銀河天使な僕と君たち   作:HIGU.V

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たぶん原作やってる人が あっ(察し ってなります。
だから原作

GALAXY ANGEL II 無限回廊の鍵 (対応ハード PlayStation 2)

をやろう!
でもそれだけじゃ楽しめないから

GALAXY ANGEL II 絶対領域の扉 (対応ハード PlayStation 2)

もやろう!

え? まだわからない? それなら

GALAXY ANGEL (Win,PS2,XBox)

からやろう!!

こんなSSを読むよりずっと有意義だよ!!
ゲームが終わった後のあの読了感で一杯の時
持て余した感情でこのSSをを読んでくれると嬉しいよ!!




第8話 賽は投げられた

「情けない負け方、だが脳細胞まで筋肉でできているやつにはふさわしい最後であった」

 

 

自信の白く長いあごひげと、肩から首にかけて巻き付いている白い大蛇。それらをなでながら老人────ベネディクタイン・パイクは思案する。彼は最後と言ったが、カルバドゥスは死んだわけではなく撤退し、先程の定例会議で、悔しそうな表情で手番をこちらに移すことに合意してきた。

元々そういった取り決めではあったのだが、悔しそうな表情と大言を吐いた手前、恥じ入っているのか普段とはうって変わって弱々しい姿に、溜飲が下がったものだ。

 

 

「さて、陣地の完成度はどの程度だ?」

 

「ハッ! 現在73%程の進行具合でございます。明日の本星標準時1130には終了する予定であります!」

 

「順調のようだな、あの筋肉の塊は理解していないようだが、戦とは兵が会敵した時には既に決まっているのだ。戦の前の軍議程度が戦略レベルになる野蛮人には到底理解できまいがな」

 

 

ベネディクタインの担当宙域はピコ。マジークやセルダールほどの開発が進んでいないために、本星近郊においても宇宙港や主要衛星までの経路以外には、前文明時代のデブリなどが多く存在し、レーダーにおける死角も多々ある。それでいて、大軍が着陣できる程度の整備され他宇宙港近郊と非常に守りやすい星系だ。

 

ただただ有利な陣地がありそうだから。という理由だけでなく、彼は星系一体に機動機雷を莫大な数用意し配置させているのだ。その分『与えられたリソース』の分配を割いた為に、艦の数は15隻と小さくまとまっているが、戦艦35隻分を作る資源や資金をコストパフォーマンスに最も優れると名高い機動機雷に費やせば星系を丸々覆うことすら可能なのだ。

 

 

「不利な状況にいる相手に、戦いの場を用意するということは、救いを与えているのではない、その場にその時に来る選択肢以外を破棄させているのだ」

 

 

たった1隻。本拠地を抑えられて孤立無援。しかし強兵。そのような戦力と相対するならば、絶対にゲリラ戦をさせてはならない。補給路への護衛のコストなど考えるべき点が多く出てくる。しかし、時間と日時を大まかに指定した決戦を受けると、こちらが言えば相手は応じざるを得ないし、死中に活有りと飛び込んでくるであろう。そのほうが処理としてはよっぽど安上がりかつ楽なのだ。

 

 

「まぁ、あの筋肉は偵察部隊として考えれば最低限の仕事をしたといえるか。あの『馬鹿げた戦闘機』へ無策で挑んでいたならばと思うとな」

 

 

当初の予定では間隔を開け、配置する予定だった機動機雷。クロノストリング由来の熱源を追尾し一定距離で爆発するだけの簡単な機構のそれ。それの配置位置を見直し、密度を上げることにしたのだ。それは彼が当然のように自分の配下をカルバドゥスの下に送り込み、情報と映像を流させたからである。このゲームの手番を決める前から、筋肉が先鋒を望むことは想定していたために予め動かしていたのだ。もう一人のジュニエヴルが2番手を取るか3番手を取るかが問題であったが、功に焦っている素振りを見せることで、2人目のカルバドゥスとでも見られるようにしたのだ。既に情報は集まった。このゲームに3番手はいらないのである。

 

彼が集めた方法で想定したのは、敵がすり抜けてくるリスク、さらに簡単に破壊されるであろう可能性。それらに対して、機雷を1つ破壊すれば、他が誘爆する様に配置することにより、こちら側のレーダー性能も阻害されてしまっている宙域においても、素早く発見することが可能である。

それだけで仕留められずとも、時間を稼ぐことが出来る。稼いだ時間で無数の機動機雷をアクティブな操作で集結させ続け、敵勢力の足を止める。後は対空使用の艦達で各個撃破。非常にシンプルだが、少なくとも砲戦カスタムの戦艦50隻よりも何倍も手強い陣容だった。

 

 

