銀河天使な僕と君たち   作:HIGU.V

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絶対領域の扉 最終話 銀河最強の露払い担当

 

 

 

 

 

「よし、安全宙域まで離脱させたぞ」

 

「あとは手堅く殲滅すればいいんだな!」

 

「艦隊の支援をすべきでしょう」

 

 

AbsoluteのEDENゲート付近。そこでも一つの戦いがあった。こちらの戦力は戦艦や重巡洋艦を主体とした、打撃と防御に優れるが速度に今一つ不安が有る編成だ。しかしこれが功を奏した形になった。

 

 

「待ち伏せされた時はどうなるかと思ったけど、クールダラス司令の采配は流石だったな」

 

「ああ……烏丸大尉の教えも役に立った」

 

 

5人はそう言うが、多くの戦艦クルー達こそ声をそろえるであろう。この場をしのげたのは彼らの力だと。

 

エルシオールにノアの手筈で一時的に搭載された新型紋章機────ホーリーブラッド5機は圧倒的な活躍で戦場を駆け巡っていた。

 

EDENにあるゲート近くの基地で、エルシオールに一時的に配属することになった彼等5人は、ここ数日の暇な時間、ひたすらちとせから指導を受けていたのだ。ラクレットの訓練では疎かになっていた射撃戦の応用を学んだ彼らは、ただでさえ突出した実力を持っていたが、さらに化けたのだ。

まず、開幕早々防衛衛星を2つ速やかに落とし、その穴をエルシオールが抜けて行くまで見事維持したのだ。そして相手が再び陣形を組みなおした直後にまた穴をあけ『荷物』を無事送り出したのである。

 

 

「ホーリーブラッドは近中距離がメインだが、装備換装を受ける時もいずれあるであろう」

 

「教官からは近づきながらの回避ばっかり教わったもんな、俺ら」

 

「私語をしている余裕があるなら、味方の支援をしろ! コークお前は特にだ!」

 

 

彼等5機は全て同じ機体であるが、ある程度の装備換装をすることができる。しかしナノマシンによる戦場での高速修復だけは出来ない為に、防御に重きを置くべきです。というちとせの短期間ながら密度の濃い教習は見事に実を結んでいた。

 

 

「────ッ! この気配は! 」

 

「どうしたロゼル、新手か?」

 

 

順調に数を減らし、彼らのスコアを伸ばしていく中。ロゼルは突如何かを感じ取ったのか血相を変えた様子だ。

 

 

「教官が! 教官がいる! この銀河に来ている! 今楽し気に敵を葬っているんだ!」

 

「こいつもこれさえなければなぁ……」

 

「妹に行っていたのが全部教官に行った感じだし仕方ないかもな」

 

「まあ、あの人がいるならばもう安心だろう」

 

「ああ、早く終わらせないとこっちに来てドヤされかねない」

 

 

軽い雑談をしながらも彼らは(エンジェル隊を除く)EDEN軍の戦闘機部隊が残した歴代最多戦果を易々と塗り替えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェレルが今回の計画を遂行させる上で警戒した人間は、戦いという盤面に出てくる中では4人だった。月の管理者たちも脅威だが、撃ち破る必要はないのだから。戦うことになった場合警戒すべき所を熟考したのだ。

 

まず1人目は言わずと知れた救国の英雄 タクト・マイヤーズであろう。直接妨害してくるのはこちらだ。計画上まずはNEUEを支配下に置き戦力を整えた後に、EDENに乗り込むのだから、NEUEにいる彼は確実に戦う相手だ。こと艦隊決戦において何をしても強いというのは素直に脅威で、対処方法はシンプルに同等以上の戦力をぶつけ『続ける』必要があるであろう。

 

2人目はレスター・クールダラス。彼はエルシオール艦長であるという点で脅威だ。最強の戦闘機部隊の戦艦空母の艦長であるのだから。また彼とタクト・マイヤーズが同じ戦場にいる場合、阿吽の呼吸でタクト・マイヤーズに追従してくる。これは実質的にタクト・マイヤーズの頭数が増えたのと同義であり、それを阻止する必要がある。確実にEDENに留置し分断すべきだ。

 

3人目はミルフィーユ・桜葉だ。神に愛されているとしか言えない程の幸運と紋章機のパイロットでありゲートキーパーという立場は無視できない。尤も彼女を起点に計画を動かすために、最初に隙さえ見つければ問題はない。

 

そして4人目、それはラクレット・ヴァルターだ。彼が恐ろしいのは単騎での生存能力の高さと瞬間的な火力だ。影の月のシールド以外が10秒と持たずに無力化されてしまうというのは、暗殺者として送り込まれた場合に抵抗する術はない。幸いなことにEDENでの任務に就いているようだが、万が一もあり警戒を行う必要があるであろう。

そう言った形で結論づけられていたのだ。

 

だからこそ、この場にその4人が揃ってしまったことは、彼にとってはあり得ないことであった。

 

 

「ラクレット・ヴァルター!! イレギュラーがぁ!!」

 

「その台詞は来るものがあるが、貴様は許さない。ミルフィーさんを監禁してフォルテさんを脅迫なんて、万死しても足りない。本気で貴様を殺す」

 

「おぉ。燃えてるね」

 

「ふふっ、タクトさんが仕事押し付けてたんですね?」

 

「まあ、あんな任務俺でも嫌だな」

 

 

その注目されていた4人は、一人を除いてヴェレルに対して特に興味が無いのかラクレットの事を話している。ヴェレルとしてもそれは疑問であった。何故ここにいるのだということが。

 

 

「その砲台にたどり着くために迂回したとしても、接敵は0ではなかったはず! どのような姑息な真似をした! 答えろ!」

 

「僕が敵に手を教える愚策をすると思われるとは、ヴェレル貴様はとんだロマ「いいよ、教えてあげちゃって」────はい、了解です」

 

