・3 土龍ディエイラ
「ライっ!」
目の前が土煙でよく見えない!
俺は何度か彼女を呼んだが、彼女からの返答はなかった。
土煙が少し晴れ、ついさっきまでライがいた場所には直径が5mぐらいはする大穴が開いていた。
「なんだよ、これ」
いや待てよ、地面から突如大穴、はっ!
すると上空から耳が引きちぎられるのではないのかというぐらいの金切り声が聞こえた。
この声に地中の生物で更に空を飛ぶ奴は!
空を見ると俺が予想したモンスターがその姿を現していた。
地面から現れたのは危険種、土龍ディエイラだった。
俺は手持ちの短刀を構え相手の出方をうかがった。
しかしライの奴どこに行ったんだ?まさかディエイラにやられたのか!?
「なんて思ってないわよねぇぇぇえ!?」
「……え?えぇぇぇぇぇえ!?」
行方がわからなくなっていたライはなんとディエイラに跨り、一方的な攻撃を繰り返していた。
んーなんていうか、どっちが化物(モンスター)か分かんねえな。
一方ディエイラも抵抗しているがギリギリライに当たらず、逆に自分自身にダメージを与える結果になっていた。
やがて蓄積されたダメージと飛行による疲労かディエイラは徐々に高度を落とし、ついに地面に落ちた。
「よっと」
地面に落ちたディエイラから降りたライはくるっと俺の方へ向き大きくピースをした。
「お前っ怪我とかはないのか!?」
俺は3割の心配と7割の怒りを右手に集中させ、後頭部を殴った。
「いたっ。今!今怪我した!!」
ライは後頭部を押さえ涙目で俺を睨んできた。
しかしその姿はとても可愛すぎて正直全然怖くなかった。
「すまねぇって。ほら、これで許してくれよ」
俺はそう言って殴った所を撫でた。
するとライは徐々に顔が緩んでいった。
「……なんかうまい具合にやられてる気がするなぁ。まぁいいか」
ボソッとライは言っていたが顔を見ると満更でもなさそうだった。
そろそろ若干空気になっていたディエイラを捕獲か討伐するか。
そう思いふとライの後ろを見ると、すぐ傍でかぎ爪を大きく振りかざしているディエイラがいた。
無意識だった。
俺は振り落されるかぎ爪が彼女に当たらないように抱きしめた。
そして刹那、背中から自分の中に何かが体をえぐられる感覚と音が少し長く聞こえ、そのまま倒れた。
一瞬のことで何のことかわからなかったライは徐々に今の状況を理解していき、すべてわかった時にはまるでこの世の終わりみたく、体を震わせながら俺に近づいてきた。
「……さいか?彩夏!!」
「なんで、なんで私をかばって傷ついてるのよ!!」
ライは涙を浮かべながら俺を呼び続けた。
あー泣かせちまったか。
早く泣きやめさせないと……
徐々に意識が朦朧としていく中、彼女の声だけが聞こえた。
しかしその声はひどく悲しく、そしてとても嫌な予感をさせた。
「ごめんね、彩夏。罪滅ぼしって訳じゃないけど、殺してくる」
そう言った彼女の声はいつもとは違いとても冷たかった。
俺はこの時の彼女を知っている。
理性を失った、獣化した彼女はディエイラをまるで獲物の様に睨み付けていた。
駄目だ、獣化だけは早く解かないと。
理性を失い本能で動く獣化は好む奴もいるが、俺は嫌だ。
そしてあいつにとっても嫌なはずだ。
だから止める。
だから体よ、動いてくれ!
「……?」
俺はいつも持ち歩いていた小型のガス缶を噴射させ、辺り一面に恋有色のガスで覆った。
ライは突然視界がガスで覆われ、また左足が微弱だが何かに掴まれたのに気付いた。
「……ライ、落ち着、けバカ。ていうか……助けろよな」
一応笑いながら言ったつもりだが、我ながらひどく小さい声だ。
しかもたったこれだけのことを言うだけでもう残り少ない体力や気力を失うんだな。
しかしライはこの小さな声が聞こえたのか徐々に獣化が解けていった。
「……彩夏、私またなってしまったんだね。 ごめんなさい」
理性を取り戻したライは手持ちのカバンから新種植物から一つのサンプルをすべて取り出し、俺の背中に貼った。
「これはさっき私も使ったけど強力な治癒成分を含んだ植物なの。ほら、もう傷口も塞がってきたよ」
ライは目尻に涙を溜めていたが少し笑ってもいた。
「でもいいのか?貴重な新種を一つ使って。 しかもこんな強力な治癒成分を含んだ植物はそうはなかったぞ?」
新種の植物のおかげか既に会話はもちろん、上体を起こすことも出来る程回復していた。
「いいのよ、さっきも言ったけど私も最初ディエイラに襲われた時に出来た傷をこの植物で治したんだからいいの」
彼女は穏やかに微笑んだ。
「よしそろそろこのガスの効力も切れる頃か。ライ、俺はもう大丈夫だ。 だから一緒にあいつを討伐するぞ」
俺はもう攻撃を喰らう前と変わらないぐらい回復し、自分で撒いた有色ガスの先にいるディエイラを見つめながら言った。