流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第56話.真実の歴史

 エンプティーとブライの背中を見ながらロックマンはムー大陸の中を歩いていく。エンプティーの説明を聞きながらも、二人への警戒は緩めない。

 今は町を抜けて神殿のような大きな建物の中を歩いている。ムーの電波体たちやエランドの銅像の中を上へ上へと昇っていく。

 

「ここまでが、ムー大陸が世界を支配した経緯だ」

 

 ムー大陸の人々が迫害されていたことと、この大陸を作って世界を支配したことまでが説明された。横目でブライの背中を見た。剣や槍しか持たなかった地上人が、ブライのような者達に敵うわけがなかっただろう。そう考えると、ムー大陸と地上人の双方に哀れみを感じてしまった。

 

「その話はいい。もう知っている。その続きを聞かせろ」

「そう焦るなブライよ。お前の望みは分かっている。これほどの文明を持ったムー大陸がなぜ滅んだのか……貴様が知りたいのはそこだろう?」

 

 ブライは答えない。それが回答だった。

 エンプティーは何も言わず立ち止まってクツクツと小さな笑い声をあげた。

 

「何がおかしい?」

 

 ブライの右手がギリッと鈍い音を出す。爆発しそうな空間の中でエンプティーは不気味なほどに態度を崩さない。

 

「私が説明せずとも、もう理解しているのだろう? この光景を見ればな」

 

 この神殿を見たら何が理解できるというのだろうか。スバルは視線でウォーロックに疑問を投げかけた。

 

「……スバル、お前なら理解できるはずだぜ」

「ロックは分かってるんだ?」

 

 もう一度辺りを見渡す。風化した神殿は穴だらけで、瓦礫がいたるところに散乱している。

 

「何を見たら……」

「これ全部をだ」

「全部?」

 

 物一つを見るのではなく、全体を見渡してみる。壁には巨大な穴が空き、銅像は打ち壊されたものもあれば、首から上だけが綺麗になくなっている者もある。

 そして気づいた。

 

「あ……」

「分かったか」

 

 頷きながらエンプティー達に続いて階段を上がっていく。ブライの様子を窺う。脇目もふらずに一点を凝視し、今にも背中にかみつきそうだ。

 きっと彼は気づいているのだろう。ここで起こった皮肉な出来事に。だが認めたくないのだろう。いや、そうであって欲しい。

 そう考えている間に、階段が途切れた。狭い入り口をくぐると広い空間に出た。

 

「……着いたぞ」

 

 最上階は屋上だった。上を仰げば大きくなった夜空……天の川が見える。その両脇にある鷲座と琴座もだ。アルタイルとベガが互いを求めあうように

煌々と輝いている。最高の天体観測スポットだが、楽しい気分にはなれなかった。

 正面を見れば、巨大な銅像。その前に佇んでいる一人の女性。後姿だが間違いない。彼女がオリヒメだ。そしてあの銅像がラ・ムーなのだろう。周りでは今も電波体たちが召喚されては、どこかへと飛び立って行っている。敵の切り札が目の前にある。無意識に拳を握っていた。

 

「よく来たのう。ブライ、ロックマン。

 そして、お主に素顔を見せるのは初めてじゃな、ブライよ」

 

 

 エンプティーが側に立つと女性が振り返った。先刻、ブラウズ画面で見た顔に笑みが浮かぶ。いかにも悪党な美人と言った絵だ。

 

「どうじゃ、ブライ? お主の望みは叶ったであろう?」

 

 まともブライは答えない。黙したままオリヒメを睨み付けるだけだ。スバルとウォーロックもオリヒメを睨みながら横目でブライを窺う。こちらの視線に気づいているはずなのに、今回も彼がこちらに気を向けることは無かった。

 鉄のように口を開かないブライに呆れかえったのか、エンプティーが肩をすくめてみせた。

 

「現実を受け止めきれないか。ならば私が言ってやろう。

 ムー大陸を滅ぼしたのは他でもない」

 