 

折角のラスボスとの会話なのにと内心でラクレットはボヤきつつ、そのタクトの言葉が即ち「ルーンエンジェル隊の補給が終わった」という意味だと理解したことは悟られずに口を開く。言外に時間稼ぎはいらないから、思い切りやれと言われたのだ。

 

 

「こういった時の為の備えとして僕はずっとタクトさんの傍にいたんだよ、諜報合戦では最後の最後でこちらの勝ちだったかな?」

 

「馬鹿な! ルクシオールに貴様の乗船記録はなかった。マジークであの魔女に探らせた時も姿は確認できなかったのだぞ!」

 

 

顔を怒りで赤く染めて叫んでくるヴェレル。これ以上隠し玉がある様子には見えないし、本当に言っても問題ないであろう。精神的揺さぶりもこれ以上必要が無い気もするが。

通信モニターに復帰したルーンエンジェル隊の面子の顔を拡大表示するように設定して────こっそり録画機能も起動させて────から、ラクレット・ヴァルターは胸ポケットから黒いベルトを取り出す。

 

 

「────ではこの顔ならばどうかな?」

 

「な、お前はタクト・マイヤーズの側近の!」

 

「え? え? なんで?」

 

 

その顔を見たカズヤは、その瞬間思わず声を漏らさずにいられなかった。ヴェレルの反応など完全に頭に入ってなかったのだ。ラクレット・ヴァルターという名前は聞いたことがある。

前大戦の英雄の一人であり、戦闘機パイロットだったはずだ。しかしその人物が見覚えのある黒いベルトを首に当てた瞬間、顔つきが変わり体が『小さく』なったのだ。

 

 

「お、織旗中尉!? ていうか、あの体格でもとより縮んでたんですか!?」

 

「わぁ! ラクレットさんが楽人さんだったんですか!? すごいです!」

 

「っけ。さっきのが楽人の素顔ってわけかよ」

 

「ナノナノはスキャンで知ってたけど、ママ達のお友達だとは知らなかったのだ!」

 

「中尉!! ついに我々に協力して頂けるのか!」

 

「ふふ……楽人でラクレットね……そのままじゃない」

 

「どう、ヴェレル? これが人類の力『お約束』だよ。織旗楽人を古代語に置き換えてそれを変換すると『旗を折るらくと』 フラグブレイカーのラクレットになるんだ。そんな事にも気づかなかったお前の負けだよ」

 

 

思い思いの反応を返すルーンエンジェル隊と、捕捉してくれるタクトの声を聴きながら、ESVを下降させる。彼の頭によぎるのはここまで来た経緯である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を巻き戻すとしよう。

 

 

 

 

 

「コンテナの中で待機ですか?」

 

「うん、それで艦底部に取り付けちゃうんだ」

 

 

場所はルクシオール司令室。もはや恒例となった秘密会議には適任の場所である。そこにいるのはタクトとラクレット(楽人フェイス)の2人である。

 

 

「ココがグロウブの中を通り抜けるっていうのは聞いてるよね?」

 

「厳密には彼女の操舵で。ですね。存じ上げております」

 

「うん、その時にわざとぶつかって、その衝撃で君を艦からパージしたい。愛機と一緒にね」

 

 

タクトが話しているのは、ラクレットの出撃方法であった。未だに格納庫の片隅に設置されているコンテナ。整備班の中では開かずのコンテナとすら呼ばれているそれは、中にESVが積載されている。それをそのような回りくどい方法で出撃させたいとタクトは言っているのだ。

 

 

「確かに裏はかけると思いますが手間が多すぎる気がします」

 

「まぁ、話はこれからだ。オレの予想だけど、敵は何かしら仕掛けてくると思う。全部上手く行けば11の紋章機にクロノブレイクキャノン。2隻の戦艦を相手にする。周囲の戦力は他の艦にて一杯だろうからね」

 

「まぁ、広域を纏めて葬る手段は用意しているでしょうね。恐らく砲撃に特化した戦艦を遠距離に大量に配備する……辺りでしょうか。旗艦の防御に人員をこちらが取られてしまえば、苦戦は必須ですし」

 

 

タクトも楽人(ラクレット)も敵が何かしらの切り札を用意している可能性を考慮していた。この時点で二人は影の月という存在を認知していなかったものの、それでも何かしらの手は打ってあるであろう。そう考えて動くべきだと。

 

「だからミルフィーを救出した後────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽人さん、発進を!」

 

「ミルフィーは無事に確保したよ!」

 

「了解です!」

 

 

場面は変わってシャトルの中。無事にエンジェル隊がミルフィーを救出してシャトルに戻ってきたところだ。5人は乗り込むと、何よりも先にきちんとシートベルトをするあたり流石であろう。

 

 

「あ、ラクレット君だぁ! 久しぶりー」

 

「ちょっと、ミルフィー。一応変身してるし、アンタお約束守れてないわよ」

 

「あ、そっかぁ! えーと」

 

「すみません、ミルフィーさんに一先ず急ぎでやって頂きたいことがあります」

 

 

ミルフィーの言葉に合わせてラクレットは操縦桿を操りながらも、やるべきことを優先した。何せこの後の戦局に影響があることなのだ。優先度は非常に高いと言える。

 

「え? なになに?」

 

「はい。座席の下に桃色の箱があります。その中にカードが何枚か入っているので、箱の穴から手を入れて1枚引いて欲しいのです」

 

「うん、わかった。はい! えーと……天頂って書いてあるけど……」

 

「ありがとうございます」

 

 

タクトの作戦はこれで整った。正直ズルをしているような気分だが、先に仕掛けてきたのは敵側なので問題は無かろう。

 

 

 

