流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第6話.雪山の出会い

 バスに揺られてどれぐらい時間が経っただろう? いい加減に見飽きていたオレンジ色のライトの帯と茶色い壁。それは突然の白い光で切り払われた。その向こうには銀色の世界が広がっていた。

 窓を見れば雪の粒が花びらのように空で踊っている。キラキラと輝いて見る者の目を楽しませてくれる。まるでスバルの来訪を歓迎してくれているかのようだ。

 

「すごい……綺麗……」

 

 スバルは鼻先を窓につけて外の世界に没頭した。今は目に見えないが、ウォーロックは窓をすり抜けて顔を外に出している。

 大きな雪山に、その麓と一体化した黄色いホテルが見えてくる。ここがヤエバリゾート。スバル達の旅行先だ。

 トンネルを潜り抜けるまでは長かったが、その後はすぐだった。銀色の世界を楽しむ暇も無く、バスは動きを止めた。スバルは大きな荷物を背負ってルナ達と共にバスを降りた。

 

「ところで知っていますか? この雪も全部マテリアルウェーブなんですよ」

「え? そうなの!?」

 

 キザマロの説明に驚いて、スバルは足元の雪を掴んでみる。ひんやりとはしているが、手の熱に触れても解ける気配が一切ない。ビジライザーをかけてみると、降り注いでいる雪一つ一つが電波を発していた。

 

「マテリアルウェーブって、こんなこともできるんだ?」

「ええ、ちなみにここでレンタルできるスキー板やスノーボードもマテリアルウェーブです。意識を持っているタイプなので、初心者でも問題なく滑れますよ」

「ほんと! じゃあキザマロも安心だね」

「他にも……」

「あなた達、そろそろ行くわよ」

 

 スバルとキザマロのオタク談義が始まる気配を感じたのだろう。ルナが2人の会話を遮った。ちなみに、スターキャリアーの中ではウォーロックがガッツポーズをしていた。

 

「はーい……あれ?」

 

 歩き出そうとしたスバルの動きが止まった。

 

「どうかし……あら、ゴン太?」

 

 ルナは尋ねようとしたが必要なかった。スバルの視線の先を見て、彼女もゴン太が居ないことに気づいたのだ。到着早々、荷物だけ置いて迷子になったらしい。

 

「どこに行……」

「おい、あっちだ!」

 

 ウォーロックがスターキャリアーから叫んだ。みると、ゴン太が全力でダッシュしていた。TKタワーの時のように、何か食べ物でも見つけたのだろうか? 呆れて彼の行く手の先を見ると、黄色いスキーウェアを着た女の子がいた。彼女は小休止しているらしく、スキー板とストックを身に着けたまま空を見上げて佇んでいる。

 スバルは気づいた。女の子の背後にある坂道。そこから大きな雪玉が転がり落ちてきていることに。直径1メートルはあるその雪玉は、まるで彼女を狙っているかのように、まっすぐに向かっていく。ゴン太は女の子を助けようとしていたのだ。

 

「危ない!!」

 

 スバルが叫んだときには遅かった。女の子がハッと後ろを振り返る。日焼けした肌に埋め込まれた大きい水色の目が満月のように開かれる。雪玉は目の前に迫っていた。

 そこにゴン太が飛び込んだ。自慢の巨体で女の子を突き飛ばす。雪玉がゴン太に直撃した。

 

「ゴン太!!」

 

 スバルは荷物も放り出して駆け寄った。近くにいた客が野次馬となり、従業員が慌てて駆けつける。彼らは迅速な対応で雪に埋もれたゴン太を助けようとしてくれている。スバル達が駆け寄ったときには、ゴン太はすでに従業員達の手によって抱き起されていた。

 

「ゴン太、大丈夫!?」

「おう、これぐらいへっちゃらだぜ! って、いてて……やっぱりちょっと痛いかな?」

「もう、無理するんじゃないわよ!」

 

 ルナがふくれっ面でゴン太に文句を言った。いつもきつく当たってはいるが、心配してくれているのだ。

 ゴン太の無事を確認してホッとしたとき、助けてもらった女の子が近づいてきた。別の従業員に怪我が無いかと聞かれていたようだが、それも終わったらしい。

 

「ありがとう。助けてくれて」

「へへへ、良いってことよ。それより、怪我は?」

「うん、おかげ様で」

 

 女の子は白い歯を光らせて笑って見せる。日焼けした薄茶色い肌の色と合わさって健康的な印象を与えてくる。声一つ一つもどこか元気さを感じさせてくれるもので、話をしているこちらまで元気になってしまいそうだ。太陽のような女の子は、長めの茶色い髪をバンダナとヘアバンドでまとめており、可愛らしい顔立ちをしていた。

 そんな彼女を見て、ルナが「あ」と声を上げた。大きな声に、スバルは思わず耳をふさいでしまう。

 

「もしかして、あなた!! 滑田アイちゃん!!?」

「あ、知ってる?」

「もちろん、知ってるわよ!! 知らないわけ無いじゃない!!」

 

 いつもクールなルナが大興奮して取り乱していた。隣ではルナの一言で気づいたゴン太とキザマロが声も出せずにあたふたしている。どうやら、目の前の女の子は有名人らしい。

 

「えっと……ウォーロック?」

「俺が知るわけねえだろ」

「だよね~」

 

 この女の子について尋ねたいが、流石に失礼で場違いだ。ミソラのときのような失態はできれば避けたい。キザマロの肩を叩いて、無言のヘルプの視線を送ると気づいてくれた。ルナの巨大な髪の影に隠れてこっそりと耳打ちしてもらう。ウォーロックもスターキャリアーから出てきて聞き耳を立てた。