「さあ、明後日の決戦に臆せず来れるかな、ルクシオールよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんて事を考えているのかしらね?」

 

「ナッツミルク艦長、敵浮遊機雷の回収部隊が帰投しました」

 

「ありがとう、カー中佐」

 

「例には及びません、そして私のことはタピオと」

 

 

ルクシオールブリッジ、ココははるか先に存在するであろう、ピコの方面を見ながらそうつぶやいた。別段敵のことが見えていたわけでも監視しているわけでもないのだが、彼女がこう言えたのはわけがある。

 

「戦うだけが艦のしごとじゃないのよ」

 

情報を収集した、それだけである。

 

 

 

 

 

カルバドゥスを退けた後、ココは精神的に正式に艦長として着任したと言える。そんな彼女の最初の仕事はまさに大鉈を振るうといえるほどのものであった。それは彼女のマイヤーズ流とは別のナッツミルク流といえるスタイルを確立させる動きであった。

 

幾つか例を挙げるとすると、まず彼女が行ったのは、捕虜扱いで軟禁されていたナツメ・イザヨイ公女の亡命受け入れである。彼女は後ろにラクレットとカズヤを付き従え直接交渉に向かったのである。

ナツメはまだ幼い少女であるが、少なくともパトリオティズムに溢れている少女だった。自分が臣民からの税で生かされていることを自覚し、誇り高く可憐である公女の価値をおぼろげながらも理解している。

そんな彼女が先陣を切って戦いに行くこと自体は好ましくないが、それは決して功を求めてといったものではなく、自信の愛する臣民を虐げようとする、悪の逆賊EDENとNEUEを撃たんとせんからだった。

 

ココはこんこんと自分たちは悪ではない。と説得したのではない。ただ、聡明な公女を連れてルクシオールを視察しただけだ。一度だけこっそりマジークまで密偵のごとく潜入したことは有るが、非常に短い期間であり案内人もいなかったために、非常に他文明の風習に疎い彼女にNEUE文明人の生活を見せる。ココがしたことはそれだけだった。

何を見ても興味深そうに、それでいて子供のようにはしゃぎ、カズヤの『頭を蹴り』アレは何かと質問を投げかける。縦横1kmあるルクシオールを歩き回るとそれなりの距離だが、ラクレットの肩車で移動している以上終始元気よく楽しげであった。

そして見学ツアーを終えた後に、亡命するようにお願いしたのである。この戦いどちらがかっても市井の民草は苦しむ。和平の架け橋の『一つの手段』として貴方の力添えが必要であること。亡命した王族が仲裁とした停戦合意の例は多く有る、ナツメもそれを知識として知ってはいた。故に自分の国のために自分の国を売るという選択肢を取ったのだ。

彼女の亡命によって敵将の性格や文化などの多くが判明し、ココはその頭脳でそれを活かす方策を立てるのであった。やってることが、捕虜にお気に入りの異性を複数つけて娯楽施設を回るという、性別か年齢が違えば、だいぶ露骨なものであったが、彼女は一先ず頭の外にそれをおいた。

 

 

 

情報を得て一先ず指針が決まった彼女が次にしたこと。それは艦内の商業施設や娯楽施設への支援であった。単純に言うならば、値下げと割引である。食料品や娯楽品など物質的に限りがある物品などはともかく、データや音楽映像作品などはかなり極端に安くされた。サービスももちろんそうだ。

現状ルクシオールは客観的に見て絶望的な状況にある。勝利という麻酔で鈍っているが、一歩間違えれば総崩れしてもおかしくないのだ。軍人としての訓練を受けているものは多いが全てではない以上万全を期す必要性が有る。

幸いなことにスポンサーが部下にいたので、資金の提供をこちらに笑顔でお願いしたら、快く了承してくれたのは彼女の人徳というかなんというべきか。戦時であるので仕方ないのだがある意味で職権乱用とも言える。最もスポンサーがその手続きに追われる以外に嫌がる点が存在しなかったのが大きいか。

兎にも角にもルクシオールは豪華客船もかくやとばかりに、ほぼ無料で多くのサービスや娯楽施設が使えるようになったのである。少しでも士気が上がれば、人間辛いところで踏ん張れるのだ。その一歩の踏ん張りで稼いだ時間で、奇跡的に味方の増援が間に合ったことが何度も有る身としては、まったくもって無視できないファクターなのだ。

 

勿論、予防措置及び対症方法としてモルデン医師を筆頭としたメンタルケアスタッフに、定期的なカウンセリングを行うように指示もだしている。元々は長期航海からくるストレスへの対策として存在するチームでは有るのだが、一度戦闘を経験したこともあり、モルデンの部下達は自発的に兵士へのカウンセリングについて学んできていた事も功を奏した。

