流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第66話.奇妙な刺客

 近づくにつれてスバルは渦に嫌悪感を抱き始めていた。渦は不気味な黒色で、見ている人をどこか不安にさせる。このまま不用意に近づいてもいいのだろうか。不安が足を鈍らせる。

 

「おいスバル、気を抜くな」

「え?」

 

 言われ気づいた。渦に紛れていて分かりづらかったが、周波数を感じる。

 

「この周波数……電波人間!?」

 

 しかも、以前に感じたことのあるものだ。スバルの表情が一瞬で険しくなった。

 

「……ねえ、この周波数って……」

「ああ、あの野郎だな」

 

 周波数の発信源を目で辿ると、渦の近くのウェーブロードに黒い人影が佇んでいた。遠目ではっきりとは見えないが、あれは見間違いようがない。

 

「やっぱり……」

「生きてたみてえだな」

 

 ウォーロックの声は憂鬱そうなものだった。近くまで来ると流石に相手も気づいたようで顔を上げた。目が合って、スバルも少しだけため息をつく。ロックマンが正面に立つと、そいつはわざとらしいぐらいに深々とお辞儀をして見せた。

 

「これはこれは……こちらに来て早々にお出迎えとは……丁重なご対応、感謝いたします」

 

 どうやら彼は相変わらずらしい。ため息をつくスバルとウォーロックに向かって、彼はシルクハットのような帽子を軽く取って見せた。

 

「初めまして少年。私はファントム・ブラックというものです」

 

 とことんふざけてる。ウォーロックだけでなくスバルも舌打ちをしたくなった。なにが初めましてだ。あの戦いで嫌と言うほど顔を合わせたというのに。

 

「なんだてめえ。ムー大陸から落っこちて頭でも打ったか?」

「おお、こちらにもムー大陸があるのですね?」

 

 眉を顰めた。ウォーロックも同じような表情だった。どうも会話がかみ合わない。もしかしたら、本当に頭を打って記憶障害にでもなっているのかもしれない。

 

「チッ、めんどくせえな。ぶちのめして吐かせるぞ」

 

 あまり賛成したくないやり方だが、乗ることにした。本当は渦について聞き出したかったが、会話が成り立たないのなら意味は無い。なによりハイドが素直に答えるとは思えない。力づくで叩きのめして、サテラポリスに引き渡すのが良いだろう。病院に連れて行くにもそれが最善だ。

 

「悪いけれど、捕まってもらうよ!」

「ほう、私とやる気ですか?」

 

 バスターを向けるロックマンに、ファントム・ブラックは笑みを見せた。強がっているのではなく、余裕が感じられる。

 

「良いでしょう。こちらでの初陣は、このファントム・ブラックが華々しい勝利で飾らせていただきます!」

「減らず口叩くんじゃねえ!」

 

 ウォーロックが口からバスターを発射した。マントを翻して避けてみせるファントム・ブラック。やはり彼のスピードは侮れない。何度もバスターを放つが、すんでのところで避けられている。

 

「ふむ、威力はそこまでではないようですね。ならば!」

 

 ファントム・ブラックの動きが変わった。後方へ退きながら飛び跳ねていた彼だが、一転して急接近してきた。被弾をものともせずにだ。

 ロックマンはファントム・ブラックと戦ったときの記憶を辿った。彼が得意とするのは、その陰湿さに似合わない接近戦だ。スピードを活かして距離を詰め、ステッキで殴打してくる。威力は低いものの、避けづらい上に回転が速い。嵐のような殴打から逃れようと距離を開けようものなら、懐からファントムクローが飛び出してくる。

 相手の情報を知っているからこそ、ロックマンは接近を許さない。

 

「バトルカード。ガトリング、ヘビーキャノン」

 

 右手をガトリングに、左手をヘビーキャノンに変えて乱発した。急に厚くなった弾幕に、ファントム・ブラックが急ブレーキをかけて止まった。

 

「な、なんと! こんな力が? く、侮った……」

 

 何を言っているのだろう。この二つのバトルカードはムー大陸との戦いで何度も使ったものだ。ファントム・ブラックが知らないわけがない。

 

「……妙だな、なんで足を止める?」

 

 ウォーロックに言われて気づいた。今こうしている間もロックマンは容赦なく弾幕を浴びせている。こういう時は絶えず動き回って、照準を絞らせないようにするのが基本だ。止まっていたらただの的でしかない。ハイドだってそれぐらい分かっているはず。なのに一向に動かない。弾幕と爆炎に包まれて、微動だにしない。

 

「何か企んでる?」

 

 不気味に感じてヘビーキャノンの砲撃を止めた。それを見てファントム・ブラックが笑みを浮かべた。

 

「弾が尽きたのですね。今が好機!」

 

 別に何も企んでいなかったらしい。ガトリングの弾を受けつつも無理やり接近してくる。力押しだ。決して耐久力に自慢があるわけではないだろうに。

 スバルは首を傾げた。どうも戦い方が下手くそだ。以前のハイドはこんな無謀な戦いかたはしなかった。

 そう考えている内にファントム・ブラックとの距離が無くなってきていた。何があっても接近戦に持ち込みたいのだろう。受けて立つことにした。ガトリングを止めると、ファントム・ブラックが暴力的な笑みを浮かべた。あっと言う間に距離を詰めてステッキを振り上げる。それをウォーロックのシールドで受け止め、右手に召喚したウッドソードで斬り返した。胴を斬られ、ファントム・ブラックが悲鳴を上げて身もだえた。

 

「ぎゃああああっ! い、痛い。痛い! き、貴様は銃だけでなく、剣まで使うのか! う、い、痛い……」

 

 ロックマンが剣を使ったことに、慌てふためくファントム・ブラック。スバルは益々眉をしかめた。

 

「こ、こうなったら……くらえ!」

 

 懐からファントムクローが飛び出してきた。確かにこれは意外な攻撃方法で、初見で対応するのは難しいだろう。だがロックマンは以前に何度か見たことがある。難なく躱してその黒い腕に剣を突き立てた。

 

「ギィエエエ!? な、なぜ避けれる? この攻撃は予測できぬだろう!?」

「いや、前に見てるし……」

「まさか……そ、そうか、この世界の私と戦った事があるのか貴様は!」

 

 もう会話しない方が良いかもしれない。ウォーロックと目を合わせると彼も頷いた。さっさと倒してしまおう。

 突き立てていた剣を振り払った。ファントムクローが切断され、悲鳴が上がる。止めを刺そうとしたときだった。ファントム・ブラックが急に動きを速めたのは。脇目もふらず、一目散に……その言葉は今の彼の為だけにある。そう言っても過言でないほどに鮮やかな逃亡だった。

 

「ま、待て!」

 

 慌てて後を追いかける。ファントム・ブラックは振り返ることすらせずにウェーブロードを駆け抜けると、あの黒い渦の元にやってきた。そして何の躊躇もなく跳び込んだ。

 

「追うぞ!」

「う……うん!」

 

 ロックマンも渦の前にやってくる。見ているだけで人を不安にさせる黒色が広がっている。この先はどこに繋がっているのだろうか。過った不安を、首を振って払い飛ばした。どの道、ファントム・ブラックを追いかけるにはここに入るしかないのだ。

 意を決すると渦の中心に目掛けて跳び込んだ。




おそらく、次回で皆様の好みが大きく分かれると思います。
私に罵詈雑言を叩きつけたくなる方もいらっしゃるでしょう。
ってわけで、言葉の石つぶてや投げナイフをどうぞご用意していてください。

皆、楽しみにしていてね(◉◞౪◟◉)

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