 そして皮肉な現実をおもちゃの様に突き付けた。

 

「ムー大陸に住んでいた者達だ」

 

 やっぱりとスバルはわずかに首を縦に動かした。

 

「見たであろう。町や神殿の様子を」

 

 悠然と語るエンプティー。まるで教師か何かにでもなったかのように、おとぎ話でも聞かせるかのように。

 

「町にあったのは風化した傷だけでは無い。陥没した道路、打ち壊された家々、明らかに刃物で切断された銅像の切り口。これが自然にできたものか? そんなわけがなかろう。何者かに破壊されたものだ。つまり、争いがあった証拠だ。

 そして、圧倒的な文明を持ち、空に浮かんでいたムー大陸に攻め込める者など存在しない。あれらを行ったのはムー大陸に住まう者達。そう、ムー大陸に住まう者達が互いに争った内乱の跡だ」

 

 分かってはいたものの、エンプティーの解説をいざ耳にすると辛かった。かつて迫害されていた民族は、夢にまで見た国を造り、力を手に入れ、最後は仲間内で迫害を行って自滅していったのだ。

 

「高い文明を持ったことにより、個の能力が権力と金になり、競い合い、そして争いへと発展した……。そう、滅びの前兆というものだ」

「どんなに高い文明を持っていようともいずれは互いに争い合って滅びる。そう、今の世界のようにの」

 

 オリヒメが言葉を繋ぐ。

 

「なぜ世界が滅んでしまうのか? それは相手を信頼してしまうから……そう、絆というもので人を縛ろうとしたからじゃ」

 

 スバルの目がピクリと跳ねた。

 

「そのような幻想的なものでは人は縛れぬ。人を縛るのはもっと単純なもの……そう、力じゃ。能力のある者が、絶大な力を持ち、無能な者たちを支配してやればよい。完全なる能力主義。それが妾が立ち上げる新世界じゃ。妾が世界を救うのじゃ。妾が人々を導いてみせよう!」

 

 オリヒメが一歩前に進む。着物のような服をなびかせ、ロックマンとブライに手を向ける。

 

「数多のムーの電波体たちを退け、オーパーツをその身に宿すことに成功したロックマン。

 孤高の証に打ち勝ち、何者も寄せ付けぬ力を持ったブライ。

 お主たちの能力を妾は高く評価しておる。この理想郷の国民に……いや、幹部として力を振るうに相応しい。

 妾に仕えよ。妾の腕となり、新・ムー帝国の支配に助力するのじゃ!」

 

 盛大なため息を辛うじて飲み込んだ。

 ここまで説明付で丁寧に案内してくれた理由は、このありがたい演説を聞かされる為だったらしい。あまりにもバカバカしくて、怒りを通り越して呆れる内容だった。

 

「断るよ」

「おう、誰がてめえの下になんざつくか!」

 

 バスターを向けるロックマン。明確な対立の意思表示。

 オリヒメはため息交じりに首を振った。

 

「従わぬと言うのなら致し方あるまい。エンプティー」

「はっ!」

 

 エンプティーが前に出てくる。オリヒメはラ・ムーのほうを向くと、ブラウズ画面のような物を出して操作する。ムーの電波体たちの召喚が終わり、代わりにエンプティーの力が強くなった。ラ・ムーの力をエンプティーの強化に集中させたらしい。それでもかつて宇宙で戦ったアンドロメダほどの脅威ではない。勝てない相手ではないはずだ。

 踏み出そうとしたとき、横に突き飛ばされた。ロックマンを遮るようにしてブライが前に出る。

 

「手を出すな」

「ブライ……君も戦うっていうのなら、二人で……」

「貴様と手を組めというのか? 虫唾が走る。それに……今は気が立っている」

 

 取り付く島もないらしい。剣を召喚して一振りすると、ブライは駆け出した。エンプティーも迎え撃つ。2人の戦いの衝撃が辺りに響いた。


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