兎にも角にもクルーのメンタルケアに関しては、タクトよりも細やかな采配が目立った。ステレオタイプ的な価値観では有るが女性的なものの見方とも言える。それがナッツミルク流なのかもしれない。

 

 

 

 

 

そして、その指針が決まり新体制が回り始めた頃、全く面白みのない宣戦布告というよりも呼び出し要求がベネディクタインから届いた。ピコに1週間後に来い。そんな非常に簡素なものであった。その冷徹さ故に、ココは過去の経験から用意周到な罠が仕掛けられているタイプと判断。

 

アニスの昔の知り合いという、ジャンク屋やアウトローとも言える集団へと、停泊していた戦場跡の鉄屑と化した戦艦を売り払う対価として補給を受けた後に、ピコ方面からの最新の情報をその彼ら特有のネットワークで収集するように依頼したのだ。

 

正確な伝達ラインが確立されていれば、公的機関のほうが情報の入手は早い。コレは古今東西変わらない鉄則だ。しかしその伝達ラインがなくとも情報というのは様々な形で運ばれ伝わっていく。トレジャーハンターを自称していたアニスは、同業者やその亜種ないし副業家達の持つ極めて原始的だが、確かな信頼のおける価値ある情報の入手手段を知っていたのだ。勿論それは彼らのホームグラウンドであるこのアジート一帯だからこそ出来た手段であるのだが。

 

それによってピコ本星周囲に大量の機動機雷があるという情報を入手できたのである。この時点で幾つかの方策が彼女の中に浮かぶものの、決定打が欲しいために指定された日時よりも疾くつくようにピコへと急行したのである。

 

敵の索敵に入らない場所を導き出しそこに停泊すると、ジャンク屋から購入したばかりの型落ちした無人偵察機で敵の陣容を把握。ダメ押しのように、マジーク製の違法改造と思わしき魔法動力で動く小型艦で機動機雷の1つを誘導した後接収に成功し今に至る。

 

 

「非常に単純な作りのようですね。そうでなければあそこまでの量産はできませんか」

 

「そうね、ヒビキ君、シュリさん信管の位置はわかったかしら?」

 

「現在解析中です、少々お待ってください」

 

「わかったわ」

 

 

ルクシオールの前方で自身の尻尾を追いかける犬のように、くるくるゆっくりと回り続けている機動機雷。艦の優秀なレーダー及び解析装置により構造が瞬く間に丸裸にされていた。その情報によれば、単純に内部に搭載したエネルギーをショートさせて爆発させる、非常にシンプルな作りであることが判明した。しかもこのご時世に近接信管と識別信号を判明のための機材。そして不明艦に向かって行くだけのプログラムというお粗末な作りである。

 

「この作りであれば、信管部を破壊すれば爆発させずに無力化出来ます。この距離でしたらこの艦の電磁装備でも、1,2分で十分可能です」

 

「許可するわ、カー中佐」

 

「畏まりました。それと私のことは、是非タピオとお呼び下」

 

「ヒビキ君は、構造データを3D化してブリーフィングルームに送っておいて頂戴。シュリちゃんはそうね、ルーンエンジェル隊の呼び出しを」

 

 

「了解しました」「了解です」

 

「それじゃあ少し外すわ」

 

 

ココは信管を無力化するという言葉で少しひらめくものがあった。機動機雷と聞いていた時点で想定していた作戦、それをさらに補強できるものである。勿論それを行うとなると少々エンジェル隊への負担が大きくなるが、全力を尽くせるのならばそれをしたくなるのが人情というものだ。

 

 

「少しだけ嫌な予感がしないでもないけど、切れるカードは切らしてもらうわ」

 

 

 

 

 

ブリーフィングルームに例によって最後に入ったカズヤ。まず彼の目に入ったのはうにのような形をしたもののホログラムであった。

 

「シラナミ少尉、到着しました」

 

「了解よ、それじゃあみんな席について頂戴」

 

ニコリとした笑みを浮かべたままのココに促されて自然にリコの右隣に腰掛けるカズヤ。円卓状のテーブルの真ん中には先程のうにが投影されている。すぐに作戦会議が始まるのであろうと気を引き締める。

 

 

「さて、もうすぐ2人目の公爵との決闘だけれども、イザヨイ公女の情報提供と、回復したセルダールからの使者、二人の情報でおおよそ敵の規模などがわかってきたわ」

 

「本当ですか!」

 

 

明るいニュースにカズヤは思わずそう叫ぶ。他のメンバーの多くも似たように明るい表情を浮かべている。まだまだ希望は潰えていない、少なくとも彼らが諦めない限りは。

 

 