そう言ったわけで彼はこの後帰還してすぐにコンテナと共に艦底部に設置されることになったのだ。後はココがわざとかすらせたタイミングで、破片と共に落下すればよい。なによりセントラルグロウブの辺りはその圧倒的なエネルギーもあり、ステルス潜航すれば敵に気づかれずにやり過ごすことができる。

グロウブの突起の陰で行えばさらに隠密性は高まる。仮にシャトルに乗せて出撃した場合よりも隠密性は高い上に、ぎりぎりまでルクシオールにいれるために奇襲を仕掛けられた場合へのカウンターにもなっていたのだ。尤もその心配は杞憂であったが。

後は敵が通り過ぎ、十分に距離をとった後、ひたすらルクシオールの天頂方向に進み待機していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、そう言う訳だから。ヴェレル、そろそろ年貢の納め時だよ」

 

「ック……だがこちらにはまだ30隻以上の艦がある。まだ破れてなどいない!」

 

ヴェレルのその言葉を肯定するかのように、わらわらと影の月から水を流し込んだアリの巣のように艦が出て来る。戦いの決着自体はまだついていないのだ。

 

 

「あれ? 今の間にまた作ったの。ちゃっかりしてるなぁ。まあいいや。カズヤ指揮を任せた。俺はここでさぼ……ラクレットの方の管制をするから」

 

「りょ、了解! って、もしかして11機全部ですか!?」

 

「当たり前じゃないか、もちろんエルシオールとルクシオールも頼むよ」

 

 

タクトは事も無げにそう言う。まあカズヤにはあからさまにサボりたいという態度を見せたが、彼は本当にやることがあるのだ。ラクレットの管制以外にも。

 

 

「さぁ、カズヤ見せて見なさい?」

 

「カズヤさんの指揮楽しみにしてましたのよ?」

 

「アタシが仕込んだんだ。下手な真似するんじゃないよ」

 

「ご命令をカズヤさん」

 

「ふふ、お手柔らかにお願いしますね」

 

「カズヤ君頑張ってねー」

 

「りょ、了解です……それじゃあムーンエンジェル隊! ルーンエンジェル隊! 出撃」

 

────了解!!

 

 

こうしてヴェレルとの最終決戦第一ラウンドが開幕したのだが、双方があくまでこれは前哨戦に過ぎないという想定の上での戦いであった。

 

 

 

 

 

 

 

「す、すごい! あ、次の目標は敵G,I,Nです。近い人頼みます!」

 

「了解よー、アニスしっかりついてきなさい!」

 

「ガッテンだぜ! 姐さん!」

 

 

カズヤはこの局面において1機1機正確な指揮をすることを放棄した。それは勿論技量といった面もあるのだが、こちらの戦力が圧倒的なので、撃破優先度をつけるだけで回るのだ。特にムーンエンジェル隊の面々が阿吽の呼吸でフォローしてくるので、ダブルブッキングもない。

 

 

「戦場に羽が沢山……綺麗……」

 

「だね……僕たちのと違って、純白の羽なんだねEDENの紋章機は」

 

 

リコが思わずそう漏らしてしまうほどに、縦横無尽に羽ばたく6機の紋章機の軌跡に流れる羽は幻想的であった。クロスキャリバーの羽は機体のカラーと同じオレンジ色が付いていたが、彼女たちの羽は揃って純白だったのだ。

そしてその羽が通った先には何も残らない。跡形もなく破壊されていくのだ。古来より畏怖の対象となる圧倒的な力は、それ自体が美しさの様な魅力を持っていた。それならば彼女たちの6機は、なる程確かに美しいのは道理であろう。

 

 

「防衛衛星からの支援砲火が無いだけで、こんなにスムーズになるなんて」

 

 

だが、カズヤが最も注目したのはそこではなかった。戦闘開始直後、シールドの壁を張っている防衛衛星が致命的ではないが、無視できない攻撃をひたすら仕掛けてきたのだから。

ルーンエンジェル隊と何よりカズヤの最初の目的は、敵の自由戦力と接敵する前にその砲台の無力化で動こうとした。しかしながらムーンエンジェル隊は迷いなく敵艦隊に向かい口を揃えてこういったのである。

 

────あれはアイツに任せればいい。

 

その言葉は直ぐに現実となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクレット、久々の腕の見せ所だよ。こっちはエネルギーの調整に入る。ココがお土産を連れてきているみたいだからね。一人でやれるよね?」

 

「もちろんですよ……今までの鬱憤をたっぷり晴らさせてもらいます」

 

 

その言葉と同時に、自らの周りに漂っていた砲台の残骸が爆発するが、一切気に留めることなく真下に見える防衛衛星に愛機を回頭させ全速力でつっこむ。重力など無きに等しいために、急降下とはいかないが気分的にはそれに近い。

 

 

「まずは2本で試し切らせてもらうぞ!」

 

 

瞬く間に接敵。漆黒の翼を羽ばたかせ、紅い光の宿る黒い機体はさながら死神のそれだった。振り下ろす鎌は真紅に光る2振りの剣。以前の青と銀をベースにしたカラーから一新し、赤と黒という急にラスボスの様なカラーリングになったのは偏に義姉の趣味である。

 

単騎駆けこそ我が常勝の定石とばかりに、迷いなど欠片も見せずに飛び込んでいくラクレット。彼の接近と同時に防衛衛星がルーチンに従い迎撃を開始する。

 

機械的な対空迎撃だが、敵も数だけは十分にいるために散漫な動きでも、大量の弾丸およびレーザーが殺到する。しかし、シールド出力にリソースをとられているのであろうか、同規模の衛星の集団よりも幾分か弾幕が薄い。

それでも激流の川の滝の水量が、土砂降りの雨の水量に減ったようなものだ。水に当たり濡れて、びしょびしょになるという結果に変わりはない。最も

 

 

「この程度の攻撃ではかすりすらしないぞ!」

 

 