 

「滑田アイちゃんですよ。僕たちと同じ小学五年生にしてニホン代表のスキー選手です!! 世界も認めるトッププレイヤーですよ」

「…………あ、ああ!!」

 

 スバルも気づいた……と言うよりは思い出した。

 

「そう言えばニュースで紹介されているのを見て、母さんと『凄いね』って話した記憶がある」

「全く、君はミソラちゃんの時と言い、世間に疎いところがありますね」

 

 元々、テレビを見ない方なので仕方の無いことかもしれない。スバルは笑顔を取り繕うと、アイと向き合った。

 

「まさかこんなところで有名スキー選手と出会えるなんて、感激だな~」

「アハハ、照れちゃうな~」

 

 アイはスバルの演技には気づいていないようで明るく笑ってみせる。その影では、キザマロとウォーロックがやれやれと首を振っていた。

 

 

 たまたま選んだ旅行先で、ひょんな出来事から超有名人と知り合うという奇跡(ミラクル)をもたらしたスバル達。だが、まだそれは終わっていなかった。

 柔らかくてしっとりとした肌触りがするソファーの上で、スバルは身を固くしていた。こんな高価なソファーは自分には似合わない。スバルだけでなく、ちょっとしたお金持ちのルナですらこのソファーに座ることをためらっていたぐらいだ。目の前にはどこかの高級メーカーが作ったと思われる紅茶とお菓子が差し出されている。

 目を回しそうなスバル達の前には、満面の笑みを浮かべている男がいた。

 

「君たちには、ぜひともこの部屋で泊まっていってほしい」

「いえ、でも流石に無料だなんて……」

 

 ルナの反応は当然だった。

 きらびやかな床に壁。大きすぎるぐらいのリビングと個室。柔らかいソファーとベッド。シャンデリアの装飾から床に敷かれている絨毯にいたるまで、すべてがキラキラと輝いて見える。

 この一生に一度泊まれるか分からないような超豪華な部屋は、ホテルで最高級に贅沢な部屋、スイートルームだ。

 ここを無料で貸し与えると言われて、平然とできる人はそうそう居ないだろう。

 

「だからお礼だと言ったろう? これでもまだ足りないぐらいだよ」

「いえ、でも……この部屋ってキズナ力が高い人しか泊まれないのでは……」

「娘の命の恩人なんだ。信頼するには十分すぎるだろう?」

 

 そう言って、男性は気さくな笑みを浮かべて見せる。隣では、アイがにっこりと笑っている。男性はこのホテルのオーナーで、名前は滑田イサム。アイの父親だ。

 ルナは少し考えてから頷いた。イサムの好意に甘えることにしたらしい。

 

「では、ご遠慮なくつかわさせていただきます」

「ぜひそうしてくれ」

「皆、楽しんでいってね?」

 

 アイとイサムはルナたちの承諾に心から満足すると、早々に部屋を後にした。

 スバルは改めて部屋全体を見渡してみた。ソファーもベッドも、机もタンスも、シャンデリアにドアまでもが全てマテリアルウェーブだ。ちなみに、紅茶が入っているカップと、お菓子が載っているお皿もだ。人格を宿しているタイプなので、声をかけるだけで利用することができる。

 ソファーとベッドは使う者にとって最も心地いい柔らかさに変わり、タンスは必要なものが入っている引き出しを自ら開けてくれる。シャンデリアは明るさを調整してくれるし、ドアは自動で開く。カップは紅茶をちょうどいい温度に保ってくれるし、お皿は欲しい食べ物があれば直ぐにロビーに連絡してくれる。机だけが「上に物を置かないでくれ、重い!」と言っていたが、無視した。

 客に必要以上の贅沢と快適さを提供する。それがマテリアルウェーブがふんだんに使われたスイートルームだった。

 

「まさかこんな凄い部屋に泊まれるだなんて……ゴン太のお手柄だね」

「ヘヘヘ、そんな褒めるなよ。俺も役に立っただろう、委員長?」

「そうね、けど一番素晴らしいのはあのオーナーさんだわ」

 

 ルナの言うとおりだ。あのイサムという男性はホテルのオーナーとしても一人の父親としても理想的な人物と言えるだろう。だからこそ、あの人の良い親子を見て、スバルはどうしても疑問が浮かんでしまった。

 

「……じゃあ、なんでこのホテルって利用者が減ってるんだろう?」

 

 当然の疑問だった。ホテルは綺麗で、従業員たちの対応もよかった。このホテルが敬遠される理由が見当たらないのだ。

 

「そうだな、俺が言うのもなんだが、人の良さそうな連中だったじゃねえか」

 

 地球人の生活に疎いウォーロックも、このホテルの従業員たちの対応には見るものがあったらしい。

 

「そうね、一体どうして……」

 

 ルナがそう呟いたとき、廊下から微かに声が聞こえた。スバルは思わず耳を立ててしまう。

 

「……この声って」

「さっきのイサムってやろうの声だな」

 

 イサムの声が聞こえてくる。誰かと話をしている……いや、違う。怒気が込められており、とても穏やかとは言えない。言い争っているのだ。

 この声にはルナたちも気づいたらしい。

 

「どうかしたのかしら?」

 

 気になったスバル達はこっそりとドアを開けた。




2章までは完成しているので定期更新ですが、3章からは不定期更新になるかもしれません。
理由はなぜかって? いや~、ポケモンとか言えないっすわ。

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