「まず今回の相手ベネディクタインは、相当に用心深いご老人のようよ。星系全部を覆うような数の浮遊機雷を設置して手ぐすね引いて待っているわ」

 

「はぁ!? 何だよそれ! そんなんしたら星系に入れるわけ……うわぁ、まじか」

 

「アニス?」

 

「カズヤ、不戦勝狙いをされてるのだ」

 

「ええ、二人の言うとおり、指定宙域に行くだけでもそれなりの被害は出てしまうわ。行けないことはないのだけれどね」

 

 

カズヤは左側に座るリコの顔を見て、そしてココの方へと向き直った。まだ絶望するところではないが、やはり状況は悪いようだと再認識したのである。

 

 

「逆に艦の数は少ないみたいね、精度の良い画像は手に入らなかったけれど、対空カスタムを施された艦が布陣から逆算して20隻弱てところよ」

 

 

ココのその言葉に反応するように、円卓の中心のディスプレイは、宙域の情報に切り替わる。ご丁寧に戦略マップまで表示されているのが、彼女の事前準備の入念さを表しているといえる。

 

 

「まとめると、質よりも密度を重視した布陣で外周を、逆に本陣は質を高めた編成で疲弊したこちらを打ち取る。非常に基本的な陣容ですね」

 

「ありがとう、ロゼル君。さて、正面から突っ込む以外の切り崩し策、私は2つほど思いついているのだけど、みんなからも聞いてみたいわ」

 

 

ロゼルの補足のようなそれを受けつつ、ココはそうルーンエンジェル隊へと尋ねた。彼女なりの意地悪であり、同時に思考を止めさせないためのモーションだった。

 

 

「え、えーと……囮を用意して牽引する……とかですか?」

 

「う、リコと被った。え、えっとその囮に超加速ブースターをつけるとっと良いかな」

 

「おい、カズヤずっこいぞ。そうだな、上からステルスで切り込めねーのか?」

 

「親分、この図は見やすくしてるだけで、ボールみたいにたくさん配置されてるのだぁ」

 

「そうよ、アジート。そうね、囮は囮でもすごい強いやつが、この辺には有るんじゃない?」

 

「そうか、マジョラムの言うとおり、この星系には周回軌道を取ってる防衛衛星があるはずだ。以前無効化したというそれが」

 

 

カズヤと女性陣がわいわい意見を出し合っている間に、ロゼルは今話題にのぼった防衛衛星達の中から決戦前後に敵の中枢を通過するものを検索している。ラクレットはふと嫌な予感を感じて顔をひきつらせる。

 

 

 

「テキーラさん正解よ。一流の魔女は軍略にも明るいのかしら?」

 

「フフ、最近寝物語に少しね……」

 

「へぇ……そうなの」

 

 

ココは全く右後ろに立っているラクレットの方を見ていないのに、若干のプレッシャーをかけながら、そう返した。正直此処まで早く悪寒が当たるとは思っていなかったが、しらを切るしかないので、表情を完全にコントール下において無表情を作る。

 

 

 

「さて、作戦の2本柱、1つは今みたいに衛星の防衛プログラムを起動させて送りつけることよ。敵の索敵範囲外に現在ありつつ、有効な場所に決戦時に居てくれる衛星はそんなに多くはないわ」

 

「ですが、工作可能な7つのうち、2つは確実に敵軍へ痛手を、最低限の対処を促せるという意味ではもう2つほど対象になるかと」

 

「ナノナノなら、衛星に行けばスイッチオン出来るのだぁ!」

 

「僕も、コンソールに触れるのならば、少しの事前勉強で出来るようにしてみせます」

 

「うんうん、そう言ってくれると思ったわ二人共」

 

 

ココは上手く話の方向を誘導しつつ、一旦まとめるために意見を交換しあっている周囲を軽く見てから咳払いをひとつ。それだけで瞬時に視線が彼女の方に集まるのは流石であり、既に歴戦のやり手艦長の風格があった。5年以上癖の強い面々に囲まれ続けた弊害なのかもしれない。

 

「今後の作戦の1つ目、それはピコ軌道上に点在するナノマシン研究所と、それに付随する防衛衛星の再起動。参加メンバーは、ナノナノちゃん、カズヤくん、アニスさんのA班とロゼル君、テキーラさん、リコちゃんのB班よ。担当するターゲットなどは後で発表するわ。ステルス性を高めての隠密行動かつ、最悪の場合の撤退を加味するとこれ以上は危険なの」

 

A班の編成は合体紋章機のファーストエイダーと足の早いレリックレイダーの2機であり、遠方の目的地へと素早く到達する編成だ。B班は逆に敵の識別距離ギリギリを行動するために操縦技能と探知に優れなおかつ戦闘能力も加味されている。特に疑問の残らないストレートな編成ではあった。