当ればであるが。機体の剣の形状が4刀流になり大型化したことで最高速度は落ちた。しかしそれを補って余るほどの手数、火力、なによりも精密な軌道制御に答えるスラスターを手に入れたのがこのEternity Sword Variableだ。

 

「この程度の攻撃じゃ止まらない! 止まれない!」

 

軽々ではなく、美しくもない。しかし効率と成功率だけを重視した、最低限かつ最小限の動きで回避し捌き接近する。敵が無人でなく、有人だったのならばその機械の様な姿だけで脅威に見えたであろう。

 

瞬く間に被弾を0のまま防衛衛星の1つに辿り着く。お粗末なことに────というか、当然ではあるのだが────フレンドリーファイアー防止設定を切ってないようですぐさま攻撃がぴたりと止む。

 

「二刀両断……なんてね!」

 

分厚いシールドをものともせずに、バターを熱したナイフで切り裂くように、一切の抵抗なく己の剣を衛星の中枢に叩き付けた。一点にのみエネルギーが集中している使用上、彼の機体はとにかく分厚いシールドを持つ大型の敵に相性が良いのだ。そのまま自ら剣を振うが如く振りぬく。

 

そもそも他の紋章機や戦艦による攻撃は遠距離のそれだ。破壊力があるのはそれが斉射され続けている間であり、実体弾に至っては一瞬だ。絶え間なく当て続けるならともかく、一瞬ではクロノストリングから供給されるエネルギーですぐさまに修復し切れるのである。その点剣は継続した火力が瞬間的に叩き込まれるのだ。それ故にシールドの出力さえ上回ってしまえば問題なく刈り取れるのである。

 

例えるのならば、艦隊や紋章機での戦いを水鉄砲にする。勝利条件は敵の顔に水をかけるなどをして咳こませるか、顔を拭わせればよい。この場合のシールドは水中ゴーグルやマスクなどであり、武装は水鉄砲だ。

距離と火力を重視するも小回りと速射性を取るのも各々の自由だが、顔にかけてもゴーグルやマスクに阻まれて、直ぐには勝利条件の達成は出来ない。時間をかければ流石に問題はないであろうが。

そしてその場合ラクレットとESVは濡れた手ぬぐいを振り回すキチガイ一歩手前の俊敏な筋肉達磨だ。事案とかそう言った事は置いておくとして、顔に1発当たれば視界は塞がれ呼吸ができなくなるのは必須。リーチが相対的に0というレベルなのだが、防具が厚い鈍重な相手にはより有効なのだ。

 

そして今の彼は自由自在に4つの武器を操りながら、既に懐に入ってしまっている。あとは一方的な殺戮の時間にしかならないのは当然であろう。

元々右の剣で攻撃をはじき返し、返す刀と左の剣で突く。それが2刀流の限界だった。手数が足りないという局面はないとは言えなかったのだ。

 

しかし今は違う、目の前の衛星を破壊した彼はそのまま次の敵の懐に勢いそのままに飛び込む。既に攻撃モーションに入っている為に、上下から殺到する攻撃に対処する余裕はないと見えたのであろう。

 

「次は4本だ!」

 

その言葉と同時に小さな破裂音と共に両刃刀が分離し、前方に有った剣はそのまま勢いを殺さずに攻撃に回る。一方で放たれた裏刃となっていた2本は、待っていましたとばかりに迎撃を開始したのだ。

 

「感度良好、これならいけるぞ!」

 

 

これこそがESVの最大の特徴であり4本の腕による戦闘術だ。攻撃の際の手数を増やすだけではなく、攻防を一体に、本当に同時にすることができるのだ。流石に亞光速で迫って来るレールガンなどは、予め構えて未来予知して合わせる必要があるが、普通に来ている攻撃など物の数ではないのだ。

 

結局足止めにすらならなかった攻撃を対処された衛星に未来はなく、瞬きの間に機械から鉄くずへと姿を変えた。残りの衛星は8基。元々10基は2列に5基ずつ並んでいたのだが、残りは4基が2列になっている。元々かなり密集した配置であったが、戦闘が開始され、より一層密度を上げてきた。恐らくそろそろフレンドリーファイアー防止機能も切られるであろう。

 

「被弾が少なすぎて、テンションが溜まるまで時間がかかったな……」

 

そしてその配置は彼にとって最も都合が良いものであった。一切攻撃を受けないままここまで来て、今日の撃破数は3つ伸びて漸くテンションが溜まったのだから。

 

 

「義姉さんがオミットしちゃった特殊兵装だけどさ。別に問題ないって習ったし」

 

 

ノアはこの機体を解析して1つの結論に至った。それは『この機体には特殊兵装機能は搭載されていない』という事だ。

馬鹿なということなかれ。特殊兵装とは彼女の定義では『超常現象であり、物理を越えた魔法のようなもの』なのだ。

撃ったはずの弾丸を再び三度と放つ。ビームが曲がる。ワイヤーが数千万キロ延びる。搭載してない筈の武装を浴びせる。人間の限界以上のフライヤーを操る。ビームが曲がる。一瞬で宙域一帯にナノマシンが拡散する。ビームが曲がる。そういった奇跡こそが特殊兵装の真骨頂である。

ノアとしては、ただ出力が瞬間的に上がり数千kmの刃ができるだけのそれは再現しようと思えばできなくはないので、彼女からしてみれば特殊兵装としなかったのだ。最近はNEUE製の紋章機という物が出てきて、エタニティーソードはどちらかというとそちら寄りだという事も分かり、考えを改めたのだが。

 

それでも当時は同調率が最大になった時に『コネクティッドウィル』が撃てるようになるといった、ソフトウェア側の機能を削除したのだ。そしてラクレットに忌々しげな顔で告げたのだ。

 

「アンタがその時一番やりたいと思う使い方で剣を振いなさい……か。まあH.A.L.Oシステムがあればいくらでも無茶がきくって事なのかな?」

 

