流星のロックマン Arrange The Original 2 作:悲傷
「ロック……あれが……ムー大陸……なの?」
空を見上げて数分、ようやくスバルが口を開いた。
「ああ……」
スバルが声を失うのも無理はない。ムー大陸があまりにも大きかったのだから。はるか遠くにあるはずなのに、肉眼でもはっきりと捉えられるほど。
「スバル、テレビを見てみろ」
そう言いながらウォーロックがスターキャリアーの中からブラウズ画面を開いた。【特集!!】と赤くて大きな文字が踊り、アナウンサーや何かの専門家が危機迫った顔で汚い声を喚き散らしている。
「どうしたの、これ?」
「まあ見てろ……お、来るぞ」
ウォーロックが言うと、番組がある映像を再生し始めた。画面には歴史ドラマなどで見たことのある、簾を下ろした『上段の間』がある。その両脇にいる人物を見て、スバルは目を見開いた。
「エンプティーとハイド!?」
緑色の衣に白いマスクをした人物と、紫色のコートを来た金髪の男。彼らを見間違うわけが無い。
つまり、彼らの中央……この簾の向こうにいるのは……。
スバルが結論を出した直後、簾に人影が映った。
『聞け、地上に住まう者たちよ。妾の名はオリヒメ』
やはりそうだ。こいつがオリヒメ……今回の事件の黒幕。ムー大陸復活を目論んだ女だ。
「電波ジャックして、世界中に流された映像だ。これもムー大陸の力とやらだとよ」
ウォーロックの説明を聞いて、スバルの目に力が入った。
『妾はここにムー大陸の復活と、"新・ムー帝国"の建国を宣言する。妾を頂点とする新たな国家である。
地上に住まう者たちよ、妾の前にひれ伏せ。
もし刃向う者があれば、ムー大陸の力を持って制圧させてもらう』
国一つを立ち上げて、世界に降伏を促す。この言葉だけを見れば笑い話だろう。だがその国とやらが超古代文明の未知なる力を持っているとならば話は別だ。大質量を空に浮かべていることと、世界中の電波をジャックして見せただけでも、文明の片鱗がうかがえる。人々に危機感を抱かせるには十分だ。
『二日後じゃ。二日後、アメロッパの時刻での夜10時。その時に妾がどれだけの力を持っているのか見せてくれよう。それまで、各々身の振り方を考えておくことじゃ』
映像はそこまでだった。番組は再び醜い論争の場に戻される。
「国……だって?」
信じられないと首を横に振った。
新しい国を作り、世界を力で制圧する。そんな馬鹿げたことがオリヒメ達の狙いだったというのか。そんなことの為に、今ミソラは死にかけているというのか。
気が付けば、骨が折れるほどの力でブラウズ画面を握り締めていた。
「俺も同じだぜスバル。この女……一度痛い目に合わせてやらねえと気が済まねえ」
今だけはウォーロックの暴れん坊っぷりに感謝したい。頷くと、スバルはブラウズ画面を戻してスターキャリアーを握った。
「明日までなんて待ってられないよ! 行こう、ロッ……」
「待ってくれ! スバルくん!」
二人を止めたのは聞き覚えのある声だった。スバルは目を丸くして、まさかと思いながら振り返る。大きなお腹をした男性が転がるように駆け寄ってくるところだった。
「天地さん……?」
思った通り、天地研究所の所長、天地だった。冷房が効いているというのに、額の汗をぬぐいながら息を整えている。よほど運動不足らしい。
「なんでここに?」
「君がアメロッパの病院に運ばれたって聞いて、パスポートが切れていたあかねさんに代わって、飛んできたんだよ。他にも色々と手続きとか……ね」
「……そう、だったんだ」
「そういや、天地たちが来てるのを忘れてたな」
「ロックってば……ありがとう、天地さん」
どうやらここで治療を受けられたのは天地のおかげらしい。もしかしたらパスポート無しで不法入国している自分を庇うために、裏で色々と手を回してくれたのかもしれない。
「で、俺たちを止めるつもり見てえだが、無駄だぜ。あのオリヒメって偉そうな女。あいつの素顔を拝んで、一発ひっぱたいてやんねえと気が済まねえ」
女性の顔を殴るのは流石に気が引ける。と反論したかったが、止めた。ウォーロックをさらに怒らせ、ややこしくなるだけだろう。
「止めやしないさ。どんなに危険な場所であろうとも、君たちは構わず飛び込んでいく。だって、宇宙に飛び出していったぐらいだからね」
FM星人達との戦いのことだ。
「だからだ、僕は止めないが……待ってほしい」
「待つだと?」
「ああ、明日の正午までね」
「正午……? ニホン時間の正午って」
「ああ、アメロッパでは午後10時。オリヒメ達が動き出すときだ……」
それを止めるために戦いに行くのだ。天地の提案は本末転倒だ。
反論しようとしたが、見越していた天地に塞がれた。
「ギリギリまで休んでほしいんだ。今の状態で戦って、勝てる相手かい?」
スバルにもようやく天地の言いたいことが分かった。戦いに備えて休息を取れと言いたいらしい。だが、そんなこと言っていられない。
「それじゃ意味がありません! 僕は行きま……っ!!」
肩が上から抑えられた。ガクリと膝が折れ、手をつき損ねて床に鼻先を打ち付けた。
「わっ! びっくりした……大丈夫、スバルくん?」
今度も知っている人の声だった。起き上がりながら後ろを振り返って確認する。
「……いたた。ツカサくん?」
