10話くらいまでほぼ前作からの流用ですが、ちょくちょく台詞とか設定とか変わってます。お楽しみ下さい。
では!
流牙~Ryuga~
「はぁ!はぁ……!」
彼は逃げていた…。ただ、ひたすら自分を追う『狼』から………
「だ、誰か助けてくれぇ!」
ボロきれのような服に身体の随所をおびただしい出血をしながら暗い倉庫の中にあるコンテナの合間をのたうちまわるように走る…
だが、彼を追う『狼』は自分の剣を引き抜き獲物を確実に追い詰めていく………
「は、はっ!誰か!誰か助けてくれ!!」
「誰がお前なんか助けるかよ。」
そのうち、行き止まりに突き当たり男は逃げ場を失う。そこに、『狼』は追いつき懐から奇妙なライターを取りだし、火をつける。
ーージュボ!!
すると、ついたのは緑色の奇怪な火…いや、もっと奇怪なのは男の瞳。火に照らされた目には邪悪な模様が浮かび、彼が異形の存在であることを示す。
「くっ!…フシャアアアア!!!!!!」
こうなれば、仕方ない。正体を見破られた彼は常人離れした跳躍力でコンテナの上に飛び乗ると肉食の虫のように裂けた口を展開し、鋭い尾を腰から生やす。
魔獣『ホラー』…まさに、悪魔………異形の存在だが、狼…いや、騎士は恐れない。黒い衣をなびかせ自身もコンテナの上に乗るとホラーを睨みつけ、切っ先を向ける。
『どけ、魔戒騎士!ISさえ無ければ俺は、ここまで堕ちぶれることはなかった!俺は世界が憎い!!ISが憎い!!こんな、狂った世界…俺が壊す、いや………壊さなくちゃならねぇ!』
「その前に、自分がどれだけ狂っているか理解しろ。」
ーーギュゥウオォ!!!!
愚かなエゴに取り憑かれたこの男を見据え、騎士は頭上に円を描く…。すると、軌跡が光の円を形成し、そこから漆黒と金の鎧が召喚され主に纏われる。
ーーガルルッ!!
「お前の陰我、俺が断つ!」
頭部は緑色に光る眼を持った黄金の狼。猛る獣の鎧は魔獣を見据え、『▲』の刻印が刻まれた黄金の剣と化した自らの刃で素早く一閃……
斬!!
『ギャアアアアア!!!!』
直後、ホラーの上半身と下半身が永遠にお別れをし塵となる。騎士は戦いが終わると鎧を解除し、コンテナから飛び降りる。さて、これで今回の指令は片付いた…。長居する必要は無い。
「…どうだい、ザルバ?まだ、認める気はないか?」
『……29点。まだだ、坊や。』
「まだ駄目なのかよ。」
『少なくとも、俺様にまともに話かけて良いレベルまでは程遠い……残念だったな。』
帰路の一歩で指にはめられている相棒に声をかけたが、反応は今一つのもので溜め息をつく。さてさて、コイツとは随分と一緒にいたが相変わらず口が悪い。やれやれと思いつつ、出口へ向かおうとしたが……
ガタガタ……
「…?」
何か後ろで物音がした。
振り向けば、コンテナの1つが激しく動いているではないか…
「なんだ?」
警戒する彼だったが、その時…あることに気がつく……
《……》
「呼んでいる……俺を……呼んでいる…?」
『おい、坊や…どうした!?』
…声にはならないような音がした。声として成立していないが自分を手招きするような……
バアァーン!!!!
「!…これは!?」
直後、コンテナの扉が開け放たれ眩い光が漏れる…。同時に異変に気がついた女性職員たちが駆け込み驚愕した。
「貴様、ここで何を…!?な、ISが!?」
「馬鹿な、男は起動出来ないはず…!」
その後……女性しか動かせないはずの兵器・ISを動かした男『道外流牙』が世に震撼をもたらすことになる。
人の邪心・陰我ある所に魔獣ホラーは現れる。人間の肉身に魂を喰らい、いつの世にも人々の影にはびこる魔物………
されど、遥か古から人々を護る『守りし者』と喚ばれる存在がいた。猛る獣の鎧を纏い、破邪の力でホラーを狩り封じる者たちの名は………『魔戒騎士』と呼ばれた。
そして、この物語は純白の翼を持つ漆黒の黄金騎士・道外流牙とその仲間たちの物語である…。
果たして、彼はどのような物語を刻むのか…?
【 『IS×GARO《牙狼》~闇を照らす者~』 】
……???