 

故に彼は機体を一先ず移動形態に変形させた。その結果腕とその先についていた剣はコンパクトに格納され翼の下につけられたミサイルのように機体と平行に固定される。これで準備は万全だ。

 

「双剣を重ねた時の間からビームとかって打てそうだよね? という訳でやってみる。そうだな」

 

自分の中でのイメージは固まった。後は心を震わせて飛び込むだけだ。小さく深呼吸をしてさらに機体との同調率を高める。自然と頬や手の甲に紅い刺青のような模様が浮かび上がってくる。これが彼の全力を出すときの状態。

ヴァル・ファスクとしての能力が低いために用途は限定されており、通常のVチップには距離があるとアクセスすら難儀。ヴァル・ファスクの利点である遠距離での同時操作というものを丸々潰しているのだ。それでもいやだからこそ、愚直にこれを極めた。

自分の機体を信じて、自分の機体に全てを委ね、自分の機体を操る術。それこそがラクレット・ヴァルターが最強である所以。感情によって信じ、合理によって操るハイブリットだからこそできる、後に次世代型ヴァル・ファスクと呼ばれる存在の第一号。人馬一体を完全に体現するからこそのクロスレンジ最強なのだ。

想像力とそれを実現しようとする行動力。なによりその際に怯まない心こそが、誰よりも先に戦場をかける事で培った力こそが最強の武器なのだ。

 

気でも狂ったかのような、恐れの見えない急加速から、そのままもはや接触するのではないか程瞬時に『的』に近づく。それと同時に移動形態故に、殆ど動かない剣を唯一動く機体と平行の向きで大きく後ろに下げる。まるで渾身の一撃を叩き込む直前の引き絞りのように。レールの上を勢いをつけるために一度後退させるイメージを籠めた。

そして思い切り叫ぶ。声にすることでイメージでしかないそれを現実に定義する。それこそがこの技のトリガーになるのだ。

 

 

────エターナルレイランサー!!

 

 

 

彼のその叫びと共に突き出された剣から放たれたのは紅の光の矢。重ね合わせてあった剣の刃と刃の間から巨大な杭のように伸びた『血染めの紅』それは、圧倒的な熱量と共にとある属性を持っていた。

 

「────貫け!」

 

不吉なほど紅い光の槍は、接触している防衛衛星を何の障害もなかったかのように貫き、そのまま次の目標へと真っ直ぐ進んでいく。

その直線状に存在するすべてのものに、須らく平等に破壊を与える死の槍。というかもはや杭であった。と言っても3千キロも進めば消えてしまう短い物であり、このように敵が重なってもいない限り1つの目標に当てる必要があるそれではあるが。

 

 

「もう一発だああああ!!」

 

 

しかし、その声と同時にいつの間にか移動していた彼が、ご丁寧に整列したままのもう1列に向けて突っ込んだ。この攻撃はそもそもこういったゲルンの考えた時間稼ぎという紋章機へのメタの様な作戦、それ自体への有力な解決法でもあり、切り替えしの鬼札であるエタニティーソードをより特化させる技だと言って良い。

 

イメージしたのはパイルバンカー。巨大な今まで切って来た艦の血を吸った分の赤さを誇る必殺の杭。剣のエネルギーを一時的に留めて形状化して、剣と剣をレール代わりにして打ち出す。溜めも大きく予備動作も必要であり、なおかつ射程も非常に短い。1本に束ねた剣を思い切り動きながら振り回した方が、広範囲をとらえられるであろう。しかし動かない固まった敵に対してはこれほど有効なものもない。

 

要するに今後ゲルンの猿真似をする反乱勢力が出た際に、効率よく排除するためのカウンターなのである。そう言った意味でヴェレルの準備は紋章機に対して最適解であるがゆえに、ESVにとってはお得意様でしかなかったのである。

 

 

「殲滅完了……ESVのデビュー戦には少し物足りないかな」

 

「あら? やっと終わりましたの? こちらの獲物はもう殆ど残っていませんわ」

 

「そうそう、ブランクで鈍ったんじゃないの?」

 

 

ミントとフォルテからはそんな煽りが飛んでくる。勿論きちんと真意を彼は理解している。さっさと手伝いに来い、一気に畳みかけるぞといったものだ。尤もこれは彼の解釈なので本当かどうかは定かではない。

 

 

「加勢に行きますと言いたいのですが……そろそろ主役のご到着です」

 

 

ラクレットのその言葉と同時にレスターの声が宙域に響き渡った。

 

 

「クロノブレイクキャノン、充填完了。総員進路上から速やかに退避しろ。目標は影の月だ!」

 

 

天文学的なエネルギーが砲身に宿り、今か今かと発射を待ちわびている。周囲の安全を確認するとレスターは静かに宣言した。

 

 

「Unlimitedクロノブレイクキャノン────発射ぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぬぬぬぬぅぅ!! あの混血劣化種族の男がぁ!」

 

 

自慢の切り札を試し切りする感覚で壊されたのは、ヴェレルの精神にそれなりの揺さぶりとなっていた。結局のところ彼の敗因は見下してしまったことであろう。ヴァル・ファスクと人間を。自らの部下ですら利用するだけで、活用しようとはしてないのだ。それが彼の限界であった。逆に言うと彼が信じるのは自らのテクノロジー影の月だ。

 

 

「そうだ、この影の月のシールドは黒や白の月など足下に及ばぬ。クロノブレイクキャノンが届くはずがないのだ!」

 

 

彼がそう言うと同時に、クロノブレイクキャノンの砲撃が始まった。圧倒的なエネルギーが目の前のシールドに当たり眩い光を生み出す。カメラ越しだから問題はないが、仮に肉眼で見たならば失明は必至であろう。それ程の光だ。シールドにもすさまじい負荷がかかっているのがわかる。だが事実。彼のいう通り。