 

 

「えっと、それじゃあ残ったリリィさんとラクレットさんは?」

 

「それが2つ目の作戦よ、さっきまで出してた浮遊機雷の話に戻るのだけれど、これすごく単純な作りなの」

 

ココはそう言ってディスプレイの表示を、先程の機雷の拡大図に戻す。

 

「この部分を破壊すれば、一切爆発せずに無効化出来るの。そして感知範囲は50km程で、爆破半径もおおよそその程度、感知から爆破までには約7秒のタイムラグが有る。最も現代の火器兵器の破壊力的に誘爆させずに『撃ち抜くのは不可能』なのだけどね」

 

「えっと、まさかぁ……」

 

「残っているメンバーは……あっ……」

 

 

察しが良いカズヤとリコは仲良く同じことを口に出しつつ、残っている二人へと目を向けた。顔に表情というものを浮かべていないラクレットと、今にも鼻歌でも歌いだしそうなほど目を輝かせているリリィの二人だ。

 

 

「作戦その2、50cm精度の操作で機雷を無力化しながらの、正面からの本陣奇襲よ」

 

 

ココは作戦をタイムライン順で並べた表を画面に表示させて説明を開始した。

 

 

まずは、この後合体紋章機1機を含む5機が出撃、作戦行動を開始する。

作戦は研究所の防衛衛星を2つシステムを起動させるというものだ。可能であればタイマーなどで敵のど真ん中で再起動することが望ましいが、敵機雷の性能の低さと自動修復が可能な防衛衛星の性質上、そのままでも十分効果が発揮されるので、あくまで副案である。

明後日の開戦までには余裕があるが、主機の出力が制限される以上、往復8時間前後かかる任務で有るために、参加パイロットたちは帰還次第休息に入るように。

 

次に開戦の2時間前に、ESVの1機のみで出撃、指定宙域近くで待機。その後作戦開始30分前にルクシオールが指定宙域ギリギリに姿を表して戦意を表明。それと同時に衛星による撹乱が開始される。浮足立つ敵軍へと、出来た穴からルクシオールで強襲をかける。揺さぶりをかけたところで、潜行したESVによる本陣への強襲。

作戦の都合上、敵がどの脅威に対処を重く置くかによって、決め手となる戦力が変わってくるものの、重要なのは撹乱し混乱させることである。

 

 

「以上が今後の作戦展望よ、何か質問は?」

 

「えっと、イーグルゲイザーによる狙撃での機雷の無効化ではないのですか?」

 

「良い質問ね、リコちゃん。先程言ったとおり、いくら威力を落として正確な攻撃を当てても、亜光速実体弾では爆発を起こしてしまうわ。さらにラクレット君も流石にその精度のコントロールを戦闘しながら維持するのは難しいわ、だから分業するの」

 

「分業ですか?」

 

「ええ、機体の出力提供に1人、機動と機雷の無力化の操縦に1人よ」

 

 

ココの作戦、それはラクレットの膝の間にリリィが乗って戦うという、シンプルなものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃあ、作戦だから、しかたないけれど、アタシとあの娘のテンション管理に関してはどうするつもりなのよ」

 

「ま、まぁ、テキーラ。ココさんも精一杯やってるんだし作戦だからさ」

 

「そうですよ、テキーラさん、作戦には必要なことです。カズヤさんがナノナノちゃんと合体するのも仕方ないことです。ね? カズヤさん?」

 

「え? あ、こっちも! ええと……」

 

作戦会議終了後、早速練習せねば! とシミュレータールームへと、ラクレットの腕を引っ張って走っていくリリィと、引きづられながら後できちんと話しをしたいと伝えて消えていくラクレットの二人を見送りながら、テキーラはそうボヤく。

それをフォローしようとしたら背後から刺されかけているカズヤと、なかなかに香ばしい、タクトがいたら青春してるねぇとでも言いそうな場面。それを見ながら、ココは苦笑して横にいるロゼルへと問いかける。

 

 

「こんな感じのチーム、ラクレット君の下の隊にいたロゼル君だと少しやり難いかしら?」

 

「そんな、とんでもない。いいチームじゃないですか」

 

 

ロゼルのその言葉に偽りはなかった。かつての教官とチームメイトなことはたしかにやりづらさを覚えないでもないが、それ以上に軍事的な観点から見て事実上銀河最強のチームから、個々の戦力として銀河最強のチーム。その両方を体験できているというのは彼にとって非常に価値のある財産になっていた。

 

 

「本当に学ぶべきことと、やるべきことが多い……」

 

 

ロゼルはそうつぶやいて、早速指定された航路の計算に入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「OKだ! やはり生身とは違うが! この敵によって切る感覚! 私の経験が生きているぞ! 」