「ちょっと、セバスチャン!どうしたんですの!」
「も、申し訳ありません、セシリアお嬢様…!」
青空の下の道中……トラブルが起きたのか嫌な音を立てて止まった黒く輝くリムジンに執事らしき老人とそれを叱責する金髪のお嬢様。目的の場所にはまだ距離があるのに肝心な足があろうことか、人気の少ない道で辺りは野原…。可愛らしい菜の花が咲いているが今はゆっくり眺めている暇は無い。
「もう、イギリスの代表候補生が初日から遅刻なんて…なんたる不名誉…!」
少女はブロンドの髪を風になびかせながら溜め息をつく。予想外の事態とはいえ困ったものだと心の中で呆れつつ端末を取り出して連絡をとろうとすると、後ろからスクーターが通りかかってブレーキをかけた。
「あのー!どうしたんですかー?」
乗っていたのは中に赤いシャツと黒いコートを纏う青年。ゴーグル付きのヘルメットをとると逆立った茶髪の髪型が露になる。一見すると威圧的な彼にすぐに、老人は少女の前に立ち、庇う姿勢をとったが青年は気にすることなくリムジンに歩いていった。すると、機体に顔を近づけ耳を押しあてた…。
「あー……これは…」
少しだけ目を瞑ると、青年は車の前に立つ…。その顔は服装や顔つきのやりには屈託ない笑顔であった。
「ちょっと、弄らせてもらっても良いですか?応急処置くらいは出来ますよ。」
「ほ、本当ですかな!?」
「ああ、本格的な修理はここじゃ道具が足りないから無理だけど……少しは持つように出来るよ。」
「…か、かたじけのうございます。」
「…いいよ、そんな。さ、急ぎなんでしょ?ちょっと待っててね。すぐに終わらせるから!」
「なるべく、早くお願いしますわ。」
そして、青年は作業に取りかかる…。
これが『セシリア・オルコット』と『道外流牙』の初めての出会いだとはどちらもまだ知る由は無い…。
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それから、約1時間後……
彼…流牙が現在いるのはとある青空の下。 目の前にある白い捻れた搭のような建物の名はIS学園……ISの技術を学ぶために世界中から女子が集まる特殊な学園である。
『…おい、小僧……乙女の園だからといってはしゃぐんじゃないぞ。昔から女は魔物って言うからな。』
「ホラーよりはマシだろ。それに、女の子ではしゃぐのはタケルだろ?」
左手の中指で煩くしている骸骨のような魔導輪『ザルバ』のお節介を軽い仲間の冗談で受け流し、学園の中へと入っていく……
それから、しばらくして……
「…にしても、どうも落ち着かないな白い服って……」
『(文句を言うんじゃない。それに元々はな牙狼の称号を持つ者の魔法衣は白だったんだぞ。少しはありがたく思え…!)』
それから暫くしてIS学園の教場にて白い制服に身を包む流牙の姿があった。実はこの制服は魔導衣を制服に似せたものであり、今回のIS学園に向かうに当たって上から支給されたものだ。しかし、何時もの黒でないとどうもシックリこない。あっちは校内では着れないので後で自室に送ってもらうとのことで手元には無い。
小うるさい相棒の声を流しながらう~んと机にだれる流牙。すると……
「ちょっと、よろしくて…?」
あれ…?どこかで見覚えがある少女が立っているではないか。ブロンドの髪……間違いない、さっきのお嬢様だ。
「あ、さっきの……」
「!……貴方でしたの!?ISを扱える男子というのは!?」
彼女……セシリア・オルコットは流牙を見て酷く驚いた。いささか、オーバーリアクションに見えるのは置いておこう……
「まぁまぁ……これはまた、なんという偶然……」
「そうだね。車は大丈夫?」
「ええ、私を送り届けたあとすぐに修理に……そういえば、貴方のお名前をお伺いしてませんでしたね。お聞かせ下さいな?」
「俺…?俺は道外流牙…君は?」
「わ、私を知らないんですの!?…ま、まあ良いですわ。私は言うまでもなくイギリスの代表候補生…セシリア・オルコットですわ!」
まずはと…ちゃんと自己紹介を済ませておく流牙。その様子を見て周りが少しざわめきだす……所々からイギリスの代表が早速、男子に手をつけはじめたと囁きはじめ、セシリアは横にらみをかけて黙らせる。
「代表候補生……て、ことは国の代表なんだよね。凄いなぁ……」
「…フフフ!流石に一般人でもこの偉大さが……!」
「……よく、わからないけど…」
「ガクッ……わ、わからないんですの?」
そのあとは天然まじりな流牙の会話に振り回されるだけのセシリア。お国自慢も流牙のおかげで今一つ、うまく進めることもままならず始業の鐘が鳴る時にすでに彼女は不完全燃焼とでもいうべきテンションに陥っていた。
ーーキンコーン、カーン…
「…それでは鐘が鳴りましたので……」
「うん、また楽しくお話しようよ!」
「………え、遠慮させて頂きますますわ。」
そのまま、逃げるように自分の席につくセシリアだったが流牙は察することなく相変わらず笑顔のまま…。その際、ふと離れた席の茶寄りな黒髪ポニーテールの少女がこちらを見ていたことに気がついたのだが、相手も視線を逸らしたので気にしなかった。
「それでは、皆さん席についてくださーい!ホームルームをはじめますよ~!」
鐘が鳴ると同時に入ってきたのは緑髪にメガネをしたおっとりした雰囲気の女性が入ってくる。確か副担任の『山田真耶』という名前だったはず……
彼女はある経緯で顔は知っている流牙だが必要性は無いので余計な反応はしない。
「「「「「「…」」」」」」
「…は、はじめても良いんですよね…?」
というより、クラスの全員が反応が薄くて微妙なのは如何に……
その直後、黒髪にグラマラスで凛々しい女性が入ってきた。
「…全員、席についているな。それでは、ホームルームを始めるぞ。」
「「「きゃー!千冬様!」」」
「落ち着け、ガキども。」
山田先生とは対象的に堂々とし、生徒たちからの反応も大きい。そんな出席簿を持つ彼女は『織斑千冬』…
「やあ、おはよう千冬さん。」
「先生だ、流牙!」
ーーシュバ!!