 

 

「ふははは、みたか、エルシオール。これが本当に無敵の盾。影の月のシールドなのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っく、フルチャージのクロノブレイクキャノンが利かないだと! 化け物め!」

 

「ふん、下等種族にしては良くやったと言っておこう。だが無限の軍勢を作れるこの無敵な月を前には貴様程度では役不足なのだよ」

 

「くそぅ……俺達にはもう……なす術がないというのかぁ!」

 

 

慟哭するレスターと得意げに誇り見下してくるヴェレル。アルモはめったに見せない少しばかりふざけている彼の様子で、笑いを堪えるのに必死であった。きっと久しぶりに戦友達とまとめて会うことができ、同窓会の様な楽しげな雰囲気がこの場に有るからであろう。

 

 

「我が軍門に下るというのならば、命だけは助けてやろう」

 

「いや、それは断る」

 

「な、なにぃ!? なんだその変わり身は!?」

 

「ん? いや時間稼ぎだが。おいタクトこんなもんでいいか?」

 

「うん、ばっちりだよ。ね、ココ」

 

「はい、無事に到着しました」

 

 

手のひらを返され、目を白黒させるヴェレル。既に自分の感情の波が荒ぶりすぎており、無自覚な疲労が蓄積しているであろう。というかご老体には高血圧に気を付けてもらいたいものだ。と皮肉でも言うべきかもしれない。

ともかくタクトと通信に復帰したココの表情が、まだEDEN軍には手札があることを悟り、すぐさま彼はカメラの映像をルクシオールに移す。

 

そこにあったのは、いつの間にか戻って来たのか艦底部と合体し直したルクシオールの姿だが、先程と違う所が1つある。それは両主翼の先端に巨大なそれこそ直径200m高さ300m程の黒い樽の様なものが接続されているという事だ。

 

 

「な、なんだそれはぁ!」

 

「うん? こっちの最終兵器だよ。黒き月の管理者が白き月の管理者とヴァル・ファスクと協力して作った。EDENの新兵器。その名もデュアル・クロノ・ブレイクキャノン。ついでに教えてあげるけど、退避したほうがいいと思うよ」

 

「な、何故ここにそれがある!」

 

「元々配備してからルクシオールは航行する予定でしたが、艦本体が早期に完成したために見送られていましたからね。タクトさん」

 

「そうそう、ココのいう通り。ここまで来れたのは、新型紋章機部隊が頑張ってくれたらしいよ」

 

 

「な、なななななななにいいいいいいいい!!!」

 

 

ここにきてヴェレルはまともに言語を用いる事ができなくなる程の混乱にあった。いつの間にか副官であったはずの人間が自主的に避難して、この場からいなくなっている事にも気づかないほどには狼狽している。

 

 

「ヴェレル。確かに君は、凄い頑張って色々用意してたみたいだね」

 

 

タクトはそう言ってレスターを見る。続きをという事なのだろうと納得しレスターも同意しながら口を開いた。

 

 

「だがな、EDEN軍はいくつもの銀河と種族の垣根を越えた組織だ。貴様のような一人の存在では到底渡り合える存在ではない」

 

 

レスターは再びタクトに返しながら、親指で首をかき切った後指先を下に向けた。やっちまえ。そうタクトは受け取った。

 

 

「既に艦のエネルギーは調整済みだ。ステリーネ、限界まで出力上げるから見といてね」

 

 

タクトがそう言うと樽のようなものが展開されていく。外壁が花弁のように5つに割れ花柱が折り畳み式の望遠鏡のように伸びて行く。底の部分も後ろに展開され、黒かった表面に紅い光が宿っていく。禍々しく不気味な光景であった。

 

 

「デュアル……ま、まさか、双発の! 何故だ! なぜ貴様はこうまで予想外の事を次から次へと!!」

 

「それはオレ達がEDEN軍で、守るものがあって、きみが敵だからだよ」

 

「やるからには全力で叩き潰す。それが今の俺達の流儀だ。そうならない様にするための活動が今の仕事なんだ」

 

 

その言葉の間にも凄まじいエネルギーが2つの花の中心に集まっていく。ここまでスムーズなチャージができるのは、予めタクトがキャノンモードに移行する様にエネルギーの管理を行なっていたからである。決してサボっていたわけではないのだ。

既にルクシオールの窓からは光の1つすら見えない。紅い不吉な光に照らされた艦はルーンエンジェル隊から見ても少しばかり不気味であった。

 

 

「それじゃあ行くか、レスター」

 

「おう、と言っても発射はお前がやるんだ。2回もオリジナルを撃たせてもらったなら十分さ」

 

「わかった────デュアル・クロノ・ブレイクキャノン、発射ぁ!!」

 

 

その宣言と同時に眩い2つの光がルクシオールから放たれ、影の月のシールドへと襲い掛かる。二つの光が当たったその場所から卵の殻のように亀裂が走っていく。ヴェレルは既に艦を月の下部から退避させていた。そしてその判断は正しかったのであろう。

数瞬の後には光が影を貫き。眩い閃光と衝撃と共に爆発し、衝撃波と真空でなければ聞こえるであろう轟音と共に、彼の最終兵器は塵へと帰ったのだから。

 

 

「さて、カズヤ。お膳立ては十分だろ? 今度は12機だ。敵は旗艦だけ。油断はできないけど、苦戦もないと思う。だから一度経験しておきな。自分たちがどれだけできるのかって事をね」

 

「────了解。みんな、今までの見てたよね?」

 

 

カズヤは先ほどからの息をつかさぬ歴戦の天使達の活躍から、司令達のやり取りまでを見て沢山思う所があった。自分は成長したと思っていた。しかしそんなものはまだまだちっぽけなものであったこと。

 