 

「それは重畳だ、だがな、あまり大きく動かないでもらえるとありがたい、いや本当に」

 

 

シミュレータールームの右から3番目の筐体の中、二人は体を密着させていた。もちろん指示された機雷の無効化のための訓練なのだが。

 

書き方を変えると、狭い個室、椅子は一つしかない中に男が一人と女が一人。程よく汗をかきながら、女は男の股の間ではしゃぎ回る。といったところである。

 

ラクレットは既に、リリィが鍛錬の必要が無いことを察していたが、それでもあえて何も言わなかった。それは決して、密着しているリリィの引き締まっている健康的な恵体の感触が名残惜しいからでもない。目の前で視界の大半を遮っている、短く切り添えられた青い髪から香るほのかな女性の汗の香りに抗えないからでもない。肩より下にある大きく実った果実が彼女の操縦のたびにリズミカルに震える様に見とれているわけでもない。断じてないのだ。そう言っておかないとあとが怖いからだ。

実際彼は自分のこの方面に関しての自信がなかったために、独自ルートで入手した一時的に性欲を減退させる薬を使用してから訓練に挑んでいる。なぜかというわけではないが、最近の彼のその辺の事情は人生で最も旺盛だったのだから。

 

さて、大義名分はともかく、本音として、リリィが喜んでいるその声音と表情が彼がこの訓練の中座を控えている一番大きな理由だった。彼女はエンジェルでは有るが、その前はセルダール王国の近衛隊隊長であった。それ故に祖国への帰属心が最も高い人物だ。騎士であるもの、その有り様が騎士なのである。

だからこそ、此度の件において、セルダールが制圧されており、ソルダム王の安否不明という報に彼女は非常に弱っていた。口数も少なく、空いた自分の時間は鍛錬とセルダールから命からがらたどり着いた使者への見舞いで過ごしているほどに。目に見えて彼女は沈んでいたのだ。

 

だからこそ、このようにはしゃいでいる彼女を見ると、どうにも水を指すことが出来ないのだ。

 

 

また、これも彼にとっては無意識的な理由であるのだが、彼女の操縦を学び取っているのだ。やはり本職というか、白兵戦ではともかく、剣の試合においては未だに雲泥の差がある。リリィからみて筋は悪くないという程度の彼の剣技は比較対象が悪すぎるのだ。技量だけならば地区大会優勝者とオリンピック3連覇位の差がある。

 

そんなリリィの方は流石にESVの持ち味である思念操作による四刀流は無理だが、普段の獲物である大剣1本はもちろん、二刀流まで素早く対応してみせた。

 

 

 

ヴェレルの乱よりも前、ルーンエンジェル隊が結成されてしばらく経過し、謎の男織旗楽人がルクシオールに着任して間もない頃。タクトは流石に暫定隊長であり、実質的な軍人としての経験もある彼女には謎の男織旗楽人の正体を開示していた。

見たものを経歴よりも信用する彼女であったが、謎の男織旗楽人の歩き方を見ただけで、大凡の力量を把握し、友好的に接してきたのは、強者が強者を知ると言ったところか。自己紹介の後最初に交わした言葉が「獲物は剣か?」だったのは、彼女の女性としては残念であることも察せられる。

 

 

「そうだ、だが厳密には剣を扱う機体だ」

 

 

そう返してしまったのが、謎の男織旗楽人の運の尽きだったのか、一瞬だけ呆けたように瞬きをした後、ものすごい勢いで「それはどういうことだ!! 」と詰め寄ってきたのだから。その後完全に人払いを済ませたシミュレーターで短時間だけエタニティソードを操った彼女は拗ねたかのように、タクトと謎の男織旗楽人にこういったのだ。

 

「嫌なわけではないが、なぜ私の機体は狙撃型なんだ……」

 

その時の自分に下賜された機体への誇りや感謝と、その相性に関する葛藤が大きく含まれていた。その時の彼女の表情は未だに彼の中に残っている印象的なものだった。

その後隙を見て、機体のシミュレーターでの操作や、実機への搭乗を試みるのは辟易したものの、どこかその件についても本気で止めきれないでいるほどには。

 

 

さて、そんな彼女が、大義名分とともにESVを試し乗りするチャンスを得たのだ。一応機体に対する浮気ではないのか? と尋ねたところ、この程度のことで私とイーグルゲイザーの固い絆が解けるはずがないであろう。と真顔で返されたのだ。

 

兎にも角にも、流石に実機を一人で動かすことは出来ないので、こうして相乗りなのだ。7号機においてのルシャーティ役を自分が、ヴァイン役をリリィが行うのだ。座席が一つしかないだけなのだ。理論武装は完璧なのだ。彼女の心情や背景的事情、作戦遂行への必要性、自分のスキルアップ、いいことづくめなのだ。