「おっと。」
こちらも、流牙とは顔見知り…というかそれよりも進んでいる関係なのだが、語るのはまたいずれ…
流牙は降り下ろされた出席簿を白刃取りし、ニコニコとしながら教壇につく彼女を見送る。
「さて、今回はまずクラスの代表を決めたいと思う。重要な役割だ……自薦、推薦、問わん。誰かいないか?」
はじまったホームルームでまず最初の話はクラスの代表を決めるとのこと。具体的に何をするかはさっぱりの流牙だが千冬とクラスの流れに任せることにしたが……
「はい、私は道外くんが良いと思います!」
「……ん?」
「私も!流牙くんを推薦します!!」
「…ちょ」
あれ…?何か予想しない声が次々とあがってきたぞ…。焦りを覚える流牙…ここで必要以上の業務が増えれば『本来の仕事』に支障をきたす可能性がある。咄嗟に辞退の意を示そうと口を開こうとするが、それより早く……
「納得がいきませんわ!」
…流牙の代表就任に異を唱えて立ち上がったのはセシリアであった。
「まず、そもそもこのイギリス代表のセシリア・オルコットを差し置いてなんたることですの!そもそも、この文化的にも後進的な島国にいることも屈辱的ですのに!こんな猿に……」
『(イギリスも島国だろ……おまけに不味い飯で有名だぜ…)』
あー……もう長い。文句の羅列に千冬はおろか、ザルバすら呆れていたが、段々…流牙の表情が曇っていく。それに気がついた隣の席の女子がその形相の恐ろしさに怯えていたが、気にも留めず彼は席を立ちセシリアを睨む。
「…な、なんですの!?」
「俺は別に代表はやる気は無いし……お前がやりたいと喚くのも構わない。だけど、お前なんかにクラスの代表を任せるわけにはいかない。」
「……侮辱する気ですの?」
「先に侮辱してきたのはそっちだ…」
『(お、おい!?小僧、何を考えてやがる!)』
ザルバが小声で止めにかかるも空気は触発状態にまで緊迫していき、山田先生はおろおろするだけでクラス全員が息を呑んで見守る……
流牙も退かぬ、セシリアも退かぬ……緊張でこの場がはりつめる中、流牙は続ける。
「確か、イギリスの代表…だったよなアンタ?それが平然と他の国のことを侮辱して良いと思う?」
「…うっ!それなら……!!」
「生憎、俺は男性でIS操縦はできるが国の代表じゃない……そこのとこ、理解してる?」
「…ッ」
まさに、正論だった。完膚なきまで言われたセシリアは黙るのみで、遠目ながら千冬も不遜に笑っている…。
「わ、わかりましたわ…。そこまで言うのでしたら、アナタに決闘を申し込ませて頂きます!白黒、ハッキリつけましょう!その代わり、負けたら二度と大きな口はさせませんくてよ!」
「…上等。受けて立ってやる。」
『(おいおい……)』
もう、炎上した舞台は止まらない。対立する役者はヒートアップし、燃え上がる……
そんな様子を窓越しに窺う鼻の長い青い金魚のような生物がおり、すぐに翻ってどこかへと泳ぐように去っていった…。
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それから放課後まで流牙がイギリス代表に喧嘩を売ったという噂が駆け巡り、女子たちの話題はこれで持ちきりだった……。決闘は放課後…実力は言うまでもないセシリアに未知数の流牙。さながら、プロレスのチャンピオンに挑戦する期待の新人の試合といった具合だ。
「……全く、派手にやってくれるぜ…」
そんな女子たち蔓延る廊下を清掃員の服装をした金髪の青年がカートを押して、ゴミ箱のゴミを回収していく。そのカートの合間には青龍刀らしきものが挟んであったが誰も気がつきはしない…。彼は溜め息をつきながらゴミの回収を終えると次のゴミ箱がある場所へ向かう……
「……まあ、面白そうだからいっか♪よろしいんじゃないのぉ?」
……早く仕事を終わらせなくては……
本日、最大のイベントを見逃すわけにはいかない……
To be continued…