緑色の髪に、紫色の服。双葉ツカサがゴメンのポーズをとっていた。
「なんでツカサ君まで?」
「スバルくんたちを運んだのは僕なんだ。ムー大陸が浮かんだ時、こんな異常事態だから、きっとスバルくんがいる……と思って行ってみたら、海にロックマンとハープ・ノートが浮いているのを見つけて……」
「……そっか」
彼が駆けつけてくれたのは素直にうれしい。だが、再開の挨拶が肩を突き飛ばすというのは喜べない。ツカサに起き上がらせてもらいながら、スバルは軽く文句を口にした。
「でも突き飛ばすことはないじゃないか」
「え?」
驚いた顔をすると、首を横に往復させた。
「突き飛ばしてなんかいないよ。肩を軽く叩いただけだよ」
「軽くって……僕はそこまで弱くは……」
「こんな感じだよ」
ツカサがスバルの肩を軽く叩いた。とたんにスバルの膝が曲がり、ツカサの胸に倒れ込んだ。
「あ……れ?」
「疲れてるんだよ」
天地が解説してくれた。
「君は、君が思っている以上に消耗しているんだよ」
思い返せばそうだ。起きたばかりで体が上手く動かせず、ミソラの一件で病院内を走り回ったのだ。興奮で体がごまかされていただけにすぎない。大した体格差の無いツカサに、肩を叩かれただけで倒れるぐらいに。
そう気づいたとたん、体が鉛のように重くなった。
「こんな状態で戦えるのかい?」
天地の問いかけに答える気力すら涌かなかった。もうこのまま眠ってしまいたいぐらいだ。
「……それに、あかねさんに君の姿を見せてあげる必要もあるだろう? ルナくんたちも心配していたよ」
あかねやルナ達が心配してくれている顔が浮かんだ。
ウォーロックが渋々という表情でスターキャリアーから出てきた。彼も天地の説得を受け入れることにしたらしい。戦えないのならば、行く意味などないのだから当然と言える。
「ミソラ君のことは僕に任せて。君はツカサくんと一緒にニホンに……家に帰るんだ」
「……そうだな。しょうがねえ。そうするか、スバル?」
頷くしかない。頷く力もないが。
◇
天地が色々と手を回してくれたため、飛行機で帰ることも出来たのだが……一番手っ取り早く帰る方法はやっぱりウェーブロードだった。少々恥ずかしいが、ロックマンに電波変換し、ジェミニ・スパークWに背負ってもらうことにした。
大気圏に広がるウェーブロード……スカイウェーブを通りながら、スバル達はアメロッパを後にする。
「そうそう、スバルくん」
「なに?」
失礼と感じながらも、怠そうな声で応えた。こんな声しか出ないのだ。
「天地さんからデータを預かってるよ。オリヒメに関する情報みたい」
「おい、本当か!?」
大きな声を上げたのはウォーロックだ。
「うん。でも、大したことは分からなかった……って最初に書いてる」
「なんだよ……」
打って変わってガッカリとした表情だ。
「まあまあ、調べてくれたんだから」
「……ああ、贅沢は言わねえよ」
「……じゃあ、読み上げるね」
「うん」
ツカサはブラウズ画面を立ち上げて、中身を読み始めた。
「『ドクターオリヒメに関するレポート』……って、科学者?」
「オリヒメって、科学者だったの?」
「うん、そう書いてる」
食いつくスバルにツカサが頷いた。
「続きを読むね。えっと……」
「要約してくれ。眠くなっちまう」
「分かった。それじゃあ……」
何行か読みながら、ツカサが話を短くまとめて説明してくれた。
「えっと、スバルくんはアマノガワ国って知ってる?」
「知ってる。授業で習ったよ。僕たちが生まれた頃ぐらいに戦争があって、その時に無くなった国……だったはずだよ」
「うん、オリヒメはそこの科学者だったみたい。
……凄く優秀な人で、マテリアルウェーブ研究の第一人者ともいえる人……だって」
「そんなにすごい人なの!?」
疲れているはずなのに、大きな声が出てきた。
「うん。でも、戦争が終わったときには行方をくらましていて、現在も行方不明……って書いてる」
「その天才科学者があのオリヒメってか?」
「そうだと思ったから、天地さんはこのデータをくれたんじゃないかな?
後は……ここからは君宛のメッセージだよ。スバルくん」
「何て書いてるの?」
頭を少し動かしながらスバルは尋ねた。
「じゃあ、読むね。
『アマノガワ国は軍事兵器の開発ばかりしていて、すごく危険な国だったんだ。そんな国お抱えの科学者がムー大陸の技術を手にしている。とても危険な組み合わせだ。
何をしてくるか分からない。これからどうなるかも想像がつかない。だから、十分に気をつけて欲しい』
だって、スバルくん」
「…………天地さん…………」
具体的な対策案などは無い。だが、何か少しでも役に立てばと考え、この情報をかき集めてきてくれたのだろう。天地にはただ感謝の気持ちしかなかった。
そう言えば、流ロク3のサントラと、予約特典の雑誌が届きました。
いや~、良いっすね!!
初期設定が書かれた雑誌が特に満足です。
ジャックとキングなんか「お前誰だよw」状態です。
中学生になったスバル達も描かれていて、もうほんと泣ける。
作画担当さんは「また彼らに会いたい」と書いていました。
流ロクシリーズは3で綺麗に終わっているので、4は出てほしくないと個人的に考えています。
でも、その後の彼らの姿はぜひ見たいですね。