 

 

それなのに彼は冷や汗が止まらないのであった。

 

 

ああ、リリィは化粧をしないのか、香ってくる匂いが運動をしている女性の汗の匂いだな。成る程ロングの髪からの香りとショートの髪は頭皮からの匂いの差か? とか、脚や腕の筋肉の付き方がやはり違うのだな。柔らかさと力強さが良いバランスで、絞め落とされたくなるな。とか、それだけ大きいのは剣を扱うときに邪魔ではないのか? でも魔法も案外動くしNEUEテクノロジー三竦みは極めて行くとそこも極まっていくのか? じゃあナノナノも将来安泰だな。そんな疑問一つ一つが自分の処刑台への階段を一段一段と登りあげているような閉塞感と、少しばかりの(彼主観)幸福感を覚えさせるのだ。

 

リリィへとどうしても抱いてしまう成人男性としてのその持て余す感情が原因なのか、それを抱いてしまったことによる今後の彼女からの仕打ちに胸を躍らせているのか、それともその2つの吊り橋効果のような相乗的誤認効果なのか、全くわからなかった。

 

 

彼の割りとどうでも良い葛藤を横に、リリィは確実に2刀を自分の手足の延長線にしていくのであった。

 

「よし、もう一度最初からだ!」

 

「あ、ああ了解だ、だから振り向かなくて良い、満足するまで……いや規定時間まで続けてくれ」

 

「OKだ! 目標再設定! 難易度を実戦レベルにしてシステム再起動! 」

 

 

いい気分だ、ヴァルター中尉は優しいな。と高揚する彼女と、近くで見るとまつげ長いなこの娘と思う彼。一体どこで差がついたのかはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、なんかすごく不快な気分がしたわ」

 

「まぁまぁテキーラさん、作戦前でピリピリしてるだけですよ」

 

「り、リコの言うとおりだよ、ね、テキーラね?」

 

 

現在清掃中のカフェテリアではなく、営業中の食堂にて、ケーキと紅茶を前に3人は4人がけのテーブルでティータイムと洒落込んでいた。ある意味でココにいるメンバーとアニスは事前準備があまりないのだ。ロゼルはシステムに関する事前勉強、ナノナノも使用するナノマシンの補充及びメンテナンスと仕事はあるのだが、やることのメインが護衛であるメンバーは暇であった。

本来ならばテキーラもカルーアに戻ってしかるべきなのだが、微妙にイライラが収まらない彼女が二人を引き連れて、食堂に来ているのである。

 

 

「あんまり言いたくないのだけど、ナッツミルクはアイツをこき使い過ぎなのよ。いや、マイヤーズよりはマシなのだけど」

 

「仕方ないですよ、エルシオールからの古参の人で一番頼れるの、ラクレットさんですから」

 

「まぁ、確かに最近ブリッジかオフィスかコンビニに詰めっぱなしだったよね、ラクレットさん」

 

 

ココの大鉈は、やはり若干の歪みがあったのか、ラクレットがあまりにも便利だから、使いすぎてしまっていた。今まではラクレットが忙しくても誰も不満を産まなかったために、此処に来て初めて表面化してきた問題であるといえる。勤続5年で初めてプライベートが少ないことを不満にもつ人物が出来るのは早いのか遅いのか。

 

 

「アタシは兎も角、あの娘が最近寂しそうにしてるのをちゃんと気づかなきゃだめよね」

 

「そうですねぇ……ねぇカズヤさん!!」

 

「はい! その通りだと思います!」

 

 

何故か背筋が伸びるカズヤ、彼には一切やましいことはないのだが、条件反射でそうなってしまう。別の女性隊員とその場に応じて合体する以外、彼には一切の負い目はないのだが。そのカズヤの様子を見て溜飲が降りたのか、テキーラの唇が少しばかり釣り上がる。

 

 

「おーい、カズやんおる? おぉ! リコもおるやないか!」

 

「あれ? コロネどうしたの?」

 

 

そこに突然現れたのは、コロネ・シュークルート。短い金髪を頭の横で結わえた、そばかすと鼻の絆創膏がトレードマークの女性整備士である。若いながらも腕が良いクルーで整備班長のクロワ(通称おやっさん)とよく熱弁を交わしている(非常にマイルドな表現)スタッフだ。

 

そんな彼女が何かしらの用件を持って話しかけてきたのだ、十中八九機体に関することであろう。

 

 

「それがな、カズやんの機体、最近クロスキャリバーとばっかり合体してたやろ? ないとは思うんやけど、変な癖がついてないか確認して欲しかったんや」

 

「な、成る程……ね? リコほら!」

 