「きっとさ、ヴェレルとの戦いの前だったら、ボクは今の戦いがどれだけ凄いのかすらわからなかったと思う」

 

 

この戦いがあったからこそ、死ぬかもしれない、勝てないかもしれない。そんな『闘い』を経験できたからこそ、先達との距離がどれほどあるのかを自覚できた。

漠然とした距離感ではなく、はるか遠くの1等星の様な眩い光を。小さいながらも確かに背中が見える事を知ることができた。

星の導きで、道をわざわざ示してくれたのだ。後はそこまで走り抜けて追い抜くだけだ。

 

その道のりは険しくなるであろう。だけど、きっとこのルーンエンジェル隊というチームならばできる。カズヤはそう思えたのだ。

 

 

「でも、今ならわかるよね。皆、目指す先は遠いけど。僕たちにだってできるはずだ。皆の力を合わせれば!!」

 

「カズヤさん……そうですね。私だって、お姉ちゃんみたいになるんです!」

 

「おう、アニス様はまだまだ進化してるんだぜ?」

 

「うむ、その心意気OKだ。収穫は十分にあった」

 

「そうねー。まあ、アタシとしてもあの子も、こんなの見せられたら止められないわよ?」

 

「ママ達は凄かったけど、ナノナノたちも負けてないのだ!」

 

「うん、皆! 行くよ! ムーンエンジェル隊の皆さんもお願いします! 織旗……じゃなかった、ヴァルター中尉も!」

 

 

それがカズヤの心からの言葉だった。

 

 

「まかせて、カズヤ君!」

 

「そうそう、アタシたちに追いつくなんてまだまだ早いわよ」

 

「そう簡単に追いつかれてしまってわ、こちらも形無しですもの」

 

「面子ってものがあるのさ、先達にはね」

 

「頑張りましょう。皆さん」

 

「はい。先輩方。後輩の皆さん」

 

「ラクレットでいい。何せ僕もまだ道中だ。最強のね」

 

 

12機と13人はそうして戦場に降り立った。白い翼が6つに黒い翼が1つ先行し、それを追いかける彼らの背中に翼が生える日を夢見ながら。

 

 

 

 

 

 

 

「皆、さっき言ったとおりにやろう!」

 

「はーい。それじゃあ、1番ミルフィーユ! いっきまーす!」

 

 

彼女の陽気で威勢の良い声と同時に放たれるのは桃色の光。既に単艦となり、一人で戦うまさに孤軍奮闘のヴェレルの旗艦グラン・ヴェレルは、ルクシオールと同程度には強大な艦であり、彼女には遠慮する義理も道理もなかったのだ。

 

「ハイパーキャノン!」

 

 

その光はすぐさま艦に当たり分厚いバリアに負荷をかける。そしてあっさりと瞬く間にはがされてしまうバリアだが、彼女達はまだまだ止まる気が無かった。

 

 

「ごめんね、ちとせ。先に撃っちゃった」

 

「いえ、お構いなく。それではリリィさん。参りましょう」

 

「OKだ! 烏丸大尉!」

 

 

本来ならば、射程に最も優れる2機が先に動き出すべき局面だが、抑えきれなかったミルフィーはバーンとやってしまったのである。だが問題はない。彼女たち2機はその分時間をかけて狙うべき場所を見据えていたのだから。

 

 

「正鵠必中……フェイタルアロー!!」

 

「穿て我が信念の輝き! エクストリームランサー!」

 

 

2機から放たれた弾は敵のスラスターに致命的な損害を与える。これでただでさえ遅かった敵の足が完全に止まる。まだまだ砲門はあるが、それでも動けないというのは致命的な問題になりえるのだ。

 

 

「次は……」

 

「ああ、教官の出番だ」

 

「あいよ、任せときな!」

 

 

足が止まった相手の下方に、理想的な位置取りをしたフォルテのハッピートリガーが襲い掛かる。敵の艦は巨大なロケットに4つの小さなロケットをくっつけたような形をしている。その小さなロケットこそが砲門を配備した部分であり、堅牢なシールドを展開できるものなのである。つまりそこを破壊してしまえばよいのだ。

もちろんシールドが剥がれていても分厚い装甲と、何よりも内部に展開するシールドが無人区画故に非常に強力になっている。砲門を潰されても本体への攻撃を阻む物理的な装甲として作用するのが特徴なのだ。

 

 

「今までの仕返しをまだ終えてないんでねぇ! 派手に行くよぉ! ストライクバースト!!」

 

 

機体の展開装甲から大量のミサイルが発射され襲い掛かる。さらに自前の砲門からも一斉攻撃。まさにフルバーストという言葉が相応しいその蹂躙によって、4つある砲門区画の1つが完全に消し飛んだ。

辛うじて本体部分から延びる接続部の残骸が見えるほどにしか既に残っていない。えげつない一撃であった。

 

 

「まだまだ足りないんだけど、此処は譲ってやるよ。ミント!」

 

「承りましたわ。私はテキーラさんと合わせればよろしいのですわね」

 

「そうだったはずよ。原理は違えど中距離機同士。仲良くやりましょう?」

 

 

フォルテが攻撃したのは丁度下部についていたユニットであり、打ち上げられた結果、こちらに腹を見せるような形になったのだが、むやみに近づいては的になってしまう。故に射程内ならば自在な角度から攻撃できる2機の出番だった。

 

 

「お行きなさいフライヤーたち……フライヤーダンス!」

 

「ヘキサクロスブレイク! ふふっ、綺麗な攻撃になるじゃない」

 

 

ミントの機体から放たれた21のフライヤーが、生きてるかのように敵の周りを飛び回り、さながらダンスフロアの様な攻撃を作り出しながら、無数のプラズマ砲を浴びせる。

そこに重ねるように、スペルキャスターのクリスタル・ビットが展開しライトグリーンの六芒星をその場に描いた。そしてそれが押しつぶすかのように収縮していき、同じように砲台部をこの世から消し去ったのだ。

青と緑の光が輝く非常に美しく華やかな攻撃であった。

 

 

「そろそろ終わりましたか? ヴァニラさん?」

 

「はい、今まさに充填完了です、ナノナノ行きますよ」

 

「はいなのだ! ママと一緒にできてうれしいのだ!」

 

 

ヴァニラとナノナノは周囲の艦をターゲットに取り終えていた。ナノナノは全ての味方紋章機をメインに、そしてヴァニラは今壊した砲門部分をも対象とっての発動だ。

 

────リペアウェーブ!

