじめとした誰かがまた来てもおかしくはないのだ。

 

「…ほ、箒!?すまない、今は着替えてるんだ!少し待ってくれ!!」

 

「む……ああ、そうか。早くしろ。」

 

 

(やべやべ!?隠れろ!)

 

(…う、うん!!)

来訪者は箒……アジトに用かこの部屋に忘れ物をしたのだろう。ただ、彼女に今…シャルロットの正体を知られるわけにはいかない。シャルロットはすぐに、ベッドに滑り込み布団を被ると流牙は上着を脱ぎ…赤と黒皮のアンダースーツ姿となる。一方、タケルはシャルロットの隣のベッドにダイブした。これで、迎撃体勢は急だが形にはなったのである。

 

「良いよ、入って!」

 

やがて、招きいれられた箒だったが奇妙な違和感に首を傾げた。

 

「…どうした、妙に騒がしかったが。蛇崩、デュノアもいたのか…?」

 

「おうよ!ちょっと、疲れたからよ…休もうと思ってな?なあ、シャルロッ……ルッ!?」

 

「ウンウン、夜もあるし休める時にしっかり休まないと!」

 

「…?」

 

おかしい。揃いも揃ってベッドで寝ていて…タケルに限ってはこの部屋の住人ではない。前々から図々しい奴だと考えていた(要は偏見)箒だが、これで証明されたと内心で思いつつ特に彼のほうに用はないので本題に入る。

 

「…なんだ、貴様ら?まあ良い…道外、客だ。」

 

「俺に?誰…?」

 

「見ればわかる。入って良いぞ。」

 

流牙はわざわざ『客』という言い回しが気になった。そこら辺の生徒や顔見知りにしては冷たい響きだが、招かれた人物にその意図を知ることになる。

 

「君は……!」

 

「……道外流牙…」

 

…その人物とは、ブリュンヒルデに取り込まれて意識不明になっていたはずの少女……

 

…ラウラ・ボーデヴィッヒであったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




さて……簪出せる目通したたねぇ!?!?

というか、登場までまだまだ時間かかりそう。


GOLD STORM本編もそろそろ折り返しでしょうし、早いとこ話を進めたいな…。IS GARO版GOLD STORM(劇場版風のオリジナルストーリー)もやりたいし…


これからも更新は不定期ですが、感想よろしくお願いします。

では!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。