「はい! カズヤさん!」

 

「リコも同じで、合体前提の調整になってるかも知れねぇ! ってあのおっさんが言ってたから手が空いてたら連れてこいってな」

 

 

放送で呼ぶほどの用件ではない為に、休憩がてら食堂まで来ていたコロネが、二人に用件を伝えた形である。

 

 

「わかった、それじゃあテキーラまたあとで!」

 

「失礼します!」

 

 

二人は駆け足で食堂を後にする。ご丁寧に自分の食べていた食器類は完食した後、下げ口に持っていきながらである。

 

 

「あら、ふられちゃったわ」

 

「それなら、僕とお茶でもいかがですか? お嬢さん?」

 

 

二人を見送り、そう小さくつぶやいた彼女に新たな来客の影が見える。振り向けば先程と同じく、またもや短く切りそろえられた金髪。皮肉なことに女性であるコロネよりも、ふんわりとウェーブがきいている。

 

 

「マティウスじゃない。もう終わったの?」

 

 

そんな、ロゼルは紅茶ではなく、グリーンティと芋ようかんをトレーに乗せていた。彼は完全に一息つきに来た様子である。

 

 

「ああ、あのくらいなら……いや、実のところ似たようなシステムを以前学んだことがあってね」

 

 

数は少ないが、ピコ出身の者もいることを思い出し、自慢げに答えるのではなく、きちんと事実を伝えることにする。そういった細かい所が、彼の師匠と違って彼を貴公子然とした雰囲気の持ち主にしているのかもしれない。

 

「それで、何のようかしら?」

 

「暇を持て余したレディを、お茶に誘ったまでだよ」

 

「あら? 待ち人はいないけれど、どうしようかしら?」

 

 

肩をすくめてそう戯けるロゼル。それに合わせるように軽やかな声で返すテキーラ。こういった軽口の応酬は久しぶりだった。

 

 

「貴方のような美しい人が、一人でいることは、我々人類の損失だ……なんてどうですか?」

 

「60点てとこね、捻りがないわ」

 

「コレは有り難い、落第(F) は免れたようだ」

 

 

自然とそう返しながら、彼はテキーラの前に座った。そして手袋を外すと、慣れた手つきで楊枝を使い一口サイズに羊羹を切り分ける。そしてそれを口に運び、ほのかに湯気のたっているグリーンティーに手を伸ばして一息つく。

容姿とチョイスのミスマッチ具合に彼女は思わず吹き出してしまう。

 

 

「ちょっと、それ何よ。アンタの好みなの?」

 

「『尊敬する人の好きなものを見ていたら、それにつられて好きになってしまった。』ってところですかね?」

 

「へぇ……じゃあアイツ、アタシ達にあわせていたのかしら?」

 

「甘いものも刺激物もなんでも好きな人ですから、わかりませんね」

 

 

ロゼルは一息つくと、テキーラへと向き直り、柔らかい微笑を浮かべる。今まで何人の女の子をこれで落としてきたのかわからない、彼のデフォルトの表情である。

 

 

「それで、暇しているなら、この前の約束でも果たそうと思ってね」

 

「約束……ああ、アイツの話ね」

 

「僕としたことが、女性の前で別の男性の話をなんて、どうかとも思ったけれど、君が楽しめるならそれに越したこともないと思ってね」

 

「あら、楽しませてくれるのかしら?」

 

「お望みであれば、いくらでも? レディ」

 

 

楽しげにそう話をしている二人。言葉のキャッチボールは牽制球と変化球が乱れ飛ぶ変則的なものであったが、玄人好みなのか、いいバランスにまとまっていた。食堂の一角で美女と美少年卒業間近の二人が作り出しているドラマのような空間。それは独り身女性クルーの憧れの視線を集めるには十分出会った。

 

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 

キッチンで夕食の下拵えをしている、ランティが目撃して驚いているが些細な事であろう。

なにせ会話の内容は誰にも聞こえていなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告の方も含め心配ありがとうございます。
持病の方は、ぼちぼちという具合です。
よくはなっていないのですが、失明を免れる為の手術なので致し方なし
という具合です。


新キャラのように出てきたコロネちゃんですが
原作キャラです。作者の一押しですが 苦手な関西弁キャラです
ちょろっと扉の6話にも出てます。

技量と話のテンポの関係でクルーの多くが名前のみの出演になっていたりします。
一々描写していきたいけれど(特にステリーネとかめちゃくちゃオリ設定で掘り下げていきたい)
ルーン+ラクレット+ココ+タピオですら持て余し気味なので、大人しく話のフォーカスは
この辺にしておきます。

特に今回の話の運びで 色々察せたと思うので

何かわからない? 原作をやろう!

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