 

その言葉と同時に2機からナノマシンのシャワーが散布され一瞬で宙域を包み込む。瞬く間に先ほどの戦闘で傷ついていた機体が修復されていく。癒しの光は味方に安らぎそれと同時に敵の損傷した2か所の砲門の欠損部を強制的に塞いだ。

そう、ナノマシンによってクロノストリングの動力経路を無理矢理つなぎなおしたのである。これによりエネルギーを一時的にカットしなければ、ショートサーキットによって最悪艦のエンジンがすべて止まってしまう。結果的にシールドの出力を弱めざるを得ないのだ、可愛い顔をしてこれまたえげつない方法であった。

 

 

「これで十全ですね。ランファさん」

 

「ありがと、ヴァニラ。それじゃあアニス! もう1回ついてこれるかしら?」

 

「姐さんこそ、こっちの爆発に巻き込まれちゃ困るぜ?」

 

 

その刹那、彗星の如く2機の紋章機が飛び出していく。目標は当然巨大な砲門部分だ。既に半数を無力化しているが、とにかく堅い事に定評があるのか、本体部には損傷が見えない。近づくことができるのは高い機動能力を持った機体だけであろう。

 

「もらった! アンカークロ―!」

 

蘭花のその言葉と同時にワイヤーが無限に等しいほどの長さで伸びていき、ただでさえ加速していた機体よりもさらに高速で飛び出し2つの砲門部をそれぞれで殴りつけた。その衝撃で何とヴェレルの旗艦グラン・ヴェレルは、わずかだが弾き飛ばされたのだ。

 

「こっちももってけ! ジェノサイドボンバー!」

 

断続的に続いている火線も、流石に物理的に場所を動かせばラグが生じる。その瞬間をついて、アニスも負けじと特殊兵装を叩き込んだ。広範囲を爆撃するそれが、残った2つの砲門を爆破し無力化する。既にヴェレルの艦は丸裸だ。あとは堅牢な装甲と本体部分の砲台位しか残っていない。

 

 

「皆さん、完璧です! それじゃあ後は!」

 

「こちらラクレット。位置についたぞ。タイミングは合わせる」

 

 

ここに至るまでの筋道をカズヤは大まかにしか立てていない。しかしそれで十分だったのだ。この銀河最強の力が集結している戦場では。そして最後の仕上げは整った。

 

 

「リコ、行くよ!」

 

「はい、カズヤさん!」

 

 

 

今日何度目かわからないただ名前を呼ぶだけの意思疎通で二人は、操縦桿を握り正面の目標を見る。確実に倒すならば、敵の周囲に取り憑き衛星軌道さながらの周回をしながら、クロスキャリバーの特殊兵装を使う必要がある。

だが、これ以上長引かせて資源を回収に行っている艦隊が増援に来ても困るのだ。この機会で決まらなければ通常兵装でちまちま削ることになってしまう。だから確実に決める必要があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……くるか、NEUEの紋章機よ」

 

 

ヴェレルは既に戦意の殆どを喪失していた。仕方あるまい、彼の立てた策は、タクトにとって新人の成長に丁度良い教材といった程度にしかならなかったのだ。飛ぶ鳥を落とす勢いで発展し続けるEDEN文明。過去の平行世界連盟が生きていた頃にはまだ及ばない、所詮は罪人の作り上げたものだという侮りこそが敗因だったのだ。

 

一気に接近して周回軌道に入るクロスキャリバー。グラン・ヴェレルの残り少ないが、決して無視できる数ではない砲門を全て向けての斉射を開始するが、既に彼には予感があった。

 

自分が乗っているのは────旗艦なのだから

 

 

 

 

 

 

「旗艦殺し(フラグブレイカー)か……忌々しいな」

 

「全くだ。その名は嫌いなんだ」

 

 

いつの間にか接近していたのか、目の前にいるのはESVだ。特殊兵装を撃つほどの同調率はないようだが、この機体が懐につかれた時点で、旗艦としては終わりなのだ。

 

 

「誰かのための露払いこそが、僕とこいつの十八番なんだよ!」

 

 

その言葉と共に4本の剣が縦横無尽に、自由自在に伸縮しながら振り払われる。残っていた僅かな砲門は、数ミリすら回頭する暇もなく爆発し無力化された。最後に1本にした剣でブリッジ部分を貫き、通信が切れたことを確認すると、ラクレットはその場を離脱した。

 

 

「「ハイパー! ブラスタ――!!」」

 

 

二人のその唱和する声が響き渡り、グラン・ヴェレルの周りを回り出す。その機体の先からは眩いばかりのオレンジ色の光が注いでおり。それが照射されているグラン・ヴェレルは徐々に粉々になっていく。そして、ある瞬間に限界を迎えたように爆発し、塵となった。

 

 

 

 

 

こうして、ヴェレルが起こした騒乱は一先ずの決着を迎えた。

ムーンエンジェル隊とルーンエンジェル隊が介した戦闘として語り継がる

1つの戦いの幕が下りたのであった。

 

 

 




そ、そんな、織旗楽人の正体が……
まさかラクレット・ヴァルターだったなんて……


次回エピローグ

フラグブレイカー ラクレット・ヴァルター

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